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解説記事2013年10月07日 【解説】 経団連「平成26年度税制改正に関する提言」について(2013年10月7日号・№518)

解説
経団連「平成26年度税制改正に関する提言」について
 一般社団法人 日本経済団体連合会 経済基盤本部 幕内 浩

 経団連は9月9日に「平成26年度税制改正に関する提言」を公表した。このうち、消費税率の引き上げや成長戦略に基づく税制措置(投資減税等)の具体化については、安倍内閣が10月1日に示した方針、経済対策と軌を一にしていることから、政府決定内容を簡単に紹介することとする。その上で、年末の平成26年度税制改正において争点になると見込まれる事項について、経団連の考え方を紹介する。なお、意見にわたる部分には個人的な見解が含まれている。

Ⅰ.消費税率の円滑かつ着実な引き上げ及び投資減税等の具体化
 政府は10月1日、消費税率の8%への引き上げを閣議決定するとともに、消費税率の引き上げに伴う経済対策を取りまとめ、公表した。与党税制改正大綱における記載を含め、法人関係の税制措置の概要は以下の通りである。
・復興特別法人税の1年前倒し廃止の検討
・法人実効税率につき「速やかに検討を開始」
・生産性向上設備投資促進税制の創設
・事業再編促進税制の創設
・ベンチャー投資促進税制の創設
・研究開発税制の維持・拡充
・既存建築物の耐震改修投資促進税制の創設
 等
 復興特別法人税が廃止されれば、法人実効税率は平成26年度に38.01%から35.64%(大法人、東京都)となる。また、その後の法人実効税率の引き下げについても、本来、消費税法改正法7条で平成27年度以降の検討課題とされていたものが、前倒しで検討されることになった。
 投資減税については、使い勝手の良さ、対象資産の範囲も含め、経済界の意見が概ね反映されている。研究開発税制については、平成25年度税制改正に続き、制度の拡充が行われた。今後は諸外国とのイコール・フッティング実現の観点から、税額控除限度額30%の恒久化、総額型の繰越期間の大幅な延長(現行1年)、繰越控除要件(前事業年度に比べ試験研究費が増加)の撤廃などが課題となる。また、パテント・ボックスを早期に導入すべく官民で検討を進める必要がある。
 事業再編については、当初、LLC(合同会社)を活用したパススルー課税やそれに類似した制度(事業分離元企業が出資割合に応じて事業分離先企業の損失を認識)の創設も検討されたが、最終的には分離元企業に置いて準備金を積み立てる方式となった。事業再編の円滑化に向け、新制度に期待が寄せられる一方で、パススルー課税の導入といった本格的な制度改正のハードルの高さが改めて浮き彫りになったとも言える。今後とも検討を続けていく必要がある。
 他方、経団連が掲げた要望のうち、償却資産に係る固定資産税については、地方自治体の財源確保等の問題が残されていることから、結論が年末に先送りとなった。
 償却資産に係る固定資産税は、政府が進める投資促進政策に従って国内投資を行おうとする企業に追加的なコストを負わせるものであり、政府の政策に逆行している。また、国際的に稀な課税である。特に機械装置への課税はわが国製造業が競合するアジア近隣諸国において例がない。米国の各州においても、もとより製造業が立地する五大湖周辺では償却資産課税は稀であったが、競争力強化の観点から、近年、その他の地域も含め、償却資産課税はさらに縮減の傾向にある(ミシガン州、オハイオ州、カンザス州、メーン州等)。償却資産に係る固定資産税については、抜本的な見直しを行うべきである。少なくとも今回の投資減税で法人税の特例を受けた資産については固定資産税を免除すべきである。地方税収の減少に対しては国が補填することが考えられる。年末にかけて議論が進展することが強く期待される。
 なお、消費税率の引き上げに伴う対策としては、簡素な給付措置の実施が盛り込まれた。市町村民税非課税者を対象に原則として1人年間1万円が支給されることになる。今後は、与党の軽減税率制度調査委員会で消費税率10%段階での軽減税率の導入に向けた検討が行われる予定である。なお、経団連としては、社会保障・税一体改革に係る税収維持等の観点から、消費税率10%までは単一税率を維持すべきとの立場である。

Ⅱ.平成26年度税制改正に関する提言
 年末の議論では、地方法人課税、自動車関係諸税が大きなテーマとなる。経済界にとっては、地球温暖化対策税の見直しも重大な課題である。一方、国際課税については、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)の問題がある。また、喫緊の課題として、タックスヘイブン対策税制、帰属主義、国境を越えた役務提供等に係る消費税といった問題に取り組む必要がある。

