解説記事2015年12月07日 【税務マエストロ】 米国デラウエア州LPSと「法人」該当性①(2015年12月7日号・№621)
税務マエストロ
税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座
今週のマエストロ&テーマ
米国デラウエア州LPSと「法人」該当性①
#152 品川克己
PwC税理士法人
略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。
次回のテーマ
#153 対価性の判断(その2) 税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
e-mail:ta@lotus21.co.jp
マエストロの解説 これまで外国の事業体を、日本の税制上どのように取り扱うかという問題を争点とした多くの論争が、長く繰り広げられてきている。最も主要な論点として、具体的には、外国の特定の組織体を日本における「法人」と同様に取扱い、法人税法、所得税法の適用に当たって外国法人とするかどうかということである。日本の法制に基づく「法人」を対象とした法人税法等を外国の法制に基づく組織体に適用するということは、その外国の組織体が日本の「法人」に相当するものであることが前提となる。どのような組織体が「法人」に相当するのか、その基準はどのようなものか等について長年議論されてきたが、今般(平成27年7月17日)、最高裁判所第二小法廷が、その判断基準を示したものである。
1 事案の概要 最高裁判所第二小法廷での平成27年7月17日の判決(以下、「本件判決」)では、米国デラウエア州のリミテッド・パートナーシップ(Limited Partnership、以下「LPS」)は日本の租税法上の「法人」に該当すると判断された。この事案は、日本の複数の納税者(個人)が、受託銀行との信託契約を介して、平成12年12月に米国デラウエア州で組成したLPSを通じて米国所在の中古不動産を取得し、その不動産の賃貸事業を行ったものである。不動産賃貸事業の収支に関し、当該不動産の減価償却費及びその他費用を計上すると「不動産所得」は損失(赤字)となり、その損失について各納税者(個人)が所得税の計算に当たり、給与所得等と損益通算(所得税法69条)して確定申告をしたところ、課税庁が当該損益通算は認められないとして、各個人の所得税について更正処分を行ったものである。納税者は、損益通算によって給与等に係る源泉税が還付される申告をしたところ、損益通算を認めず、結果、還付額を否認する更正処分がされたものである。
論点は、不動産賃貸事業を行う当該LPSを日本の法制に基づく「法人」に相当するものと捉えるか、もしくは、当該LPSを日本の法制に基づく「組合」(いわゆる個人の集合体)として捉え、不動産賃貸事業は各個人が協力して行ったものと考えるかということである。「法人」と捉えるのであれば、各個人の投資は「出資」に相当するものとなり、不動産賃貸事業における損失は当該「法人」の損失となる。したがって、投資者個人の所得税に直接的な影響もない。一方、当該LPSは「法人」ではなく、各個人の協力体と捉えるのであれば、当該LPSの行った不動産投資事業は各投資者個人が協力して行ったことになり、当該事業からの損失は各個人に帰属、負担することとなる。したがって、本件のような損益通算も認められることとなる。
最高裁判所は、今般、米国デラウエア州LPSは「法人」に該当し、その損失は各個人(投資家)の所得税の計算上、損益通算はできないとしたものであるが、外国の組織体を「法人」と捉える基準、考え方が示されたことで、本件判決は注目度が高く、また、今後の税務に大きな影響を及ぼすと考えられている。
2 最高裁判決の要点
(1)法人:納税義務者の一類型 本件判決では、まず日本の租税法上の「法人」の概念について、納税義務者の一類型として自然人以外で租税債務を負担すべきものと認識できるものとし、次のように述べている。
「組織体のうちその構成員とは別個に租税債務を負担させることが相当であると認められるものを納税義務者としてその所得に課税して」おり、「外国法に基づいて設立された組織体のうち内国法人に相当するものとしてその構成員とは別個に租税債務を負担させることが相当であると認められるものを外国法人と定め、これを内国法人等とともに自然人以外の納税義務者の一類型としているものと解される。」
(2)納税義務者:権利義務の帰属主体 そして、我が国の租税法上の納税義務者としての適格性については、以下のように整理されている。
「そして、我が国においては、ある組織体が権利義務の帰属主体とされることが法人の最も本質的な属性であり、そのような属性を有することは我が国の租税法において法人が独立して事業を行い得るものとしてその構成員とは別個に納税義務者とされていることの主たる根拠であると考えられる上、納税義務者とされる者の範囲は客観的に明確な基準により決せられるべきであること等を考慮すると、外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かについては、上記の属性の有無に即して、当該組織体が権利義務の帰属主体とされているか否かを基準として判断することが相当であると解される。」
(3)第一基準:設立根拠法令の文言等からの判定 本件判決では、外国の組織体が我が国租税法上の外国法人に該当するか否かについては、権利義務の帰属主体という基準で判断するとし、権利義務の帰属主体であるかについては、次のように述べている。
「その一方で、諸外国の多くにおいても、その制度の内容の詳細には相違があるにせよ、一定の範囲の組織体にその構成員とは別個の人格を承認し、これを権利義務の帰属主体とするという我が国法人制度と同様の機能を有する制度が存在することや、国際的な法制の調和の要請等を踏まえると、外国法に基づいて設立された組織体につき、設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、日本法上の法人に相当する法的地位が付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白である場合には、そのことを持って当該組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当する旨又は該当しない旨の判断をすることが相当であると解される。」
