解説記事2011年05月02日 【ニュース特集】 「災害損失特別勘定」計上のポイントを読む(2011年5月2日号・№401)
会社法制定で剰余金の処分による取扱いはできず
「災害損失特別勘定」計上のポイントを読む
3月決算法人にとっては待ち望まれた「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて(法令解釈通達)」(以下「費用通達」という)が4月20日に公表された(今号10頁参照)。
本誌400号でもお伝えしているとおり、法人が災害を受けた棚卸資産および固定資産の修繕等のために、災害のあった日から1年以内に支出する費用の適正な見積額を「災害損失特別勘定」として経理した場合には、損金の額に算入できる旨の取扱いが定められている。また、これに合わせて「東日本大震災関係諸費用(災害損失特別勘定など)に関する法人税の取扱いに係る質疑応答事例」も公表されている。今回の特集では、費用通達の概要をお伝えする。
阪神・淡路大震災時の通達と同様の内容が盛り込まれる 今回の費用通達は東日本大震災に伴うもの。平成7年の阪神・淡路大震災の際にも「阪神・淡路大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて」と題する個別通達が公表されていたが、その後に法人税基本通達や租税特別措置法関係通達に盛り込まれたものを除き、内容的にはこれと同様のものとなっている。
主な取扱いの内容としては、①災害損失特別勘定への繰入額(修繕費用等の見積額)の損金算入、②損壊した賃借資産等に係る補修費、③被災者用仮設住宅の設置費用が挙げられている(9頁参照)。
以下、費用通達における主だったポイントを紹介する。
災害損失特別勘定は損金経理が必要 今回の費用通達での最大のポイントは、阪神・淡路大震災の時と同様、「災害損失特別勘定」の損金算入が認められた点だ。具体的に、法人が、災害のあった日の属する事業年度において、災害により被害を受けた棚卸資産および固定資産の修繕等のために、災害のあった日から1年以内に支出する費用の適正な見積額を「災害損失特別勘定」として損金経理した場合には、損金の額に算入することを認めている(費用通達2)。
申告調整による損金算入は不可 3月決算法人の場合、震災が発生した3月11日から決算期末までわずかしかないため、適正な見積額を算出することが困難だとして、損金経理要件を外すことも検討されていた模様だ。しかし、最終的には従来どおり、減価償却費の計上などと同様、法人の認識を明確にするという意味で、被災事業年度等における損金経理が要件となった。
このため、原則として、申告調整の方法によった場合については、災害損失特別勘定への繰入額を損金算入することはできないことになる。
4月20日時点で財務諸表が作成完了ならば しかし、3月決算法人において、費用通達が公表された4月20日の時点ですでに決算手続が終了しており、災害損失特別勘定の損金経理をできなかった場合については、特例的に申告調整での損金算入を認めることとしている。
この「決算手続が終了している」状態というのは、会計監査に備え、貸借対照表および損益計算書の作成が完了していることとされる。ただ、日程的にみると、震災の被害を受けた企業の多くは、4月20日時点では決算手続が終了していないものと想定される。
会社法制定で取扱いも見直し そのほか、阪神・淡路大震災の際には、災害損失特別勘定への繰入額について、損金経理を原則としつつも、企業会計上、利益処分により積み立てることまたは災害損失特別勘定の繰入額の一部について損金経理をし、他の部分について利益処分により処理することが相当であると認められる場合には、税務上も認めるとの取扱いがなされていた。
しかし、今回の東日本大震災については、従前の商法上の利益処分による積立てなどは認められないので要注意だ。
平成17年制定の会社法により、利益処分案がなくなり、剰余金の処分については定時株主総会に限らず、いつでも可能となったためだ(会社法452条)。
災害損失特別勘定の繰入限度額とは? 災害損失特別勘定の繰入れを行う事業年度等とは災害のあった日の属する事業年度等ということになる(図1参照)。また、被災事業年度等について、仮決算による中間申告書等を提出する場合も災害損失特別勘定の繰入れを行うことができる(図2参照)。
なお、災害損失特別勘定の繰入対象とするものに係る保険金、損害賠償金、補助金等により補填される金額がある場合には、その金額を控除することになる。
