解説記事2011年11月21日 【法令解説】 「中小企業倒産防止共済法の一部を改正する法律」について(2011年11月21日号・№427)
法令解説
「中小企業倒産防止共済法の一部を改正する法律」について
経済産業省中小企業庁事業環境部企画課経営安定対策室 飯沼薫也
はじめに
中小企業は、我が国の全企業数の99.7%(約419万社)を占めており、雇用者数は雇用全体の約7割を占めるなど、我が国の経済の基盤となる大きな役割を担っている。一方、中小企業を取り巻く経済情勢は依然として厳しく、中小企業の経営の安定を図ることは非常に重要な政策課題である。こうした考え方に基づき、中小企業の経営の安定化支援の一環として、中小企業の連鎖倒産を防止することを目的に、中小企業倒産防止共済法に基づき中小企業倒産防止共済制度(愛称:経営セーフティ共済、以下「経営セーフティ共済」)が運営されている。今般、この制度について見直しが行われ、平成22年の第174回通常国会において「中小企業倒産防止共済法の一部を改正する法律(平成22年法律第25号)」(以下、「改正法」)が成立し、平成22年4月21日に公布された。改正法は2段階で施行されることとされ、同年7月1日に貸付事由を拡大する改正事項の施行、平成23年10月1日に貸付限度額を引き上げる等の改正事項が施行され、より充実した改正制度がスタートしている。
本稿においては、中小企業倒産防止共済制度の概要とともに、主な改正事項の概要とその背景について解説する。なお、本稿中意見にわたる部分は、筆者の個人的見解であることを予めお断りしておく。
Ⅰ 経営セーフティ共済の制度内容
1 制度の概要 経営セーフティ共済は、中小企業倒産防止共済法(以下、「本法律」)に基づいて独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、「中小機構」)によって運営されている共済制度であり、取引先が倒産して共済契約者の売掛金債権等が回収困難になった場合に、8,000万円を上限として共済金の貸付けを行い、中小企業の連鎖倒産を防止する制度である。なお、本法律でいう「倒産」とは、法的倒産(破産手続、再生手続、更生手続、特別清算手続の申立て)、銀行取引停止処分、そして平成22年7月1日から追加された弁護士等が関与する私的整理(後述)等をいう。
取引先がいずれかの倒産要件に該当した場合には、共済契約者の売掛金債権等が回収困難となったことを示す書類(取引実績表や売上帳等)を提示すれば、共済契約者の資産状況などの金融審査を経ることなく、中小機構が倒産の事実確認を行った上で、原則10営業日以内に貸付けを受けることができる。
現在の経営セーフティ共済の在籍者は全国で約30万社であり、多数の中小企業が在籍している。この数は、経営セーフティ共済の対象となる企業間取引を行い、かつ、売掛金債権等を有する企業のうち、約2割に相当するものである。多くの在籍者を有している理由としては、多数の中小企業団体や金融機関等(全国約24,000カ所)が連携して加入促進を行っていることや、法律に基づいて行われる国の支援制度であるという安心感があるためと考えられ、「もしも」のときの重要なセーフティネット機能の1つとして期待されているものと考えている。
共済金の貸付実績は、昭和53年の制度創設から現在までの累計で貸付件数約27万件、貸付額約1兆8,000億円であり、多数の中小企業の経営の安定、連鎖倒産防止に貢献してきている。特に、景気の悪化局面においては、取引先の倒産が増加する一方で中小企業の資金調達が困難になりがちであるため、本制度が果たすべき役割は非常に大きい。
2 経営セーフティ共済の加入対象 加入対象は、引き続き1年以上事業を行っており、個人事業主または会社であって、表に掲げた「資本金等の額」または「従業員数」のいずれかに該当する者、企業組合、協業組合、事業協同組合(共同生産・共同販売などの共同事業を行っている組合等)が対象である。
Ⅱ 本法律の改正の経緯・概要
本制度は、中小企業倒産防止共済法第23条の規定により、制度に関する基本的事項を少なくとも5年ごとに見直しの検討を行うこととされており、前回の見直しから5年後にあたることを契機に、平成20年5月以降、中小企業政策審議会経営安定部会等で倒産の実態等を踏まえて検討を行ってきた。
