解説記事2017年05月22日 【SCOPE】 滞在日数だけでは住所判断の決め手にならず(2017年5月22日号・№691)
6つのポイントを総合的に勘案
滞在日数だけでは住所判断の決め手にならず
税法上、「居住者」か「非居住者」のどちらに該当するか判断に迷うことはよくあるところであり、これまで多くの裁決や裁判で争われてきた。今回紹介する裁決事例も「非居住者」に該当するか否かが争点となったものだ(平成28年8月4日、東裁(諸)平28第11号)。国税不服審判所は最高裁判決を引用しつつ、住所の認定に関する滞在日数等の6つのポイントを示し、客観的諸事情を総合的に勘案して行うとの判断を示している。例えば、滞在日数はあくまでも住所を認定する1つのポイントにすぎないことになる。
最高裁判決を踏まえた住所の認定基準を示す
今回紹介する事案は、不動産投資及び管理業を営む請求人と取引をした土地の譲渡人が所得税法2条1項5号に規定する「非居住者」に該当するか否かが争われたもの。請求人は、土地等を購入した相手方は居住者であるため譲渡対価に対する源泉徴収義務はないと主張。一方原処分庁は、譲渡人は非居住者であり譲渡対価は国内源泉所得に該当し、請求人に源泉徴収義務があるとしたものである。
審判所は、所得税法上住所の定義規定はないため、同法における住所とは民法22条に定める住所の意義のとおり、各人の生活の本拠をいうものと解されると指摘(最高裁昭和29年10月20日大法廷判決)。そして、各人の生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり(最高裁昭和35年3月22日第三小法廷判決)、一定の場所がその者の住所であると認定するについては、その者の住所とする意思だけでは足りず、客観的に生活の本拠たる実態を具備していることを必要とするものと解すべきであるとした(最高裁昭和32年9月13日第二小法廷判決)。
その上で各人の住所の認定は、その者の国内外での①滞在日数、②生活場所及び同所での生活状況、③職業及び業務の内容・従事状況、④生計を一にする配偶者その他の親族の居住地、⑤資産の所在、⑥生活に関わる各種届出状況等の客観的諸事情を総合的に勘案して行うのが相当であるとした。
譲渡人の生活の本拠は中国と判断 実際の認定事実は表のとおりである。
審判所は、本件に関していえば「生活場所及び同所での生活状況」や「生計を一にする配偶者その他の親族の居住地」などは、生活の本拠であることをうかがわせる重要な事情であると評価できるとし、譲渡人の生活の本拠は身分証記載地である中国であったと判断するのが相当であるとした。
請求人は譲渡人の土地等の譲渡対価の支払日前1年間における滞在日数は中国よりも日本の方が多いなどと主張したが、それぞれの国の滞在日数の差は僅かであるとして、生活の本拠を判断する上で重要な事情と評価することはできないとしている。
滞在日数だけでは住所判断の決め手にならず
税法上、「居住者」か「非居住者」のどちらに該当するか判断に迷うことはよくあるところであり、これまで多くの裁決や裁判で争われてきた。今回紹介する裁決事例も「非居住者」に該当するか否かが争点となったものだ(平成28年8月4日、東裁(諸)平28第11号)。国税不服審判所は最高裁判決を引用しつつ、住所の認定に関する滞在日数等の6つのポイントを示し、客観的諸事情を総合的に勘案して行うとの判断を示している。例えば、滞在日数はあくまでも住所を認定する1つのポイントにすぎないことになる。
最高裁判決を踏まえた住所の認定基準を示す
今回紹介する事案は、不動産投資及び管理業を営む請求人と取引をした土地の譲渡人が所得税法2条1項5号に規定する「非居住者」に該当するか否かが争われたもの。請求人は、土地等を購入した相手方は居住者であるため譲渡対価に対する源泉徴収義務はないと主張。一方原処分庁は、譲渡人は非居住者であり譲渡対価は国内源泉所得に該当し、請求人に源泉徴収義務があるとしたものである。
審判所は、所得税法上住所の定義規定はないため、同法における住所とは民法22条に定める住所の意義のとおり、各人の生活の本拠をいうものと解されると指摘(最高裁昭和29年10月20日大法廷判決)。そして、各人の生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり(最高裁昭和35年3月22日第三小法廷判決)、一定の場所がその者の住所であると認定するについては、その者の住所とする意思だけでは足りず、客観的に生活の本拠たる実態を具備していることを必要とするものと解すべきであるとした(最高裁昭和32年9月13日第二小法廷判決)。
