税務ニュース2005年07月11日 通達(日本標準産業分類による区分)の合理性を否認(2005年7月11日号・№122) 名古屋地裁・租税法中の用語例に「特に厳格な解釈態度」を求める
通達(日本標準産業分類による区分)の合理性を否認
名古屋地裁・租税法中の用語例に「特に厳格な解釈態度」を求める
名古屋地裁民事第9部(加藤幸雄裁判長)は、6月29日、歯科技工業を営む会社の消費税の簡易課税制度の選択適用に伴う事業区分が争点となった消費税及び地方消費税更正処分等取消事件で、本件事業(歯科技工業)は、有体物を製造、販売する事業であるから「製造業」に当たるとする納税者の主張を容認し、日本標準産業分類を基礎とした「サービス業」に当たるとして、消費税法施行令の第五種事業(サービス業)に当たるとしてのみなし仕入率(50%)を適用して算定した更正処分等を取消した(平成16年(行ウ)第56号)。
事案の概要
本件は、消費税法の簡易課税制度の適用を受ける歯科技工所(法人・原告)が自己の営む歯科技工業(以下「本件事業」)が消費税法施行令57条5項3号に定める第三種事業(製造業)に該当し、みなし仕入率が70%であるとして消費税等の申告をしたところ(3課税期間)、税務署長(被告)が本件事業は同項4号に定める第五種事業(サービス業)に該当し、みなし仕入率は50%であるとして消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けたことから、上記各処分の取消しを求めたものである。なお、類似の事案が、国税不服審判所の裁決事例集No.61に掲載されている。
争いのない事実
原告は適正に消費税簡易課税制度選択届出書を被告税務署長に提出していた。更正処分の対象となった3課税期間の原告の課税売上高は、いずれも2億円以下であり、原告は、当該課税期間において、簡易課税制度の適用となる。
原告は、自ら原材料を仕入れ、歯科医師の指示書に従って、患者の歯の石こう型に適合する歯科医療用の補てつ物等を製作し、歯科医師に納品している。また、修正、作り直しが必要な場合であっても、専ら歯科医師の指示に従って、修正、作り直しをするのであって、原告が患者に直接接する機会はない。
消費税法基本通達13-2-4(第三種事業及び第五種事業の範囲)は、第三種事業・第五種事業に該当することとされている各事業の範囲は、おおむね日本標準産業分類(総務省)の大分類に掲げる分類を基礎として判定する、課税上の取扱いを明らかにしている。日本標準産業分類による歯科技工所の分類は以下のとおりである。
① 平成5年10月改訂(第10回改訂)
大分類L-サービス業 中分類88-医療業
小分類886・細分類8861-歯科技工所
② 平成14年3月改訂(第11回改訂)
大分類N-医療 中分類73-医療業
小分類736-医療に附帯するサービス業
細分類7361-歯科技工所
当事者の主張
原告は、「「製造業」とは、「有体物を製造、販売する事業」であり、「サービス業」とは、「無体の役務を提供する事業」であると明確に解釈することができる。」とし、本件事業について、「製造業に該当する。」と主張した。
一方、被告は、「日本標準産業分類においても、本件事業の実態は、「歯科医療行為に付随するサービス提供事業」であると解釈しているものと認められるところ、簡易課税制度における事業判定について日本標準産業分類によることには、十分な合理性があるから、日本標準産業分類を消費税法施行令57条に規定する各種事業に適合させると、本件事業は第五種事業に区分されるサービス業に分類される。」と主張した。
裁判所の判断
加藤裁判長は、まず、「租税賦課の根拠となるべき法令すなわち租税法中の用語は、原則として、日本語の通常の用語例による意味内容が与えられるべきである(国民に義務を賦課する租税法の分野においては、国民に不測の不利益を与えぬよう、特に厳格な解釈態度が求められるというべきである。)。」と租税法の分野における解釈の指針を判示した。
また、「製造業とサービス業とは、まず、その給付の対象が有形物(物質的)か無形の役務(非物質的)かによって区分されると考えられる。」として、原告の主張に沿った区分を示した上で、「日本標準産業分類に従った」とする被告の主張の検討に入った。
「(患者と直接接するものではないため)歯科技工所が無体の役務を提供しているとはみることができない。」と指摘した上で、「少なくとも、製造業及びサービス業の語義を厳格に解釈すべき消費税法の適用を念頭に置く局面においては、日本標準産業分類が歯科技工所をサービス業ないしサービス業としての性格を有する医療業と分類することは合理性を有するとはいえず、歯科技工所との関係では、日本標準産業分類に従って第三種事業と第五種事業を区分する本件通達の合理性を認めることはできない。」と被告(税務署長)の主張を斥けた。
さらに、「本件事業は、有形物を給付の内容とすることが明らかであるから、本件事業が製造業に当たると解するのが相当である。また、患者に対して無体の役務を提供していたと見ることは困難であるから、サービス業には当たらない。」と判示して、課税処分を取消した。
「特に厳格な解釈態度」は定着するのか
被告(税務署長)は、「自社従業員が他社工場で加工組立作業等に従事した事例」などの複数の事案において、簡易課税制度における事業判定について、日本標準産業分類によることに合理性があると認められてきた、などと主張してきたが、本件では、日本標準産業分類によることの合理性は認められなかった。
「製造業」の解釈については、通常の用語例として判示を受け入れることはできるが、加藤裁判長の示した租税法の解釈指針は、異例(画期的?)なものと評価できるだけに、このような判断が司法に定着することになるかどうかは予断を許さない。