1.地方法人課税  今後、法人実効税率の問題に具体的に取り組む際には、まず、税制の抜本的な改革において偏在性の小さい地方税体系の構築が行われるまでの間の暫定措置として平成20年度税制改正で創設された地方法人特別税の問題を解決しなければならない。
 消費税率の引き上げが決まった今、税制の抜本的な改革は実現しつつあると言って良い。地方法人特別税はその創設の経緯からすれば、消費税率の引き上げとあわせ、見直すのが当然だが、その単純廃止が困難である場合は、地方法人所得課税において税源の偏在が指摘されていることを踏まえ、まずは地方法人特別税、法人事業税及び法人住民税の全部又は一部、とりわけ所得に対する課税部分を国税の法人税に統合することが考えられる。そして、法人税として国が一括して徴収した額については、その配分において、地方交付税の不交付団体に対する一定の配慮を行いつつ、各自治体の産業誘致など独自の努力の成果が反映される仕組みを地方が主体的に構築することが考えられる。その後、法人所得課税については、国家の成長戦略として国際的な水準へと段階的に縮減すべきである。
 本件については、総務省の「地方法人課税のあり方等に関する検討会」で議論が行われている。9月24日(火)に開催された検討会の第13回会合では、「各論点の方向性(案)」が示された。これによると、地方法人所得課税(地方法人特別税、法人事業税、法人住民税)について、税源偏在是正等の観点から、何らかの見直しが必要であるとの認識は示されているものの、「地方法人特別税・譲与税制度の見直しに係る判断については、地方消費税の税率引上げ後の地方税財政の姿を踏まえて検討すべきではないか」といった結論の先送りを示唆するような文言も見受けられる。今後、検討会は取りまとめの局面に入ると考えられるが、どのような成果物が公表されるか、注目される。

2.自動車関係諸税  消費税率の引き上げに伴う措置として、これまで法人減税、住宅ローン減税等の住宅取得対策、簡素な給付措置等の実施が決まったが、自動車関係諸税については依然として改革の目途が立っていない。平成25年度税制改正大綱では消費税率10%段階での自動車取得税の廃止等が決まったものの、代替財源の確保が大きな課題として残っている。10月1日の経済対策では、自動車関係諸税についての方向性が打ち出されたが、仮に自動車関係諸税の改革を行わないまま消費税率が引き上げられれば、国内販売に致命的な打撃がもたらされ、裾野の広い自動車関連産業の国内における生産や雇用の維持が困難となる。
 自動車関係諸税については簡素化、自動車ユーザーの負担軽減、グリーン化の観点から、自動車重量税など保有課税の廃止・抜本的な見直しを行うべきである。また、消費税率10%時点において自動車取得税を確実に廃止し、消費税率8%段階では、自動車取得税を3%引き下げるとともに、エコカー減税を拡充すべきである。自動車取得税の廃止財源として他の自動車関係諸税の増税を行うことは容認できない。
 あわせて、自動車税のグリーン化特例につき、延長・拡充を行うべきである。
 本件についても、総務省が「自動車関係税制のあり方に関する検討会」を設置して検討を行っており、近いうちに報告書が取りまとめられる見込みとなっている。自動車関係諸税は、年末の税制改正で最大の焦点になると考えられる。

3.地球温暖化対策のための税  現在わが国では、原子力発電所の稼働停止を受けた化石燃料輸入の増加、円高修正、再生可能エネルギーの固定価格買取制度の開始などを受け、エネルギー価格が上昇傾向にあり、今後ますます上昇することが懸念されている。平成24年10月から導入されている地球温暖化対策のための税は、これに拍車をかけており、来年4月に二段階目の引き上げが行われれば、回復基調にある我が国経済の足かせとなるおそれがある。
 また、東日本大震災後の状況変化により、当初の見積もりを超える税収がある一方、徴収されたまま一般会計に留保され温暖化対策に活用されていない税収(1,304億円)や、エネルギー特別会計に繰り入れられても使用されず、翌年に繰り越されている税収(1,717億円)もある。
 そもそも地球温暖化の防止を経済成長と両立させつつ実現するための鍵は技術である。しかし、地球温暖化対策のための税は、逆に技術開発の原資を奪うばかりか、エネルギー効率が相対的に低い他国へ生産を移転させ、地球全体では却って温暖化を助長し、国内産業の空洞化につながる懸念がある。
 地球温暖化対策のための税は、課税の廃止を含め、抜本的に見直すべきである。少なくとも平成26年4月に予定されている二段階目の税率引き上げは凍結すべきである。税収が森林吸収源対策に流用されるようなことがあってはならないのは当然である。