近年の倒産については、株式会社東京商工リサーチのデータによれば、負債総額1,000万円以上の倒産件数は、平成16年~19年度は毎年13,000~14,000件前後であったところ、いわゆるリーマンショックの発生以降に急増し、平成20年度の倒産件数は平成14年度以来6年ぶりに16,000件を上回った。特に、大型倒産の増加が顕著であり、平成19年度は負債総額が約5.8兆円であったのに対し、平成20年度は倍以上の14兆円にまで増加していた。倒産件数が増加する中、本制度を利用する共済契約者も増加し、平成19年度は約3,600件(貸付額約300億円)であった貸付けが、平成20年度には1.5倍の約5,400件(貸付額約490億円)にまで増加した。
また、取引先の倒産懸念の高まり等により、本制度の新規加入者は、平成19年度は約17,000件であったが、平成20年度の新規加入者は約10,000件増加して約27,000件となった(平成21、22年度の実績は、ともに30,000件を超える新規加入となっており、大幅な増加傾向にある)。
こうした倒産の実態や、取引先の倒産によって回収困難となる売掛金債権等の額が高額化していることなどを踏まえ、本法律を改正し、セーフティネットの強化を図ることとなった。
Ⅲ 改正のポイント
1 平成22年7月1日に施行された改正事項
(1)共済金を貸し付ける事由に私的整理の一部を追加 旧制度では、共済金を貸し付ける事由である取引先の「倒産」に当たる事態については、法的倒産の申立てまたは銀行取引停止処分に限られていた。これは、従来我が国においては、製造業、建設業を中心に慣習的に手形取引が多く利用され、取引先がいわゆる私的整理の形で倒産した場合には、同時に銀行取引停止処分を受けているケースが多かったため、共済契約者は銀行取引停止処分により貸付請求を行うことができた。しかし、近年では、企業間の手形取引が減少してきているため、銀行取引停止処分の件数の減少傾向が続き、共済契約者が貸付の請求を行うことができる機会が減少してきていた。
そこで、今般の改正により、新たに私的整理の一部についても共済金を貸し付ける事由に追加し、共済契約者が貸付請求できる機会が拡大されたものである。新たに貸付対象となった私的整理の具体的な要件は、次の3つの要件を満たしている場合である。
① 倒産状態に陥っている取引先が、債務の整理を弁護士または認定司法書士(※)(法人も含む。以下、「弁護士等」)に委託し、
※司法書士法に基づく法務大臣の認定を受けた司法書士。訴訟額140万円以下の案件に限り扱うことができる。
② 当該弁護士等から共済契約者に対して書面で支払を停止する旨の通知がなされ、
③ 当該書面には、作成の年月日および弁護士等の署名または記名押印がされていること
(参考)東日本大震災の発生に伴う共済事由の追加 なお、東日本大震災の発生に伴う対策として、平成23年4月8日と同月22日の2度にわたって「中小企業倒産防止共済法施行規則」(以下、「省令」)を改正し、①甚大な災害の発生により(東日本大震災の被災)受け取った手形の不渡り処分が猶予(災害不渡り)されていること、②特定非常災害(東日本大震災の被災)により取引先事業者の代表者等が死亡又は行方不明等となっている場合に、弁護士等によって支払を停止する旨の通知がされていること、という2つの要件を新たに共済事由として追加している。
2 平成23年10月1日に施行された改正事項
(1)共済金の貸付限度額の引上げ等 昭和60年の改正により貸付限度額を2,100万円から3,200万円に引き上げて以降、25年間にわたって3,200万円の限度額は維持されてきた。しかしながら、近年、サブプライムローンやリーマンショックなどに端を発した急激な景気悪化等により、倒産件数の増加とともに負債総額が高額な大型倒産が増加したこと等により、取引先の倒産によって中小企業の回収困難となる売掛金債権等の額が高額化し、3,200万円の貸付限度額では十分ではない共済契約者の割合が増加傾向にあった。こうした景気悪化の状況に対応して、貸付限度額を迅速に引上げ改正ができるように、法定事項から政令事項に改正を行った。具体的な貸付限度額は、平成22年12月28日に公布した「中小企業倒産防止共済法施行令の一部を改正する政令(平成22年政令第258号)」(以下、「政令」)において、貸付限度額を3,200万円から2倍以上の8,000万円に引き上げることを定め、多くの中小企業の資金ニーズに対応している。
