資料2016年02月15日 【税制改正関連資料】 税制調査会(第23回総会)議事録
税制調査会(第23回総会)議事録
日 時:平成27年10月14日(水)午前9時45分~
場 所:財務省第3特別会議室(本庁舎4階)
○中里会長
それでは、第23回「税制調査会」を開会します。
前回は、個人所得課税セッションの第1回目として、日本の所得税や個人住民税のこれまでの歩みを振り返るとともに、主要諸外国の所得税の構造との比較を行うことによって、日本の個人所得課税の構造を把握して、今後の検討課題の洗い出しを行いました。
そのような議論の中で、例えば主要諸外国の所得税を見ると、日本で用いられている所得控除のほか、ゼロ税率や税額控除なども含めて多様な制度が存在している。そして、所得再分配機能の回復の観点から、これらの様々な制度も参考にしながら幅広い議論を行っていく必要があるのではないか、あるいは働き方が多様化している中で所得再分配機能の回復や、家族のセーフティネット機能の再構築の観点から、引き続き所得の種類ごとに異なった配慮を行うのか、それとも家族構成などの人的な事情に配慮できる人的控除による配慮を中心にしていくのか、どちらが良いのか考えていく必要があるのではないかといった御意見を頂戴しました。
今回はそのような議論に引き続いて、所得再分配機能の回復の視点を念頭に置きつつ、所得税の税率構造や控除のあり方などについて議論を進めていきたいと思います。
まずは事務局から関係の資料と前回の宿題について御説明いただいた後、かなり多目に時間をとって委員の皆様から御意見、御質問をいただきたいと思っています。
それでは、カメラの皆様は御退室をお願いします。
(カメラ退室)
議論に入る前にメーンテーブルにお座りの皆様の机の上ですが、今回の総会の説明資料の入っている厚い封筒の下に、もう一つ多少薄い封筒が置いてあると思います。これは財務省の浅川財務官が議長を務めているOECD租税委員会が取りまとめた税源浸食と利益移転、いわゆるBEPSプロジェクトの最終報告書に関する資料が入っているものです。この報告書は今月5月に公表され、8日に行われましたG20の財務大臣・中央銀行総裁会議に報告されたものです。これは国際課税に関する国際的な協調の歴史において非常に重要な役割を担うものですから、後日、この総会の場でも改めてこれについて事務方より御説明いただく予定ですが、本日は時間も余りありませんから、まず御報告までということで資料のみ置かせていただきますから、御覧になっていただきたいと思います。
それでは、先ほど申し上げましたとおり事務局からの資料の説明をお願いします。まず住澤主税局税制第一課長、よろしくお願いします。
○住澤主税局税制第一課長
おはようございます。よろしくお願いします。
それでは、資料総23-1「説明資料〔所得税②〕」に基づきまして、引き続き所得税のファクトファインディングを中心に説明をしたいと思います。
会長からお話がありましたように、再分配機能に関連する諸制度ということで税率構造、そして控除のあり方を中心に資料をまとめています。前半はそのようなテーマになっていまして、途中、課税単位の問題に若干触れた上で、後半の方で再分配に関連します個人所得課税と社会保険料の負担の状況あるいは課税最低限といったものについてもデータを紹介したいと思います。
2ページは前回御説明をした資料の中で、所得税における負担調整については様々な手法があるということを、諸外国の例を基に説明をしました。その資料を再掲しています。累進税率を給与収入に適用した税額を基準にした場合、そこからの負担調整の手法としましては、我が国で広範に採用されています所得控除のほかに、ゼロ税率や税額控除といった別の対応があります。あるいは課税単位の問題に及びますが、ドイツ、フランス、アメリカのような合算分割課税といった制度もあるということを前回ご覧いただきました。これを今回、若干掘り下げた議論をしたいと思います。
3ページに掲げているものは、平成19年の当税制調査会の答申です。所得控除と税額控除をめぐるこれまでの議論をある程度コンパクトに、象徴的に示している答申であると思いますから、そのポイントをまとめています。
ポイントは、所得控除につきましては担税力の減少に配慮するという制度ではありますが、この図で分かりますように、高所得者ほどこの税負担軽減額が大きいといったことがこれまで指摘をされてきているわけです。それに対して税額控除の場合は、所得水準にかかわらず、税負担軽減額が一定となるということで、再分配機能の面からは望ましいのではないかといった議論が行われています。また、この税額控除の性格については二つ目の囲いにありますように、財政的支援としての性格が強い。要するに補助金や給付と類似の性格を持ったものである。このような認識がある程度イメージされて議論されてきたものではないかと思われます。
今回の資料では、このようなこれまでの認識を一回横に置きまして、このような捉え方だけが税額控除に対する捉え方であるかどうかということも含めて、諸外国の例なども含めて整理をしていきたいと思います。
その手始めとして4ページですが、これまで所得控除、税額控除をめぐる議論というものは、あくまでこの控除のあり方の中だけの議論として展開をしてきたきらいがあります。そこで原点に立ち返って所得税負担の累進性というものはどのように構築されるのかということを考えてみますと、主として我が国の現行の所得税における累進性というものは、控除のあり方だけではなくて、それと税率構造の組み合わせによって実現されているということがあります。
左上の箱ですが、今の所得税の考え方としては、課税所得というものを一種の租税負担能力の指標として位置付けまして、それを計算する過程で家族構成や収入などの納税者の事情に対する斟酌を一定程度終えてしまうということが基本的な考え方になっています。そのために所得控除中心の考え方を採っている。
右の箱の上にいきますが、その上で課税所得に対して累進的な税率を適用することで、累進的な税負担を実現するということが今の考え方です。これに伴って左下ですが、所得控除を適用することで課税最低限が画されることになり、一定の所得金額までは負担を求めないという機能が果たされていると同時に、右下ですが、所得控除の適用によりまして同じ税率が適用される納税者の間では、税負担の累進性が生まれるという役割も果たしています。これが全体的な今の累進構造の基本になっているかと思いますが、この点、若干5ページで詳しく説明していきたいと思います。
今、最後に申し上げました、同じ税率の下で累進性を付与するという所得控除の機能ですが、5ページでは比例税率が適用される所得税を考えまして、そこに所得控除が入ることでどのような効果が生ずるかというものを図示しています。全く所得控除もなしで比例税率を適用する場合には、実効税率カーブというものは左側の図のように完全にフラットな形になるわけですが、ここに所得控除が導入されますと、右側の図のように一定の所得までは課税されないということで、課税最低限が生まれるとともに、実効税率カーブも累進的な曲線の形になるということです。所得控除というものは高額所得者ほど有利であるという言い方がされるわけですが、この図の上で見ると所得に対する税額の割合、いわゆる実効税率を基準として考えた場合、低所得者ほど所得控除の場合も実効税率を低下させる効果は大きい。したがって、累進的な実効税率カーブになるということも言えるわけです。
6ページ、我が国の所得税がそのようであるように、超過累進税率の構造をとっている場合に今の議論はどのようになるかということです。左側は同様に控除なしで累進税率を適用された場合でして、超過累進税率になりますから、最低税率の間はフラットな税率になりますが、そこから先は累進的なカーブになっています。ここに所得控除が導入されますと、右側の緑色の線のようになりまして、所得控除前の赤い点線と比べますと、低所得層ほど実効税率の低下幅が大きくなり、課税最低限が設定されて累進的な税率カーブになるという効果があるわけです。
そこで、この所得控除を税額控除に切り替えたらどのように変化するかというものが黒い線でして、ここでは税収中立で切り替えを行うことを想定しまして、所得控除の金額に平均的な税率を乗じた額を税額控除の額と設定しまして計算しています。そのようにしますと、平均税率以下の低所得層にとっては減税になり、上の方は増税になりますから、御覧のように課税最低限が上昇するとともに実効税率カーブがよりスティープな格好になりまして、再分配機能を強める効果があるということが分かります。
7ページ、このような実効税率カーブの変化というものは、左側の絵のように税額控除に移行する場合だけではなくて、税率構造そのものを変化させる場合でも生まれることになります。右側の方では最高税率の引上げを含む税率構造の見直しを行う場合のイメージを示していますが、実効税率カーブ全体が上の方にシフトするとともに、よりスティープな構造になることがおわかりいただけると思います。
したがって、累進性あるいは再分配機能と所得税のあり方、控除のあり方と税率構造の両面から検討する必要があるということです。
8ページ以下では、税率構造についての幾つかのデータの紹介です。
9ページはよくご覧になっているものですが、この間、この所得税率については累進緩和が進められてきて、本年から最高税率の引上げが実施をされているという状況にあります。結果、10ページにあるように、主要国の中では国と地方を合わせました最高税率は55%ということで、一番高い水準になっています。
11ページで御覧いただきますと、OECD諸国の中でも引上げ後の最高税率というものは、上位から4番目の高い水準になっています。
結果として12ページですが、勤労所得に関する実効税率カーブを書いてみますと、我が国の実効税率カーブの水準5,000万円超の高所得者のところで見ると、主要国の中で一番高い水準になっています。ただし、これは給与所得についての実効税率カーブですから、ほかの所得も入ってくるとどのようになるかということで13ページですが、これは申告所得税の負担率についてグラフ化したものです。よく言われるところですが、高額所得者になると株式の譲渡所得が所得の中に占める割合が大きくなりまして、この株式の譲渡所得に対しては比例税率による分離課税が行われることもあり、所得税の負担率が逆に高所得層で低下するという現象があります。
このグラフは平成25年分ということで、上場株式等に対して配当と譲渡益に10%の軽減税率が適用されていた時代のことですから、本年分からはこれが20%に復帰することで、若干このカーブが上の方に来ているかなと推測されますが、いずれにしても右下がりという傾向はあるわけです。
ただし、この点については、株式等の譲渡所得というものは数年にわたって、長年にわたって蓄積をされたものが一時に実現するという場合もありますから、何らかの平準化が行われる必要がある。ほかの所得と同じような累進税率をかけることが果たして良いかどうかという議論があることと、諸外国においてもそのような観点から何らかの軽減措置が講じられているところには留意する必要があります。税率構造との関係で紹介しました。
続きまして14ページ以下で、現行の所得控除の考え方と諸外国の制度の対比をしていきたいと思います。
15ページ、前回大田委員からも基礎控除等の意義について確認をした上で議論を進める必要があるという御指摘をいただいています。ここでは平成12年の答申を紹介していますが、基礎的な人的控除、基礎控除、扶養控除等の役割として、納税者の税負担能力を減殺させる事情に対しての斟酌という位置付けが示されています。特に基礎的な人的控除については、世帯構成などの納税者の担税力を減殺させる基本的な事情を斟酌するためのものであると言われてきていまして、そのうちの基礎控除については一定額までの少額の所得については、税負担能力を見出すには至らないという考え方に基づくものであると説明されてきています。
この点を若干詳しく説明させていただいているものが、16ページの金子宏教授の『租税法』の一節です。基礎控除等の人的控除については、所得のうち本人及びその家族の最低限度の生活を維持することに必要な部分は担税力を持たないという理由に基づくものであるということで、いわゆる最低生計費的なものに対する配慮という考え方が示されているわけです。これが現行の所得控除の基本的な考え方ということで、17ページには現行の人的控除のリストを掲げていますから、御確認ください。
18ページには、そのほかの様々な所得控除の類型を示しています。
19ページには、基礎控除等のこれまでの沿革を示しています。前回、所得税の沿革を御説明する中で触れさせていただきましたが、それを改めて整理させていただいています。ご覧いただければと思います。
20ページには、特別な人的控除と言われています障害者控除等の沿革がありますが、前回も少し触れましたが、昭和25年、26年にこれらの控除が所得控除として創設をされていますが、昭和27年から42年までの間ですが、一時的に税額控除方式になっていた時期もあるということです。当時の考え方としては基礎控除などの最低生計費に対する配慮については、所得控除であることが自然であるが、他方、障害者控除等については社会政策的な配慮であるという側面もあるため、所得水準にかかわらず一定の配慮が行わることが必要であるといった考えがあって、一時的に税額控除になっていた時期があるという歴史です。
21ページは、その他の控除の沿革です。
22ページには現在ある税額控除あるいは歴史上存在した税額控除の例を示しているものです。所得税法、本法の上での税額控除としては、配当控除などの二重課税の排除の点から設けられているものが中心です。あとは政策的な控除となっています。
23ページ以降で外国の諸制度について見ていきたいと思います。前回も所得税の比較をする中で触れさせていただきましたが、ドイツにおいては我が国の基礎控除に相当する控除がありません。その一方で税率表の第一税率がゼロ税率となっていまして、これによって一定額までの所得に対しては税負担を課さないという機能が果たされています。我が国の基礎控除等の役割が別の形で実現をされているということです。
先般、野坂委員から、このようなゼロ税率の背景について調査するようにという指示をいただいています。現在、ドイツ等にも問い合わせをしていますが、もう少し調べる必要があるため、少々お時間いただければと思います。それから、上西特別委員から、ゼロ税率が入った場合の税額計算の手続についてのお問い合わせがありました。詳細は今まとめているため、次回、間に合えば御報告したいと思いますが、基本的には我が国と同様の税額表あるいは速算表というものが設けられているということで、具体的にはまた説明させていただきます。
24ページ、フランスです。フランスも同様にゼロ税率のブラケットがあるということで、ドイツと同様の仕組みになっています。
25ページにお移りいただきましてカナダです。カナダの場合は税額控除ですが、先ほど紹介した平成19年の答申で指摘されているような財政支援的な税額控除というよりは、少し性格の異なった控除になっているように見受けられます。それは、この税額控除の仕組みの上で一定の所得金額、この表の中ではAという記号を振っていますが、このAという所得金額に対して最低税率15%を掛け算しまして、その結果、出てくる金額を税額控除するということで、グラフの方に目を移していただきますと、例えば基礎控除については一定の所得金額に15%という最低税率を乗じたものを税額から控除しますから、結果としてゼロ税率と極めて似た機能を果たしていることになります。
ゼロ税率との違いは、カナダの場合は基礎控除だけではなくて配偶者控除についても同様の方式で税額控除化されていまして、複数の控除をこのような形で積み重ねていくことが可能になるという意味で、ゼロ税率の場合とは少し違う仕組みになっているわけです。
このような仕組みは、1987年に所得控除から税額控除に移行した際に作られた仕組みであると承知しています。なお、下段の参考のところにありますが、イギリスにおいても課税単位が個人単位課税に移行しました1990年以降、10年間、夫婦者控除という控除が設けられていましたが、これも途中、所得控除から税額控除方式に移行した際に、このカナダと同様の一定の金額に最低税率を乗じた額を税額控除するという方式になっていた時期があるということです。
26ページ、アメリカにおいては前回も触れましたが、我が国と同様の所得控除方式の人的控除が存在しますが、違いとしましては所得が一定金額を超える場合、この人的控除の額が低減していきまして、最終的には消失するということで、一定以上の高所得者に対しては、控除することなく直接税率を適用することになっているということが違う点です。
27ページのイギリスについても、同様の仕組みがとられています。
以上をまとめますと、28ページでして、我が国の所得控除の考え方である一定金額までの所得については税負担を課さないこととするための仕組みとしては、諸外国に多様なものがあるということが分かります。所得控除の場合は左上にあるように、所得金額から控除した上で累進税率を適用するため、左下の効果のところに書いてあるように、所得金額のうち一番高い税率が適用される部分から控除が行われるという結果になるわけですが、他方このゼロ税率、税額控除、カナダのような場合については、控除を行わずに所得金額の全体に対して累進税率を適用するという考え方をとった上で、一定金額までの所得については負担を求めない。そのためにこのゼロ税率や、あるいは所得金額に関しては最低税率分負担を軽減するという仕組みを採っているわけです。
結果として効果の欄を御覧いただきますと、所得金額のうち最低税率が適用される部分から所得控除を行ったものといわば同じ効果が生ずるということで、税負担軽減額が所得水準によらず一定になるということです。
また、アメリカ、イギリスの場合、参考とさせていただいていますが、この場合については一定以上の高所得者の場合については、控除なしで直接累進税率が適用されるということで、所得について根っこから課税が行われるという考え方も諸外国にはあるということです。
29ページには、このような所得税の見直しを行っていく場合に、様々な制度に影響が及んでいきますから、関連する諸制度として社会保障制度の類型を掲げています。所得金額や税額というものは、このような分野で様々な基準として用いられているため、このような制度への影響についても考慮する必要があるということです。
30ページ、税制に関連する給付措置ということで比較表を掲げています。先日の国際比較の中にも右側に、税額控除の欄に登場したものですが、いわゆる給付付き税額控除と翻訳をされていますが、その実態を見ていきますと例えばイギリスやドイツのように給付の仕組みの欄を見ますと、全額給付措置であるという措置もかなりあります。そのような意味で税額控除という名前があたかも税制上の措置であるかのような印象を与えますが、給付措置が主体になっている国もある。また、アメリカの欄などをご覧いただきますと分かるかと思いますが、公的扶助や児童手当といった制度の代替物として設けられてきた歴史があります。各国においてそのような位置付けが与えられており、このような制度について議論する際には、我が国で申しますと生活保護あるいは失業手当、児童手当といった関連する諸制度との関係において議論されるべきものであると考えられます。
また、イギリスやフランスの一番下の欄を御覧いただきますと、かなり様々な税額控除や給付措置ができてきた結果、非常に複雑怪奇な制度になっているということで、このようなものを一本の給付措置に統合していくという動きが各国とも見られるようになっているということです。
以上、所得控除の関係について説明をしました。
31ページ以降は、負担調整手法の一環として説明しました合算分割課税等の課税単位の問題です。昨年11月の第一次レポートで一定の結論を出していただいていますから説明は簡単にしますが、32ページに見られますようにアメリカ、ドイツ、フランスにおいて、一部、世帯単位課税の考え方が採り入れられています。
33ページの左の欄をご覧いただきますと、北欧や先進諸国の中ではかつて世帯単位であった国も、個人単位に移行する国が多いということが現在の流れです。
34ページでは、所得税の税率構造と合算分割課税の効果が非常に密接に関連していることを図示しています。右側の二つの絵を御覧いただきますと、高所得者の場合は所得Yというものを合算分割課税で一回、2分のYに軽減した上で税率を適用しますと、適用される税率が低くなりますから、これをさらに2乗して税額を計算しますと、白抜きの部分の税負担が軽減されるという効果がありますが、左側の図のように最初から最低税率が適用されるような中低所得層の場合は、このような操作をしても適用税率は不変のため、合算分割課税の効果はないということになるわけです。
我が国の場合、35ページにありますように所得税の税率ごとの納税者の分布を見ますと、最低税率の5%に分布している納税者が60%、第二税率の10%まで含めると83%ということですから、合算分割課税の効果は非常に限定的であるということが推測できるわけです。
実際に36ページで2分2乗方式を導入した場合に現行とどのぐらいの所得税負担の増減が生じるかというものを世帯収入が500万円、700万円、1,000万円の場合、左側が片働き、右側が共働きで収入比3対1の場合について試算をしたものですが、御覧いただきますと所得が1,000万円といった高額所得層になりますと、この合算分割による減税額というものが相当出てきますが、中低所得層においてはほとんど効果がないということが見てとれるかと思います。
このようなこともありまして38ページにお飛びいただきまして、第一次レポートにおいては個人単位課税を基本とすべきという考え方を示していただいているところです。このような家族構成に応じた配慮のあり方として、合算分割課税が今の税率構造を前提にすると余り効果がなく、高所得層の優遇となるにすぎないとしますとどのようになるのかということで、40ページ以下で第一次レポートの概要を示していますが、家族構成に応じた配慮を考えていくに当たってのいくつかの選択肢ということで、41ページには配偶者控除の廃止と子育て支援の拡充といった選択肢。また、42ページにはいわゆる移転的基礎控除の導入と子育て支援の拡充という選択肢。43ページに、いわゆる夫婦世帯を対象とする新たな控除の導入と子育て支援の拡充、このようないくつかの選択肢を示していただいています。昨年御議論いただいた点ですから、詳しい説明は割愛をさせていただきます。
45ページ以下で、負担の現状についてのいくつかのデータを紹介していきたいと思います。
45ページは、単身の世帯あるいは共働きの夫婦のうち一人というものを取り上げまして、個人所得課税の実効税率の時系列的な推移、社会保険料の負担をそれに加えた場合の推移を比較しています。左側が個人所得課税の実効税率の推移ですが、黄色い一点鎖線が消費税を導入する前の実効税率で、赤い線が平成6年当時のものですから、消費税導入後となります。青い点線が平成6年に決められました税制改革において平成7年以降、減税が行われていますから、その線を示していまして、黒い線が現行となります。
これをご覧いただくと、消費税導入に伴う直接税の減税を行った際に、かなり広範な所得層において黄色い線から赤い線へのシフトが見られる、減税が行われているということが分かると思います。それに対して平成6年に決まって7年から実施された減税においては、矢印が書いてありますが、年収が1,000万円前後のいわゆる中堅所得層から上の層を中心とした減税が行われているということです。当時の認識としては、所得水準が平準化している等々の認識があったわけです。この点は後で当時の答申に触れたいと思います。
結果、社会保険料負担も含めたところでどのような推移がもたらされたかというものが右側のグラフです。黄色と赤と青の位置関係については右側とさほど変わりませんが、黒い線が全体として青の点線よりも上の方に並行にシフトしていることが分かると思います。これは平成10年前後以降、社会保険料が逐次引き上げられていることに伴うシフトが起こっているわけです。結果としまして、この黒い線と黄色い線などを比較してみますと、低所得層においては黒い線が黄色い線を上回っていわば負担の増加が生じているとともに、中高所得層におきましては現在の負担は消費税導入前の負担を下回るということで、減税が行われているというような格好になってきているわけです。
この資料は最近、特に単身世帯が増えているということで46ページのような世帯類型の数の推移がありますから、単身や共働きの一人の場合を示したわけですが、他方様々な世帯類型がありますから、48ページ以降では夫婦で片働きの場合や、夫婦で共働きの場合などを示しています。共働きについては49ページの収入比が3対1の場合と50ページの3対2の場合というように、2ケースお示しをするということにしています。
収入比3対1と申しますのは、消費実態調査における平均的な収入比をとっていまして、また、3対2を取り上げていますのはOECDの統計をまとめる際に、OECDでは3対1の場合と3対2の場合を国際的な比較の基準として採用しているため、両方のケースについて示しているものです。
51ページ以降は夫婦二人の場合についても片働き、共働き、両方のケースを示しているということで、様々な世帯類型について示していますが、インプリケーションは先ほどとさほど変わりませんから、細かい説明は省略させていただきます。
54ページ、先ほど少し触れました平成6年の所得税の累進緩和をした際の考え方の答申です。中央の(4)を御覧いただきますと、当時の認識としましては、我が国における所得分布の状況が諸外国に比してはるかに平準化しているという認識の下で、この強い累進性が必要なのかどうかという問題意識。また、収入が勤続年数に応じて増加するサラリーマンが大宗を占めている中で、そのようなサラリーマンの税負担の累増感に対する配慮ということがありました。したがって、中堅所得層以上のところで税負担の累増感を生じないような累進性の緩和をするということが行われたわけですが、結果として所得が平準化しているという認識の下ではありますが、再分配機能がある程度犠牲になったということは否めないものかと思います。
その後、55ページ以降にありますように、実像把握のセッションで見てきたような変化があるわけです。56ページの左側をご覧いただくと、若年層においてもジニ係数が上昇していることがあります。その背景に57ページにありますような非正規労働の拡大ということがありまして、現在では就労者の4割弱が非正規労働になっている。
58ページの左側ですが、所得が勤続年数に応じて上昇していくということは、あくまで正規労働者を念頭に置いた考え方ですが、現在においては所得水準は横ばいの傾向を示す非正規雇用の方々が相対的に増大をしているということで、平成6年当時とはかなり大きな変化が生じているということです。
59ページは社会保険料率の推移を示していまして、その背景にある社会保障給付費の推移を60ページに示しています。また、61ページでは先ほど示した累進カーブと社会保険料控除の関係について、若干のコメントを載せています。社会保険料の負担構造、このピンク色にあるように支払保険料に頭打ちがあるという構造ですから、黒い実線で示していますように、その負担率は右下がりのカーブを描くことで、元々逆進的な構造を持っています。そこに社会保険料の控除が緑のような格好で所得控除として適用されますから、これを差し引いた実質的な支払保険料を所得で割った実質的な負担率のカーブは赤い線のようになりまして、一層この逆進性を増すという傾向がある。これが高所得層における実効税率カーブの低減をある種支えている一つの要素にもなっているわけです。