(4)第二基準:設立根拠法令の趣旨等からの判定 次に、上記第一基準で判定できない場合には、設立根拠法令の趣旨等による判断を行うこととしている。以下、引用する。
「外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては、まず、より客観的かつ一義的な判定が可能である後者の観点として、①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討することとなり、これができない場合には、次に、当該組織体の属性に係る前者の視点として、②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律行為が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討することとなるものと解される。」
(5)デラウエア州LPSへのあてはめ 上記判断基準の本件判決におけるあてはめについて、まず、第一基準による判定ができない旨述べられている。
「州LPS法において同法に基づいて設立されるリミテッド・パートナーシップが「separate legal entity」となるものと定められていることをもって、本件LPSに日本法上の法人に相当する法的地位が付与されているか否かを疑義のない程度に明白であるとすることは困難であり、州LPS法や関連法令の他の規定の文言等を参照しても本件各LPSがデラウエア州法において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるとはいい難い。」
そして、第二基準については、次のように述べ、結果、我が国租税法上の外国法人に該当すると結論づけている。
「本件LPSが法人該当性の実質的根拠となる権利義務の帰属主体とされているか否かについて検討するに、州LPS法は、リミテッド・パートナーシップにつき、営利目的か否かを問わず、一定の例外を除き、いかなる合法的な事業、目的又は活動をも実施することができる旨を定めるとともに(106条(a)項)、同法若しくはその他の法的又は当該リミテッド・パートナーシップのパートナーシップ契約により付与されたすべての権限及び特権並びにこれらに付随するあらゆる権限を保有し、それを行使することができる旨定めている(同条(b)項)。このような州LPS法の定めに照らせば、同法は、リミテッド・パートナーシップにその名義で法律行為をする権限又は権限を付与するとともに、リミテッド・パートナーシップ名義でされた法律行為の効果がリミテッド・パートナーシップ自身に帰属することを前提とするものと解される。」「上記のような州LPS法の定め等に鑑みると、本件各LPSは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件各LPSに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められる。」
(以下は次回(625号)に掲載予定)
3.最高裁判決の検討及び疑問点
4.今後の実務への影響
今週のマエストロ&テーマ
米国デラウエア州LPSと「法人」該当性①
#152 品川克己
PwC税理士法人
略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。
次回のテーマ
#153 対価性の判断(その2) 税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
e-mail:ta@lotus21.co.jp
マエストロの解説 これまで外国の事業体を、日本の税制上どのように取り扱うかという問題を争点とした多くの論争が、長く繰り広げられてきている。最も主要な論点として、具体的には、外国の特定の組織体を日本における「法人」と同様に取扱い、法人税法、所得税法の適用に当たって外国法人とするかどうかということである。日本の法制に基づく「法人」を対象とした法人税法等を外国の法制に基づく組織体に適用するということは、その外国の組織体が日本の「法人」に相当するものであることが前提となる。どのような組織体が「法人」に相当するのか、その基準はどのようなものか等について長年議論されてきたが、今般(平成27年7月17日)、最高裁判所第二小法廷が、その判断基準を示したものである。
1 事案の概要 最高裁判所第二小法廷での平成27年7月17日の判決(以下、「本件判決」)では、米国デラウエア州のリミテッド・パートナーシップ(Limited Partnership、以下「LPS」)は日本の租税法上の「法人」に該当すると判断された。この事案は、日本の複数の納税者(個人)が、受託銀行との信託契約を介して、平成12年12月に米国デラウエア州で組成したLPSを通じて米国所在の中古不動産を取得し、その不動産の賃貸事業を行ったものである。不動産賃貸事業の収支に関し、当該不動産の減価償却費及びその他費用を計上すると「不動産所得」は損失(赤字)となり、その損失について各納税者(個人)が所得税の計算に当たり、給与所得等と損益通算(所得税法69条)して確定申告をしたところ、課税庁が当該損益通算は認められないとして、各個人の所得税について更正処分を行ったものである。納税者は、損益通算によって給与等に係る源泉税が還付される申告をしたところ、損益通算を認めず、結果、還付額を否認する更正処分がされたものである。
論点は、不動産賃貸事業を行う当該LPSを日本の法制に基づく「法人」に相当するものと捉えるか、もしくは、当該LPSを日本の法制に基づく「組合」(いわゆる個人の集合体)として捉え、不動産賃貸事業は各個人が協力して行ったものと考えるかということである。「法人」と捉えるのであれば、各個人の投資は「出資」に相当するものとなり、不動産賃貸事業における損失は当該「法人」の損失となる。したがって、投資者個人の所得税に直接的な影響もない。一方、当該LPSは「法人」ではなく、各個人の協力体と捉えるのであれば、当該LPSの行った不動産投資事業は各投資者個人が協力して行ったことになり、当該事業からの損失は各個人に帰属、負担することとなる。したがって、本件のような損益通算も認められることとなる。
