解説記事2013年06月24日 【税務マエストロ】 平成22年度改正の問題点(2013年6月24日号・№504)
税務マエストロ
税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座
今週のマエストロ&テーマ
平成22年度改正の問題点
#81 熊王征秀(税理士)
略歴 学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税トラブルの傾向と対策』等、著書多数。
現在
東京税理士会会員相談室委員
東京税理士会税務審議部委員
東京地方税理士会税法研究所研究員
日本税務会計学会委員
大原大学院大学准教授
次回のテーマ
#82 日米租税条約改正議定書について
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 品川克己 税制改正や、中国進出企業の増加に伴い、国際課税上のリスクは高まっている。国際課税の第一人者がそのリスクを検証する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
e-mail:ta@lotus21.co.jp
マエストロの解説 居住用賃貸物件の建築時に自販機を設置して課税売上げを発生させ、不正に消費税還付を受ける事例が問題となったことを受け、平成22年度消費税改正では、この不正還付に対する対抗措置として、課税事業者を選択した場合の拘束期間の延長及び課税選択期間中の簡易課税制度の適用禁止などの法改正が行われた。しかし、本改正は、課税選択をした場合の強制適用期間を経過した後に調整対象固定資産を取得した場合には本改正の適用除外となってしまうことから、事実上、抜け穴が用意された改正となってしまっていることに大きな問題がある。また、「課税事業者選択不適用届出書」や「簡易課税制度選択届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合の「当該届出書の提出はなかったものとみなす」という規定についても、実務の現場を悪戯に混乱させるだけのものであり、本改正に伴う大きな弊害と言わざるを得ない。
今回は、平成22年度改正法の問題点を検証する。
1 平成22年度改正法の概要 次の期間中に調整対象固定資産を取得した場合には、その取得日の属する課税期間(仕入れ等の課税期間)から「第三年度の課税期間」までの間は免税事業者になることと簡易課税制度の適用を禁止する。
したがって、「仕入れ等の課税期間」から「第三年度の課税期間」までの間は原則課税が強制適用されることとなり、結果、第三年度の課税期間において「課税売上割合の変動による税額調整」の適用判定が義務付けられることになる。
2 平成22年度改正法の適用時期(平22年改消法附則35)
(1)課税選択の強制適用期間中に固定資産を取得した場合
したがって、施行日前(平成22年3月31日まで)に「課税事業者選択届出書」を提出した事業者は、施行日前に開始する課税期間はもとより、施行日以後に開始する課税期間中に調整対象固定資産を取得した場合であっても改正法の適用はない。
また、「課税事業者選択届出書」の効力は、新規開業等の場合には届出書の提出日の属する課税期間から生ずることとされているので、新規開業の個人事業者が施行日以後に「課税事業者選択届出書」を提出し、平成22年中に課税事業者となって調整対象固定資産を取得するようなケースでは、たとえ届出書の提出が施行日以後になったとしても改正法の適用はない。
(2)資本金1,000万円以上で設立した法人が、基準期間がない事業年度中(課税事業者としての強制適用期間中)に固定資産を取得した場合
したがって、施行日前に設立された法人については、2期目が施行日以後に開始する課税期間に該当し、その課税期間中に調整対象固定資産を取得した場合であっても改正法の適用はない。
ただし、施行日以後に設立された法人が設立事業年度中に増資をし、資本金1,000万円以上となったような場合には、2期目に調整対象固定資産を取得すると改正法が適用されることとなるので注意する必要がある。
3 平成22年度改正の内容
(1)課税選択期間中に固定資産を取得した場合の取扱い 平成22年4月1日以後に開始する課税期間から課税事業者を選択した事業者が、課税選択の強制適用期間中に調整対象固定資産を取得した場合には、課税事業者としての拘束期間が更に延長されることとなる(消法9⑦)。
具体的には、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間までの間は課税事業者として拘束されるとともに、この期間中は簡易課税制度の適用を受けることはできない(消法37②)。
結果、第三年度の課税期間において、課税売上割合が著しく変動した場合の税額調整の適用判定が義務付けられることになる。
ただし、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間において簡易課税制度の適用を受けている場合には、課税事業者としての拘束期間が延長されることはない。
【具体例1】 課税選択をした個人事業者が調整対象固定資産を取得した場合
【具体例2】 7月1日に資本金300万円で設立した12月決算法人が、設立事業年度から課税事業者を選択し、設立事業年度中に調整対象固定資産を取得した場合
【具体例3】 7月1日に資本金300万円で設立した12月決算法人が、設立事業年度から課税事業者を選択し、設立3期目に調整対象固定資産を取得した場合
<問題点> 上記の【具体例3】において、強制適用期間(設立事業年度から設立3期目までの期間)を経過した後の設立4期目で調整対象固定資産を取得した場合には改正法の適用除外となる。つまり、法人を設立して設立事業年度から課税事業者を選択し、設立4期目末まで休眠状態にしておいて、設立4期目の期末に賃貸マンションの引き渡しを受け、自販機を設置すれば、従来から頻繁に行われてきた消費税の還付スキームがそのまま実行できることとなるのである。
なお、設立事業年度がまるまる1年間存在する場合には、上記の還付スキームは設立3期目において実行可能となるのであるが、実務上、設立事業年度がまるまる1年間存在するような登記は極めて希であると思われる。
(2)資本金1,000万円以上で設立した法人が固定資産を取得した場合の取扱い 資本金が1,000万円以上の新設法人は、基準期間のない設立事業年度とその翌事業年度について課税事業者となるわけであるが、平成22年4月1日以後に設立した資本金1,000万円以上の法人が、基準期間のない事業年度中に調整対象固定資産を取得した場合には、課税事業者としての拘束期間が更に延長されることとなる(消法12の2②)。
具体的には、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間までの間は課税事業者として拘束されるとともに、この期間中は簡易課税制度の適用を受けることはできない(消法37②)。
結果、第三年度の課税期間において、課税売上割合が著しく変動した場合の税額調整の適用判定が義務付けられることになる。
ただし、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間において簡易課税制度の適用を受けている場合には、課税事業者としての拘束期間が延長されることはない。
【具体例】 7月1日に資本金1,000万円で設立した12月決算法人が、設立事業年度中に調整対象固定資産を取得した場合
4 届出書が無効とされるケース
(1)「課税事業者選択不適用届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合 課税選択の強制適用期間中に調整対象固定資産を取得した場合には、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ「課税事業者選択不適用届出書」を提出することはできない。そこで、翌期から免税事業者となるために「課税事業者選択不適用届出書」を提出した事業者が、その後、同一の課税期間中に調整対象固定資産を取得することとなったような場合には、その届出書の提出はなかったものとみなされる(消法9⑦)。
【具体例】 課税事業者を選択した個人事業者が、「課税事業者選択不適用届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合
