コラム2014年01月06日 【SCOPE】 粉飾企業の非常勤監査役への損害賠償請求は認められるか?(2014年1月6日号・№529)
虚偽記載で上場廃止、株主が役員らを提訴
粉飾企業の非常勤監査役への損害賠償請求は認められるか?
ニイウスコー社による粉飾決算をめぐり、粉飾の事実を知らずに同社の株式を購入していた原告株主が非常勤監査役(被告)を相手に損害賠償を請求していた事案で裁判所は、原告株主の請求を斥ける判断を示した(東京地裁平成25年10月15日判決)。裁判所は、同社の監査役の職務分担が合理性を欠くものとは言えないと指摘。非常勤監査役が必要に応じ担当取締役からの説明の聴取を行うなど、相当な注意を用いて職務執行を行っていたと判断した。同社の役員に対する損害賠償請求は、粉飾の主導者であった代表取締役への損害賠償が認められる一方で、非常勤監査役への損害賠償請求は斥けられることとなった。
非常勤監査役は「相当な注意を用いた」と認定、原告株主の主張を斥ける
5年間で約682億円の売上を粉飾 ニイウスコー社では、代表取締役らが中心となって、平成15年6月期から平成19年6月期までの5年間、提出された有価証券報告書等について虚偽記載が行われていたが、この粉飾の事実は平成20年4月30日に公表された「過年度の決算短信等の一部訂正について」および「民事再生手続き開始の申立てについて」により明らかとなった(表1参照)。
粉飾の事実を知らずにニイウスコー社の株式を購入していた原告株主は、取得価額のすべて(約1.5億円)が損失に当たるとして、代表取締役や非常勤監査役らに対して損害賠償を求める訴訟を提起していた。このうち、代表取締役の損害賠償請求事件では、裁判所が原告株主の主張を認容し、代表取締役に対して約1.5億円の損害賠償を命じる判決を言い渡していた(本誌516号40頁参照)。
今回紹介する判決は、原告株主が非常勤監査役に対して損害賠償を請求していたもの。
原告株主は、ニイウスコー社では長期かつ巨額の粉飾決算が続いていたことそれ自体が非常勤監査役(被告)の過失を推認させるなどと主張して、非常勤監査役に対して損害賠償を請求していた。
この主張に対して非常勤監査役は、ニイウスコー社における粉飾は相当な注意を用いても知ることができなかったため、損害賠償責任は負わないと反論していた。
裁判所は、監査役が「相当な注意を用いた」(金商法21条②一等)ということができるか否かの判断について、監査役会が定めた職務分担の内容が監査役としての善管注意義務に照らして相当である限り、監査役は自己の分担するものとして定められた職務を善管注意義務に従って遂行すれば「相当な注意を用いた」ものと認めることができるとした。
ニイウスコー社の監査役の職務分担については、常勤監査役が日々の社内の会議等に出席し、非常勤社外監査役が常勤監査役から監査状況について報告を受けるというものであったと認定(表2参照)。これは、調査の重複等を避けた効率的な監査を可能にするものであり合理性を欠くものとは言えないと指摘し、このような職務分担を定めたこと自体が善管注意義務違反になることはないとした。
また、非常勤監査役が監査役会(年3回から4回開催)にはすべて出席し常勤監査役の行った監査の内容等の報告について常勤監査役から報告を受けていたこと、監査役会として必要に応じ担当取締役からの説明の聴取を行っていたこと、重要な事項に関する意思決定プロセスについては代表取締役への意見の具申等をしていたことなどを指摘。
非常勤監査役の職務遂行状況は、金商法21条2項1号等の規定の適用上、相当な注意を用いて監査役としての職務執行を行っていたものと評価することができると判断した。
今回の判決により、株主が提起したニイウスコー社の役員に対する損害賠償請求事件は、粉飾の主導者であった代表取締役への損害賠償が認められる一方で、非常勤監査役への損害賠償請求は斥けられることとなった。
粉飾企業の非常勤監査役への損害賠償請求は認められるか?
