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解説記事2012年10月29日 【ニュース特集】 税賠保険対象の「税務相談」に節税提案は該当するか?(2012年10月29日号・№473)

事業承継対策の節税提案は対象外の「コンサル」と判示
税賠保険対象の「税務相談」に節税提案は該当するか?

問先企業から事業承継などの相談を受けて行われた税理士事務所の職員による節税の提案などが、税賠保険の支払対象となる「税務相談」に該当するか否かが争われていた訴訟で東京地裁(渡部勇次裁判長)は7月13日、保険金の支払いを求める税理士側敗訴の判決を言い渡した。渡部裁判長は、各種コンサルティングで仮定の事例に基づき計算を行うことや一般的な税法の解説をすることは「税務相談」に含まれないと指摘。また、本件職員の提案は、節税目的の提案であっても、事業承継・相続対策コンサルティング業務などに該当するため、税賠保険の対象外であると結論付けている。本判決は、既に確定済みであるだけに、税賠保険の支払対象業務となる「税務相談」と対象外業務である「コンサンルティング」についての判断事例として、参考にすることができるだろう。

税理士側、保険利用の節税提案は「税務相談」に該当すると主張  今回の事案は、税理士事務所に勤務する職員が提案した保険を利用した節税案などが、税賠保険適用約款に明記された「税務相談」に該当するか否かが争われていたもの。税賠保険の対象となる「業務」の範囲は、税賠保険適用約款の特約条項3条において、税理士法第2条第1項業務である「税務代理」、「税務書類の作成」、「税務相談」や同条第2項に規定する「税理士業務に付随して行う業務のうち財務書類の作成または会計帳簿の記帳の代行」などに限られている(表1参照)。

保険金の支給を求め税理士側が提訴  今回の事案で問題となっていた節税提案の内容は、顧問先企業に対して、新逓増定期保険に加入してその保険料を損金処理して節税を図るとともに、数年後に子が同保険を解約して既払保険料の約95%の返戻を受けるというもの(図1参照)。本件職員が、顧問先企業の代表者から事業承継や会社資産の一部を子へ移転する方法や当期の増収益による税負担の軽減方法などについての相談を受けて提案していた。

 ところが、顧問先企業から保険料を受け取った本件職員は、その保険料を横領し、顧問先企業の決算税務申告において架空経費を計上。後の税務調査においてこれが発覚し、この節税提案により発生した顧問先企業の損害について、税理士および本件職員が顧問先企業に損害賠償を支払うことを内容とする和解が成立。これを受けて税理士は、税賠保険会社に対して税賠保険に基づき保険金を支払うことを求めていた。
 しかし、税賠保険会社が支払いを認めなかったため、税理士は、本件職員の節税提案などは保険対象となる「税務相談」に該当する旨主張し、税賠保険会社に対して、保険金の支払いを求める訴えを裁判所へ提起していた(当事者の主張は表2参照)。

【表2】本件職員の提案の「税務相談」該当性を巡る当事者の主張(一部抜粋)
原告側(税理士側) 被告側(損保会社側)
 提案は、新逓増定期保険へ加入し、その保険料を損金処理することなどであるが、これは、顧問先企業の法人税の課税標準を減少させ、納税者負担を軽減させようとするものであって、経理に直接かかわる事項であり、当期の税務申告内容に反映させることを当然に予定していた。そして、顧問先企業は、保険料として金員を実際に支出していること、税務申告において、架空とはいえ支出された保険料が支払保険料などとして計上されていることから、本件職員が保険料の支払を前提として課税標準額の計算に関する事項まで相談に関与したと見るべきであり、税務相談に該当することは明らかである。  相談のうち、事業承継や会社資産の一部を子へ移転する方法は、税務申告との直接的なかかわりを持たないため、税務相談には当たらない。
 提案のうち、節税方法として新逓増定期保険への加入を提案したことは、既存資料から課税標準等を計算するその過程に関する事項についての質問とは言えないため、税務相談にはあたらない。提案は、事業承継および相続税対策コンサルティング業務または経営コンサルティング業務と評価されるべきであり、提案がたまたま節税効果を有する内容であったからといって、遡って相談自体が税務相談となる理由はない。

東京地裁、一般的な税法の解説も「税務相談」に含まれず  東京地裁民事第1部の渡部勇次裁判長は、税賠保険の対象となる「税務相談」は、税理士法上罰則付きで税理士の独占業務とされる税理士業務であって、「税務官公署に対する申告等、税務官公署に対してする主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずること(税理士法2条1項3号)」をいい、この「相談に応ずる」とは、「具体的な質問に対して答弁し、指示し又は意見を表明すること(税理士法基本通達2-6)」をいうと指摘。各種コンサルティングにおいて、単に仮定の事例に基づき計算を行うことや一般的な税法の解説をすることなどは、税賠保険の支払対象業務となる「税務相談」には含まれないとの判断を示した。
 そのうえで渡部裁判長は、本件職員の提案は節税を目的とする提案であっても、税理士法2条1項3号などが規定する「税務相談」とはいえず、税賠保険の保険金支払の対象外である付随業務であって、保険コンサルティング、事業承継・相続対策コンサルティング、その他経営コンサルティング業務などに該当すると指摘。
 また、節税提案が実施され、現実にこれにより租税の課税標準等の計算等がなされたとしても、もともとの本件職員の提案自体が「税務相談」であったということはできないため、税賠保険に基づき保険金の支払いを求める税理士の主張は採用できないとしている。

Column 日税連、税理士法改正で税賠保険の強制加入を検討すべき
 年々複雑化する税務申告を巡り、損害賠償請求訴訟(税賠訴訟)にさらされやすい税理士が、その賠償額を補償する税賠保険に加入するケースは多い。具体的な加入率(2012年7月1日時点)をみると、開業税理士は43.49%、税理士法人は79.70%と特に税理士法人の加入率の高さが際立っている((株)日税連保険サービス「2012年度 税理士職業賠償責任保険加入状況」参照)。
 この税賠保険について、日税連が9月27日に国税庁長官および財務省主税局長に提出した「税理士法に関する改正要望書」では、税理士の信頼性の確保に関する規定の1つとして、税理士職業賠償責任保険(税賠保険)制度の確立が挙げられている。具体的には、税理士会会員が税賠保険に全員加入することとなる措置を検討すべきであると明記。その理由として、税理士等が税賠保険に加入することは、税理士等が関与している納税者にとっても、税に関する不測の損害を被ることが無くなるという利便性を得ることになることを指摘している。

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