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解説記事2017年04月17日 【ニュース特集】 外国株式売却への課税と外国税額控除、国際課税めぐる税賠事件で判決(2017年4月17日号・№687)

ニュース特集
外国の法人税法の調査・助言義務の有無も問題に
外国株式売却への課税と外国税額控除、国際課税めぐる税賠事件で判決

 国際課税に関する実務が年々複雑さを増していくなか、顧問先法人が行った韓国法人株式の譲渡をめぐり、韓国課税当局から課税を受けた顧問先法人が税理士法人らに対して総額約30億円の損害賠償を請求していた税賠訴訟で、税理士法人側が勝訴する判決が下されていたことがわかった(東京地裁平成28年12月22日判決・民事第8部)。裁判所は、韓国法人株式(不動産関連株式)の譲渡所得が韓国で課税対象となったとしても、日本課税当局が国内源泉所得に該当して外国税額控除の適用対象とならないと判断した可能性が相当程度認められるなどと指摘。また、本件税務顧問契約は専ら日本の税法に関する税務代理等を対象とするもので外国における納税義務の有無に関する助言等をすべき義務はなかったなどと指摘し、原告である顧問先法人の請求を斥ける判決を下した(なお、顧問先法人は控訴を提起している)。

平成23年税制改正前の法人税法令等、日韓租税条約の適用関係が問題に
 本件の発端は、税理士法人と税務顧問契約を締結していた顧問先法人(内国法人)がその所有する韓国法人A社株式3万2,000株を約96億円で韓国法人であるB社に対して譲渡したことに始まる(事案の概要は次頁の図表1参照)。

 この取引に関する法人税申告で税理士法人は、平成19年3月期で約6億4,000万円(第1回及び第2回決済、契約変更による手数料支払いの際に徴収された源泉税)を当期の控除対象外国法人税額と記載する一方で、平成20年3月期では第3回決済により源泉徴収された源泉税約4億7,000万円を損金算入する処理を行っていた。なお、税理士法人は平成20年3月期の法人税申告の際に、翌期以降において外国税額控除の適用を受けようとする際に必要となる別表六(三)「外国税額の繰越控除余裕額又は繰越控除限度超過額等の計算に関する明細書」を添付していなかった。
 この平成20年3月期申告から約2年後に韓国課税当局は、顧問先法人によるA社株式売却について、A社の主な財産は韓国不動産であることから韓国法人税法93条7号及び日韓租税条約13条3項(下囲み参照)により韓国の国内源泉所得に該当すると判断して、顧問先法人に対し韓国法人税の申告納付を要請。顧問先法人は、約14億円の韓国法人税及び約8億8,000万円の不納付加算税を納付した。

>日韓租税条約13条3項(一部抜粋)
 ……一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の発行した株式の譲渡によって取得する収益に対しては、当該法人の財産が当該他方の締約国内に存在する不動産から主として構成される場合には、当該他方の締約国において租税を課することができる。

日本課税当局、嘆願及び更正の申出を認めず  税理士法人は日本課税当局に対して、平成19年3月期において韓国で納税義務が生じたことをもって、その外国法人税の額を顧問先法人の平成19年3月期における控除対象外国法人税額として約7億5,000万円の減額更正を賜りたい旨の嘆願書を提出。これに対し日本課税当局は、「外国法人税額控除制度は外国法人税額を納付することとなる事業年度において適用できるものであり、納付していない場合には適用できないこと、今から納税しても納付する事業年度において税額控除を受けることはできないこ」を説明したうえで、嘆願内容を適用することはできない旨を回答した。
 また、税理士法人は、平成20年3月期中に徴収された源泉税約4億7,000万円について損金算入処理に替えて外国税額控除を適用する旨の更正の申出を行ったものの、当初申告要件を満たしていないことを理由に日本課税当局は更正すべき理由がない旨を顧問先法人に通知した。
 顧問先法人は、税理士法人が平成20年3月期で外国税額控除の申告を怠るとともに韓国法人税の調査助言義務を怠ったことにより、外国税額控除適用による還付等を受けられなかったことによる損害(約4億7,000万円)及び翌期以降に受けられたであろう控除等を受けられなかったことによる損害(約14億6,000万円)並びに韓国における不申告加算税(約8億8,000万円)の損害を被ったと主張して、税理士法人に対して約30億円の損害賠償を請求する訴訟を提起した。
韓国不動産関連株式の譲渡は国外源泉所得か  裁判では税理士法人が税務代理に付随する調査・助言義務を怠ったと認められるか否かなどが争点となったが、韓国法人A社株式の譲渡所得が外国税額控除を適用する前提となる「国外源泉所得」に該当するか否かという点でも当事者間(顧問先法人及び税理士法人)で争いがあった。この点に関し顧問先法人は、平成20年3月期時点における課税実務では国外源泉所得に該当すると解すべきであるため、税理士法人が注意義務に違反したものであることは明らかであると主張。これに対し税理士法人は、国内源泉所得に該当するため、外国税額控除の適用対象とはならないなどと主張していた(主張内容は図表2参照)。

