解説記事2015年12月28日 【税務マエストロ】 対価性の判断(その2)(2015年12月28日号・№624)
税務マエストロ
税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座
今週のマエストロ&テーマ
対価性の判断(その2)
#153 熊王征秀(税理士)
略歴 学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税トラブルの傾向と対策』等、著書多数。
現在
東京税理士会会員相談室委員
東京税理士会税務審議部委員
東京地方税理士会税法研究所研究員
日本税務会計学会委員
大原大学院大学准教授
次回のテーマ
#154 米国デラウエア州LPSと「法人」該当性②
PwC税理士法人
品川克己 税制改正や、中国進出企業の増加に伴い、国際課税上のリスクは高まっている。国際課税の第一人者がそのリスクを検証する。
マエストロの解説 前回に引き続き、対価性の判断について解説する。今回は、「みなし譲渡」と「低額譲渡」の内容を確認するとともに、国税庁のホームページに掲載されている質疑応答事例を紹介し、必要に応じて解説を加えていくこととする。
1 みなし譲渡 消費税は、原則として有償取引のみを課税の対象とすることから、無償による取引は課税の対象とはならない。
ただし、無償取引であっても次の①と②の取引についてだけは例外的に課税の対象に組み込むこととされており、この取扱いを消費税法基本通達では「みなし譲渡」と命名している(消法4⑤、消基通5-3-1)。
この場合の売上金額は図表1により計算することとされている(消法4④、28②、消基通10-1-18)。
もっとも、事業者が広告宣伝や試験研究のために商品や原材料などを消費、使用する場合や資産を廃棄処分するような場合についてまでもこのような取り扱いがされるわけではない。これらの行為は「資産の譲渡等」ではないので当然に課税の対象とはならない(消基通5-2-12・5-2-13)。
また、個人事業者が事業用の自動車を家事のためにも利用する場合のように、事業転用部分が明確に区分できない場合にもみなし譲渡の対象とはならない(消基通5-3-2)。
法人税の世界では、役員に資産を贈与した場合、その贈与した資産の時価が役員給与と認定され、損金にならないと同時に源泉税が徴収されることになる。
実務においては、役員に資産を贈与したりすると、消費税だけでなく、所得税、法人税においてもそれぞれペナルティーが用意されているので注意が必要だ。
2 低額譲渡 消費税では原則として時価による認定は行わず、実際の譲渡対価を基に税額計算を行うこととしているが、法人の役員に対する資産の譲渡についてだけは、例外的に図表2のように取り扱うこととなっている(消法28①・消基通10-1-2)。
3 質疑応答事例(みなし譲渡)
○棚卸資産の自家消費(課税標準8)
<解説>
所得税では、家事消費をした棚卸資産の総収入金額(売上金額)の計算方法について、仕入金額以上の金額で、かつ、売値の70%以上の金額を計上している場合にはこれを認めることとしている(所基通39-2)。これに対し、消費税では、売上高(対価の額)として計上する金額は、売値(通常の販売価額)の50%以上の金額であればよいこととされており、所得税と消費税では、その基準が微妙に異なっているのである。
消費税は、基本的には所得税や法人税の決算金額を基に計算するものであるが、本事例のように、計算方法などが異なる箇所が随所にあるということに注意する必要がある。
なお、所得税における売上金額(家事消費分)から消費税における売上金額を算出する場合には、次のように対価の額を計算すればよい。
(注)家事消費した商品の売上計上すべき金額が小さい場合には、事務処理の簡便化の観点から、消費税のためだけに計算をやり直さなくてもよいかと思われる。
〇みなし譲渡の場合の時価(課税標準9)
<解説>
実務における取扱いであるが、役員に対する資産の譲渡対価が時価の50%未満でない限り、消費税において時価課税されることはない。例えば、時価100万円の絵画を役員に60万円で譲渡した場合には、消費税の計算では60万円が譲渡対価となる。
しかし、法人税の世界では、時価と譲渡対価の差額40万円が役員給与と認定され、損金にならないと同時に源泉税が徴収されることになるのである。