62ページ以下では、このような自己負担率のカーブを国際比較しますが、その前提としまして先般、制度の再分配機能の観点からの分析が必要であるという野坂委員の御指摘や、林特別委員からも社会保障制度の違いを踏まえた分析が必要であるなどの御指摘をいただいていますから、まずは社会保障制度の国際比較をしています。
日本の場合、医療サービスを含めまして広範に社会保険方式が採られていますが、ドイツ、フランスは基本的に同じような制度類型を持っています。他方、右側の白抜きになっている国々においては、医療サービスに税方式が適用されていたり、我が国とは社会保険方式の中身が相当違っているということで、単純な比較ができないということになります。それも含めて63ページ以下の資料を作成しています。
63ページは単身の場合ですが、個人所得課税の実効税率、左側のグラフで御覧いただきますと、低所得層を除きますと主要諸外国よりもかなり低い水準になっていまして、最も緩やかな、フラットな累進構造になっていることが見てとれるかと思います。結果、同様の社会保険制度を持っていますドイツ、フランスと比べた場合、社会保険料を含めても負担水準としてはかなり低いところにとどまっていますが、ただし、特徴としては低所得層においてはドイツ、フランスに近い負担水準になっているのに対し、それより上のところではかなりの開きがあるということで、非常にフラットな負担構造になっていることが特徴的です。
64ページは、日本と大きく社会保険制度が異なる国々について参考で載せているものです。
65ページ以降は、先ほどと同様に世帯類型を違えまして様々なケースを示しているため、傾向としてはさほど変わりませんから説明は省略させていただきます。
79ページ、課税最低限についてのデータを紹介します。
まず課税最低限というものの性格ですが、この平成12年の答申にありますように、所得税におきましては様々な控除が行われるということでして、その控除を差し引いた金額が課税対象となるということで、一定金額以下であれば課税はされないということになるわけです。
給与収入について、どこまでの水準が課税されないかというものを示すのが、いわゆるこれまで課税最低限と呼ばれてきたものです。この課税最低限は様々な控除から成っていまして、その機能としては最低限を画するとともに、税率と一緒になりまして税負担を左右する要素になるということは、先ほど説明したとおりです。
80ページで近年の課税最低限の推移をいくつかの世帯類型別に示しています。一点申し上げたいことは、平成27年につきまして社会保険料の計算について前提を若干変更しています。平成12年以来、課税最低限の計算をする際に、社会保険料の水準については給与収入の10%という前提を置いて計算をしていました。他方、本年に至りまして社会保険料の水準が給与収入の15%台に乗るといったことになりましたから、今般、新しく示した平成27年分の数字から若干この数字が高くなっている。社会保険料の額が大きくなったということで課税最低限が上がっているということです。
81ページは、片働きと単身のケースについてこの課税最低限の内訳を示しています。水準を御覧いただくと単身の場合121万円、夫婦のみの場合168万円ということで、子供がいるとある程度の水準ですが、単身あるいは夫婦のみの場合の課税最低限というものは、必ずしも高い水準ではないということが分かると思います。
82ページ、共働きの給与所得者の場合について、様々な組み合わせについて課税最低限を示しています。課税最低限を足すことには余り意味がなくて、夫婦と言えどもそれぞれ独立の納税者ですから、別々に示しているという点は御留意ください。
83ページには課税最低限の内訳の推移ということで、沿革を示しています。先般、所得税の沿革について御説明した際に、昭和49年に給与所得控除の大幅な拡充が行われたということを申し上げました。当時、控除率の引き上げが行われただけではなくて、最低保障額というものが初めてできまして、これも大幅に低所得層にとって引き上げになっているということです。それ以降、課税最低限の内訳を見ますと単身の場合、基礎控除よりも給与所得控除の方がウエイトが大きい。逆に言うと人的控除である基礎控除の役割が非常に限定的であるという姿になっているわけです。
他方、夫婦のみの場合が84ページ、あるいは夫婦子二人の場合が85ページですが、家族が増えると人的控除は若干増えますが、一人当たりの人的控除の額というものは比較的限定的であるということは、前回の説明でも申し上げたとおりです。
86ページ、この扶養控除に関してですが、年少の扶養控除について赤い点線で囲っているところをご覧いただくと、平成22年度の改正においてこれが廃止をされまして、子ども手当に振り替わるといったような改正が行われています。したがって、この辺りを加味した比較をする必要があるであろうということで、87ページに課税最低限に児童手当等の給付額を加味した場合の実質的な課税最低限の水準がどのようになるかという国際比較を示しています。
子供がいる場合は、このような児童手当の効果が乗りますから、実質的な課税最低限、比較的諸外国と遜色のない水準となっていますが、単身と夫婦のみの場合はどちらかというと諸外国と比べて低い水準あるいはアメリカと同等の水準にあるということです。
この課税最低限の内訳を国際比較したのが88ページ以降です。ここでは所得の種類によらずに適用される基礎控除などの人的な控除や、ゼロ税率などのある意味、汎用性のある制度、所得の種類によらずに適用される制度をブルーで塗っていますが、諸外国においてはこのような人的控除による課税最低限の調整というものが主流になっているということが、この図から分かると思います。
なお、フランスやスウェーデンは課税最低限が非常に高くなっています。フランスの場合は先般も説明しましたように、一般社会税等の社会保障関係の諸税が所得税のほかにあります。このため所得税の課税最低限が高くなっている。また、スウェーデンについてはここでは国税の課税最低限を示していまして、地方税の課税最低限は基礎控除の適用だけですから、結構低い水準になっているということです。
89ページ以降は、世帯類型を変えて見ているものです。全般的な傾向は変わりませんから、説明は省略させていただきます。
92ページは実像把握のセッションで、今回御説明した資料に関連しておっしゃられた様々な意見を示しています。全部は紹介しませんが、所得再分配機能の意義や、それを考えていくに当たっての留意点あるいは税額控除なども視野に入れて、様々な検討をする余地があるのではないか等々の指摘がなされているわけです。
93ページ以降は、前回いただいた宿題に対する答えを示しています。高田委員からいただいた所得、消費、資産の税収構成比の推移について何ページか、諸外国のものを含めて整理をしています。時間の都合で説明は省略させていただきます。
102ページには、田中特別委員からいただきました社会保障負担率のうち、事業主負担はどのぐらいかというものの各国比較です。田中特別委員からは先般、国民負担率との関係で受益の水準がどのようになっているかという御指摘をいただいていました。この点についてはページが戻って恐縮なのですが、77ページをお開きいただきまして、先ほど説明を飛ばしてしまいましたが、社会保障給付のGDP比と国民負担率の関係を二次元にプロットした図です。日本の場合は社会保障支出の水準がある程度中福祉の上の方にあるのに対しまして、国民負担率の水準はどちらかというと低い方に属するといったような状況になっているということです。
103ページにお飛びいただきまして、ここから二枚は大田委員から御質問いただいた、給与収入に対して所得控除の額がどの程度のウエイトを占めるかという資料を、OECDのTaxing wagesという資料からそのまま抜粋しています。留意点としましては、ここにある所得控除のほかに税額控除やゼロ税率あるいは合算分割課税といった様々な負担調整が先日説明したとおりにありますから、ここに載っているものが全てではないということです。
105ページ、106ページは大田委員からの御質問で、社会保障給付に対する様々な課税関係を整理したものです。
以上で今回の資料を終わりますが、前回、御説明した資料に訂正が一点あります。封筒の外に前回の総22-1「説明資料〔所得税①〕」という資料が置いてありますから、その28ページをお開きいただきたいと思います。スウェーデンの所得税の構造ということで28ページに図がありまして、税率構造の欄、ゼロ税率のブラケットが709万円となっています。前回少し手違いがありまして、ここに71万円と書いてありまして、一桁違っていました。709万円ということで今回訂正をさせていただきましたため、お詫びして訂正させていただきます。
○中里会長
ありがとうございます。
続きまして、川窪自治税務局市町村税課長、お願いします。
○川窪自治税務局市町村税課長
続きまして、地方税につきまして説明したいと思います。資料は総23-2「説明資料〔個人住民税②〕」を御覧いただければと思います。
目次のところを最初に御覧いただければと思いますが、個人所得課税の大きな一つの柱であります個人住民税につきまして、個人所得課税全体の構造としましては、所得税と共通している部分が非常に多くありますから、今回の説明も個人住民税が所得税と違っている部分につきまして、重点的にポイントを絞って説明をしたいと考えています。
1ページ以降ですが、最初に負担調整の制度の効果イメージにつきまして、比例税率である個人住民税の場合ということで模式図を1ページ、2ページと続けて載せさせていただいています。これは個人住民税が比例税率ですから、1ページの上の方に書いていますように、①の所得控除方式を③のゼロ税率あるいは④の税額控除のような形に、税収中立の世界で動かしてもそのこと自体によっては負担調整のインパクトが変わるということが起きないということですが、一方でこれまでのこの税制調査会における議論の中でも諸外国の例などの中で様々議論もされ、紹介もされてきているような所得計算上の控除や、あるいは人的控除など、そのような仕組みを日本とはまた違う構造が様々ありますが、そのような仕組みの取り方によっては、この比例税率の下においても負担調整における効果が一定程度起き得るわけですから、そのようなことを考えながら制度改正のあり方を考えていくことが必要ではないかということです。
分かりやすく言えば、比例税率であるということに伴う制度上の効果の発揮という意味では制約がありますが、一部効果が発揮されるような改革のあり方というものも議論の余地がある、そのような意味で掲げさせていただいているものです。
3ページは、今、申し上げました個人住民税の場合、負担の調整ということに焦点を当てようとすると、主に控除のあり方について議論になるのではないかということを、比例税率であるためということから説明している資料です。
4ページは、その比例税率というものが平成18年度に法改正を行っています、いわゆる三位一体改革の結果としての平成19年度から適用されている10%比例税率というものでして、過去の経緯としては、このようなフラット化を順次進めていく中で、比例税率に基づく応益的な課税の性格を強化してきた経緯があるというものが4ページです。
以下、5ページ以降は先ほど財務省から説明のありました各種控除などのデータについて、所得税と少しずつ数字が違っている部分があるという資料でして、5ページは人的控除、6ページはその他の所得控除でして、6ページについては所得税と同じ計算をするものもありますが、総じて少しずつ小さめの金額で所得控除の金額が設定されているという話です。
また、7ページから8ページにかけましては、これらの控除に関します沿革を書いています。おおむね所得税における改正と、特に昭和40年代辺り以降は同様に改正が行われてきていると考えていただければと思います。
10ページは個人住民税における税額控除の仕組みが過去から現在にかけ、どのようなものが存在したか、今あるかということの一覧です。今回の改革の議論をする際の直接の関係ではないかもしれませんが、寄附金税額控除について個人住民税には独特の制度が、いわゆるふるさと納税があるということや、10ページの一番上に調整控除というものがありますが、三位一体改革を行ったときの負担の調整をするための控除という仕組みが、引き続き現在も設けられているというような独自の事情もあります。
続きまして11ページ以降です。中立的な税制の構築に関する昨年の第一次レポートについてですが、これについては所得税と共通の課題ということで先ほど説明のあったとおりでして、11ページの一番下に書いています非課税限度額などを議論する際には、社会保障や福祉の制度などに使われていることにも留意が必要ということが触れられていることを、ここではレポートに書かれている中身の一つとして紹介しています。
12ページ以降、課税最低限に関する情報です。こちらにつきましては12ページに平成12年の税制調査会の答申にも整理をされていますように、所得税よりも低めに課税最低限が設定されている。そこの考え方が整理されています。実際に13ページの絵にありますように、どのような収入の方から税がかかり始めるかという目で見ますと、左上の黄色い拡大図のようなものがありますが、初めに個人住民税の均等割の課税が始まり、そして個人住民税の所得割の課税が始まり、もう少し所得が増えてくると所得税への課税が始まるというような位置関係にあります。
当然ですが、この絵には描いていませんが、個人住民税の均等割課税がされ始めるよりも低い収入の方々においても、社会保険料についてはそれぞれ例えば国民健康保険における均等割部分や、一部負担をいただいているという社会保険料の制度などもあるということです。
14ページは課税最低限の推移につきまして、先ほどの所得税の資料と対比していただければ、少しずつ低い数字に設定された形で推移しているということが御覧いただけると思います。我々の14ページの方、また、先ほどの13ページの資料も同様ですが、今回の税制調査会の資料においては、社会保険料控除の計算式を先ほど説明がありましたものと同じように15%に整理をさせていただいて資料を作っています。
15ページから17ページへ続く一連の横長の資料につきましては、それぞれ先ほど説明のありました資料の個人住民税に関する金額を載せていまして、15ページ、16ページには小さい字で所得税においては幾らというものを書いていますから、それぞれ少し小さめの金額になっているということが御確認いただけると思います。
20ページ、扶養控除に関する平成22年度改正の取扱い、これについては個人住民税についても同様な改正が行われているという資料です。
21ページ以降は、一番初めに申し上げました比例税率であるがゆえに、一定の負担調整といっても効果の効き方に制約があるということに加えまして、個人住民税という地方税であるということの留意点として大きく三つほど留意点があると考えています。それについての説明でして、21ページ、22ページはその留意点のうちの一つ目として、先ほどの説明にもありましたが、所得の情報、また、課税非課税の区別というものが様々な社会保障などの保険料や、あるいはサービスを受けたときの本人負担など、そのようなものの基準に使われているということの主な例を21ページ、22ページには載せさせています。
21ページは給与所得者の方のイメージです。一方、22ページは公的年金等受給者の方のイメージです。分けた理由は収入金額の一番下の横尺の金額を分けて作らざるを得ないということと、給与所得者の場合には国民健康保険の保険料のようなものが当然ですが出てこなければ、逆に医療保険の場合は協会けんぽの場合幾らかといったことが出てきますから、そのようなこともあり、また、高齢者の方の場合には後期高齢者医療保険の保険料の中の均等割だけは所得が少なくても払わなければならないという事情があり、かつ、22ページですが、非課税限度額以下の年金収入の場合でも、その年金収入の水準によって保険料の均等割額の軽減措置率に差が設けられているということもあり、結果として収入金額が課税最低限や非課税限度額以下の、平たく言えば税を負担するに至っていない収入水準の方々であっても、その中の適用の区分が違うということもあって、そこのところを制度を所管し、運営している担当の方々にお伝えできるような仕事も、市町村の課税当局においてはしなければならない部分があるということです。
このようなことから個人住民税に関する制度改正を考える際には、そのような実務が円滑に回っていくということや、また、課税非課税の別や所得における数字を、使っている側の方々の制度の見直しや改正あるいは実務の運用というものが円滑にいくというようなタイムスケジュールなども、そのときは考える必要があるという意味での留意点が、この21ページ、22ページです。
続きまして23ページからが納税義務者の数、割合ということに関する留意点です。先ほどのページで説明しましたように、現在はまず均等割が先にかかる。先にかかるということは結果として納税義務者が一番多いということに実際なっているのですが、この23ページの平成25年度、平成26年度辺りの数字を見ていただきますと、前回の資料でも説明しましたが、大体均等割は6,000万人程度の方に納税していただいています。一方、個人住民税の所得割は5,600万人前後で、所得税になりますと、この表に出てきませんが5,200万人前後というような納税義務者数になっていて、要は均等割の納税義務者数が一番多いということが現在の姿ですが、実は三位一体改革の改革を行っていた頃、個人住民税と所得税の役割分担をより明確化しつつ、三位一体改革を行おうとしていた平成15年度から平成18年度頃の動きとしまして、特に均等割に大きな影響があった改正ですが、いわゆる生計同一の妻についての非課税措置について廃止をするという改正がありました。
また、平成17年度改正では65歳以上の方で合計所得金額、これは人的控除等が効く前のベースですから、65歳以上の方々で言えば公的年金等控除をした後の所得金額ということですが、これが125万円以下の方についてはとにかく非課税というような制度がありました。結果として今よりも納税義務者数がかなり少なかったという時代があります。それを個人住民税の広く薄くできる限り多くの方に納めていただく応益課税的な税として、よりその性格を強めていこうという改革の中で、納税義務者数を増やしてきた。その後は景気変動等に応じた推移になっているという説明です。
その後の資料については、24ページは公的年金等受給者においても納税義務者数の絶対数は増えてきているということですが、これは高齢者の数そのものが増えているということがありますから、27ページに飛んでいただきますと、同じような四角い紫色ですが、65歳以上人口の中で65歳以上の公的年金等受給者である納税義務者の方々の割合というものは、先ほどの改正の結果、1割台であったものが3割近くに増えているのですが、この3割近くという数字は大きく最近変動していないという状況になっています。
このことは何を意味するかと言いますと、27ページの同じ表の上の方、給与所得者に関してというものが赤い線で説明していますが、これは統計の制約上、分母、分子が全く同じ母集団を捉え切れないですが、おおむね似たような幅の母集団を捉えて数字がとれていると思っていますが、赤い折れ線グラフで御覧いただきますと、納税義務者の割合は働き盛りと言いますか、働いている方が多い年齢層においては6割台ほどの方々が税を納める立場にある。これは均等割ですが、それに対して年金生活に入られた以降は、3割ほどの方々が税を納めているという現状にあるということです。
この6割台や3割というものを合わせますと6割弱ほどになるわけですが、29ページを御覧いただきますと、今後の年齢構成の変化という目で見ますと当然ですが、65歳以上人口の方々の総人口に占めるシェアと言いますか比率が高まっていくことが確実ですから、そのようなことを考えますと先ほどの大体総人口に占めるシェアという目で見ると、65歳以上の方々で言えば3割ほどの方が納税者であり、働いている世代で言えば6割強が納税者であるという、この傾向が変わらなかったとしても、人口構成が高齢者中心にシフトしていく中で、総人口に占める個人住民税の納税者の比率というものは必然的に下がらざるを得ないのではないかと予想しているところです。
そのようなことからも制度改正を通じて、それにまた輪をかけて納税者を大きく減らしていくという改革については、なかなか慎重に考えなければいけない面もあるのかなということが留意点という意味で申し上げているものです。
今のその他のページは関連する資料ですから、御参照いただければということで説明を飛ばさせていただきたいと思います。
30ページからがもう一点ですが、個人住民税の場合、どうしても地方税ですから、地域間の財政力格差と言いますか、税収の格差、偏在のことを考えざるを得ないという部分があります。
この偏在問題につきましては30ページがよく見る絵ですが、個人住民税は地方法人課税などに比べますと偏在度が低めの税であり、比例税率であることも含めまして、ベーシックな地方自治を支える税として非常に重要であるということをいつも説明していますが、その個人住民税でも人口一人当たり税収という指標で見ますと、最大の東京都と最小の沖縄県の間に、30ページにありますような2.7倍という格差があります。
この2.7倍というものは昔から2.7倍であったかと見ますと、少し飛んでいただいて33ページの右側ですが、平成18年度、これは三位一体改革が適用される前の年ですから、従前制度ですが、このときは最大、最小で言うと3.3倍の格差のある税制であったということが33ページの右側です。これが今2.7倍という、いわゆる偏在度が縮小してきている。その大きな理由の柱が3兆円の税源移譲を比例税率化の形で実施をしたからであるということでして、33ページの横、縦横が変わっているもので見にくいかもしれませんが、33ページの横グラフですが、これは税源移譲額の3兆円をほぼ取り出してきて、その3兆円を人口一人当たりで見ればどのような分布か、数字になるかということです。したがって、この目で見ると最大、最小2.2倍ということですから、元々3.3倍ほどの偏在差があった税制に、税源移譲で2.2倍という、それよりも偏在度の少ない形で税収を増やしつつ比例税率化するということを行った結果として、その後の税収の変化もありますが、現在は2.7倍という格差のように落ち着いてきているというものです。
以上のことから、今後の制度改正を考える際にも、偏在度が再度また大きく拡大していくようなことを避けながら制度改正を考えていきたいということが、地方税側の事情としてあるということです。
参考までに31ページと32ページは、予想通りの数字ではあるのですが、31ページは課税標準額が100万円以下の納税義務者、給与収入でいくと200万円から300万円以下の方々というイメージですが、その方々が納めている税がその都道府県における個人住民税の中でどのぐらいのシェアを占めているかという目で見ると、秋田県や、青森県、宮崎県などは25%を超えるような比率がある一方で、東京都は10%を切るということですから、課税最低限を100万円引き上げるというような制度改正は現実的ではもちろんないと思いますが、仮に課税最低限が100万円引き上がると、この方々が課税対象の外に出ていくことになって課税されなくなることになりますが、もちろん課税最低限の場合は全納税義務者に効きますから、それだけの問題ではないのですが、その方々が納税者でなくなるというインパクトだけでも、秋田県や宮崎県などでは税収が25%以上失われることに対して、東京であると9%ほどしか失われないというほどのインパクトの差があるというものです。
逆に32ページは1,000万円超のような課税標準額の大きい方、高額所得者の方々について、今よりも税を仮にですが多く負担していただくというような制度改正があった場合には、それによる税収増効果は32ページの絵にありますように東京都などにおいては非常に大きな効果がある一方、地方部においてはそれほどの税収増効果にならないという偏在度に与える影響もあるのではないか。この辺りは留意点ということですから、このようなことにも留意をしつつ、あるべき税制のあり方を所得税と個人住民税を通じた個人所得課税のあり方として考えていかなければいけないと思っているという説明です。
○中里会長
ありがとうございます。どちらからも非常に詳しい説明を頂戴しましたが、ただいまの説明について委員の皆様から質問や意見がありましたら発言を頂戴したいと思います。いかがでしょうか。では土居委員。
○土居委員
御説明どうもありがとうございました。
前回に引き続き、所得税制、個人所得課税における控除のあり方をどのように考えるかについて、非常に示唆深い資料であったと思います。
当然ながらこれから所得再分配機能を回復するなど、所得税制に求められている機能について、より効果を発揮させるためには控除をどのように設けるか。さらには誰に対して、どれだけの控除を与えるかということが重要になってくると思います。その上でもちろん高所得者に対する控除という話も先ほど来、議論がありましたが、全体として控除をまず最低限どれだけ設けるかということは、財務省の資料にも総務省の資料にもありましたように、課税最低限がどれぐらいになるかということとの見合いで控除の金額を決めていくということを考えざるを得ないと思います。
その上で所得税の方から課税最低限の問題を考えるとなると、様々な価値観と言いますか、どれぐらい平等を求めるかということによって変わってくることがあります。しかし、総務省の資料にありますように、個人住民税の非課税限度額というものは生活扶助の基準など様々ありますが、生活保護制度における基準額の設定との対比で非課税限度額が設けられているという現状があるということですから、この生活保護との関係で個人住民税の非課税限度額ないしは課税最低限というものをどれぐらいにするかということが、まず演繹的に決まってくるということがあって良いのではないか。
つまり、個人住民税の非課税限度額ないしは課税最低限というものがどれぐらいなのかということがまずあって、最初に総務省の資料の13ページにもありますように、まさに個人住民税の均等割がまず課され、それから、個人住民税の所得割が課されていく中で、より高い所得の方にはさらに累進課税である所得税を納めていただくというような段階を踏んで、課税最低限の金額というものが定まっていくということが基本にあるべきではないかと思います。
そのような意味ではその控除のあり方も当然、私は所得控除をより少なくして税額控除に変えていくべきであるという考えを持っていますが、税額控除を幾らにするかということの金額も、基本的には現行のまずは応益課税として地方自治体に対して均等割なり所得割の個人住民税を納めていただく。これは過去の政府税制調査会の報告書にも、答申にもありますように、所得税よりも課税最低限は低くて良いと思います。それとともに今日の総務省の資料にもありましたように、税源の地域的な偏在をより大きくしないようにするためにも、課税最低限はそれほど個人住民税については上げない方向で控除を見直すことを考えるべきではないかと思います。
ただし、その中で夫婦のみの課税最低限が低いということが財務省の資料などでも示されていて、夫婦のみの課税最低限についてもう少し夫婦、つまり夫婦になって子供をもうけるという、婚外子が少ないという我が国の現状を踏まえれば、夫婦に対する配慮というところがもっと踏み込んで税制で行われるべきではないかと思います。
