解説記事2013年03月04日 【第2特集】 相続税の取得費加算特例Q&A(2013年3月4日号・№489)
適用税率が異なる土地の譲渡、加算額任意調整の可否etc
相続税の取得費加算特例Q&A
相続税の取得費加算特例は、相続税の課税対象となった相続財産の譲渡が相続直後に行われる場合に相続税と譲渡所得税が相次いで課されることの負担調整を目的とした制度。会計検査院が相続土地等に係る当該特例で意見表示するなど、改正の有無も注目されたが、25年度改正では見直しは行われない方向。そこで、特集では、取得費加算特例における、適用税率が異なる2以上の土地等の譲渡がある場合の適用、取得費加算額を任意に調整することの可否等の取り扱いを確認する。
Q
代償金を支払って取得した相続財産を譲渡した場合の措置法39条の計算 Aは、平成22年に死亡した父から相続により取得した土地および建物の一部を、平成24年に譲渡したことから、所得税の確定申告において、措置法39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》の適用を考えています。
Aは、遺産分割において、代償分割の方法により相続人B(Aの弟)に代償金を支払って相続財産を取得していますが、次の場合、Aの譲渡所得の金額はいくらになりますか。
なお、Aは、これまでに相続財産を譲渡していません。
A
Aの平成24年分の所得税の譲渡所得の金額は、42,398,333円になります。 代償分割があった場合には、相続税の課税価格を計算する際にその者の相続により取得した現物財産の価額から代償債務の額を控除して計算(相基通11の2-9)することから、取得費に加算する相続税相当額の計算に当たって何ら調整しないときは、取得費に加算する相続税相当額がその者の相続税額を上回るという不合理な事態※が生じることになります。
※ ご質問の場合、代償債務を調整しないと確定相続税額に90,000千円(土地の価額)/60,000千円(課税価格)を乗じることとなり、取得費に加算する相続税相当額が確定相続税額を上回ることになります。
そこで、措通39-14《代償金を支払って取得した相続財産を譲渡した場合の取得費加算額の計算》において、次の算式により計算する旨が定められています。
したがって、Aの譲渡した土地および建物の取得費加算額および譲渡所得の金額は、次のように計算されます。
1 譲渡した土地の取得費加算額の計算 上記①の算式から、譲渡した土地の取得費加算額は次のようになります。
2 譲渡した建物の取得費加算額の計算 上記②の算式から、譲渡した建物の取得費加算額は次のようになります。
※ 取得費加算額の対象となるのは、土地の譲渡とは異なり、譲渡した建物に対応する相続税額のみであることに留意が必要です。
3 譲渡所得金額の計算 上記1および2から、Aの譲渡所得の金額は次のとおりとなります。
Q
適用税率が異なる2以上の土地等の譲渡がある場合の措置法39条の適用について Aは、平成22年に死亡した父から土地Xおよび土地Yを相続しましたが、土地Xを平成24年3月に、土地Yを同年5月にそれぞれ譲渡したことから、平成24年分の所得税の申告において取得費加算の特例の適用を考えています。
なお、土地Xの譲渡については、措置法31条の2《優良住宅の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》を適用することができますが、この場合の土地Xおよび土地Yの譲渡に係る取得費加算の特例の適用に当たって、どのように計算したらよいのでしょうか。
A
原則として、所基通36-12《山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期》に定める譲渡土地等の収入すべき時期の順に取得費加算の特例を適用します。
ただし、納税者がこの順序と異なる順序で取得費加算の特例を適用している場合は、その申告が認められます。 同一年分において適用税率が異なる2以上の資産の譲渡があった場合における措置法39条の規定の適用に当たっては、同条の取得費に加算する金額の計算方法は規定されていませんが、措通39-9《相続等により取得した土地等の譲渡が2以上ある場合》に次のように定められています。
1 相続等により取得した土地等の譲渡が2以上ある場合には、所得税基本通達36-12に定める収入すべき時期の順に順次適用する。
