解説記事2015年03月16日 【未公開裁決事例紹介】 特定同族会社の判定、実質的な基準は採用されず(2015年3月16日号・№586)
未公開裁決事例紹介
特定同族会社の判定、実質的な基準は採用されず
目的的解釈は文理解釈が困難な場合のみ
○特定同族会社に該当し、留保金課税が適用されるか否かは、法人税法67条及び法人税法施行令139条の7に明らかに規定されており、課税の趣旨ないし目的に照らして判断するまでもないとされた事例(平26年5月13日裁決、棄却)。審判所は、事業年度末において、請求人代表者1人が、請求人の発行済株式の総数の100分の50を超える株式を有していると指摘。他の株主や他の基準について検討するまでもなく、請求人は、法人税法67条2項の被支配会社の要件を満たし、同条1項の特定同族会社に該当すると判断した。
事 実
(1)事案の概要 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)は法人税法第67条《特定同族会社の特別税率》第1項に規定する特定同族会社に該当するから同項に基づく留保金額に係る課税の適用があるとして、納付すべき法人税額に当該留保金額に対する税額を加算して更正処分等をしたのに対し、請求人が、請求人は同項に規定する被支配会社に当たらず当該特定同族会社に該当しないから当該課税の適用はないとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。
(2)審査請求に至る経緯(略)
(3)関係法令の要旨 イ 法人税法第67条第1項は、内国法人である特定同族会社(被支配会社で、被支配会社であることについての判定の基礎となった株主等のうちに被支配会社でない法人がある場合には、当該法人をその判定の基礎となる株主等から除外して判定するものとした場合においても被支配会社となるもの(資本金の額が1億円以下の法人は、所定のものに限る。)をいう。)の各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合には、その特定同族会社に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、同法第66条《各事業年度の所得に対する法人税の税率》第1項又は第2項の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、その超える部分の留保金額(以下、各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合のその超える部分の留保金額を「課税留保金額」という。)を所定の金額に区分してそれぞれの金額に一定の割合を乗じて計算した金額の合計額を加算した金額とする旨規定している(以下、法人税法第67条第1項の規定に基づく課税を「留保金課税」という。)。
ロ 法人税法第67条第2項は、同条第1項に規定する被支配会社とは、会社の株主等(その会社が自己の株式を有する場合のその会社を除く。)の一人並びにこれと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式(その会社が有する自己の株式を除く。)の総数の100分の50を超える数の株式を有する場合(以下、この場合に該当するか否かの基準を「株式数基準」という。)その他政令で定める場合におけるその会社をいう旨規定し、同条第8項は、会社が特定同族会社に該当するかどうかの判定は、当該会社の当該事業年度終了の時の現況による旨規定している。
ハ 法人税法施行令(以下「施行令」という。)第139条の7《被支配会社の範囲》第3項は、同条第2項各号に規定する他の会社を支配している場合とは、同条第3項各号に掲げる場合のいずれかに該当する場合をいう旨規定し、同項第2号において、他の会社の次に掲げる議決権のいずれかにつき、その総数(当該議決権を行使することができない株主等が有する当該議決権の数を除く。)の100分の50を超える数を有する場合を掲げている。
(イ)事業の全部若しくは重要な部分の譲渡、解散、継続、合併、分割、株式交換、株式移転又は現物出資に関する決議に係る議決権(同号イ)
(ロ)役員の選任及び解任に関する決議に係る議決権(同号ロ)
(ハ)役員の報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社が供与する財産上の利益に関する事項についての決議に係る議決権(同号ハ)
(ニ)剰余金の配当又は利益の配当に関する決議に係る議決権(同号ニ)
