解説記事2011年03月21日 【ニュース特集】 ライツ・オファリング、会計士制度など改正の全体像(2011年3月21日号・№395)
金融商品取引法等改正案が閣議決定
ライツ・オファリング、会計士制度など改正の全体像
閣議決定された「新成長戦略」(平成22年6月18日)に基づき、具体的な諸施策を実施日程を含めて取りまとめた「金融資本市場及び金融産業の活性化等のためのアクションプラン」では、現下のわが国において迅速に取り組むべき金融戦略に係る諸施策が掲げられたところであるが(本誌387号4頁参照)、これらを中心とし、法律改正を要する項目を一括して整備する改正法案が3月11日、閣議決定された。
わが国資本市場および金融業の基盤強化を課題として 改正法案の名称は「資本市場及び金融業の基盤強化のための金融商品取引法等の一部を改正する法律案」(以下「金商法等改正案」等という)。民主党が2月24日に開催した財務金融部門会議における検討等を経て、政府が3月11日、閣議決定した(3月15日現在、国会未提出)。
新成長戦略の策定以降、成長戦略における金融の役割として、①実体経済を支え、企業のバックアップ役としてサポートすること、②金融自身が成長産業として経済をリードすることが求められているが、このような役割を発揮するための環境を整備し、もって資本市場および金融業の基盤強化を図るのが今般の金商法等改正案と位置付けられる。
本則で15法律、附則で20法律を改正へ このような観点から編まれた金商法等改正案による改正対象法律は多岐にわたっており、改正案の本則において①金商法、②無尽業法、③農業協同組合法、④公認会計士法、⑤水産業協同組合法、⑥中小企業等協同組合法、⑦投資信託及び投資法人に関する法律、⑧信用金庫法、⑨長期信用銀行法、⑩労働金庫法、⑪銀行法、⑫保険業法、⑬資産の流動化に関する法律、⑭特定融資枠契約に関する法律、⑮農林中央金庫法の計15法律の改正が規定されている。
また、改正案の附則により、たとえば上記④の関連で税理士法、登録免許税法、犯罪収益移転防止法(平成19年法律第22号)、⑬の関連で所得税法、地方税法、会社法施行に伴う関係法整備法(平成17年法律第87号)が改正されるなど、計20法律の改正が予定される。
改正の3本柱 改正案における主な改正項目は、大別すると3つの柱からなる。たとえば「多様で円滑な資金供給の実現」を図る観点からは、(1)ライツ・オファリングに係る開示制度等の整備、(2)コミットメントラインの借主の範囲拡大、(3)銀行・保険会社等金融機関本体によるファイナンス・リースの活用の解禁が行われる(図表1参照)。
うち(2)は、これまで大会社、資本金3億円超の株式会社、有価証券報告書提出会社等を借主とし、貸主が一定の期間・金額の融資枠を設定することにより円滑かつ機動的な資金調達を可能としてきたコミットメントライン契約について、主に中堅企業を新たに借主として適用対象とするものである。特定融資枠契約に関する法律の改正により、(a)純資産10億円超の株式会社、(b)大会社等の子会社、(c)純資産の額が10億円を超える者等に相当する外国会社、(d)資産流動化のための合同会社、(e)保険業法上の相互会社、(f)第一種金融商品取引業者、(g)投資運用業者、(h)証券金融会社、(i)貸金業者が追加されることとなる。
(3)の改正は銀行法・保険業法の改正によるもので、金融機関の子会社のみが提供可能であったファイナンス・リースについて、たとえば地方銀行が本体で行えるようになった場合、当該地域の中小企業等のメリットが見込まれる。
国民資産の有効活用、市場の信頼性確保 図表1の(6)の英文開示は、外国会社の英語による有価証券報告書等(継続開示書類)の提出を可能とする制度である。外国会社のわが国証券市場上場の促進、わが国投資者の投資機会の拡大のため、金商法の改正により、制度対象となる範囲を一定の要件のもとで有価証券届出書(発行開示書類)へと拡大。臨時報告書も同様に対象とする(384号12頁参照)。
表中(7)は社会問題化した無登録業者による未公開株等の売付けについて金商法での対応を図るもの。①無登録業者による金融商品取引業の表示、金融商品取引契約の締結に係る勧誘を禁止、②一定の売買契約を原則無効とするほか、③罰則を引き上げる(③のみ公布から20日以内に施行)。伴って、④裁判所による禁止・停止命令の申立てに係る裁判管轄が拡大され、たとえば証券取引等監視委員会が金商法違反行為者に対して差止命令を得たい場合、改正後は違反行為が行われ、または行われようとする地の地方裁判所への申立てが可能となる。
