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解説記事2015年03月09日 【税務マエストロ】 BEPSプロジェクトの進捗と税制改正への影響⑤(2015年3月9日号・№585)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
BEPSプロジェクトの進捗と税制改正への影響⑤
#132 品川克己
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(ディレクター)

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#133 消費税における「租税回避」 税理士 朝長英樹 経営戦略の1つとして組織再編成税制を活用できる方法を、同税制等の創設を主導した筆者が事例形式で解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
 e-mail:ta@lotus21.co.jp

マエストロの解説  移転価格税制に関する議論はBEPS行動計画の中で主要の部分を占めているが、行動計画13では「移転価格文書化」問題を扱っている。移転価格文書化とは、企業グループが、関連者間での取引における移転価格が独立企業間原則に即していることを確認・立証すべく文書を作成することであるが、その方法、内容については様々である。国によって様々な制度・考え方に一定の指標を与えているのが「OECD移転価格ガイドライン」第5章であるが、その改正案という位置づけで、移転価格文書化についての「第一次提言」としての報告書が公表されている。

1 移転価格文書化に関する議論
(1)報告書の概要及び位置づけ
 今般の移転価格文書化の第一次提案は、2014年1月に発表された討議草案に対して産業界からの寄せられた多くのコメントを反映させたものであるが、最終的に移転価格文書は、「マスターファイル」、「ローカルファイル」、「国別報告書」の三種類のレポートから構成されるものとした点が特徴と言える。マスターファイルには多国籍企業グループ全体の基本情報、多国籍企業グループの全体像が、ローカルファイルには各国の関連者(グループのメンバー企業)の取引情報や経済分析が、国別報告書には国毎の所得額、納税額(結果としてグローバルでの所得の配分状況)が記されることとされている。
 なお、こうした移転価格文書はBEPSにおける議論の結果としての提言であるが、これらをそのまま我が国の移転価格税制(具体的には租税特別措置法第66条の4)の改正に直結させて考えるのは時期尚早のように思われる。我が国の移転価格税制は当然のことながら「税制」であり、税制上企業に新たな事務負担を課す場合には、税制の執行上の必要性や適正課税の担保といった理由が必要であろう。しかしながら今般の第一次提言における文書化は、企業に課せられる文書作成義務がその範囲を超えている部分も散見される。これまでのところ「こうした情報をなぜ税務当局に提出する必要があるのか」、「競争相手に事業上の情報が漏れることはないのか」といった議論がまったく展開されていない。きわめて税務当局サイドの視点によった一方的な議論の産物のように考えられる。本来であれば、納税者である企業の権利義務や企業活動に対する事務負担増への十分な配慮に加え、税制の簡素化といった問題にも留意する必要があり、その上で整合的な制度改正が望まれる。
(2)移転価格文書の主な目的  第一次提言において、移転価格文書の目的、意義は次のように説明されている。
(イ)納税者企業が、適正に税務コンプライアンスを順守するために、各関連者との間で行われる関連者取引における適切な価格及び取引条件を決定するなど、移転価格問題を十分に検討することを確保すること
(ロ)納税者企業の移転価格リスク(移転価格課税を受ける可能性リスク)を、税務当局が評価する際に必要となる情報を提供すること
(ハ)税務当局が、移転価格調査を行う際に有用な情報を提供すること
 基本的に自主申告制度の下で、納税者企業は納税義務(含申告義務)を適正に果たすよう移転価格問題を自ら検討しており、上記(イ)はあらたな「文書化」という義務を課す理由としては適切とは言えまい(少なくとも我が国では)。現行の移転価格税制上も、一定の情報提供が省令上求められており、それが自主申告制度の下で適正な情提提供の範囲と考えられる。現状求められている情報を、量的にも、質的にも超える範囲の情報を新たに要求するほど、移転価格課税における問題が顕在化しているとは考えられないところである。一方、(ロ)、(ハ)は、明らかに税務当局サイドの視点であり、具体的には移転価格に関する税務調査が行いやすくするために新たな義務・事務負担を課すことに他ならないといえよう。

