解説記事2014年09月08日 【第2特集】 改正会社法における社外取締役・監査役の留意点(2014年9月8日号・№561)
来年の株主総会での社外取締役の選任、要件は新旧どちら?
改正会社法における社外取締役・監査役の留意点
改正会社法では社外取締役の義務付けは見送られた。しかし、社外取締役を選任していない上場企業等については、株主総会で「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明することになるほか、事業報告及び株主総会参考書類においてその理由を記載することになる。また、社外取締役及び社外監査役の要件厳格化も行われる。企業の実務においてはそれぞれに留意すべきいくつかのポイントがある。特集ではQ&A形式で解説する。
社外監査役2名選任だけでは理由にならず
Q 「社外取締役を置くことが相当でない理由」(以下、「相当でない理由」)とは具体的にどのような理由が想定されるのでしょうか。社外監査役を2名選任していることは理由になりませんか。
A
「相当でない理由」は、個々の会社の事情に応じて記載しなければならないとされています。ご質問にあるように、社外監査役が2名以上であることのみをもって「相当でない理由」とすることはできないとされています。この点は、改正会社法の法務省令で規定される予定です。 国会での政府参考人の法務省の答弁によると、理由の具体例を示すと形式的な対応を招くおそれがあるとした上、企業が単に社外取締役を置かない理由を説明するだけでは不十分であるとしています。例えば、「社外監査役が2名おり社外者による監査・監督が十分である」「社外取締役に適任者が見当たらない」といった説明では「相当でない理由」の説明にはならないとしており、社外取締役を置くことがかえってその企業にマイナスの影響を及ぼすおそれがあるというような事情を説明しなければならないとしています。
対象企業は上場企業に限らず
Q 社外取締役を選任していない企業は株主総会で「相当でない理由」を説明しなければならないということですが、対象となる企業は上場企業ということでよいのでしょうか。
A
基本的には上場企業が対象となりますが、それに限られません。公開・大会社である監査役会設置会社であって株式についての有価証券報告書提出義務を負う株式会社とされています。 具体的には、「事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの」(改正会社法327条の2)とされています。なお、公開会社とは、発行する株式の一部でも譲渡制限の定款の定めのない会社のことをいいます(会社法2条5号)。
社外取締役選任議案提出でも説明は省略できず
Q 3月決算会社ですが、来年の株主総会で社外取締役を選任する予定です。この場合は、株主総会で「相当でない理由」の説明を省略することができますか。
A
平成27年3月末時点で社外取締役を選任していなければ、平成27年6月総会での説明が求められます。 改正会社法は平成27年4月又は5月の施行が予定されています。このため、社外取締役を選任していない3月決算会社であれば、平成27年6月総会で「相当でない理由」を説明することになります。
ここで留意しなければならないのは平成27年6月総会で社外取締役の選任議案を提出するケースです。この場合、「相当でない理由」の説明を省略することはできません。改正会社法上、事業年度末時点で社外取締役を選任していない場合には「相当でない理由」を説明するとされているからです(改正会社法327条の2、本誌558号40頁参照)。ただし、法務省によると、社外取締役の選任議案を提出している場合には、選任議案を提出していない会社のように詳細な説明を求めることはしないようです。
2年後には社外取締役の選任は義務?