上記②は、(i)無登録業者が、(ii)非上場会社等の株式・社債等の売付けを行ったという2要件をもって売買契約を無効とするもので、無登録業者が不当な利益を得る行為でないことを立証した場合に限り、その契約は有効となる。
(9)では、登録拒否事由に人的構成要件を追加。役職員に業務を適確に遂行可能な者が確保されていない場合、反社会的勢力との関係がある者がいる場合などに登録を拒否する。
ライツ・オファリングの円滑化に向けて 既存株主の全員に新株予約権を無償で割り当てる増資手法「ライツ・オファリング」は、近時とみにその積極的活用、利用手続の円滑化等が求められる状況だ(東証規則改正について下村昌作・339号27頁、法制審の議論について393号17頁参照)。金融庁では、英文開示と同様に「開示制度ワーキング・グループ」で利用円滑化を検討した(387号12頁参照)。
改正案では金商法改正により、図表2-1のように目論見書の交付方法を弾力化。要件は当該新株予約権証券について①有価証券届出書の提出(EDINET掲載)を行い、②その後この旨などを遅滞なく日刊新聞紙に掲載することなど。
図表2-2は、証券会社に対して適切な引受審査の義務付けなどを図るものである。
また、新株予約権無償割当てに係る決定をインサイダー取引の重要事実とし、規制対象として明確化する。公開買付規制・大量保有報告規制においても一定の対応が図られる。
上場企業等における会計専門家の活用を促す 顧客がプロ等に限定される場合の投資運用業に係る規制緩和の骨格は、その登録要件の一部緩和を図るもの(図表3参照)。資産流動化スキームでは図表4のように手続を軽減する。
会計士制度の改正の柱は、①試験・②資格制度の見直し(公認会計士法の改正)、③会計専門家の活用等。①と②は概ね本誌390号4頁を参照されたい。②の一環として創設される企業財務会計士(図表5参照)につき、従前は実務要件とし「資本金1億円以上」の企業等での会計実務が例示されていたが、このような資本金要件については、金融庁は政令規定事項として「今後新規に検討していきたい」としている。
③では、上場会社等は公認会計士・企業財務会計士その他の会計の専門家の活用等の促進を図り、金商法上の財務書類等の適正性の確保に努めるとする金商法193条の4が新設され、上場会社等は有報等で「会計の専門家の活用の状況に関する事項」を開示することとなる。
ライツ・オファリング、会計士制度など改正の全体像
閣議決定された「新成長戦略」(平成22年6月18日)に基づき、具体的な諸施策を実施日程を含めて取りまとめた「金融資本市場及び金融産業の活性化等のためのアクションプラン」では、現下のわが国において迅速に取り組むべき金融戦略に係る諸施策が掲げられたところであるが(本誌387号4頁参照)、これらを中心とし、法律改正を要する項目を一括して整備する改正法案が3月11日、閣議決定された。
わが国資本市場および金融業の基盤強化を課題として 改正法案の名称は「資本市場及び金融業の基盤強化のための金融商品取引法等の一部を改正する法律案」(以下「金商法等改正案」等という)。民主党が2月24日に開催した財務金融部門会議における検討等を経て、政府が3月11日、閣議決定した(3月15日現在、国会未提出)。
新成長戦略の策定以降、成長戦略における金融の役割として、①実体経済を支え、企業のバックアップ役としてサポートすること、②金融自身が成長産業として経済をリードすることが求められているが、このような役割を発揮するための環境を整備し、もって資本市場および金融業の基盤強化を図るのが今般の金商法等改正案と位置付けられる。
本則で15法律、附則で20法律を改正へ このような観点から編まれた金商法等改正案による改正対象法律は多岐にわたっており、改正案の本則において①金商法、②無尽業法、③農業協同組合法、④公認会計士法、⑤水産業協同組合法、⑥中小企業等協同組合法、⑦投資信託及び投資法人に関する法律、⑧信用金庫法、⑨長期信用銀行法、⑩労働金庫法、⑪銀行法、⑫保険業法、⑬資産の流動化に関する法律、⑭特定融資枠契約に関する法律、⑮農林中央金庫法の計15法律の改正が規定されている。
また、改正案の附則により、たとえば上記④の関連で税理士法、登録免許税法、犯罪収益移転防止法(平成19年法律第22号)、⑬の関連で所得税法、地方税法、会社法施行に伴う関係法整備法(平成17年法律第87号)が改正されるなど、計20法律の改正が予定される。
改正の3本柱 改正案における主な改正項目は、大別すると3つの柱からなる。たとえば「多様で円滑な資金供給の実現」を図る観点からは、(1)ライツ・オファリングに係る開示制度等の整備、(2)コミットメントラインの借主の範囲拡大、(3)銀行・保険会社等金融機関本体によるファイナンス・リースの活用の解禁が行われる(図表1参照)。