2 移転価格文書の3類型
(1)マスターファイル
 マスターファイルは、税務当局が重要な移転価格リスクを検証するために必要な多国籍企業グループの全体像についての情報を記載するものとされている。全世界で行われている事業の状況や移転価格ポリシー、所得や経済活動の配分の状況が示されることとなる。このようにマスターファイルは多国籍企業の移転価格問題を概略的に説明するものであり、詳細な情報やリストを提供することは意図しておらず、具体的には次の5つのカテゴリーの情報が記載されることになる。
① 多国籍企業の組織 
・事業体の法的形態、所在地及び資本関係
② 多国籍企業の事業概要 ・事業収益の重要なドライバー:我が国の現行制度上「法人及び当該法人に係る国外関連者の事業の方針」に該当すると考えられる(租税特別措置法施行規則第22条の10第1項チ)。
・グループの主要5製品及び役務提供(サービス)及びグループ全体の5%以上を占める製品等のサプライチェーン(商流):「国外関連取引に係る資産の明細及び役務の内容」に該当すると考えられる(措規22の10①イ)。
・グループメンバー間の重要なサービス提供契約(R&D以外)の説明(主要な事務所の規模、コスト配分や支払対価の額の決定方法等を含む)
・主要製品及びサービスの主要マーケット:国外関連取引に係る資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引について行われた市場に関する分析その他市場に関する分析その他当該市場に関する事項」に該当すると考えられる(措規22の10①ト)。
・グループ内の各法人(事業体)が価値創造に主要な貢献をしたことを示す文書による機能分析:「当該国外関連取引において法人及び当該法人に係る国外関連者が果たす機能並びに当該国外関連取引において当該法人及び当該国外関連者が負担するリスクに係る事項」に該当すると考えられる(措規22の10①ロ)。
・重要な事業再編、M&Aの説明
③ 無形資産 ・無形資産の開発、所有、活用に関する全体的な戦略の説明
・移転価格上の重要な無形資産と所有事業体:「法人又は当該法人に係る国外関連者が当該国外関連取引において使用した無形固定資産その他の無形資産の内容」に該当すると考えられる(措規22の10①ハ)。
・無形資産に係る重要な関連者間契約:「当該国外関連取引に係る契約書又は契約の内容」に該当すると考えられる(措規22の10①二)。
・R&D及び無形資産に係る移転価格ポリシーの説明
・対象事業年度中の関連者間での無形資産の移転状況
④ グループ内金融活動 ・グループの資金調達方法(関連者間での金融取引を含む)
・グループ内で主要な金融機能を果たす企業の特定
・関連者間での金融取引に係る移転価格ポリシーの説明
⑤ 多国籍企業の財務状態と納税状況 ・対象事業年度の連結財務諸表等
・ユニラテラルAPA及び各国でのルーリングの状況についての説明
(2)ローカルファイル  ローカルファイルは、特定の関連者間取引に関する詳細な情報が記されることになる。これらはマスターファイルを補完し、納税者が独立企業原則に沿って取引を行っていることを証明することとなり、機能分析や経済分析といった移転価格分析に関する各情報が含まれる。具体的には、次の3つのカテゴリーの情報が記載されるが、現地税制に従って作成している移転価格文書と概ね同様なものが該当することとなる。
① 対象事業体 ・対象事業体の経営ストラクチュアの説明、ローカルの組織図、経営陣の報告ライン、所在国の説明
・対象事業体の事業内容及び事業方針(対象事業体が当該年又は直近年度において事業再編又は無形資産の移転に関与している、又は影響を受けているかの説明等を含む):「法人及び当該法人に係る国外関連者の事業の方針」に該当すると考えられる(措規22の10①チ)。
・主な競合先
② 関連者間取引 ・各関連者間の重要な取引(製造サービスの調達、製品仕入れ、役務提供、ローン、資金調達及び債務保証、無形資産ライセンス、費用分担契約など)とこれらの内容説明:「当該国外関連取引に係る資産の明細及び役務の内容」(措規22の10①イ)、「法人又は当該法人に係る国外関連者が当該国外関連取引において使用した無形固定資産その他の無形資産の内容」(措規22の10①ハ)、「法人が、当該国外関連取引において当該法人に係る国外関連者から支払いを受ける対価の額又は当該国外関連者に支払う対価の額の設定方法及び交渉の内容」(措規22の10①ホ)に該当すると考えられる。
・各関連者間取引の金額(取引内容別、国別の総額):「法人が、当該国外関連取引において当該法人に係る国外関連者から支払いを受ける対価の額又は当該国外関連者に支払う対価の額の設定方法及び交渉の内容」(措規22の10①ホ)に該当すると考えられる。
・各関連者間取引に係る企業の特定と資本関係
・各関連者間取引に関する契約書の写し
・対象企業及び関連者の詳細な比較可能性分析及び機能分析
・最適な移転価格算定方法及び検証対象企業とその選定理由、重要な前提条件:「当該法人が選定した独立企業間価格算定の方法及びその選定理由を記載した書類その他当該法人が独立企業間価格を算定するに当たり作成した書類」に該当すると考えられる(措規22の10②イ)。
・複数年度分析を適用する場合の理由
・比較対象企業に関する情報:「当該法人が採用した当該国外関連取引に係る比較対象取引の選定に係る事項及び当該比較対象取引等の明細を記載した書類」に該当すると考えられる(措規22の10②ロ)。
・差異の調整の説明:「比較対象取引等について差異調整を行った場合のその理由及び当該差異調整等の方法を記載した書類」に該当すると考えられる(措規22の10②ホ)。
・選定された移転価格算定方法によって説明される独立企業間価格としての妥当性
・移転価格分析に用いた財務諸表等の財務情報
・当該関連者間取引に関係するAPAやルーリングの概要
③ 財務諸表 ・対象事業体の財務諸表:「法人及び当該法人に係る国外関連者の当該国外関連取引に係る損益の明細」に該当すると考えられる(措規22の10①ヘ)。
・移転価格算定方法の適用に使用した財務情報及びその作成手順
・比較対象企業の財務データ
(3)国別報告書  国別報告書は、多国籍企業グループが事業を行う国々における所得配分(所得計上額)、納税上、経済活動の状況を記載することとされている。これらは、個別の企業ではなく、国別に整理することとなるため、個別の国外関連取引の価格妥当性を検証する移転価格税制の適用にあたっての必要性が見いだせないといえよう。つまり国別報告書に記載される情報をもって、個別の国外関連取引の移転価格分析を行うことはできず、国ごとの所得配分に着目した強引な課税を誘発することにもなりかねない。国ごとの比較検証が移転価格税制上なぜ必要なのか不明確であり、こうした情報提出を税制上の義務とするには疑問があるところである。
 なお、国別報告書には、具体的には次の項目が記載されることとされている。
イ)総収入金額:個別の企業ではなく、第三者取引と関連者取引についてその国における総額
ロ)税引前利益(損失)
ハ)支払法人税(現金ベース)
ニ)法人税額(当年発生)
ホ)資本金(当然国ごとの合計額となる)
ヘ)利益剰余金
ト)従業員数
チ)有形資産の金額

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