【図表2】韓国法人A社株式の譲渡所得が国外源泉所得に該当するか否かをめぐる当事者の主張
顧問先法人(原告) 税理士法人(被告)
 平成20年3月期の確定申告時点における税務実務であった裏返し説を前提に本件株式譲渡所得の国外源泉所得該当性を検討すると、裏返し説では、法令177条の該当条文をそれぞれ「外国法人→内国法人」、「国内→国外」などと置き換えて解釈するため、その要件は「契約その他に基づく引渡しの義務が生じた時の直前において株券が国外にあるものの譲渡により生ずる所得」(同条②二ハ)、「不動産関連法人(資産総額のうち国外にある不動産等の価額の合計額の占める割合が50%以上の法人)の株式の譲渡による所得(一定の少数株主による譲渡を除く)」(同条②五、187①四、八)となる。この解釈によれば、韓国法人A社の資産の50%以上は韓国所在の不動産で構成されていたため、本件株式譲渡は、外国の不動産関連法人(すなわち、資産総額のうち国外にある不動産等の価額の合計額の占める割合が50%以上の法人)の株式の譲渡に該当し、その譲渡から生ずる所得は国外源泉所得となる。  法令142条3項により法138条(国内源泉所得を定義)に該当すれば国内源泉所得であり、同条に該当しなければ国外源泉所得になると解すべきである。平成20年3月期の確定申告時点での税務解釈については、当時、韓国の不動産株式を日本法人が我が国で譲渡した場合には、仮に韓国で課税されたとしても我が国で外国税額控除を受けることが出来なかったこととなり、二重課税が生ずる状況であった。
 内国法人が国内営業所で有価証券に係る取引をした場合は、その譲渡による所得は国内源泉所得であり(法138、法令177②二ロ)、売買による引渡義務発生の時点で有価証券が国内にあればその譲渡による所得は国内源泉所得である(法138、法令177②二ハ)。本件株式について、原告(顧問先法人)が株券を国内で保管し、買主に国内で株券を引き渡したことについては争いがないため、本件株式譲渡所得は、国内源泉所得(法138、法令177②二ロ又はハに該当)となり、外国税額控除の適用対象とならない。
(編集部注:法人税法及び法人税法施行令は平成21年度税制改正前のものである)

地裁、日本課税当局が外税控除の対象外と判断した可能性が相当程度あり
 裁判所は、平成20年3月期の確定申告時において、韓国法人A社株式の譲渡所得が外国税額控除の要件を満たしていたか否かを検討。国外源泉所得を定める法令142条3項の解釈や日韓租税条約13条3項との関係については原告(顧問先法人)が主張する見解を含めて複数の解釈が存在したと認められるところ、本件株式譲渡契約の締結時においてA社株式が日本国内に存在したことは当事者間に争いがないことを指摘したうえで、還付請求に係る審査ないし調査が行われればこの事情が日本課税当局に明らかになることは相応の蓋然性をもって認めることができるため、本件株式譲渡所得は外国税額控除の適用の前提となる国外源泉所得には該当しないと判断され得たということができるとした(裁判所の判断内容は図表3参照)。

【図表3】平成20年3月期時点で日本課税当局が国外源泉所得との解釈を採用していたとは認められず(裁判所の判断内容)
・本件株式譲渡契約の締結時において本件株式(韓国法人A社株式)が日本国内に存在していたことから、課税当局が本件株式譲渡所得を「契約その他に基づく引渡しの義務が生じた時の直前において証券若しくは証書又は当該権利を証する書面が国内にあるもの」(旧法令177②二ハ)に該当するものと判断することで、外国税額控除の適用の前提となる国外源泉所得該当性が否定され得たということができること

・平成23年6月の税制改正(条約相手国等における課税に係る二重課税の排除等)に関する法人税法の基本通達(編注・16-3-10の2)において「租税条約により条約相手国等に課税が認められた所得の取扱い」として、「同項(編注・旧法令142④三)の国外源泉所得に係る所得に該当するものとされる所得には、例えば、租税条約の規定より条約相手国等において租税を課されることとされている不動産関連株式の譲渡に係る所得が該当する」旨が記載されていることからすれば、国税庁としては、当該税制改正前は国外法人の不動産関連株式を日本国内で譲渡した場合について、当該国と日本国とで二重課税が生じ得ることを前提としていたことがうかがわれること

・日韓租税条約においては、一方の締約国の居住者が他方の締約国による特定の所得に対する課税がされた場合、一方の締約国は、当該居住者に対する外国税額控除の適用に当たって、当該所得を他方の締約国内の源泉から生じたものとみなす旨の明文の規定がない(同条約23)から、同条約の定めを根拠として所得の源泉地を置き換えて外国税額控除を適用することができないため、韓国において課税された所得が我が国において国外源泉所得と解釈されるとは直ちにはいえないこと

