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コラム2011年01月17日 【編集部レポート】 議事録から読み解く会社法制部会第一読会の審議(6)(2011年1月17日号・№386)

編集部レポート
議事録から読み解く会社法制部会第一読会の審議(6)
子会社少数株主・債権者の保護を巡って

 会社法制部会(部会長:岩原紳作東京大学教授)の第7回会議(11月24日開催)は、第6回会議(本誌382号25頁参照)で開始された“親子会社に関する規律”の審議を継続し、「子会社株主・債権者の保護に関する規律」の検討から始まるものとなった。ここでは「第3 子会社少数株主の保護に関する検討事項」「第4 子会社債権者の保護に関する検討事項」について審議を行った。

親会社の地位は子会社取締役と類似か、あくまで株主か  親子会社に関する規律に係る審議は前回会議で「親会社株主の保護に関する規律」を検討、今般の会議では「子会社株主・債権者の保護に関する規律」の検討が行われた(「企業結合の形成過程等に関する規律」の検討も開始されたが、稿を改めて紹介する)。
 子会社株主・債権者の保護に係る「第3 子会社少数株主の保護に関する検討事項」の具体的な論点は、表1のとおりとなる。親子会社関係において、親会社が子会社の株主総会でその議決権を行使することにより子会社、ひいては子会社の少数株主の利益を犠牲にして自己の利益を図ろうとするおそれが指摘されており、見直しの方向性として掲げられたのが、表中の論点(1)(親会社の責任の在り方の見直し)と(少数株主への退出の機会の付与)である。
 なお、における「影響力の行使」という記述について事務局から補足説明があり、親会社が子会社に対して具体的に何らかの指示を行う場合など積極的に影響力を行使する場合のみに議論を限定するものではなく、親会社が議決権の多数を保有していることにより子会社に不当な影響力が及ぶ場合全般を広く含み得ることを意図しているとする。
 当日の審議では、このに係る論点(1)①(2)①の検討がまず行われた。親会社の責任の在り方について議論の基礎となるのが表1右欄の上から3つ目の「 」の考え方である。

 今般の審議において、現行の規律の見直し・拡充を求める明確な意見は、大学関係A・E・D・C・L・Fといった大学関係の委員・幹事を中心に市場関係Aにおいても述べられたほか、会社関係(監査)が情報開示の観点から検討することの必要性を指摘している。
 大学関係Aは、見直しを検討すべき典型的場面として「親子会社間の取引」を挙げ、親子会社間の取引が定型的に子会社の利益を犠牲にして親会社の利益を図るおそれがあるところ、現行の利益相反取引規制(会社法356条等参照)のままでは親子会社関係がある場面での適用範囲は限られるなどと指摘。子会社と親会社との利益衝突に着目し、不公正な取引がなされれば親会社は損害賠償責任を負うという規律を設ける形で利益相反取引規制の拡充が必要とした。
 大学関係Eは、親会社に限らず支配株主が存在する場合、制度に必然的に支配株主と少数株主との間の利益衝突が存在するとし、このような場合に少数株主の利益を保護する一般的なルールとして現行の355条(忠実義務)のようなルールを設けることの検討を求めた。(イ)支配株主が会社・少数株主に対して負うべき忠実義務に違反し、会社・少数株主に損害を与えた場合に損害賠償責任を負い、(ロ)損害が生じた場合には少数株主の、または個別の株主の株主代表訴訟を認めるといった内容の規制となる。
 大学関係Dは、投資ファンドによる支配権の移転を伴う種類株式買取りを巡りカネボウの株主が提起した事件(株主側の損害賠償請求を認容した東京高裁判決を最判平成22年10月22日において破棄自判。376号13頁参照)に触れ、「支配会社あるいは支配株主に対する実効的な法解釈ができず、……しかるべき者に対して責任追及できない」ことの表れであったのではないかとしたうえで、会社法上、一般的にも具体的にも規定を置くことが必要と述べた。
 大学関係Cにおいても「何らかの一般的な規定が最低限必要」と述べている。
 大学関係Lは、問題の所在が「大株主・支配株主と少数株主との間の利益相反」についてであることを整理したうえ、「親子会社間の取引」以外の領域においても問題があり得るとし、正面から「親子会社間の利益相反」をどのように取り扱うか、総合的に検討する必要があるとする。具体的には、(イ)支配株主の定義、利益相反の状況について場合を分けて検討すべきこと、(ロ)規律の仕方について、一般条項を置くことが重要かつ有効であることを指摘した。
 大学関係Fも規制導入に賛意を表するが、少数株主が常に潜在的な危険にさらされているという観点から、上場親会社の立場にある会社が買収され、経営方針が変わるなどの場合を見据えるもの。将来問題が起こるときに備えて法的な手当てを設けておく必要があるとしている。
 市場関係Aにおいては、(イ)子会社少数株主の事後的な救済の強化として、親会社が不当な影響力の行使をして子会社に損害を与えたような場合、子会社が損害賠償請求できるという規定を会社法で明記し、併せて子会社の少数株主が代表訴訟で親会社を訴えられる仕組みを導入する必要性を指摘するとともに、(ロ)日常的な取引については、親会社との利害関係がない独立役員の権限・責任の明確化による解決、(ハ)子会社上場のみならず、支配株主のいる会社一般の問題として検討すべきことを述べている。
 また、会社関係(監査)からは親子会社間の取引について、(イ)現行法下の情報開示が子会社の少数株主または債権者の立場から適切なものかという観点での検討が必要であること、(ロ)非通例取引等についての監査の状況を監査報告書に記載するということで監査役の説明責任を果たしていくという考え方があり得ること、(ハ)取引の公正さについて、監査役が行った監査の内容や監査意見を監査報告書を通じて開示するという方法もあり得ることが述べられた。
 一方、関係官庁Aの意見は見直しに消極的とするもので、理由として(イ)親会社の議決権を背景とした不当な影響力の行使により類型的に子会社を“食い物”にする事実はほとんどみられないこと、(ロ)個別取引への影響は取引額やその割合が最も重要で、議決権を有する企業が損害賠償の責任を負うという仕組みは現実の取引に適応しないこと、(ハ)わが国企業集団経営の実態は子会社の雇用確保を重視する経営が行われ、優先的に、むしろ高コストとなる子会社との調達機会を作っていることを挙げている。

