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解説記事2013年04月29日 【ニュース特集】 祖父から孫への信託贈与、節税スキーム巡り逆転判決(2013年4月29日号・№497)

乳児の生活の本拠で裁判所が判断基準を示す
祖父から孫への信託贈与、節税スキーム巡り逆転判決

 祖父から孫への海外信託を利用した相続税対策スキームを巡る課税処分の可否が争われていた裁判で名古屋高裁(林道春裁判長)は4月3日、国側逆転勝訴の判決を言い渡した(平成23年(行コ)第36号)。本件では、納税者が改正前相続税法4条1項にいう「受益者」に当たるか否かが主要な争点とされていたが、控訴審判決では、信託設定当時、生後約8か月の乳児であった米国籍のみをもつ納税者(孫)の住所(生活の本拠)が米国にあったか否かについても注目すべき判断が下された。特集では、信託の「受益者」該当性や乳児の生活の本拠など、資産税実務に多大な影響を与える重要な争点に判断を下した控訴審判決の内容を紹介する。

原審、納税者は利益を現に有する地位にないため課税処分は違法
 今回問題となっていた海外信託を利用した相続税対策の節税スキームは、のようなものだ。

 具体的にみると、納税者の祖父(居住者)は、米国ニュージャージー州法に準拠し、自らを「委託者」、信託銀行を「受託者」、米国籍のみをもつ納税者(当時生後約8か月)を「受益者」とする信託契約を締結。信託財産として米国債500万ドルを信託していた。受託者である信託銀行は、本件信託契約に従い、納税者の父を被保険者とする生命保険契約を複数の保険会社と締結し、保険料として合計440万ドルを支払っていた。
 本件スキームについて課税当局は、納税者の祖父が納税者を受益者とする信託を設定したことが、祖父から孫への信託財産の贈与に当たると判断し、納税者に対して約2億7,000万円の贈与税決定処分を行っていた。
「受益者」該当性で決着、住所の判断に至らず  平成19年改正前の相続税法4条1項(改正後は同法9条の2①)では、信託行為があった場合において、委託者以外の者が受益者であるときは、信託設定時に受益者が受益権を委託者から贈与により取得したものとみなす旨を規定していた。また、当時の相続税法では、外国籍をもつ非居住者(国外に住所がある者)が居住者から国外財産を相続または贈与により取得した場合、相続・贈与税が課税されないこととされていた(コラム参照)。

>コラム 外国籍を利用した相続・贈与税回避スキーム、25年度改正で封じ込め
 平成25年度税制改正では、本件のような外国籍を利用した相続・贈与税回避スキームの封じ込めを目的とした改正が行われている。内容は、外国籍をもつ受贈者(相続人)が日本国内に住所がある贈与者(被相続人)から取得した国外財産を新たに相続税・贈与税の課税対象とするもの。この改正は、既に平成25年4月1日以後の相続・贈与から適用が始まっている(本誌483号11頁参照)。

 そのため、裁判では、納税者が相続税法4条1項にいう「受益者」に該当するか否か、米国籍をもつ納税者の住所(生活の本拠)は米国にあったか否かなどが主要な争点となった。
 この争点について原審判決(名古屋地裁平成23年3月24日判決・本誌411号40頁参照)では、同法4条1項にいう「受益者」は、信託行為によりその信託による利益を現に有する地位にある者と解するのが相当であるとしていた。
 本件については、本件信託は生命保険へ投資する信託であり、信託設定時において受益者に対して分配可能資産を有していないことなどを指摘。納税者は、信託設定時において信託による利益を現に有する地位にはないと認定し、同法4条1項の「受益者」には当たらないと判断。「受益者」に当たることを前提とした課税処分は、他の争点(納税者の住所は米国にあったか否かなど)を判断するまでもなく違法であるとして、国側全面敗訴の判決を言い渡していた。
 この原審判決を不服とする国側が控訴したため、控訴審では、祖父から孫への信託財産の贈与と認定した課税処分の可否が改めて争われることとなった。

控訴審、利益配分がなくても贈与税の課税は可能
 原審判決が相続税法4条1項が規定する受益者について、「信託行為によりその信託による利益を現に有する地位にある者」と解釈したのに対して、名古屋高裁(民事第2部・林道春裁判長)は、「受託者が他人に信託受益権を与えたときは、現実に信託の利益の配分を受けなくても、そのときにおいて信託受益権を贈与したものとみなして課税するものと解される」との判断を示した。
 そのうえで、納税者が相続税法4条1項にいう「受益者」に当たるためには、本件信託設定時において、納税者が信託受給権および信託監督的機能を有していたことが必要であると指摘。本件信託契約の内容を踏まえると、納税者は、信託受給権および信託監督的権能を有していたと認められるため、同法4条1項にいう「受益者」に当たると結論付けている(表1参照)。