(2)「簡易課税制度選択届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合 課税選択をした事業者や資本金1,000万円以上の新設法人が、課税事業者としての強制適用期間中に調整対象固定資産を取得した場合において、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間に「簡易課税制度選択届出書」を提出した場合には、その届出書の提出はなかったものとみなされる(消法37③)。
【具体例】 新設法人が、3期目から簡易課税制度の適用を受けるため、2期目に「簡易課税制度選択届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合
なお、新設法人などについては、届出書の提出日の属する課税期間から簡易課税制度の適用を受けることが認められている。
このような場合には、「簡易課税制度選択届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合であっても、その届出書の効力は当然に有効となる(消法37②ただし書、消令56②)。
【具体例】 新設法人が、1期目から簡易課税制度の適用を受けるため、1期目に「簡易課税制度選択届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合
<問題点> 「課税事業者選択届出書」や「簡易課税制度選択届出書」の提出をなかったものとみなすということであるが、本稿の執筆時点では、実務上の具体的な取扱いは何ら明らかにされていない。おそらくは、「取り下げ願い」なるものを作成して納税者や税理士が嘆願によりこれらの届出書を取り下げることになるものと思われるが、納税者や税理士がこれらの事実に気が付かなかった場合には、現在のシステムでは所轄税務署でこれをチェックすることは極めて困難ではないかと思われる。納税者が提出する固定資産台帳で、調整対象固定資産の取得状況を確認することも考えられるが、そのような余裕が現在の税務署職員に果たしてあるだろうか。また、課税期間を短縮している場合には、決算期でない限りは固定資産台帳は提出しないわけであるから、調整対象固定資産の取得状況の確認は事実上不可能であると思われる。
5 特定新規設立法人の納税義務の免除の特例(改革消費税法)との関係
(1)改正の内容と適用時期 大規模事業者等(課税売上高が5億円を超える規模の法人が属するグループ)が、一定要件の基、50%超の持分を有する法人を設立した場合には、その新規設立法人の資本金が1,000万円未満であっても、基準期間がない事業年度については納税義務は免除されないこととなった。また、これらの事業年度開始日前1年以内に大規模事業者等に属する法人が解散した場合であっても、新規設立法人は免税事業者となることはできない(改消法12の3、改消令25の2~25の4)。
本改正は、平成26年4月1日以後に設立される法人について適用される(改消法附則(平24年)4)。
【具体例1】大規模事業者等により新設された法人の取扱い
【具体例2】解散法人がある場合の設立事業年度の取扱い
【具体例3】解散法人がある場合の設立翌事業年度の取扱い
(2)適用要件 次の①、②のいずれにも該当する場合に限り、新規設立法人の基準期間がない事業年度における納税義務は免除されない。
① 大規模事業者等が新規設立法人を支配していること(特定要件)
② 大規模事業者等に該当する他の者又は特殊関係法人の基準期間相当期間における課税売上高が5億円を超えること
なお、上記①の特定要件とは、大規模事業者等が次の(イ)、(ロ)、(ハ)のいずれかに該当する場合をいうこととされている。
(イ)新規設立法人の発行済株式等を直接又は間接に50%超保有すること
(ロ)新規設立法人の事業計画などに関する重要な議決権を直接又は間接に50%超保有すること
(ハ)新規設立法人の株主等の数の50%超を直接又は間接に占めること
※「大規模事業者等」とは、他の者と特殊関係法人の総称であるが、これは税制調査会の説明資料で用いられた用語であり、法令用語ではない(他の者(個人又は法人)が、直接又は間接に上記(イ)~(ハ)の発行済株式等、議決権、株主等の数を実質的に100%保有(占有)する会社を「特殊関係法人」という。)。
(3)特定新規設立法人が基準期間がない事業年度中に固定資産を取得した場合の取扱い 平成26年4月1日以後に設立した「特定新規設立法人」が、基準期間のない事業年度中に調整対象固定資産を取得した場合には、課税事業者としての拘束期間が更に延長されることとなる(消法12の3③)。
具体的には、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間(第三年度の課税期間)までの間は課税事業者として拘束されるとともに、この期間中は簡易課税制度の適用を受けることはできない(消法37②)。結果、第三年度の課税期間において、課税売上割合が著しく変動した場合の税額調整の適用判定が義務付けられることになる。
ただし、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間において簡易課税制度の適用を受けている場合には、課税事業者としての拘束期間が延長されることはない。
【具体例】7月1日に設立した12月決算法人が、設立事業年度中に調整対象固定資産を取得した場合
記事に関連するお問い合わせ先 記事に関するお問い合わせは週刊「T&Amaster」編集部にお寄せください。執筆者に質問内容をお伝えいたします。
TEL:03-5281-0020 FAX:03-5281-0030 e-mail:ta@lotus21.co.jp
※なお、内容によっては回答いたしかねる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座
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平成22年度改正の問題点
#81 熊王征秀(税理士)
略歴 学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税トラブルの傾向と対策』等、著書多数。
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#82 日米租税条約改正議定書について
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 品川克己 税制改正や、中国進出企業の増加に伴い、国際課税上のリスクは高まっている。国際課税の第一人者がそのリスクを検証する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
e-mail:ta@lotus21.co.jp
マエストロの解説 居住用賃貸物件の建築時に自販機を設置して課税売上げを発生させ、不正に消費税還付を受ける事例が問題となったことを受け、平成22年度消費税改正では、この不正還付に対する対抗措置として、課税事業者を選択した場合の拘束期間の延長及び課税選択期間中の簡易課税制度の適用禁止などの法改正が行われた。しかし、本改正は、課税選択をした場合の強制適用期間を経過した後に調整対象固定資産を取得した場合には本改正の適用除外となってしまうことから、事実上、抜け穴が用意された改正となってしまっていることに大きな問題がある。また、「課税事業者選択不適用届出書」や「簡易課税制度選択届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合の「当該届出書の提出はなかったものとみなす」という規定についても、実務の現場を悪戯に混乱させるだけのものであり、本改正に伴う大きな弊害と言わざるを得ない。
今回は、平成22年度改正法の問題点を検証する。
1 平成22年度改正法の概要 次の期間中に調整対象固定資産を取得した場合には、その取得日の属する課税期間(仕入れ等の課税期間)から「第三年度の課税期間」までの間は免税事業者になることと簡易課税制度の適用を禁止する。
① 課税事業者を選択した場合の強制適用期間 ② 資本金1,000万円以上の新設法人の基準期間がない事業年度 |
2 平成22年度改正法の適用時期(平22年改消法附則35)
(1)課税選択の強制適用期間中に固定資産を取得した場合