加えて、ゼロ税率のことだけ一言申し上げて終わりたいと思いますが、ゼロ税率の話はなかなか今まで日本ではない仕組みですが、先ほどの財務省資料でも説明がありましたように、軽減効果という意味では税額控除と同じような効果があるということですが、一つ違いがあるのではないかということで指摘させていただきたいことは、税額控除というものは何らかの控除の根拠ないしは適用要件を満たさないと控除が適用されないということでして、しかるべき控除の要件を満たした人だけ税負担軽減効果が税額控除の場合は及ぶということですが、ゼロ税率の場合はどのような要件ないしはどのような所得を得ようが、その所得金額であればゼロ税率が適用された場合には、税額控除と同様の税負担軽減効果があるという、そのような意味では控除だけではなかなかきめ細かく税負担の軽減を低所得者に及ぼしていないということであるならば、ゼロ税率でその代替をするというような発想も考えられると思います。
○中里会長
高田委員どうぞ。
○高田委員
私も以前申し上げた点でもあるのですが、人が随分動く時代になったということもありまして、そのような意味でのグローバルな観点が非常に重要なのではないかというところです。
こちらの税制調査会につきましても、この二年間で対応してきたというものは、先ほど御説明がありましたBEPSについて、それから、法人税ということもあったわけですが、これらの改正のところもどちらも国際的な様々な意味での変化の時代に対応してということであったわけです。そのような観点からしますと、所得税に関しましても非常にグローバルな観点で、とりわけ高額所得者につきましては、限界税率が先ほどの資料の中でも一番高いというところを考えていきますと、この辺りのところをどのような形でグローバルに引きつけていくのか、場合によっては今後、そのような意味での税制で人が動くということ、場合によってはそれ以外にも移民ということも日本において労働力をどのように取り入れていくのかという発想もあります。従って、このような論点が一方で非常に重要な状況になってくる部分があるのではないかと思います。
そのような意味では、様々な点から比較をしていただいているわけですが、様々な制度設計のようなものもこのような形で見きわめていくことが重要になってくると思います。
そのような意味ではグローバルな観点はどちらかと言いますと、高額所得者の部分の中でいかに各国との競争の中、人々に引きつけ合うかという部分が大きいのですが、一方で格差というような昨今の議論を考えていきますと、社会保険料との一体でどのような改革を行っていくのかという、要は所得税のところも一体で考えていかざるを得ないわけでして、そのような中でこの格差があるような状況の中で逆進的な状況をどのように改善していくのかといったところが非常に重要ですから、この辺りのところを今後我々も考えていく必要があるのではないかと改めて感じた次第です。
○中里会長
井伊委員、どうぞ。
○井伊(雅)委員
しばらく出席していませんでしたから、既に指摘されたことや議論されたことがありましたらお許しください。
三点あります。
家族の姿や働き方が変化してきたということで、家族の果たしてきたセーフティネット機能が弱っているという指摘がありましたが、既にこのような問題に対応するために社会保障制度には、様々な軽減の仕組みなどがありまして、実際に全体で幾ら負担しているのかということが分かりにくい構造になっていると思います。例えば住民税を払っていなくても、国民健康保険の保険料を支払っている人たちがいるわけですが、国民健康保険の保険料には減免制度があります。このような例は様々ありまして、全体で幾ら負担しているのか分かりにくい構造になっているため、そのような減免制度なども整理して議論するべきではと思います。
二点目ですが、税制度についても、社会保障制度にしても全国共通の日本は皆保険制度ですから、制度を公平に構築して運営をする場合に事業所得者と給与所得者をどのように公平に扱うかという問題です。今回、すでに議論されたのかもしれませんが、やはり重要な論点です。事業所得の捕捉の問題、一方で今日も説明がありましたが、事業所得者にはない、かなり寛大な給与所得控除の扱いをどのようにするかという問題もあります。
三点目ですが、個人住民税の問題ですが、過去の経緯は今日も説明がありましたが、税率が全国一律10%ということは本当に地方税と言えるのかどうかということと、控除額が国税と微妙に違っていて、非常に税制全体が複雑になっていると思います。例えば前年課税であり続ける必要があるのか、国税と同様に現年課税にした方がすっきりするのではないか。そのような論点も考えていただければと思います。
○中里会長
吉川委員、どうぞ。
○吉川(洋)委員
ありがとうございます。二点あります。
一つ目は、たった今の井伊委員の御発言と重なるところがありますが、本日の説明を伺っていても、税制調査会でずっと言ってきた税の大原則、簡素という点から課題があるのではないかと思います。もちろん税ですから、税の世界で形式的には一つ閉じていて、社会保障はまた別の制度と言えばそれまでですが、今日の説明でも実際に個人の負担のところで、税負担と社会保険料の負担というものを合算してという話が説明の中にあったと思いますが、それは当然であって、個人の立場からすれば税であれ、社会保険料であれ負担は負担であるということになると思うのです。それを合わせると国税、地方税、さらに社会保険料ということになってくると、やはり井伊委員がおっしゃったとおり複雑の一言に尽きて、簡素という大原則の点から課題ありと思いました。この点についてもぜひとも改正の中で考えるべき点であると思います。これが第一点目です。
第二点目は特段強い意見はないのですが、地方の住民税の課税最低限の方が国税の所得税よりも低くて良いということの根拠が必ずしもよく分からないという気が私はしたのですが、それは応益性が強いということなのでしょうか。しかし、それはもしそうであるとすれば、それは想像力の問題で、国税を通して国がプロバイドするサービスというものも結局は当然のことですが、国民がそれによって益を得ている。例えばそのような教育投資がなければ、そもそも税制調査会も開けなかったであろう。そのようなことからしてもやはりひいては全ての国民が益するというわけですから、何か課税最低限に特段に大きなギャップを設ける理論的な根拠はどこにあるのかということが素朴な疑問としてあったのですが、どなたか専門の方から説明いただければと思います。
○中里会長
林特別委員がその辺りは良いのではないですか。
○林特別委員
私もよく分からないです。
まず簡単な質問をしたいと思います。財務省の資料で様々な国の比較や、社会保険料を入れた負担額の比較等々がありますが、これは地方税を入れた負担額ということでよろしいのでしょうかということが一点です。よく読むとそのように思えるような表現もあるため、そうであるとは思いますが、念のため確認させてください。
それと国際比較の場合も所得税を見るとき、例えばカナダなどは州も連邦もかけていますから、スウェーデンもそうであると思いますが、海外の場合も地方税も両方入れた数字になっているかという確認です。ただし、スウェーデンにつきましては地方税は入ってなくて、課税最低限が特段大きくなっているという説明があったため、そこがよく分からなかったから、これは質問です。
もう一つ質問があって、30ページの給付付き税額控除の例が幾つかあるのですが、ここの説明であたかも税制上の措置であるかという説明があったと思うのですが、基本的にここの制度というものは税法上で決めているのか、もしくはほかの社会保障関係の法規で決めているのかということをもう一回確認させていただきたいと思います。私の理解は税法の中で決められているものではないかという理解があるのですが、そのようであると税制になるのではないかと理解しています。この二つは質問です。
意見ですが、先ほどから控除の金額が国と地方が違うなどという話があったのですが、所得控除から税額控除に変えると、その辺りはすっきりするという気がします。税額控除をどれぐらい出すかということは実質的には国と地方の税源配分の話であると思いますから、このような観点からも所得控除の比率をできるだけ小さくして税額控除に持ってくことも良いと思っています。
○中里会長
どうぞ。
○住澤主税局税制第一課長
それでは、今、御質問いただいた点、二点あったかと思いますが、国の資料の方で個人所得課税の実効税率や、個人所得課税と社会保険料の自己負担率について示しているものは、個人所得課税と書いてあるところから詳しい説明を省略しましたが、これは所得税と個人住民税を合わせた概念でして、御指摘のとおりです。
国際比較編においも、個人所得課税ということですから基本的に地方税に当たるものも含めていまして、詳しくは例えば63ページの資料で申しますと注1というところがありまして、ここに地方のどのようなものを含めているかというところを書かせていただいているところです。
税制に関連する給付措置との国際比較、30ページについて御指摘いただきました。確かにここに並んでいます措置は、それぞれの国の内国歳入法典や、いわゆる税制の法律の中に書かれていますから、形式上で言うと税制上の措置ということもできるわけですが、説明しましたものは実質的な内容に着目していくと、そこの社会保障制度との関係のところに書いてありますように、公的扶助や児童手当などの代替物として設けられているという性格が強く、事実上、それらの制度と一体で議論されているということを説明したということです。
○中里会長
土居委員どうぞ。
○土居委員
吉川委員の御質問に少し私なりのイメージをお伝えしたいと思いますが、もちろん個人住民税にもう少し累進度があれば、つまり10%からいきなり課税されるのではなくて、より低い税率があれば必ずしも住民税から先ということでなくて、国も地方も課税最低限は同じであって良いと思いますが、個人住民税は所得割が10%から始まっていて、かつ、ここでは低所得者に対する配慮を税額控除なりでできるだけ配慮してはどうかという議論をしていると私は理解していまして、そのようにしますと課税最低限を国も地方も同じ金額になるということになりますと、当然いきなり国税も地方税もそれなりのパーセンテージで課税がされ始めることになると、低所得者に対する配慮というものがもう一段効かせられない。
そのようなことであればまずは国税の所得税を税額控除で、結局は税額がゼロになるという金額がより手厚くなされる。もちろんその分、複雑になってしまう、簡素ではなくなってしまうという問題はあるのですが、トレードオフですが、少なくともそのような形で国税の課税をもう少し高い所得の方からにすることを通じて低所得者に対する配慮がよりできるのではないかという考え方で、私は申し上げたということです。
○中里会長
佐藤委員、どうぞ。
○佐藤委員
恐らくこの税制調査会、ここまでの議論で全体として所得税の再分配機能を強化しなければならない。再分配の方向性としては子育て世帯や、これまで光の当たっていなかった若い勤労世帯で所得の低い方々に対し、より重点的な支援をしなければいけない。この方向感は多分大体同じ、共有していると思うのですが、これから多分議論になるものが三つあって、その一つは再分配と言いますか控除の方法。それが所得控除か税額控除かという手法の問題。二番目が今日何度か出ていますが、給付等の関係。三番目は地方税が絡み、社会保険料も絡みますが、ほかの制度との関係というところで多分これから議論していかなければならない点であると思います。
所得控除か税額控除かということは、学者の間では神学論争のようになっている節がありますが、この間も申し上げたとおり、諸外国は上手にそれを実務的にこなしていると思うのです。カナダが一番上手であると思うことは、いわゆる生活最低限と言われる所得についてはしっかりと定義しましょう。以前から所得控除があったからであると思うのですが、それに対して、それを別に一番高い税率から引くことはなくて、要は低い税率から引けば良いということになれば、実質的には税額控除と同じ効果を持つということになるわけであり、ドイツなどのゼロ税率よりはもう少しきめ細かい形で家族のいる世帯など、そうようなところにきめ細かい手当ができるということは、カナダの方のメリットであるとは思います。
ただし、繰り返しになりますが、思った以上に所得控除から税額控除に移行ということは案外、そのような哲学論争をしないでできることではないかと思っています。
給付と税の関係ですが、これは多分三つポイントがあって、一つは単に技術的な問題でして、給付というものは税務署でできるのかという話があるため、そのようであれば今までも簡素な給付措置であっても児童手当であっても市役所の窓口で行っているのだから、別に給付に係る部分はそのような形で税の執行部分と切り離しても良いのではないか。単なる技術的な問題です。
二つ目は多分イギリスがそのようであると思うのですが、課税要件が違うというケースで、税金が個人単位、課税が個人単位でも、給付が世帯収入をベースにして行う場合や、資産要件が入る場合となると、多分、税の枠の中で行うと話が難しくなるというところで若干違うと思います。
ただし、大事なことは税と給付の間に一定の連携があることであると思います。つまり例えば所得の定義一つとってみても、同じ所得の定義を使って課税もするし給付も行うことになりますし、我々経済学者がすごく気にすることは限界実効税率、今日紹介のあった実効税率ではなくて、先ほどから議論がありますとおり、様々な給付措置、社会保険料、税制、これらを全部含めた形で、働くことによってどれくらい負担が増えるのか。言い方を変えると、どれくらい給付が減ってしまうのかという、これ自体がいわゆる働く人のインセンティブに影響しますから、給付と税は違うと言うと、多分、給付は給付で勝手に何かそのような減額率が決まってきて、ふたをあけてみるととてつもない高い減額率、つまり限界実効税率が所得の低い層で生まれてくることになりますと、生活保護はその典型例ですが、そのようになると要は働く意欲を喚起するというこちらの意図、当初の課税の意図が発揮されませんし、給付の方向性が我々は今から勤労世帯や子育て世帯であると言っていることと全然違う方向に給付が行ってしまえば、そもそもの再分配の期待された効果というものもないということになりますから、厳密に言えば、現金給付と課税の間の連携をどのように維持するかであると思います。
三番目は地方税との関係。先ほどから議論がありますが、地方の個人住民税を割り切って考えれば地域社会の会費ですから、再分配というものはそこまで求められているものではない。先ほど課税最低限の議論が出ていますが、今の課税最低限というものは諸々の所得控除などを全部足し合わせた上で出てくるものですから、割り切って考えると幅広に所得を定義して、いわゆる所得控除前の幅広な経済価値としての所得を定義して、それをまず基本的には課税ベースとして位置付けて、ただしゼロ税率の適用でも良いですが、基礎控除部分というものがあるわけで、これが多分、課税ベースを幅広にしたい個人住民税の方は低めに設定する。再分配を働かせたい所得税は高めに設定する。実はスウェーデンがそのように行っているわけです。極端なケースですが、そのような形でのすみ分けということは良いと思います。
ただし、ここで議論している再分配機能というものはあくまでも所得税の世界ですから、個人住民税は個人的にはできるだけ幅広に、再分配機能は本当はありますが、幅広にするということを趣旨にした方が良いと思うということと、先ほど井伊委員や吉川委員からもありましたが、簡素性を考えると本当は所得の定義に関しては国税も地方税も実は社会保険料も同じであって、それに対して適用する税率構造や考慮すべき税額控除あるいは控除額というものはそれぞれの判断で違っても良いと思うのですが、できるだけシンプルにするという点でいけば、同じ所得情報に基づいて課税と給付が行われることが本当は良いのではと思いました。
○中里会長
増井委員、どうぞ。
○増井委員
財務省資料の61ページについて質問します。これは高田委員のおっしゃった社会保険料と税を一体で再分配効果を考えるということに関係します。また、佐藤委員の整理では三点目の特に社会保険との関係に係る質問です。
質問は61ページのグラフの含意が何かということです。私が読み取ったことは社会保険料控除があっても負担の逆進性は緩和されていない。つまり赤色のグラフは右肩下がりのため逆進的なままであるということを読み取りました。ここから先をどのように考えるかです。社会保険料のベース自体が逆進的なのであれば、それ自体が問題です。あと何をしても逆進的なままなのではないかという気がします。そこから将来の改革にどのようなインプリケーションを読み取るべきかという質問です。
○中里会長
住澤税制第一課長、お願いします。
○住澤主税局税制第一課長
61ページのグラフですが、この図の一つの意味としては、元々御指摘のように社会保険料の負担構造自体が最初は比例的な料率でいくわけですが、いずれ頭打ちが設定されている保険料が多い。このような保険料の場合は頭打ちはありませんが、医療保険料等の場合は頭打ちが訪れるということで、負担率のカーブを描くとこの黒い線のように逆進的な負担構造に元々なっている。これをどのようにするべきかということについては、先日、厚生労働省をお招きしてのヒアリングの場で様々な議論があったわけです。そのような意味で社会保険制度の内包する問題であるというところは御指摘のとおりです。
他方、社会保険料控除があることによる効果は、社会保険料控除は所得控除として適用されていますから、控除による税負担の軽減額というものは、その方が直面している限界税率の水準によって異なる効き方をしてくることになります。そのようなこともありまして、社会保険料控除額を差し引いた実質支払保険料を年収で除した実質的な支払保険料の割合というものは、赤い線のグラフのような格好になっていまして、よく見ますと例えば黒い線の方がフラットな状態になっている領域においても、赤い線で示されている負担率は右下がりの曲線になっていまして、逆進的な傾向が少し強まるという効果が出ている。これは所得控除として社会保険料控除が行われていることの結果です。
政策的なインプリケーションについては私が申し上げるようなことではないと思いますから、また幅広く議論いただければと思います。
○中里会長
野坂委員、お願いします。
○野坂委員
前回に続いて詳細な分析、大変参考になりました。ありがとうございます。幾つか指摘したいと思います。
まず6ページに所得控除、税額控除の効果のグラフが出ています。日本の場合、所得控除一本やりになっているものをどのようにするかというものが私たち共通の問題意識であると思います。このグラフ、特に右側のグラフですが、曲線が急勾配になっていく。所得控除から、あるいは税額控除にシフトした場合にそのようなことをインプリケーションしているわけですが、そのような意味では所得再分配機能を考える上で、所得控除を減らして税額控除にするか、そのような方向性が大変効果的であるということが分かると思います。
一方で、我々は若い子育て世代にどのように光を当てるかということでありますから、ただグラフがこのような形で傾きが急になれば良いということではなくて、これに合わせて若者たちあるいは子育て世代に対して税制面からどのようにサポートするかということを管理していかなければいけないと思うのです。それが事務方の資料にも何カ所か出ていますが、組み合わせ方という表現が出てきています。この所得控除から税額控除にシフトを検討する上で、それにプラスして若者に光を当てる。そのような要素を加味した形でどのような組み合わせができるか、これを考えなければいけないと思います。
これに関連して二点質問があります。20ページに、かつて日本でも税額控除が障害者控除や老年者控除などで投入されていたが、それが所得控除方式に改正されたという歴史を紹介されていましたが、当時、税額控除方式から所得控除方式に戻した背景としてどのようなことがあったのか。これは一本化した方が良いということであったのかもしれませんが、その歴史についてどのような事情であったのか。また、税額控除方式を導入していた数年間、その効果については当時、何か問題点でも指摘されていたのかどうか、分かれば教えていただきたいと思います。
二点目の質問は、前回も出ていた消失控除。消失控除が日本でも導入を検討する余地があるかもしれないという意見が私も含めて何人かあったかと思いますが、本日の資料では諸外国の消失控除による所得の再分配機能や、様々な効果についての分析がなかったかと思いますが、これについては調べていらっしゃれば教えていただきたいし、次回以降でも結構ですが、示していただければと思います。
○中里会長
どうぞ。
○住澤主税局税制第一課長
まず20ページの障害者控除を初めとする、いわゆる特別な人的控除について一時期、社会政策的な控除であるということで、税額控除方式になっていた時期があるということを説明しました。それが所得控除方式に再度改正をされてきたいきさつというものは、必ずしも多くの文献が残っているわけではないため非常に情報は限られていますが、理由としては同じ人的控除の中で障害者控除については税額控除、他方でこの扶養控除等については所得控除ということで、二つの方式が乱立をしていることが制度として複雑化しているといったような指摘がありまして、そのような理由で改正されたものと承知しています。
それ以外にどのような問題点があったかということについては、多くの資料は残っていませんが、さらに精査しまして報告できることがあれば、次回報告したいと思います。
アメリカやイギリスの消失控除の場合の再分配効果ですが、これについては一定金額まで総所得が上昇しますと控除が低減して消失するという構造ですから、その辺りを織り込んだところで63ページ以降に示している個人所得課税の実効税率カーブを書いているわけです。この中に効果としては反映されているということです。
○中里会長
よろしいですか。
それでは、上西特別委員。
○上西特別委員
所得再分配機能の低下は事実の確認で、ほぼ明らかになってきています。今後は所得再分配機能を高める必要があります。そのときに最高税率に着目した見直しでは、累進度の強化というものは効果が少ないことが明らかであり、また、グローバル化の視点から見ても不適切と考えます。
そうしますと、最高税率の見直しよりも、まず所得控除の縮減が見直しの方向性となるのですが、常に縮減するだけではなくて、税額控除との代替の可能性を考えるべきであると思います。
そして6ページの資料にありますように、所得控除も確かに一定の効果があります。また、所得控除と税額控除については重なっているところもあります。しかし、比較すれば税額控除の方が課税最低限を上昇させ、低所得者層に対する税負担軽減効果が大きいことから、税額控除が常に検討対象になると思います。
ここで税額控除とゼロ税率は確かに効果の類似性があり、一方で、要件の有無などの相違点もありますが、所得控除には要件があるものもあります。例えば、扶養控除は要件が必要ですが、基礎控除は要件が不要です。そのようにしますと税額控除とゼロ税率の組み合わせのときには、要件が必要なものについては税額控除の方がなじむのではないでしょうか。そして、その税額控除は常に低減し、消失させることを考慮すべきです。
要件不要の基礎控除のようなものは、常に適用されるものでありますから、ゼロ税率の方がなじむのではないかと考えています。
○中里会長
基礎控除の場合に例えばドイツではゼロ税率で行っていることの背景には、もしかすると、一定の金額までは課税すると憲法違反になるということがあるのかもしれません。したがって税額控除になかなかこれを置きかえられない理由がきっとあったのかもしれません。この辺りはまた調べておいていただけますか。よろしくお願いします。
それでは、田近委員。
○田近委員
既に大変議論が出ていますが、重なることも少し覚悟して私なりの論点整理をさせてください。
かなり長い間、実像把握をしてきて、そこでの私の理解は非常に長引くデフレ、一方グローバル化した経済の中で低所得者層、若者、単身、その人たちに対してどのようにするか。そこは私もそうであると思います。
第二点は、触れてはきましたが、税率をどのようにするか。国の最高税率が45%で地方がプラス10%で55%。世界の比較をするまでもなく、これは十分高いと言いますか非常に高い率であると思います。これをどのようにするか。
第三点は、これは何回も出ていますが、地方の最低税率が10%、国が5%の中で実像把握に基づいて負担調整をしようとしたら、地方税を下げざるを得ないわけです。国は5%ですから、国、地方合わせた負担調整をどのようにするか。
第四点は、これも何回も出てくる実態把握に基づいた、あるいは今日非常に興味深い図も出てきましたが、社会保険料負担をどのようにするか。そのようなわけで実像把握に基づく再分配問題、それから、所得税の最高税率をどのように考えるか。地方が10%、国が5%の最低税率をどのようにするか。社会保険料はどのようにするか。それから、前回は稼得所得、賃金所得とキャピタルインカムに対してどのように税率をかけるか。それを含めて全体、漏れているかもしれませんが、そのような論点で議論してきた。
今日は稼得所得と資本所得の議論は脇に置いて、基本的には賃金所得をイメージしてどのようにするかですが、おおむね我々のコンセンサスはこの問題を所得控除プラス高い累進性を持った所得税で対応することは無理であろう。それに伴う困難が非常に多いということで税額控除なりゼロ税率の話が出ているのですが、所得控除で押し続けていこうとすると、先ほど質問があった消失控除を早い段階で入れていかなければいけない。したがって非常に低い段階から所得控除を効かせるような形の所得控除を行うならば別でしょうが、それができるのか。そのようであれば、先ほどの論点からいけば、低所得者の負担調整としてはゼロ税率か税額控除か、言葉のあやのような使い方ですが、言葉的には税額負担の方が分かりが良いかなと。
そのようにしますと、ここから私の論点ですが、課税ベースを広げて税額控除に持っていく。そのとき、非常に語弊があると思うのですが、我々は、最高税率をどのようにするかという議論は避けられないであろう。一方で我々は増税を行おうとしているわけではないのですから、高額所得者に対する対応をどのようにするか。高額所得者に対する対応を考えなくて良いほどの税額控除ならば、規模は物すごく小さい話になってしまう。したがって最高税率の話は避けられない。
社会保険料の問題も、これも悩ましい問題であると思いますが、一つ加えさせていただくと、ドイツの医療保険で延々と議論していることの一つは、社会保険料を所得比例とするか、定額でとするかという議論を延々としています。スイスの医療保険は実は定額としています。医療保険の考え方からすれば、病気になるリスクは所得が高いからなるわけではなくて、それは保険論的に言えば定額として、保険料の負担を所得の低い人に対しては調整すれば良い、その議論は延々とあるというわけで、それは簡単な議論ではないですが、青天井で所得が高くなってもどこまでも比例とし取り続けるということは、どこかでももちろんキャップを設けるでしょうが、議論は要すると思いました。
さらに、ここまで来ると今日多くの図を見せていただいて、45ページのこの図が非常に興味深かったのですが、間違えていたら住澤税制第一課長に訂正していただくとして、話をしたい。単身で右側ですが、個人所得と社会保険料を足す。オレンジ色が、要するに昭和61年、消費税を入れる前で実はこれは80年代を通じてずっと所得税改革をしてこなかった。いわゆるインフレが起きたが、課税ベースも直さなくて負担が高まって、そしていよいよそれを消費税で直していった。ずっと直していって、平成26年度分、27年度分が直近のようなのですが、やはりこれと1点鎖線のオレンジ色を見ると、低所得者の方が一気に上がっているわけです。昭和61年より上がるということは相当の負担増であるというイメージです。