災害損失特別勘定の繰入限度額については、(1)被災資産(評価損を計上したものを除く)の被災事業年度等終了の日における価額がその帳簿価額に満たない場合にその差額に相当する金額、②被災資産について、修繕費用等(災害のあった日から1年を経過する日までに支出すると見込まれる費用)の見積額(被災事業年度等終了の日の翌日以後に支出すると見込まれる金額に限る)のいずれか多い金額となる。(1)および(2)の金額については、原則として個々の資産ごとに計算することになるが、たとえば、「○○工場建物一式」「○○製造設備一式」とすることも可能としている。
暫定的な修繕計画に基づく見込額でもOK (2)の修繕費用等については、①被災資産の取壊しまたは除去のために要する費用、②被災資産の原状回復のために要する費用、③土砂その他の障害物の除去に要する費用その他これらに類する費用、④被災資産の損壊または価値の減少を防止するために要する費用が該当する。また、これらの修繕費用等については、暫定的な修繕計画に基づく見込額でも容認されている。
明細書添付で引当金計上もOK 災害損失特別勘定の勘定科目については、特別損失または災害損失引当金等の流動負債として処理している場合でも、その内容が災害損失特別勘定であり、所要の明細書が確定申告書等に添付されていれば、特に課税上弊害は生じないとしている。
また、災害損失特別勘定への繰入額が少額であり、企業会計上、特別損失として処理することが適当でない場合は、企業会計上相当と認められる勘定科目で処理しても、災害損失特別勘定に関する明細書の添付を条件に税務上も認められることになる。
自社の専門家での見積りもOK 修繕費用等の見積額については、修繕等を行うことが確実に見込まれる被災資産について、合理的な方法で見積ることが必要になる。
たとえば、①修繕を請け負う建設業者、製造業者等による被災資産に係る修繕費用等の見積額、②相当部分が損壊等をした被災資産(損害等の程度がおおむね50%以上)につき、再取得価額または国土交通省建築統計年報の建築価額等を基礎として、その取得の時から被災事業年度等終了の日まで償却を行ったものとした場合に計算される未償却残高から被災事業年度等終了の日における価額を控除した金額となる(費用通達3)。
なお、これら以外の合理的な方法も認められる。たとえば、自社の土建技師等の専門家による見積額であっても合理的なものであれば、その見込額を基礎として災害損失特別勘定へ繰入れすることができる。
そのほか、評価損を計上した資産について支出した修繕費用等については、原則として災害損失特別勘定の繰入対象に含めることはできない。ただし、評価損を計上した資産でも、評価損計上後の資産に係る使用可能期間の維持、価値の減少の防止等をするための修繕等、たとえば、「土砂その他の障害物の除去に要する費用その他これらに類する費用」「被災資産の損壊または価値の減少を防止するために要する費用」については、災害損失特別勘定の繰入対象に含めることができるとされている。
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保険金、損害の査定が間に合わないケースは? 被災資産に保険が付されている場合には、災害損失特別勘定の繰入れの際に、修繕費用等の見積額から保険金により補填される金額は控除することとされている。
しかし、被害が甚大なため、被災事業年度等の終了の日までに保険会社による損害の査定が間に合わないケースが多くあるようだ。このように、保険金額の見積りが困難な場合には、修繕費用等の見積額から保険金の金額を控除しなくてもよいとの取扱いがされている。
なお、災害損失特別勘定の益金算入に当たって、支出した修繕費用等の額が保険金等により補填される場合には、補填される金額を控除した後の金額について、災害損失特別勘定を取崩して、益金の額に算入することになる。
災害損失特別勘定の残額がある場合は益金算入 災害損失特別勘定については、災害のあった日から1年を経過する日の属する事業年度において、その残額がある場合には、その残額を取り崩して益金の額に算入することになる(費用通達4)(図3・図4参照)。
ただし、やむを得ない事情により修繕等が遅れているときには、その1年を経過する事業年度等の終了の日までに、災害損失特別勘定の益金算入時期の延長確認申請書を所轄税務署長(または所轄国税局長)に提出し、確認を受けることにより、その修繕等が完了すると見込まれる日の属する事業年度まで、取崩しを延長することが可能となっている(費用通達5)。