併せて、共済契約者が積み立てることができる掛金総額の上限額を320万円から800万円に引き上げ、毎月積み立てる掛金月額の上限額についても8万円から20万円に引き上げている。なお、掛金については、掛金総額の上限額が800万円に引き上げられた平成23年10月1日以降も、税法上、法人の場合は損金、個人事業の場合は必要経費に算入することができる。
(2)償還期間の延長 貸付金の償還期間については、改正法施行前の旧制度においては、一律5年(6か月の据置期間を含む)とされてきた。先述のとおり、貸付限度額を8,000万円に引き上げることとしたが、仮に償還期間を旧制度から改正を行わずに5年間の償還期間を維持した場合には、高額な貸付けを受けた共済契約者の毎月の償還額が非常に高額となり、償還が困難となる者が増加するおそれがある。このため、償還期間を一律5年から、貸付額に応じて延長できるよう改正したものである。具体的な償還期間については、共済契約者の毎月の償還能力や償還期間の延長による回収率等の財政への影響を踏まえ、共済金の貸付額に応じて、政令において次のように定めている。
5,000万円未満 5年
5,000万円以上6,500万円未満 6年
6,500万円以上8,000万円以下 7年
※いずれも6か月の据置期間を含む。
(3)早期償還手当金制度の創設 共済金の貸付けは無利子(ただし、貸付時に貸付額の十分の一に相当する額が、積み立てた掛金から控除される)で行われるため、これまで、共済契約者にとって早期に償還を完了するインセンティブが働いていないのが実態であった。他方、共済契約者からは、経営状況が良好になり資金的に余裕ができた場合には、一括して償還を完了したいといった要望があった。これは本制度の財政にとっても、資金的に余裕がある時に完済していただくことで、貸付けを受けた共済契約者の将来の不測の事態(経営不振・倒産等)によって、貸付金を回収できないといったリスクが軽減されることとなる。
こうした事情を踏まえ、貸付けを受けた共済契約者が、次の2つの要件を満たす場合に、手当金を支給する早期償還手当金制度を創設した。
① 貸付け当初設定された償還期限よりも早期に完済し、かつ、
② 完済日前の毎月の償還に遅滞することなく償還してきた場合
手当金の具体的な額については、省令において、貸付け当初設定された期限よりも早期に償還した貸付額と期間に応じて定めている。これにより、早期に完済する共済契約者は、手当金の支給によって貸付けに係る負担が軽減されることとなり、本制度のさらなる魅力向上として期待される(例:5,000万円の共済金を償還期間6年で貸付けを受けた後、2年後に全額繰上償還を行った場合の早期償還手当金の額は80万円となる)。
(4)申込金の廃止 これまで共済契約の申込みは、初月分の掛金を申込金として添えてしなければならないとされてきた。これは、共済契約者が契約の申込みを不用意に行い、その後、軽々しく取消しを行うことによって契約事務が混乱することを防止するために、申込者が制度の内容を十分理解したことの確認として、申込金を添えることが法定されていた。
しかし、近年においては、仮に契約の申込み直後の取消しがある程度発生したとしても、契約事務が混乱することはない体制となっており、初月分の掛金を申込金として徴収する意義は薄れていた。また、口座からの自動引き落としが一般的であり、中小機構と申込者の相互の負担となっていた。このため、事務手続の簡素化の観点から申込金を廃止することとしたものである。
Ⅳ おわりに
今回の25年ぶりの制度改正により、経営セーフティ共済の内容がさらに充実したものとなった。今後とも、より多くの中小企業の方々にご利用していただくことを期待している。引き続き、中小企業の経営の安定に貢献できるよう、中小企業の取引状況や倒産の実態などを踏まえ、必要な改善を図ってまいりたい。
なお、加入の申込みについては、青色申告会、中小企業関係団体、融資取引のある金融機関の本支店で手続が可能となっている。加入手続きや制度の詳細については、中小機構のホームページ(http://www.smrj.go.jp/tkyosai/)をご覧いただきたい。
「中小企業倒産防止共済法の一部を改正する法律」について
経済産業省中小企業庁事業環境部企画課経営安定対策室 飯沼薫也