では、従業員や取引先の役員ならどうか……ということであるが、従業員に資産を贈与した場合には時価が給与課税され、源泉税の徴収義務が発生することになる。低額譲渡であれば時価と譲渡対価の差額が給与課税の対象となる。また、取引先の役員に対する資産の贈与であれば、時価が交際費として認定されることになるであろう。
実務の現場では、消費税だけでなく、所得税や法人税のことも念頭に置いたうえで税務判断をしなければならないのである。
なお、役員に対する資産の無償貸し付けや無償による役務の提供は、みなし譲渡や低額譲渡の対象とはならない(消基通5-3-5)。
4 質疑応答事例(会費・組合費・入会金)
○共同販売促進費の取扱い
(資産の譲渡の範囲13)
<解説>
メーカーが各系列販売店5社から共同販売促進費として200を収受し、実際に展示会に要した会場費などが900発生した場合の取扱いを確認する(図表3参照)。
○共同施設に係る特別負担金
(資産の譲渡の範囲14)
○マンション管理組合の課税関係
(資産の譲渡の範囲15)
<解説>
マンション管理組合が組合員から収受する管理費や修繕積立金は、管理組合がマンションを管理運営するための経費の分担金である。よって、同業者団体や組合等が通常の業務運営のために要する費用について、いわゆる「通常会費」の名目でその構成員に分担させる経費と同質のものと考えることができる。こういった理由から、管理組合が収受する管理費や修繕積立金は課税対象外収入となり、また、マンションの区分所有者である組合員が支払うこれらの費用は課税仕入れには該当しないことになる(消基通5-5-3(注)1・11-2-6)。
駐車場の貸付けについては、そもそも駐車場が区分所有者である組合員の共有になっていることから、管理組合が組合員から収受する駐車場の賃貸収入は課税の対象とはならず、また、組合員が管理組合に支払う駐車場の使用料は課税仕入れには該当しないことになる。
ただし、組合員以外の外部の者に貸付ける行為は、いわゆる内部取引とは異なるものであるから、非課税となる土地の貸付けに該当しない限りは消費税が課税されることになる。
○定例総会等の費用を賄うために徴収する特別参加費(資産の譲渡の範囲16)
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今週のマエストロ&テーマ
対価性の判断(その2)
#153 熊王征秀(税理士)
略歴 学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税トラブルの傾向と対策』等、著書多数。
現在
東京税理士会会員相談室委員
東京税理士会税務審議部委員
東京地方税理士会税法研究所研究員
日本税務会計学会委員
大原大学院大学准教授
次回のテーマ
#154 米国デラウエア州LPSと「法人」該当性②
PwC税理士法人
品川克己 税制改正や、中国進出企業の増加に伴い、国際課税上のリスクは高まっている。国際課税の第一人者がそのリスクを検証する。
マエストロの解説 前回に引き続き、対価性の判断について解説する。今回は、「みなし譲渡」と「低額譲渡」の内容を確認するとともに、国税庁のホームページに掲載されている質疑応答事例を紹介し、必要に応じて解説を加えていくこととする。
1 みなし譲渡 消費税は、原則として有償取引のみを課税の対象とすることから、無償による取引は課税の対象とはならない。
ただし、無償取引であっても次の①と②の取引についてだけは例外的に課税の対象に組み込むこととされており、この取扱いを消費税法基本通達では「みなし譲渡」と命名している(消法4⑤、消基通5-3-1)。
① 個人事業者の棚卸資産又は事業用資産の家事消費又は家事使用(個人事業者と生計を一にする親族の行為を含む。) ② 法人の役員に対する資産の贈与 |

もっとも、事業者が広告宣伝や試験研究のために商品や原材料などを消費、使用する場合や資産を廃棄処分するような場合についてまでもこのような取り扱いがされるわけではない。これらの行為は「資産の譲渡等」ではないので当然に課税の対象とはならない(消基通5-2-12・5-2-13)。
