解説記事2017年01月09日 【SCOPE】 債権放棄の事実を認めるも、寄附金に該当で損金不算入(2017年1月9日号・№673)
審判所、放棄に至る経緯等から有効と判断
債権放棄の事実を認めるも、寄附金に該当で損金不算入
中国の子会社に対する売掛債権の放棄に関する損失の取扱いが問題となった裁決事例で、国税不服審判所は平成28年4月14日、債権放棄の事実があったと認定する一方で、債権放棄に関する損失は法人税法上の寄附金に該当すると判断した(広裁(法)平27第12号)。
本件では、貸倒損失が争われる事案については貸倒れとなったといえる事実があるか否か、その金銭債権を放棄したという場合にはその放棄が真意に基づく真実のものであるか否かという点がポイントとなった。今回の裁決事例は、中国の子会社に対する売掛債権の放棄に至る経緯等から債権放棄の必要性を認めたうえで、その売掛債権の放棄を有効と判断した点、実務の参考になりそうだ。
原処分庁、売掛債権の放棄を仮装と判断し重加算税を含む課税処分
法人が所有する金銭債権を貸倒損失として損金の額に算入するためには、①金銭債権の全部または一部が切り捨てられた場合、②金銭債権の全額が回収不能となった場合、③一定期間取引停止後返済がない場合等のいずれかに該当しなければならない(法基通9-6-1~3)。今回紹介する裁決事例で問題となったのは、国内法人である請求人が中国にある子会社に対して行った売掛債権の放棄に関する貸倒損失が「金銭債権の全部または一部が切り捨てられた場合」に該当するか否か(債権放棄の事実があったか否か)という点である。
衣料品等の製造・販売・輸出入等を営む請求人は、国内法人であるK社との共同出資により子会社を設立(請求人の出資比率は55%である)。請求人は、子会社に対して原材料である生地を有償で輸出し、この生地を請求人などの仕様書等に基づいて製品である被服に委託加工させたうえで、完成品価格で輸入する取引を行っていた。
ところが、中国のe市○○委員会(以下「本件委員会」)から工場の土地および建物を賃借していた子会社は、都市開発を理由に速やかに土地建物を明け渡すよう求める旨の通知を本件委員会から受けた。この通知を受け請求人は、都市開発を理由として撤退を要求されたことおよび市場の変化などの原因により、子会社の清算を開始する旨を決定し、薫事会(今号42頁参照)の決議で清算業務を行うための清算組を結成。請求人は、「請求人は売掛債権(約50万ドル)について子会社の支払能力等を考慮して放棄する」旨が記載された「放棄債権声明文」(以下「本件声明文」)を作成し、子会社に交付した(子会社は清算手続きを経て解散)。
請求人は、売掛債権(約50万ドル)を本件事業年度の貸倒損失として損金の額に算入
し法人税の確定申告を行った。これに対し原処分庁は、売掛債権の放棄は仮装されたものであるからその売掛債権相当額を損金に算入することはできないと判断し、法人税更正処分等および重加算税賦課決定処分を行った。
これを不服とした請求人は、原処分庁の認定には誤りがあるとして審査請求により更正処分等の一部の取消しを求めた。
売掛債権の放棄は請求人の真意に基づくもの 国税不服審判所は、請求人は子会社の工場を他所に移転し事業を継続することを検討したものの、移転費用を補うほどの採算が見込めない等の理由から賃借期間の満了に伴い子会社の事業を終了することにしたと認定。また、子会社を破産させると中国での請求人に対する信用を失い、関連会社を通じての事業継続が難しくなるとの理由から破産を申し立てることなく債務超過分は請求人が子会社に対して有する債権を放棄することによって子会社を清算することにしたと認定した。
以上の事実などを踏まえ審判所は、売掛債権の放棄に至る経緯等からすれば請求人は子会社を破産させることなく清算する必要から売掛債権の全額を放棄したと認めるのが自然であり、本件声明文にも作成日の遡及など不自然なところは認められないなどと指摘。売掛債権の放棄は請求人の真意に基づくものといえることから、本件声明文の交付をもって請求人は売掛債権を有効に放棄したと認定し、債権放棄の事実はないとした原処分庁の主張を斥けた。
審判所、中国子会社に対する債権放棄に経済的合理性は認められず
国外関連者への寄附金は全額が損金不算入 請求人の子会社は、措置法66条の4に規定する請求人の国外関連者に該当する。したがって債権放棄に関する損失が寄附金(法法37⑦)に該当すれば、その全額が損金に算入されないことになる。今回の裁決事例では、債権放棄に関する損失の寄附金該当性について請求人及び原処分庁は具体的な主張を行わなかったものの、国税不服審判所は次のような検討を行ったうえで寄附金に該当するという判断を示している。
国税不服審判所は、債権放棄に経済合理性がある場合には、これを単なる無償の供与であるということはできないからその供与した経済的利益は寄附金に該当しないと指摘。経済合理性の有無について審判所は、①被支援者は支援者と事業関連性のある子会社等であるか、②当該子会社等は経営危機に陥っているか、③支援者が損失負担を行う相当の理由があるかの各要素を総合して判断するのが合理的であるとした。
債務超過が相当期間継続した事実なし そして本件について審判所は、売掛債権の放棄時に子会社が経営危機に陥っていたとはいえないと指摘。また、子会社の事業継続が可能であったにもかかわらず同社の清算決定が行われたのは請求人の経営判断によるものであり、請求人が子会社の精算に伴う損失負担を行う相当の理由も認められないと指摘し、売掛債権の放棄に経済合理性があるということはできないとした。
さらに審判所は、子会社の債務超過が相当期間継続した事実がない点を指摘したうえで、売掛債権の放棄に関する損失額は法人税法上の寄附金の額に相当すると判断した。
