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解説記事2015年01月26日 【未公開裁決事例紹介】 執筆・講演等の所得は雑所得に該当と判断(2015年1月26日号・№580)

未公開裁決事例紹介
執筆・講演等の所得は雑所得に該当と判断
審判所、事業所得とする請求人の主張を退ける

○大学の准教授である審査請求人の執筆・講演等から生じる所得について、審判所が雑所得に該当すると判断した事例(東裁(所)平26第24号:平成26年9月1日裁決)。

事案の概要  請求人は、平成19年3月29日付で×××に所在する×××と労働契約を締結し、同年4月1日から××が設置する××の××において任期付の准教授として勤務している。 
 請求人は、平成21年ないし平成23年において、×××において准教授として勤務し、また、関東地方に所在する他の大学において非常勤講師を務める傍ら、執筆および講演等の業務に従事した(以下、准教授または非常勤講師の職務として請求人が行ったものを除いて、請求人の従事した執筆および講演等の業務を「本件業務」という)。なお、請求人が×××で講義を行っていた科目は、憲法、行政法および情報法等である。
 請求人は、本件各年分の所得税について、本件業務から生じる所得は事業所得に該当するとした上で、総収入金額、必要経費をそれぞれ算定して、事業所得の金額を×××とする確定申告をした。
 原処分庁は、本件業務から生じる所得は雑所得に該当するとした上で、総収入金額、必要経費をそれぞれ算定して、雑所得の金額を×××とする本件各更正処分等を行った。
 なお、請求人は、当審判所に対し、請求人の主張する必要経費の額の明細として、各支出の支出日、支出金額、支払先および支出の内容等を記載した必要経費の明細書を提出した(以下、請求人が審査請求において必要経費に該当する旨主張する別表5-2(編注:略)記載の各支出を総称して「本件各支出」という)。

争点および主張  本事案の主な争点は、①更正の理由の提示に不備があるか否か(今号特集参照)。②本件業務は、所得税法27条《事業所得》1項に規定する事業に該当するか否か。③本件各支出の額は、本件業務に係る所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。
 争点②に係る当事者の主張は、のとおり。
【表】
原 処 分 庁 請 求 人
 本件業務は、次のとおり所得税法27条1項に規定する事業に該当しない。
イ 事業所得を生じさせる対価を得て継続的に行う事業とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務を遂行することをいうものと解され、また、営利を目的として継続的に行われる事業であるというためには、通例、事業所が設置され、人的物的要素が結合した経済的組織体を有し、また、主として本業として営まれるものであって、継続的に相当程度安定した収益が得られる可能性があることが必要である。
ロ 本件業務は、以下で述べることからすれば、営利を目的として継続的に行われる事業であるということはできず、事業所得を生じさせる対価を得て継続的に行う事業に当たるものとは認められない。
(イ)自己の計算と危険における事業遂行性の有無等について
  請求人は、自らの専門分野について×××の准教授として研究を行い、これに基づいて相当額の給与収入を得るとともに、当該研究により得られる知識や経験、研究結果を生かし、本件業務を行っていたと認めるのが相当であり、加えて、本件業務が、主として同大学准教授の肩書を用いてなされていたと認められることからすれば、客観的には、本件業務による収入は、請求人の大学の准教授としての研究業績から派生した副次的な収入金額であると認めるのが相当である。そして、請求人が、給与収入によって生計を賄っていたことは請求人自身が主張において述べていることからすれば、本件業務について自己の計算と危険における事業遂行性は乏しいと認められる。
(ロ)使用人の雇用および物的設備の有無について
  請求人は、パソコン等の備品を使用して本件業務を行っていたと認められるものの、それ以外の物的設備を有しておらず、その業務の内容からみてその必要性もないこと、また、本件業務のために使用人を雇っていないことから、事業所を設置していると認めるほどの人的・物的設備を有していたとはいえない。
(ハ)収益安定性の有無について
  請求人が本件業務に係る所得の金額であるとして確定申告をした金額は、平成21年分が××の損失、平成22年分が××の損失および平成23年分が××の損失であり、また、原処分後においても、平成21年分が×××、平成22年分が×××および平成23年分が×××であることからすれば、本件業務は、継続的に相当程度安定した収益が得られる可能性があったと認めることはできない。
 本件業務は、次のとおり所得税法27条1項に規定する事業に該当する。
