解説記事2014年11月10日 【ニュース特集】 海外ジョイント口座の相続・課税問題Q&A(2014年11月10日号・№570)

富裕層に人気の海外預金、相続税や国外財産調書の取扱いは?
海外ジョイント口座の相続・課税問題Q&A

 いよいよ来年1月に迫った相続税の課税強化(基礎控除4割縮小、最高税率引上げ)により相続税に対する関心が高まっている。そうしたなか、海外を行き来する富裕層などが海外の銀行で「ジョイント口座」を開設するケースが目立ってきている。
 だが、このジョイント口座は、相続をめぐる問題や日本の課税上の取扱いなどについて不明確な点が多い。この点に関し、本誌564号8頁でお伝えした裁判事案(現在、東京高裁で審理中)では、ジョイント口座の相続をめぐる問題についての判断が示されている。控訴審で判断内容が変更される可能性はゼロではないが、本特集では、この裁判事案に基づく取材等により、ジョイント口座の基礎やメリット、さらには相続をめぐる問題についてQ&A形式で解説する。また、併せて国外財産調書における取扱いもQ&A形式で解説したい。

基礎編

Q1
ジョイント口座(ジョイント・アカウント)とは?
 ジョイント口座とはどのようなものですか。日本の金融機関でも開設することができるのでしょうか。
A  ジョイント口座(ジョイント・アカウント)とは、2名以上の名義人(共同名義人)で開設する銀行の預金口座のことです。海外では、一般的に夫婦や親子が生活費などを共有するためにジョイント口座を開設するケースが多いようです。各々の共同名義人は、ジョイント口座から自由に預金を引き出すことができます。
 なお、「共同名義預金」は日本の法制度上、認められていないため、日本の金融機関でジョイント口座を開設することはできません。


Q2
ジョイント口座開設のメリット
 ジョイント口座を開設した場合のメリットを教えてください。
A  被相続人が海外預金を単独名義で所有しているケースでは、その海外預金を相続人名義に変更するためには「プロベート(海外の裁判所による遺産管理手続き)」と呼ばれる手続きが必要となる場合があります。
 しかし、ジョイント口座であれば、共同名義人(被相続人)が死亡すると、その口座残高は自動的に生存名義人に移転されるため、「プロベート」と呼ばれる手続きを回避することができるというメリットがあります。
 また、単独口座では、銀行口座の名義人が死亡するとその口座が「凍結」されてしまうことがあるため、相続人が被相続人名義の口座から預金を引き出せないという問題が生じます。
 しかし、ジョイント口座であれば、その口座残高は自動的に生存名義人に移転されるため、被相続人の死亡による口座の「凍結」という問題を回避することができます。

相続・課税問題編

Q3
共同名義人の1人が死亡、ジョイント口座は誰のものに?
 私(妻)と夫は、2人を共同名義人とするジョイント口座を開設していましたが、夫の死亡により、ジョイント口座の残高(夫が全額拠出)の生存名義人は私のみとなりました。夫(被相続人)の相続人は、私と子の2人です。ジョイント口座の残高の取得者について、本誌564号8頁の裁判事案ではどのように判断されたのでしょうか。
A  米国ハワイ州で開設されたジョイント口座が被相続人の相続財産に含まれるか否かが争われた訴訟で裁判所は、ハワイ州法では共同名義人の一人の死亡により生存名義人が自動的に死亡名義人の財産を所有するとされていることなどを踏まえると、ジョイント口座は相続の客体とはなり得ないため、被相続人の“私法上の相続財産”を構成しないと判断しています(東京地裁平成26年7月8日判決)。
 この裁判事案は、ジョイント口座(ハワイの銀行で被相続人が配偶者と共同の名義で開設したもの)をめぐり、生存名義人である配偶者(被告)に対し、子(原告)が相続分相当額の支払いを請求した訴訟です。裁判所は、ジョイント口座は被相続人の“私法上の相続財産”を構成しないと判断したうえで、生前名義人である配偶者(被告)に対し相続分相当額の支払いを請求していた子(原告)の請求を斥けています(参照)。
 裁判所は、ハワイのジョイント口座の残高の取得者は生存名義人(配偶者)であると判断しました。


Q4
ジョイント口座と日本の相続税
 私(妻)と夫は、2人を共同名義人とするジョイント口座を開設していましたが、夫(被相続人)の死亡により、生存名義人である私がジョイント口座の残高(夫が全額拠出)を取得しました。
 Q3の裁判事案(本誌564号8頁)では、ハワイのジョイント口座の残高を取得した生存名義人(被相続人の配偶者)に対し、日本の相続税が課税されていたとのことですが、相続税が課税されるに至った経緯などを教えてください。
A  Q3で紹介した裁判事案のなかで税務当局は、共同名義人(被相続人)の死亡により生存名義人である配偶者(以下「納税者」)が取得したジョイント口座の残高全額について、日本の相続税の課税対象になると判断しています。
 具体的にみると、裁判事案の納税者は当初、ジョイント口座の非相続性により、ジョイント口座は相続税の課税対象には含まれないと考えていました。
 しかし、納税者に対する相続税調査の際に、税務当局は、ジョイント・テナンシーに関する課税上の取扱い(次頁の質疑応答事例を参照)と同様、ジョイント口座についても、私法上相続性はないものの、税務上は含有名義人に対する死因贈与(遺贈)に当たると主張。
 この主張を受け納税者は、共同名義人(被相続人)の死亡により納税者が取得したジョイント口座の残高全額(約4,000万円・被相続人が全額拠出)を相続税の課税対象とする内容の相続税の修正申告書を提出しています。


