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解説記事2012年04月09日 【法令解説】 ライツ・オファリングに関する制度整備のための政府令等の改正の要点(2012年4月9日号・№446)

法令解説
ライツ・オファリングに関する制度整備のための政府令等の改正の要点

 金融庁総務企画局企業開示課課長補佐 小長谷章人
 金融庁総務企画局企業開示課専門官 芝 章浩
 金融庁総務企画局企業開示課係長 矢野翔平
 金融庁総務企画局市場課専門官 滝 琢磨

Ⅰ はじめに

 平成23年5月17日に成立し、同月25日に公布された「資本市場及び金融業の基盤強化のための金融商品取引法等の一部を改正する法律」(平成23年法律第49号。以下「改正法」という)においては、金融商品取引法(以下「金商法」という)の改正により、新株予約権無償割当てによる増資(いわゆるライツ・オファリング)に係る開示制度等の整備が図られている(脚注1)。
 これを受けて平成24年2月15日に公布された「金融商品取引法施行令の一部を改正する政令」(平成24年政令第32号。以下「改正政令」という)および「資本市場及び金融業の基盤強化のための金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令」(平成24年内閣府令第4号。以下「改正府令」という)においては、ライツ・オファリングに係る開示制度等の整備のための所要の政令および内閣府令の改正が行われており、改正法の対応部分とともに平成24年4月1日から施行された。また、「企業内容等の開示に関する留意事項について」(以下「企業内容等開示ガイドライン」という)についても所要の改正がなされている(脚注2)。
 本稿においては、ライツ・オファリングについて概説したうえで、これらの政令・内閣府令等の改正の要点を解説することとしたい。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であり、筆者らの所属する組織の見解を示すものではないことをお断りしておく。

Ⅱ ライツ・オファリングの概説

1 ライツ・オファリングとは
 ライツ・オファリングは、ライツ・イシューとも呼ばれ、公募増資や第三者割当増資と並ぶ増資手法の一種である。その定義は必ずしも明確というわけではないが、日本法上の株式会社が行う場合には、会社法277条に基づいて、株主(普通株主)全員に対して当該株式会社の新株予約権を無償で割り当て(新株予約権無償割当て)、当該新株予約権が行使されることによって増資をする手法が想定されている。
 ライツ・オファリングにおいては、持分比率の低下を嫌う株主は新株予約権の行使によりそれを回避できる一方で、追加出資を嫌う株主は新株予約権の売却によりその負担を回避できるため、既存株主の公平な取扱いに配慮した増資手法となり得るとの指摘があり、特に上場企業の増資手法として注目されている。

2 コミットメント型とノンコミットメント型  本邦におけるライツ・オファリングには、コミットメント型とノンコミットメント型の2つのスキームが想定されている。
 前者は、権利行使がなされなかった新株予約権について、発行者が取得条項に基づき取得したうえで証券会社に売却し、当該証券会社が権利行使をして取得した株式を市場等で売却するスキームであり、発行会社にとってあらかじめ調達額を確定できる点が特徴である(その典型的なスキームについてはを参照)。このような証券会社の行為(未行使の新株予約権に係る新株予約権証券を取得して自己または第三者が当該新株予約権を行使することを内容とする契約をすること)は改正法により「有価証券の引受け」の一種とされており(金商法2条6項3号)、これを業として行うことは第一種金融商品取引業に位置付けられる(金商法28条1項3号)。

 他方、ノンコミットメント型とは、そのような「有価証券の引受け」が存在しないスキームであり、コミットメント型とは異なりあらかじめ調達額を確定することはできない。

Ⅲ 企業内容等の開示制度に関する府令改正およびガイドライン改正
 企業内容等の開示制度に関しては、ライツ・オファリングに関連して、次のような内閣府令およびガイドラインの改正が行われた。

1 目論見書の交付方法の弾力化要件  改正法においては、一定のライツ・オファリングについて目論見書の作成・交付義務を免除することとしているが、その要件の1つとして有価証券届出書の提出を行った旨その他内閣府令で定める事項を時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載することを求めている(金商法13条1項ただし書)。
 そこで、改正府令においては、「その他内閣府令で定める事項」として、概要、(i)有価証券届出書の提出日、(ii)EDINETの閲覧用ウェブページのURL、(iii)発行会社の連絡先を規定することとした(企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「開示府令」という)11条の5)。

2 有価証券届出書の記載事項  前述のとおり、改正法によりコミットメント型ライツ・オファリングにおいて未行使の新株予約権を取得して自己または第三者が行使することを内容とする契約をすることが「有価証券の引受け」として位置付けられたこと(金商法2条6項3号)に伴い、改正府令においては、有価証券届出書の様式においてかかる引受けに関する記載事項を定めることとした(開示府令第2号様式(記載上の注意)(12)q、第2号の5様式(記載上の注意)(12)q、第7号様式(記載上の注意)(14)q)。