2 一の譲渡に係る譲渡所得のうちに、長期譲渡所得の課税の特例(措置法31条)、優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(31条の2)、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(31条の3)の適用対象となる譲渡所得と短期譲渡所得の課税の特例(32条)の適用対象となる譲渡所得とがある場合には、短期譲渡所得の課税の特例、長期譲渡所得の課税の特例、優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例の適用対象となる譲渡所得の順に適用する。
3 納税者が上記1および2の適用順序と異なる順序で適用をした場合には、それを認める。
したがって、ご質問の場合の取得費加算の特例の適用順序は、上記1により、土地Xの譲渡に係る譲渡所得、土地Yの譲渡に係る譲渡所得の順に適用するのが原則となりますが、納税者が取得費加算の特例の適用順序を、先に税率の高い一般長期譲渡所得の対象である土地Yの譲渡に係る譲渡所得から適用し、次に優良住宅の造成等のために譲渡した場合の特例の適用対象である土地Xの譲渡に係る譲渡所得から適用することを選択した場合には、上記3により、納税者が選択した取得費加算の特例の適用順序が認められます。
Q
相続等により取得した土地等を同一年中に2以上譲渡した場合の措置法39条の適用について Aは、平成23年に死亡した父から相続により取得した土地X、土地Yおよび土地Zのうち、土地Xを平成24年11月、土地Yを同年12月に譲渡したことから、取得費加算の特例を適用することを考えています。なお、Aは、土地Zについても平成25年2月に譲渡しており、Aが相続等により取得した土地等を譲渡した場合における取得費に加算できる相続税額の総額は6,000千円です。
そこで、Aは土地X、土地Yおよび土地Zの譲渡に係る譲渡所得の金額が次のとおりであることから、平成24年分の所得税の確定申告で土地Yの譲渡に係る譲渡所得についてのみ取得費加算の特例を適用し、平成25年分の所得税の確定申告で土地Zの譲渡に係る譲渡所得について取得費加算の特例を適用することを考えていますが、このような申告は認められるでしょうか。
A
平成24年分の譲渡所得の金額の計算上、土地Yの譲渡に係る譲渡所得についてのみ取得費加算の特例を適用する申告は認められます。
なお、平成24年分に取得費に加算しきれなかった取得費加算額1,000千円については、平成25年分の土地Zの譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、取得費として加算することができます。 措置法39条の規定の適用に当たっては、同条2項および措規18条の18第3項において、取得費加算の特例を受けようとする年分の確定申告書に適用を受けようとする旨を記載し、相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書等の添付がある場合に限り適用する旨が規定されています。
また、措通39-9注意書きには、取得費加算の特例の適用対象となる土地等の譲渡が同一年中に2以上ある場合は、取得費加算の特例の適用を受ける旨の申告をした土地等にのみ同特例の適用がある旨定められています。
このことからすると、同一年中に相続等により取得した土地等を2以上譲渡している場合、取得費加算の特例は、その譲渡等のうち措置法39条1項の規定の適用を受ける旨の申告をした土地等について適用があり、譲渡した土地等のうち同条の規定の適用を受ける旨の記載のない土地等にまで適用があるものではありません。
したがって、ご質問の場合、Aは、土地Xの譲渡について取得費加算の特例の適用を受けないことから、平成24年分の譲渡所得の金額の計算上、土地Yの譲渡に係る譲渡所得についてのみ取得費加算の特例を適用することができます。
なお、平成24年分で取得費に加算しきれなかった取得費加算額1,000千円(取得費に加算できる相続税額の総額6,000千円のうち平成24年に土地Yの譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、取得費に加算した取得費加算額5,000千円を控除した額)については、平成25年分の土地Zの譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、取得費として加算することができます。
Q
