解説記事2011年09月26日 【実務解説】 TOKYO AIMにおける上場第1号を踏まえた今後の展望(2011年9月26日号・№420)

TOKYO AIMにおける上場第1号を踏まえた今後の展望
 TOKYO AIM取引所自主規制グループ ディレクター 荒井啓祐

Ⅰ はじめに

 本年7月15日、バイオベンチャーの株式会社メビオファーム(以下「メビオ社」という)の普通株式がTOKYO AIM取引所が開設する市場(以下「TOKYO AIM」という)に上場した。同社は、TOKYO AIMが2009年6月に市場開設されて以降、初めての上場会社となった(脚注*)。
 本稿では、TOKYO AIMが上場第1号を迎え、今後、どのように歩んでいくのかを展望する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを予めお断りしておく。

Ⅱ TOKYO AIMの制度的特徴と一般的な上場会社像

1 指定アドバイザー制度
 TOKYO AIMの制度的特徴は2つある。1つは、ロンドンAIMを参考にした指定アドバイザー制度であり、これは、TOKYO AIM取引所(以下「当取引所」という)の審査を経て資格を付与された指定アドバイザー(参照)が創意工夫して会社の上場適格性の調査・確認を行い、上場後も適時開示等の面で会社をサポートしていく制度である。このため、TOKYO AIMでは、取引所が上場適格性要件として、形式基準として数値基準を一律に定めることはしていない。

 さらに、指定アドバイザーが上場適格性の調査・確認を行ったうえで上場申請が行われるため、上場承認までの期間が最短で10営業日であり、他市場と比較して格段に短い。このことは、市況環境を踏まえて、会社および指定アドバイザーが事実上、上場時期を選べることを意味する。この度のメビオ社も上場申請から上場承認まで10営業日で、上場日は同社にとっての9回目の創立記念日であった。
 なお、証券会社が指定アドバイザーとなりIPO(ファイナンスを伴う上場)を手掛ける際、「上場適格性の調査・確認」業務(いわゆる指定アドバイザー業務)と「引受審査」業務とが混同される場合がある。時系列でみると、証券会社は、まず指定アドバイザーとして、「上場適格性の調査・確認」業務を行い、当取引所に上場申請(実際の上場申請者は、上場希望会社)を行い、その後の当取引所による上場承認を得た後、上場ファイナンスに伴う「引受審査」業務を行うこととなる。会社を審査(デュー・デリジェンス)する行為としては類似するものであるが、両者は性格上、まったく別のものである。

2 プロ投資家向け市場制度  もう1つの特徴は、市場の参加者が投資判断・分析を行える投資家(いわゆるプロ投資家)のみということである。このため他市場のように厳格な投資家保護は念頭に置かれておらず、金融商品取引法上、四半期開示や内部統制報告書提出は任意化され、外国企業も利用しやすいように英文開示も認められていることにその特徴がある。
 以上の点を考え合わせると、一般的な上場会社像は、指定アドバイザーが投資を行うであろうプロ投資家を念頭に、自社の独自の基準で上場適格性の確認を行い、その結果として、上場に至るというイメージができあがる。

Ⅲ 上場第1号からのインプリケーション

1 数値基準に捉われない上場(フレキシブルな上場スタイル)
 この度、上場第1号として上場したメビオ社は、上述のとおり、バイオベンチャーである。バイオベンチャーへの投資というものは、一般的には、創薬自体の有効性、治験の規模・段階、導出契約の動向など、様々なバイオ特有の判断要素があり、実際の投資にあたっては高度な現状分析に加え、会社の将来性を見据えた分析・判断能力が求められるといわれている。まさに業種自体がいわゆるプロ投資家好みといえる。
 メビオ社の新規上場の状況について少し触れると、同社は、当初予定していたファイナンスについて、募集期間中、製薬会社と技術導出について基本合意に至りそれらの事象が発行価格の決定に与える影響を考慮したため、ファイナンスの実施を取りやめた。通常、他市場では、ファイナンスの結果として株主数基準や時価総額基準を満足することが多いことから、ファイナンスを中止した場合、日程を変更することなく上場が実現に至る例は皆無に等しい。メビオ社の株主数は上場前(本年5月31日現在)に77人であったため、ほぼこの人数で上場したことになり、東京証券取引所のマザーズの株主数基準が300人以上ということと比べても相当少ないことがみて取れる。
 これまで、同様の事象はみられないことから、メビオ社の上場について、様々な見方がされようが、客観的にいえることは、TOKYO AIMが様々な状況変化に左右されずに活用可能だという、フレキシブルさを体現した1例ということではなかろうか。

2 流動性の考え方  株主数と流動性は表裏一体の関係にある。メビオ社の流動性は、他市場との比較感から上場来、決して高いとはいえない状況にあり、その要因に、ファイナンスを行わなかったことを指摘する見方もある。
 市場である以上、豊富な流動性は魅力の1つであるといえよう。ただし、他の新興市場では流動性が高いとはいえ、一般投資家が短期売買を行う傾向にあるため、過去の事例をみると、上場直後に株価の変動幅が大きくなり、その後円滑な追加のファイナンスを行うことができないことが多々あった。
 その点、TOKYO AIMでは、投資家がプロ投資家中心になるため、上場以降、長期的な見地に立てば“Buy & Hold”の傾向を示すことになると考えられる。今後は、このような市場の特性・特徴の啓蒙ということも広く市場関係者・上場希望会社などに周知していく必要があろう。