3 有価証券通知書の提出義務および目論見書の作成・交付義務  コミットメント型ライツ・オファリングにおいて引受証券会社が取得した新株予約権を行使することにより取得した有価証券の売出しを行う場合について有価証券通知書の提出および目論見書の作成・交付を行う必要がある旨を明確化することとした(開示府令4条4項5号、11条の4第2号ホ)。

4 効力発生日以後における訂正届出書の提出事由  有価証券届出書が提出された場合、その効力発生日以後であっても、(新株予約権無償割当て(会社法277条)を利用したライツ・オファリングの場合には)投資家が新株予約権を行使できる期間が満了するときまでは、必要に応じて提出会社は自発的に訂正届出書を提出する義務がある(金商法7条1項後段)。
 いかなる場合にかかる提出が必要かについては、たとえば、最近連結会計年度の次の連結会計年度の連結財務諸表が作成され当該連結財務諸表(その概要を含む)が公表された場合など、新たな会計期間に係る財務諸表が公表された場合などが通常は該当するものと考えられる。
 もっとも、新株予約権無償割当て(会社法277条)を利用したライツ・オファリングを行う場合については、有価証券届出書においてあらかじめ継続開示書類の提出予定時期などを記載していれば、新たな会計期間に係る財務諸表の公表を理由として訂正届出書を提出する必要まではないものと考えられる。そこで、企業内容等開示ガイドラインを改正し、その旨を明記することとした(企業内容等開示ガイドラインB7- 7②から⑭までの各かっこ書)。

Ⅳ 公開買付規制に関する府令改正
 公開買付規制に関しては、ライツ・オファリングに関連して、次のような内閣府令の改正が行われた。

1 新株予約権証券についての公開買付規制の特例  改正法においては、すべての新株予約権が行使されることが確保されたコミットメント型ライツ・オファリングに際して割り当てられた新株予約権については、その割当て時ではなく行使時において公開買付規制を適用することが適当であるとの考えから、会社法277条の規定により割り当てられた新株予約権のうち内閣府令で定めるものについては、当該新株予約権を行使することにより行う株券等の買付け等に対して、公開買付規制を適用することとしている(金商法27条の2第1項ただし書)。
 これを踏まえて、改正府令においては、コミットメント型ライツ・オファリングに際して会社法277条に基づいて株主に割り当てられた新株予約権(行使期間が2ヶ月以内のものに限る)については、割当てを受けた株主の株券等所有割合には算入しないこととし(発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令(以下「他社株府令」という)8条3項1号)、かつ、その行使により行う株券等の買付け等に対して、公開買付規制を適用することとした(他社株府令2条の2の2)。

2 引受業務により取得した新株予約権・株式の株券等所有割合への不算入  改正府令においては、コミットメント型ライツ・オファリングにおいて証券会社が引受業務により取得した未行使分の新株予約権やその行使により取得した株式について、新株予約権の取得日から起算して60日間は株券等所有割合に算入しないこととした(他社株府令7条1項2号)。

3 発行会社のグループ企業に対する新株予約権の売却についての公開買付規制の適用  改正府令においては、発行会社から新株予約権証券などの買付け等を行う場合については、たとえ企業グループ内であっても、公開買付規制を適用することとした(他社株府令2条の3第1項、2条の4第2項、3条1項)。

Ⅴ 大量保有報告規制に関する府令改正
 大量保有報告規制に関しては、ライツ・オファリングに関連して、次のような内閣府令の改正が行われた。

1 株主が割当てを受けた新株予約権についての株券等保有割合への不算入  すべての新株予約権が行使されることが確保されたコミットメント型ライツ・オファリングに際して割り当てられた新株予約権については、その割当て時ではなく行使時において大量保有報告規制を適用することが適当であるとの考えから、改正府令においては、コミットメント型ライツ・オファリングに際して会社法277条に基づいて株主に割り当てられた新株予約権(行使期間が2ヶ月以内のものに限る)については、割当てを受けた株主の株券等保有割合には算入しないこととした(株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令(以下「大量保有府令」という)5条1項1号)。

2 引受業務により取得した新株予約権・株式の株券等保有割合への不算入  改正府令においては、コミットメント型ライツ・オファリングにおいて証券会社が引受業務により取得した未行使分の新株予約権やその行使により取得した株式について、新株予約権の取得日から起算して5営業日の間は株券等保有割合に算入しないこととした(大量保有府令4条2号)。