債権放棄の事実を認めるも、寄附金に該当で損金不算入
中国の子会社に対する売掛債権の放棄に関する損失の取扱いが問題となった裁決事例で、国税不服審判所は平成28年4月14日、債権放棄の事実があったと認定する一方で、債権放棄に関する損失は法人税法上の寄附金に該当すると判断した(広裁(法)平27第12号)。
本件では、貸倒損失が争われる事案については貸倒れとなったといえる事実があるか否か、その金銭債権を放棄したという場合にはその放棄が真意に基づく真実のものであるか否かという点がポイントとなった。今回の裁決事例は、中国の子会社に対する売掛債権の放棄に至る経緯等から債権放棄の必要性を認めたうえで、その売掛債権の放棄を有効と判断した点、実務の参考になりそうだ。
原処分庁、売掛債権の放棄を仮装と判断し重加算税を含む課税処分
法人が所有する金銭債権を貸倒損失として損金の額に算入するためには、①金銭債権の全部または一部が切り捨てられた場合、②金銭債権の全額が回収不能となった場合、③一定期間取引停止後返済がない場合等のいずれかに該当しなければならない(法基通9-6-1~3)。今回紹介する裁決事例で問題となったのは、国内法人である請求人が中国にある子会社に対して行った売掛債権の放棄に関する貸倒損失が「金銭債権の全部または一部が切り捨てられた場合」に該当するか否か(債権放棄の事実があったか否か)という点である。
衣料品等の製造・販売・輸出入等を営む請求人は、国内法人であるK社との共同出資により子会社を設立(請求人の出資比率は55%である)。請求人は、子会社に対して原材料である生地を有償で輸出し、この生地を請求人などの仕様書等に基づいて製品である被服に委託加工させたうえで、完成品価格で輸入する取引を行っていた。
ところが、中国のe市○○委員会(以下「本件委員会」)から工場の土地および建物を賃借していた子会社は、都市開発を理由に速やかに土地建物を明け渡すよう求める旨の通知を本件委員会から受けた。この通知を受け請求人は、都市開発を理由として撤退を要求されたことおよび市場の変化などの原因により、子会社の清算を開始する旨を決定し、薫事会(今号42頁参照)の決議で清算業務を行うための清算組を結成。請求人は、「請求人は売掛債権(約50万ドル)について子会社の支払能力等を考慮して放棄する」旨が記載された「放棄債権声明文」(以下「本件声明文」)を作成し、子会社に交付した(子会社は清算手続きを経て解散)。
請求人は、売掛債権(約50万ドル)を本件事業年度の貸倒損失として損金の額に算入
し法人税の確定申告を行った。これに対し原処分庁は、売掛債権の放棄は仮装されたものであるからその売掛債権相当額を損金に算入することはできないと判断し、法人税更正処分等および重加算税賦課決定処分を行った。
これを不服とした請求人は、原処分庁の認定には誤りがあるとして審査請求により更正処分等の一部の取消しを求めた。
売掛債権の放棄は請求人の真意に基づくもの 国税不服審判所は、請求人は子会社の工場を他所に移転し事業を継続することを検討したものの、移転費用を補うほどの採算が見込めない等の理由から賃借期間の満了に伴い子会社の事業を終了することにしたと認定。また、子会社を破産させると中国での請求人に対する信用を失い、関連会社を通じての事業継続が難しくなるとの理由から破産を申し立てることなく債務超過分は請求人が子会社に対して有する債権を放棄することによって子会社を清算することにしたと認定した。
以上の事実などを踏まえ審判所は、売掛債権の放棄に至る経緯等からすれば請求人は子会社を破産させることなく清算する必要から売掛債権の全額を放棄したと認めるのが自然であり、本件声明文にも作成日の遡及など不自然なところは認められないなどと指摘。売掛債権の放棄は請求人の真意に基づくものといえることから、本件声明文の交付をもって請求人は売掛債権を有効に放棄したと認定し、債権放棄の事実はないとした原処分庁の主張を斥けた。
審判所、中国子会社に対する債権放棄に経済的合理性は認められず
国外関連者への寄附金は全額が損金不算入 請求人の子会社は、措置法66条の4に規定する請求人の国外関連者に該当する。したがって債権放棄に関する損失が寄附金(法法37⑦)に該当すれば、その全額が損金に算入されないことになる。今回の裁決事例では、債権放棄に関する損失の寄附金該当性について請求人及び原処分庁は具体的な主張を行わなかったものの、国税不服審判所は次のような検討を行ったうえで寄附金に該当するという判断を示している。
国税不服審判所は、債権放棄に経済合理性がある場合には、これを単なる無償の供与であるということはできないからその供与した経済的利益は寄附金に該当しないと指摘。経済合理性の有無について審判所は、①被支援者は支援者と事業関連性のある子会社等であるか、②当該子会社等は経営危機に陥っているか、③支援者が損失負担を行う相当の理由があるかの各要素を総合して判断するのが合理的であるとした。
債務超過が相当期間継続した事実なし そして本件について審判所は、売掛債権の放棄時に子会社が経営危機に陥っていたとはいえないと指摘。また、子会社の事業継続が可能であったにもかかわらず同社の清算決定が行われたのは請求人の経営判断によるものであり、請求人が子会社の精算に伴う損失負担を行う相当の理由も認められないと指摘し、売掛債権の放棄に経済合理性があるということはできないとした。
さらに審判所は、子会社の債務超過が相当期間継続した事実がない点を指摘したうえで、売掛債権の放棄に関する損失額は法人税法上の寄附金の額に相当すると判断した。
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