措置法39条の規定による取得費加算額を任意に調整することの可否 Aは、平成23年に死亡した父から相続により取得した土地Xおよび土地Yのうち、土地Xを平成24年11月に譲渡したことから、取得費加算の特例を適用することを考えています。なお、Aは、土地Yについても平成25年2月に譲渡しており、Aが相続等により取得した土地等を譲渡した場合における取得費に加算できる相続税額の総額は10,000千円です。
そこで、Aは土地Xおよび土地Yの譲渡に係る譲渡所得金額が次のとおりであることから、平成24年分の譲渡所得の金額の計算上、取得費に加算する取得費加算額を次のように調整して申告することは可能でしょうか。
A
措置法39条の規定の適用に当たっては、任意に相続税の取得費加算額を調整することは認められません。
したがって、ご質問の場合、平成24年分および平成25年分の両年に取得費加算の特例を適用する場合における譲渡所得の金額は次のとおりとなります。
措置法39条1項は、「……同項に規定する取得費は、当該取得費に相当する金額に当該相続税額のうち政令で定める金額を加算した金額とする」と規定しており、措令25条の16第2項で「法39条1項に規定する政令で定める金額は、……当該各号に定める金額とする。ただし、当該各号に定める金額が、当該各号に掲げる資産の譲渡所得に係る収入金額から同項の規定の適用がないものとした場合の当該資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除した残額に相当する金額を超える場合には、その残額に相当する金額とし、当該収入金額が当該合計額に満たない場合には、当該各号に定める金額は、ないものとする」と規定しています。
この規定からすると、相続税の取得費加算額は、譲渡資産の譲渡所得の額に基づき決まることから、取得費に加算する金額の一部だけを任意に加算することができず、そして、その加算しなかった相続税の取得費加算額を翌年に繰り越すことはできないこととなります。
Q
相続により取得した株式と同一銘柄の株式を所有していた場合に、これらの株式の一部を譲渡したときの措置法39条の規定の適用について Aは、平成15年8月にX株式20,000株を14,000千円で購入し所有していましたが、平成22年10月にAの父が死亡したことに伴い、同人が所有していたX株式10,000株を相続したため、AはX株式を合計30,000株所有していました。
その後、平成24年3月にX株式20,000株をY株式会社に20,000千円(1株当たりの単価1,000円)で売却しましたが、その20,000株のうち10,000株について、平成24年分の所得税の確定申告における譲渡所得の金額の計算上、取得費加算の特例を適用することができますか。また、取得費加算の特例を適用することができる場合、取得費として加算できる金額はいくらになりますか。
なお、Aが相続により取得したX株式は、父が平成18年8月に8,000千円で購入したものであり、父の相続に係るAの相続税の申告(期限内申告)の内容は次のとおりです。
A
Aの譲渡所得の金額の計算上、取得費加算の特例を適用することができます。
また、取得費に加算できる相続税額は2,660千円となります。
1 取得費加算の特例の適用について 相続により取得した資産が株式である場合、相続人がその固有財産として同一銘柄の株式を所有しているときには、これらの株式が渾然一体となり、その同一銘柄の株式の一部を譲渡した場合には、いずれの株式を譲渡したのか判然としないため、取得費加算の特例の適用に当たっては、取得時期が古いものから順次譲渡したものとして取り扱うのか、または相続により取得した株式から優先的に譲渡したものとして取り扱うのか疑問が生じるところです。
そこで、措通39-20《同一銘柄の株式を譲渡した場合の適用関係》では、相続により株式を取得した個人が、その株式と同一銘柄の株式を所有している場合において、措置法39条1項に規定する特例適用期間内にこれらの株式の一部を譲渡した場合には、その相続により取得した株式の譲渡からなるものとして、同項の規定を適用して差し支えない旨定められています。
したがって、ご質問の場合においては、Aは相続によりX株式10,000株を取得し、A自身が購入したX株式20,000株も所有していますが、措置法39条1項の規定の特例適用期間内にX株式の一部である20,000株を譲渡しているので、その譲渡は、相続により取得した10,000株の譲渡からなるものとして取得費加算の特例を適用することができます。
2 X株式の売却による譲渡所得の金額について
