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解説記事2013年01月07日 【ニュース特集】 事前確定届出給与の判定基準、複数回支給した場合の取扱い(2013年1月7日号・№481)

導入から7年が経過、取扱いの是非が訴訟に
事前確定届出給与の判定基準、複数回支給した場合の取扱い

 事前確定届出給与の導入から7年が経過。その取扱いに疑義が生じるケースはいまだ少なくない。このほど、導入当初に疑義が生じていた事前確定届出給与が1回目(冬)の支給時には届出どおりの額が支給される一方で、2回目(夏)の支給時には異なる額が支給された場合の取扱いについて裁判所の判断が示された。裁判所は、届出どおりに支給されたか否かは、個々の支給ごとに判定すべきとした納税者の主張を斥け、職務執行期間を1つの単位として判定すべきとした課税当局の主張を支持している(東京地裁平成24年10月9日判決)。また裁判所は、本件役員賞与については、個々の支給ごとに定時総会から次の定時総会までの間の職務執行期間を複数の期間に区分し、各期間の役員の職務執行の対価として個別的に定められたものであると解することができる特別の事情は認められないと判断している(敗訴した納税者は控訴)。

納税者、届出どおりか否かは個々の支給ごとに判断すべき

18年度改正で役員賞与の損金処理が可能に
 平成18年度税制改正において、役員賞与については一定の要件を満たしたもののみが損金に算入できることとされたが、その要件の1つが「事前確定届出給与」だ。
 この事前確定届出給与に該当するためには、一定の届出期限までに支給時期や支給額などを記載した「事前確定届出給与に関する届出書」を所轄税務署長に提出し、その届出書に記載した届出どおりの金額を支給しなければならない。
 今回の事案で企業は、役員に支給する冬季賞与と夏季賞与について、それぞれ支給額などを記載した事前確定届出給与に関する届出書を期限内に提出していた。
 しかし企業は、同一の事業年度において、冬季賞与は届出どおりの500万円を全額支給する一方で、夏季賞与は業績悪化を理由に届出額(500万円)を下回る250万円を支給していた。
 なお、企業は、夏季賞与の減額について、変更届出期限までに事前確定届出給与に関する変更届出をしていなかった。
質疑応答事例に沿って冬夏全額を損金不算入  ここで、1回目(冬)の支給時には届出どおりの額が支給される一方で、2回目(夏)の支給時には異なる額が支給がされた場合、届出どおりに支給されたか否かは、個々の支給ごとに判定すべきか、職務執行期間を1つの単位として判定すべきか、という問題が生ずる。この点について国税庁の質疑応答事例では、届出どおりに支給されたか否かは、原則としてその職務執行期間を1つの単位として判定することとされている。
 本事案でいえば、夏季賞与については、事前の届出どおりに支給がされていなかったことから夏季賞与250万円だけでなく冬季賞与500万円を含むすべての役員賞与(750万円)が損金不算入となり、課税当局はこの質疑応答事例に沿った更正処分を行っていた。

 この更正処分を不服とした納税者は、訴訟において、事前確定届出給与が一の職務執行期間中に複数回にわたり支給がなされた場合には、それが届出どおりか否かは、職務執行期間を1つの単位として判定すべきものではなく、個々の支給ごとに判定すべきであるとしていた。
 つまりは、本事案でいえば、届出どおりに支給がされた冬季賞与500万円については、事前確定届出給与に該当するため、損金算入が認められるべきである旨を主張していた。


裁判所は課税当局を支持、判定単位は職務執行期間の全期間
 東京地裁民事第2部の川神裕裁判長は、届出どおりか否かは個々の支給ごとに判定すべきとした企業の主張を斥け、特別の事情がない限り、職務執行期間の全期間を1個の単位として判定すべきであると判示している。課税当局の取扱いにお墨付きを与えた格好だ。
 川神裁判長は、その職務執行期間に係る当初事業年度または翌事業年度における支給中に1回でも事前の届出どおりに支給されたものではないものがあるときは、支給は全体として事前の届出どおりにされなかったことと解するのが相当であるとした。
 また、毎事業年度の終了後一定の時期に招集される定時総会の決議により、次の定時総会までの間の取締役の給与の支給時期および支給額が定められるのが一般的であることによれば、事前確定届出給与は、特別の事情がない限り、役員給与に係る職務執行期間の全期間のその役員の職務執行の対価として一体的に定められたものであると解することができるのであり、一の職務執行期間中に複数回にわたる支給がされた場合であっても、直ちには、個々の支給ごとに当該職務執行期間を複数の期間に区分し、各期間の当該役員の職務執行の対価として個別的に定められたものであると解することはできないとしている。
特別の事情は認められず  そのうえで、本事案の役員賞与については、事前確定届出給与に関する届出書に個々の支給ごとに直前の事業年度の定時総会から本事業年度の定時総会までの間の役員給与に係る職務執行期間を複数の期間に区分し、各期間の役員の職務執行の対価として個別的に定められたものであると解することができる特別の事情は認められないとした。
役員賞与減額につき、変更届出を提出せず  また、企業は、業績悪化を理由に臨時株主総会で夏季賞与の金額を500万円から250万円に減額することを決議する一方、この減額について、法令69条3項の変更届出期限までに事前確定届出給与に関する変更届出をしなかったのであるから、冬季賞与を含むすべての役員賞与が事前確定届出給与に該当しないこととなり、損金不算入となると結論付けている。