上の方の負担を昭和61年の水準までにすれば良いという乱暴な議論はあり得ないわけで、したがって、社会保険料の問題はとにかく重要であるということが分かって、そのようにすると上の方の人の問題も指摘しましたが、社会保険料の問題は議論しなければいけませんが、なかなか税制調査会だけでこの問題を議論することは難しい。支出のことを同時に議論しなければいけないし、その一部は消費税を充てると言っているわけですから、曖昧に論点を指摘するだけで無責任ですが、社会保険料の問題は非常に重要な問題であるということは認識できますが、どのように議論するか。これは少し頭を冷やして考えなければいけないと思いました。
○中里会長
岡村委員、お願いします。
○岡村委員
三点申し上げたいと思います。
まず第一が一番大きなことですが、これまで再分配という言葉が何度も使われてきたと思うのですが、それは一体どのような指標に基づいて、何を再分配することが理想的な姿なのか。私たちが議論していることは、あくまでも所得という指標を使って所得を再分配することに過ぎないわけですから、もう少し大きな広いスケールで考えてみる必要があるかと思います。
実際、社会保障の場合には所得だけではなくて、これは指摘もあったとおり資産の有無も見ているということです。そして、若い人に光を当てるということを考えてくると、例えば貧困の再生産あるいは格差の拡大といったことがないようにする必要がありまして、機会の平等と結果の平等ということが言われてきていますが、機会の平等を確保する。生まれながらに不平等な状況にある人たちの状況を改善するといったことについて、もし所得税が何かできるのであれば、そのような方向を考えた方が良いのではないかと思います。
現在の議論は、結果としてのいわばwell-beingをなるべく均等にしましょうということになると思います。たとえばジニ係数は、結果だけを捉えています。しかし、社会の構成ということから考えれば、そこに表れないような考慮すべきものがあると思います。
第二点目にいきますが、これは単に抽象論だけではなくて、もし所得を一つの指標として考えるならば、もう少し厳密化をして、所得概念の話になるかもしれませんが、何が所得であるかということをしっかり詰めた方が良いのではないかと思います。現在のところは合計所得金額の計算前のところにある控除、すなわち、給与所得控除を初めとするものですが、これをよく吟味して、性質によっては合計所得金額後のところに持ってくる、あるいはさらに、税額控除の計算ないしはゼロ税率の範囲に織り込むという議論の方向になっているかと思います。
加えて、費用または原価として性質があるものはどのようなものかということを少し詰めて考えた方が良いのではないかと思います。前回の議論では、大田委員からなるべく概算控除的なものは減らして、実額の控除に移した方が良いのではないかという議論がありました、そのようなことです。あるいは先ほど社会保険料をどのように負担すべきかといった議論がありました。確かにこれが一種の税であると考えれば、そもそも社会保険料は逆進的であるという認識になるのかもしれませんが、しかし、田近委員からも議論がありましたように、医療保険などそうではないかもしれないし、もしかすると年金なども一種の貯蓄的な要素があるかもしれない。そのようにすると、そこで逆進的なものであると認識することは、間違っているとは思いませんが、それは一つの見方であるというように考えます。
以上が第二点目、つまり所得における控除項目をもう少し厳密に考えた方が良いということです。
第三番目が、そのようにすると特に9月25日の厚生労働省から説明に来ていただいたときに、両者の認識の間にかなりコンフリクトがあるかもしれないということ。これは特に佐藤委員が様々指摘になったところですが、そのような点で給付をするということと、徴税をするということとは大きな違いがあるということも再確認しておいた方が良いと思います。特に課税最低限の議論において、その意義については金子宏名誉教授の教科書を今日引いていただいていますが、しかし、同時に金子名誉教授は別のところでは、少額不追求といった趣旨もあるということも書かれています。
つまり課税庁としては少なくとも38万円、給与所得者については103万円未満の所得については、それがどのようになっているかということ、つまりその人の所得が5万円なのか10万円なのか20万円なのかということまでは、今のところは追求していないということであると思うのです。そうすると、それ未満の数字を何かの給付の根拠とするといったことについては、少額不追求を全面的に改める必要があって、それができるのか、あるいはそれが適切かなどといった議論は十分にする必要があります。
さらに、所得の金額が他の領域で使われている例というものも説明がありましたが、これはもしもこれまでの課税最低限未満のところをそのようなものに使ってくるとか、あるいは仮にゼロ税率を入れたとして、最初の1円から所得の金額というものが出てきますということになると、そこのところの執行上の負担がどのようになるのか、あるいは税額控除の場合でも同じことになるかもしれませんが、そのようなことを少し考えた次第です。
○中里会長
確かに税務署は所得の低い人の情報を手に入れる手段を持っていませんから、なかなかそれは難しい話です。
それでは、佐藤委員。
○佐藤委員
今の話がまさにそうであると思うのですが、実は給付と課税の連携を考えるときに、もちろん1万円、2万円の所得を捕捉しろとは言いませんが、さすがに50万円、60万円の所得、つまり課税最低限以下の人たちに対してもある程度の所得の捕捉というものは求められると思います。そのようにしないと、簡素な給付措置一つとってみても、非課税世帯に対して一律6,000円配っているだけですから、本当は6,000円以上必要な人もいれば、6,000円も要らない人もいるわけです。そうすると非課税世帯の人たちに対してもう少しきめ細かい手当、給付を行うためには、実はまさに低い所得の情報が必要です。我々は所得の捕捉というと金持ちの情報を捕捉することばかり考えますが、実は給付のために所得の低い人たちの所得をどのように捕捉するかということは、マイナンバーがどこまで使えるか分かりませんが、それも含めて考えないといけないことであると思います。
もう一つ、先ほどから出ている社会保険料ですが、実は我々は社会保険料の問題は避けられないと思うのです。先ほど田近委員から様々議論がありましたが、社会保険料を一言で言えば何度も言いますがコウモリでありまして、一方では税金という顔と、一方では保険料という顔があって、しかし実際問題として医療保険については半分は拠出金などで賄われているわけですから、医療保険は言ってしまえば半分は税金であって、半分は自分たちがもしかしたら利益よりも保険かもしれない。それをある程度すみ分けたものが多分、フランスの一般社会税であると思うのですが、その辺り、社会保険料の税としての性格の部分というものを本当は税制調査会としても少し考慮するべきことかなということが二点目です。
三点目は地方税で悩ましいと思うことは、人口構成が変わるといずれにしても均等割を含めて個人住民税の税収が落ちていくということは事実ですから、だからこそ、もちろんある程度財源確保、税収確保のための努力は不可欠なのですが、だからこそ特に市町村に関しては個人住民税とあわせて、固定資産税の方を充実しないとこれから大変なことになると思いました。
○中里会長
高田委員、どうぞ。
○高田委員
少しつけ加える感じなのですが、今日は個人の様々な意味での負担の議論をしているわけですが、個人という観点から言えば様々議論すると地方税もありますし社会保険もあるわけなのですが、本当はもう一つ重要なものは消費税の問題なのであろうと思うのです。今後消費税率が上がっていくという状況の中で、特に消費税の場合どうしても逆進性があるわけですから、再配分を考える上で、それに伴って今後消費税の体系をどのように考えていくかという方向性、視点も結構重要なところではないか。そのような意味では今回もこのペーパーの中にも給付付き税額控除等の議論等もありましたが、このような議論も一つの重要な柱として考えておくことが今後の視点ではないかと思いました。
○中里会長
土居委員、お願いします。
○土居委員
地方の市町村の事務のことも考えますと、結局、今は介護保険、もちろんこれは都道府県化されることになりますが、国民健康保険があって、かつ、そこで保険料を徴収しているということで特に先ほどの総務省の資料にもありましたが、所得税制ないしは個人住民税の課税の金額と連動した形で保険料を徴収するという仕組みに今なっているということです。
確かに税制調査会は社会保障のことについて直接タッチする場ではないということは重々承知していますが、そうは言いましても、これまでも厚生労働省の方にもプレゼンしていだきましたが、少なくとも税制の仕組みを使って社会保険料を計算するというところについては連動していると思いますし、むしろ税制調査会としてしかるべき意見を言っても良いのではないか。つまり税制の仕組みと連動して社会保険料の金額は決まってくるというところまでは、別にそれをしてはいけないとは全然思いませんが、連動させるならば、そのときにはもちろんこれまでにもほかの委員の方がおっしゃったような簡素な形で連動させて欲しい、ないしは控除の意味をわきまえた上で課税所得という定義を使うのか、合計所得金額という定義を使うのか、税制上に存在する定義の意味をしっかりと社会保障の仕組みでも意味ある形で反映してもらうというようなところは、もう少し踏み込んでいかないと、なかなか社会保障の議論の場からどの所得の定義を使って社会保険料負担を求めるかという議論は、私の印象で言うと湧き上がってこない。極端に言えば社会保障を専門にしている議論の場は必ずしも税制には詳しくない方、ないしは税制に興味のない方が特に議論している場合もあって、所得の定義のところになかなか議論が及ばない。そのような意味で言うと税制調査会という場でしかなかなか所得税制ないしは、さらには所得の定義について厳密に議論する場がなくて、かつ、それがある種部分的に社会保障の制度でも使われているということであれば、そこはむしろ税制調査会の場からどのような形で所得の定義があるのか、ないしは社会保険料の負担のあり方も併せて議論を提起する必要があるのではないかと思います。
○中里会長
批判ではなくて建設的な提言をということですね。
田中特別委員、お願いします。
○田中特別委員
基本的に今まで話をしていたとおり、まず若い人に光を当てようということであったり、女性の社会進出に対して壁にならないようなことをどのようにしたら良いかということを議論していましたし、それを推進していただきたいと考えています。税額控除も含めて一番良い案を出していただきたいと思うのですが、今日お話のあった再分配はどのようにするかや、全体に日本の財源とサービスをどのようにするかなどといったことは、とてもこの資料を見ると大変な問題であると思いました。
例えば今、前回お聞きした日本の国民負担率が他国に比べてどうかと言われたときに、サービスは多いが、負担率は低いと言われました。これが77ページ。では日本の所得課税の実効税率は国際比較してどうかというものが12ページにあるのですが、これを見ると必ずしも低くはない。ところが、63ページの給与収入2,000万円以下のグラフを見ると、日本はまだ低いという話があって、全体的にどのように考えていったら良いかということを確認する必要があると思いました。
今ある所得の中で再分配をどのようにするかという話も、それに対して光を当てるところはどのようにするかという形と同時に、全体をどのようにするのかということ考えないと難しいと。それは同様に社会保障費用についてもそのようであると思うのです。社会保障費用の給付とサービスを見直そうということからどのような切り口ができてくるのか。このままのサービスを続けていって、その負担をどこに回していくのかということについて考えることであれば、その税制も一体となった話になってきているわけですから、社会保障についてもしっかりと考えていかなければいけないと思います。
○中里会長
ありがとうございます。
それでは、山田特別委員、お願いします。
○山田特別委員
若者たちが元気になれるように、かつ、消費税の税率も上がっている現状からして、その二点からだけでも課税最低限を思い切って上げるという意見に私も賛成です。
その中で今日、総務省の説明の中で、地方財源に対する影響を斟酌、慮っていただかないと、地域間格差がさらに拡大するおそれがある、または安定財源であるところの住民税収に大きな影響を及ぼすため、そこも配慮をいただきたいという説明であったと思いますが、その点、はっと気づかされました。ありがとうございました。
次ですが、所得控除がそぐわなくなっているのではないかと、私も感じています。基礎控除も配偶者控除も扶養控除も高額所得者の方に実額としてはメリットが大きいということから今の侭でよいとは思えないのです。エンゲル係数が下がっていくという事実からしても、人間が生きていくお金というものは累増していかなければならないということはないと思いますから、高額所得者、高い累進税率効果の大きな高額所得者においてメリットの大きい所得控除という制度は時代にそぐわなくなっているような気がして、これは見直す必要ありと思いました。
ところで、小規模企業共済等掛金という制度がありまして、これは所得控除対象でして、多分対象になる方はそんなにたくさんいらっしゃらない訳ですが、半分は税金がカバーしてくれて貯金になっている感じにありまして、個人としてはメリットを感じますが、今の制度の侭で良いのであろうかと感じています。
それから、累進税率の構造を歴史的に見ると、最高税率93%という時代がありました。増加した所得のほとんどが税金となってしまうという時代がそんな大昔ではないわけでして、そのころにできたり充実されたりした制度が所得控除であったり、給与所得控除であったりした訳です。あの時代からしますと今、最高税率が地方税まで入れて55%に落ちている。これに合わせてもう一回ゼロベースで検討する必要があるものが各種の所得控除制度なのであろうと思います。その観点から言いますと、ゼロ税率制度や税額控除制度などは魅力的であると思いました。
ただし、最高税率が一旦は50%となったのですが、つい数年前に5%上がり現在は55%になっています。このことは高額所得者は良くないというような感じで上がった5%のような気がしていまして、頑張って高い所得を得た人にもっと頑張ってくれという、その流れに水を差さない方が良いような気がするので、慎重に検討していただきたい。そして現在の国の財政状態から、国民全体での負担をお願いせざるを得ない、人数が少ない高額所得者だけに負担を求めても、税収規模としてはさして大きくならないので、中堅所得層の方々にもぜひ協力をとお願いする改正と言いますか、それが筋なのではないかと感じました。
○中里会長
それでは、大田委員、お願いします。
○大田委員
情報量がすごく多くて、ここから何を組み取るのか呆然としていたのですが、簡単に二点。
所得控除は今、山田特別委員も言われたゼロベースで見直すということ。それから、対象は年齢や世帯属性で切るのではなくて、困っている人を困っていない人が助けるという原点に返れば、ここで思い切って基礎控除に集約する。そのうえで例えば少子化対策で子育てに何らかのインセンティブを付けるということはあると思いますが、思い切って基礎控除に集約する。
問題は、そのときどのような手法をとれば一番効果的に低所得層への配慮がいくかというと、私はやはりゼロ税率もしくは税額控除であろうと思います。
二点目ですが、社会保障の給付と負担にどのように課税するか。これを税制上どのように扱うかということは、国によって様々であるということが今日の資料の示すところであろうと思います。それぞれの国がどのようにすれば良いかを考えている。したがって私は日本もこれだけ急速に高齢化が進み、なおかつ社会保障を巡って世代間の不公平が非常に大きいというところから、負担と給付の税制上の扱いを考えれば良いと思います。
負担については様々な意見が出て、私も今その答えがないのですが、少なくとも給付に関しては、他の所得と合算して課税するという原点が望ましいと思います。
○中里会長
ほかにいかがでしょうか。上西特別委員、どうぞ。
○上西特別委員
所得控除の見直し、そして税額控除化の検討、そして、それぞれについて低減、消失控除を検討してはどうか。また、ゼロ税率も導入検討をすべきであると申し上げたのですが、納税者の大半が給与所得者であり、給与所得者の大多数は確定申告を必要とせず、年末調整によって税額の精算が行われて確定しているわけです。そのような税額の確定手続の面から見ますと、源泉徴収制度、そして最終的な年末調整制度は給与所得者の税額確定手続を簡素化すると同時に、課税庁の行政コストの大幅な削減にも寄与している面があります。したがって所得控除、税額控除、そして、低減、消失控除、ゼロ税率とそれぞれ検討すべきものであることは必要であると思うのですが、結果、複雑になり過ぎますと社会的コストが増大し、実務がもたないという面もあります。したがって、方向性、理念としては正しくても実務がどの程度負担増になるのか。また、大田委員がおっしゃいましたように簡素化も必要で、併せて集約できるものは集約した方が良いということも、重ねて議論していくべきではないかと思います。
○中里会長
何か特定の手段について、現場の感覚から言って不安があるということをお感じになっていらっしゃるわけですか。
○上西特別委員
例えば所得控除の一部が税額控除になり、所得控除と税額控除の一部が低減し、最終的に消失し、また一定のものについてゼロ税率の中に集約されるとしましょう。中小・小規模事業者の中にはいまだに手計算で行っている会社があります。年末の多忙な時期に年末調整等の追加的な事務を行っているわけです。したがって、そのようなマンパワー的なものも含めて検討しないと、良いものを作ったが対応できない一定の者がいては困るわけですので、余り複雑になり過ぎてはいけない。多少複雑になっても良いかというと、できることならばより簡素化に今回はかじを切った方が良いと思っています。
○中里会長
ほかにいかがでしょうか。佐藤委員、どうぞ。
○佐藤委員
全体として簡素化は大事であると思います。だから今、我々は一生懸命税額控除の話をしていますが、それがあります。しかし所得控除も小さくなっても残りましたとなると、ますます控除の項目が増えるだけですから、それは我々としては避けるべきであって、本当はイギリスのようなユニバーサルクレジットが一番楽かなと思うのですが、あそこまで一足飛びにいかなくても、先ほど大田委員からも話があったように、全体としては少し控除を集約化させる。それを基礎控除という形にするか、例の家族控除という形にするか、あるいは勤労税額控除にするか、様々議論はあると思うのですが、少し控除の中身は整理するという方向でいって良いのではないかと思います。
少し気になってきたことは、先ほど課税最低限というものをどう位置付けるかというときに、実は今日二つの意見があったと思うのです。一つは最初土居委員からあった生活保護との見合いであったと思うのです。もう一つは岡村委員からあった実務的な観点から見て、所得を捕捉することが大変であるという観点。これは整合的ではないのです。我々としては再分配機能の強化と言っているわけですから、本来であればそれに資した所得の捕捉をしなければいけない。もちろんお金がかかるのは分かりますし、税務執行上、大変であるということは分かりますが、それを優先してしまうと再分配機能、生活保護水準との関係で見ると違うのではないかという議論になる。
少し確認しなければいけないことは、ここでは税収中立を前提にしています。したがって、実は給付は別という話をしてしまうと、我々は大増税の話をしていることになってしまう。つまり一方では所得控除を縮減すると言っているわけですから、税額控除は給付でカバーするという、そこの取るところだけ見てしまうと増税をしていることになる。そうではない。納めていただくところもあるが、しっかりと配るところは配る。再分配するところは再分配するという、これが一体ですから、どちらに転んでも私たちとしては税の問題と給付の問題は同時並行的に考えなければいけないという制約の中に実はいるということであると思います。
○中里会長
税収中立ですから、それは大丈夫です。
田近委員、どうぞ。
○田近委員
まさに今の点ですが、ここで議論してきたように我々は実像把握の議論もしてきて、再分配のことをしっかり考えよう、若者に光を、あるいは女性の働く環境を整えるということですが、要するにゼロ税率にせよ、税額控除にせよ、次に問題になってくることは要するに税金を納めるに至っていない人たちの所得の実態がどのようになっているかという問題が出てくると思うのです。ある意味で税額控除で給付まで行ってしまうと、かなりそれは切実な問題である。実はあるところで、韓国の給与所得税額控除、Earned Income Tax Creditを自分が創設したという人に話を聞いて、彼が言っていたことは、これでもって低所得者のまさに実像が分かってきた。どのような所得を得ているかということが分かってきたと彼は言っていたが、我々は若い人に光をと同時に、税金を納めるに至ってない人たちの実像をどのように把握しているかという問題が出てくる。それを給付付きという言葉を私は余り使わないのですが、ネットで給付的なものまであげる、税額控除を仕組まない中で、つまり負担をゼロまででとめてしまう中で、要するに税を負担しない人たちの実態をどのように把握するかということは次の問題と言いますか、同時に考えないといけない問題であると思います。
○中里会長
その人たちを救済する意味でもということですね。
○田近委員
まさに、だからこそその人たちを救済するためにも、ある意味で本来救済しなくても良い人たちが混じることは避けなければいけないわけです。救済するためにも実像をどのように把握するかということが大きな問題になると思います。
○中里会長
それでは、梅澤特別委員、お願いします。
○梅澤特別委員
今、税収中立というお話がありましたが、これはどのような範囲で言っているのか大変大事であると思います。
私がお願いしたいことは、長期で給付も含めて中立になるということを目指しましょうという気持ちで取り組むべきではないでしょうか。これは消費税のときの議論も、それから、法人税のときの議論も多分同じであると思うのですが、短期でその税目の中での中立を目指したら、大した仕事はできないと思います。
二点目、何人かの方からお話がありました簡素についてです。私も再度強くお願いしたいと思います。迷ったときは簡単な方を選ぶ。理屈の美しさよりも、分かりやすさ、簡素を選ぶというぐらいの基準で進めていったらどうかと思います。
三点目、その中で少数の社会に対しての強いメッセージを出し、そのメッセージをサポートする仕掛けを埋め込みたい。具体的には、その1、出産・子育て。念のため申し上げますが、配偶者控除の代わりに婚姻手当をという自民党からの提案もたしか出ていたように思います。我々も去年議論をした五つのオプションの中の一つでした。あれは正しいメッセージではないと思っています。子供を産んで育ててくださいということであれば、そこにダイレクトに当たるような手当をすべきであって、一歩手前の婚姻というところに手当を出すということは直接的ではないため、なるべくダイレクトに仕掛けを埋め込みたい。
二点目、必要なことは明らかに労働参加率を高め、それから、特に103万円、130万円のようなところでストップをしてしまっている方々も、もっと深く社会参加をしていただくというところに刺さるような仕掛けが必要であると思います。
三点目、私が加えるべきであると思っていることは教育、職業訓練です。これはより長い期間、国民全員が働いていかなければいけないことを考え、かつ、ニートや生活保護などになってしまっているような方々も労働力に復帰をしてほしいということが社会的なニーズですから、そこのところに強いメッセージと仕掛けを埋め込むべきであると考えています。
○中里会長
確かに御本人のためにも、社会のためにもヒューマンキャピタルフォーメーションに資するようにということはとても重要です。
それでは、林特別委員、お願いします。
○林特別委員
税収中立の話が出てきたのですが、税収中立のもとで、現行の税制を変えてどのようなことを行えるかということで。今まで出てきたお話で、出産、子育て、再分配とありますが、再分配の意味は広いためどのように捉えられているか分かりませんが、一般的に重視されていることは貧困対策で、貧困の連鎖を断ち切るように、もしくは働ける人はできるだけ労働させるような税制に、ということかと思います。
ただしよく考えると、税収中立で行って、所得税を簡素化して分かりやすくして所得控除か税額控除ということは私も良いと思うのですが、給付付きの税額控除が不可能であるならば、貧困対策には全く効果はないと思います。なぜなら、そもそも税金を負担していない人たちですから。この点をどのように考えるか。そこは割り切って、出産、子育て対策にと既に税金を納めている人たちだけに恩恵をもたらすようにと割り切るのであったらそれで仕方がないと思います。ただし、そのような税制は貧困の連鎖を断ち切ったり、貧しい世帯への再分配政策としては私は全く効果がないと思います。その辺りの税収中立という非常に厳しい財源の下でどこに割り切って行うかということは非常に重要で、余り八方美人にしてしまうと出てきて結局何もできないよということにもならないかなと少し心配しています。
○中里会長
土居委員、お願いします。
○土居委員
梅澤特別委員のおっしゃったことの大半に私は賛成なのですが、一点気になったことは、長期で見ても税収中立というものはあり得ないのではないか。つまり税収中立はある一時点の所得税制の中なら所得税制の中での税収中立ということで考えるということですが、経済成長するなり、女性がよりもっと働くことによって所得が増えれば、累進構造がありますから、その分だけ税収が増えるということは当然含み込んだ上での税収中立という意味なのではないかと私は思っています。
○梅澤特別委員
その意味で申し上げました。
○中里会長
専門家ですから間違いないと思います。ありがとうございます。
よろしいでしょうか。本日は所得再分配機能の回復という視点を念頭に置きつつ、所得税の税率構造や控除のあり方等について議論を行ってきました。その中で所得再分配機能の回復の観点から、所得控除方式を採用している様々な控除のあり方について、諸外国の制度も参考にしながら幅広く検討していく必要があるのではないかといった意見をいただいたと考えています。
次回ですが、働き方の多様化やこれまでのセッションでも意見がありました、老後に備えるための自助努力への支援に関連する問題について議論した上で、これまでの個人所得課税セッションを踏まえたフリーディスカッションを引き続き行いたいと考えています。詳細につきましては事務局から改めて連絡します。
本日はお忙しいところ本当にありがとうございました。
[閉会]
(注)
本議事録は、毎回の審議後速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため、速記録に基づき、内閣府、財務省及び総務省において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、事後の修正の可能性があることをご承知おきください。
