解説記事2017年07月17日 【ニュース特集】 賃貸借・使用貸借の判断を巡る最近の税務トラブル(2017年7月17日号・№699)
ニュース特集
借地権を課税価格に算入した課税処分取消し事例も
賃貸借・使用貸借の判断を巡る最近の税務トラブル
親子間や関係法人間で土地などの不動産を貸借することは多い。不動産の貸借は、有償で賃貸料などを払う「賃貸借」と無償で利用する「使用貸借」とに分けることができるが、ある不動産の貸借契約がどちらに該当するかで相続税や所得税などの課税関係が異なることがある。それだけに、賃貸借と使用貸借の判断が税務トラブルに発展するケースは少なくない。そこで本特集では、納税者の課税関係を巡り賃貸借と使用貸借の判断が問題となった最近の裁決事例を2つ紹介する。1つは、親子間の土地の貸借が賃貸借契約に該当するか否か(借地権の存在の有無)が争われたもの。もう1つは、納税者と関係法人との間で締結された不動産の賃貸借契約を使用貸借と判断して固定資産税等の必要経費算入を否定した課税処分の適法性が争われたものだ。
地代の支払開始により、使用貸借から賃貸借へ移行したか否かが問題に
最初に紹介する事例は、本件土地を所有する相続人A(子)と被相続人(父)との間で賃貸借契約が成立し、被相続人がその相続人Aが所有する土地上に借地権を有していたか否かという点が争われたものである(図表1参照)。
問題となった本件土地は、被相続人の子である相続人Aがその祖父(被相続人の父)の死亡による相続により取得した宅地である。
被相続人の父が生存していた昭和56年に、被相続人は本件建物を新築したものの、本件土地の所有者である父に対して被相続人は地代を支払っていなかった。しかし、祖父(被相続人の父)の死亡により本件土地を相続人Aが取得した後、被相続人は平成6年4月から平成24年9月までの間「土地代」の名目で毎月約33万円を相続人A名義の口座に入金していた。
被相続人の死亡後、相続人Aらは法定申告期限までに被相続人の本件相続に係る相続税の申告を行った。これに対し原処分庁は、本件土地については相続人Aと被相続人との間で遅くとも平成6年4月までには賃貸借契約が成立していることから、被相続人は本件土地上に借地権を有していたと判断。その借地権の価額を課税価格に算入する課税処分を行った。これを不服とした相続人Aらは、相続人Aと被相続人との間で賃貸借契約は成立しておらず、使用貸借にすぎないから借地権は存在しない旨を主張し、審判所に対して課税処分の取り消しを求めた。
審判所、使用貸借のため借地権は存在せず 審判所はまず、物の使用収益に伴う金員の支払があったとしても、それが対象物の使用収益に対する対価の意味を持たない金員の支払である場合には、民法601条に規定する賃貸借には該当せず、民法593条に規定する使用貸借に該当するという解釈を示した。
そして本件については、本件相続開始時において①相続人Aが所有する本件土地上に被相続人が持分4分の3(4分の1は相続人Aが所有)を有する本件建物が存在すること、②被相続人が相続人Aに対して毎月地代を支払っていたこと、③地代の年額が固定資産税等年税額の1.8倍である事実に照らせば、被相続人が相続人Aに対して支払った地代が本件土地の使用収益に対する対価であるとみる余地もあると指摘した。
一方で審判所は、昭和56年以降、本件土地に関して被相続人がその所有者である父に地代を支払っていなかったことから、当時の被相続人による本件土地の使用は使用貸借契約に基づくものであったと認定したうえで、地代の支払が始まった平成6年4月以降被相続人による本件土地の使用が賃貸借契約に基づくものに変更されたか否かを検討。
具体的には、①相続人Aと被相続人との間で契約書の作成や権利金の授受がされたなどの事実がないこと、②地代の支払が開始された経緯や動機が不明であること、③平成6年当時相続人Aは未成年者で被相続人とは親子であることなどを踏まえると、従前は親子間における使用貸借契約に基づくものであった本件土地の使用収益が地代の支払の開始によって賃貸借契約に基づくものに変更されたとみることはできないと判断した。さらに審判所は、本件土地の周辺の土地の価格に変動があったにもかかわらず(路線価は平成6年分が27万円に対し平成24年分は14.5万円)、平成6年から本件相続が開始されるまでの間、地代の額に変更はなく、そのほかに本件土地の使用収益が賃貸借契約に基づくものに変更されたことをうかがわせるような事情は見出せないと指摘。