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災害損失特別勘定繰入額が多かったケースは? 繰り入れた災害損失特別勘定の金額が結果として多かった場合であっても、合理的に見積りを行った修繕費用等の額に基づいたものであれば、その過大部分について繰入事業年度に遡って修正する必要はないとされている。
損壊した賃借資産等の補修費は賃借人が修繕費として損金算入可能 2点目のポイントは賃借人が賃借資産について補修のために要した費用については損金算入が認められていることだ(費用通達9)。
民法上、賃貸資産の修繕については、賃貸人の負担により行うべきとされており、逆に賃借人が賃借資産の補修を行った場合には、その補修費用を賃貸人に請求することになる。したがって、賃借人が補修費用を支払った場合については、その金額を仮払金等として計上することになる。
災害損失特別勘定への繰入れはできず しかし、災害による被害が甚大なこと等から、①賃貸人による早急な補修ができない等の事情により、賃借人がやむを得ず自ら原状回復工事を行うことが想定されること、②その補修に要した費用を賃貸人から実際に回収できるか否かも明らかでないことといった事情に鑑み、賃借人が修繕費として経理した場合には、これを認めるとしている。ただし、補修義務のない賃借資産については、賃借人が補修したとしても、災害損失特別勘定の繰入れはできない。本来、賃貸人が補修義務を負い、原則としてその賃借人が災害損失特別勘定の繰入れをすることになるからである。
なお、賃借人が修繕費として経理した金額相当額を賃貸人から支払いを受けた場合には、その支払いを受けた日の属する事業年度等の益金の額に算入することになる。
撤去費用は災害見舞金等で処理 また、法人が修繕等の補修義務のない販売をした資産または賃貸をしている資産について無償で補修や点検をした場合についても、前述と同様に法人が支出時に修繕費として損金経理した場合には、その処理を認めている。
なお、想定される場面が異なるが、メーカー等が取引後、被災した自動車や機械装置などを撤去するための費用を負担した場合については、取引先に対する災害見舞金等として交際費等に該当しないものとして損金の額に算入することができる(措置法通達61の4(1)-10の3)。
被災者用仮設住宅の設置費用は損金算入可能 3点目のポイントは、法人が被災した役員や従業員の住居として仮設住宅を設置した場合だ。この仮設住宅の組立て、設置のための費用については、その仮設住宅を居住の用に供した事業年度等において費用として経理したときは、これが認められる(費用通達10)。
これについては、法人が被災した従業員等のための仮設住宅の一部について、自己の従業員等以外の被災者の居住の用に供した場合についても、同様の取扱いがなされる。
見積期間で償却可能 仮設住宅用資材については、利用実態に即した償却が認められることになる。被災した従業員等の住居として一時的に使用する場合には、仮設住宅に使用すると見込まれる期間(1年未満の端数は切捨て)を耐用年数として償却することができる。
再利用の場合は7年で償却 逆に仮設住宅用資材を反復して使用する場合(仮設住宅として使用した後に他の用途に転用、再利用する)には、原則として、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一に掲げる「建物」の「簡易建物」の「仮設のもの」の7年で償却することになる。
「災害損失特別勘定」計上のポイントを読む
3月決算法人にとっては待ち望まれた「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて(法令解釈通達)」(以下「費用通達」という)が4月20日に公表された(今号10頁参照)。
本誌400号でもお伝えしているとおり、法人が災害を受けた棚卸資産および固定資産の修繕等のために、災害のあった日から1年以内に支出する費用の適正な見積額を「災害損失特別勘定」として経理した場合には、損金の額に算入できる旨の取扱いが定められている。また、これに合わせて「東日本大震災関係諸費用(災害損失特別勘定など)に関する法人税の取扱いに係る質疑応答事例」も公表されている。今回の特集では、費用通達の概要をお伝えする。
阪神・淡路大震災時の通達と同様の内容が盛り込まれる 今回の費用通達は東日本大震災に伴うもの。平成7年の阪神・淡路大震災の際にも「阪神・淡路大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて」と題する個別通達が公表されていたが、その後に法人税基本通達や租税特別措置法関係通達に盛り込まれたものを除き、内容的にはこれと同様のものとなっている。