(1)譲渡所得の金額の計算上控除する取得費の計算 相続により取得した資産の取得費は相続した者に引き継がれ(所法60①一)、また、2回以上にわたって取得した同一銘柄の株式の譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は、総平均法に準ずる方法によって算出した1株当たりの金額となるため(所法48③、所令118①)、本件における1株当たりのX株式の取得費の金額は次のとおりとなります。
(2)取得費加算の特例の適用による取得費加算額の計算
相続により取得した株式を譲渡した場合の取得費加算額は、確定相続税額に譲渡した者の課税価格のうち、課税価格に算入された譲渡した株式の相続税評価額の占める割合を乗じて計算した金額となるため、本件においては次のとおりとなります(措令25の16②二)。
(3)X株式の売却による譲渡所得の金額の計算
上記(2)のとおり取得費加算額を算出した場合であっても、譲渡所得の金額の計算上取得費に加算することができる相続税額は、相続した株式の株数に対応する譲渡益が限度となるので(措令25の16②)、Aの譲渡所得の金額の計算において取得費に加算できる金額およびAの譲渡所得は、次のとおりとなります。
Q
土地および建物を譲渡した場合の措置法39条の適用限度額
(一方が損失の場合) Aは、平成22年に死亡した父から相続により取得した土地および建物を、平成23年に譲渡したことから、平成23年分の所得税の確定申告において、取得費加算の特例を適用し、次のとおり申告しました。
この場合、Aが申告した平成23年分の譲渡所得の金額の計算において、取得費加算の特例が適正に計算されていますか。
A
Aが申告した平成23年分の譲渡所得の金額の計算上、取得費加算の特例を適用した23,000千円のうち建物に係る取得費加算額3,000千円については、取得費に加算することはできません。
したがって、Aの平成23年分の譲渡所得の金額は、29,000千円となります。 措置法39条1項、措令25条の16第2項の規定からすると(17頁参照)、措置法39条の規定による譲渡所得の計算上、取得費に加算することができる相続税額は、譲渡資産の譲渡益が限度となります。
また、「当該各号に定める資産」の譲渡益は、次の理由から譲渡資産ごとに算定することとなります。
1 措通39-9は、土地等の譲渡に係る譲渡所得のうちに適用税率の異なる譲渡所得がある場合のその譲渡所得等の取得費に加算する相続税相当額は、税率の高い譲渡所得の順に加算することとし、2以上の資産がある場合の取得費加算の特例の適用はそれぞれの資産ごとに任意に適用すると定めていること。
2 措通39-11は、譲渡所得に加算する相続税相当額は、それぞれの資産ごとに計算することとし、土地等以外の資産について、譲渡した資産のうちに譲渡損失が生じた資産がある場合には、譲渡損失の生じた資産に対応する部分の相続税額を他の譲渡資産の取得費に加算することはできないと定めていること。
ご質問の場合、譲渡した建物の譲渡収入金額(20,000千円)が建物の取得費(25,000千円)および譲渡費用(750千円)の合計額に満たないことから、建物の譲渡について取得費加算の特例の適用を受けることはできず、Aが申告した平成23年分の譲渡所得の金額の計算上、取得費加算の特例を適用した金額23,000千円のうち建物に係る取得費加算額3,000千円については、取得費に加算することができません。
したがって、Aの平成23年分の譲渡所得の金額は次のとおりとなります。
Q
2人以上から相続により取得した物件を譲渡した場合の措置法39条の適用について Aは、父および母が所有(1/2ずつ所有)していた土地を、父から平成22年、母から平成23年に相続により取得し、その土地を平成24年に譲渡したことから、取得費加算の特例を適用することを考えています。
Aの譲渡内容は次のとおりであり、また、Aが相続により取得した土地等を譲渡した場合における取得費に加算できる相続税額は、父が15,000千円、母が23,000千円です。
この場合、Aの譲渡所得の金額はいくらになりますか。
A
Aの平成24年分の譲渡所得の金額は、2,500千円となります。 取得費加算の特例は、相続または遺贈により取得した財産で、相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産を譲渡した場合に適用することができ、また、譲渡所得の金額の計算上取得費に加算することができる相続税額は、譲渡資産の譲渡益が限度となります。