PDFファイルを表示(27zen23kai.pdf)
日 時:平成27年10月14日(水)午前9時45分~
場 所:財務省第3特別会議室(本庁舎4階)
○中里会長
それでは、第23回「税制調査会」を開会します。
前回は、個人所得課税セッションの第1回目として、日本の所得税や個人住民税のこれまでの歩みを振り返るとともに、主要諸外国の所得税の構造との比較を行うことによって、日本の個人所得課税の構造を把握して、今後の検討課題の洗い出しを行いました。
そのような議論の中で、例えば主要諸外国の所得税を見ると、日本で用いられている所得控除のほか、ゼロ税率や税額控除なども含めて多様な制度が存在している。そして、所得再分配機能の回復の観点から、これらの様々な制度も参考にしながら幅広い議論を行っていく必要があるのではないか、あるいは働き方が多様化している中で所得再分配機能の回復や、家族のセーフティネット機能の再構築の観点から、引き続き所得の種類ごとに異なった配慮を行うのか、それとも家族構成などの人的な事情に配慮できる人的控除による配慮を中心にしていくのか、どちらが良いのか考えていく必要があるのではないかといった御意見を頂戴しました。
今回はそのような議論に引き続いて、所得再分配機能の回復の視点を念頭に置きつつ、所得税の税率構造や控除のあり方などについて議論を進めていきたいと思います。
まずは事務局から関係の資料と前回の宿題について御説明いただいた後、かなり多目に時間をとって委員の皆様から御意見、御質問をいただきたいと思っています。
それでは、カメラの皆様は御退室をお願いします。
(カメラ退室)
議論に入る前にメーンテーブルにお座りの皆様の机の上ですが、今回の総会の説明資料の入っている厚い封筒の下に、もう一つ多少薄い封筒が置いてあると思います。これは財務省の浅川財務官が議長を務めているOECD租税委員会が取りまとめた税源浸食と利益移転、いわゆるBEPSプロジェクトの最終報告書に関する資料が入っているものです。この報告書は今月5月に公表され、8日に行われましたG20の財務大臣・中央銀行総裁会議に報告されたものです。これは国際課税に関する国際的な協調の歴史において非常に重要な役割を担うものですから、後日、この総会の場でも改めてこれについて事務方より御説明いただく予定ですが、本日は時間も余りありませんから、まず御報告までということで資料のみ置かせていただきますから、御覧になっていただきたいと思います。
それでは、先ほど申し上げましたとおり事務局からの資料の説明をお願いします。まず住澤主税局税制第一課長、よろしくお願いします。
○住澤主税局税制第一課長
おはようございます。よろしくお願いします。
それでは、資料総23-1「説明資料〔所得税②〕」に基づきまして、引き続き所得税のファクトファインディングを中心に説明をしたいと思います。
会長からお話がありましたように、再分配機能に関連する諸制度ということで税率構造、そして控除のあり方を中心に資料をまとめています。前半はそのようなテーマになっていまして、途中、課税単位の問題に若干触れた上で、後半の方で再分配に関連します個人所得課税と社会保険料の負担の状況あるいは課税最低限といったものについてもデータを紹介したいと思います。
2ページは前回御説明をした資料の中で、所得税における負担調整については様々な手法があるということを、諸外国の例を基に説明をしました。その資料を再掲しています。累進税率を給与収入に適用した税額を基準にした場合、そこからの負担調整の手法としましては、我が国で広範に採用されています所得控除のほかに、ゼロ税率や税額控除といった別の対応があります。あるいは課税単位の問題に及びますが、ドイツ、フランス、アメリカのような合算分割課税といった制度もあるということを前回ご覧いただきました。これを今回、若干掘り下げた議論をしたいと思います。
3ページに掲げているものは、平成19年の当税制調査会の答申です。所得控除と税額控除をめぐるこれまでの議論をある程度コンパクトに、象徴的に示している答申であると思いますから、そのポイントをまとめています。
ポイントは、所得控除につきましては担税力の減少に配慮するという制度ではありますが、この図で分かりますように、高所得者ほどこの税負担軽減額が大きいといったことがこれまで指摘をされてきているわけです。それに対して税額控除の場合は、所得水準にかかわらず、税負担軽減額が一定となるということで、再分配機能の面からは望ましいのではないかといった議論が行われています。また、この税額控除の性格については二つ目の囲いにありますように、財政的支援としての性格が強い。要するに補助金や給付と類似の性格を持ったものである。このような認識がある程度イメージされて議論されてきたものではないかと思われます。
今回の資料では、このようなこれまでの認識を一回横に置きまして、このような捉え方だけが税額控除に対する捉え方であるかどうかということも含めて、諸外国の例なども含めて整理をしていきたいと思います。
その手始めとして4ページですが、これまで所得控除、税額控除をめぐる議論というものは、あくまでこの控除のあり方の中だけの議論として展開をしてきたきらいがあります。そこで原点に立ち返って所得税負担の累進性というものはどのように構築されるのかということを考えてみますと、主として我が国の現行の所得税における累進性というものは、控除のあり方だけではなくて、それと税率構造の組み合わせによって実現されているということがあります。
左上の箱ですが、今の所得税の考え方としては、課税所得というものを一種の租税負担能力の指標として位置付けまして、それを計算する過程で家族構成や収入などの納税者の事情に対する斟酌を一定程度終えてしまうということが基本的な考え方になっています。そのために所得控除中心の考え方を採っている。
右の箱の上にいきますが、その上で課税所得に対して累進的な税率を適用することで、累進的な税負担を実現するということが今の考え方です。これに伴って左下ですが、所得控除を適用することで課税最低限が画されることになり、一定の所得金額までは負担を求めないという機能が果たされていると同時に、右下ですが、所得控除の適用によりまして同じ税率が適用される納税者の間では、税負担の累進性が生まれるという役割も果たしています。これが全体的な今の累進構造の基本になっているかと思いますが、この点、若干5ページで詳しく説明していきたいと思います。
今、最後に申し上げました、同じ税率の下で累進性を付与するという所得控除の機能ですが、5ページでは比例税率が適用される所得税を考えまして、そこに所得控除が入ることでどのような効果が生ずるかというものを図示しています。全く所得控除もなしで比例税率を適用する場合には、実効税率カーブというものは左側の図のように完全にフラットな形になるわけですが、ここに所得控除が導入されますと、右側の図のように一定の所得までは課税されないということで、課税最低限が生まれるとともに、実効税率カーブも累進的な曲線の形になるということです。所得控除というものは高額所得者ほど有利であるという言い方がされるわけですが、この図の上で見ると所得に対する税額の割合、いわゆる実効税率を基準として考えた場合、低所得者ほど所得控除の場合も実効税率を低下させる効果は大きい。したがって、累進的な実効税率カーブになるということも言えるわけです。
6ページ、我が国の所得税がそのようであるように、超過累進税率の構造をとっている場合に今の議論はどのようになるかということです。左側は同様に控除なしで累進税率を適用された場合でして、超過累進税率になりますから、最低税率の間はフラットな税率になりますが、そこから先は累進的なカーブになっています。ここに所得控除が導入されますと、右側の緑色の線のようになりまして、所得控除前の赤い点線と比べますと、低所得層ほど実効税率の低下幅が大きくなり、課税最低限が設定されて累進的な税率カーブになるという効果があるわけです。
そこで、この所得控除を税額控除に切り替えたらどのように変化するかというものが黒い線でして、ここでは税収中立で切り替えを行うことを想定しまして、所得控除の金額に平均的な税率を乗じた額を税額控除の額と設定しまして計算しています。そのようにしますと、平均税率以下の低所得層にとっては減税になり、上の方は増税になりますから、御覧のように課税最低限が上昇するとともに実効税率カーブがよりスティープな格好になりまして、再分配機能を強める効果があるということが分かります。
7ページ、このような実効税率カーブの変化というものは、左側の絵のように税額控除に移行する場合だけではなくて、税率構造そのものを変化させる場合でも生まれることになります。右側の方では最高税率の引上げを含む税率構造の見直しを行う場合のイメージを示していますが、実効税率カーブ全体が上の方にシフトするとともに、よりスティープな構造になることがおわかりいただけると思います。
したがって、累進性あるいは再分配機能と所得税のあり方、控除のあり方と税率構造の両面から検討する必要があるということです。
8ページ以下では、税率構造についての幾つかのデータの紹介です。
9ページはよくご覧になっているものですが、この間、この所得税率については累進緩和が進められてきて、本年から最高税率の引上げが実施をされているという状況にあります。結果、10ページにあるように、主要国の中では国と地方を合わせました最高税率は55%ということで、一番高い水準になっています。
11ページで御覧いただきますと、OECD諸国の中でも引上げ後の最高税率というものは、上位から4番目の高い水準になっています。
結果として12ページですが、勤労所得に関する実効税率カーブを書いてみますと、我が国の実効税率カーブの水準5,000万円超の高所得者のところで見ると、主要国の中で一番高い水準になっています。ただし、これは給与所得についての実効税率カーブですから、ほかの所得も入ってくるとどのようになるかということで13ページですが、これは申告所得税の負担率についてグラフ化したものです。よく言われるところですが、高額所得者になると株式の譲渡所得が所得の中に占める割合が大きくなりまして、この株式の譲渡所得に対しては比例税率による分離課税が行われることもあり、所得税の負担率が逆に高所得層で低下するという現象があります。
このグラフは平成25年分ということで、上場株式等に対して配当と譲渡益に10%の軽減税率が適用されていた時代のことですから、本年分からはこれが20%に復帰することで、若干このカーブが上の方に来ているかなと推測されますが、いずれにしても右下がりという傾向はあるわけです。
ただし、この点については、株式等の譲渡所得というものは数年にわたって、長年にわたって蓄積をされたものが一時に実現するという場合もありますから、何らかの平準化が行われる必要がある。ほかの所得と同じような累進税率をかけることが果たして良いかどうかという議論があることと、諸外国においてもそのような観点から何らかの軽減措置が講じられているところには留意する必要があります。税率構造との関係で紹介しました。
続きまして14ページ以下で、現行の所得控除の考え方と諸外国の制度の対比をしていきたいと思います。
15ページ、前回大田委員からも基礎控除等の意義について確認をした上で議論を進める必要があるという御指摘をいただいています。ここでは平成12年の答申を紹介していますが、基礎的な人的控除、基礎控除、扶養控除等の役割として、納税者の税負担能力を減殺させる事情に対しての斟酌という位置付けが示されています。特に基礎的な人的控除については、世帯構成などの納税者の担税力を減殺させる基本的な事情を斟酌するためのものであると言われてきていまして、そのうちの基礎控除については一定額までの少額の所得については、税負担能力を見出すには至らないという考え方に基づくものであると説明されてきています。
この点を若干詳しく説明させていただいているものが、16ページの金子宏教授の『租税法』の一節です。基礎控除等の人的控除については、所得のうち本人及びその家族の最低限度の生活を維持することに必要な部分は担税力を持たないという理由に基づくものであるということで、いわゆる最低生計費的なものに対する配慮という考え方が示されているわけです。これが現行の所得控除の基本的な考え方ということで、17ページには現行の人的控除のリストを掲げていますから、御確認ください。
18ページには、そのほかの様々な所得控除の類型を示しています。
19ページには、基礎控除等のこれまでの沿革を示しています。前回、所得税の沿革を御説明する中で触れさせていただきましたが、それを改めて整理させていただいています。ご覧いただければと思います。
20ページには、特別な人的控除と言われています障害者控除等の沿革がありますが、前回も少し触れましたが、昭和25年、26年にこれらの控除が所得控除として創設をされていますが、昭和27年から42年までの間ですが、一時的に税額控除方式になっていた時期もあるということです。当時の考え方としては基礎控除などの最低生計費に対する配慮については、所得控除であることが自然であるが、他方、障害者控除等については社会政策的な配慮であるという側面もあるため、所得水準にかかわらず一定の配慮が行わることが必要であるといった考えがあって、一時的に税額控除になっていた時期があるという歴史です。
21ページは、その他の控除の沿革です。
22ページには現在ある税額控除あるいは歴史上存在した税額控除の例を示しているものです。所得税法、本法の上での税額控除としては、配当控除などの二重課税の排除の点から設けられているものが中心です。あとは政策的な控除となっています。
23ページ以降で外国の諸制度について見ていきたいと思います。前回も所得税の比較をする中で触れさせていただきましたが、ドイツにおいては我が国の基礎控除に相当する控除がありません。その一方で税率表の第一税率がゼロ税率となっていまして、これによって一定額までの所得に対しては税負担を課さないという機能が果たされています。我が国の基礎控除等の役割が別の形で実現をされているということです。
先般、野坂委員から、このようなゼロ税率の背景について調査するようにという指示をいただいています。現在、ドイツ等にも問い合わせをしていますが、もう少し調べる必要があるため、少々お時間いただければと思います。それから、上西特別委員から、ゼロ税率が入った場合の税額計算の手続についてのお問い合わせがありました。詳細は今まとめているため、次回、間に合えば御報告したいと思いますが、基本的には我が国と同様の税額表あるいは速算表というものが設けられているということで、具体的にはまた説明させていただきます。
24ページ、フランスです。フランスも同様にゼロ税率のブラケットがあるということで、ドイツと同様の仕組みになっています。
25ページにお移りいただきましてカナダです。カナダの場合は税額控除ですが、先ほど紹介した平成19年の答申で指摘されているような財政支援的な税額控除というよりは、少し性格の異なった控除になっているように見受けられます。それは、この税額控除の仕組みの上で一定の所得金額、この表の中ではAという記号を振っていますが、このAという所得金額に対して最低税率15%を掛け算しまして、その結果、出てくる金額を税額控除するということで、グラフの方に目を移していただきますと、例えば基礎控除については一定の所得金額に15%という最低税率を乗じたものを税額から控除しますから、結果としてゼロ税率と極めて似た機能を果たしていることになります。
ゼロ税率との違いは、カナダの場合は基礎控除だけではなくて配偶者控除についても同様の方式で税額控除化されていまして、複数の控除をこのような形で積み重ねていくことが可能になるという意味で、ゼロ税率の場合とは少し違う仕組みになっているわけです。
このような仕組みは、1987年に所得控除から税額控除に移行した際に作られた仕組みであると承知しています。なお、下段の参考のところにありますが、イギリスにおいても課税単位が個人単位課税に移行しました1990年以降、10年間、夫婦者控除という控除が設けられていましたが、これも途中、所得控除から税額控除方式に移行した際に、このカナダと同様の一定の金額に最低税率を乗じた額を税額控除するという方式になっていた時期があるということです。
26ページ、アメリカにおいては前回も触れましたが、我が国と同様の所得控除方式の人的控除が存在しますが、違いとしましては所得が一定金額を超える場合、この人的控除の額が低減していきまして、最終的には消失するということで、一定以上の高所得者に対しては、控除することなく直接税率を適用することになっているということが違う点です。
27ページのイギリスについても、同様の仕組みがとられています。
以上をまとめますと、28ページでして、我が国の所得控除の考え方である一定金額までの所得については税負担を課さないこととするための仕組みとしては、諸外国に多様なものがあるということが分かります。所得控除の場合は左上にあるように、所得金額から控除した上で累進税率を適用するため、左下の効果のところに書いてあるように、所得金額のうち一番高い税率が適用される部分から控除が行われるという結果になるわけですが、他方このゼロ税率、税額控除、カナダのような場合については、控除を行わずに所得金額の全体に対して累進税率を適用するという考え方をとった上で、一定金額までの所得については負担を求めない。そのためにこのゼロ税率や、あるいは所得金額に関しては最低税率分負担を軽減するという仕組みを採っているわけです。
結果として効果の欄を御覧いただきますと、所得金額のうち最低税率が適用される部分から所得控除を行ったものといわば同じ効果が生ずるということで、税負担軽減額が所得水準によらず一定になるということです。
また、アメリカ、イギリスの場合、参考とさせていただいていますが、この場合については一定以上の高所得者の場合については、控除なしで直接累進税率が適用されるということで、所得について根っこから課税が行われるという考え方も諸外国にはあるということです。
29ページには、このような所得税の見直しを行っていく場合に、様々な制度に影響が及んでいきますから、関連する諸制度として社会保障制度の類型を掲げています。所得金額や税額というものは、このような分野で様々な基準として用いられているため、このような制度への影響についても考慮する必要があるということです。
30ページ、税制に関連する給付措置ということで比較表を掲げています。先日の国際比較の中にも右側に、税額控除の欄に登場したものですが、いわゆる給付付き税額控除と翻訳をされていますが、その実態を見ていきますと例えばイギリスやドイツのように給付の仕組みの欄を見ますと、全額給付措置であるという措置もかなりあります。そのような意味で税額控除という名前があたかも税制上の措置であるかのような印象を与えますが、給付措置が主体になっている国もある。また、アメリカの欄などをご覧いただきますと分かるかと思いますが、公的扶助や児童手当といった制度の代替物として設けられてきた歴史があります。各国においてそのような位置付けが与えられており、このような制度について議論する際には、我が国で申しますと生活保護あるいは失業手当、児童手当といった関連する諸制度との関係において議論されるべきものであると考えられます。
また、イギリスやフランスの一番下の欄を御覧いただきますと、かなり様々な税額控除や給付措置ができてきた結果、非常に複雑怪奇な制度になっているということで、このようなものを一本の給付措置に統合していくという動きが各国とも見られるようになっているということです。
以上、所得控除の関係について説明をしました。
31ページ以降は、負担調整手法の一環として説明しました合算分割課税等の課税単位の問題です。昨年11月の第一次レポートで一定の結論を出していただいていますから説明は簡単にしますが、32ページに見られますようにアメリカ、ドイツ、フランスにおいて、一部、世帯単位課税の考え方が採り入れられています。
33ページの左の欄をご覧いただきますと、北欧や先進諸国の中ではかつて世帯単位であった国も、個人単位に移行する国が多いということが現在の流れです。
34ページでは、所得税の税率構造と合算分割課税の効果が非常に密接に関連していることを図示しています。右側の二つの絵を御覧いただきますと、高所得者の場合は所得Yというものを合算分割課税で一回、2分のYに軽減した上で税率を適用しますと、適用される税率が低くなりますから、これをさらに2乗して税額を計算しますと、白抜きの部分の税負担が軽減されるという効果がありますが、左側の図のように最初から最低税率が適用されるような中低所得層の場合は、このような操作をしても適用税率は不変のため、合算分割課税の効果はないということになるわけです。
我が国の場合、35ページにありますように所得税の税率ごとの納税者の分布を見ますと、最低税率の5%に分布している納税者が60%、第二税率の10%まで含めると83%ということですから、合算分割課税の効果は非常に限定的であるということが推測できるわけです。
実際に36ページで2分2乗方式を導入した場合に現行とどのぐらいの所得税負担の増減が生じるかというものを世帯収入が500万円、700万円、1,000万円の場合、左側が片働き、右側が共働きで収入比3対1の場合について試算をしたものですが、御覧いただきますと所得が1,000万円といった高額所得層になりますと、この合算分割による減税額というものが相当出てきますが、中低所得層においてはほとんど効果がないということが見てとれるかと思います。
このようなこともありまして38ページにお飛びいただきまして、第一次レポートにおいては個人単位課税を基本とすべきという考え方を示していただいているところです。このような家族構成に応じた配慮のあり方として、合算分割課税が今の税率構造を前提にすると余り効果がなく、高所得層の優遇となるにすぎないとしますとどのようになるのかということで、40ページ以下で第一次レポートの概要を示していますが、家族構成に応じた配慮を考えていくに当たってのいくつかの選択肢ということで、41ページには配偶者控除の廃止と子育て支援の拡充といった選択肢。また、42ページにはいわゆる移転的基礎控除の導入と子育て支援の拡充という選択肢。43ページに、いわゆる夫婦世帯を対象とする新たな控除の導入と子育て支援の拡充、このようないくつかの選択肢を示していただいています。昨年御議論いただいた点ですから、詳しい説明は割愛をさせていただきます。
45ページ以下で、負担の現状についてのいくつかのデータを紹介していきたいと思います。
45ページは、単身の世帯あるいは共働きの夫婦のうち一人というものを取り上げまして、個人所得課税の実効税率の時系列的な推移、社会保険料の負担をそれに加えた場合の推移を比較しています。左側が個人所得課税の実効税率の推移ですが、黄色い一点鎖線が消費税を導入する前の実効税率で、赤い線が平成6年当時のものですから、消費税導入後となります。青い点線が平成6年に決められました税制改革において平成7年以降、減税が行われていますから、その線を示していまして、黒い線が現行となります。
これをご覧いただくと、消費税導入に伴う直接税の減税を行った際に、かなり広範な所得層において黄色い線から赤い線へのシフトが見られる、減税が行われているということが分かると思います。それに対して平成6年に決まって7年から実施された減税においては、矢印が書いてありますが、年収が1,000万円前後のいわゆる中堅所得層から上の層を中心とした減税が行われているということです。当時の認識としては、所得水準が平準化している等々の認識があったわけです。この点は後で当時の答申に触れたいと思います。
結果、社会保険料負担も含めたところでどのような推移がもたらされたかというものが右側のグラフです。黄色と赤と青の位置関係については右側とさほど変わりませんが、黒い線が全体として青の点線よりも上の方に並行にシフトしていることが分かると思います。これは平成10年前後以降、社会保険料が逐次引き上げられていることに伴うシフトが起こっているわけです。結果としまして、この黒い線と黄色い線などを比較してみますと、低所得層においては黒い線が黄色い線を上回っていわば負担の増加が生じているとともに、中高所得層におきましては現在の負担は消費税導入前の負担を下回るということで、減税が行われているというような格好になってきているわけです。
この資料は最近、特に単身世帯が増えているということで46ページのような世帯類型の数の推移がありますから、単身や共働きの一人の場合を示したわけですが、他方様々な世帯類型がありますから、48ページ以降では夫婦で片働きの場合や、夫婦で共働きの場合などを示しています。共働きについては49ページの収入比が3対1の場合と50ページの3対2の場合というように、2ケースお示しをするということにしています。
収入比3対1と申しますのは、消費実態調査における平均的な収入比をとっていまして、また、3対2を取り上げていますのはOECDの統計をまとめる際に、OECDでは3対1の場合と3対2の場合を国際的な比較の基準として採用しているため、両方のケースについて示しているものです。
51ページ以降は夫婦二人の場合についても片働き、共働き、両方のケースを示しているということで、様々な世帯類型について示していますが、インプリケーションは先ほどとさほど変わりませんから、細かい説明は省略させていただきます。
54ページ、先ほど少し触れました平成6年の所得税の累進緩和をした際の考え方の答申です。中央の(4)を御覧いただきますと、当時の認識としましては、我が国における所得分布の状況が諸外国に比してはるかに平準化しているという認識の下で、この強い累進性が必要なのかどうかという問題意識。また、収入が勤続年数に応じて増加するサラリーマンが大宗を占めている中で、そのようなサラリーマンの税負担の累増感に対する配慮ということがありました。したがって、中堅所得層以上のところで税負担の累増感を生じないような累進性の緩和をするということが行われたわけですが、結果として所得が平準化しているという認識の下ではありますが、再分配機能がある程度犠牲になったということは否めないものかと思います。
その後、55ページ以降にありますように、実像把握のセッションで見てきたような変化があるわけです。56ページの左側をご覧いただくと、若年層においてもジニ係数が上昇していることがあります。その背景に57ページにありますような非正規労働の拡大ということがありまして、現在では就労者の4割弱が非正規労働になっている。
58ページの左側ですが、所得が勤続年数に応じて上昇していくということは、あくまで正規労働者を念頭に置いた考え方ですが、現在においては所得水準は横ばいの傾向を示す非正規雇用の方々が相対的に増大をしているということで、平成6年当時とはかなり大きな変化が生じているということです。
59ページは社会保険料率の推移を示していまして、その背景にある社会保障給付費の推移を60ページに示しています。また、61ページでは先ほど示した累進カーブと社会保険料控除の関係について、若干のコメントを載せています。社会保険料の負担構造、このピンク色にあるように支払保険料に頭打ちがあるという構造ですから、黒い実線で示していますように、その負担率は右下がりのカーブを描くことで、元々逆進的な構造を持っています。そこに社会保険料の控除が緑のような格好で所得控除として適用されますから、これを差し引いた実質的な支払保険料を所得で割った実質的な負担率のカーブは赤い線のようになりまして、一層この逆進性を増すという傾向がある。これが高所得層における実効税率カーブの低減をある種支えている一つの要素にもなっているわけです。
