税務ニュース2004年10月11日 農地等の納税猶予、争い方不備で門前払い(2004年10月11日号・№086) 東京地裁民事2部、他に救済方法があるとして、義務付け訴訟を却下

農地等の納税猶予、争い方不備で門前払い
東京地裁民事2部、他に救済方法があるとして、義務付け訴訟を却下


 東京地裁民事2部(市村陽典裁判長)は、平成16年7月23日、税務署長(被告)が農地等についての相続税の納税猶予を認めなかったことから、納税者(原告)が義務付け訴訟として、納税猶予相当額を控除した税額についてのみ徴税手続きとるべきことを求めていた事案に対し、「督促処分に対して、通則法の定める不服申立てやこれらの処分の取消訴訟を提起することができるのであるから、本訴請求のような義務付けを求める訴えを提起することは、許容されていないというべきである。」と判示して、訴えを却下した(平成15年(行ウ)第631号)。

事案の概要
 本件は、相続税の申告について、税務署長が措置法70条の6に規定されている農地等についての相続税の納税猶予を認めなかったことから、納税者が、税務署長に対し、いわゆる無名抗告訴訟としての義務付け訴訟として、納税申告書記載の納付すべき税額(差引税額)から納税申告書に納税猶予の規定の適用を受ける税額として記載した税額相当額を控除した税額についてのみ徴税手続きをとるべきことを求めている事案である。
 原告は、相続税について納税猶予税額を記載し、措置法70条の6(農地等についての相続税の納税猶予等)第1項の規定の適用を受ける旨記載した相続税の期限内申告書を提出(下図スケジュール②)していたが、規定された添付書類のうち、担保提供に関する書類、適格者証明書、が添付されておらず、法定申告期限(③)までに提出されることもなかった。
 被告は、原告に対し、必要な書類の添付がないことを理由に、納税猶予が認められない旨の通知(④)をするとともに、相続税の(減額)更正処分(⑤)を行った。その後更正処分による差引税額と本件期限内申告書における納付すべき税額(納税猶予後)との差額1億4623万円余について納付されなかったことから、被告は原告に対し、納付を督促し(⑥)、その後、原告が相続した土地を差し押さえた(⑦)。
 原告は納税猶予税額を記載し、適格者証明書を添付した相続税の更正の請求を行った(⑧)が、被告は、更正をすべき理由がない旨の通知を行った(⑨)。
 原告は、更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消を求めて、異議申立てを行い、異議申立て棄却後は④の通知、⑤の更正処分、⑨の通知、の取消を求める審査請求を行ったが、④⑤の審査請求を却下・⑨の審査請求を棄却する旨の裁決を受けている。


争点
 本件については争点1として「本件訴えは、義務付け訴訟として適法のものであるか否か。」、争点2として「本件相続の申告について、農地等についての相続税の納税猶予が適用されるか否か。」に整理されている。

義務付け訴訟の補充性要件に該当せず
 市村裁判長は、争点1についてのみ判断を下しており、実質的な争点である「納税猶予の適用」については判断せずに、「本件訴えは、無名抗告訴訟として許容されるための要件を欠いた不適法な訴えといわざるを得ない。」として訴えを却下した。
 判例は、義務付け訴訟の要件として補充性(それ以外の救済手段がないこと)を掲げているが、市村裁判長は、争点1に対して次のように判示している。
① 本件訴えは、無名抗告訴訟の一類型である義務付け訴訟として提起されたものであるが、このような無名抗告訴訟は、少なくとも、他に適切な救済方法がある場合においては、許容される余地のないものであることは明らかである。
② 税務署長のした督促や差押えに不服のある者は、その処分をした税務署長に対して異議申立てをすることができ(通則法75条1項)、審査請求、取消訴訟提起への道が用意されている。本件についてみると、原告としては、本件相続税の申告について納税猶予が適用されるべきであるから、申告期限までに納付すべき税額に滞納はない旨主張して、本件督促処分に対して、通則法の定める不服申立てやこれらの処分の取消訴訟を提起することができるものであり、これらの手続において上記納税猶予が適用されるか否かが審理されて、原告の救済が図られることとなっている。
③ 上記のような救済を求め得る者が、不服申立期間(通則法77条、徴収法171条参照)を経過したため、これらの不服申立てや取消訴訟を適法に提起することができなくなったとしても、それは、単にそのものが本来の救済手段を利用しなかった結果にすぎず、そのような場合にまで、無名抗告訴訟が許容されると解すべき理由はない。
④ 農地等についての相続税の納税猶予の適用があると主張する原告としては、上記②記載の救済方法によってその目的を達することができるのであるから、本訴請求のような義務付けを求める訴えを提起することは、許容されていないというべきである。

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