したがって、譲渡所得の金額の計算上取得費に加算できる相続税額は、それぞれの被相続人に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産ごとに、その資産の譲渡益を限度として計算することから、ご質問のAの譲渡所得の金額の計算は次のとおり、父から相続した部分と母から相続した部分とを分けて計算することとなります。
相続税の取得費加算特例Q&A
相続税の取得費加算特例は、相続税の課税対象となった相続財産の譲渡が相続直後に行われる場合に相続税と譲渡所得税が相次いで課されることの負担調整を目的とした制度。会計検査院が相続土地等に係る当該特例で意見表示するなど、改正の有無も注目されたが、25年度改正では見直しは行われない方向。そこで、特集では、取得費加算特例における、適用税率が異なる2以上の土地等の譲渡がある場合の適用、取得費加算額を任意に調整することの可否等の取り扱いを確認する。
Q
代償金を支払って取得した相続財産を譲渡した場合の措置法39条の計算 Aは、平成22年に死亡した父から相続により取得した土地および建物の一部を、平成24年に譲渡したことから、所得税の確定申告において、措置法39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》の適用を考えています。
Aは、遺産分割において、代償分割の方法により相続人B(Aの弟)に代償金を支払って相続財産を取得していますが、次の場合、Aの譲渡所得の金額はいくらになりますか。
なお、Aは、これまでに相続財産を譲渡していません。

A
Aの平成24年分の所得税の譲渡所得の金額は、42,398,333円になります。 代償分割があった場合には、相続税の課税価格を計算する際にその者の相続により取得した現物財産の価額から代償債務の額を控除して計算(相基通11の2-9)することから、取得費に加算する相続税相当額の計算に当たって何ら調整しないときは、取得費に加算する相続税相当額がその者の相続税額を上回るという不合理な事態※が生じることになります。
※ ご質問の場合、代償債務を調整しないと確定相続税額に90,000千円(土地の価額)/60,000千円(課税価格)を乗じることとなり、取得費に加算する相続税相当額が確定相続税額を上回ることになります。
そこで、措通39-14《代償金を支払って取得した相続財産を譲渡した場合の取得費加算額の計算》において、次の算式により計算する旨が定められています。

したがって、Aの譲渡した土地および建物の取得費加算額および譲渡所得の金額は、次のように計算されます。
1 譲渡した土地の取得費加算額の計算 上記①の算式から、譲渡した土地の取得費加算額は次のようになります。

2 譲渡した建物の取得費加算額の計算 上記②の算式から、譲渡した建物の取得費加算額は次のようになります。

※ 取得費加算額の対象となるのは、土地の譲渡とは異なり、譲渡した建物に対応する相続税額のみであることに留意が必要です。
3 譲渡所得金額の計算 上記1および2から、Aの譲渡所得の金額は次のとおりとなります。

Q
適用税率が異なる2以上の土地等の譲渡がある場合の措置法39条の適用について Aは、平成22年に死亡した父から土地Xおよび土地Yを相続しましたが、土地Xを平成24年3月に、土地Yを同年5月にそれぞれ譲渡したことから、平成24年分の所得税の申告において取得費加算の特例の適用を考えています。
なお、土地Xの譲渡については、措置法31条の2《優良住宅の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》を適用することができますが、この場合の土地Xおよび土地Yの譲渡に係る取得費加算の特例の適用に当たって、どのように計算したらよいのでしょうか。
A
原則として、所基通36-12《山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期》に定める譲渡土地等の収入すべき時期の順に取得費加算の特例を適用します。
ただし、納税者がこの順序と異なる順序で取得費加算の特例を適用している場合は、その申告が認められます。 同一年分において適用税率が異なる2以上の資産の譲渡があった場合における措置法39条の規定の適用に当たっては、同条の取得費に加算する金額の計算方法は規定されていませんが、措通39-9《相続等により取得した土地等の譲渡が2以上ある場合》に次のように定められています。
1 相続等により取得した土地等の譲渡が2以上ある場合には、所得税基本通達36-12に定める収入すべき時期の順に順次適用する。