Q 会社法施行から2年後には社外取締役が義務付けられるのでしょうか。
A
義務付けられるわけではありません。 改正会社法では、同法施行後2年を経過した場合において、「社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずる」とされています。現時点では社外取締役選任が義務付けられることは決まっていませんが、場合によっては義務付けも想定されるところです。
社外取締役等、親会社からの受け入れはNG
Q 社外取締役の要件が厳しくなるとのことですが、具体的にどのような見直しがされたのでしょうか。現状、弊社の社外取締役は親会社の総務部長が就任していますが大丈夫でしょうか。
A
改正会社法施行後は親会社からの人材を受け入れることができなくなります。 現行、株式会社の業務執行者等の近親者や、株主会社の親会社の業務執行者等は当該株式会社の社外取締役及び社外監査役になることが可能となっています。しかし、改正会社法では、株式会社の①親会社の業務執行者等、②兄弟会社の業務執行者等、③業務執行者等の近親者についても社外取締役等に就任することはできないこととされています。このため、親会社から人材を受け入れて社外取締役等としていたようなケースについてはアウトになります(図参照)。ただし、通常の取締役として就任することは可能となっています。
また、この改正は社外取締役だけでなく社外監査役についても同様の見直しが行われています。監査役会設置会社については、監査役3名以上のうち半数以上(2名以上)は社外監査役を選任することが義務付けられていますので影響は大きいものといえます。
なお、すでに選任している社外取締役及び社外監査役の要件厳格化については、経過措置が設けられているため、3月決算会社であれば平成28年6月総会において要件の厳格化された社外取締役等を選任すればよいことになります。
社外要件の厳格化で責任限定契約が見直し
Q 責任限定契約のできる取締役等の範囲が拡大されるのでしょうか。
A
取締役(業務執行取締役もしくは執行役又は支配人その他使用人であるものを除く)及び監査役について責任限定契約が締結できるようになります。 現行では社外取締役等として責任限定契約が認められている親会社の関係者などは、要件の厳格化により通常の取締役等となり、その対象から除外されることになってしまうからです。また、最低責任限度額の算定に際して職務執行の対価として受ける財産上の利益の額に乗ずべき数は「2」とされています。
なお、この改正に伴い社外取締役及び社外監査役である旨の登記(会社法911条3項25号・26号)は廃止されることになります。ただし、当該登記に係る取締役又は監査役の任期中に限り登記の抹消は要しないこととされています(改正会社法附則22条2項)。
親会社のOBは社外取締役等に就任可能
Q 親会社の業務執行者等は子会社の社外取締役等に就任することができないとのことですが、1年前に退職した親会社のOBは社外取締役等に就任できますか。
A
過去要件はありませんので、就任することが可能です。
来年の株主総会で初めて選任する社外取締役は新要件
Q 平成27年6月総会で初めて社外取締役を選任する予定です。社外取締役の要件厳格化については経過措置が設けられているため、旧要件を満たしていればよいのでしょうか。
A
社外取締役を初めて選任する場合は新要件を満たしておく必要があります。 前述した通り、改正会社法については平成27年4月又は5月からの施行が予定されていますが、社外取締役等の要件厳格化については一定の経過措置が設けられています。このため、3月決算会社であれば平成28年6月総会で要件が厳格化された社外取締役等を選任すればよいことになります。
しかし、ご質問のように平成27年6月総会で社外取締役を初めて選任する場合には経過措置が適用されません。改正会社法附則4条は、「この法律の施行の際現に旧会社法第二条第十五号に規定する社外取締役又は同条第十六号に規定する社外監査役を置く株式会社の社外取締役又は社外監査役については、この法律の施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結の時までは、新会社法第二条第十五号又は第十六号の規定にかかわらず、なお従前の例による。」とされています。
簡単にいえば、経過措置が適用されるのは改正会社法の施行時に選任されている社外取締役及び社外監査役が対象になるからです。このため、新たに社外取締役を選任する場合には、厳格化された新要件が適用されることになります。
任期途中で社外要件を満たさないことに
