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解説記事2018年01月08日 【税務マエストロ】 米国の税制改正と日本企業への影響(2018年1月8日号・№721)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
米国の税制改正と日本企業への影響

#204 品川克己
PwC税理士法人

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#205
非課税(6)

税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
 ta@lotus21.co.jp

マエストロの解説  トランプ大統領の選挙公約の一つであった、大幅な税制改革が現実味を帯びてきた。トランプ政権の税制改革案には、下院、上院ともに一部の反対があったが、これまでに、ともにそれぞれの税制改正案がそれぞれ両院で決議された。両院の改正案には、トランプ政権の税制改革案で注目をあびた、いわゆる国境調整(法人税に消費税と同様の輸入課税・輸出免税の仕組みを入れるもの)は含まれていないが、法人税率の大幅な引き下げなどの主要項目は、若干の相違点はあるものの、おおむね維持されているようである。大統領が法案に署名するまでに、いくつかの修正が加えられると予想されるが、ここで米国税制が大きく変わることはほぼ現実のものとなったといえる。

1 米国議会での審議状況
(1)米国の立法プロセス
 米国において、法律草案は、下院議員、上院議員又は大統領府が提出することとなる。下院では、税制改正に関する法案は歳入委員会で審議、修正されたそれを「下院議会」において審議、修正を経て決議される。この可決には、過半数の賛成が必要となる。
 他方、上院では、「上院財政委員会」において、下院案の検討後、上院案について公聴会を経て、法案の審議及び修正が行われ、「上院議会」に提出される。上院議会では、当該法案の審議、修正ののち決議されることとなる。この可決には、通常の手続きであれば、5分の3(60票)の賛成が必要となる。ただし、予算調整手続き(Budget Reconciliation Process)を利用した場合には過半数の賛成(51票)で可決されることとなる。この場合、予算期間(原則として10年間)経過後に財政赤字の増加が見込まれる場合には、10年間の時限立法となる。
 下院及び上院でそれぞれ可決された法案における差異は、両院それぞれから選出されたメンバーで構成される「両院協議会」において調整、修正され、法案は統一された後、再び両院において決議、承認されることとなる。両院を、通過した法案は、大統領の署名により法律として成立することとなる。この段階で、仮に大統領が拒否権を発動すれば、法案は無効となる。
(2)税制改正法案の審議状況  今般の米国税制改正法案は、2017年11月16日(米国時間)、米国下院において税制改正法案「Tax Cuts and Jobs Act of 2017 (H.R.1)」として賛成多数(227票対205票)で通過した。通過した法案は、11月2日に発表された当初の改正法案に、11月9日までの修正を加えた修正案となっている。
 他方、米国時間11月9日、上院財政委員会において、下院で通過した法案とは別に税制改正案(Description of The Chairman's Mark of the “Tax Cuts and Jobs Act”)が発表された。この税制改正案は、いくつかの修正(個人所得税減税のサンセット条項など)が加えられ、11月16日に上院財政委員会で賛成多数(14対12)で可決された。さらに、この税制改正案にいくつかの修正を加えた税制改正法案「Tax Cuts and Jobs Act」が、米国時間12月2日、上院において賛成多数(51票対49票)で可決された。
 さらに、最新の報道では、上院及び下院の税制改正法案の相違を調整する摺り合わせ(Reconciliation)の後、一部の修正を経て法案の統一化が図られ、12月20日にも両院議会で可決される見通しのようである。両院の協議の結果、それぞれの相違点がどのように調整されたかは、「法人税率の引き下げ」関係の項目を除き、詳細が明らかでない(12月15日現在)。
 今後の過程で更に複数の修正が加えられる可能性もあるが、両院で可決後、大統領が署名して正式に法律として成立することとなる。現在、2017年末までの法律制定を目指している模様である。

2 主要な改正項目
(1)法人税率の引き下げ
 現行法では、最高税率35%の累進税率となっており、代替ミニマム税(AMT)の税率は20%となっている。下院案、上院案とも、法人税率は一律20%に引き下げられるが、適用時期が異なっている。下院案では、2018年1月1日以降開始する課税年度から適用されるが、上院案では2019年1月1日以降開始する事業年度からの適用となる。12月決算以外で、年度の中途で新税率が適用される場合は、日割り計算することとなる(IRC15)。なお、トランプ政権の税制改革案では、15%への引き下げとされていた。
 また、AMTは20%であることから、税率引下げ後の一般税率と同率となる。下院案では、新税率適用に合わせAMTを廃止することとされているが、上院案ではAMTの制度自体は維持される。 
 なお、法人税率の引き下げについては、両院の協議の結果、21%への引き下げに落ち着いたようである。特に、財政赤字の拡大を懸念する一部上院議員に配慮するためであるが、これにより上院において5分の3の賛成が得られるかどうかがポイントとなる。
(2)繰越欠損金の使用制限  現行制度では、課税所得金額の100%まで控除可能であり、繰越期間は20年となっている。また、2年間の繰戻還付が認められている。下院案では、課税所得金額の90%を限度として無期限に繰越控除が認められている。一方、繰戻還付は廃止されることとされている。また、繰越欠損金額の現在価値を維持する制度として、短期連邦利率+4ポイントの割合で調整することとされている。他方上院案では、繰越欠損金の控除額は、下院案同様課税所得金額の90%であるが、2023年以降は80%に制限されている。下院案同様、繰越期間は無期限、繰戻還付は廃止とされている。なお、繰越欠損金の現在価値維持の調整はされない。
 現行制度では、AMTが適用される場合の繰越欠損金の控除額は、課税所得金額の90%に制限されている。AMTが維持された場合、一般税率と同率となることから、繰越欠損金の控除額の制限がAMTの適用に影響することとなろう。
(3)特定の固定資産の即時償却  現行制度では、即時償却は認められず、2017年度においては50%の特別償却、2018年は40%、2019年は30%の特別償却が認められており、2020年以降は特別償却は認められない。下院案では、2017年9月27日以降2022年末までに取得し、事業に供した一定の固定資産については、取得価額の全額を即時償却可能であり、中古資産にも適用される。上院案も下院案とほぼ同様であるが、上院案では中古資産には適用されず、2026年末まで適用される(償却率の低減あり)。また、2017年9月27日以降開始の最初の課税年度では、50%の特別償却の選択も可能とされている。
(4)試験研究費に係る税額控除  現行制度では、適格増加試験研究費の20%の税額控除(簡便法を選択した場合は14%)が認められている。また、試験研究費の支払があった年度又は発生年度に全額を即時費用化することが認められている。
 今般の下院案では、税額控除については現行制度が維持されるものの、2023年度以降に開始する課税年度から一定の研開発究費について資産計上が強制され、その後5年間(研究開発活動が米国外で実施される場合には15年間)の期間で償却される。上院案もほぼ同様であるが、資産計上の強制は2026年以降開始する課税年度とされている。
(5)海外配当益金不算入  現行制度は、海外子会社からの配当は、全額益金算入(二重課税排除は間接税額控除)され、全世界所得課税となる。
 下院案、上院案ともに、テリトリアル課税が提唱されている。両院案とも海外子会社からの配当は、100%益金不算入(免税)とされている。また、上院案では、米国外のCFC(米国親会社が50%超を保有する外国法人)によるハイブリッド配当(損金算入配当)については不適用となる。なお要件等の詳細は、の通り。