イ 所得税法上の事業とは、個人が事業を行う目的で活動し、その目的を達成する意思でその活動を遂行することをいうところ、請求人は著述業を行う目的を持って、その目的を達成する意思で著述業を行っていたのであるから、本件業務は、所得税法施行令63条11号に規定する「著述業その他のサービス業」に該当する。
  なお、請求人の主な事業は著述業であるが、付随業務である講演活動なども事業に含まれる。
ロ 原処分庁は、本件業務が事業に当たるか否かについて、収支が赤字であること、設備の有無および使用人の有無等で判断しているが、以下で述べるとおり、その判断は原処分庁の主観的な認識である。
(イ)自己の計算と危険における事業遂行性の有無等について
  原処分庁は、本件業務による収入は副次的な収入金額であることおよび請求人が給与収入によって生計を賄っていたことにより本件業務の自己の計算と危険における事業遂行性は乏しい旨主張するが、本件業務の企画性が乏しかったという点は赤字という事実で証明がされてはいるものの、ビジネスの現場では本業よりも副次的な収入が多い場合もある上に、収入が多いか少ないかで主たる職業の判断をすることは根拠がないから、原処分庁の当該主張は主観的である。
  なお、本件各通知書の「処分の理由」欄には、請求人の精神的・肉体的労力の程度について、週の大半は、×××での講義あるいはその準備に費やされていると認められる旨記載されているが、このような断定はできないはずである。
(ロ)使用人の雇用及び物的設備の有無について
  原処分庁は、請求人がパソコン等の備品を使用して本件業務を行っていたことを認めている。
  また、原処分庁は、請求人は本件業務のために使用人を雇っていない旨主張するが、赤字状況下で人を雇用できないのは普通である。
(ハ)収益安定性の有無について
  原処分庁は3年間連続で赤字であることを理由に本件業務は継続的に相当程度安定した収益が得られる可能性がない旨の主張をしているが、数年間赤字だとなぜこのような判断ができるのか、その根拠が不明である。

審判所の判断
争点②(本件業務は、所得税法27条1項に規定する事業に該当するか否か)について 
 イ 法令解釈
 所得税法27条1項は、事業所得について、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得である旨規定し、その委任を受けた所得税法施行令63条において、事業所得の事業に当たるものとして、11項目にわたり業種を例示するとともに、その他対価を得て継続的に行う事業がこれに当たる旨規定している。
 このように、所得税法27条1項および所得税法施行令63条に規定する「事業」については、その意義自体について一般的な定義規定を置いていないところ、その意味するところは、自己の危険と計算において独立して行う業務であり、営利性・有償性を有し、かつ、反復継続して業務を遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められるものであると解される。
 そして、ある所得が事業所得に当たるか否かを判断するに当たっては、当該所得が社会通念上「事業」といえる程度の規模・態様においてなされる営利性、有償性、反復継続性をもった活動によって生じる所得か否かによって判断すべきであり、この場合において「事業」といえる程度の規模・態様においてなされる活動といえるかどうかは、自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無、その者の精神的肉体的労務の投入の有無、人的・物的設備の有無、その者の職業・経験および社会的地位等を総合的に勘案して判断すべきである。 
 ロ 認定事実  原処分関係資料、請求人の答述、当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成21年ないし平成23年において、別表6(編注:略)に記載したとおりの各講義および各講演を行った。また、請求人は、平成20年ないし平成24年において、別表7(編注:略)に記載した各著作物を執筆した。なお、これらの業務に関し、取引相手が経費を負担するような契約は締結されていない。
(ロ)請求人の平成21年ないし平成23年における1週間の大まかなスケジュールは、月曜日が××から××への移動日、火曜日の午後から木曜日の午後までが×××での講義、金曜日が××や××等関東地方に所在する他の大学での講義というものであった。
(ハ)請求人は、執筆した原稿について、出版されたものおよび出版されなかったもののいずれも書面またはデータとして残しておらず、また、作品タイトルの一覧表のようなものも保存していない。
(ニ)請求人は、各著作物の大半で×××准教授の肩書を用いている。
(ホ)請求人は、当審判所に対し、平成24年3月20日付の××に掲載された「×××」の執筆に関し医療関係者を取材した旨答述したが、請求人が、具体的にいつ、どこで、どのような取材活動をしたのかを示す客観的な証拠はない。