ニ 施行令第139条の7第5項は、法人税法第67条第2項に規定する政令で定める場合は、同項の会社の同項に規定する株主等の一人並びにこれと同項に規定する政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の上記ハの(イ)から(ニ)までに掲げる議決権のいずれかにつきその総数(当該議決権を行使することができない株主等が有する当該議決権の数を除く。)の100分の50を超える数を有する場合(以下、この場合に該当するか否かの基準を「議決権基準」という。)又はその会社の株主等(合名会社、合資会社又は合同会社の社員(その会社が業務を執行する社員を定めた場合にあっては、業務を執行する社員)に限る。)の総数の半数を超える数を占める場合(以下、この場合に該当するか否かの基準を「社員数基準」という。)とする旨規定している。
ホ 施行令第139条の7第6項は、個人又は法人との間で当該個人又は法人の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者がある場合には、当該者が有する議決権は当該個人又は法人が有するものとみなし、かつ、当該個人又は法人(当該議決権に係る会社の株主等であるものを除く。)は当該議決権に係る会社の株主等であるものとみなして、同条第3項及び第5項の規定を適用する旨規定している。
(4)基礎事実 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、コンピュータ・ソフトウェアプログラムの受託開発等を目的とする法人であり、本件各事業年度終了の時の資本金の額は、いずれも268,500,000円であった。
ロ 本件各事業年度終了の時において、請求人の発行済株式の総数は、いずれも7,500株であり、当該発行済株式を有する株主とその保有株式数は、次のとおりであった。
(イ)請求人の代表取締役である××× 3,660株
(ロ)××× 3,100株
(ハ)請求人(自己の株式) 240株
(ニ)上記(イ)ないし(ハ)の株主以外の株主 500株
なお、×××は、本件各事業年度終了の時において、法人税法第67条第1項に規定する被支配会社に該当しなかった。
ハ ×××は、×××との間で、平成18年7月14日付の「×××××株主間協定書」(以下「本件株主間協定書」という。)を取り交わした。本件株主間協定書第2条(株主総会決議事項)の内容は、要旨次のとおりであった。
請求人の取締役会において、次の(イ)ないし(ニ)の事項を内容とする株主総会決議事項を上程する決議がなされた場合には、×××は、×××に協力して請求人の株主総会において当該株主総会決議事項が決議されるための議決権行使を行うものとする。
(イ)会社法第309条《株主総会の決議か第2項各号に規定される株主総会特別決議事項
(ロ)監査役の解任
(ハ)投資契約書に基づき、株主総会での特別決議による決議が必要とされる事項
(ニ)その他会社法等関連法令に基づき、株主総会での特別決議による決議が必要とされる事項
ニ 請求人は、×××及び×××との三者間で、平成18年7月14日付の「×××××投資に関する合意書」(以下「本件投資合意書」という。)を取り交わした。本件投資合意書第11条《承認・通知事項》の内容は、要旨次のとおりであった。
請求人が次の(イ)ないし(ハ)の事項を決定又は承認しようとする場合、請求人は、その旨を×××に対し請求人の取締役会において決定又は承認する14日前までに書面で通知の上、×××の書面による事前承認を得なければならないものとする。なお、請求人、×××及び×××は、×××が×××以外の請求人の株主に対して、本項に定める事前承認権の行使又は不行使についての責任を負うものではないことを了承し、確認する(第11条1.)
(イ)株主総会及び取締役に関する事項(同条1.(1))
A 株主総会付議事項、招集の決定(同(1)②)
B 代表取締役の選任又は解任(同(1)③)
C 取締役又は監査役の選任又は解任(同(1)④)
D 取締役の報酬及び賞与の割当額(同(1)⑦)
(ロ)株式及び社債に関する事項(同条1.(2))
請求人の株式に係る剰余金の配当その他の剰余金の処分の決定又は支払(同(2)⑥)
(ハ)組織再編に関する事項(同条1.(4))
A 合併又は株式交換(同(4)①)
B 全部又は重要な一部の事業の譲渡、賃貸、現物出資、会社分割その他の方法による処分(同(4)②)
C 株式移転による持株会社の設立(同(4)⑥)
D 解散、清算又は破産等(同(4)⑦)
ホ 請求人は、本件各事業年度において、それぞれ課税留保金額があったが、課税留保金額に対する税額はないものとして納付すべき法人税額を計算し確定申告をした。
へ 原処分庁は、本件各事業年度において、請求人は法人税法第67条第1項に規定する被支配会社に当たり特定同族会社に該当するから、留保金課税が適用されるとして、本件各更正処分等をした。
争点および主張 本事案の争点は、請求人が法人税法第67条第1項に規定する特定同族会社に該当し、留保金課税が適用されるか否か。当事者の主張は表のとおり。
審判所の判断