【表】
下院案 上院案
海外子会社の範囲 保有割合10%以上の海外の子会社 保有割合10%以上の海外の子会社
保有期間 配当確定日前後1年間において6ヶ月以上(361日期間中180日間)保有していること 配当確定日前後2年間において12ヶ月以上(731日期間中365日間)保有していること
適用開始 2018年以降支払われる配当 2018年1月1日以降開始する事業年度において支払われる配当

(6)海外子会社の留保所得に対する課税(強制みなし配当課税)  全世界所得課税からテリトリアル課税(海外配当益金不算入による国外所得免除)への移行に伴い、その時点で海外子会社に留保されている所得(現行制度では、米国親会社に配当された段階で課税されるはずの所得)に対し、1回限りの課税が行われる。仕組みとしては、米国の株主法人(親会社)は、保有割合10%以上の海外子会社等が留保所得(利益剰余金)を有する場合には、その保有割合に応じて、留保所得を益金に算入することとなる。強制的にみなし配当を認識することと同じであり、これは両院案とも同様である。
 下院案では、2017年11月2日又は2017年12月31日を基準日として、いずれか高い方の金額が対象となり、資産面との関係で、現金及び現金等価物相当の留保所得については14%、その他については7%の税率が適用される。上院案では、2017年11月9日又2017年12月31日を基準日として、いずれか高い方の金額が対象となり、現金及び現金等価物相当の留保所得については14.49%、その他については7.49%の税率が適用される。なお、トランプ政権の税制改革案では、一律10%の課税とされていた。

3 日本企業への影響  今般の税制改正は、大統領の署名までに、下院、上院による調整を経て若干の修正が加えられたが、両院案に大きな差異がないことから、最終的にはいくつかの重要な改正が実現することは確実と考えられる。また、こうした重要な改正項目が、米国内で事業展開する日本企業に与える影響も大きいと考えられるところである。
 特に、親会社である日本企業に直接的な影響がある項目は、大幅な法人税率の引き下げであろう。日本のCFC税制(タックスヘイブン対策税制)では、海外子会社が負担する実効税率(法定税率ではない)が20%未満の場合に、合算課税の対象とされている(平成29年度改正後の新制度では「適用免除」として影響)。トランプ政権の税制改革案では、法人税率を15%に引き下げることとされていたことから、それが実現すれば、日本企業の米国子会社は、すべからくCFC税制の対象の有無の判断が必要となるところであった。両院の合意案では21%への引き下げであるため、直接的な影響は回避されることとなるが、何らかの軽減措置等の影響や非課税所得などの影響が生じることを考慮すると、実効税率が「20%未満」であるかどうかの計算の重要性は極めて高いといえよう(州税の影響を考慮すると、実効税率は28%程度になる模様)。
 また、仮に実効税率が20%未満となってしまった場合、「経済活動基準」を満たしていれば合算課税の対象とはならないが、この場合であっても、一定の「受動的所得」の対象となる。この受動的所得は非常に範囲が広く、対象となる所得か否かの判断も慎重に行う必要が生じる。特に、10%以上を保有する米国外の子会社からの配当は、米国では益金不算入(免税)となるが、日本のCFC税制の適用にあたって「受動的所得」となる点に注意が必要である。
 なお、米国で事業展開する日本企業の子会社等は、米国制度上のLLC(日本では法人扱い)という形態も一般的である。このLLCの形態は、日本のCFC税制上のペーパーカンパニー又はキャッシュボックスという認定(実体基準及び管理支配基準を満たしていない等の状況に該当)を受ける可能性がある。この場合、「30%」を基準としてCFC税制による合算課税の適否が判断されることとなる。また、仮に合算課税の対象となった場合、当該LLCが支払う米国法人税(支払いは日本の親会社)が、合算課税に伴う外国税額控除の対象となるのか否か不明確である点にも注意を要するといえよう。

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