(へ)請求人は、当審判所に対し、専門分野等に関係する執筆のほかに著述業の対象としたジャンルは歴史法制史あるいは歴史ミステリーに関係する分野である旨答述したが、この分野の著述に係る収入はなく、また、請求人がこれらについて実際にどのようなテーマの原稿を執筆したのかを示す客観的な証拠もない。
  また、請求人は、当審判所に対し、上記歴史法制史あるいは歴史ミステリーの分野の執筆に関し、主に京都や奈良で、7年くらいの期間にわたり、文献に当たったり、神社仏閣等を訪れたり、地元の人に会ったりするなどの取材活動をした旨あるいは××近辺の神社や玉川上水等を取材した旨それぞれ答述するが、請求人が、具体的にいつ、どこで、どのような取材活動をしたのかを示す客観的な証拠はない。
(ト)請求人は、当審判所に対し、何もせずに出版社等から執筆の依頼が来るということはなく、出版社に原稿を持ち込むなどして売り込みをするうちに担当者に顔を覚えてもらうことができて、そのうちに少しずつ執筆の依頼が来るようになった旨および著述業に関する営業活動は主に東京で行った旨それぞれ答述するが、請求人が、具体的にいつ、どこで、どのような営業活動を行ったのかを示す客観的な証拠はない。
  また、請求人は、当審判所に対し、営業活動に関して、原稿の売り込みは目次と1章くらいまでの原稿を出版社等に持ち込んで、始まりから終わりまでのストーリーを担当者に伝えていた旨を答述するが、こうした営業活動を行った事実を裏付ける出版社等の担当者の名刺や持ち込んだ原稿等の提示はなく、請求人が具体的にいかなる営業活動を行ったのかを示す客観的な証拠はない。
(チ)請求人は、当審判所に対し、請求人は手帳を使用しておらず、大学に設置され、毎月書き換えられるホワイトボードに日程を記載してスケジュールの管理を行っていた旨答述しており、請求人が本件業務に関し具体的にどのような日程やスケジュールで活動を行っていたのかを示す客観的な証拠はない。
(リ)請求人は、パソコンやプリンター等の備品を使用して本件業務を行っていたが、それ以外の物的設備は有しておらず、また、本件業務のために使用人を雇っていない。
(ヌ)請求人が本件各年分に×××から得た給与収入は、平成21年分が×××、平成22年分が×××、平成23年分が×××である。
 ハ 当てはめ (イ)まず、本件業務が、営利性、有償性、反復継続性をもつか否かについて判断すると、請求人は、本件各年分において継続して執筆、講義および講演の活動を行い、これらの活動から各収入を得ていた上に、請求人が利益を得ることを目的とせずに本件業務を行っていたことをうかがわせる事情も認められないことからすれば、本件業務は、営利性、有償性、反復継続性をもった活動ということができる。
  したがって、本件業務から生じる所得は、営利性、有償性、反復継続性をもった活動によって生じた所得と認められる。
(ロ)次に、本件業務が、「事業」といえる程度の規模・態様においてなされた活動といえるか否かについて判断すると、自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無、請求人の精神的肉体的労務の投入の有無、人的・物的設備の有無、請求人の職業・経験および社会的地位は、以下のとおりである。 
A 自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無  本件業務による収入は、不定期に生じてはいるものの、上記の(イ)のとおり、執筆活動に類型的に必要と考えられる取材活動や営業活動の経費が請求人の負担とされていることからすると、本件業務は自己の計算と危険において行われているというべきである。
 もっとも、請求人は、本件業務に必要な取材活動や営業活動を行っていた旨答述するが、そのことを裏付ける証拠等は一切なく、これらの取材活動や営業活動の事実は認め難く、少なくとも企画遂行性に乏しいというべきである。
 また、請求人は、専門分野等に関する執筆のほかに歴史法制史関係あるいは歴史ミステリーに関係する分野の原稿を執筆した旨答述するが、それを裏付ける書面およびデータは残っておらず、作品タイトルの一覧表のようなものも保存されておらず、また、実際にこれらの内容の執筆を行ったことによる収入金額もないため、これらの内容の原稿を執筆していたとは認められない。
 以上からすると、本件業務は自己の計算と危険においてされているということはできる。しかしながら、請求人が実際に本件業務に関し取材活動や営業活動を行っていたとは認め難いか、または執筆に至った事実が認められないものであることからすれば、その企画遂行性は、仮にあったとしても乏しいものにとどまっていたと認められる。
B 精神的肉体的労務の投入の有無について  請求人は、×××と×××の間を毎週移動しながら、×××において平日に週4日程度の講義を行い、それ以外の時間に本件業務としての講演や執筆活動等を行っていることが認められることからすれば、請求人が本件業務に一定の精神的肉体的労務を投入しているとしても、限定的なものにとどまっていたと認められる。