企業集団全体としての利益の最大化には……  会社関係(経営)Aは、まず「親会社は子会社の取締役と類似の地位にはない」ことを説明。親会社は株主で、株主有限責任の原則が適用されるうえ、株主として子会社に対し一定の影響力を行使することは極めて当然であるとする。
 また、親子会社関係は各企業により多様であること、「利益相反」について、子会社の少数株主が企業集団として有形無形のメリットを得ている側面もあるなどと指摘した。「不当な影響力の行使」についても、親子会社間の取引において(イ)重要な関連当事者取引は開示規制の対象となり、(ロ)特定の株主への利益供与も禁止され、(ハ)法人税法上も寄付とみなされるほど時価と異なる取引については寄付金として取り扱われるなど、不当な価格の設定が不可能であることを説明しながら、現行法制で解決できない課題があるか、慎重な検討を要請。機関投資家による「支配株主と少数株主の利害は、基本的には一致する」との意見も紹介されている。
 会社関係(経営)Bは、ルールの積重ねが子会社化による新規事業推進に対するモチベーションを下げる例に触れ、会社法で詳細な基準を作ることは避けた方がよいとした。
 このような意見を踏まえ、大学関係Gにあっては規制の運用の在り方や基本的な発想の問題とし、厳格な意味での独立当事者間基準による伝統的な議論が、支配従属関係がある企業集団のなかで全体の利益を最大化させるような取引には当てはまらない可能性を指摘。
 また大学関係Jは、支配株主に忠実義務を負わせながら一定の場合に証明責任が転換される規律の可能性を示唆しつつ、規制のコスト等について述べ、支配株主の義務を(イ)自己取引の場合、(ロ)自己取引より広い範囲の場合とに分けたうえ、企業集団における事業機会の配分の問題である(ロ)について、米国の判例法理が企業集団の頂点にある経営陣の経営判断の問題としていることを紹介している。

支配株主に対する株式買取請求制度など  表1論点(1)②(2)②の検討では、との関係で各制度の必要性を勘定しながら導入の困難さを指摘するものとし、大学関係E・Aの意見がある。会社関係(経営)Aは、コスト増大要因・企業再編阻害要因などとして慎重な検討を要請。一方、関係官庁Aは様々なメリットを挙げつつ必要性を述べ、時期は別途検討とする。
 大学関係Gはこの提案を「公開買付けの適用がない会社にもこれを強制する点」が特徴的であるとして整理、上場会社に限定して導入する場合も不必要に支配権取引が抑止される危険がないか、ルールの機会費用がどの程度大きいかという観点から検討すべきとした。
 表2の論点については、会社関係(従業員)が賃金請求権等の責任について、法人格が異なっていても親会社は子会社に責任を負うという理念を会社法のなかで明らかにすべきと説明。大学関係Fが会社法429条の「延長」による限定的な責任に言及するほか、大学関係Cがこれに賛意を表し、法人格否認の法理が親子会社関係では確立していない旨を指摘している。
 一方、大学関係D・関係官庁Aが反対。会社関係(経営)Aは慎重な議論を求めた。

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