(1)法人税法第67条の特定同族会社及び被支配会社について 法人税法第67条第1項は、特定同族会社とは、被支配会社で、被支配会社であることについての判定の基礎となった株主等のうちに被支配会社でない法人がある場合には、当該法人をその判定の基礎となる株主等から除外して判定するものとした場合においても被支配会社となるものをいう旨規定し、同条第2項は、被支配会社とは、会社の株主等の一人並びにこれと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人(以下「会社株主等の一人」という。)がその会社の発行済株式(その会社が有する自己の株式を除く。)の総数の100分の50を超える数の株式を有する場合におけるその会社のほか、施行令第139条の7第5項で定める場合におけるその会社をいう旨規定している。
すなわち、被支配会社とは、当該事業年度終了の時において、会社株主等の一人が、①株式数基準を満たす場合におけるその会社のほか、②議決権基準を満たす場合又は③社員数基準を満たす場合におけるその会社をいう旨規定されているのであるから、会社株主等の一人が、これら3つの基準のうちいずれかを満たせば、その会社は被支配会社に該当することとなり、この被支配会社に該当する場合で、一定のものが法人税法第67条第1項に規定する特定同族会社に該当することとなる。
(2)本件における法人税法第67条の適用について 請求人の本件各事業年度終了の時における発行済株式の総数、株主及びその保有株式数は、上記事実の(4)のロのとおりであるところ、請求人の株主である×××一人が、請求人の発行済株式の総数7,500株から請求人が有する自己の株式数240株を控除した7,260株の100分の50(3,630株)を超える3,660株を有しており、株式数基準を満たしていたのであるから、他の株主や他の基準について検討するまでもなく、請求人は、法人税法第67条第2項の被支配会社の要件を満たし、併せて請求人の資本金の額は1億円以下でないことから、同条第1項の特定同族会社に該当する。そして、上記事実の(4)のホのとおり、請求人の本件各事業年度において、それぞれ課税留保金額があることから、請求人には留保金課税が適用される。
(3)請求人の主張について イ 請求人は、請求人の主張のイ及びロのとおり、留保金課税の趣旨ないし目的を根拠として、×××により実質的に支配されているものといえる請求人には、留保金課税が適用されるべきではない旨主張する。
しかしながら、租税法規は、多数の納税者間の税負担の公平を図るため、法的安定性が強く要請されることから、その解釈は、原則として文理解釈によるべきであって、文理解釈によっては規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に初めて、規定の趣旨ないし目的に立ち戻って、その意味内容を明らかにするという目的的解釈が行われるべきところ、留保金課税が適用されるか否かの判定については、上記(1)のとおり、法人税法第67条及び施行令第139条の7に明らかに規定されており、その課税の趣旨ないし目的に照らし判断するまでもなく、これらの法令の文言の意味するところに即して解釈すべきである。そして、請求人は、上記(2)のとおり、特定同族会社に該当し、上記事実の(4)のホのとおり、請求人の本件各事業年度において、それぞれ課税留保金額がある以上、留保金課税が適用されるのであるから、請求人の主張には理由がない。
ロ また、請求人は、請求人の主張のハのとおり、株式数基準を一般法、議決権基準を特別法とする関係にあり、両者の適用結果が異なる場合には株式数基準は適用されない旨主張するが、法人税法第67条第2項及び施行令第139条の7第5項は、会社株主等の一人が、①株式数基準、②議決権基準、③社員数基準のうちいずれかを満たせば、その会社は被支配会社に該当する旨規定したものであることは、上記(1)のとおりであるから、これと異なる請求人の主張は、採用できない。
ハ さらに、請求人は、請求人の主張のニのとおり、議決権行使に同意している株主がある場合には、実質的に議決権を行使することのできる者を株主とみなして株式数基準を適用すべき旨主張する。
しかしながら、施行令第139条の7第6項は、上記事実の(3)のホのとおり、議決権基準による判定の場合にのみ適用されるものであることは明らかであり、株式数基準による判定において適用される規定ではない。また、請求人が指摘する書籍は、被支配会社の判定に至る過程における同項の取扱いを、申告実務の便宜のための参考として示したものにすぎず、さらに、社員数基準の規定は、本件において適用される株式数基準の判定に何ら影響するものではないから、これらの点に関する請求人の主張はいずれも採用できない。
特定同族会社の判定、実質的な基準は採用されず
目的的解釈は文理解釈が困難な場合のみ