62ページ以下では、このような自己負担率のカーブを国際比較しますが、その前提としまして先般、制度の再分配機能の観点からの分析が必要であるという野坂委員の御指摘や、林特別委員からも社会保障制度の違いを踏まえた分析が必要であるなどの御指摘をいただいていますから、まずは社会保障制度の国際比較をしています。
日本の場合、医療サービスを含めまして広範に社会保険方式が採られていますが、ドイツ、フランスは基本的に同じような制度類型を持っています。他方、右側の白抜きになっている国々においては、医療サービスに税方式が適用されていたり、我が国とは社会保険方式の中身が相当違っているということで、単純な比較ができないということになります。それも含めて63ページ以下の資料を作成しています。
63ページは単身の場合ですが、個人所得課税の実効税率、左側のグラフで御覧いただきますと、低所得層を除きますと主要諸外国よりもかなり低い水準になっていまして、最も緩やかな、フラットな累進構造になっていることが見てとれるかと思います。結果、同様の社会保険制度を持っていますドイツ、フランスと比べた場合、社会保険料を含めても負担水準としてはかなり低いところにとどまっていますが、ただし、特徴としては低所得層においてはドイツ、フランスに近い負担水準になっているのに対し、それより上のところではかなりの開きがあるということで、非常にフラットな負担構造になっていることが特徴的です。
64ページは、日本と大きく社会保険制度が異なる国々について参考で載せているものです。
65ページ以降は、先ほどと同様に世帯類型を違えまして様々なケースを示しているため、傾向としてはさほど変わりませんから説明は省略させていただきます。
79ページ、課税最低限についてのデータを紹介します。
まず課税最低限というものの性格ですが、この平成12年の答申にありますように、所得税におきましては様々な控除が行われるということでして、その控除を差し引いた金額が課税対象となるということで、一定金額以下であれば課税はされないということになるわけです。
給与収入について、どこまでの水準が課税されないかというものを示すのが、いわゆるこれまで課税最低限と呼ばれてきたものです。この課税最低限は様々な控除から成っていまして、その機能としては最低限を画するとともに、税率と一緒になりまして税負担を左右する要素になるということは、先ほど説明したとおりです。
80ページで近年の課税最低限の推移をいくつかの世帯類型別に示しています。一点申し上げたいことは、平成27年につきまして社会保険料の計算について前提を若干変更しています。平成12年以来、課税最低限の計算をする際に、社会保険料の水準については給与収入の10%という前提を置いて計算をしていました。他方、本年に至りまして社会保険料の水準が給与収入の15%台に乗るといったことになりましたから、今般、新しく示した平成27年分の数字から若干この数字が高くなっている。社会保険料の額が大きくなったということで課税最低限が上がっているということです。
81ページは、片働きと単身のケースについてこの課税最低限の内訳を示しています。水準を御覧いただくと単身の場合121万円、夫婦のみの場合168万円ということで、子供がいるとある程度の水準ですが、単身あるいは夫婦のみの場合の課税最低限というものは、必ずしも高い水準ではないということが分かると思います。
82ページ、共働きの給与所得者の場合について、様々な組み合わせについて課税最低限を示しています。課税最低限を足すことには余り意味がなくて、夫婦と言えどもそれぞれ独立の納税者ですから、別々に示しているという点は御留意ください。
83ページには課税最低限の内訳の推移ということで、沿革を示しています。先般、所得税の沿革について御説明した際に、昭和49年に給与所得控除の大幅な拡充が行われたということを申し上げました。当時、控除率の引き上げが行われただけではなくて、最低保障額というものが初めてできまして、これも大幅に低所得層にとって引き上げになっているということです。それ以降、課税最低限の内訳を見ますと単身の場合、基礎控除よりも給与所得控除の方がウエイトが大きい。逆に言うと人的控除である基礎控除の役割が非常に限定的であるという姿になっているわけです。
他方、夫婦のみの場合が84ページ、あるいは夫婦子二人の場合が85ページですが、家族が増えると人的控除は若干増えますが、一人当たりの人的控除の額というものは比較的限定的であるということは、前回の説明でも申し上げたとおりです。
86ページ、この扶養控除に関してですが、年少の扶養控除について赤い点線で囲っているところをご覧いただくと、平成22年度の改正においてこれが廃止をされまして、子ども手当に振り替わるといったような改正が行われています。したがって、この辺りを加味した比較をする必要があるであろうということで、87ページに課税最低限に児童手当等の給付額を加味した場合の実質的な課税最低限の水準がどのようになるかという国際比較を示しています。
子供がいる場合は、このような児童手当の効果が乗りますから、実質的な課税最低限、比較的諸外国と遜色のない水準となっていますが、単身と夫婦のみの場合はどちらかというと諸外国と比べて低い水準あるいはアメリカと同等の水準にあるということです。
この課税最低限の内訳を国際比較したのが88ページ以降です。ここでは所得の種類によらずに適用される基礎控除などの人的な控除や、ゼロ税率などのある意味、汎用性のある制度、所得の種類によらずに適用される制度をブルーで塗っていますが、諸外国においてはこのような人的控除による課税最低限の調整というものが主流になっているということが、この図から分かると思います。
なお、フランスやスウェーデンは課税最低限が非常に高くなっています。フランスの場合は先般も説明しましたように、一般社会税等の社会保障関係の諸税が所得税のほかにあります。このため所得税の課税最低限が高くなっている。また、スウェーデンについてはここでは国税の課税最低限を示していまして、地方税の課税最低限は基礎控除の適用だけですから、結構低い水準になっているということです。
89ページ以降は、世帯類型を変えて見ているものです。全般的な傾向は変わりませんから、説明は省略させていただきます。
92ページは実像把握のセッションで、今回御説明した資料に関連しておっしゃられた様々な意見を示しています。全部は紹介しませんが、所得再分配機能の意義や、それを考えていくに当たっての留意点あるいは税額控除なども視野に入れて、様々な検討をする余地があるのではないか等々の指摘がなされているわけです。
93ページ以降は、前回いただいた宿題に対する答えを示しています。高田委員からいただいた所得、消費、資産の税収構成比の推移について何ページか、諸外国のものを含めて整理をしています。時間の都合で説明は省略させていただきます。
102ページには、田中特別委員からいただきました社会保障負担率のうち、事業主負担はどのぐらいかというものの各国比較です。田中特別委員からは先般、国民負担率との関係で受益の水準がどのようになっているかという御指摘をいただいていました。この点についてはページが戻って恐縮なのですが、77ページをお開きいただきまして、先ほど説明を飛ばしてしまいましたが、社会保障給付のGDP比と国民負担率の関係を二次元にプロットした図です。日本の場合は社会保障支出の水準がある程度中福祉の上の方にあるのに対しまして、国民負担率の水準はどちらかというと低い方に属するといったような状況になっているということです。
103ページにお飛びいただきまして、ここから二枚は大田委員から御質問いただいた、給与収入に対して所得控除の額がどの程度のウエイトを占めるかという資料を、OECDのTaxing wagesという資料からそのまま抜粋しています。留意点としましては、ここにある所得控除のほかに税額控除やゼロ税率あるいは合算分割課税といった様々な負担調整が先日説明したとおりにありますから、ここに載っているものが全てではないということです。
105ページ、106ページは大田委員からの御質問で、社会保障給付に対する様々な課税関係を整理したものです。
以上で今回の資料を終わりますが、前回、御説明した資料に訂正が一点あります。封筒の外に前回の総22-1「説明資料〔所得税①〕」という資料が置いてありますから、その28ページをお開きいただきたいと思います。スウェーデンの所得税の構造ということで28ページに図がありまして、税率構造の欄、ゼロ税率のブラケットが709万円となっています。前回少し手違いがありまして、ここに71万円と書いてありまして、一桁違っていました。709万円ということで今回訂正をさせていただきましたため、お詫びして訂正させていただきます。
○中里会長
ありがとうございます。
続きまして、川窪自治税務局市町村税課長、お願いします。
○川窪自治税務局市町村税課長
続きまして、地方税につきまして説明したいと思います。資料は総23-2「説明資料〔個人住民税②〕」を御覧いただければと思います。
目次のところを最初に御覧いただければと思いますが、個人所得課税の大きな一つの柱であります個人住民税につきまして、個人所得課税全体の構造としましては、所得税と共通している部分が非常に多くありますから、今回の説明も個人住民税が所得税と違っている部分につきまして、重点的にポイントを絞って説明をしたいと考えています。
1ページ以降ですが、最初に負担調整の制度の効果イメージにつきまして、比例税率である個人住民税の場合ということで模式図を1ページ、2ページと続けて載せさせていただいています。これは個人住民税が比例税率ですから、1ページの上の方に書いていますように、①の所得控除方式を③のゼロ税率あるいは④の税額控除のような形に、税収中立の世界で動かしてもそのこと自体によっては負担調整のインパクトが変わるということが起きないということですが、一方でこれまでのこの税制調査会における議論の中でも諸外国の例などの中で様々議論もされ、紹介もされてきているような所得計算上の控除や、あるいは人的控除など、そのような仕組みを日本とはまた違う構造が様々ありますが、そのような仕組みの取り方によっては、この比例税率の下においても負担調整における効果が一定程度起き得るわけですから、そのようなことを考えながら制度改正のあり方を考えていくことが必要ではないかということです。
分かりやすく言えば、比例税率であるということに伴う制度上の効果の発揮という意味では制約がありますが、一部効果が発揮されるような改革のあり方というものも議論の余地がある、そのような意味で掲げさせていただいているものです。
3ページは、今、申し上げました個人住民税の場合、負担の調整ということに焦点を当てようとすると、主に控除のあり方について議論になるのではないかということを、比例税率であるためということから説明している資料です。
4ページは、その比例税率というものが平成18年度に法改正を行っています、いわゆる三位一体改革の結果としての平成19年度から適用されている10%比例税率というものでして、過去の経緯としては、このようなフラット化を順次進めていく中で、比例税率に基づく応益的な課税の性格を強化してきた経緯があるというものが4ページです。
以下、5ページ以降は先ほど財務省から説明のありました各種控除などのデータについて、所得税と少しずつ数字が違っている部分があるという資料でして、5ページは人的控除、6ページはその他の所得控除でして、6ページについては所得税と同じ計算をするものもありますが、総じて少しずつ小さめの金額で所得控除の金額が設定されているという話です。
また、7ページから8ページにかけましては、これらの控除に関します沿革を書いています。おおむね所得税における改正と、特に昭和40年代辺り以降は同様に改正が行われてきていると考えていただければと思います。
10ページは個人住民税における税額控除の仕組みが過去から現在にかけ、どのようなものが存在したか、今あるかということの一覧です。今回の改革の議論をする際の直接の関係ではないかもしれませんが、寄附金税額控除について個人住民税には独特の制度が、いわゆるふるさと納税があるということや、10ページの一番上に調整控除というものがありますが、三位一体改革を行ったときの負担の調整をするための控除という仕組みが、引き続き現在も設けられているというような独自の事情もあります。
続きまして11ページ以降です。中立的な税制の構築に関する昨年の第一次レポートについてですが、これについては所得税と共通の課題ということで先ほど説明のあったとおりでして、11ページの一番下に書いています非課税限度額などを議論する際には、社会保障や福祉の制度などに使われていることにも留意が必要ということが触れられていることを、ここではレポートに書かれている中身の一つとして紹介しています。
12ページ以降、課税最低限に関する情報です。こちらにつきましては12ページに平成12年の税制調査会の答申にも整理をされていますように、所得税よりも低めに課税最低限が設定されている。そこの考え方が整理されています。実際に13ページの絵にありますように、どのような収入の方から税がかかり始めるかという目で見ますと、左上の黄色い拡大図のようなものがありますが、初めに個人住民税の均等割の課税が始まり、そして個人住民税の所得割の課税が始まり、もう少し所得が増えてくると所得税への課税が始まるというような位置関係にあります。
当然ですが、この絵には描いていませんが、個人住民税の均等割課税がされ始めるよりも低い収入の方々においても、社会保険料についてはそれぞれ例えば国民健康保険における均等割部分や、一部負担をいただいているという社会保険料の制度などもあるということです。
14ページは課税最低限の推移につきまして、先ほどの所得税の資料と対比していただければ、少しずつ低い数字に設定された形で推移しているということが御覧いただけると思います。我々の14ページの方、また、先ほどの13ページの資料も同様ですが、今回の税制調査会の資料においては、社会保険料控除の計算式を先ほど説明がありましたものと同じように15%に整理をさせていただいて資料を作っています。
15ページから17ページへ続く一連の横長の資料につきましては、それぞれ先ほど説明のありました資料の個人住民税に関する金額を載せていまして、15ページ、16ページには小さい字で所得税においては幾らというものを書いていますから、それぞれ少し小さめの金額になっているということが御確認いただけると思います。
20ページ、扶養控除に関する平成22年度改正の取扱い、これについては個人住民税についても同様な改正が行われているという資料です。
21ページ以降は、一番初めに申し上げました比例税率であるがゆえに、一定の負担調整といっても効果の効き方に制約があるということに加えまして、個人住民税という地方税であるということの留意点として大きく三つほど留意点があると考えています。それについての説明でして、21ページ、22ページはその留意点のうちの一つ目として、先ほどの説明にもありましたが、所得の情報、また、課税非課税の区別というものが様々な社会保障などの保険料や、あるいはサービスを受けたときの本人負担など、そのようなものの基準に使われているということの主な例を21ページ、22ページには載せさせています。
21ページは給与所得者の方のイメージです。一方、22ページは公的年金等受給者の方のイメージです。分けた理由は収入金額の一番下の横尺の金額を分けて作らざるを得ないということと、給与所得者の場合には国民健康保険の保険料のようなものが当然ですが出てこなければ、逆に医療保険の場合は協会けんぽの場合幾らかといったことが出てきますから、そのようなこともあり、また、高齢者の方の場合には後期高齢者医療保険の保険料の中の均等割だけは所得が少なくても払わなければならないという事情があり、かつ、22ページですが、非課税限度額以下の年金収入の場合でも、その年金収入の水準によって保険料の均等割額の軽減措置率に差が設けられているということもあり、結果として収入金額が課税最低限や非課税限度額以下の、平たく言えば税を負担するに至っていない収入水準の方々であっても、その中の適用の区分が違うということもあって、そこのところを制度を所管し、運営している担当の方々にお伝えできるような仕事も、市町村の課税当局においてはしなければならない部分があるということです。
このようなことから個人住民税に関する制度改正を考える際には、そのような実務が円滑に回っていくということや、また、課税非課税の別や所得における数字を、使っている側の方々の制度の見直しや改正あるいは実務の運用というものが円滑にいくというようなタイムスケジュールなども、そのときは考える必要があるという意味での留意点が、この21ページ、22ページです。
続きまして23ページからが納税義務者の数、割合ということに関する留意点です。先ほどのページで説明しましたように、現在はまず均等割が先にかかる。先にかかるということは結果として納税義務者が一番多いということに実際なっているのですが、この23ページの平成25年度、平成26年度辺りの数字を見ていただきますと、前回の資料でも説明しましたが、大体均等割は6,000万人程度の方に納税していただいています。一方、個人住民税の所得割は5,600万人前後で、所得税になりますと、この表に出てきませんが5,200万人前後というような納税義務者数になっていて、要は均等割の納税義務者数が一番多いということが現在の姿ですが、実は三位一体改革の改革を行っていた頃、個人住民税と所得税の役割分担をより明確化しつつ、三位一体改革を行おうとしていた平成15年度から平成18年度頃の動きとしまして、特に均等割に大きな影響があった改正ですが、いわゆる生計同一の妻についての非課税措置について廃止をするという改正がありました。
また、平成17年度改正では65歳以上の方で合計所得金額、これは人的控除等が効く前のベースですから、65歳以上の方々で言えば公的年金等控除をした後の所得金額ということですが、これが125万円以下の方についてはとにかく非課税というような制度がありました。結果として今よりも納税義務者数がかなり少なかったという時代があります。それを個人住民税の広く薄くできる限り多くの方に納めていただく応益課税的な税として、よりその性格を強めていこうという改革の中で、納税義務者数を増やしてきた。その後は景気変動等に応じた推移になっているという説明です。
その後の資料については、24ページは公的年金等受給者においても納税義務者数の絶対数は増えてきているということですが、これは高齢者の数そのものが増えているということがありますから、27ページに飛んでいただきますと、同じような四角い紫色ですが、65歳以上人口の中で65歳以上の公的年金等受給者である納税義務者の方々の割合というものは、先ほどの改正の結果、1割台であったものが3割近くに増えているのですが、この3割近くという数字は大きく最近変動していないという状況になっています。
このことは何を意味するかと言いますと、27ページの同じ表の上の方、給与所得者に関してというものが赤い線で説明していますが、これは統計の制約上、分母、分子が全く同じ母集団を捉え切れないですが、おおむね似たような幅の母集団を捉えて数字がとれていると思っていますが、赤い折れ線グラフで御覧いただきますと、納税義務者の割合は働き盛りと言いますか、働いている方が多い年齢層においては6割台ほどの方々が税を納める立場にある。これは均等割ですが、それに対して年金生活に入られた以降は、3割ほどの方々が税を納めているという現状にあるということです。
この6割台や3割というものを合わせますと6割弱ほどになるわけですが、29ページを御覧いただきますと、今後の年齢構成の変化という目で見ますと当然ですが、65歳以上人口の方々の総人口に占めるシェアと言いますか比率が高まっていくことが確実ですから、そのようなことを考えますと先ほどの大体総人口に占めるシェアという目で見ると、65歳以上の方々で言えば3割ほどの方が納税者であり、働いている世代で言えば6割強が納税者であるという、この傾向が変わらなかったとしても、人口構成が高齢者中心にシフトしていく中で、総人口に占める個人住民税の納税者の比率というものは必然的に下がらざるを得ないのではないかと予想しているところです。
そのようなことからも制度改正を通じて、それにまた輪をかけて納税者を大きく減らしていくという改革については、なかなか慎重に考えなければいけない面もあるのかなということが留意点という意味で申し上げているものです。
今のその他のページは関連する資料ですから、御参照いただければということで説明を飛ばさせていただきたいと思います。
30ページからがもう一点ですが、個人住民税の場合、どうしても地方税ですから、地域間の財政力格差と言いますか、税収の格差、偏在のことを考えざるを得ないという部分があります。
この偏在問題につきましては30ページがよく見る絵ですが、個人住民税は地方法人課税などに比べますと偏在度が低めの税であり、比例税率であることも含めまして、ベーシックな地方自治を支える税として非常に重要であるということをいつも説明していますが、その個人住民税でも人口一人当たり税収という指標で見ますと、最大の東京都と最小の沖縄県の間に、30ページにありますような2.7倍という格差があります。
この2.7倍というものは昔から2.7倍であったかと見ますと、少し飛んでいただいて33ページの右側ですが、平成18年度、これは三位一体改革が適用される前の年ですから、従前制度ですが、このときは最大、最小で言うと3.3倍の格差のある税制であったということが33ページの右側です。これが今2.7倍という、いわゆる偏在度が縮小してきている。その大きな理由の柱が3兆円の税源移譲を比例税率化の形で実施をしたからであるということでして、33ページの横、縦横が変わっているもので見にくいかもしれませんが、33ページの横グラフですが、これは税源移譲額の3兆円をほぼ取り出してきて、その3兆円を人口一人当たりで見ればどのような分布か、数字になるかということです。したがって、この目で見ると最大、最小2.2倍ということですから、元々3.3倍ほどの偏在差があった税制に、税源移譲で2.2倍という、それよりも偏在度の少ない形で税収を増やしつつ比例税率化するということを行った結果として、その後の税収の変化もありますが、現在は2.7倍という格差のように落ち着いてきているというものです。
以上のことから、今後の制度改正を考える際にも、偏在度が再度また大きく拡大していくようなことを避けながら制度改正を考えていきたいということが、地方税側の事情としてあるということです。
参考までに31ページと32ページは、予想通りの数字ではあるのですが、31ページは課税標準額が100万円以下の納税義務者、給与収入でいくと200万円から300万円以下の方々というイメージですが、その方々が納めている税がその都道府県における個人住民税の中でどのぐらいのシェアを占めているかという目で見ると、秋田県や、青森県、宮崎県などは25%を超えるような比率がある一方で、東京都は10%を切るということですから、課税最低限を100万円引き上げるというような制度改正は現実的ではもちろんないと思いますが、仮に課税最低限が100万円引き上がると、この方々が課税対象の外に出ていくことになって課税されなくなることになりますが、もちろん課税最低限の場合は全納税義務者に効きますから、それだけの問題ではないのですが、その方々が納税者でなくなるというインパクトだけでも、秋田県や宮崎県などでは税収が25%以上失われることに対して、東京であると9%ほどしか失われないというほどのインパクトの差があるというものです。
逆に32ページは1,000万円超のような課税標準額の大きい方、高額所得者の方々について、今よりも税を仮にですが多く負担していただくというような制度改正があった場合には、それによる税収増効果は32ページの絵にありますように東京都などにおいては非常に大きな効果がある一方、地方部においてはそれほどの税収増効果にならないという偏在度に与える影響もあるのではないか。この辺りは留意点ということですから、このようなことにも留意をしつつ、あるべき税制のあり方を所得税と個人住民税を通じた個人所得課税のあり方として考えていかなければいけないと思っているという説明です。
○中里会長
ありがとうございます。どちらからも非常に詳しい説明を頂戴しましたが、ただいまの説明について委員の皆様から質問や意見がありましたら発言を頂戴したいと思います。いかがでしょうか。では土居委員。
○土居委員
御説明どうもありがとうございました。
前回に引き続き、所得税制、個人所得課税における控除のあり方をどのように考えるかについて、非常に示唆深い資料であったと思います。
当然ながらこれから所得再分配機能を回復するなど、所得税制に求められている機能について、より効果を発揮させるためには控除をどのように設けるか。さらには誰に対して、どれだけの控除を与えるかということが重要になってくると思います。その上でもちろん高所得者に対する控除という話も先ほど来、議論がありましたが、全体として控除をまず最低限どれだけ設けるかということは、財務省の資料にも総務省の資料にもありましたように、課税最低限がどれぐらいになるかということとの見合いで控除の金額を決めていくということを考えざるを得ないと思います。
その上で所得税の方から課税最低限の問題を考えるとなると、様々な価値観と言いますか、どれぐらい平等を求めるかということによって変わってくることがあります。しかし、総務省の資料にありますように、個人住民税の非課税限度額というものは生活扶助の基準など様々ありますが、生活保護制度における基準額の設定との対比で非課税限度額が設けられているという現状があるということですから、この生活保護との関係で個人住民税の非課税限度額ないしは課税最低限というものをどれぐらいにするかということが、まず演繹的に決まってくるということがあって良いのではないか。
つまり、個人住民税の非課税限度額ないしは課税最低限というものがどれぐらいなのかということがまずあって、最初に総務省の資料の13ページにもありますように、まさに個人住民税の均等割がまず課され、それから、個人住民税の所得割が課されていく中で、より高い所得の方にはさらに累進課税である所得税を納めていただくというような段階を踏んで、課税最低限の金額というものが定まっていくということが基本にあるべきではないかと思います。
そのような意味ではその控除のあり方も当然、私は所得控除をより少なくして税額控除に変えていくべきであるという考えを持っていますが、税額控除を幾らにするかということの金額も、基本的には現行のまずは応益課税として地方自治体に対して均等割なり所得割の個人住民税を納めていただく。これは過去の政府税制調査会の報告書にも、答申にもありますように、所得税よりも課税最低限は低くて良いと思います。それとともに今日の総務省の資料にもありましたように、税源の地域的な偏在をより大きくしないようにするためにも、課税最低限はそれほど個人住民税については上げない方向で控除を見直すことを考えるべきではないかと思います。
ただし、その中で夫婦のみの課税最低限が低いということが財務省の資料などでも示されていて、夫婦のみの課税最低限についてもう少し夫婦、つまり夫婦になって子供をもうけるという、婚外子が少ないという我が国の現状を踏まえれば、夫婦に対する配慮というところがもっと踏み込んで税制で行われるべきではないかと思います。