したがって、施行日前(平成22年3月31日まで)に「課税事業者選択届出書」を提出した事業者は、施行日前に開始する課税期間はもとより、施行日以後に開始する課税期間中に調整対象固定資産を取得した場合であっても改正法の適用はない。
また、「課税事業者選択届出書」の効力は、新規開業等の場合には届出書の提出日の属する課税期間から生ずることとされているので、新規開業の個人事業者が施行日以後に「課税事業者選択届出書」を提出し、平成22年中に課税事業者となって調整対象固定資産を取得するようなケースでは、たとえ届出書の提出が施行日以後になったとしても改正法の適用はない。
(2)資本金1,000万円以上で設立した法人が、基準期間がない事業年度中(課税事業者としての強制適用期間中)に固定資産を取得した場合

したがって、施行日前に設立された法人については、2期目が施行日以後に開始する課税期間に該当し、その課税期間中に調整対象固定資産を取得した場合であっても改正法の適用はない。
ただし、施行日以後に設立された法人が設立事業年度中に増資をし、資本金1,000万円以上となったような場合には、2期目に調整対象固定資産を取得すると改正法が適用されることとなるので注意する必要がある。
3 平成22年度改正の内容
(1)課税選択期間中に固定資産を取得した場合の取扱い 平成22年4月1日以後に開始する課税期間から課税事業者を選択した事業者が、課税選択の強制適用期間中に調整対象固定資産を取得した場合には、課税事業者としての拘束期間が更に延長されることとなる(消法9⑦)。
具体的には、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間までの間は課税事業者として拘束されるとともに、この期間中は簡易課税制度の適用を受けることはできない(消法37②)。
結果、第三年度の課税期間において、課税売上割合が著しく変動した場合の税額調整の適用判定が義務付けられることになる。
ただし、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間において簡易課税制度の適用を受けている場合には、課税事業者としての拘束期間が延長されることはない。
【具体例1】 課税選択をした個人事業者が調整対象固定資産を取得した場合