Ⅳ TOKYO AIM活用の可能性
 ロンドンAIMをみると、今後のTOKYO AIMの活用方法に関して、何点か参考となり得ることがある。

1 新たなタイプの指定アドバイザーの指定  現在、前掲ののとおり、TOKYO AIMの指定アドバイザーは7社あり、すべて証券会社である。ロンドンAIMでは2011年7月末現在63社と9倍の指定アドバイザーが存在し、そのなかで活発なプレーヤーは準大手規模の証券会社、そして監査法人(Accounting Firm)である。
 特徴的なのは後者である。この場合、証券会社でないため証券業務を行えないことから、案件を実際に上場させるにあたっては、案件に係る引受・販売業務を証券会社に委託している。
 日本でも、証券会社以外、特に会計事務所系の法人が指定アドバイザー業務に関心を示しているほか、最近では地方公共団体の関係者が、地元に指定アドバイザー業務を行う会社を設立して、地場企業を上場させ、ひいては地域の活性化につなげていこうという動きがみられる。
 各地の関係者からは、成長資金を必要としている会社や、円滑な事業承継を行うべく株式譲渡の場を必要としている会社が非常に多いとの話を聞いており、指定アドバイザーの設立に向けた動きはそのような情勢を踏まえたものと思われる。このような動きに対して、TOKYO AIMは積極的に協力していく考えである。

2 “戦略的な上場廃止”を目的とした新規上場  TOKYO AIM同様、小規模な会社でも上場可能なロンドンAIMでは、流動性の高いといわれる銘柄は上位20%程度で、それ以外は1日に売買が成立しないような銘柄も存在するようである。流動性の低い銘柄の発行会社については、流通市場の利用ということ以外に、M&A等の際、相手方との交渉が市場評価を有していることで有利に進められることに、上場の効用を見出しているといわれている。
 数年前、国内において、上場会社と非上場会社の間に持ち上がった大型合併について、非上場会社の評価方法で両者の意見が一致せず交渉が進展しなかったことが報じられた。市場評価は客観的な評価方法として一般的に認識されており、M&A等の交渉の際には、実際、自社の評価方法として説得性の高い選択肢となっている。
 ロンドンAIMでは、上場会社が本年7月末現在1,151社で2007年12月末の1,694社から543社減少した。しかし、この間、一方的に減少しているわけではなく、新規上場会社数が290社あり、新陳代謝が活発な市場である。ロンドンAIM関係者の話では、減少数、すなわち上場廃止数の多くは、経営破綻等に起因しない被合併・被買収会社によるもので、上場廃止を戦略的に捉えたうえで新規上場が行われているとのことである。
 今般、第1号が上場し、TOKYO AIMへの関心が高まりをみせているなか、ロンドンAIMを参考にした活用事例が今後出てくるものと思われる。

3 多様な上場商品  ロンドンAIMでは、いわゆるファンドの上場数が200以上あり、全体の10数%を占めている。その内容は、ETFのように指数連動というものではなく、特定の国・地域、業種またはベンチャー特化型のファンド、そしてREITなど実に多様である。
 TOKYO AIMでも、上場諸制度は多様なファンドを受け入れられるフレキシブルな仕組みとなっており、今後、プロモーション活動として、通常の株式のみならず、いわゆるファンドの上場にも傾注していきたい。
 私見では、上述1の地域活性化の観点を踏まえ、地域型J-Nomadが地場企業単体の上場にとどまらず、複数企業に投資を行うファンドを組成のうえ、それを上場対象とすることに着目すれば、TOKYO AIM活用の実現可能性は一層高まろう。
 最後に、TOKYO AIMが対象とする業種・商品について付言する。TOKYO AIMでは特定の業種・商品について上場の対象を絞る考えは特にない。しかし、株式についていえば、今回の上場第1号のようにバイオや、その他では、IT、クリーンエネルギー、機械(ロボット)など、専門的見地に立った投資が求められる業種はまさに“プロ好み”といえ、今後、上場第2号、第3号のターゲットとして強く意識していきたい。

Ⅴ おわりに
 TOKYO AIMは、上述のとおり、指定アドバイザー制度、プロ投資家向け市場制度と、これまで国内に存在しなかった2つの制度をハイブリッドに組み合わせた、まさに、日本の証券市場にとっても大きなチャレンジである。
 この度、第1歩を踏み出したTOKYO AIMは、今後、既存市場に対する代替市場としての地位を確立し、その相乗効果として証券市場全体がダイナミズムを取り戻す契機となるよう、チャレンジを継続していく。

脚注
* TOKYO AIMの開設に至る経緯とその特徴について、荒井啓祐「プロ投資家向け市場『TOKYO AIM』の創設と市場および上場制度の特徴」本誌313号30頁参照。

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