加えて、ゼロ税率のことだけ一言申し上げて終わりたいと思いますが、ゼロ税率の話はなかなか今まで日本ではない仕組みですが、先ほどの財務省資料でも説明がありましたように、軽減効果という意味では税額控除と同じような効果があるということですが、一つ違いがあるのではないかということで指摘させていただきたいことは、税額控除というものは何らかの控除の根拠ないしは適用要件を満たさないと控除が適用されないということでして、しかるべき控除の要件を満たした人だけ税負担軽減効果が税額控除の場合は及ぶということですが、ゼロ税率の場合はどのような要件ないしはどのような所得を得ようが、その所得金額であればゼロ税率が適用された場合には、税額控除と同様の税負担軽減効果があるという、そのような意味では控除だけではなかなかきめ細かく税負担の軽減を低所得者に及ぼしていないということであるならば、ゼロ税率でその代替をするというような発想も考えられると思います。
○中里会長
高田委員どうぞ。
○高田委員
私も以前申し上げた点でもあるのですが、人が随分動く時代になったということもありまして、そのような意味でのグローバルな観点が非常に重要なのではないかというところです。
こちらの税制調査会につきましても、この二年間で対応してきたというものは、先ほど御説明がありましたBEPSについて、それから、法人税ということもあったわけですが、これらの改正のところもどちらも国際的な様々な意味での変化の時代に対応してということであったわけです。そのような観点からしますと、所得税に関しましても非常にグローバルな観点で、とりわけ高額所得者につきましては、限界税率が先ほどの資料の中でも一番高いというところを考えていきますと、この辺りのところをどのような形でグローバルに引きつけていくのか、場合によっては今後、そのような意味での税制で人が動くということ、場合によってはそれ以外にも移民ということも日本において労働力をどのように取り入れていくのかという発想もあります。従って、このような論点が一方で非常に重要な状況になってくる部分があるのではないかと思います。
そのような意味では、様々な点から比較をしていただいているわけですが、様々な制度設計のようなものもこのような形で見きわめていくことが重要になってくると思います。
そのような意味ではグローバルな観点はどちらかと言いますと、高額所得者の部分の中でいかに各国との競争の中、人々に引きつけ合うかという部分が大きいのですが、一方で格差というような昨今の議論を考えていきますと、社会保険料との一体でどのような改革を行っていくのかという、要は所得税のところも一体で考えていかざるを得ないわけでして、そのような中でこの格差があるような状況の中で逆進的な状況をどのように改善していくのかといったところが非常に重要ですから、この辺りのところを今後我々も考えていく必要があるのではないかと改めて感じた次第です。
○中里会長
井伊委員、どうぞ。
○井伊(雅)委員
しばらく出席していませんでしたから、既に指摘されたことや議論されたことがありましたらお許しください。
三点あります。
家族の姿や働き方が変化してきたということで、家族の果たしてきたセーフティネット機能が弱っているという指摘がありましたが、既にこのような問題に対応するために社会保障制度には、様々な軽減の仕組みなどがありまして、実際に全体で幾ら負担しているのかということが分かりにくい構造になっていると思います。例えば住民税を払っていなくても、国民健康保険の保険料を支払っている人たちがいるわけですが、国民健康保険の保険料には減免制度があります。このような例は様々ありまして、全体で幾ら負担しているのか分かりにくい構造になっているため、そのような減免制度なども整理して議論するべきではと思います。
二点目ですが、税制度についても、社会保障制度にしても全国共通の日本は皆保険制度ですから、制度を公平に構築して運営をする場合に事業所得者と給与所得者をどのように公平に扱うかという問題です。今回、すでに議論されたのかもしれませんが、やはり重要な論点です。事業所得の捕捉の問題、一方で今日も説明がありましたが、事業所得者にはない、かなり寛大な給与所得控除の扱いをどのようにするかという問題もあります。
三点目ですが、個人住民税の問題ですが、過去の経緯は今日も説明がありましたが、税率が全国一律10%ということは本当に地方税と言えるのかどうかということと、控除額が国税と微妙に違っていて、非常に税制全体が複雑になっていると思います。例えば前年課税であり続ける必要があるのか、国税と同様に現年課税にした方がすっきりするのではないか。そのような論点も考えていただければと思います。
○中里会長
吉川委員、どうぞ。
○吉川(洋)委員
ありがとうございます。二点あります。
一つ目は、たった今の井伊委員の御発言と重なるところがありますが、本日の説明を伺っていても、税制調査会でずっと言ってきた税の大原則、簡素という点から課題があるのではないかと思います。もちろん税ですから、税の世界で形式的には一つ閉じていて、社会保障はまた別の制度と言えばそれまでですが、今日の説明でも実際に個人の負担のところで、税負担と社会保険料の負担というものを合算してという話が説明の中にあったと思いますが、それは当然であって、個人の立場からすれば税であれ、社会保険料であれ負担は負担であるということになると思うのです。それを合わせると国税、地方税、さらに社会保険料ということになってくると、やはり井伊委員がおっしゃったとおり複雑の一言に尽きて、簡素という大原則の点から課題ありと思いました。この点についてもぜひとも改正の中で考えるべき点であると思います。これが第一点目です。
第二点目は特段強い意見はないのですが、地方の住民税の課税最低限の方が国税の所得税よりも低くて良いということの根拠が必ずしもよく分からないという気が私はしたのですが、それは応益性が強いということなのでしょうか。しかし、それはもしそうであるとすれば、それは想像力の問題で、国税を通して国がプロバイドするサービスというものも結局は当然のことですが、国民がそれによって益を得ている。例えばそのような教育投資がなければ、そもそも税制調査会も開けなかったであろう。そのようなことからしてもやはりひいては全ての国民が益するというわけですから、何か課税最低限に特段に大きなギャップを設ける理論的な根拠はどこにあるのかということが素朴な疑問としてあったのですが、どなたか専門の方から説明いただければと思います。
○中里会長
林特別委員がその辺りは良いのではないですか。
○林特別委員
私もよく分からないです。
まず簡単な質問をしたいと思います。財務省の資料で様々な国の比較や、社会保険料を入れた負担額の比較等々がありますが、これは地方税を入れた負担額ということでよろしいのでしょうかということが一点です。よく読むとそのように思えるような表現もあるため、そうであるとは思いますが、念のため確認させてください。
それと国際比較の場合も所得税を見るとき、例えばカナダなどは州も連邦もかけていますから、スウェーデンもそうであると思いますが、海外の場合も地方税も両方入れた数字になっているかという確認です。ただし、スウェーデンにつきましては地方税は入ってなくて、課税最低限が特段大きくなっているという説明があったため、そこがよく分からなかったから、これは質問です。
もう一つ質問があって、30ページの給付付き税額控除の例が幾つかあるのですが、ここの説明であたかも税制上の措置であるかという説明があったと思うのですが、基本的にここの制度というものは税法上で決めているのか、もしくはほかの社会保障関係の法規で決めているのかということをもう一回確認させていただきたいと思います。私の理解は税法の中で決められているものではないかという理解があるのですが、そのようであると税制になるのではないかと理解しています。この二つは質問です。
意見ですが、先ほどから控除の金額が国と地方が違うなどという話があったのですが、所得控除から税額控除に変えると、その辺りはすっきりするという気がします。税額控除をどれぐらい出すかということは実質的には国と地方の税源配分の話であると思いますから、このような観点からも所得控除の比率をできるだけ小さくして税額控除に持ってくことも良いと思っています。
○中里会長
どうぞ。
○住澤主税局税制第一課長
それでは、今、御質問いただいた点、二点あったかと思いますが、国の資料の方で個人所得課税の実効税率や、個人所得課税と社会保険料の自己負担率について示しているものは、個人所得課税と書いてあるところから詳しい説明を省略しましたが、これは所得税と個人住民税を合わせた概念でして、御指摘のとおりです。
国際比較編においも、個人所得課税ということですから基本的に地方税に当たるものも含めていまして、詳しくは例えば63ページの資料で申しますと注1というところがありまして、ここに地方のどのようなものを含めているかというところを書かせていただいているところです。
税制に関連する給付措置との国際比較、30ページについて御指摘いただきました。確かにここに並んでいます措置は、それぞれの国の内国歳入法典や、いわゆる税制の法律の中に書かれていますから、形式上で言うと税制上の措置ということもできるわけですが、説明しましたものは実質的な内容に着目していくと、そこの社会保障制度との関係のところに書いてありますように、公的扶助や児童手当などの代替物として設けられているという性格が強く、事実上、それらの制度と一体で議論されているということを説明したということです。
○中里会長
土居委員どうぞ。
○土居委員
吉川委員の御質問に少し私なりのイメージをお伝えしたいと思いますが、もちろん個人住民税にもう少し累進度があれば、つまり10%からいきなり課税されるのではなくて、より低い税率があれば必ずしも住民税から先ということでなくて、国も地方も課税最低限は同じであって良いと思いますが、個人住民税は所得割が10%から始まっていて、かつ、ここでは低所得者に対する配慮を税額控除なりでできるだけ配慮してはどうかという議論をしていると私は理解していまして、そのようにしますと課税最低限を国も地方も同じ金額になるということになりますと、当然いきなり国税も地方税もそれなりのパーセンテージで課税がされ始めることになると、低所得者に対する配慮というものがもう一段効かせられない。
そのようなことであればまずは国税の所得税を税額控除で、結局は税額がゼロになるという金額がより手厚くなされる。もちろんその分、複雑になってしまう、簡素ではなくなってしまうという問題はあるのですが、トレードオフですが、少なくともそのような形で国税の課税をもう少し高い所得の方からにすることを通じて低所得者に対する配慮がよりできるのではないかという考え方で、私は申し上げたということです。
○中里会長
佐藤委員、どうぞ。
○佐藤委員
恐らくこの税制調査会、ここまでの議論で全体として所得税の再分配機能を強化しなければならない。再分配の方向性としては子育て世帯や、これまで光の当たっていなかった若い勤労世帯で所得の低い方々に対し、より重点的な支援をしなければいけない。この方向感は多分大体同じ、共有していると思うのですが、これから多分議論になるものが三つあって、その一つは再分配と言いますか控除の方法。それが所得控除か税額控除かという手法の問題。二番目が今日何度か出ていますが、給付等の関係。三番目は地方税が絡み、社会保険料も絡みますが、ほかの制度との関係というところで多分これから議論していかなければならない点であると思います。
所得控除か税額控除かということは、学者の間では神学論争のようになっている節がありますが、この間も申し上げたとおり、諸外国は上手にそれを実務的にこなしていると思うのです。カナダが一番上手であると思うことは、いわゆる生活最低限と言われる所得についてはしっかりと定義しましょう。以前から所得控除があったからであると思うのですが、それに対して、それを別に一番高い税率から引くことはなくて、要は低い税率から引けば良いということになれば、実質的には税額控除と同じ効果を持つということになるわけであり、ドイツなどのゼロ税率よりはもう少しきめ細かい形で家族のいる世帯など、そうようなところにきめ細かい手当ができるということは、カナダの方のメリットであるとは思います。
ただし、繰り返しになりますが、思った以上に所得控除から税額控除に移行ということは案外、そのような哲学論争をしないでできることではないかと思っています。
給付と税の関係ですが、これは多分三つポイントがあって、一つは単に技術的な問題でして、給付というものは税務署でできるのかという話があるため、そのようであれば今までも簡素な給付措置であっても児童手当であっても市役所の窓口で行っているのだから、別に給付に係る部分はそのような形で税の執行部分と切り離しても良いのではないか。単なる技術的な問題です。
二つ目は多分イギリスがそのようであると思うのですが、課税要件が違うというケースで、税金が個人単位、課税が個人単位でも、給付が世帯収入をベースにして行う場合や、資産要件が入る場合となると、多分、税の枠の中で行うと話が難しくなるというところで若干違うと思います。
ただし、大事なことは税と給付の間に一定の連携があることであると思います。つまり例えば所得の定義一つとってみても、同じ所得の定義を使って課税もするし給付も行うことになりますし、我々経済学者がすごく気にすることは限界実効税率、今日紹介のあった実効税率ではなくて、先ほどから議論がありますとおり、様々な給付措置、社会保険料、税制、これらを全部含めた形で、働くことによってどれくらい負担が増えるのか。言い方を変えると、どれくらい給付が減ってしまうのかという、これ自体がいわゆる働く人のインセンティブに影響しますから、給付と税は違うと言うと、多分、給付は給付で勝手に何かそのような減額率が決まってきて、ふたをあけてみるととてつもない高い減額率、つまり限界実効税率が所得の低い層で生まれてくることになりますと、生活保護はその典型例ですが、そのようになると要は働く意欲を喚起するというこちらの意図、当初の課税の意図が発揮されませんし、給付の方向性が我々は今から勤労世帯や子育て世帯であると言っていることと全然違う方向に給付が行ってしまえば、そもそもの再分配の期待された効果というものもないということになりますから、厳密に言えば、現金給付と課税の間の連携をどのように維持するかであると思います。
三番目は地方税との関係。先ほどから議論がありますが、地方の個人住民税を割り切って考えれば地域社会の会費ですから、再分配というものはそこまで求められているものではない。先ほど課税最低限の議論が出ていますが、今の課税最低限というものは諸々の所得控除などを全部足し合わせた上で出てくるものですから、割り切って考えると幅広に所得を定義して、いわゆる所得控除前の幅広な経済価値としての所得を定義して、それをまず基本的には課税ベースとして位置付けて、ただしゼロ税率の適用でも良いですが、基礎控除部分というものがあるわけで、これが多分、課税ベースを幅広にしたい個人住民税の方は低めに設定する。再分配を働かせたい所得税は高めに設定する。実はスウェーデンがそのように行っているわけです。極端なケースですが、そのような形でのすみ分けということは良いと思います。
ただし、ここで議論している再分配機能というものはあくまでも所得税の世界ですから、個人住民税は個人的にはできるだけ幅広に、再分配機能は本当はありますが、幅広にするということを趣旨にした方が良いと思うということと、先ほど井伊委員や吉川委員からもありましたが、簡素性を考えると本当は所得の定義に関しては国税も地方税も実は社会保険料も同じであって、それに対して適用する税率構造や考慮すべき税額控除あるいは控除額というものはそれぞれの判断で違っても良いと思うのですが、できるだけシンプルにするという点でいけば、同じ所得情報に基づいて課税と給付が行われることが本当は良いのではと思いました。
○中里会長
増井委員、どうぞ。
○増井委員
財務省資料の61ページについて質問します。これは高田委員のおっしゃった社会保険料と税を一体で再分配効果を考えるということに関係します。また、佐藤委員の整理では三点目の特に社会保険との関係に係る質問です。
質問は61ページのグラフの含意が何かということです。私が読み取ったことは社会保険料控除があっても負担の逆進性は緩和されていない。つまり赤色のグラフは右肩下がりのため逆進的なままであるということを読み取りました。ここから先をどのように考えるかです。社会保険料のベース自体が逆進的なのであれば、それ自体が問題です。あと何をしても逆進的なままなのではないかという気がします。そこから将来の改革にどのようなインプリケーションを読み取るべきかという質問です。
○中里会長
住澤税制第一課長、お願いします。
○住澤主税局税制第一課長
61ページのグラフですが、この図の一つの意味としては、元々御指摘のように社会保険料の負担構造自体が最初は比例的な料率でいくわけですが、いずれ頭打ちが設定されている保険料が多い。このような保険料の場合は頭打ちはありませんが、医療保険料等の場合は頭打ちが訪れるということで、負担率のカーブを描くとこの黒い線のように逆進的な負担構造に元々なっている。これをどのようにするべきかということについては、先日、厚生労働省をお招きしてのヒアリングの場で様々な議論があったわけです。そのような意味で社会保険制度の内包する問題であるというところは御指摘のとおりです。
他方、社会保険料控除があることによる効果は、社会保険料控除は所得控除として適用されていますから、控除による税負担の軽減額というものは、その方が直面している限界税率の水準によって異なる効き方をしてくることになります。そのようなこともありまして、社会保険料控除額を差し引いた実質支払保険料を年収で除した実質的な支払保険料の割合というものは、赤い線のグラフのような格好になっていまして、よく見ますと例えば黒い線の方がフラットな状態になっている領域においても、赤い線で示されている負担率は右下がりの曲線になっていまして、逆進的な傾向が少し強まるという効果が出ている。これは所得控除として社会保険料控除が行われていることの結果です。
政策的なインプリケーションについては私が申し上げるようなことではないと思いますから、また幅広く議論いただければと思います。
○中里会長
野坂委員、お願いします。
○野坂委員
前回に続いて詳細な分析、大変参考になりました。ありがとうございます。幾つか指摘したいと思います。
まず6ページに所得控除、税額控除の効果のグラフが出ています。日本の場合、所得控除一本やりになっているものをどのようにするかというものが私たち共通の問題意識であると思います。このグラフ、特に右側のグラフですが、曲線が急勾配になっていく。所得控除から、あるいは税額控除にシフトした場合にそのようなことをインプリケーションしているわけですが、そのような意味では所得再分配機能を考える上で、所得控除を減らして税額控除にするか、そのような方向性が大変効果的であるということが分かると思います。
一方で、我々は若い子育て世代にどのように光を当てるかということでありますから、ただグラフがこのような形で傾きが急になれば良いということではなくて、これに合わせて若者たちあるいは子育て世代に対して税制面からどのようにサポートするかということを管理していかなければいけないと思うのです。それが事務方の資料にも何カ所か出ていますが、組み合わせ方という表現が出てきています。この所得控除から税額控除にシフトを検討する上で、それにプラスして若者に光を当てる。そのような要素を加味した形でどのような組み合わせができるか、これを考えなければいけないと思います。
これに関連して二点質問があります。20ページに、かつて日本でも税額控除が障害者控除や老年者控除などで投入されていたが、それが所得控除方式に改正されたという歴史を紹介されていましたが、当時、税額控除方式から所得控除方式に戻した背景としてどのようなことがあったのか。これは一本化した方が良いということであったのかもしれませんが、その歴史についてどのような事情であったのか。また、税額控除方式を導入していた数年間、その効果については当時、何か問題点でも指摘されていたのかどうか、分かれば教えていただきたいと思います。
二点目の質問は、前回も出ていた消失控除。消失控除が日本でも導入を検討する余地があるかもしれないという意見が私も含めて何人かあったかと思いますが、本日の資料では諸外国の消失控除による所得の再分配機能や、様々な効果についての分析がなかったかと思いますが、これについては調べていらっしゃれば教えていただきたいし、次回以降でも結構ですが、示していただければと思います。
○中里会長
どうぞ。
○住澤主税局税制第一課長
まず20ページの障害者控除を初めとする、いわゆる特別な人的控除について一時期、社会政策的な控除であるということで、税額控除方式になっていた時期があるということを説明しました。それが所得控除方式に再度改正をされてきたいきさつというものは、必ずしも多くの文献が残っているわけではないため非常に情報は限られていますが、理由としては同じ人的控除の中で障害者控除については税額控除、他方でこの扶養控除等については所得控除ということで、二つの方式が乱立をしていることが制度として複雑化しているといったような指摘がありまして、そのような理由で改正されたものと承知しています。
それ以外にどのような問題点があったかということについては、多くの資料は残っていませんが、さらに精査しまして報告できることがあれば、次回報告したいと思います。
アメリカやイギリスの消失控除の場合の再分配効果ですが、これについては一定金額まで総所得が上昇しますと控除が低減して消失するという構造ですから、その辺りを織り込んだところで63ページ以降に示している個人所得課税の実効税率カーブを書いているわけです。この中に効果としては反映されているということです。
○中里会長
よろしいですか。
それでは、上西特別委員。
○上西特別委員
所得再分配機能の低下は事実の確認で、ほぼ明らかになってきています。今後は所得再分配機能を高める必要があります。そのときに最高税率に着目した見直しでは、累進度の強化というものは効果が少ないことが明らかであり、また、グローバル化の視点から見ても不適切と考えます。
そうしますと、最高税率の見直しよりも、まず所得控除の縮減が見直しの方向性となるのですが、常に縮減するだけではなくて、税額控除との代替の可能性を考えるべきであると思います。
そして6ページの資料にありますように、所得控除も確かに一定の効果があります。また、所得控除と税額控除については重なっているところもあります。しかし、比較すれば税額控除の方が課税最低限を上昇させ、低所得者層に対する税負担軽減効果が大きいことから、税額控除が常に検討対象になると思います。
ここで税額控除とゼロ税率は確かに効果の類似性があり、一方で、要件の有無などの相違点もありますが、所得控除には要件があるものもあります。例えば、扶養控除は要件が必要ですが、基礎控除は要件が不要です。そのようにしますと税額控除とゼロ税率の組み合わせのときには、要件が必要なものについては税額控除の方がなじむのではないでしょうか。そして、その税額控除は常に低減し、消失させることを考慮すべきです。
要件不要の基礎控除のようなものは、常に適用されるものでありますから、ゼロ税率の方がなじむのではないかと考えています。
○中里会長
基礎控除の場合に例えばドイツではゼロ税率で行っていることの背景には、もしかすると、一定の金額までは課税すると憲法違反になるということがあるのかもしれません。したがって税額控除になかなかこれを置きかえられない理由がきっとあったのかもしれません。この辺りはまた調べておいていただけますか。よろしくお願いします。
それでは、田近委員。
○田近委員
既に大変議論が出ていますが、重なることも少し覚悟して私なりの論点整理をさせてください。
かなり長い間、実像把握をしてきて、そこでの私の理解は非常に長引くデフレ、一方グローバル化した経済の中で低所得者層、若者、単身、その人たちに対してどのようにするか。そこは私もそうであると思います。
第二点は、触れてはきましたが、税率をどのようにするか。国の最高税率が45%で地方がプラス10%で55%。世界の比較をするまでもなく、これは十分高いと言いますか非常に高い率であると思います。これをどのようにするか。
第三点は、これは何回も出ていますが、地方の最低税率が10%、国が5%の中で実像把握に基づいて負担調整をしようとしたら、地方税を下げざるを得ないわけです。国は5%ですから、国、地方合わせた負担調整をどのようにするか。
第四点は、これも何回も出てくる実態把握に基づいた、あるいは今日非常に興味深い図も出てきましたが、社会保険料負担をどのようにするか。そのようなわけで実像把握に基づく再分配問題、それから、所得税の最高税率をどのように考えるか。地方が10%、国が5%の最低税率をどのようにするか。社会保険料はどのようにするか。それから、前回は稼得所得、賃金所得とキャピタルインカムに対してどのように税率をかけるか。それを含めて全体、漏れているかもしれませんが、そのような論点で議論してきた。
今日は稼得所得と資本所得の議論は脇に置いて、基本的には賃金所得をイメージしてどのようにするかですが、おおむね我々のコンセンサスはこの問題を所得控除プラス高い累進性を持った所得税で対応することは無理であろう。それに伴う困難が非常に多いということで税額控除なりゼロ税率の話が出ているのですが、所得控除で押し続けていこうとすると、先ほど質問があった消失控除を早い段階で入れていかなければいけない。したがって非常に低い段階から所得控除を効かせるような形の所得控除を行うならば別でしょうが、それができるのか。そのようであれば、先ほどの論点からいけば、低所得者の負担調整としてはゼロ税率か税額控除か、言葉のあやのような使い方ですが、言葉的には税額負担の方が分かりが良いかなと。
そのようにしますと、ここから私の論点ですが、課税ベースを広げて税額控除に持っていく。そのとき、非常に語弊があると思うのですが、我々は、最高税率をどのようにするかという議論は避けられないであろう。一方で我々は増税を行おうとしているわけではないのですから、高額所得者に対する対応をどのようにするか。高額所得者に対する対応を考えなくて良いほどの税額控除ならば、規模は物すごく小さい話になってしまう。したがって最高税率の話は避けられない。
社会保険料の問題も、これも悩ましい問題であると思いますが、一つ加えさせていただくと、ドイツの医療保険で延々と議論していることの一つは、社会保険料を所得比例とするか、定額でとするかという議論を延々としています。スイスの医療保険は実は定額としています。医療保険の考え方からすれば、病気になるリスクは所得が高いからなるわけではなくて、それは保険論的に言えば定額として、保険料の負担を所得の低い人に対しては調整すれば良い、その議論は延々とあるというわけで、それは簡単な議論ではないですが、青天井で所得が高くなってもどこまでも比例とし取り続けるということは、どこかでももちろんキャップを設けるでしょうが、議論は要すると思いました。
さらに、ここまで来ると今日多くの図を見せていただいて、45ページのこの図が非常に興味深かったのですが、間違えていたら住澤税制第一課長に訂正していただくとして、話をしたい。単身で右側ですが、個人所得と社会保険料を足す。オレンジ色が、要するに昭和61年、消費税を入れる前で実はこれは80年代を通じてずっと所得税改革をしてこなかった。いわゆるインフレが起きたが、課税ベースも直さなくて負担が高まって、そしていよいよそれを消費税で直していった。ずっと直していって、平成26年度分、27年度分が直近のようなのですが、やはりこれと1点鎖線のオレンジ色を見ると、低所得者の方が一気に上がっているわけです。昭和61年より上がるということは相当の負担増であるというイメージです。