>いわゆる“枠取り”の問題点を指摘、納税者の主張は採用できず
 川神裁判長は、支給が届出額どおりか否かを個々の支給ごとに判定すべきとした場合の問題点を指摘し、納税者の主張を斥けている。具体的には、事前の定めに複数回にわたる支給を定めておき、その後、個々の支給を事前の定めのとおりにするか否かを選択して損金の額をほしいままに決定し、法人の所得の金額を殊更に少なくすることにより、法人税の課税を回避するなどの弊害が生ずるおそれがないということはできないとしている。

【表】当事者の主張(一の職務執行期間中に複数回にわたる支給がされた場合の取扱い)
被告側(国側) 原告側(納税者側)
 会社法の定め(役員は株主総会決議によって選任される(329条1項)など)によれば、役員給与は一般的に定時総会から次の定時総会までの間の職務執行期間中の役員の職務執行の対価であるということができる。
 そうすると、役員給与について一の職務執行期間中に複数回にわたる支給がされた場合には、その役員給与の支給が届出がされた事前の定めのとおりにされたか否かは職務執行期間を1つの単位として判定すべきものであって、その役員給与は、職務執行期間に係るすべての支給が事前の定めのとおりにされたときに初めて事前確定届出給与に該当する。
 原告企業は、平成20年11月26日に開催された取締役会において、役員に対して支給する同月27日から平成21年11月26日までの職務執行期間に係る冬季および夏季の賞与を各季500万円定め、届出期限までに事前確定届出給与に関する届出をしたところ、冬季賞与の支給は所轄税務署長に届出がされた事前の定めのとおりにしたが、夏季賞与の支給は事前の定めのとおりにしなかったのであるから、冬季賞与を含む各役員給与は事前確定届出給与に該当しない。
 役員給与について一の職務執行期間中に複数回にわたる支給がされた場合には、その役員給与の支給が届出がされた事前の定めのとおりにされたか否かは、個々の支給ごとに判定すべきものであって、事前の定めのとおりに支給された役員給与は事前確定届出給与に該当するというべきである。
 被告は、役員給与は一般的に定時総会から次の定時総会までの間の職務執行期間中の役員の職務執行の対価であると主張する。
 しかし、定時総会から次の定時総会までの間を職務執行期間とする例だけではなく、事業年度単位、半期単位、四半期単位または法人独自の期間を職務執行期間とする例が少なからずあり、職務執行期間を半期ごと、四半期ごとに区分し、各区分ごとの対価として役員給与を支給する例もあるのであって、一般的ではない場合を排除する理由は明らかではない。また、仮に役員給与が定時総会から次の定時総会までの間の職務執行期間中の役員の職務執行の対価であるということができるとしても、論理必然的に、役員給与の支給が届出がされた事前の定めのとおりにされたか否かは職務執行期間を1つの単位として判定すべきものであることとなるわけではない。

Column 翌期支給額のみ届出と異なるケース、届出どおりの当期支給額は損金OK
 国税庁の質疑応答事例では、届出どおりに支給されたか否かは職務執行期間を1つの単位として判定することとされている。これによると、1回目の支給は届出どおりであっても2回目の支給が届出額と異なっている場合は、1回目の支給額を含めた全額が損金不算入とされているところだが、質疑応答事例では、支給日が事業年度をまたぐ一定のケースについては、損金算入を認める取扱いとしている(参照)。



【照会要旨】
 当社(年1回3月決算の同族会社)では、X年6月26日の定時株主総会において、取締役Aに対して、定期同額給与のほかに、同年12月25日及びX+1年6月25日にそれぞれ300万円を支給する旨の定めを決議し、届出期限までに所轄税務署長へ届け出ました。この定めに従い、当社は、X年12月25日には300万円を支給しましたが、X+1年6月25日には、資金繰りの都合がつかなくなったため、50万円しか支給しませんでした。この場合、X年12月25日に届出どおり支給した役員給与についても、損金の額に算入されないこととなるのでしょうか。
【回答要旨】
 3月決算法人が当該事業年度(X+1年3月期)中は定めどおりに支給したものの、翌事業年度(X+2年3月期)において定めどおりに支給しなかった場合は、その支給しなかったことにより直前の事業年度(X+1年3月期)の課税所得に影響を与えるようなものではないことから、翌事業年度(X+2年3月期)に支給した給与の額のみについて損金不算入と取り扱っても差し支えないものと考えられます。

(編集部注)質疑応答事例「定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)」から一部抜粋

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