主な取扱いの内容としては、①災害損失特別勘定への繰入額(修繕費用等の見積額)の損金算入、②損壊した賃借資産等に係る補修費、③被災者用仮設住宅の設置費用が挙げられている(9頁参照)。
以下、費用通達における主だったポイントを紹介する。
災害損失特別勘定は損金経理が必要 今回の費用通達での最大のポイントは、阪神・淡路大震災の時と同様、「災害損失特別勘定」の損金算入が認められた点だ。具体的に、法人が、災害のあった日の属する事業年度において、災害により被害を受けた棚卸資産および固定資産の修繕等のために、災害のあった日から1年以内に支出する費用の適正な見積額を「災害損失特別勘定」として損金経理した場合には、損金の額に算入することを認めている(費用通達2)。
申告調整による損金算入は不可 3月決算法人の場合、震災が発生した3月11日から決算期末までわずかしかないため、適正な見積額を算出することが困難だとして、損金経理要件を外すことも検討されていた模様だ。しかし、最終的には従来どおり、減価償却費の計上などと同様、法人の認識を明確にするという意味で、被災事業年度等における損金経理が要件となった。
このため、原則として、申告調整の方法によった場合については、災害損失特別勘定への繰入額を損金算入することはできないことになる。

4月20日時点で財務諸表が作成完了ならば しかし、3月決算法人において、費用通達が公表された4月20日の時点ですでに決算手続が終了しており、災害損失特別勘定の損金経理をできなかった場合については、特例的に申告調整での損金算入を認めることとしている。
この「決算手続が終了している」状態というのは、会計監査に備え、貸借対照表および損益計算書の作成が完了していることとされる。ただ、日程的にみると、震災の被害を受けた企業の多くは、4月20日時点では決算手続が終了していないものと想定される。
会社法制定で取扱いも見直し そのほか、阪神・淡路大震災の際には、災害損失特別勘定への繰入額について、損金経理を原則としつつも、企業会計上、利益処分により積み立てることまたは災害損失特別勘定の繰入額の一部について損金経理をし、他の部分について利益処分により処理することが相当であると認められる場合には、税務上も認めるとの取扱いがなされていた。
しかし、今回の東日本大震災については、従前の商法上の利益処分による積立てなどは認められないので要注意だ。
平成17年制定の会社法により、利益処分案がなくなり、剰余金の処分については定時株主総会に限らず、いつでも可能となったためだ(会社法452条)。
災害損失特別勘定の繰入限度額とは? 災害損失特別勘定の繰入れを行う事業年度等とは災害のあった日の属する事業年度等ということになる(図1参照)。また、被災事業年度等について、仮決算による中間申告書等を提出する場合も災害損失特別勘定の繰入れを行うことができる(図2参照)。

なお、災害損失特別勘定の繰入対象とするものに係る保険金、損害賠償金、補助金等により補填される金額がある場合には、その金額を控除することになる。
災害損失特別勘定の繰入限度額については、(1)被災資産(評価損を計上したものを除く)の被災事業年度等終了の日における価額がその帳簿価額に満たない場合にその差額に相当する金額、②被災資産について、修繕費用等(災害のあった日から1年を経過する日までに支出すると見込まれる費用)の見積額(被災事業年度等終了の日の翌日以後に支出すると見込まれる金額に限る)のいずれか多い金額となる。(1)および(2)の金額については、原則として個々の資産ごとに計算することになるが、たとえば、「○○工場建物一式」「○○製造設備一式」とすることも可能としている。
暫定的な修繕計画に基づく見込額でもOK (2)の修繕費用等については、①被災資産の取壊しまたは除去のために要する費用、②被災資産の原状回復のために要する費用、③土砂その他の障害物の除去に要する費用その他これらに類する費用、④被災資産の損壊または価値の減少を防止するために要する費用が該当する。また、これらの修繕費用等については、暫定的な修繕計画に基づく見込額でも容認されている。
明細書添付で引当金計上もOK 災害損失特別勘定の勘定科目については、特別損失または災害損失引当金等の流動負債として処理している場合でも、その内容が災害損失特別勘定であり、所要の明細書が確定申告書等に添付されていれば、特に課税上弊害は生じないとしている。