上の方の負担を昭和61年の水準までにすれば良いという乱暴な議論はあり得ないわけで、したがって、社会保険料の問題はとにかく重要であるということが分かって、そのようにすると上の方の人の問題も指摘しましたが、社会保険料の問題は議論しなければいけませんが、なかなか税制調査会だけでこの問題を議論することは難しい。支出のことを同時に議論しなければいけないし、その一部は消費税を充てると言っているわけですから、曖昧に論点を指摘するだけで無責任ですが、社会保険料の問題は非常に重要な問題であるということは認識できますが、どのように議論するか。これは少し頭を冷やして考えなければいけないと思いました。
○中里会長
岡村委員、お願いします。
○岡村委員
三点申し上げたいと思います。
まず第一が一番大きなことですが、これまで再分配という言葉が何度も使われてきたと思うのですが、それは一体どのような指標に基づいて、何を再分配することが理想的な姿なのか。私たちが議論していることは、あくまでも所得という指標を使って所得を再分配することに過ぎないわけですから、もう少し大きな広いスケールで考えてみる必要があるかと思います。
実際、社会保障の場合には所得だけではなくて、これは指摘もあったとおり資産の有無も見ているということです。そして、若い人に光を当てるということを考えてくると、例えば貧困の再生産あるいは格差の拡大といったことがないようにする必要がありまして、機会の平等と結果の平等ということが言われてきていますが、機会の平等を確保する。生まれながらに不平等な状況にある人たちの状況を改善するといったことについて、もし所得税が何かできるのであれば、そのような方向を考えた方が良いのではないかと思います。
現在の議論は、結果としてのいわばwell-beingをなるべく均等にしましょうということになると思います。たとえばジニ係数は、結果だけを捉えています。しかし、社会の構成ということから考えれば、そこに表れないような考慮すべきものがあると思います。
第二点目にいきますが、これは単に抽象論だけではなくて、もし所得を一つの指標として考えるならば、もう少し厳密化をして、所得概念の話になるかもしれませんが、何が所得であるかということをしっかり詰めた方が良いのではないかと思います。現在のところは合計所得金額の計算前のところにある控除、すなわち、給与所得控除を初めとするものですが、これをよく吟味して、性質によっては合計所得金額後のところに持ってくる、あるいはさらに、税額控除の計算ないしはゼロ税率の範囲に織り込むという議論の方向になっているかと思います。
加えて、費用または原価として性質があるものはどのようなものかということを少し詰めて考えた方が良いのではないかと思います。前回の議論では、大田委員からなるべく概算控除的なものは減らして、実額の控除に移した方が良いのではないかという議論がありました、そのようなことです。あるいは先ほど社会保険料をどのように負担すべきかといった議論がありました。確かにこれが一種の税であると考えれば、そもそも社会保険料は逆進的であるという認識になるのかもしれませんが、しかし、田近委員からも議論がありましたように、医療保険などそうではないかもしれないし、もしかすると年金なども一種の貯蓄的な要素があるかもしれない。そのようにすると、そこで逆進的なものであると認識することは、間違っているとは思いませんが、それは一つの見方であるというように考えます。
以上が第二点目、つまり所得における控除項目をもう少し厳密に考えた方が良いということです。
第三番目が、そのようにすると特に9月25日の厚生労働省から説明に来ていただいたときに、両者の認識の間にかなりコンフリクトがあるかもしれないということ。これは特に佐藤委員が様々指摘になったところですが、そのような点で給付をするということと、徴税をするということとは大きな違いがあるということも再確認しておいた方が良いと思います。特に課税最低限の議論において、その意義については金子宏名誉教授の教科書を今日引いていただいていますが、しかし、同時に金子名誉教授は別のところでは、少額不追求といった趣旨もあるということも書かれています。
つまり課税庁としては少なくとも38万円、給与所得者については103万円未満の所得については、それがどのようになっているかということ、つまりその人の所得が5万円なのか10万円なのか20万円なのかということまでは、今のところは追求していないということであると思うのです。そうすると、それ未満の数字を何かの給付の根拠とするといったことについては、少額不追求を全面的に改める必要があって、それができるのか、あるいはそれが適切かなどといった議論は十分にする必要があります。
さらに、所得の金額が他の領域で使われている例というものも説明がありましたが、これはもしもこれまでの課税最低限未満のところをそのようなものに使ってくるとか、あるいは仮にゼロ税率を入れたとして、最初の1円から所得の金額というものが出てきますということになると、そこのところの執行上の負担がどのようになるのか、あるいは税額控除の場合でも同じことになるかもしれませんが、そのようなことを少し考えた次第です。
○中里会長
確かに税務署は所得の低い人の情報を手に入れる手段を持っていませんから、なかなかそれは難しい話です。
それでは、佐藤委員。
○佐藤委員
今の話がまさにそうであると思うのですが、実は給付と課税の連携を考えるときに、もちろん1万円、2万円の所得を捕捉しろとは言いませんが、さすがに50万円、60万円の所得、つまり課税最低限以下の人たちに対してもある程度の所得の捕捉というものは求められると思います。そのようにしないと、簡素な給付措置一つとってみても、非課税世帯に対して一律6,000円配っているだけですから、本当は6,000円以上必要な人もいれば、6,000円も要らない人もいるわけです。そうすると非課税世帯の人たちに対してもう少しきめ細かい手当、給付を行うためには、実はまさに低い所得の情報が必要です。我々は所得の捕捉というと金持ちの情報を捕捉することばかり考えますが、実は給付のために所得の低い人たちの所得をどのように捕捉するかということは、マイナンバーがどこまで使えるか分かりませんが、それも含めて考えないといけないことであると思います。
もう一つ、先ほどから出ている社会保険料ですが、実は我々は社会保険料の問題は避けられないと思うのです。先ほど田近委員から様々議論がありましたが、社会保険料を一言で言えば何度も言いますがコウモリでありまして、一方では税金という顔と、一方では保険料という顔があって、しかし実際問題として医療保険については半分は拠出金などで賄われているわけですから、医療保険は言ってしまえば半分は税金であって、半分は自分たちがもしかしたら利益よりも保険かもしれない。それをある程度すみ分けたものが多分、フランスの一般社会税であると思うのですが、その辺り、社会保険料の税としての性格の部分というものを本当は税制調査会としても少し考慮するべきことかなということが二点目です。
三点目は地方税で悩ましいと思うことは、人口構成が変わるといずれにしても均等割を含めて個人住民税の税収が落ちていくということは事実ですから、だからこそ、もちろんある程度財源確保、税収確保のための努力は不可欠なのですが、だからこそ特に市町村に関しては個人住民税とあわせて、固定資産税の方を充実しないとこれから大変なことになると思いました。
○中里会長
高田委員、どうぞ。
○高田委員
少しつけ加える感じなのですが、今日は個人の様々な意味での負担の議論をしているわけですが、個人という観点から言えば様々議論すると地方税もありますし社会保険もあるわけなのですが、本当はもう一つ重要なものは消費税の問題なのであろうと思うのです。今後消費税率が上がっていくという状況の中で、特に消費税の場合どうしても逆進性があるわけですから、再配分を考える上で、それに伴って今後消費税の体系をどのように考えていくかという方向性、視点も結構重要なところではないか。そのような意味では今回もこのペーパーの中にも給付付き税額控除等の議論等もありましたが、このような議論も一つの重要な柱として考えておくことが今後の視点ではないかと思いました。
○中里会長
土居委員、お願いします。
○土居委員
地方の市町村の事務のことも考えますと、結局、今は介護保険、もちろんこれは都道府県化されることになりますが、国民健康保険があって、かつ、そこで保険料を徴収しているということで特に先ほどの総務省の資料にもありましたが、所得税制ないしは個人住民税の課税の金額と連動した形で保険料を徴収するという仕組みに今なっているということです。
確かに税制調査会は社会保障のことについて直接タッチする場ではないということは重々承知していますが、そうは言いましても、これまでも厚生労働省の方にもプレゼンしていだきましたが、少なくとも税制の仕組みを使って社会保険料を計算するというところについては連動していると思いますし、むしろ税制調査会としてしかるべき意見を言っても良いのではないか。つまり税制の仕組みと連動して社会保険料の金額は決まってくるというところまでは、別にそれをしてはいけないとは全然思いませんが、連動させるならば、そのときにはもちろんこれまでにもほかの委員の方がおっしゃったような簡素な形で連動させて欲しい、ないしは控除の意味をわきまえた上で課税所得という定義を使うのか、合計所得金額という定義を使うのか、税制上に存在する定義の意味をしっかりと社会保障の仕組みでも意味ある形で反映してもらうというようなところは、もう少し踏み込んでいかないと、なかなか社会保障の議論の場からどの所得の定義を使って社会保険料負担を求めるかという議論は、私の印象で言うと湧き上がってこない。極端に言えば社会保障を専門にしている議論の場は必ずしも税制には詳しくない方、ないしは税制に興味のない方が特に議論している場合もあって、所得の定義のところになかなか議論が及ばない。そのような意味で言うと税制調査会という場でしかなかなか所得税制ないしは、さらには所得の定義について厳密に議論する場がなくて、かつ、それがある種部分的に社会保障の制度でも使われているということであれば、そこはむしろ税制調査会の場からどのような形で所得の定義があるのか、ないしは社会保険料の負担のあり方も併せて議論を提起する必要があるのではないかと思います。
○中里会長
批判ではなくて建設的な提言をということですね。
田中特別委員、お願いします。
○田中特別委員
基本的に今まで話をしていたとおり、まず若い人に光を当てようということであったり、女性の社会進出に対して壁にならないようなことをどのようにしたら良いかということを議論していましたし、それを推進していただきたいと考えています。税額控除も含めて一番良い案を出していただきたいと思うのですが、今日お話のあった再分配はどのようにするかや、全体に日本の財源とサービスをどのようにするかなどといったことは、とてもこの資料を見ると大変な問題であると思いました。
例えば今、前回お聞きした日本の国民負担率が他国に比べてどうかと言われたときに、サービスは多いが、負担率は低いと言われました。これが77ページ。では日本の所得課税の実効税率は国際比較してどうかというものが12ページにあるのですが、これを見ると必ずしも低くはない。ところが、63ページの給与収入2,000万円以下のグラフを見ると、日本はまだ低いという話があって、全体的にどのように考えていったら良いかということを確認する必要があると思いました。
今ある所得の中で再分配をどのようにするかという話も、それに対して光を当てるところはどのようにするかという形と同時に、全体をどのようにするのかということ考えないと難しいと。それは同様に社会保障費用についてもそのようであると思うのです。社会保障費用の給付とサービスを見直そうということからどのような切り口ができてくるのか。このままのサービスを続けていって、その負担をどこに回していくのかということについて考えることであれば、その税制も一体となった話になってきているわけですから、社会保障についてもしっかりと考えていかなければいけないと思います。
○中里会長
ありがとうございます。
それでは、山田特別委員、お願いします。
○山田特別委員
若者たちが元気になれるように、かつ、消費税の税率も上がっている現状からして、その二点からだけでも課税最低限を思い切って上げるという意見に私も賛成です。
その中で今日、総務省の説明の中で、地方財源に対する影響を斟酌、慮っていただかないと、地域間格差がさらに拡大するおそれがある、または安定財源であるところの住民税収に大きな影響を及ぼすため、そこも配慮をいただきたいという説明であったと思いますが、その点、はっと気づかされました。ありがとうございました。
次ですが、所得控除がそぐわなくなっているのではないかと、私も感じています。基礎控除も配偶者控除も扶養控除も高額所得者の方に実額としてはメリットが大きいということから今の侭でよいとは思えないのです。エンゲル係数が下がっていくという事実からしても、人間が生きていくお金というものは累増していかなければならないということはないと思いますから、高額所得者、高い累進税率効果の大きな高額所得者においてメリットの大きい所得控除という制度は時代にそぐわなくなっているような気がして、これは見直す必要ありと思いました。
ところで、小規模企業共済等掛金という制度がありまして、これは所得控除対象でして、多分対象になる方はそんなにたくさんいらっしゃらない訳ですが、半分は税金がカバーしてくれて貯金になっている感じにありまして、個人としてはメリットを感じますが、今の制度の侭で良いのであろうかと感じています。
それから、累進税率の構造を歴史的に見ると、最高税率93%という時代がありました。増加した所得のほとんどが税金となってしまうという時代がそんな大昔ではないわけでして、そのころにできたり充実されたりした制度が所得控除であったり、給与所得控除であったりした訳です。あの時代からしますと今、最高税率が地方税まで入れて55%に落ちている。これに合わせてもう一回ゼロベースで検討する必要があるものが各種の所得控除制度なのであろうと思います。その観点から言いますと、ゼロ税率制度や税額控除制度などは魅力的であると思いました。
ただし、最高税率が一旦は50%となったのですが、つい数年前に5%上がり現在は55%になっています。このことは高額所得者は良くないというような感じで上がった5%のような気がしていまして、頑張って高い所得を得た人にもっと頑張ってくれという、その流れに水を差さない方が良いような気がするので、慎重に検討していただきたい。そして現在の国の財政状態から、国民全体での負担をお願いせざるを得ない、人数が少ない高額所得者だけに負担を求めても、税収規模としてはさして大きくならないので、中堅所得層の方々にもぜひ協力をとお願いする改正と言いますか、それが筋なのではないかと感じました。
○中里会長
それでは、大田委員、お願いします。
○大田委員
情報量がすごく多くて、ここから何を組み取るのか呆然としていたのですが、簡単に二点。
所得控除は今、山田特別委員も言われたゼロベースで見直すということ。それから、対象は年齢や世帯属性で切るのではなくて、困っている人を困っていない人が助けるという原点に返れば、ここで思い切って基礎控除に集約する。そのうえで例えば少子化対策で子育てに何らかのインセンティブを付けるということはあると思いますが、思い切って基礎控除に集約する。
問題は、そのときどのような手法をとれば一番効果的に低所得層への配慮がいくかというと、私はやはりゼロ税率もしくは税額控除であろうと思います。
二点目ですが、社会保障の給付と負担にどのように課税するか。これを税制上どのように扱うかということは、国によって様々であるということが今日の資料の示すところであろうと思います。それぞれの国がどのようにすれば良いかを考えている。したがって私は日本もこれだけ急速に高齢化が進み、なおかつ社会保障を巡って世代間の不公平が非常に大きいというところから、負担と給付の税制上の扱いを考えれば良いと思います。
負担については様々な意見が出て、私も今その答えがないのですが、少なくとも給付に関しては、他の所得と合算して課税するという原点が望ましいと思います。
○中里会長
ほかにいかがでしょうか。上西特別委員、どうぞ。
○上西特別委員
所得控除の見直し、そして税額控除化の検討、そして、それぞれについて低減、消失控除を検討してはどうか。また、ゼロ税率も導入検討をすべきであると申し上げたのですが、納税者の大半が給与所得者であり、給与所得者の大多数は確定申告を必要とせず、年末調整によって税額の精算が行われて確定しているわけです。そのような税額の確定手続の面から見ますと、源泉徴収制度、そして最終的な年末調整制度は給与所得者の税額確定手続を簡素化すると同時に、課税庁の行政コストの大幅な削減にも寄与している面があります。したがって所得控除、税額控除、そして、低減、消失控除、ゼロ税率とそれぞれ検討すべきものであることは必要であると思うのですが、結果、複雑になり過ぎますと社会的コストが増大し、実務がもたないという面もあります。したがって、方向性、理念としては正しくても実務がどの程度負担増になるのか。また、大田委員がおっしゃいましたように簡素化も必要で、併せて集約できるものは集約した方が良いということも、重ねて議論していくべきではないかと思います。
○中里会長
何か特定の手段について、現場の感覚から言って不安があるということをお感じになっていらっしゃるわけですか。
○上西特別委員
例えば所得控除の一部が税額控除になり、所得控除と税額控除の一部が低減し、最終的に消失し、また一定のものについてゼロ税率の中に集約されるとしましょう。中小・小規模事業者の中にはいまだに手計算で行っている会社があります。年末の多忙な時期に年末調整等の追加的な事務を行っているわけです。したがって、そのようなマンパワー的なものも含めて検討しないと、良いものを作ったが対応できない一定の者がいては困るわけですので、余り複雑になり過ぎてはいけない。多少複雑になっても良いかというと、できることならばより簡素化に今回はかじを切った方が良いと思っています。
○中里会長
ほかにいかがでしょうか。佐藤委員、どうぞ。
○佐藤委員
全体として簡素化は大事であると思います。だから今、我々は一生懸命税額控除の話をしていますが、それがあります。しかし所得控除も小さくなっても残りましたとなると、ますます控除の項目が増えるだけですから、それは我々としては避けるべきであって、本当はイギリスのようなユニバーサルクレジットが一番楽かなと思うのですが、あそこまで一足飛びにいかなくても、先ほど大田委員からも話があったように、全体としては少し控除を集約化させる。それを基礎控除という形にするか、例の家族控除という形にするか、あるいは勤労税額控除にするか、様々議論はあると思うのですが、少し控除の中身は整理するという方向でいって良いのではないかと思います。
少し気になってきたことは、先ほど課税最低限というものをどう位置付けるかというときに、実は今日二つの意見があったと思うのです。一つは最初土居委員からあった生活保護との見合いであったと思うのです。もう一つは岡村委員からあった実務的な観点から見て、所得を捕捉することが大変であるという観点。これは整合的ではないのです。我々としては再分配機能の強化と言っているわけですから、本来であればそれに資した所得の捕捉をしなければいけない。もちろんお金がかかるのは分かりますし、税務執行上、大変であるということは分かりますが、それを優先してしまうと再分配機能、生活保護水準との関係で見ると違うのではないかという議論になる。
少し確認しなければいけないことは、ここでは税収中立を前提にしています。したがって、実は給付は別という話をしてしまうと、我々は大増税の話をしていることになってしまう。つまり一方では所得控除を縮減すると言っているわけですから、税額控除は給付でカバーするという、そこの取るところだけ見てしまうと増税をしていることになる。そうではない。納めていただくところもあるが、しっかりと配るところは配る。再分配するところは再分配するという、これが一体ですから、どちらに転んでも私たちとしては税の問題と給付の問題は同時並行的に考えなければいけないという制約の中に実はいるということであると思います。
○中里会長
税収中立ですから、それは大丈夫です。
田近委員、どうぞ。
○田近委員
まさに今の点ですが、ここで議論してきたように我々は実像把握の議論もしてきて、再分配のことをしっかり考えよう、若者に光を、あるいは女性の働く環境を整えるということですが、要するにゼロ税率にせよ、税額控除にせよ、次に問題になってくることは要するに税金を納めるに至っていない人たちの所得の実態がどのようになっているかという問題が出てくると思うのです。ある意味で税額控除で給付まで行ってしまうと、かなりそれは切実な問題である。実はあるところで、韓国の給与所得税額控除、Earned Income Tax Creditを自分が創設したという人に話を聞いて、彼が言っていたことは、これでもって低所得者のまさに実像が分かってきた。どのような所得を得ているかということが分かってきたと彼は言っていたが、我々は若い人に光をと同時に、税金を納めるに至ってない人たちの実像をどのように把握しているかという問題が出てくる。それを給付付きという言葉を私は余り使わないのですが、ネットで給付的なものまであげる、税額控除を仕組まない中で、つまり負担をゼロまででとめてしまう中で、要するに税を負担しない人たちの実態をどのように把握するかということは次の問題と言いますか、同時に考えないといけない問題であると思います。
○中里会長
その人たちを救済する意味でもということですね。
○田近委員
まさに、だからこそその人たちを救済するためにも、ある意味で本来救済しなくても良い人たちが混じることは避けなければいけないわけです。救済するためにも実像をどのように把握するかということが大きな問題になると思います。
○中里会長
それでは、梅澤特別委員、お願いします。
○梅澤特別委員
今、税収中立というお話がありましたが、これはどのような範囲で言っているのか大変大事であると思います。
私がお願いしたいことは、長期で給付も含めて中立になるということを目指しましょうという気持ちで取り組むべきではないでしょうか。これは消費税のときの議論も、それから、法人税のときの議論も多分同じであると思うのですが、短期でその税目の中での中立を目指したら、大した仕事はできないと思います。
二点目、何人かの方からお話がありました簡素についてです。私も再度強くお願いしたいと思います。迷ったときは簡単な方を選ぶ。理屈の美しさよりも、分かりやすさ、簡素を選ぶというぐらいの基準で進めていったらどうかと思います。
三点目、その中で少数の社会に対しての強いメッセージを出し、そのメッセージをサポートする仕掛けを埋め込みたい。具体的には、その1、出産・子育て。念のため申し上げますが、配偶者控除の代わりに婚姻手当をという自民党からの提案もたしか出ていたように思います。我々も去年議論をした五つのオプションの中の一つでした。あれは正しいメッセージではないと思っています。子供を産んで育ててくださいということであれば、そこにダイレクトに当たるような手当をすべきであって、一歩手前の婚姻というところに手当を出すということは直接的ではないため、なるべくダイレクトに仕掛けを埋め込みたい。
二点目、必要なことは明らかに労働参加率を高め、それから、特に103万円、130万円のようなところでストップをしてしまっている方々も、もっと深く社会参加をしていただくというところに刺さるような仕掛けが必要であると思います。
三点目、私が加えるべきであると思っていることは教育、職業訓練です。これはより長い期間、国民全員が働いていかなければいけないことを考え、かつ、ニートや生活保護などになってしまっているような方々も労働力に復帰をしてほしいということが社会的なニーズですから、そこのところに強いメッセージと仕掛けを埋め込むべきであると考えています。
○中里会長
確かに御本人のためにも、社会のためにもヒューマンキャピタルフォーメーションに資するようにということはとても重要です。
それでは、林特別委員、お願いします。
○林特別委員
税収中立の話が出てきたのですが、税収中立のもとで、現行の税制を変えてどのようなことを行えるかということで。今まで出てきたお話で、出産、子育て、再分配とありますが、再分配の意味は広いためどのように捉えられているか分かりませんが、一般的に重視されていることは貧困対策で、貧困の連鎖を断ち切るように、もしくは働ける人はできるだけ労働させるような税制に、ということかと思います。
ただしよく考えると、税収中立で行って、所得税を簡素化して分かりやすくして所得控除か税額控除ということは私も良いと思うのですが、給付付きの税額控除が不可能であるならば、貧困対策には全く効果はないと思います。なぜなら、そもそも税金を負担していない人たちですから。この点をどのように考えるか。そこは割り切って、出産、子育て対策にと既に税金を納めている人たちだけに恩恵をもたらすようにと割り切るのであったらそれで仕方がないと思います。ただし、そのような税制は貧困の連鎖を断ち切ったり、貧しい世帯への再分配政策としては私は全く効果がないと思います。その辺りの税収中立という非常に厳しい財源の下でどこに割り切って行うかということは非常に重要で、余り八方美人にしてしまうと出てきて結局何もできないよということにもならないかなと少し心配しています。
○中里会長
土居委員、お願いします。
○土居委員
梅澤特別委員のおっしゃったことの大半に私は賛成なのですが、一点気になったことは、長期で見ても税収中立というものはあり得ないのではないか。つまり税収中立はある一時点の所得税制の中なら所得税制の中での税収中立ということで考えるということですが、経済成長するなり、女性がよりもっと働くことによって所得が増えれば、累進構造がありますから、その分だけ税収が増えるということは当然含み込んだ上での税収中立という意味なのではないかと私は思っています。
○梅澤特別委員
その意味で申し上げました。
○中里会長
専門家ですから間違いないと思います。ありがとうございます。
よろしいでしょうか。本日は所得再分配機能の回復という視点を念頭に置きつつ、所得税の税率構造や控除のあり方等について議論を行ってきました。その中で所得再分配機能の回復の観点から、所得控除方式を採用している様々な控除のあり方について、諸外国の制度も参考にしながら幅広く検討していく必要があるのではないかといった意見をいただいたと考えています。
次回ですが、働き方の多様化やこれまでのセッションでも意見がありました、老後に備えるための自助努力への支援に関連する問題について議論した上で、これまでの個人所得課税セッションを踏まえたフリーディスカッションを引き続き行いたいと考えています。詳細につきましては事務局から改めて連絡します。
本日はお忙しいところ本当にありがとうございました。
[閉会]
(注)
本議事録は、毎回の審議後速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため、速記録に基づき、内閣府、財務省及び総務省において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、事後の修正の可能性があることをご承知おきください。
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