○特定同族会社に該当し、留保金課税が適用されるか否かは、法人税法67条及び法人税法施行令139条の7に明らかに規定されており、課税の趣旨ないし目的に照らして判断するまでもないとされた事例(平26年5月13日裁決、棄却)。審判所は、事業年度末において、請求人代表者1人が、請求人の発行済株式の総数の100分の50を超える株式を有していると指摘。他の株主や他の基準について検討するまでもなく、請求人は、法人税法67条2項の被支配会社の要件を満たし、同条1項の特定同族会社に該当すると判断した。
事 実
(1)事案の概要 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)は法人税法第67条《特定同族会社の特別税率》第1項に規定する特定同族会社に該当するから同項に基づく留保金額に係る課税の適用があるとして、納付すべき法人税額に当該留保金額に対する税額を加算して更正処分等をしたのに対し、請求人が、請求人は同項に規定する被支配会社に当たらず当該特定同族会社に該当しないから当該課税の適用はないとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。
(2)審査請求に至る経緯(略)
(3)関係法令の要旨 イ 法人税法第67条第1項は、内国法人である特定同族会社(被支配会社で、被支配会社であることについての判定の基礎となった株主等のうちに被支配会社でない法人がある場合には、当該法人をその判定の基礎となる株主等から除外して判定するものとした場合においても被支配会社となるもの(資本金の額が1億円以下の法人は、所定のものに限る。)をいう。)の各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合には、その特定同族会社に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、同法第66条《各事業年度の所得に対する法人税の税率》第1項又は第2項の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、その超える部分の留保金額(以下、各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合のその超える部分の留保金額を「課税留保金額」という。)を所定の金額に区分してそれぞれの金額に一定の割合を乗じて計算した金額の合計額を加算した金額とする旨規定している(以下、法人税法第67条第1項の規定に基づく課税を「留保金課税」という。)。
ロ 法人税法第67条第2項は、同条第1項に規定する被支配会社とは、会社の株主等(その会社が自己の株式を有する場合のその会社を除く。)の一人並びにこれと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式(その会社が有する自己の株式を除く。)の総数の100分の50を超える数の株式を有する場合(以下、この場合に該当するか否かの基準を「株式数基準」という。)その他政令で定める場合におけるその会社をいう旨規定し、同条第8項は、会社が特定同族会社に該当するかどうかの判定は、当該会社の当該事業年度終了の時の現況による旨規定している。
ハ 法人税法施行令(以下「施行令」という。)第139条の7《被支配会社の範囲》第3項は、同条第2項各号に規定する他の会社を支配している場合とは、同条第3項各号に掲げる場合のいずれかに該当する場合をいう旨規定し、同項第2号において、他の会社の次に掲げる議決権のいずれかにつき、その総数(当該議決権を行使することができない株主等が有する当該議決権の数を除く。)の100分の50を超える数を有する場合を掲げている。
(イ)事業の全部若しくは重要な部分の譲渡、解散、継続、合併、分割、株式交換、株式移転又は現物出資に関する決議に係る議決権(同号イ)
(ロ)役員の選任及び解任に関する決議に係る議決権(同号ロ)
(ハ)役員の報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社が供与する財産上の利益に関する事項についての決議に係る議決権(同号ハ)
(ニ)剰余金の配当又は利益の配当に関する決議に係る議決権(同号ニ)
ニ 施行令第139条の7第5項は、法人税法第67条第2項に規定する政令で定める場合は、同項の会社の同項に規定する株主等の一人並びにこれと同項に規定する政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の上記ハの(イ)から(ニ)までに掲げる議決権のいずれかにつきその総数(当該議決権を行使することができない株主等が有する当該議決権の数を除く。)の100分の50を超える数を有する場合(以下、この場合に該当するか否かの基準を「議決権基準」という。)又はその会社の株主等(合名会社、合資会社又は合同会社の社員(その会社が業務を執行する社員を定めた場合にあっては、業務を執行する社員)に限る。)の総数の半数を超える数を占める場合(以下、この場合に該当するか否かの基準を「社員数基準」という。)とする旨規定している。