【具体例2】 7月1日に資本金300万円で設立した12月決算法人が、設立事業年度から課税事業者を選択し、設立事業年度中に調整対象固定資産を取得した場合

【具体例3】 7月1日に資本金300万円で設立した12月決算法人が、設立事業年度から課税事業者を選択し、設立3期目に調整対象固定資産を取得した場合

<問題点> 上記の【具体例3】において、強制適用期間(設立事業年度から設立3期目までの期間)を経過した後の設立4期目で調整対象固定資産を取得した場合には改正法の適用除外となる。つまり、法人を設立して設立事業年度から課税事業者を選択し、設立4期目末まで休眠状態にしておいて、設立4期目の期末に賃貸マンションの引き渡しを受け、自販機を設置すれば、従来から頻繁に行われてきた消費税の還付スキームがそのまま実行できることとなるのである。
なお、設立事業年度がまるまる1年間存在する場合には、上記の還付スキームは設立3期目において実行可能となるのであるが、実務上、設立事業年度がまるまる1年間存在するような登記は極めて希であると思われる。
(2)資本金1,000万円以上で設立した法人が固定資産を取得した場合の取扱い 資本金が1,000万円以上の新設法人は、基準期間のない設立事業年度とその翌事業年度について課税事業者となるわけであるが、平成22年4月1日以後に設立した資本金1,000万円以上の法人が、基準期間のない事業年度中に調整対象固定資産を取得した場合には、課税事業者としての拘束期間が更に延長されることとなる(消法12の2②)。
具体的には、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間までの間は課税事業者として拘束されるとともに、この期間中は簡易課税制度の適用を受けることはできない(消法37②)。
結果、第三年度の課税期間において、課税売上割合が著しく変動した場合の税額調整の適用判定が義務付けられることになる。
ただし、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間において簡易課税制度の適用を受けている場合には、課税事業者としての拘束期間が延長されることはない。
【具体例】 7月1日に資本金1,000万円で設立した12月決算法人が、設立事業年度中に調整対象固定資産を取得した場合

4 届出書が無効とされるケース
(1)「課税事業者選択不適用届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合 課税選択の強制適用期間中に調整対象固定資産を取得した場合には、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ「課税事業者選択不適用届出書」を提出することはできない。そこで、翌期から免税事業者となるために「課税事業者選択不適用届出書」を提出した事業者が、その後、同一の課税期間中に調整対象固定資産を取得することとなったような場合には、その届出書の提出はなかったものとみなされる(消法9⑦)。
【具体例】 課税事業者を選択した個人事業者が、「課税事業者選択不適用届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合