2 一の譲渡に係る譲渡所得のうちに、長期譲渡所得の課税の特例(措置法31条)、優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(31条の2)、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(31条の3)の適用対象となる譲渡所得と短期譲渡所得の課税の特例(32条)の適用対象となる譲渡所得とがある場合には、短期譲渡所得の課税の特例、長期譲渡所得の課税の特例、優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例の適用対象となる譲渡所得の順に適用する。
3 納税者が上記1および2の適用順序と異なる順序で適用をした場合には、それを認める。
したがって、ご質問の場合の取得費加算の特例の適用順序は、上記1により、土地Xの譲渡に係る譲渡所得、土地Yの譲渡に係る譲渡所得の順に適用するのが原則となりますが、納税者が取得費加算の特例の適用順序を、先に税率の高い一般長期譲渡所得の対象である土地Yの譲渡に係る譲渡所得から適用し、次に優良住宅の造成等のために譲渡した場合の特例の適用対象である土地Xの譲渡に係る譲渡所得から適用することを選択した場合には、上記3により、納税者が選択した取得費加算の特例の適用順序が認められます。
Q
相続等により取得した土地等を同一年中に2以上譲渡した場合の措置法39条の適用について Aは、平成23年に死亡した父から相続により取得した土地X、土地Yおよび土地Zのうち、土地Xを平成24年11月、土地Yを同年12月に譲渡したことから、取得費加算の特例を適用することを考えています。なお、Aは、土地Zについても平成25年2月に譲渡しており、Aが相続等により取得した土地等を譲渡した場合における取得費に加算できる相続税額の総額は6,000千円です。
そこで、Aは土地X、土地Yおよび土地Zの譲渡に係る譲渡所得の金額が次のとおりであることから、平成24年分の所得税の確定申告で土地Yの譲渡に係る譲渡所得についてのみ取得費加算の特例を適用し、平成25年分の所得税の確定申告で土地Zの譲渡に係る譲渡所得について取得費加算の特例を適用することを考えていますが、このような申告は認められるでしょうか。

A
平成24年分の譲渡所得の金額の計算上、土地Yの譲渡に係る譲渡所得についてのみ取得費加算の特例を適用する申告は認められます。
なお、平成24年分に取得費に加算しきれなかった取得費加算額1,000千円については、平成25年分の土地Zの譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、取得費として加算することができます。 措置法39条の規定の適用に当たっては、同条2項および措規18条の18第3項において、取得費加算の特例を受けようとする年分の確定申告書に適用を受けようとする旨を記載し、相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書等の添付がある場合に限り適用する旨が規定されています。
また、措通39-9注意書きには、取得費加算の特例の適用対象となる土地等の譲渡が同一年中に2以上ある場合は、取得費加算の特例の適用を受ける旨の申告をした土地等にのみ同特例の適用がある旨定められています。
このことからすると、同一年中に相続等により取得した土地等を2以上譲渡している場合、取得費加算の特例は、その譲渡等のうち措置法39条1項の規定の適用を受ける旨の申告をした土地等について適用があり、譲渡した土地等のうち同条の規定の適用を受ける旨の記載のない土地等にまで適用があるものではありません。
したがって、ご質問の場合、Aは、土地Xの譲渡について取得費加算の特例の適用を受けないことから、平成24年分の譲渡所得の金額の計算上、土地Yの譲渡に係る譲渡所得についてのみ取得費加算の特例を適用することができます。
なお、平成24年分で取得費に加算しきれなかった取得費加算額1,000千円(取得費に加算できる相続税額の総額6,000千円のうち平成24年に土地Yの譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、取得費に加算した取得費加算額5,000千円を控除した額)については、平成25年分の土地Zの譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、取得費として加算することができます。