Q 社外監査役を選任している3月決算会社ですが、平成27年6月総会で社外監査役の任期が切れてしまいます。この場合は、旧要件を満たした社外監査役を選任することで大丈夫でしょうか。また、選任した社外監査役は任期が終了するまでは旧要件のままでよいのでしょうか。
A
社外監査役は旧要件を満たしていればよいことになります。ただし、旧要件が認められるのは、平成28年6月総会までとなります。 すでに社外監査役を選任しているとのことですので、平成27年6月総会で選任する社外監査役は経過措置が適用されるため、旧要件でよいことになります。
ただし、旧要件が適用されるのは平成28年6月総会までとなります。このため、仮に任期途中であっても社外要件を満たさなくなれば社外取監査役とは認められなくなってしまいます。また、改正会社法において社外要件が厳格化されることがわかっていながら旧要件の社外監査役を選任することは株主の理解を得られないことも想定されます。
したがって、平成27年6月総会で社外監査役を選任する場合には、できる限り改正後の社外要件を満たした者であった方がよいかもしれません。
改正会社法における社外取締役・監査役の留意点
改正会社法では社外取締役の義務付けは見送られた。しかし、社外取締役を選任していない上場企業等については、株主総会で「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明することになるほか、事業報告及び株主総会参考書類においてその理由を記載することになる。また、社外取締役及び社外監査役の要件厳格化も行われる。企業の実務においてはそれぞれに留意すべきいくつかのポイントがある。特集ではQ&A形式で解説する。
社外監査役2名選任だけでは理由にならず
Q 「社外取締役を置くことが相当でない理由」(以下、「相当でない理由」)とは具体的にどのような理由が想定されるのでしょうか。社外監査役を2名選任していることは理由になりませんか。
A
「相当でない理由」は、個々の会社の事情に応じて記載しなければならないとされています。ご質問にあるように、社外監査役が2名以上であることのみをもって「相当でない理由」とすることはできないとされています。この点は、改正会社法の法務省令で規定される予定です。 国会での政府参考人の法務省の答弁によると、理由の具体例を示すと形式的な対応を招くおそれがあるとした上、企業が単に社外取締役を置かない理由を説明するだけでは不十分であるとしています。例えば、「社外監査役が2名おり社外者による監査・監督が十分である」「社外取締役に適任者が見当たらない」といった説明では「相当でない理由」の説明にはならないとしており、社外取締役を置くことがかえってその企業にマイナスの影響を及ぼすおそれがあるというような事情を説明しなければならないとしています。
対象企業は上場企業に限らず
Q 社外取締役を選任していない企業は株主総会で「相当でない理由」を説明しなければならないということですが、対象となる企業は上場企業ということでよいのでしょうか。
A
基本的には上場企業が対象となりますが、それに限られません。公開・大会社である監査役会設置会社であって株式についての有価証券報告書提出義務を負う株式会社とされています。 具体的には、「事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの」(改正会社法327条の2)とされています。なお、公開会社とは、発行する株式の一部でも譲渡制限の定款の定めのない会社のことをいいます(会社法2条5号)。
社外取締役選任議案提出でも説明は省略できず
Q 3月決算会社ですが、来年の株主総会で社外取締役を選任する予定です。この場合は、株主総会で「相当でない理由」の説明を省略することができますか。
A
平成27年3月末時点で社外取締役を選任していなければ、平成27年6月総会での説明が求められます。 改正会社法は平成27年4月又は5月の施行が予定されています。このため、社外取締役を選任していない3月決算会社であれば、平成27年6月総会で「相当でない理由」を説明することになります。
ここで留意しなければならないのは平成27年6月総会で社外取締役の選任議案を提出するケースです。この場合、「相当でない理由」の説明を省略することはできません。改正会社法上、事業年度末時点で社外取締役を選任していない場合には「相当でない理由」を説明するとされているからです(改正会社法327条の2、本誌558号40頁参照)。ただし、法務省によると、社外取締役の選任議案を提出している場合には、選任議案を提出していない会社のように詳細な説明を求めることはしないようです。
2年後には社外取締役の選任は義務?