ホ 施行令第139条の7第6項は、個人又は法人との間で当該個人又は法人の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者がある場合には、当該者が有する議決権は当該個人又は法人が有するものとみなし、かつ、当該個人又は法人(当該議決権に係る会社の株主等であるものを除く。)は当該議決権に係る会社の株主等であるものとみなして、同条第3項及び第5項の規定を適用する旨規定している。
(4)基礎事実 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、コンピュータ・ソフトウェアプログラムの受託開発等を目的とする法人であり、本件各事業年度終了の時の資本金の額は、いずれも268,500,000円であった。
ロ 本件各事業年度終了の時において、請求人の発行済株式の総数は、いずれも7,500株であり、当該発行済株式を有する株主とその保有株式数は、次のとおりであった。
(イ)請求人の代表取締役である××× 3,660株
(ロ)××× 3,100株
(ハ)請求人(自己の株式) 240株
(ニ)上記(イ)ないし(ハ)の株主以外の株主 500株
なお、×××は、本件各事業年度終了の時において、法人税法第67条第1項に規定する被支配会社に該当しなかった。
ハ ×××は、×××との間で、平成18年7月14日付の「×××××株主間協定書」(以下「本件株主間協定書」という。)を取り交わした。本件株主間協定書第2条(株主総会決議事項)の内容は、要旨次のとおりであった。
請求人の取締役会において、次の(イ)ないし(ニ)の事項を内容とする株主総会決議事項を上程する決議がなされた場合には、×××は、×××に協力して請求人の株主総会において当該株主総会決議事項が決議されるための議決権行使を行うものとする。
(イ)会社法第309条《株主総会の決議か第2項各号に規定される株主総会特別決議事項
(ロ)監査役の解任
(ハ)投資契約書に基づき、株主総会での特別決議による決議が必要とされる事項
(ニ)その他会社法等関連法令に基づき、株主総会での特別決議による決議が必要とされる事項
ニ 請求人は、×××及び×××との三者間で、平成18年7月14日付の「×××××投資に関する合意書」(以下「本件投資合意書」という。)を取り交わした。本件投資合意書第11条《承認・通知事項》の内容は、要旨次のとおりであった。
請求人が次の(イ)ないし(ハ)の事項を決定又は承認しようとする場合、請求人は、その旨を×××に対し請求人の取締役会において決定又は承認する14日前までに書面で通知の上、×××の書面による事前承認を得なければならないものとする。なお、請求人、×××及び×××は、×××が×××以外の請求人の株主に対して、本項に定める事前承認権の行使又は不行使についての責任を負うものではないことを了承し、確認する(第11条1.)
(イ)株主総会及び取締役に関する事項(同条1.(1))
A 株主総会付議事項、招集の決定(同(1)②)
B 代表取締役の選任又は解任(同(1)③)
C 取締役又は監査役の選任又は解任(同(1)④)
D 取締役の報酬及び賞与の割当額(同(1)⑦)
(ロ)株式及び社債に関する事項(同条1.(2))
請求人の株式に係る剰余金の配当その他の剰余金の処分の決定又は支払(同(2)⑥)
(ハ)組織再編に関する事項(同条1.(4))
A 合併又は株式交換(同(4)①)
B 全部又は重要な一部の事業の譲渡、賃貸、現物出資、会社分割その他の方法による処分(同(4)②)
C 株式移転による持株会社の設立(同(4)⑥)
D 解散、清算又は破産等(同(4)⑦)
ホ 請求人は、本件各事業年度において、それぞれ課税留保金額があったが、課税留保金額に対する税額はないものとして納付すべき法人税額を計算し確定申告をした。
へ 原処分庁は、本件各事業年度において、請求人は法人税法第67条第1項に規定する被支配会社に当たり特定同族会社に該当するから、留保金課税が適用されるとして、本件各更正処分等をした。
争点および主張 本事案の争点は、請求人が法人税法第67条第1項に規定する特定同族会社に該当し、留保金課税が適用されるか否か。当事者の主張は表のとおり。
【表】当事者の主張 |
原 処 分 庁 | 請 求 人 |