【質疑応答事例】  ハワイ州に所在するコンドミニアムの合有不動産権を相続税の課税対象とすることの可否
【照会要旨】  被相続人は、米国ハワイ州に所在するコンドミニアムを相続人(長男)と合有の形態(ジョイント・テナンシー)で所有していました。ハワイ州の法律によるとこの所有形態では、合有不動産権者のいずれかに相続が開始した場合には、生存合有不動産権者がその相続人であるか否かにかかわらず、また、生存合有不動産権者がその相続人であったとしてもその相続分に関係なく、その持分が生存合有不動産権者(本件の場合には長男)に移転することとされています。
 この場合、被相続人の合有不動産権は、相続税の課税対象となりますか。
【回答要旨】  合有不動産権は、ある不動産を取得する際に、当事者間で合有不動産権を創設しようとする契約上の合意により創設されるものであり、その合意は、お互いに「自分が死んだら、生存合有不動産権者に合有不動産の権利を無償で移転する。」という契約、すなわち、実質的な死因贈与契約であるとみることができます。
 したがって、合有不動産権者の相続開始によるその持分の他の生存合有不動産権者への移転は、死因贈与契約により取得したものといえ、相続税の課税上は、死因贈与(遺贈)による取得として相続税の課税対象になると考えられます。
(注)合有不動産権とは、同一の不動産に関する同一の譲渡行為によって、2名以上の者が同時に始期を開始する同一の権利を共同所有するという不動産権(joint tenancy)であり、共有不動産権と異なり、権利者のうちある1人が死亡した場合には、その権利は相続性を持たず(遺言による変更も不可)、その権利は生存者への権利帰属(survivorship)の原則に基づいて生存合有不動産権者に帰属することとされています。
 (「国税庁ホームページ」より抜粋)

Q5
ジョイント口座に対する遺留分減殺請求は可能か?
 私の父は、その遺産のすべてを配偶者である母に相続させる旨の遺言を残して死亡したため、私は母に対し遺留分減殺請求を行うことを考えています。
 ところで、父は生前に、父と母を共同名義人とするジョイント口座を開設していました。父の死亡により、ジョイント口座の残高全額を生存名義人である母が取得しています。
 ジョイント口座は被相続人の“私法上の相続財産”を構成しない(Q3参照)と判断されたそうですが、ジョイント口座は遺留分減殺請求の対象にもならないのでしょうか。
A  Q3で紹介した裁判事案で裁判所は、遺留分算定の基礎となる資産の範囲に被相続人が保有していたジョイント口座の残高が算入される余地があることを示唆しています。
 また、実際に被相続人(死亡名義人)の死亡により相続人(生存名義人)が取得したジョイント口座の残高に対し、ほかの相続人が提起した遺留分減殺請求を認めた裁判事例があります(東京地裁平成19年3月28日判決)。
 これらの点を踏まえると、ジョイント口座の残高が遺留分減殺請求の対象となる余地はあるといえそうです。

国外財産調書関係編

Q6
ジョイント口座と国外財産調書
 私(夫)と配偶者(妻)は、2人を共同名義人とするジョイント口座を開設しています。私が国外財産調書を提出する場合、ジョイント口座の残高(私が全額を拠出)をどのように記載すればよいのでしょうか。なお、私は、ジョイント口座のほかに5,000万円超の国外財産を所有しています。
A  国外財産調書に記載する国外財産が共有財産である場合は、①その共有財産の持分が定まっている場合にはその財産の価額を持分に応じて按分した価額、②持分が定まっていない場合(持分が明らかでない場合を含む)には各共有者の持分は相等しいものと推定し、その推定した持分に応じて按分した価額を国外財産調書に記載することになります。
 本誌取材によると、一般的にジョイント口座などの共有形態で保有する財産については持分が定まっている場合には、その持分に応じて按分した価額を国外財産調書に記載することになります。また、ご質問のケースで、ジョイント口座の持分が定まっていない場合(明らかでない場合を含む)には、ジョイント口座の残高の2分の1相当額を国外財産調書に記載することになります。

【参考】
(共有財産の持分の取扱い)
5-12
 共有の財産については、以下のとおりとする。
(1)共有の財産の持分の価額は、その財産の価額をその共有者の持分に応じてあん分した価額とする。
(2)共有の財産について、共有する者のそれぞれの持分が定まっていない場合(持分が明らかでない場合を含む。)には、その財産の価額は、各共有者の持分は相等しいものと推定し、その推定した持分に応じてあん分した価額とする。
 (「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律 (国外財産調書関係)の取扱いについて(法令解釈通達)」から一部抜粋)

【共有財産の価額】
Q29 外国に別荘を保有していますが、その別荘は配偶者との共有財産として取得しており、持分が明らかではありません。このような財産の価額はどのような方法で算定すればよいのですか。
(答)
○ 国外財産調書に記載する国外財産が共有財産である場合は、その財産の価額は次により算定します(通達5-12)。
① 持分が定まっている場合
  その財産の価額をその共有者の持分に応じてあん分した価額
② 持分が定まっていない場合(持分が明らかでない場合を含む。)
  その財産の価額を各共有者の持分は相等しいものと推定し、その推定した持分に応じてあん分した価額
○ したがって、持分が明らかでない共有財産である別荘の価額については、各共有者の持分は相等しいものと推定し、その時価又は見積価額の2分の1の価額を国外財産調書に記載します。
 (「国外財産調書の提出制度(FAQ)平成25年11月 国税庁」から一部抜粋)

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