3 短期大量譲渡に係る変更報告書の記載事項の簡素化  改正府令においては、ライツ・オファリングに際して引受証券会社が取得した新株予約権を行使することにより取得した株券等の譲渡については、短期大量譲渡に係る変更報告書(金商法27条の25第2項)の記載事項の簡素化を行い、規模の小さな譲渡の相手方については譲渡の相手方ごとの個別の記載を要しないこととした(大量保有府令第2号様式(記載上の注意)h)。

Ⅵ インサイダー取引規制に関する府令改正
 インサイダー取引規制に関しては、ライツ・オファリングに関連して、次のような内閣府令の改正が行われた。

1 新株予約権無償割当ての決定に係る軽微基準  改正法では、新株予約権無償割当てに関する決定について、インサイダー取引規制が適用される重要事実に該当することが明確化された(金商法166条2項1号ホ)。
 これを受け、改正府令においては、次の両要件を満たす新株予約権無償割当てに関する決定を軽微基準として定めることとした(有価証券の取引等の規制に関する内閣府令(以下「取引規制府令」という)49条2号ロ)。
① 新株予約権無償割当てにより割り当てる新株予約権の行使に際して払い込むべき金額の合計額が1億円未満であると見込まれること
② 新株予約権無償割当てにより1株に対し割り当てる新株予約権の目的である株式の数の割合が0.1未満であること

2 重要事実を知る前の計画に基づく新株予約権の移転に関する適用除外  改正府令においては、重要事実を知る前に公開され、または公衆の縦覧に供された新株予約権無償割当てに係る計画に基づき、ライツ・オファリングを行う発行会社が当該計画で定められた期日(または期限から10日以内)に次の行為を行う場合には、インサイダー取引規制から適用除外することとした(取引規制府令59条1項13号、63条1項13号)。
① 未行使の新株予約権に係る新株予約権証券を取得条項により取得する行為
② コミットメントを行う証券会社に未行使の新株予約権に係る新株予約権証券を売却する行為

Ⅶ 証券会社に対する規制に関する政府令改正
 証券会社に対する規制に関しては、ライツ・オファリングに関連して、次のような政令・内閣府令の改正が行われた。

1 有価証券の引受けの定義  改正法では、募集等の対象有価証券が新株予約権証券に準ずるものとして内閣府令で定める有価証券である場合において、当該有価証券を取得した者が新株予約権に準ずるものとして内閣府令で定める権利を行使しないときに、その未行使分を取得して当該権利を行使することを内容とする契約を締結する者も「引受人」等の定義に含めることとされた。
 これを受け、改正府令においては、新株予約権証券に準ずるものとして内閣府令で定める有価証券として、新株予約権付社債券、および、外国の者の発行する証券または証書で新株予約権証券または新株予約権付社債券の性質を有するものを規定することとした。
 また、新株予約権に準ずるものとして内閣府令で定める権利として、外国の者に対する権利で新株予約権の性質を有するものを規定することとした(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令14条の2、開示府令14条の2の2、証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令10条の2、金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」という)4条の2)。

2 新株予約権の行使勧誘に係る規制  前述のとおり、改正法では、コミットメント型ライツ・オファリングにおいて未行使の新株予約権を取得して自己または第三者が行使することを内容とする契約をすることを「有価証券の引受け」と位置付けることとされた。
 一般に、コミットメント型ライツ・オファリングにおいて、コミットメントを行う証券会社は、自らが取得・行使する新株予約権の数量を減らすため、不当に権利行使を誘引する場合もあり得る。
 そこで、改正府令においては、ライツ・オファリングにおいてコミットメントを行う証券会社による新株予約権の行使勧誘について、①虚偽告知および②断定的判断の提供等を禁止することとした(金商業等府令117条1項33号)。

3 有価証券の引受けの定義拡大に伴う規制の見直し  その他、改正法において「有価証券の引受け」等の定義が拡大されたことに伴い、金商法施行令および金商業等府令等について所要の整備が行われた(金商法施行令15条、17条の3第3号、金商業等府令4条1号、16条5号、117条1項31号、130条1項9号、147条3号・4号、150条4号、153条1項3号・5号・6号・13号、154条3号・7号、275条1項27号等)。

脚注
1 かかる法改正の骨格について、澤飯敦=出原正弘「資本市場および金融業の基盤強化のための金融商品取引法等の改正の要点」本誌407号32頁以下を、概要について、野崎彰=有吉尚哉=齊藤将彦=滝琢磨「開示制度の見直し〔上〕─ライツ・オファリング」旬刊商事法務1936号25頁以下および古澤知之ほか『逐条解説 2011年金融商品取引法改正』(商事法務、平成23年)を参照。
2 また、これらの改正とあわせて、「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(平成24年2月10日公表)も公表された。

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