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解説記事2014年12月08日 【上場制解度説】 ライツ・オファリングに係る新株予約権証券の上場制度の見直し(2014年12月8日号・№574)

上場制解度説
ライツ・オファリングに係る新株予約権証券の上場制度の見直し
 東京証券取引所上場部 企画担当調査役 佐藤寿彦

Ⅰ はじめに

 株式会社東京証券取引所(以下「東証」という。)は、平成26年9月3日付で公表した「新株予約権証券の上場制度の見直しについて」と題する要綱に基づいて、有価証券上場規程等の一部を改正(以下「本改正」という。)し、同年10月31日付で施行している(脚注1)。
 本改正は、東証の上場制度に係る諮問機関である上場制度整備懇談会が平成26年7月25日付で公表した「我が国におけるライツ・オファリングの定着に向けて」(脚注2)(以下「報告書」という。)の提言を踏まえ、ライツ・オファリングに係る新株予約権の上場基準等の見直しを行ったものである。
 本稿では、ライツ・オファリングの仕組みの概要を紹介しつつ、本改正のポイントを解説する。なお、本稿の意見にわたる部分は筆者の個人的見解である。

Ⅱ ライツ・オファリングとは
 ライツ・オファリングは、会社が株主に対して譲渡可能な新株予約権を無償で割り当てて行う増資手法である。
 【図表1】は、ライツ・オファリングによる増資の仕組みを図示したものである。会社は、あらかじめ定められた金額を支払うことで株式の発行を受けられる権利(新株予約権)を、保有する株式数に応じて株主に無償で割り当てる。株主は、自ら新株予約権を行使して(払込みをして)株式の発行を受けることができるし、(新株予約権証券が上場されれば)新株予約権を市場で売却してその対価を得ることもできる。新株予約権を行使も売却もしない(放棄する)こともできるが、この場合に証券会社が未行使分の新株予約権を引き受けて払込みを行う類型をコミットメント型ライツ・オファリングといい、そうした証券会社が存在せず未行使の新株予約権は失権する類型をノンコミットメント型ライツ・オファリングという。

 株主に自ら増資に応じるか新株予約権を市場売却するかの選択肢がある点が、ライツ・オファリングの特徴である。株主が自ら増資に応じて持分比率を維持する選択肢がある点で公募や第三者割当と異なり、自ら増資に応じない株主に新株予約権を売却する選択肢がある点で従来型の株主割当増資とも異なる。これまで我が国における増資手法として広く利用されてきた公募や第三者割当に対しては、株主持分が希薄化するとの批判があり、株主が自ら増資に応じることでその持分比率を維持することもできるライツ・オファリングの普及を求める声が内外の投資家から上がっており、我が国でも近年になってライツ・オファリングによる増資の事例が増加してきた。

Ⅲ 本改正の背景
 本改正の契機となった上場制度整備懇談会の報告書では、我が国におけるライツ・オファリングの現状と問題点について、おおむね以下のような分析をしている。

1 現  状  我が国におけるライツ・オファリングの実施状況には、以下のような特徴がある。
・ノンコミットメント型ライツ・オファリングが実施事例の9割を占め、主流となっている【図表2】

・公募や第三者割当と比較して、業績の優れない会社がノンコミットメント型ライツ・オファリングを利用している傾向が明らかである【図表3】

・新株予約権の権利行使割合が高いものとなっている。また、新株予約権の売買回転率は平均して100%を上回る高い水準となっている。このように新株予約権が市場で多く売買され、権利行使割合も高いことからは株主以外の第三者による権利行使が盛んに行われていることが推測される。
・新株予約権の市場価格が理論価格と比して割安となる傾向が顕著である。かかる乖離は権利行使期間の開始後には縮小する傾向がある。

