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解説記事2017年06月05日 【ニュース特集】 固定資産税をめぐる最近の納税者勝訴事例(2017年6月5日号・№693)

ニュース特集
家屋の需給事情による減点補正、住宅用地の特例の適用で争い
固定資産税をめぐる最近の納税者勝訴事例

 固定資産税をめぐっては、その評価額や自治体による評価ミスが訴訟にまで発展するケースが見受けられるなか、本特集では、ここ最近納税者が勝訴した裁判事例を2つ紹介する。1つは、旅館施設である家屋の固定資産税評価をめぐり、周辺地域の観光客数等の減少等を踏まえ需給事情による減点補正率(評価額を15%減額)の適用が認められたもの(宇都宮地裁平成28年12月21日判決)。もう1つは、住宅用地の特例の適用を怠っていた東京都に対して納税者が求めていた損害賠償請求が一部認められたものだ(東京地裁平成29年5月10日判決)。前者の減点補正率の適用をめぐる事件では、敗訴した自治体側が控訴を提起している。納税者が勝訴した判決が確定すると、他の観光地の旅館施設の評価にも影響を与える可能性があるだけに、控訴審の行方に注目が集まりそうだ。

周辺地域の観光客数減少等を踏まえ、旅館施設の固定資産評価を15%減額
 家屋に対する固定資産税は、家屋課税台帳等(固定資産税台帳)に登録された価格に基づき課税されるが、その価格は総務省告示である「固定資産評価基準」により算定される(地法349①、403①)。
 たとえば、非木造家屋の場合は、再建築費評点数(評価時点において同じ家屋を新築する場合の建築費)に家屋の損耗による減点を行うことなどにより算定されるが、需給事情による減点を行う必要がある場合にはさらに家屋の需給事情による減点を行うものとされている(評価基準第2章第1節一、二)。そしてこの需給事情による減点は、「建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋」や「所在地域の状況によりその価格が減少すると認められる非木造家屋等」が適用対象とされている(評価基準第2章第3節六)。
 最初に紹介する裁判事例は、法人である納税者が経営する旅館施設(那須塩原市の旧A町のA温泉地区に所在)について、需給事情による減点補正率を適用すべきか否か(適用すべきとした場合の率)が争点となった税務訴訟である。
 裁判のなかで納税者(原告)は、①旧A町の観光客入込数等の著しい減少、②上下水道の不存在、③公図未整備地区内に所在すること、④建築基準法を遵守しているか不明であること、⑤国立公園内(第一種特別地域)に存在すること、⑥土砂災害特別警戒区域内に所在することなどを踏まえれば、本件家屋(2つの旅館施設である)に対し需給事情による減点補正率を適用する際には、合計35%の減点補正を行わなければならないと主張した。これに対し課税庁である那須塩原市側(被告)は、需給事情による減点補正率の適用は極めて限定的な場合に限られるとしたうえで、本件家屋の家屋課税台帳の登録価格の算定において需給事情による減点補正を適用すべきではないと主張した。
 宇都宮地裁はまず、需要と供給の間に隔離がある場合には需給事情による減点補整をしなければならないのであるから、需給事情による減点補正率を適用するのは極めて限定的な場合に限られるとまでは言えないと指摘。需給事情による減点補正率の適用は極めて限定的な場合に限られるとした那須塩原市側の主張を一蹴した。
 そして、本件家屋において需給事情による減点補正率を適用すべきか否かについては、本件家屋が「所在地域の状況によりその価格が減少すると認められる非木造家屋等」に当たるか否かを検討。納税者が主張した減点補正をすべき要因については、「観光客入込数等の減少」や「土砂災害特別警戒区域内に所在すること」は本件家屋の市場性の減退に影響を与えるとする一方で、「上下水道の不存在」などは市場性の減退に与える影響は小さいと指摘(図表1参照)。この点を踏まえ宇都宮地裁は、旅館施設である本件家屋については、所在地域の状況によりその価格が減少するものと認められることから需給事情による減点補正を行う必要があるとしたうえで、その割合を「15%」と判断。那須塩原市が決定した固定資産税価格の一部を取り消した(図表2参照)。

【図表1】裁判所の判断(所在地域の状況によりその価格の減少が認められるか否か)
納税者の主張した
減点補正をすべき要因
裁判所(宇都宮地裁)の判断
①観光客入込数等の減少 本件家屋は旅館施設であり、一般の非木造家屋と比べ特殊性が強く、他の用途への転用可能性が乏しいことを考慮すると、所在地域の観光客入込数等の著しい減退傾向(平成15年度から平成24年度にかけて観光客入込数は約27%減少、宿泊者数は約31%減少、宿泊施設等の数は約25%減少、基準値の地価は約46%減少)は、本件家屋の市場価値を低下させるものと認められる。これらの要因を考慮すると、本件家屋の市場性の減退に一定程度影響を与えるものと認められる(減価要因あり)
②上下水道の不存在 本件家屋に上水道が整備されていないことは市場価値を低下させる要因の1つといえるが、那須塩原市での下水道の普及率が約51%にとどまることを踏まえると市場性の減退に与える影響は大きいとはいえない(減価要因なし)。
③公図未整備地区内に所在すること 本来土地の問題であるから、市場性の減退に与える影響がそれほど大きいとはいえない(減価要因なし)。
④本件家屋の違法性 本件家屋が建築基準法を遵守した建物ではないという事情は、所在地域の状況によりその価格が減少すると認められる事情に当たるとは考え難い(減価要因なし)。
⑤国立公園(第一種特別地域)内に所在すること 法律等による制約が存在することは本件家屋の市場性を減退させる要因になり得るが、本件家屋が国立公園内に所在することは観光客に対するアピールポイントにもなり得るため市場性の減退に与える影響が大きいとはいえない(減価要因なし)。
⑥土砂災害特別警戒区域内に所在すること 土砂災害特別警戒区域内に位置することにより、積算雨量が200mmになると本件家屋と最寄駅との間の交通が困難となるため、本件家屋の市場性の減退に大きく影響を与える(減価要因あり)