Q 会社法施行から2年後には社外取締役が義務付けられるのでしょうか。
A
義務付けられるわけではありません。 改正会社法では、同法施行後2年を経過した場合において、「社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずる」とされています。現時点では社外取締役選任が義務付けられることは決まっていませんが、場合によっては義務付けも想定されるところです。
社外取締役等、親会社からの受け入れはNG
Q 社外取締役の要件が厳しくなるとのことですが、具体的にどのような見直しがされたのでしょうか。現状、弊社の社外取締役は親会社の総務部長が就任していますが大丈夫でしょうか。
A
改正会社法施行後は親会社からの人材を受け入れることができなくなります。 現行、株式会社の業務執行者等の近親者や、株主会社の親会社の業務執行者等は当該株式会社の社外取締役及び社外監査役になることが可能となっています。しかし、改正会社法では、株式会社の①親会社の業務執行者等、②兄弟会社の業務執行者等、③業務執行者等の近親者についても社外取締役等に就任することはできないこととされています。このため、親会社から人材を受け入れて社外取締役等としていたようなケースについてはアウトになります(図参照)。ただし、通常の取締役として就任することは可能となっています。
また、この改正は社外取締役だけでなく社外監査役についても同様の見直しが行われています。監査役会設置会社については、監査役3名以上のうち半数以上(2名以上)は社外監査役を選任することが義務付けられていますので影響は大きいものといえます。
なお、すでに選任している社外取締役及び社外監査役の要件厳格化については、経過措置が設けられているため、3月決算会社であれば平成28年6月総会において要件の厳格化された社外取締役等を選任すればよいことになります。

社外要件の厳格化で責任限定契約が見直し
Q 責任限定契約のできる取締役等の範囲が拡大されるのでしょうか。
A
取締役(業務執行取締役もしくは執行役又は支配人その他使用人であるものを除く)及び監査役について責任限定契約が締結できるようになります。 現行では社外取締役等として責任限定契約が認められている親会社の関係者などは、要件の厳格化により通常の取締役等となり、その対象から除外されることになってしまうからです。また、最低責任限度額の算定に際して職務執行の対価として受ける財産上の利益の額に乗ずべき数は「2」とされています。
なお、この改正に伴い社外取締役及び社外監査役である旨の登記(会社法911条3項25号・26号)は廃止されることになります。ただし、当該登記に係る取締役又は監査役の任期中に限り登記の抹消は要しないこととされています(改正会社法附則22条2項)。
親会社のOBは社外取締役等に就任可能
Q 親会社の業務執行者等は子会社の社外取締役等に就任することができないとのことですが、1年前に退職した親会社のOBは社外取締役等に就任できますか。
A
過去要件はありませんので、就任することが可能です。
来年の株主総会で初めて選任する社外取締役は新要件
Q 平成27年6月総会で初めて社外取締役を選任する予定です。社外取締役の要件厳格化については経過措置が設けられているため、旧要件を満たしていればよいのでしょうか。
A
社外取締役を初めて選任する場合は新要件を満たしておく必要があります。 前述した通り、改正会社法については平成27年4月又は5月からの施行が予定されていますが、社外取締役等の要件厳格化については一定の経過措置が設けられています。このため、3月決算会社であれば平成28年6月総会で要件が厳格化された社外取締役等を選任すればよいことになります。
しかし、ご質問のように平成27年6月総会で社外取締役を初めて選任する場合には経過措置が適用されません。改正会社法附則4条は、「この法律の施行の際現に旧会社法第二条第十五号に規定する社外取締役又は同条第十六号に規定する社外監査役を置く株式会社の社外取締役又は社外監査役については、この法律の施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結の時までは、新会社法第二条第十五号又は第十六号の規定にかかわらず、なお従前の例による。」とされています。
簡単にいえば、経過措置が適用されるのは改正会社法の施行時に選任されている社外取締役及び社外監査役が対象になるからです。このため、新たに社外取締役を選任する場合には、厳格化された新要件が適用されることになります。
任期途中で社外要件を満たさないことに
Q 社外監査役を選任している3月決算会社ですが、平成27年6月総会で社外監査役の任期が切れてしまいます。この場合は、旧要件を満たした社外監査役を選任することで大丈夫でしょうか。また、選任した社外監査役は任期が終了するまでは旧要件のままでよいのでしょうか。
A
社外監査役は旧要件を満たしていればよいことになります。ただし、旧要件が認められるのは、平成28年6月総会までとなります。 すでに社外監査役を選任しているとのことですので、平成27年6月総会で選任する社外監査役は経過措置が適用されるため、旧要件でよいことになります。
ただし、旧要件が適用されるのは平成28年6月総会までとなります。このため、仮に任期途中であっても社外要件を満たさなくなれば社外取監査役とは認められなくなってしまいます。また、改正会社法において社外要件が厳格化されることがわかっていながら旧要件の社外監査役を選任することは株主の理解を得られないことも想定されます。
したがって、平成27年6月総会で社外監査役を選任する場合には、できる限り改正後の社外要件を満たした者であった方がよいかもしれません。
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