C 人的・物的設備の有無について  請求人は、パソコンやプリンター等の備品を使用して本件業務を行っていたが、それ以外の物的設備は有しておらず、また、本件業務のために使用人を雇っていない。
 なお、請求人は赤字のために使用人を雇えないのは普通のことである旨主張するが、ある程度の事業規模があれば赤字であっても人員を配置しなければ事業自体が遂行できないのであるから、使用人の有無を「事業」といえる程度の規模・態様においてなされた活動といえるか否かの判定要素の一つとすることは不合理ではない。
D 職業・経験及び社会的地位について  請求人は、平成21年ないし平成23年において×××で任期付の准教授として勤務し、同大学から生活を営むのに十分な給与収入を得ていた。
(ハ)以上の点からすると、請求人は、本件業務に関して、自己の計算と危険において簡易ながら一定の物的設備を整え執筆や講演等の活動を行ったと認められるものの、他方で、その企画遂行性の程度は仮にあったとしても乏しいものにとどまっており、本件業務に投入している精神的肉体的労務も限定的なものであり、さらに×××から生活を営むのに十分な給与収入を得ていたことからすれば、本件業務は、社会通念上「事業」といえる規模・態様においてなされた活動とまではいえない。
 ニ 請求人の主張について  請求人は、請求人が著述業を行う目的を持って、その目的を達成する意思で著述業を行っていたのであるから、本件業務は、所得税法施行令63条11号に規定する「著述業その他のサービス業」に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件業務が社会通念上「事業」といえる程度の規模・態様においてなされた活動といえないことについては上記の(ハ)のとおりであり、また、ある活動が「事業」に該当するか否かについては、上記のとおりの要素等を総合考慮して判断すべきものであって、当該活動を行う目的やその目的を達成する意思という主観的な要素のみで判断するものではなく、少なくとも重要な判断要素ではないから、請求人の上記主張を採用することはできない。
 ホ まとめ  以上のとおり、本件業務は、「事業」といえる程度の規模・態様で行われたとは認められず、本件業務から生じる所得を事業所得と認めることはできない。
 そうすると、本件業務から生じる所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得および一時所得のいずれにも該当しないことから、雑所得に該当する。
争点③(本件各支出の額は、本件業務に係る所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か)について  イ 本件各通知書において提示された処分の理由のうち、平成21年分および平成22年分の旅費交通費並びに平成23年分の新聞図書費の一部が必要経費に該当しないとして否認した理由の提示に不備があるので(今号特集参照)、これらの各費用項目について必要経費に算入される金額は、請求人が原処分庁に対し本件各確定申告書に添付して提出した各収支内訳書記載の必要経費の金額と同額の平成21年分の旅費交通費が1,858,942円、平成22年分の旅費交通費が1,920,844円および平成23年分の新聞図書費が1,790,818円となる。そして、これらの各必要経費の金額は本件各年分の各総収入金額をいずれも上回り、また、本件業務から生じる所得は雑所得に該当するから、請求人の本件各年分の雑所得の金額の計算上いずれも損失の金額が生じることになるところ、所得税法69条《損益通算》1項に基づき、これを他の各種所得の金額から控除することはできない。
 ロ 上記のとおり、本件各年分の雑所得の金額の計算上いずれも損失の金額が生じることは明らかであり、また、雑所得の金額の計算上生じた損失の金額を他の各種所得の金額から控除することはできないので、本件各支出のうち当該理由の提示に不備があった費用以外の各支出が必要経費に該当するか否かについては、本件各年分の請求人の総所得金額及びこれに基づき算出される納付すべき税額の計算に影響を与えることはなく、その判断の要を認めない。
本件各更正処分について  上記のとおり、本件業務から生じる所得の所得区分は雑所得に該当し、その所得の金額の計算上損失の金額が生じることになるものの、これを他の各種所得の金額から控除することはできない。これを前提として、請求人の本件各年分の総所得金額および納付すべき税額を算定すると、総所得金額および納付すべき税額はいずれも本件各更正処分の額を下回るので、本件各更正処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

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