うち(2)は、これまで大会社、資本金3億円超の株式会社、有価証券報告書提出会社等を借主とし、貸主が一定の期間・金額の融資枠を設定することにより円滑かつ機動的な資金調達を可能としてきたコミットメントライン契約について、主に中堅企業を新たに借主として適用対象とするものである。特定融資枠契約に関する法律の改正により、(a)純資産10億円超の株式会社、(b)大会社等の子会社、(c)純資産の額が10億円を超える者等に相当する外国会社、(d)資産流動化のための合同会社、(e)保険業法上の相互会社、(f)第一種金融商品取引業者、(g)投資運用業者、(h)証券金融会社、(i)貸金業者が追加されることとなる。
(3)の改正は銀行法・保険業法の改正によるもので、金融機関の子会社のみが提供可能であったファイナンス・リースについて、たとえば地方銀行が本体で行えるようになった場合、当該地域の中小企業等のメリットが見込まれる。
国民資産の有効活用、市場の信頼性確保 図表1の(6)の英文開示は、外国会社の英語による有価証券報告書等(継続開示書類)の提出を可能とする制度である。外国会社のわが国証券市場上場の促進、わが国投資者の投資機会の拡大のため、金商法の改正により、制度対象となる範囲を一定の要件のもとで有価証券届出書(発行開示書類)へと拡大。臨時報告書も同様に対象とする(384号12頁参照)。
表中(7)は社会問題化した無登録業者による未公開株等の売付けについて金商法での対応を図るもの。①無登録業者による金融商品取引業の表示、金融商品取引契約の締結に係る勧誘を禁止、②一定の売買契約を原則無効とするほか、③罰則を引き上げる(③のみ公布から20日以内に施行)。伴って、④裁判所による禁止・停止命令の申立てに係る裁判管轄が拡大され、たとえば証券取引等監視委員会が金商法違反行為者に対して差止命令を得たい場合、改正後は違反行為が行われ、または行われようとする地の地方裁判所への申立てが可能となる。
上記②は、(i)無登録業者が、(ii)非上場会社等の株式・社債等の売付けを行ったという2要件をもって売買契約を無効とするもので、無登録業者が不当な利益を得る行為でないことを立証した場合に限り、その契約は有効となる。
(9)では、登録拒否事由に人的構成要件を追加。役職員に業務を適確に遂行可能な者が確保されていない場合、反社会的勢力との関係がある者がいる場合などに登録を拒否する。
ライツ・オファリングの円滑化に向けて 既存株主の全員に新株予約権を無償で割り当てる増資手法「ライツ・オファリング」は、近時とみにその積極的活用、利用手続の円滑化等が求められる状況だ(東証規則改正について下村昌作・339号27頁、法制審の議論について393号17頁参照)。金融庁では、英文開示と同様に「開示制度ワーキング・グループ」で利用円滑化を検討した(387号12頁参照)。
改正案では金商法改正により、図表2-1のように目論見書の交付方法を弾力化。要件は当該新株予約権証券について①有価証券届出書の提出(EDINET掲載)を行い、②その後この旨などを遅滞なく日刊新聞紙に掲載することなど。

図表2-2は、証券会社に対して適切な引受審査の義務付けなどを図るものである。

また、新株予約権無償割当てに係る決定をインサイダー取引の重要事実とし、規制対象として明確化する。公開買付規制・大量保有報告規制においても一定の対応が図られる。
上場企業等における会計専門家の活用を促す 顧客がプロ等に限定される場合の投資運用業に係る規制緩和の骨格は、その登録要件の一部緩和を図るもの(図表3参照)。資産流動化スキームでは図表4のように手続を軽減する。


会計士制度の改正の柱は、①試験・②資格制度の見直し(公認会計士法の改正)、③会計専門家の活用等。①と②は概ね本誌390号4頁を参照されたい。②の一環として創設される企業財務会計士(図表5参照)につき、従前は実務要件とし「資本金1億円以上」の企業等での会計実務が例示されていたが、このような資本金要件については、金融庁は政令規定事項として「今後新規に検討していきたい」としている。

③では、上場会社等は公認会計士・企業財務会計士その他の会計の専門家の活用等の促進を図り、金商法上の財務書類等の適正性の確保に努めるとする金商法193条の4が新設され、上場会社等は有報等で「会計の専門家の活用の状況に関する事項」を開示することとなる。
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