名古屋地裁・租税法中の用語例に「特に厳格な解釈態度」を求める
名古屋地裁民事第9部(加藤幸雄裁判長)は、6月29日、歯科技工業を営む会社の消費税の簡易課税制度の選択適用に伴う事業区分が争点となった消費税及び地方消費税更正処分等取消事件で、本件事業(歯科技工業)は、有体物を製造、販売する事業であるから「製造業」に当たるとする納税者の主張を容認し、日本標準産業分類を基礎とした「サービス業」に当たるとして、消費税法施行令の第五種事業(サービス業)に当たるとしてのみなし仕入率(50%)を適用して算定した更正処分等を取消した(平成16年(行ウ)第56号)。
事案の概要
本件は、消費税法の簡易課税制度の適用を受ける歯科技工所(法人・原告)が自己の営む歯科技工業(以下「本件事業」)が消費税法施行令57条5項3号に定める第三種事業(製造業)に該当し、みなし仕入率が70%であるとして消費税等の申告をしたところ(3課税期間)、税務署長(被告)が本件事業は同項4号に定める第五種事業(サービス業)に該当し、みなし仕入率は50%であるとして消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けたことから、上記各処分の取消しを求めたものである。なお、類似の事案が、国税不服審判所の裁決事例集No.61に掲載されている。
争いのない事実
原告は適正に消費税簡易課税制度選択届出書を被告税務署長に提出していた。更正処分の対象となった3課税期間の原告の課税売上高は、いずれも2億円以下であり、原告は、当該課税期間において、簡易課税制度の適用となる。
原告は、自ら原材料を仕入れ、歯科医師の指示書に従って、患者の歯の石こう型に適合する歯科医療用の補てつ物等を製作し、歯科医師に納品している。また、修正、作り直しが必要な場合であっても、専ら歯科医師の指示に従って、修正、作り直しをするのであって、原告が患者に直接接する機会はない。
消費税法基本通達13-2-4(第三種事業及び第五種事業の範囲)は、第三種事業・第五種事業に該当することとされている各事業の範囲は、おおむね日本標準産業分類(総務省)の大分類に掲げる分類を基礎として判定する、課税上の取扱いを明らかにしている。日本標準産業分類による歯科技工所の分類は以下のとおりである。
① 平成5年10月改訂(第10回改訂)
大分類L-サービス業 中分類88-医療業
小分類886・細分類8861-歯科技工所
② 平成14年3月改訂(第11回改訂)
大分類N-医療 中分類73-医療業
小分類736-医療に附帯するサービス業
細分類7361-歯科技工所
当事者の主張
原告は、「「製造業」とは、「有体物を製造、販売する事業」であり、「サービス業」とは、「無体の役務を提供する事業」であると明確に解釈することができる。」とし、本件事業について、「製造業に該当する。」と主張した。
一方、被告は、「日本標準産業分類においても、本件事業の実態は、「歯科医療行為に付随するサービス提供事業」であると解釈しているものと認められるところ、簡易課税制度における事業判定について日本標準産業分類によることには、十分な合理性があるから、日本標準産業分類を消費税法施行令57条に規定する各種事業に適合させると、本件事業は第五種事業に区分されるサービス業に分類される。」と主張した。
裁判所の判断
加藤裁判長は、まず、「租税賦課の根拠となるべき法令すなわち租税法中の用語は、原則として、日本語の通常の用語例による意味内容が与えられるべきである(国民に義務を賦課する租税法の分野においては、国民に不測の不利益を与えぬよう、特に厳格な解釈態度が求められるというべきである。)。」と租税法の分野における解釈の指針を判示した。
また、「製造業とサービス業とは、まず、その給付の対象が有形物(物質的)か無形の役務(非物質的)かによって区分されると考えられる。」として、原告の主張に沿った区分を示した上で、「日本標準産業分類に従った」とする被告の主張の検討に入った。
「(患者と直接接するものではないため)歯科技工所が無体の役務を提供しているとはみることができない。」と指摘した上で、「少なくとも、製造業及びサービス業の語義を厳格に解釈すべき消費税法の適用を念頭に置く局面においては、日本標準産業分類が歯科技工所をサービス業ないしサービス業としての性格を有する医療業と分類することは合理性を有するとはいえず、歯科技工所との関係では、日本標準産業分類に従って第三種事業と第五種事業を区分する本件通達の合理性を認めることはできない。」と被告(税務署長)の主張を斥けた。
さらに、「本件事業は、有形物を給付の内容とすることが明らかであるから、本件事業が製造業に当たると解するのが相当である。また、患者に対して無体の役務を提供していたと見ることは困難であるから、サービス業には当たらない。」と判示して、課税処分を取消した。
「特に厳格な解釈態度」は定着するのか
被告(税務署長)は、「自社従業員が他社工場で加工組立作業等に従事した事例」などの複数の事案において、簡易課税制度における事業判定について、日本標準産業分類によることに合理性があると認められてきた、などと主張してきたが、本件では、日本標準産業分類によることの合理性は認められなかった。
「製造業」の解釈については、通常の用語例として判示を受け入れることはできるが、加藤裁判長の示した租税法の解釈指針は、異例(画期的?)なものと評価できるだけに、このような判断が司法に定着することになるかどうかは予断を許さない。
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