2 問題点  上述の現状を踏まえ、報告書は、ライツ・オファリングについて2つの問題を提起している。
(1)ノンコミットメント型ライツ・オファリングの構造上の問題点(問題点1)  ノンコミットメント型ライツ・オファリングには、客観的な立場からその合理性を評価する仕組みが確保されていないという問題がある。
 公募やコミットメント型ライツ・オファリングであれば証券会社による引受審査が実施されるし、第三者割当であれば割当先によるデュー・デリジェンスが行われる。これに対して、ノンコミットメント型ライツ・オファリングではそうした合理性を評価するプロセスが存在しない。
 新株予約権の割当てを受けた株主は、増資が合理的と評価しない場合には、自ら増資に応じずに新株予約権を市場で売却する。これを市場で買い取る投資家は、増資を合理的だと評価しない場合であっても、新株予約権の市場価格がその理論価格より割安であれば、増資の合理性とは無関係に、裁定取引として新株予約権を買い取って権利行使することで利益を得ることができる。したがって、ノンコミットメント型ライツ・オファリングによれば、増資が合理的であると評価する者がいない中でも、新株予約権が行使され払込みが行われ得るという、構造的な特殊性がある。増資の合理性が評価されないままにディスカウントされた払込金額で大量の新株が発行されれば不利益を被るのは株主である。
(2)新株予約権の価格形成上の問題点(問題点2)  我が国では、新株予約権の市場価格が理論価格と比べ割安となる傾向が顕著である。こうした価格差が継続的に存在することによって、増資の合理性と無関係に権利行使がなされるという上述の問題が助長されている可能性もある。新株予約権の行使期間の開始後には価格の乖離が是正される傾向にあることから、報告書は、行使期間の開始前には裁定取引を行うために必要な貸株の供給が不十分であるために新株予約権の買い需要が十分に顕在化しておらず、その結果、価格に乖離が生じたままとなっていると推測されるとしている。

Ⅳ 本改正のポイント

1 ノンコミットメント型ライツ・オファリングに係る上場基準の見直し
 上述の問題点1に対応するため、本改正では、報告書の提言に沿って、ノンコミットメント型ライツ・オファリングの場合における新株予約権証券の上場基準を改正している。具体的には、(1)増資の合理性を評価するプロセスとして、証券会社による審査がなされたこと、又は、株主総会決議などによる株主の意思確認によって株主の承認を得たことを、上場基準に追加した。また、(2)上場会社が一定の業績基準を満たしていることも併せて求める。
(1)増資の合理性を評価するプロセスの導入
 ① 証券会社の審査
 本改正では、公募やコミットメント型ライツ・オファリングにおける引受審査のようなプロセスが存在しないという問題に対する制度上の対応として、ノンコミットメント型ライツ・オファリングにおいても証券会社によって引受審査に準じる審査がなされたことを上場基準に含めることとした。こうした審査を行う証券会社は東証の取引参加者に限るものとし、ライツ・オファリングの実施に係る適時開示において審査を実施した証券会社名を公表することも求める。
 ② 株主の意思確認  合理性が評価されないままに新株が発行されることによって不利益を被るのは株主であるため、株主総会決議(いわゆる勧告的決議)などによって株主の承認を得たことも、(証券会社による審査と並ぶ)増資の合理性を評価するプロセスとして上場基準に含めることとしている。
(2)業績基準  証券会社の審査と株主の意思確認のいずれについても、増資の合理性を評価する者が経済的リスクを負わないために評価のプロセスが無責任なものとなるおそれがある。これに対応するため、業績基準も導入された。
 まず、証券会社の審査については、通常の引受審査とは異なり、ノンコミットメント型ライツ・オファリングでは審査を行った証券会社が未行使分について払込みを行う責任を負うわけではなく、無責任な審査がなされるおそれがある。
 株主の意思確認についても、株主有限責任制度の下では、株主は保有株式が無価値になる限度でしか経済的リスクを負わないため、業績が悪化して株価が低迷している状況下では、不合理な資金使途であっても自ら払込みを行わない限りは株主が負う経済的リスクは限られている。他方、自分以外の誰かが払込みに応じて企業価値が回復する可能性が僅かでも存在するのであれば、他人のリスクで自らもリターンが得られることになる。このため、株主は合理性を吟味することなくライツ・オファリングの実施に賛成する可能性があり、株主の承認についても無責任なものとなるおそれがある。
 こうしたおそれを踏まえ、本改正では、通常であれば引受審査を通過できない業績水準をもって上場の足切基準としている。
 公募増資における実績に照らし、具体的には、上場会社が①「最近2年間において利益の額が正である事業年度がないこと」及び②「上場申請日の直前事業年度又は直前四半期会計期間の末日において債務超過であること」のいずれにも該当しないことを求めている。