 また、裁判所は、国税庁としては平成23年6月の税制改正前は国外法人の不動産関連株式を日本国内で譲渡した場合について、当該国と日本国とで二重課税が生じ得ることを前提としていたことがうかがわれると指摘。平成20年3月期の確定申告時において、本件株式譲渡所得が韓国において課税対象となったとしても、我が国において課税当局が国外源泉所得に該当するとの解釈を採っていたことを認めることはできないとした。
 以上の点などを踏まえ裁判所は、本件については税理士法人が顧問先法人の主張する税務代理における注意義務を尽くしたとしても、日本課税当局がA社株式の譲渡所得を国内源泉所得に該当して外国税額控除の適用対象とならないと判断した可能性が相当程度認められることから、顧問先法人が主張する注意義務違反と損害(外国税額控除に関する約19億円)の発生との間に相当因果関係を認めるに至らないと判断。外国税額控除に関する損害賠償請求を斥けた。

Column 平成23年度税制改正で当初申告要件を廃止、事後的な外国税額控除も可能に
 今回紹介した税賠訴訟では平成20年3月期の外国税額控除の適用が問題となっているが、当時の法人税法では確定申告書等に一定の書類を添付等した場合に限り外国税額控除を適用することができた(いわゆる当初申告要件である)。この点、平成23年度税制改正では、外国税額控除を始めとする法人税法に関する当初申告要件を廃止する改正が実施されている(平成23年12月以後に申告期限が到来する法人税について適用)。この改正により、当初の申告で外国税額控除の適用を選択していない場合であっても、更正請求書等に一定の書類等を添付することで事後的に外国税額控除が適用できることとされた。

本件税務顧問契約は国内税法の相談等が対象  また、顧問先法人が損害賠償を求めた韓国の不納付加算税(約8億8,000万円)について裁判所は、本件税務顧問契約は専ら日本の税法に関する税務相談等を対象とするものであり、外国における納税義務の有無に関して税務相談に応じ、あるいは助言等をすべき義務が本件税務顧問契約から直接税理士法人に求められる義務としても又は同契約に付随する義務としても生ずるものとはいえないと指摘。本件税務顧問契約において、税理士法人が顧問先法人に対して韓国において申告納税すべき義務が課されている可能性があることを指摘し、少なくとも税理士法人が韓国税理士に韓国における納税義務を確認したうえで納税義務がある場合には速やかに申告納税を行わなければ巨額の不申告加算税等が発生する可能性があることを説明・助言すべき法的義務を負っていたということはできないと判断。韓国の不納付加算税に関する損害に関し税理士法人に税務代理に付随する調査及び助言義務の違反があったと認めることはできないとしたうえで、顧問先法人の主張を斥けている。
 なお、地裁判決を不服とした顧問先法人は控訴を提起している。控訴審で顧問先法人は、平成20年3月期において税理士法人が外国税額控除を適用しなかったことによる損害について、改めて税理士法人に対して損害賠償を請求している。

【図表4】平成19年3月期の申告で外税控除認容も、平成20年3月期において国外源泉所得とする解釈 を日本課税当局が採用していたとは認められず
 裁判のなかで顧問先法人は、平成19年3月期の確定申告で外国税額控除の適用が認められたことなどから、日本課税当局が顧問先法人の主張する解釈(本件株式譲渡所得は国外源泉所得に該当する旨)を採用していたことは明らかである旨を主張していた。
 これに対し裁判所は、平成19年3月期は法人税の控除を内容とするものであるのに対し、平成20年3月期は既に納付した法人税の還付を内容とするものであるからこれらを同列に論じることはできないと指摘。平成19年3月期の確定申告で本件株式譲渡所得につき外国税額控除の適用が認められたことは平成20年3月期において日本課税当局が顧問先法人主張の解釈を採用していたことを直ちに導くものではないとした。

Column 国外源泉所得の具体的範囲、平成26年度税制改正で積極的に定義
 国際課税原則を総合主義から帰属主義へ見直すことなどを内容とした平成26年度税制改正のなかで、内国法人の外国税額控除について、国内源泉所得以外の所得とされていた国外源泉所得の範囲が積極的に定義される形式に改組されている(平成28年4月1日以後開始事業年度から適用)。
 具体的にみると、今回の税賠訴訟で問題となった国外法人の不動産関連法人株式については、国外源泉所得(国外にある資産の譲渡により生ずる所得として政令で定めるもの(法69④三))に該当するものとして、不動産関連法人株式(保有資産の総額のうちに国外にある土地等の合計額の占める割合が100分の50以上である法人の株式等(法令145の4②))の譲渡により生じる所得と規定された(法令145の4①五)。

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