「中小企業倒産防止共済法の一部を改正する法律(平成22年法律第25号)」が施行され、平成23年10月1日より、共済金の貸付限度額が3,200万円から8,000万円に引き上げられた。これに伴い税務上、損金(または必要経費)に算入できる掛金の限度額が320万円から800万円に引き上げられることになった。また、月額の掛金の限度額も8万円から20万円に引き上げられている。中小企業や税理士にとっては注目すべき改正といえる。本稿は、同法の改正内容について解説するものである。(編集部) |
はじめに
中小企業は、我が国の全企業数の99.7%(約419万社)を占めており、雇用者数は雇用全体の約7割を占めるなど、我が国の経済の基盤となる大きな役割を担っている。一方、中小企業を取り巻く経済情勢は依然として厳しく、中小企業の経営の安定を図ることは非常に重要な政策課題である。こうした考え方に基づき、中小企業の経営の安定化支援の一環として、中小企業の連鎖倒産を防止することを目的に、中小企業倒産防止共済法に基づき中小企業倒産防止共済制度(愛称:経営セーフティ共済、以下「経営セーフティ共済」)が運営されている。今般、この制度について見直しが行われ、平成22年の第174回通常国会において「中小企業倒産防止共済法の一部を改正する法律(平成22年法律第25号)」(以下、「改正法」)が成立し、平成22年4月21日に公布された。改正法は2段階で施行されることとされ、同年7月1日に貸付事由を拡大する改正事項の施行、平成23年10月1日に貸付限度額を引き上げる等の改正事項が施行され、より充実した改正制度がスタートしている。
本稿においては、中小企業倒産防止共済制度の概要とともに、主な改正事項の概要とその背景について解説する。なお、本稿中意見にわたる部分は、筆者の個人的見解であることを予めお断りしておく。
Ⅰ 経営セーフティ共済の制度内容
1 制度の概要 経営セーフティ共済は、中小企業倒産防止共済法(以下、「本法律」)に基づいて独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、「中小機構」)によって運営されている共済制度であり、取引先が倒産して共済契約者の売掛金債権等が回収困難になった場合に、8,000万円を上限として共済金の貸付けを行い、中小企業の連鎖倒産を防止する制度である。なお、本法律でいう「倒産」とは、法的倒産(破産手続、再生手続、更生手続、特別清算手続の申立て)、銀行取引停止処分、そして平成22年7月1日から追加された弁護士等が関与する私的整理(後述)等をいう。
取引先がいずれかの倒産要件に該当した場合には、共済契約者の売掛金債権等が回収困難となったことを示す書類(取引実績表や売上帳等)を提示すれば、共済契約者の資産状況などの金融審査を経ることなく、中小機構が倒産の事実確認を行った上で、原則10営業日以内に貸付けを受けることができる。
現在の経営セーフティ共済の在籍者は全国で約30万社であり、多数の中小企業が在籍している。この数は、経営セーフティ共済の対象となる企業間取引を行い、かつ、売掛金債権等を有する企業のうち、約2割に相当するものである。多くの在籍者を有している理由としては、多数の中小企業団体や金融機関等(全国約24,000カ所)が連携して加入促進を行っていることや、法律に基づいて行われる国の支援制度であるという安心感があるためと考えられ、「もしも」のときの重要なセーフティネット機能の1つとして期待されているものと考えている。
共済金の貸付実績は、昭和53年の制度創設から現在までの累計で貸付件数約27万件、貸付額約1兆8,000億円であり、多数の中小企業の経営の安定、連鎖倒産防止に貢献してきている。特に、景気の悪化局面においては、取引先の倒産が増加する一方で中小企業の資金調達が困難になりがちであるため、本制度が果たすべき役割は非常に大きい。
2 経営セーフティ共済の加入対象 加入対象は、引き続き1年以上事業を行っており、個人事業主または会社であって、表に掲げた「資本金等の額」または「従業員数」のいずれかに該当する者、企業組合、協業組合、事業協同組合(共同生産・共同販売などの共同事業を行っている組合等)が対象である。


Ⅱ 本法律の改正の経緯・概要
本制度は、中小企業倒産防止共済法第23条の規定により、制度に関する基本的事項を少なくとも5年ごとに見直しの検討を行うこととされており、前回の見直しから5年後にあたることを契機に、平成20年5月以降、中小企業政策審議会経営安定部会等で倒産の実態等を踏まえて検討を行ってきた。