また、個人事業者が事業用の自動車を家事のためにも利用する場合のように、事業転用部分が明確に区分できない場合にもみなし譲渡の対象とはならない(消基通5-3-2)。
法人税の世界では、役員に資産を贈与した場合、その贈与した資産の時価が役員給与と認定され、損金にならないと同時に源泉税が徴収されることになる。
実務においては、役員に資産を贈与したりすると、消費税だけでなく、所得税、法人税においてもそれぞれペナルティーが用意されているので注意が必要だ。
2 低額譲渡 消費税では原則として時価による認定は行わず、実際の譲渡対価を基に税額計算を行うこととしているが、法人の役員に対する資産の譲渡についてだけは、例外的に図表2のように取り扱うこととなっている(消法28①・消基通10-1-2)。

3 質疑応答事例(みなし譲渡)
○棚卸資産の自家消費(課税標準8)
【照会要旨】
個人事業者が棚卸資産を自家消費した場合に、通常の販売価額の70%に相当する金額を課税標準としているときは、これは認められるのでしょうか。 【回答要旨】 個人事業者が棚卸資産を自家消費した場合のみなし譲渡に係る対価の額は、自家消費の時におけるその棚卸資産の価額(時価)によることとされていますが、その棚卸資産の課税仕入れに係る支払対価の額に相当する金額以上の金額で、かつ、通常の販売価額の50%以上の金額であれば認められます(消基通10-1-18)。 したがって、通常の販売価額の70%に相当する金額をそのみなし譲渡に係る対価の額としている場合は、その額が課税仕入れに係る支払対価の額に相当する金額に満たない金額でない限り認められることになります。 なお、棚卸資産以外の資産で事業の用に供していたものを自家消費した場合は、その資産の時価により課税されることとなります。 |
消費税は、基本的には所得税や法人税の決算金額を基に計算するものであるが、本事例のように、計算方法などが異なる箇所が随所にあるということに注意する必要がある。
なお、所得税における売上金額(家事消費分)から消費税における売上金額を算出する場合には、次のように対価の額を計算すればよい。
(家事消費した商品の販売価格×70%) ÷0.7×50% =消費税における家事消費した商品の売上金額 |
〇みなし譲渡の場合の時価(課税標準9)
【照会要旨】
法人がその役員に対して著しく低い対価で譲渡した場合には、消費税の課税の対象となりますが、その対価と比較する価額は時価となるのでしょうか。また、その時価はいつの時点で算定することとなるのでしょうか。法人税法上における時価の取扱いと同一でよいのでしょうか。 【回答要旨】 法人が資産を役員に対して譲渡した場合において、その対価が著しく低い場合とは、譲渡の時における通常の販売価額(時価)のおおむね50%に相当する金額に満たない場合をいいます(消基通10-1-2)。 この場合の時価は、法人税法上の時価の取扱いと同一です。 なお、実際の譲渡に係る対価の額は税抜きとされていることから、これを比較する時価についても税抜価額により判定することとなります。 (注)法人税法上の時価の取扱い 法人税法上、役員に対する所有資産の低額譲渡は、時価と譲渡価額との差額を損金の額に算入しないこととされていますが、この場合における「時価」は、売却を前提とした実現可能価額とされています。 |
しかし、法人税の世界では、時価と譲渡対価の差額40万円が役員給与と認定され、損金にならないと同時に源泉税が徴収されることになるのである。
では、従業員や取引先の役員ならどうか……ということであるが、従業員に資産を贈与した場合には時価が給与課税され、源泉税の徴収義務が発生することになる。低額譲渡であれば時価と譲渡対価の差額が給与課税の対象となる。また、取引先の役員に対する資産の贈与であれば、時価が交際費として認定されることになるであろう。
実務の現場では、消費税だけでなく、所得税や法人税のことも念頭に置いたうえで税務判断をしなければならないのである。
なお、役員に対する資産の無償貸し付けや無償による役務の提供は、みなし譲渡や低額譲渡の対象とはならない(消基通5-3-5)。
4 質疑応答事例(会費・組合費・入会金)
○共同販売促進費の取扱い
(資産の譲渡の範囲13)
【照会要旨】