次の理由から、請求人は、法人税法第67条第1項に規定する特定同族会社に該当し、留保金課税が適用される。 イ 本件各事業年度終了の時において、請求人の発行済株式の総数は7,500株、×××が有する株式数は3,660株、請求人が有する自己の株式数は240株であるところ、請求人は、請求人の発行済株式の総数から請求人が有する自己の株式数を控除した7,260株の100分の50(3,630株)を超える3,660株が×××一人に保有されていることから、株式数基準により被支配会社に該当し、法人税法第67条第1項に規定する特定同族会社に該当する。 ロ また、法人税法第67条第2項は、被支配会社の判定について、株式数基準に該当する場合その他政令で定める場合と規定し、これを受けた施行令第139条の7第5項は、議決権基準及び社員数基準を掲げていることからすれば、株式数基準、議決権基準及び社員数基準に優劣はなく、被支配会社に該当する場合とは、これらの基準のいずれかを満たす場合であることは明らかである。したがって、請求人が特定同族会社に該当することは、文理上明白であり、そして、法規の文言を離れ、又は文言を置き換えし、付加することは許されないと解されるから、法人税法第67条の適用に当たり、同条に規定する客観的な課税要件事実のほかに、個人株主の租税回避のおそれがあるか否かというような事情や、株式数基準による判定において議決権の行使を他者に委ねているか否かという規定のない要件を考慮する余地はない。 | 次の理由から、請求人には留保金課税が適用されない。 イ 法人税法第67条の特定同族会社に対する留保金課税の趣旨は、個人企業と同族会社との間の税負担の均衡を図ること、すなわち、同族会社の利益を内部留保することによる個人株主の所得税回避を防止することにあり、また、法人は、利益を留保するか否かの意思決定を何ら制限されることなく行うことができるのが原則であるところ、留保金課税は、上記意思決定の自由を侵害するものであり、その適用は限定されなければならない。 ロ ①×××は、本件株主間協定書に基づき、施行令第139条の7第3項第2号イに掲げる議決権を×××に委ねていること、②請求人は、本件投資合意書に基づき、請求人が同号イないしこの行為を行う場合、細事の書面による事前承認を得る必要があるとされていることなどからすれば、×××は、×××の意思に反して自ら議決権を行使し請求人の意思決定を行うことはできないから、請求人を支配している事実はなく、また、請求人は、実質的には×××に支配されているものといえるから、×××による所得税回避のおそれもない。したがって、本件において、個人株主の所得税回避防止を立法趣旨とする法人税法第67条を適用することは立法目的との関連で著しく不合理であり、憲法第14条第1項に反し許されない。 ハ 上記イの法人税法第67条の趣旨に鑑みれば、個人株主が株式数基準を満たすようにみえても、議決権基準を満たさず会社の意思決定に参加できない場合には留保金課税を行う根拠が失われる。それにもかかわらず株式数基準を適用して留保金課税を行うのは法の趣旨に反するから、両基準は株式数基準を一般法、議決権基準を特別法とする関係にあるとし、両者の適用結果が異なる場合には、議決権基準が適用され、株式数基準は適用されないと解すべきである。そうすると、施行令第139条の7第6項により、×××は請求人の株主とみなされ、同社が100分の50を超える議決権を有することから、請求人は被支配会社に該当するが、法人税法第67条第1項括弧書の適用により、請求人は、特定同族会社に該当しない。 ニ 仮に、株式数基準が適用されるとしても、株式数基準における100分の50を超える株式の所有株主は、実質的に解釈すべきであり、上記イの法人税法第67条の趣旨からすると、議決権を通じて配当政策を左右できない株主は、株式数基準における株主に当たらず、議決権行使に同意している株主がある場合には、実質的に議決権を行使することのできる者を株主とみなして判定すべきである。この考え方は、課税庁の職員が、法人税法に関する書籍において、株式数基準による判定の場合にも、施行令第139条の7第6項の定めに従い、議決権行使に同意している株主がある場合には、実質的に議決権を行使することができる者を株主とみなすものと明確に述べており、公的な解釈として示したものであること、及び、社員数基準においても、会社が業務執行社員を定めた場合は、被支配会社の判定上、当該業務執行社員のみを算定の基礎とし、業務執行社員でなく会社の意思決定ができない社員は当該算定の基礎から除外されていることからも明らかであり、また、原処分庁の主張によれば、株式会社の場合は、株式数基準により、議決権を行使することができない株主であっても法人税法第67条第2項の会社の株主等となる結果、留保金課税が適用されるが、持分会社の場合は、意思決定ができない社員は被支配会社の算定の基礎、とされず、留保金課税が適用されないことになり、株式会社と持分会社とで異なる取扱いをする理由はなく、租税公平主義に反することは明らかである。 そして、本件は、上記ロのとおり、×××は、議決権行使に当たって×××の承認等が必要である以上、会社を支配しているとはいえないから、形式的には100分の50を超える株式を所有していても株式数基準における100分の50を超える株式の所有株主に当たらず、×××が当該株式所有株主に当たると解すべきであり、法人税法第67条第1項括弧書の適用により、請求人は、特定同族会社に該当しない。 |