“乳児の生活の本拠”は両親の住所を考慮して総合的に判断すべき
 米国籍をもつ者であっても、その住所が日本国内にあると認定されると、贈与により取得したすべての財産(国内と国外問わず)に対して贈与税が課税される。一方で、当時の相続税法では、米国籍をもつ者の住所が国外であれば、居住者から贈与により取得した国外財産については、贈与税が課税されないこととされていた(国内財産は課税対象)。
 信託契約の設定当時、生後約8か月の乳児であった納税者は、出生後信託設定までの間、米国に183日間滞在する一方、日本には72日間しか滞在していなかった。
 このことから、本件では、米国籍をもつ納税者の住所(生活の本拠)は米国にあったか否かが争われており、控訴審では、この点についても判断が下されることとなった。
高裁、両親の生活の本拠は国内と認定  名古屋高裁は、住所は客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきであるとしたうえで、本件については、信託設定当時、納税者は生後約8か月の乳児で両親に養育されていたのであるから、納税者の住所は両親の生活の本拠がどこにあるかを考慮して総合的に判断すべきであると判示している。
 父親の住所については、信託契約当時、国内の複数の法人の取締役等の重要な地位に就いていたこと、米国での就労先では役職もなく給与も受領していなかったことなどを踏まえると、生活の本拠は国内であることは明らかであったと判断している。
 また、母親の住所については、単に子供に米国籍を取得させるために渡米していたにすぎないことなどを指摘し、米国での生活はいずれも一時的なものであったと認定。居住の継続性、安定性からすれば生活の本拠は国内であったと判断した。
 そのうえで、名古屋高裁は、両親の住所が国内である以上、両親に監護養育されていた納税者の住所についても、信託契約当時は国内であったと認めるのが相当であると結論付けている(表2参照)。

武富士事件では滞在日数を重視も……  納税者の住所が国内か否かが争われた事例としては、いわゆる武富士事件が記憶に新しい。武富士事件では、元会長の長男(納税者)は、約65%の日数を香港で滞在し、約26%の日数を日本国内で滞在していたことなどから、香港が生活の本拠であったと認定されていた。
 今回の事案において納税者側は、米国での滞在日数の多さ(出生から信託設定時までの期間のうち米国に183日滞在、日本には72日滞在)を強調し、住所は米国である旨を主張していた(表3参照)。

【表3】当事者の主張(納税者の住所(生活の本拠)は米国か否かについて)
控訴人(国側) 被控訴人(納税者側)
 一定の場所が納税者の住所か否かは、客観的事実から生活の本拠たる実体を具備しているかによって判定すべきである。
 納税者は、本件信託行為当時、生後8か月の乳児であって自ら独立して生活することは不可能であったこと、母親以外に責任をもって納税者を養育する者は米国にはいなかったことに鑑みると、納税者の生活の本拠は、母親の生活の本拠と同一である。
 そして、母親が、同人や納税者の生活の本拠をどこにするかの重要な決定要素として父親の仕事の本拠を挙げていることなどに照らすと、納税者および母親の住所は、①母親および納税者を扶養している父親の職業の状況、②父親およびその家族の資産の保有状況等の客観的事実から、生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより総合的に判定するのが相当である。
 父親については、その仕事および生活の本拠はいずれも日本にあること、母親は米国で生活する必要がなく、日本に生活の本拠があったと認められること、本件信託行為前後における納税者および母親の米国での滞在は、租税回避の目的で行われたにすぎず、納税者および母親の生活の本拠に関する判断を左右するものではないことに照らせば、納税者の生活の本拠は日本であると認められる。
 相続税法1条の4の「住所」とは、生活の本拠をいうところ、その認定に当たっては、納税者自身の生活状況等が十分に考慮されるべきである。
 納税者は、出生から本件信託行為時までの期間(合計255日)のうち、米国滞在は183日であるのに対し、日本滞在は72日にすぎない。また、日本に一時帰国していた際にも、最初の1週間は母親の実家に寝泊まりし、国内の自宅に移った後も家財道具も使用できない状態であった。他方、米国のマンションは、家財道具も完備されていて長期間の生活が可能であった。
 そして、納税者は、米国籍を有するが日本国籍を有していないため、米国には期間制限なく居住できるが、日本に滞在する際には短期滞在(90日間)しか認められないから、納税者の生活の本拠が日本にあるとはいえない。
 納税者は、本件信託行為当時に生後8か月の幼児であったから、納税者の母親に関する事情を考慮することも合理性はあるが、母親についても、米国に日々の生活の実態があり、日本には住所がなかった。
 母親は、子供たちに米国での教育を受けさせるために米国で居住する意思を持って渡米したものであり、単に出産を目的とし、子供たちに米国籍を取得させるためだけというものではない。

 しかし、名古屋高裁は、通常であれば滞在日数は住所を判断するに当たっての重要な要素の1つであるとする一方で、納税者が出生後間もない乳児であるという特殊な事情がある本件については、両親の生活の本拠を重要な要素として考慮すべきであるとしている。
 また、滞在日数についても、信託行為後は、むしろ日本にいる期間の方が長くなっていることに照らすと、たとえ納税者の米国での滞在日数が日本の滞在日数より長くても、納税者の住所は国内と認めるのが相当であると判断した。
納税者側は上告・上告受理申立て  全面勝訴の原審判決から一転して逆転敗訴となった納税者側は、4月4日付けで上告および上告受理申立てを提起している。
 本件には、生後約8か月の乳児である納税者の住所が米国であるか否かだけでなく、本件信託は「生命保険信託」に該当するか否か、本件信託財産(受益権)の所在地は国内と米国のいずれかであるかなど、資産税実務に大きな影響を与える重要な争点が多数含まれている。最高裁がこれらの争点について、どのような判断を示すのかが注目される。

名古屋高裁、本件信託は「生命保険信託」に該当せず
 控訴審では、本件信託が「生命保険信託」の例外的方法(委託者が金銭または有価証券を信託したうえで、受託者が生命保険契約を締結し、満期または保険事故発生の場合に受託者が得た保険金を受益者のために運用する方法)に当たるかが問題となった。名古屋高裁は、例外的方法に当たる場合は、①受託者に信託財産の運用方法についての裁量がなく、生命保険契約の締結が義務付けられている場合または②委託者の指示に基づいて生命保険契約を締結する場合に限られると指摘。本件信託は、受託者に信託財産の運用に関して広範な権限が認められており、委託者の指示により生保契約が締結されたものでもないから、「生命保険信託」には該当しないと判断した。

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