また、災害損失特別勘定への繰入額が少額であり、企業会計上、特別損失として処理することが適当でない場合は、企業会計上相当と認められる勘定科目で処理しても、災害損失特別勘定に関する明細書の添付を条件に税務上も認められることになる。
自社の専門家での見積りもOK 修繕費用等の見積額については、修繕等を行うことが確実に見込まれる被災資産について、合理的な方法で見積ることが必要になる。
たとえば、①修繕を請け負う建設業者、製造業者等による被災資産に係る修繕費用等の見積額、②相当部分が損壊等をした被災資産(損害等の程度がおおむね50%以上)につき、再取得価額または国土交通省建築統計年報の建築価額等を基礎として、その取得の時から被災事業年度等終了の日まで償却を行ったものとした場合に計算される未償却残高から被災事業年度等終了の日における価額を控除した金額となる(費用通達3)。
なお、これら以外の合理的な方法も認められる。たとえば、自社の土建技師等の専門家による見積額であっても合理的なものであれば、その見込額を基礎として災害損失特別勘定へ繰入れすることができる。
そのほか、評価損を計上した資産について支出した修繕費用等については、原則として災害損失特別勘定の繰入対象に含めることはできない。ただし、評価損を計上した資産でも、評価損計上後の資産に係る使用可能期間の維持、価値の減少の防止等をするための修繕等、たとえば、「土砂その他の障害物の除去に要する費用その他これらに類する費用」「被災資産の損壊または価値の減少を防止するために要する費用」については、災害損失特別勘定の繰入対象に含めることができるとされている。
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保険金、損害の査定が間に合わないケースは? 被災資産に保険が付されている場合には、災害損失特別勘定の繰入れの際に、修繕費用等の見積額から保険金により補填される金額は控除することとされている。
しかし、被害が甚大なため、被災事業年度等の終了の日までに保険会社による損害の査定が間に合わないケースが多くあるようだ。このように、保険金額の見積りが困難な場合には、修繕費用等の見積額から保険金の金額を控除しなくてもよいとの取扱いがされている。
なお、災害損失特別勘定の益金算入に当たって、支出した修繕費用等の額が保険金等により補填される場合には、補填される金額を控除した後の金額について、災害損失特別勘定を取崩して、益金の額に算入することになる。
災害損失特別勘定の残額がある場合は益金算入 災害損失特別勘定については、災害のあった日から1年を経過する日の属する事業年度において、その残額がある場合には、その残額を取り崩して益金の額に算入することになる(費用通達4)(図3・図4参照)。

ただし、やむを得ない事情により修繕等が遅れているときには、その1年を経過する事業年度等の終了の日までに、災害損失特別勘定の益金算入時期の延長確認申請書を所轄税務署長(または所轄国税局長)に提出し、確認を受けることにより、その修繕等が完了すると見込まれる日の属する事業年度まで、取崩しを延長することが可能となっている(費用通達5)。
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災害損失特別勘定繰入額が多かったケースは? 繰り入れた災害損失特別勘定の金額が結果として多かった場合であっても、合理的に見積りを行った修繕費用等の額に基づいたものであれば、その過大部分について繰入事業年度に遡って修正する必要はないとされている。
損壊した賃借資産等の補修費は賃借人が修繕費として損金算入可能 2点目のポイントは賃借人が賃借資産について補修のために要した費用については損金算入が認められていることだ(費用通達9)。
民法上、賃貸資産の修繕については、賃貸人の負担により行うべきとされており、逆に賃借人が賃借資産の補修を行った場合には、その補修費用を賃貸人に請求することになる。したがって、賃借人が補修費用を支払った場合については、その金額を仮払金等として計上することになる。
災害損失特別勘定への繰入れはできず しかし、災害による被害が甚大なこと等から、①賃貸人による早急な補修ができない等の事情により、賃借人がやむを得ず自ら原状回復工事を行うことが想定されること、②その補修に要した費用を賃貸人から実際に回収できるか否かも明らかでないことといった事情に鑑み、賃借人が修繕費として経理した場合には、これを認めるとしている。ただし、補修義務のない賃借資産については、賃借人が補修したとしても、災害損失特別勘定の繰入れはできない。本来、賃貸人が補修義務を負い、原則としてその賃借人が災害損失特別勘定の繰入れをすることになるからである。