(2)「簡易課税制度選択届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合 課税選択をした事業者や資本金1,000万円以上の新設法人が、課税事業者としての強制適用期間中に調整対象固定資産を取得した場合において、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間に「簡易課税制度選択届出書」を提出した場合には、その届出書の提出はなかったものとみなされる(消法37③)。
【具体例】 新設法人が、3期目から簡易課税制度の適用を受けるため、2期目に「簡易課税制度選択届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合

このような場合には、「簡易課税制度選択届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合であっても、その届出書の効力は当然に有効となる(消法37②ただし書、消令56②)。
【具体例】 新設法人が、1期目から簡易課税制度の適用を受けるため、1期目に「簡易課税制度選択届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合

<問題点> 「課税事業者選択届出書」や「簡易課税制度選択届出書」の提出をなかったものとみなすということであるが、本稿の執筆時点では、実務上の具体的な取扱いは何ら明らかにされていない。おそらくは、「取り下げ願い」なるものを作成して納税者や税理士が嘆願によりこれらの届出書を取り下げることになるものと思われるが、納税者や税理士がこれらの事実に気が付かなかった場合には、現在のシステムでは所轄税務署でこれをチェックすることは極めて困難ではないかと思われる。納税者が提出する固定資産台帳で、調整対象固定資産の取得状況を確認することも考えられるが、そのような余裕が現在の税務署職員に果たしてあるだろうか。また、課税期間を短縮している場合には、決算期でない限りは固定資産台帳は提出しないわけであるから、調整対象固定資産の取得状況の確認は事実上不可能であると思われる。
5 特定新規設立法人の納税義務の免除の特例(改革消費税法)との関係
(1)改正の内容と適用時期 大規模事業者等(課税売上高が5億円を超える規模の法人が属するグループ)が、一定要件の基、50%超の持分を有する法人を設立した場合には、その新規設立法人の資本金が1,000万円未満であっても、基準期間がない事業年度については納税義務は免除されないこととなった。また、これらの事業年度開始日前1年以内に大規模事業者等に属する法人が解散した場合であっても、新規設立法人は免税事業者となることはできない(改消法12の3、改消令25の2~25の4)。
本改正は、平成26年4月1日以後に設立される法人について適用される(改消法附則(平24年)4)。
【具体例1】大規模事業者等により新設された法人の取扱い

【具体例2】解散法人がある場合の設立事業年度の取扱い

【具体例3】解散法人がある場合の設立翌事業年度の取扱い

(2)適用要件 次の①、②のいずれにも該当する場合に限り、新規設立法人の基準期間がない事業年度における納税義務は免除されない。
① 大規模事業者等が新規設立法人を支配していること(特定要件)
② 大規模事業者等に該当する他の者又は特殊関係法人の基準期間相当期間における課税売上高が5億円を超えること
なお、上記①の特定要件とは、大規模事業者等が次の(イ)、(ロ)、(ハ)のいずれかに該当する場合をいうこととされている。
(イ)新規設立法人の発行済株式等を直接又は間接に50%超保有すること
(ロ)新規設立法人の事業計画などに関する重要な議決権を直接又は間接に50%超保有すること
(ハ)新規設立法人の株主等の数の50%超を直接又は間接に占めること
※「大規模事業者等」とは、他の者と特殊関係法人の総称であるが、これは税制調査会の説明資料で用いられた用語であり、法令用語ではない(他の者(個人又は法人)が、直接又は間接に上記(イ)~(ハ)の発行済株式等、議決権、株主等の数を実質的に100%保有(占有)する会社を「特殊関係法人」という。)。
(3)特定新規設立法人が基準期間がない事業年度中に固定資産を取得した場合の取扱い 平成26年4月1日以後に設立した「特定新規設立法人」が、基準期間のない事業年度中に調整対象固定資産を取得した場合には、課税事業者としての拘束期間が更に延長されることとなる(消法12の3③)。
具体的には、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間(第三年度の課税期間)までの間は課税事業者として拘束されるとともに、この期間中は簡易課税制度の適用を受けることはできない(消法37②)。結果、第三年度の課税期間において、課税売上割合が著しく変動した場合の税額調整の適用判定が義務付けられることになる。
ただし、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間において簡易課税制度の適用を受けている場合には、課税事業者としての拘束期間が延長されることはない。
【具体例】7月1日に設立した12月決算法人が、設立事業年度中に調整対象固定資産を取得した場合

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