Q
措置法39条の規定による取得費加算額を任意に調整することの可否 Aは、平成23年に死亡した父から相続により取得した土地Xおよび土地Yのうち、土地Xを平成24年11月に譲渡したことから、取得費加算の特例を適用することを考えています。なお、Aは、土地Yについても平成25年2月に譲渡しており、Aが相続等により取得した土地等を譲渡した場合における取得費に加算できる相続税額の総額は10,000千円です。
そこで、Aは土地Xおよび土地Yの譲渡に係る譲渡所得金額が次のとおりであることから、平成24年分の譲渡所得の金額の計算上、取得費に加算する取得費加算額を次のように調整して申告することは可能でしょうか。

A
措置法39条の規定の適用に当たっては、任意に相続税の取得費加算額を調整することは認められません。
したがって、ご質問の場合、平成24年分および平成25年分の両年に取得費加算の特例を適用する場合における譲渡所得の金額は次のとおりとなります。

措置法39条1項は、「……同項に規定する取得費は、当該取得費に相当する金額に当該相続税額のうち政令で定める金額を加算した金額とする」と規定しており、措令25条の16第2項で「法39条1項に規定する政令で定める金額は、……当該各号に定める金額とする。ただし、当該各号に定める金額が、当該各号に掲げる資産の譲渡所得に係る収入金額から同項の規定の適用がないものとした場合の当該資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除した残額に相当する金額を超える場合には、その残額に相当する金額とし、当該収入金額が当該合計額に満たない場合には、当該各号に定める金額は、ないものとする」と規定しています。
この規定からすると、相続税の取得費加算額は、譲渡資産の譲渡所得の額に基づき決まることから、取得費に加算する金額の一部だけを任意に加算することができず、そして、その加算しなかった相続税の取得費加算額を翌年に繰り越すことはできないこととなります。
Q
相続により取得した株式と同一銘柄の株式を所有していた場合に、これらの株式の一部を譲渡したときの措置法39条の規定の適用について Aは、平成15年8月にX株式20,000株を14,000千円で購入し所有していましたが、平成22年10月にAの父が死亡したことに伴い、同人が所有していたX株式10,000株を相続したため、AはX株式を合計30,000株所有していました。
その後、平成24年3月にX株式20,000株をY株式会社に20,000千円(1株当たりの単価1,000円)で売却しましたが、その20,000株のうち10,000株について、平成24年分の所得税の確定申告における譲渡所得の金額の計算上、取得費加算の特例を適用することができますか。また、取得費加算の特例を適用することができる場合、取得費として加算できる金額はいくらになりますか。
なお、Aが相続により取得したX株式は、父が平成18年8月に8,000千円で購入したものであり、父の相続に係るAの相続税の申告(期限内申告)の内容は次のとおりです。

A
Aの譲渡所得の金額の計算上、取得費加算の特例を適用することができます。
また、取得費に加算できる相続税額は2,660千円となります。
1 取得費加算の特例の適用について 相続により取得した資産が株式である場合、相続人がその固有財産として同一銘柄の株式を所有しているときには、これらの株式が渾然一体となり、その同一銘柄の株式の一部を譲渡した場合には、いずれの株式を譲渡したのか判然としないため、取得費加算の特例の適用に当たっては、取得時期が古いものから順次譲渡したものとして取り扱うのか、または相続により取得した株式から優先的に譲渡したものとして取り扱うのか疑問が生じるところです。
そこで、措通39-20《同一銘柄の株式を譲渡した場合の適用関係》では、相続により株式を取得した個人が、その株式と同一銘柄の株式を所有している場合において、措置法39条1項に規定する特例適用期間内にこれらの株式の一部を譲渡した場合には、その相続により取得した株式の譲渡からなるものとして、同項の規定を適用して差し支えない旨定められています。
したがって、ご質問の場合においては、Aは相続によりX株式10,000株を取得し、A自身が購入したX株式20,000株も所有していますが、措置法39条1項の規定の特例適用期間内にX株式の一部である20,000株を譲渡しているので、その譲渡は、相続により取得した10,000株の譲渡からなるものとして取得費加算の特例を適用することができます。