2 新株予約権証券の上場日  本改正では、上述の問題点2に対応するため、裁定取引のための借株が容易になると考えられる行使期間の開始後に新株予約権を上場させることとしている。ただし、こうした上場日の取扱いの変更は平成26年改正会社法の施行の日から適用されるため、新株予約権無償割当ての効力発生日を行使期間の初日とすれば(脚注3)、これまでと同様、新株予約権無償割当ての効力発生日から新株予約権証券を上場させることができる。

Ⅴ 上場審査等に関するガイドラインの整備

1 意義と背景
 本改正と併せて、「上場審査等に関するガイドライン」も改正された。従来から新株予約権証券の上場基準には「公益又は投資者保護の観点から、その上場が適当でないと認められるものでないこと」(以下「本要件」という。)が含まれていたが、この運用基準を明確化するものである。
 なぜ、こうした改正が必要なのか。本要件が示す公益又は投資者保護という理念は抽象的なため、結局どのような場合にこの要件に抵触するのかについて上場会社が具体的に予見することは困難であり、運用も謙抑的にならざるを得なかった。しかしながら、総会決議時点では新株予約権を行使すると表明した大株主が行使期間の終了直前になって新株予約権の行使の意思を撤回する等、投資者の信頼を損ねるおそれのある大株主の行動等に対応する東証の実務運用が報告書で求められたことを受け、本要件の運用の在り方を見直すとともに、運用上の観点を具体的に示すことで関係者の予見可能性の向上に役立てることとしたものである。

2 従来の運用基準の明確化と充実
(1)上場廃止のおそれがある場合に係る運用(ノンコミットメント型の場合)
 以前から、新株予約権の目的となる株式が上場廃止となるおそれがある場合(上場廃止が決定されて整理銘柄に指定されている場合や上場廃止のおそれがあるとして監理銘柄に指定されている場合)には、本要件によって上場を認めないものとしていた。これに加え、今回のガイドライン改正では、上場廃止が猶予又は留保されている場合(上場廃止のいわゆる猶予期間内にある場合や特設注意市場銘柄に指定されている場合)も本要件で否定的に評価されることを明確化した。
 この観点は、ノンコミットメント型について、特に明示されたものである。
(2)権利行使に制限を設ける場合に係る運用(コミットメント型とノンコミットメント型に共通)  また、従来から、新株予約権の権利行使に制限を設ける場合にそうした制限を行う必要性及び相当性が認められないことが明らかなときには、本要件によって上場を承認しないものとしてきた。今回のガイドライン改正ではかかる観点についても明示している。
 この観点は、コミットメント型とノンコミットメント型の両方に共通である。

3 本改正で導入された上場基準に係る運用基準  今回のガイドライン改正では、本改正で導入されたノンコミットメント型ライツ・オファリングに係る新株予約権証券の上場基準に関連する本要件の運用についても上場審査の観点を示している。
(1)株主の意思確認手続きに関連する運用(ノンコミットメント型の場合)  株主の意思確認手続きにおいて、上場会社の主要株主である取締役又は支配株主(以下「支配株主等」という。)による濫用的な議決権行使(意思確認手続き)が行われていないかという審査の観点を明示した。
 こうした濫用的な手続きが行われた場合として、具体的な2つの状況が示されている。ひとつめは、支配株主等が調達資金の使途に関して特別の利害関係を有している場合に、当該支配株主等を除く株主の過半数の同意を得られていないときである。
 ふたつめは、自らは権利行使して持分比率を維持する意向を示していない支配株主等がいる場合に、当該支配株主等を除く株主の過半数の同意を得られていないときである。自身は増資にコミットしない支配株主等が議決権を行使したことによって可決した場合でも株主の意思確認の要件を満たすこととしたのでは、株主による増資の評価が形骸化するためである。
(2)その他(ノンコミットメント型の場合)  上場会社が業績基準に抵触しているのと実質的に同視できる場合も本要件に抵触することを明確化した。業績基準は形式基準であるが、ファイナンス期間中に公表予定の決算発表で債務超過への転落が予定されている場合等、形式的に基準を適用するだけではその趣旨に沿わない結果となることもあり得るため、そうした場合には本要件を適用して実質的な観点から補完する趣旨である。

脚注
1 平成26年10月24日付で規則改正の新旧対照表が公表されている。
2 東証のウェブサイト(http://www.tse.or.jp/listing/seibi/discussion.html)参照。
3 改正会社法の施行によって、行使期間の開始の2週間前までに割当通知を行わなくてはならない制約がなくなるため、会社法上こうした行使期間の設定も可能となる。

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