最高裁判所は、今般、米国デラウエア州LPSは「法人」に該当し、その損失は各個人(投資家)の所得税の計算上、損益通算はできないとしたものであるが、外国の組織体を「法人」と捉える基準、考え方が示されたことで、本件判決は注目度が高く、また、今後の税務に大きな影響を及ぼすと考えられている。
2 最高裁判決の要点
(1)法人:納税義務者の一類型 本件判決では、まず日本の租税法上の「法人」の概念について、納税義務者の一類型として自然人以外で租税債務を負担すべきものと認識できるものとし、次のように述べている。
「組織体のうちその構成員とは別個に租税債務を負担させることが相当であると認められるものを納税義務者としてその所得に課税して」おり、「外国法に基づいて設立された組織体のうち内国法人に相当するものとしてその構成員とは別個に租税債務を負担させることが相当であると認められるものを外国法人と定め、これを内国法人等とともに自然人以外の納税義務者の一類型としているものと解される。」
(2)納税義務者:権利義務の帰属主体 そして、我が国の租税法上の納税義務者としての適格性については、以下のように整理されている。
「そして、我が国においては、ある組織体が権利義務の帰属主体とされることが法人の最も本質的な属性であり、そのような属性を有することは我が国の租税法において法人が独立して事業を行い得るものとしてその構成員とは別個に納税義務者とされていることの主たる根拠であると考えられる上、納税義務者とされる者の範囲は客観的に明確な基準により決せられるべきであること等を考慮すると、外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かについては、上記の属性の有無に即して、当該組織体が権利義務の帰属主体とされているか否かを基準として判断することが相当であると解される。」
(3)第一基準:設立根拠法令の文言等からの判定 本件判決では、外国の組織体が我が国租税法上の外国法人に該当するか否かについては、権利義務の帰属主体という基準で判断するとし、権利義務の帰属主体であるかについては、次のように述べている。
「その一方で、諸外国の多くにおいても、その制度の内容の詳細には相違があるにせよ、一定の範囲の組織体にその構成員とは別個の人格を承認し、これを権利義務の帰属主体とするという我が国法人制度と同様の機能を有する制度が存在することや、国際的な法制の調和の要請等を踏まえると、外国法に基づいて設立された組織体につき、設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、日本法上の法人に相当する法的地位が付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白である場合には、そのことを持って当該組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当する旨又は該当しない旨の判断をすることが相当であると解される。」
(4)第二基準:設立根拠法令の趣旨等からの判定 次に、上記第一基準で判定できない場合には、設立根拠法令の趣旨等による判断を行うこととしている。以下、引用する。
「外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては、まず、より客観的かつ一義的な判定が可能である後者の観点として、①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討することとなり、これができない場合には、次に、当該組織体の属性に係る前者の視点として、②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律行為が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討することとなるものと解される。」
(5)デラウエア州LPSへのあてはめ 上記判断基準の本件判決におけるあてはめについて、まず、第一基準による判定ができない旨述べられている。
「州LPS法において同法に基づいて設立されるリミテッド・パートナーシップが「separate legal entity」となるものと定められていることをもって、本件LPSに日本法上の法人に相当する法的地位が付与されているか否かを疑義のない程度に明白であるとすることは困難であり、州LPS法や関連法令の他の規定の文言等を参照しても本件各LPSがデラウエア州法において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるとはいい難い。」
そして、第二基準については、次のように述べ、結果、我が国租税法上の外国法人に該当すると結論づけている。
「本件LPSが法人該当性の実質的根拠となる権利義務の帰属主体とされているか否かについて検討するに、州LPS法は、リミテッド・パートナーシップにつき、営利目的か否かを問わず、一定の例外を除き、いかなる合法的な事業、目的又は活動をも実施することができる旨を定めるとともに(106条(a)項)、同法若しくはその他の法的又は当該リミテッド・パートナーシップのパートナーシップ契約により付与されたすべての権限及び特権並びにこれらに付随するあらゆる権限を保有し、それを行使することができる旨定めている(同条(b)項)。このような州LPS法の定めに照らせば、同法は、リミテッド・パートナーシップにその名義で法律行為をする権限又は権限を付与するとともに、リミテッド・パートナーシップ名義でされた法律行為の効果がリミテッド・パートナーシップ自身に帰属することを前提とするものと解される。」「上記のような州LPS法の定め等に鑑みると、本件各LPSは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件各LPSに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められる。」
(以下は次回(625号)に掲載予定)
3.最高裁判決の検討及び疑問点
4.今後の実務への影響
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