2 X株式の売却による譲渡所得の金額について
(1)譲渡所得の金額の計算上控除する取得費の計算 相続により取得した資産の取得費は相続した者に引き継がれ(所法60①一)、また、2回以上にわたって取得した同一銘柄の株式の譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は、総平均法に準ずる方法によって算出した1株当たりの金額となるため(所法48③、所令118①)、本件における1株当たりのX株式の取得費の金額は次のとおりとなります。



Q
土地および建物を譲渡した場合の措置法39条の適用限度額
(一方が損失の場合) Aは、平成22年に死亡した父から相続により取得した土地および建物を、平成23年に譲渡したことから、平成23年分の所得税の確定申告において、取得費加算の特例を適用し、次のとおり申告しました。


この場合、Aが申告した平成23年分の譲渡所得の金額の計算において、取得費加算の特例が適正に計算されていますか。
A
Aが申告した平成23年分の譲渡所得の金額の計算上、取得費加算の特例を適用した23,000千円のうち建物に係る取得費加算額3,000千円については、取得費に加算することはできません。
したがって、Aの平成23年分の譲渡所得の金額は、29,000千円となります。 措置法39条1項、措令25条の16第2項の規定からすると(17頁参照)、措置法39条の規定による譲渡所得の計算上、取得費に加算することができる相続税額は、譲渡資産の譲渡益が限度となります。
また、「当該各号に定める資産」の譲渡益は、次の理由から譲渡資産ごとに算定することとなります。
1 措通39-9は、土地等の譲渡に係る譲渡所得のうちに適用税率の異なる譲渡所得がある場合のその譲渡所得等の取得費に加算する相続税相当額は、税率の高い譲渡所得の順に加算することとし、2以上の資産がある場合の取得費加算の特例の適用はそれぞれの資産ごとに任意に適用すると定めていること。
2 措通39-11は、譲渡所得に加算する相続税相当額は、それぞれの資産ごとに計算することとし、土地等以外の資産について、譲渡した資産のうちに譲渡損失が生じた資産がある場合には、譲渡損失の生じた資産に対応する部分の相続税額を他の譲渡資産の取得費に加算することはできないと定めていること。
ご質問の場合、譲渡した建物の譲渡収入金額(20,000千円)が建物の取得費(25,000千円)および譲渡費用(750千円)の合計額に満たないことから、建物の譲渡について取得費加算の特例の適用を受けることはできず、Aが申告した平成23年分の譲渡所得の金額の計算上、取得費加算の特例を適用した金額23,000千円のうち建物に係る取得費加算額3,000千円については、取得費に加算することができません。
したがって、Aの平成23年分の譲渡所得の金額は次のとおりとなります。

Q
2人以上から相続により取得した物件を譲渡した場合の措置法39条の適用について Aは、父および母が所有(1/2ずつ所有)していた土地を、父から平成22年、母から平成23年に相続により取得し、その土地を平成24年に譲渡したことから、取得費加算の特例を適用することを考えています。
Aの譲渡内容は次のとおりであり、また、Aが相続により取得した土地等を譲渡した場合における取得費に加算できる相続税額は、父が15,000千円、母が23,000千円です。

この場合、Aの譲渡所得の金額はいくらになりますか。
A
Aの平成24年分の譲渡所得の金額は、2,500千円となります。 取得費加算の特例は、相続または遺贈により取得した財産で、相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産を譲渡した場合に適用することができ、また、譲渡所得の金額の計算上取得費に加算することができる相続税額は、譲渡資産の譲渡益が限度となります。
したがって、譲渡所得の金額の計算上取得費に加算できる相続税額は、それぞれの被相続人に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産ごとに、その資産の譲渡益を限度として計算することから、ご質問のAの譲渡所得の金額の計算は次のとおり、父から相続した部分と母から相続した部分とを分けて計算することとなります。

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