4.国際課税
(1)BEPS
 OECDは7月にBEPS行動計画を公表し、現在はそれらの具体化に向けた作業を行っている。10月1日には各国の経済界を招いてのビジネス・コンサルテーションが実施された。また、わが国の政府税制調査会でも、本件は議題の1つとなっている。
 OECDが指摘する通り、グローバル化やデジタル化が進展する中で、現行の国際課税制度が経済実態に追いついていない面があるのは事実であり、その意味では、モデル租税条約や移転価格ガイドラインの改定、各国国内法制の整備を図ることは基本的に意義のあることである。わが国経済界としても、OECD非加盟国も含めた、共通の枠組み作りが進展することに期待している。
 他方、行動計画には、日本企業にとって非常に困惑を招く内容が含まれている。例えば、行動計画13は、多国籍企業に対し、「グローバルな所得の配分、経済活動、諸国で支払われた税について必要な情報を共通のフォーマットで関係するすべての政府に提供」することを求めている。また、こうした開示フォーマットの原型ともいうべきものが、OECDが7月に公表した白書(OECD White Paper on Transfer Pricing Documentation)で記載されている。すなわち、白書では、移転価格税制に係る文書化については、マスター・ファイル、ローカル・ファイルからなる二層構造を検討するとされている。マスター・ファイルは、多国籍企業のグローバル・ビジネスについての"Big Picture"を抽出するため必要なものであり、多国籍企業の(1)概観、(2)事業の概要、(3)無形資産、(4)企業間の金融サービス、(5)財務・税務ポジションについて情報を求めることになるという。一方、ローカル・ファイルはマスター・ファイルを補完するものとして、実際の取引に係わる移転価格文書化を求めるものである。BEPS行動計画でいう「共通のフォーマット」が白書でいうマスター・ファイルに対応すると考えられるが、過度なタックス・プランニングとは無縁な企業も含め、一律にこうした義務が課されれば、事務負担が過剰となるばかりか、各国の課税当局がこれらの情報を自国に有利な方向で利用した場合には、かえって二重課税が発生するおそれもある。
 この他にも、過度な租税回避防止規定が導入されれば、企業の事業活動は阻害される。BEPSの議論の発祥地ともいえる英国においても、CBI(英国産業連盟)が同様の懸念を表明している。わが国企業の競争力の低下につながることのないよう、慎重な議論を行う必要がある。
(2)タックスヘイブン対策税制  タックスヘイブン対策税制については平成22年度税制改正でトリガー税率が25%から20%に引き下げられたが、その後も世界各国で法人実効税率の引き下げが行われており、主要国がトリガー税率に抵触する可能性が再び高まっている。例えば、タイについては既に本年から法人実効税率が20%まで引き下げられており、英国、ベトナムについても2015年、2016年にそれぞれ20%へと引き下げられることとなっている。
 日本企業の海外における正常な事業展開に影響を及ぼさないよう、また、租税負担割合の判定等に係る事務負担を軽減する観点から、現行のトリガー税率を少なくとも18%まで引き下げるべきである。あわせて、現行の適用除外基準についても、必要な見直しを行うべきである。
 なお、18%という数字は、わが国の法人実効税率(35.64%、来年度)の約半分という趣旨であり、また、シンガポール、台湾の法人税率が17%ということも考慮したものである。本件は経済産業省も同内容の要望を行っている。
(3)帰属主義(AOA)への移行  現在、政府において、外国法人に対する課税原則を国内法上、総合主義から帰属主義(AOA:Authorized OECD Approach)に改めることが検討されているが、今回の改正が内国法人に及ぼす影響については、慎重に検討を行う必要がある。例えば、現在、政府では、外国法人についてPE帰属所得を国内源泉所得と位置付けることに対応して、内国法人についても国外PE帰属所得を国外源泉所得と位置付けることが検討されているが、内国法人が、これらの国外PE帰属所得の計算上、外国法人に課せられるものと同様のレベルで、移転価格税制における独立企業間価格等の考え方を取り入れつつ、精緻に内部取引の認識・測定・文書化、無償資本の配賦等を行わなければならないとするならば、事務負担が過剰となるおそれがある。また、諸外国が必ずしもAOAを導入しているわけではない中で、二重課税の排除がかえって不十分になる恐れもある。
 したがって、AOAの導入に伴う国外源泉所得の計算方法の変更等、外国税額控除制度への影響については必要最小限とした上で、企業の実務に配慮した簡便な計算方法等を幅広く認めるべきである。また、施行に際しては十分な準備期間を設けるべきである。執行についても、過度に厳格なものとならないようすべきである。
 なお、今回の改正によって大きな影響を受ける内国法人は、主に海外に支店形態で進出している企業だが、進出先において支店以外のPE(建設PE、代理人PE、サービスPE)を有する(あるいは認定される可能性がある)業種についても注意が必要である。また、海外子会社が日本支店を有する場合も影響が生じることから、組織体系等のチェックも必要となるだろう。これらのいずれも該当しない場合は、基本的に改正の影響は軽微であると考えられるが、国外所得が現在、「国内源泉所得以外の所得」と定義されているのに対し(法令142③)、改正後は国外所得が1つ1つ、積極的に定義されることになることから、実務においては、法令の規定ぶりをよく確認する必要があると考えられる。
(4)国境を越えた役務の提供等に係る消費税  国内におけるインターネットを通じたサービスの提供には消費税が課税される一方、国境を越えたインターネットによるサービスの提供には消費税が課税されておらず、国内事業者と国外事業者との間で競争上の不均衡が生じている。この問題は電子書籍の配信等のBtoC取引に加え、広告配信サービス等のBtoB取引において指摘されており、今後、消費税率が引き上げられると、弊害がさらに拡大する。
 競争条件のイコール・フッティングを図る観点から、企業のコンプライアンス・コストに十分配慮しつつ、国境を越えたこれら役務提供等と消費税との関係について検討を行い、平成26年度税制改正において速やかに所要の措置を講じる必要がある。この問題も、政府税制調査会で議題の1つとして掲げられており、また、経済産業省も要望している。早期の解決が強く期待される。

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