以上の点などを踏まえ審判所は、被相続人による本件土地の使用収益は使用貸借契約に基づくものであり、被相続人が本件土地上に借地権を有していたと認めることができないとしたうえで、借地権を課税価格に算入した課税処分の全部を取り消した(平成29年1月17日判決・関裁(諸)平28第22号)。
貸借契約が「使用貸借」であれば固定資産税等を必要経費に算入できず
次に紹介する裁決事例は、納税者の関連会社(A社)に対する不動産の貸し付けに関する契約が「賃貸借」か否かが争われるとともに、その納税者が受領した賃料や固定資産税等が不動産所得に算入されるか否かが争われたものである(図表2参照)。
問題となった賃貸借契約(以下「本件契約」)は、納税者(個人)が所有する本件物件(テニスコート及びクラブハウス)を納税者の関連法人であるA社(納税者の子が代表取締役)に対して年480万円で賃貸するというもの。A社は、本件契約を締結する以前からB社に対して本件物件を貸し付けていたものの、納税者が本件建物(クラブハウス)を代物返済によりA社から取得したことをきっかけとして本件契約が締結された。そして借主であるA社は、テニススクールを運営するB社(納税者及びA社とは無関係の第三者)に対して本件物件を転貸することにより年2,800万円を超える賃貸料を得ていた。
納税者は、A社から受領した賃料(以下「本件金員」)を不動産所得の総収入金額に算入する一方で、同金額を超える固定資産税及び本件物件の減価償却費を必要経費に算入していた。これに対し原処分庁は、本件契約は賃貸借ではなく使用貸借であるとしたうえで、本件物件の貸付けは不動産の貸付け(所法26①)に該当しないことを理由に本件金員は不動産所得の総収入金額に算入されず、固定資産税等は必要経費に算入されないとする課税処分を行った。これを不服とした納税者は、本件契約は使用貸借ではなく、使用収益の対価を得ることを目的とする賃貸借契約であり、本件物件の貸付けは不動産の貸付け(所法26①)に該当する旨を主張し、審判所に対して課税処分の取り消しを求めた。
審判所、使用収益の対価に該当せず 審判所はまず、所得税法26条規定の不動産所得について解釈を示した(図表3参照)。
そして本件については、本件契約の締結の経緯及びその内容などを踏まえると、納税者は債務超過であったA社を経済的に支援するために、本件建物(クラブハウス)をA社から代物弁済により取得したうえで本件土地(テニスコート)も含めて本件物件を貸し付ける形態を採ったものであると認定するととともに、本件物件についてはその使用の対価として相当な金員の支払いを受けることなく、従前と同様にA社が使用し続けることとしたものといえると認定した。
そして、納税者がA社から受領した本件金員について審判所は、使用収益の対価というよりは納税者による本件物件の使用許諾に対して本件物件に関する経費の一部を負担するものであったというのが相当であると指摘。このことは、本件金員の年額が固定資産税の半分にも満たず、本件物件を第三者に賃貸する場合の賃貸料の5分の1にも満たないことから明らかであるとした。
以上の点などを踏まえ審判所は、本件契約における本件金員の名目は賃料であるものの、本件契約に基づくA社による本件物件の使用は賃貸借契約に基づくものとは言えず、対価を得ることを目的としていない使用貸借契約に基づくものであったと判断。本件金員は不動産所得の総収入金額に算入されないとした。また、使用貸借契約に基づき貸し付けている不動産等に係る固定資産税等は不動産所得を生ずべき業務について生じたものではないため、不動産所得の金額の計算上必要経費には算入されないとした(平成29年3月3日裁決・東裁(所)平28第96号)。
借地権を課税価格に算入した課税処分取消し事例も
賃貸借・使用貸借の判断を巡る最近の税務トラブル
親子間や関係法人間で土地などの不動産を貸借することは多い。不動産の貸借は、有償で賃貸料などを払う「賃貸借」と無償で利用する「使用貸借」とに分けることができるが、ある不動産の貸借契約がどちらに該当するかで相続税や所得税などの課税関係が異なることがある。それだけに、賃貸借と使用貸借の判断が税務トラブルに発展するケースは少なくない。そこで本特集では、納税者の課税関係を巡り賃貸借と使用貸借の判断が問題となった最近の裁決事例を2つ紹介する。1つは、親子間の土地の貸借が賃貸借契約に該当するか否か(借地権の存在の有無)が争われたもの。もう1つは、納税者と関係法人との間で締結された不動産の賃貸借契約を使用貸借と判断して固定資産税等の必要経費算入を否定した課税処分の適法性が争われたものだ。
地代の支払開始により、使用貸借から賃貸借へ移行したか否かが問題に