【図表2】宇都宮地裁が認定した本件家屋(2つの旅館施設)の固定資産税価格
那須塩原市が決定した価格 宇都宮地裁が認定した価格
本件家屋1 1億1,118万7,983円 9,450万9,785円(1億1,118万7,983円×85%)
本件家屋2 6,891万9,246円 5,858万1,359円(6,891万9,246円×85%)
※ 納税者が取り消しを請求した固定資産税額(約88万円)のうち、宇都宮地裁判決により取り消された固定資産税額は約37万円である。

 なお、納税者(原告)及び那須塩原市(被告)の双方は、宇都宮地裁判決を不服として控訴を提起している。

住宅用地の特例の適用を怠った都に対し、過納付額の70%相当の賠償命じる
 次に紹介する裁判事例は、併用住宅である本件建物の敷地に住宅用地の特例を適用していなかった東京都(都税事務所長)に国家賠償法上の違法があったか否かという点が問題となった訴訟である。
 「住宅用地の特例」(以下「本件特例」)は、住宅用家屋の敷地について固定資産税等の負担を軽減する特例措置(地法349の3の2、702の3)のことで、小規模住宅用地(住宅1戸当たり200㎡までの部分)の場合は固定資産税の課税標準が通常の6分の1に軽減される(一般住宅用地の場合は3分の1に軽減)。この特例は、専用住宅だけでなく、家屋の一部等が事務所等に利用されている併用住宅にも適用される。併用住宅とは、居住部分の床面積が家屋の総床面積の4分の1以上を占める家屋のことで、その敷地に一定の割合(図表3参照)を乗じた敷地面積が本件特例の適用対象となる(地令52条の11②)。

【図表3】住宅用地率(特例対象となる敷地面積割合)
家屋の種類 居住部分の割合 住宅用地率
併用住宅(下記以外のもの) 1/4以上1/2未満 0.5
1/2以上 1.0
地上階数5階建以上の耐火建築物である併用住宅 1/4以上1/2未満 0.5
1/2以上3/4未満 0.75
3/4以上 1.0

 問題となった本件建物は、昭和57年から納税者の父が2階部分に居住していたほか、1階部分で納税者の父がレストランを営業していた。ところが、納税者の父は平成5年頃、本件建物の1階の一部を事務所として法人に賃貸するための内装工事を実施し、自宅部分と事務所部分とを行き来することをできなくしたほか、それぞれ独立の出入口、トイレ、炊事場を設けた(図表4参照)。なお、納税者の父は平成22年に死亡するまで本件建物で生活しており、父の死亡後に納税者(父の子)が本件建物及びその敷地を相続により取得している。

 東京都は、本件建物の敷地について本件特例の適用を行っていなかったものの、納税者からの指摘を踏まえ本件建物の敷地を小規模住宅用地と認定し、平成21年度分から平成25年度分の過納付額約280万円を還付した。これに対し納税者は、平成20年度分以前の過納付額(約936万円)の還付を求めたものの、東京都が減額更正の期間制限(法定納期限から5年経過)を理由に還付を拒否したために、過納付額などを求める国家賠償請求訴訟を提起した。
地裁、住宅用地の申告等を怠った納税者の過失も認め3割の過失相殺  東京地裁は、本件建物は平成5年頃の内装工事により事務所部分と自宅部分とに明確に構造上分けられ、それぞれ独立の出入口、トイレ、炊事場のある構造となり、納税者の父が居住していた自宅部分の床面積は本件建物の総床面積の2分の1以上であることから併用住宅であったと認定。本件建物の敷地について東京都は住宅用地と認定して本件特例を適用すべきであったとした。
 そして、東京都が行った賦課決定の違法性について東京地裁は、本件特例の適用に関して東京都が職務上尽くすべき注意義務を尽くしていたか否かを検討。東京地裁は、本件建物の住宅地図上の名義(「レストラン××」)が平成4年には空欄となり、平成5年及び平成6年には株式会社(「××××(株)」)になったことからすると、本件建物の利用形態がレストラン営業から事務所等に変更されたことが疑われ、その利用形態の変更により独立性を有し、本件建物が併用住宅に該当するに至っている可能性が十分に考えられると指摘。また、東京都による所内調査(今号42頁参照)によっても少なくとも平成5年には緻密調査(所有者からの聴き取りや建物内部の立会調査等を伴う緻密な現地調査)を実施する契機が存在していたといえ、仮に緻密調査を実施していたら本件建物が併用住宅であることが判明していたものと考えられると指摘した。
 この点を踏まえ東京地裁は、東京都が土地の住宅用地の認定に際し平成5年には緻密な調査をすべきであったのにこれを怠ったか又は漫然としか調査をしていなかったことに過失及び違法性が認められると判断した。
 ただ、その一方で、納税者の父が都条例で義務付けられている住宅用地の申告を怠っていたことなどから3割を過失相殺するのが相当であるとしたうえで、約655万円(過納付額の70%相当)及び弁護士費用相当額約65万円(損害額の10%相当)について東京都に対して損害賠償を命じた。

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