審判所の判断
(1)法人税法第67条の特定同族会社及び被支配会社について 法人税法第67条第1項は、特定同族会社とは、被支配会社で、被支配会社であることについての判定の基礎となった株主等のうちに被支配会社でない法人がある場合には、当該法人をその判定の基礎となる株主等から除外して判定するものとした場合においても被支配会社となるものをいう旨規定し、同条第2項は、被支配会社とは、会社の株主等の一人並びにこれと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人(以下「会社株主等の一人」という。)がその会社の発行済株式(その会社が有する自己の株式を除く。)の総数の100分の50を超える数の株式を有する場合におけるその会社のほか、施行令第139条の7第5項で定める場合におけるその会社をいう旨規定している。
すなわち、被支配会社とは、当該事業年度終了の時において、会社株主等の一人が、①株式数基準を満たす場合におけるその会社のほか、②議決権基準を満たす場合又は③社員数基準を満たす場合におけるその会社をいう旨規定されているのであるから、会社株主等の一人が、これら3つの基準のうちいずれかを満たせば、その会社は被支配会社に該当することとなり、この被支配会社に該当する場合で、一定のものが法人税法第67条第1項に規定する特定同族会社に該当することとなる。
(2)本件における法人税法第67条の適用について 請求人の本件各事業年度終了の時における発行済株式の総数、株主及びその保有株式数は、上記事実の(4)のロのとおりであるところ、請求人の株主である×××一人が、請求人の発行済株式の総数7,500株から請求人が有する自己の株式数240株を控除した7,260株の100分の50(3,630株)を超える3,660株を有しており、株式数基準を満たしていたのであるから、他の株主や他の基準について検討するまでもなく、請求人は、法人税法第67条第2項の被支配会社の要件を満たし、併せて請求人の資本金の額は1億円以下でないことから、同条第1項の特定同族会社に該当する。そして、上記事実の(4)のホのとおり、請求人の本件各事業年度において、それぞれ課税留保金額があることから、請求人には留保金課税が適用される。
(3)請求人の主張について イ 請求人は、請求人の主張のイ及びロのとおり、留保金課税の趣旨ないし目的を根拠として、×××により実質的に支配されているものといえる請求人には、留保金課税が適用されるべきではない旨主張する。
しかしながら、租税法規は、多数の納税者間の税負担の公平を図るため、法的安定性が強く要請されることから、その解釈は、原則として文理解釈によるべきであって、文理解釈によっては規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に初めて、規定の趣旨ないし目的に立ち戻って、その意味内容を明らかにするという目的的解釈が行われるべきところ、留保金課税が適用されるか否かの判定については、上記(1)のとおり、法人税法第67条及び施行令第139条の7に明らかに規定されており、その課税の趣旨ないし目的に照らし判断するまでもなく、これらの法令の文言の意味するところに即して解釈すべきである。そして、請求人は、上記(2)のとおり、特定同族会社に該当し、上記事実の(4)のホのとおり、請求人の本件各事業年度において、それぞれ課税留保金額がある以上、留保金課税が適用されるのであるから、請求人の主張には理由がない。
ロ また、請求人は、請求人の主張のハのとおり、株式数基準を一般法、議決権基準を特別法とする関係にあり、両者の適用結果が異なる場合には株式数基準は適用されない旨主張するが、法人税法第67条第2項及び施行令第139条の7第5項は、会社株主等の一人が、①株式数基準、②議決権基準、③社員数基準のうちいずれかを満たせば、その会社は被支配会社に該当する旨規定したものであることは、上記(1)のとおりであるから、これと異なる請求人の主張は、採用できない。
ハ さらに、請求人は、請求人の主張のニのとおり、議決権行使に同意している株主がある場合には、実質的に議決権を行使することのできる者を株主とみなして株式数基準を適用すべき旨主張する。
しかしながら、施行令第139条の7第6項は、上記事実の(3)のホのとおり、議決権基準による判定の場合にのみ適用されるものであることは明らかであり、株式数基準による判定において適用される規定ではない。また、請求人が指摘する書籍は、被支配会社の判定に至る過程における同項の取扱いを、申告実務の便宜のための参考として示したものにすぎず、さらに、社員数基準の規定は、本件において適用される株式数基準の判定に何ら影響するものではないから、これらの点に関する請求人の主張はいずれも採用できない。
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.