近年の倒産については、株式会社東京商工リサーチのデータによれば、負債総額1,000万円以上の倒産件数は、平成16年~19年度は毎年13,000~14,000件前後であったところ、いわゆるリーマンショックの発生以降に急増し、平成20年度の倒産件数は平成14年度以来6年ぶりに16,000件を上回った。特に、大型倒産の増加が顕著であり、平成19年度は負債総額が約5.8兆円であったのに対し、平成20年度は倍以上の14兆円にまで増加していた。倒産件数が増加する中、本制度を利用する共済契約者も増加し、平成19年度は約3,600件(貸付額約300億円)であった貸付けが、平成20年度には1.5倍の約5,400件(貸付額約490億円)にまで増加した。
また、取引先の倒産懸念の高まり等により、本制度の新規加入者は、平成19年度は約17,000件であったが、平成20年度の新規加入者は約10,000件増加して約27,000件となった(平成21、22年度の実績は、ともに30,000件を超える新規加入となっており、大幅な増加傾向にある)。
こうした倒産の実態や、取引先の倒産によって回収困難となる売掛金債権等の額が高額化していることなどを踏まえ、本法律を改正し、セーフティネットの強化を図ることとなった。
Ⅲ 改正のポイント
1 平成22年7月1日に施行された改正事項
(1)共済金を貸し付ける事由に私的整理の一部を追加 旧制度では、共済金を貸し付ける事由である取引先の「倒産」に当たる事態については、法的倒産の申立てまたは銀行取引停止処分に限られていた。これは、従来我が国においては、製造業、建設業を中心に慣習的に手形取引が多く利用され、取引先がいわゆる私的整理の形で倒産した場合には、同時に銀行取引停止処分を受けているケースが多かったため、共済契約者は銀行取引停止処分により貸付請求を行うことができた。しかし、近年では、企業間の手形取引が減少してきているため、銀行取引停止処分の件数の減少傾向が続き、共済契約者が貸付の請求を行うことができる機会が減少してきていた。
そこで、今般の改正により、新たに私的整理の一部についても共済金を貸し付ける事由に追加し、共済契約者が貸付請求できる機会が拡大されたものである。新たに貸付対象となった私的整理の具体的な要件は、次の3つの要件を満たしている場合である。
① 倒産状態に陥っている取引先が、債務の整理を弁護士または認定司法書士(※)(法人も含む。以下、「弁護士等」)に委託し、
※司法書士法に基づく法務大臣の認定を受けた司法書士。訴訟額140万円以下の案件に限り扱うことができる。
② 当該弁護士等から共済契約者に対して書面で支払を停止する旨の通知がなされ、
③ 当該書面には、作成の年月日および弁護士等の署名または記名押印がされていること
(参考)東日本大震災の発生に伴う共済事由の追加 なお、東日本大震災の発生に伴う対策として、平成23年4月8日と同月22日の2度にわたって「中小企業倒産防止共済法施行規則」(以下、「省令」)を改正し、①甚大な災害の発生により(東日本大震災の被災)受け取った手形の不渡り処分が猶予(災害不渡り)されていること、②特定非常災害(東日本大震災の被災)により取引先事業者の代表者等が死亡又は行方不明等となっている場合に、弁護士等によって支払を停止する旨の通知がされていること、という2つの要件を新たに共済事由として追加している。
2 平成23年10月1日に施行された改正事項
(1)共済金の貸付限度額の引上げ等 昭和60年の改正により貸付限度額を2,100万円から3,200万円に引き上げて以降、25年間にわたって3,200万円の限度額は維持されてきた。しかしながら、近年、サブプライムローンやリーマンショックなどに端を発した急激な景気悪化等により、倒産件数の増加とともに負債総額が高額な大型倒産が増加したこと等により、取引先の倒産によって中小企業の回収困難となる売掛金債権等の額が高額化し、3,200万円の貸付限度額では十分ではない共済契約者の割合が増加傾向にあった。こうした景気悪化の状況に対応して、貸付限度額を迅速に引上げ改正ができるように、法定事項から政令事項に改正を行った。具体的な貸付限度額は、平成22年12月28日に公布した「中小企業倒産防止共済法施行令の一部を改正する政令(平成22年政令第258号)」(以下、「政令」)において、貸付限度額を3,200万円から2倍以上の8,000万円に引き上げることを定め、多くの中小企業の資金ニーズに対応している。