なお、賃借人が修繕費として経理した金額相当額を賃貸人から支払いを受けた場合には、その支払いを受けた日の属する事業年度等の益金の額に算入することになる。
撤去費用は災害見舞金等で処理 また、法人が修繕等の補修義務のない販売をした資産または賃貸をしている資産について無償で補修や点検をした場合についても、前述と同様に法人が支出時に修繕費として損金経理した場合には、その処理を認めている。
なお、想定される場面が異なるが、メーカー等が取引後、被災した自動車や機械装置などを撤去するための費用を負担した場合については、取引先に対する災害見舞金等として交際費等に該当しないものとして損金の額に算入することができる(措置法通達61の4(1)-10の3)。
被災者用仮設住宅の設置費用は損金算入可能 3点目のポイントは、法人が被災した役員や従業員の住居として仮設住宅を設置した場合だ。この仮設住宅の組立て、設置のための費用については、その仮設住宅を居住の用に供した事業年度等において費用として経理したときは、これが認められる(費用通達10)。
これについては、法人が被災した従業員等のための仮設住宅の一部について、自己の従業員等以外の被災者の居住の用に供した場合についても、同様の取扱いがなされる。
見積期間で償却可能 仮設住宅用資材については、利用実態に即した償却が認められることになる。被災した従業員等の住居として一時的に使用する場合には、仮設住宅に使用すると見込まれる期間(1年未満の端数は切捨て)を耐用年数として償却することができる。
再利用の場合は7年で償却 逆に仮設住宅用資材を反復して使用する場合(仮設住宅として使用した後に他の用途に転用、再利用する)には、原則として、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一に掲げる「建物」の「簡易建物」の「仮設のもの」の7年で償却することになる。
「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて」の主な取扱いの内容(国税庁) |
1 災害損失特別勘定への繰入額(修繕費用等の見積額)の損金算入 法人が、災害のあった日の属する事業年度において、災害により被害を受けた棚卸資産及び固定資産の修繕等のために、災害のあった日から1年以内に支出する費用の適正な見積額を災害損失特別勘定として経理した場合には、その災害損失特別勘定として経理した金額を当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができます。 また、災害のあった日から1年を経過する日の属する事業年度において、災害損失特別勘定の残額がある場合には、その残額を取り崩して益金の額に算入することとなりますが、やむを得ない事情により修繕等が遅れているときには、税務署長の確認を受けることにより、その修繕等が完了すると見込まれる日の属する事業年度まで、その取崩しを延長することができます。 2 損壊した賃借資産等に係る補修費 法人が賃借資産につき修繕等の補修義務がない場合においても、その賃借資産が災害により被害を受けたため、その原状回復のための補修を行い、その補修のために要した費用を修繕費として経理したときは、これが認められます。 なお、修繕費として経理した金額に相当する金額につき賃貸人から支払を受けた場合には、その支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入することになります。 (注)法人が、補修義務のない販売をした資産又は賃貸をしている資産につき補修のための費用を支出した場合においても、同様となります。 3 被災者用仮設住宅の設置費用 法人が、災害により被災した役員又は従業員の住居として一時的に使用する仮設住宅の用に供する資材の取得等をして仮設住宅を設置した場合に、その仮設住宅の組立て、設置のために要した金額につきその居住の用に供した日の属する事業年度において費用として経理したときには、これが認められます。 また、取得した仮設住宅用の資材を仮設住宅のためにのみ使用する場合には、その見積使用期間を基礎として償却することが認められます。 |
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