最初に紹介する事例は、本件土地を所有する相続人A(子)と被相続人(父)との間で賃貸借契約が成立し、被相続人がその相続人Aが所有する土地上に借地権を有していたか否かという点が争われたものである(図表1参照)。

問題となった本件土地は、被相続人の子である相続人Aがその祖父(被相続人の父)の死亡による相続により取得した宅地である。
被相続人の父が生存していた昭和56年に、被相続人は本件建物を新築したものの、本件土地の所有者である父に対して被相続人は地代を支払っていなかった。しかし、祖父(被相続人の父)の死亡により本件土地を相続人Aが取得した後、被相続人は平成6年4月から平成24年9月までの間「土地代」の名目で毎月約33万円を相続人A名義の口座に入金していた。
被相続人の死亡後、相続人Aらは法定申告期限までに被相続人の本件相続に係る相続税の申告を行った。これに対し原処分庁は、本件土地については相続人Aと被相続人との間で遅くとも平成6年4月までには賃貸借契約が成立していることから、被相続人は本件土地上に借地権を有していたと判断。その借地権の価額を課税価格に算入する課税処分を行った。これを不服とした相続人Aらは、相続人Aと被相続人との間で賃貸借契約は成立しておらず、使用貸借にすぎないから借地権は存在しない旨を主張し、審判所に対して課税処分の取り消しを求めた。
審判所、使用貸借のため借地権は存在せず 審判所はまず、物の使用収益に伴う金員の支払があったとしても、それが対象物の使用収益に対する対価の意味を持たない金員の支払である場合には、民法601条に規定する賃貸借には該当せず、民法593条に規定する使用貸借に該当するという解釈を示した。
そして本件については、本件相続開始時において①相続人Aが所有する本件土地上に被相続人が持分4分の3(4分の1は相続人Aが所有)を有する本件建物が存在すること、②被相続人が相続人Aに対して毎月地代を支払っていたこと、③地代の年額が固定資産税等年税額の1.8倍である事実に照らせば、被相続人が相続人Aに対して支払った地代が本件土地の使用収益に対する対価であるとみる余地もあると指摘した。
一方で審判所は、昭和56年以降、本件土地に関して被相続人がその所有者である父に地代を支払っていなかったことから、当時の被相続人による本件土地の使用は使用貸借契約に基づくものであったと認定したうえで、地代の支払が始まった平成6年4月以降被相続人による本件土地の使用が賃貸借契約に基づくものに変更されたか否かを検討。
具体的には、①相続人Aと被相続人との間で契約書の作成や権利金の授受がされたなどの事実がないこと、②地代の支払が開始された経緯や動機が不明であること、③平成6年当時相続人Aは未成年者で被相続人とは親子であることなどを踏まえると、従前は親子間における使用貸借契約に基づくものであった本件土地の使用収益が地代の支払の開始によって賃貸借契約に基づくものに変更されたとみることはできないと判断した。さらに審判所は、本件土地の周辺の土地の価格に変動があったにもかかわらず(路線価は平成6年分が27万円に対し平成24年分は14.5万円)、平成6年から本件相続が開始されるまでの間、地代の額に変更はなく、そのほかに本件土地の使用収益が賃貸借契約に基づくものに変更されたことをうかがわせるような事情は見出せないと指摘。
以上の点などを踏まえ審判所は、被相続人による本件土地の使用収益は使用貸借契約に基づくものであり、被相続人が本件土地上に借地権を有していたと認めることができないとしたうえで、借地権を課税価格に算入した課税処分の全部を取り消した(平成29年1月17日判決・関裁(諸)平28第22号)。
コラム | 固定資産税等年額の1.8倍であっても、使用収益の対価とは認めるに足らず |
最初に紹介した裁決事例で原処分庁は、使用貸借通達(使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて)のなかで、土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるものにすぎないものは使用貸借に該当する旨が規定されている点を踏まえ、本件における地代の年税額は固定資産税等年税額を優に上回る(約1.8倍)から、使用貸借通達からみても使用貸借と見る余地はないと主張した。これに対し審判所は、本件における事実経過等を踏まえると、本件相続開始時において地代の年額が固定資産税等年税額の約1.8倍であったものの、かかる事情のみでは本件における地代が本件土地の使用収益に対する対価であるとは認めるに足りないとしたうえで、原処分庁の主張を斥けている。 |