契約に基づいてメーカー等が自己及び系列販売店のために展示会等を行い、これに要した費用の一部を系列販売店が負担することとしている共同販売促進費の分担金についての課税関係はどうなるのでしょうか。 【回答要旨】 メーカー等においては課税資産の譲渡等に該当し、系列販売店においては課税仕入れに該当します(消法2①八、九、十二)。 なお、販売促進のために行った共同行事に要した費用の全額についてあらかじめ共同行事の参加者ごとの負担割合が定められていて、メーカー等において、その負担割合に応じてその共同行事を参加者が実施したものとして、その分担金収入を参加者からの預り金として経理している場合には、メーカー等は分担金収入を課税の対象としないことができます(消基通5-5-7)。 |

○共同施設に係る特別負担金
(資産の譲渡の範囲14)
【照会要旨】
組合は、共同施設(組合会館、体育館等)の建設に際し、組合員から特別負担金を徴しています(共同施設は、組合が所有します。)。 この特別負担金収入は、共同施設の建設に要した借入金の返済に充てるものですが、課税の対象となるのでしょうか。 (注)この共同施設は、組合員以外の者にも利用させる場合がありますが、その場合、組合員と組合員以外の者とで、その利用料に差を設けています。 【回答要旨】 質問の場合には、明白な対価関係があるかどうかの判定が困難であると認められますから、組合が資産の譲渡等に係る対価に該当しないとし、かつ、組合員が課税仕入れに該当しないとしている場合には、その取扱いが認められます(消基通5-5-6)。 なお、この場合には、組合は消費税の課税関係を組合員に通知する必要があります。 |
(資産の譲渡の範囲15)
【照会要旨】
マンション管理組合の課税関係はどうなるのでしょうか。 【回答要旨】 マンション管理組合は、その居住者である区分所有者を構成員とする組合であり、その組合員との間で行う取引は営業に該当しません。 したがって、マンション管理組合が収受する金銭に対する消費税の課税関係は次のとおりとなります。 イ 駐車場の貸付け……組合員である区分所有者に対する貸付けに係るものは不課税となりますが、組合員以外の者に対する貸付けに係るものは消費税の課税対象となります。 ロ 管理費等の収受……不課税となります。 |
駐車場の貸付けについては、そもそも駐車場が区分所有者である組合員の共有になっていることから、管理組合が組合員から収受する駐車場の賃貸収入は課税の対象とはならず、また、組合員が管理組合に支払う駐車場の使用料は課税仕入れには該当しないことになる。
ただし、組合員以外の外部の者に貸付ける行為は、いわゆる内部取引とは異なるものであるから、非課税となる土地の貸付けに該当しない限りは消費税が課税されることになる。
○定例総会等の費用を賄うために徴収する特別参加費(資産の譲渡の範囲16)
【照会要旨】
(1)団体、組合等が定例総会又は地区別ブロック大会(大会後懇親会を催すこともあります。)を開催するに当たり、当該総会等に参加する会員から特別に参加費を徴収することとしている場合、この参加費は課税の対象となるのでしょうか。 (2)また、宿泊を希望する参加会員から別途徴収する宿泊費の実費相当額は課税の対象となるのでしょうか。 【回答要旨】 (1)団体、組合等が、自己の組織的活動の一環として催す総会又はブロック大会に際して、その費用を参加者に負担させているものであり、明白な対価関係があるとは認められないことから、不課税として取り扱います(消基通5-5-3)。なお、法別表第三に掲げる法人の場合、この参加費収入は特定収入となります。 (2)宿泊費として別途受領している場合には原則として課税の対象となりますが、当該宿泊費を預り金経理しているときは、その処理は認めるものとします。 なお、宿泊費が参加費の中に含まれている場合には、上記(1)と同様に取り扱います。 |
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TEL:03-5281-0020 FAX:03-5281-0030 e-mail:ta@lotus21.co.jp
※なお、内容によっては回答いたしかねる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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