その上で各人の住所の認定は、その者の国内外での①滞在日数、②生活場所及び同所での生活状況、③職業及び業務の内容・従事状況、④生計を一にする配偶者その他の親族の居住地、⑤資産の所在、⑥生活に関わる各種届出状況等の客観的諸事情を総合的に勘案して行うのが相当であるとした。
譲渡人の生活の本拠は中国と判断 実際の認定事実は表のとおりである。
【表】住所の認定 |
住所の認定項目 | 認定事実 | 審判所の判断 |
滞在日数 | 譲渡人の日本における滞在日数は、土地等の譲渡対価の支払日である平成26年4月30日前1年間に174日であり、他方、当該期間における譲渡人の中国における滞在日数は191日である。 | 譲渡人の日本における滞在日数は中国における滞在日数を17日間下回っているが、その差は僅かである。 滞在日数は譲渡人の生活の本拠を判断する上で重要な事情と評価することはできない。 |
生活場所及び同所での生活状況 | 譲渡人は日本滞在時において、住民登録地(日本)の住所に起居していた事実は認められない。他方、中国滞在時においては、身分証記載地(中国)の住宅で家族と共に起居していたと認められる。 | 住民登録地(日本)は譲渡人の生活場所ではない。生活場所等については、身分証記載地(中国)が譲渡人の本拠であることをうかがわせる事情であると評価すべきである。 |
職業及び業務の内容・従事状況 | 譲渡人は日本の株式会社の代表取締役として、他方、中国親会社の監事として、日本と中国を不定期に往来しながら業務を行っていた。 | それぞれの国に常駐することが必要とされるものではないことからすると、職業等については生活の本拠を判断する上で重要な事情と評価することはできない。 |
生計を一にする配偶者その他の親族の居住地 | 譲渡人と生計を一にする配偶者その他の親族の居住地は身分証記載地(中国)である。日本国内に譲渡人と生計を一にする親族は居住していない。 | 譲渡人と生計を一にする配偶者その他の親族の居住地については、身分証記載地(中国)が譲渡人の生活の本拠であることをうかがわせる重要な事情であると評価できる。 |
資産の所在 | 譲渡人は日本の金融機関において一定の預金残高を有するところ、中国の金融機関においても預金を有することが推認される。 | 預貯金は、いずれも所在する国に常駐して管理することを必要とするものではない上、日本と中国の双方に所在しているから、資産の所在については生活の本拠を判断する上で重要な事情と評価することはできない。 |
生活に関わる各種届出状況等 | 本件土地等の所有権移転登記の際、身分証記載地(中国)を所有者の住所として登記するなどした。 | 譲渡人は、土地等の譲渡対価の支払日である平成26年4月30日時点において、自らの生活の本拠が身分証記載地(中国)であることを前提としているなどから、生活に関わる各種届出状況等は、身分証記載地が譲渡人の本拠であったことを示唆する事情であると評価できる。 |
審判所は、本件に関していえば「生活場所及び同所での生活状況」や「生計を一にする配偶者その他の親族の居住地」などは、生活の本拠であることをうかがわせる重要な事情であると評価できるとし、譲渡人の生活の本拠は身分証記載地である中国であったと判断するのが相当であるとした。
請求人は譲渡人の土地等の譲渡対価の支払日前1年間における滞在日数は中国よりも日本の方が多いなどと主張したが、それぞれの国の滞在日数の差は僅かであるとして、生活の本拠を判断する上で重要な事情と評価することはできないとしている。
【参照】 |
本誌672号(2016年12月26日)で紹介した未公開裁決事例紹介「非居住者判定は滞在日数等の客観的諸事情を総合勘案」は「居住者」に該当するか否かが争われた事例だ。同事例も審判所が最高裁判決の住所の認定の6つのポイントを示し、それぞれの事実に照らした上で「居住者」であると判断している。 |
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