併せて、共済契約者が積み立てることができる掛金総額の上限額を320万円から800万円に引き上げ、毎月積み立てる掛金月額の上限額についても8万円から20万円に引き上げている。なお、掛金については、掛金総額の上限額が800万円に引き上げられた平成23年10月1日以降も、税法上、法人の場合は損金、個人事業の場合は必要経費に算入することができる。
(2)償還期間の延長 貸付金の償還期間については、改正法施行前の旧制度においては、一律5年(6か月の据置期間を含む)とされてきた。先述のとおり、貸付限度額を8,000万円に引き上げることとしたが、仮に償還期間を旧制度から改正を行わずに5年間の償還期間を維持した場合には、高額な貸付けを受けた共済契約者の毎月の償還額が非常に高額となり、償還が困難となる者が増加するおそれがある。このため、償還期間を一律5年から、貸付額に応じて延長できるよう改正したものである。具体的な償還期間については、共済契約者の毎月の償還能力や償還期間の延長による回収率等の財政への影響を踏まえ、共済金の貸付額に応じて、政令において次のように定めている。
5,000万円未満 5年
5,000万円以上6,500万円未満 6年
6,500万円以上8,000万円以下 7年
※いずれも6か月の据置期間を含む。
(3)早期償還手当金制度の創設 共済金の貸付けは無利子(ただし、貸付時に貸付額の十分の一に相当する額が、積み立てた掛金から控除される)で行われるため、これまで、共済契約者にとって早期に償還を完了するインセンティブが働いていないのが実態であった。他方、共済契約者からは、経営状況が良好になり資金的に余裕ができた場合には、一括して償還を完了したいといった要望があった。これは本制度の財政にとっても、資金的に余裕がある時に完済していただくことで、貸付けを受けた共済契約者の将来の不測の事態(経営不振・倒産等)によって、貸付金を回収できないといったリスクが軽減されることとなる。
こうした事情を踏まえ、貸付けを受けた共済契約者が、次の2つの要件を満たす場合に、手当金を支給する早期償還手当金制度を創設した。
① 貸付け当初設定された償還期限よりも早期に完済し、かつ、
② 完済日前の毎月の償還に遅滞することなく償還してきた場合
手当金の具体的な額については、省令において、貸付け当初設定された期限よりも早期に償還した貸付額と期間に応じて定めている。これにより、早期に完済する共済契約者は、手当金の支給によって貸付けに係る負担が軽減されることとなり、本制度のさらなる魅力向上として期待される(例:5,000万円の共済金を償還期間6年で貸付けを受けた後、2年後に全額繰上償還を行った場合の早期償還手当金の額は80万円となる)。
(4)申込金の廃止 これまで共済契約の申込みは、初月分の掛金を申込金として添えてしなければならないとされてきた。これは、共済契約者が契約の申込みを不用意に行い、その後、軽々しく取消しを行うことによって契約事務が混乱することを防止するために、申込者が制度の内容を十分理解したことの確認として、申込金を添えることが法定されていた。
しかし、近年においては、仮に契約の申込み直後の取消しがある程度発生したとしても、契約事務が混乱することはない体制となっており、初月分の掛金を申込金として徴収する意義は薄れていた。また、口座からの自動引き落としが一般的であり、中小機構と申込者の相互の負担となっていた。このため、事務手続の簡素化の観点から申込金を廃止することとしたものである。
Ⅳ おわりに
今回の25年ぶりの制度改正により、経営セーフティ共済の内容がさらに充実したものとなった。今後とも、より多くの中小企業の方々にご利用していただくことを期待している。引き続き、中小企業の経営の安定に貢献できるよう、中小企業の取引状況や倒産の実態などを踏まえ、必要な改善を図ってまいりたい。
なお、加入の申込みについては、青色申告会、中小企業関係団体、融資取引のある金融機関の本支店で手続が可能となっている。加入手続きや制度の詳細については、中小機構のホームページ(http://www.smrj.go.jp/tkyosai/)をご覧いただきたい。
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