貸借契約が「使用貸借」であれば固定資産税等を必要経費に算入できず
次に紹介する裁決事例は、納税者の関連会社(A社)に対する不動産の貸し付けに関する契約が「賃貸借」か否かが争われるとともに、その納税者が受領した賃料や固定資産税等が不動産所得に算入されるか否かが争われたものである(図表2参照)。

問題となった賃貸借契約(以下「本件契約」)は、納税者(個人)が所有する本件物件(テニスコート及びクラブハウス)を納税者の関連法人であるA社(納税者の子が代表取締役)に対して年480万円で賃貸するというもの。A社は、本件契約を締結する以前からB社に対して本件物件を貸し付けていたものの、納税者が本件建物(クラブハウス)を代物返済によりA社から取得したことをきっかけとして本件契約が締結された。そして借主であるA社は、テニススクールを運営するB社(納税者及びA社とは無関係の第三者)に対して本件物件を転貸することにより年2,800万円を超える賃貸料を得ていた。
納税者は、A社から受領した賃料(以下「本件金員」)を不動産所得の総収入金額に算入する一方で、同金額を超える固定資産税及び本件物件の減価償却費を必要経費に算入していた。これに対し原処分庁は、本件契約は賃貸借ではなく使用貸借であるとしたうえで、本件物件の貸付けは不動産の貸付け(所法26①)に該当しないことを理由に本件金員は不動産所得の総収入金額に算入されず、固定資産税等は必要経費に算入されないとする課税処分を行った。これを不服とした納税者は、本件契約は使用貸借ではなく、使用収益の対価を得ることを目的とする賃貸借契約であり、本件物件の貸付けは不動産の貸付け(所法26①)に該当する旨を主張し、審判所に対して課税処分の取り消しを求めた。
審判所、使用収益の対価に該当せず 審判所はまず、所得税法26条規定の不動産所得について解釈を示した(図表3参照)。
【図表3】 |
不動産所得に関する審判所の法令解釈 | |
所得税法第26条は、不動産所得とは、不動産等の貸付け(地上権または永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得または譲渡所得に該当するものを除く。)をいうと定めている。したがって、不動産等の賃料が不動産所得の総収入金額に算入されるためには、当該賃料が不動産等の貸付けによる所得に該当することが必要である。 そして、不動産等の貸付けによる所得とは、当事者の一方が相手方に不動産等を使用収益させて、その対価を得ることを目的とする行為から生ずる所得をいうものと解されるから、不動産等の賃貸借から生ずる賃料はこれに該当するが、対価を伴わない使用貸借については、借主から貸主に対して金員の交付等があっても、それは当該不動産の経費の一部の支払にすぎず、不動産等の貸付けによる所得には該当しないと解すべきである。 |
そして本件については、本件契約の締結の経緯及びその内容などを踏まえると、納税者は債務超過であったA社を経済的に支援するために、本件建物(クラブハウス)をA社から代物弁済により取得したうえで本件土地(テニスコート)も含めて本件物件を貸し付ける形態を採ったものであると認定するととともに、本件物件についてはその使用の対価として相当な金員の支払いを受けることなく、従前と同様にA社が使用し続けることとしたものといえると認定した。
そして、納税者がA社から受領した本件金員について審判所は、使用収益の対価というよりは納税者による本件物件の使用許諾に対して本件物件に関する経費の一部を負担するものであったというのが相当であると指摘。このことは、本件金員の年額が固定資産税の半分にも満たず、本件物件を第三者に賃貸する場合の賃貸料の5分の1にも満たないことから明らかであるとした。
以上の点などを踏まえ審判所は、本件契約における本件金員の名目は賃料であるものの、本件契約に基づくA社による本件物件の使用は賃貸借契約に基づくものとは言えず、対価を得ることを目的としていない使用貸借契約に基づくものであったと判断。本件金員は不動産所得の総収入金額に算入されないとした。また、使用貸借契約に基づき貸し付けている不動産等に係る固定資産税等は不動産所得を生ずべき業務について生じたものではないため、不動産所得の金額の計算上必要経費には算入されないとした(平成29年3月3日裁決・東裁(所)平28第96号)。
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