ニイウスコー社による粉飾決算をめぐり、粉飾の事実を知らずに同社の株式を購入していた原告株主が非常勤監査役(被告)を相手に損害賠償を請求していた事案で裁判所は、原告株主の請求を斥ける判断を示した(東京地裁平成25年10月15日判決)。裁判所は、同社の監査役の職務分担が合理性を欠くものとは言えないと指摘。非常勤監査役が必要に応じ担当取締役からの説明の聴取を行うなど、相当な注意を用いて職務執行を行っていたと判断した。同社の役員に対する損害賠償請求は、粉飾の主導者であった代表取締役への損害賠償が認められる一方で、非常勤監査役への損害賠償請求は斥けられることとなった。
非常勤監査役は「相当な注意を用いた」と認定、原告株主の主張を斥ける
5年間で約682億円の売上を粉飾 ニイウスコー社では、代表取締役らが中心となって、平成15年6月期から平成19年6月期までの5年間、提出された有価証券報告書等について虚偽記載が行われていたが、この粉飾の事実は平成20年4月30日に公表された「過年度の決算短信等の一部訂正について」および「民事再生手続き開始の申立てについて」により明らかとなった(表1参照)。

今回紹介する判決は、原告株主が非常勤監査役に対して損害賠償を請求していたもの。
原告株主は、ニイウスコー社では長期かつ巨額の粉飾決算が続いていたことそれ自体が非常勤監査役(被告)の過失を推認させるなどと主張して、非常勤監査役に対して損害賠償を請求していた。
この主張に対して非常勤監査役は、ニイウスコー社における粉飾は相当な注意を用いても知ることができなかったため、損害賠償責任は負わないと反論していた。
裁判所は、監査役が「相当な注意を用いた」(金商法21条②一等)ということができるか否かの判断について、監査役会が定めた職務分担の内容が監査役としての善管注意義務に照らして相当である限り、監査役は自己の分担するものとして定められた職務を善管注意義務に従って遂行すれば「相当な注意を用いた」ものと認めることができるとした。
ニイウスコー社の監査役の職務分担については、常勤監査役が日々の社内の会議等に出席し、非常勤社外監査役が常勤監査役から監査状況について報告を受けるというものであったと認定(表2参照)。これは、調査の重複等を避けた効率的な監査を可能にするものであり合理性を欠くものとは言えないと指摘し、このような職務分担を定めたこと自体が善管注意義務違反になることはないとした。
【表2】ニイウスコー社における監査役の職務分担 |
常勤監査役 | ・取締役会および日々の社内での経営会議その他の委員会に出席して適宜意見を述べる ・稟議書、月次決算書等の重要書類を閲覧し、会計監査人である監査法人の監査状況を視察して説明を受ける ・監査結果につき非常勤の社外監査役に報告 ・監査業務により収集した情報に疑問点等がある場合には、社外監査役らに対して情報を提供し、適宜の方法により審議する |
非常勤の社外監査役 (※本事案の被告) | ・取締役会および監査役会に出席 ・常勤監査役による報告を聴取し、常勤監査役とともに監査法人と面談して会計監査について報告を聴取 ・必要に応じて業務担当取締役との面談や調査を実施し、それぞれについて適宜意見を述べる |
また、非常勤監査役が監査役会(年3回から4回開催)にはすべて出席し常勤監査役の行った監査の内容等の報告について常勤監査役から報告を受けていたこと、監査役会として必要に応じ担当取締役からの説明の聴取を行っていたこと、重要な事項に関する意思決定プロセスについては代表取締役への意見の具申等をしていたことなどを指摘。
非常勤監査役の職務遂行状況は、金商法21条2項1号等の規定の適用上、相当な注意を用いて監査役としての職務執行を行っていたものと評価することができると判断した。
今回の判決により、株主が提起したニイウスコー社の役員に対する損害賠償請求事件は、粉飾の主導者であった代表取締役への損害賠償が認められる一方で、非常勤監査役への損害賠償請求は斥けられることとなった。
金商法第21条(虚偽記載のある届出書の提出会社の役員等の賠償責任) |
1 ……次に掲げる者は、……記載が虚偽であり又は欠けていることにより生じた損害を賠償する責めに任ずる。 一 ……役員(取締役、会計参与、監査役もしくは執行役またはこれらに準ずる者) 2 前項の場合において、次の各号に掲げる者は、当該各号に掲げる事項を証明したときは、同項に規定する賠償の責めに任じない。 一 前項第一号に掲げる者 記載が虚偽であり又は欠けていることを知らず、かつ、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったこと。 |
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