解説記事2018年05月14日 【新会計基準解説】 実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」について(2018年5月14日号・№738)
新会計基準解説
実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」について
企業会計基準委員会 専門研究員 橋本浩史
Ⅰ はじめに
企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成30年3月14日に、実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表した(脚注1)。本稿では、本実務対応報告の概要を紹介する。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。
Ⅱ 公表の経緯
平成28年に公布された「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第62号)により、「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という。)が改正された。本改正では、資金決済法において仮想通貨が定義された上で、仮想通貨交換業者(資金決済法第2条第8項に規定する仮想通貨交換業者をいう。以下同じ。)に対して登録制が新たに導入され、平成29年4月1日の属する事業年度の翌事業年度より、仮想通貨交換業者に対しては、その財務諸表の内容について公認会計士又は監査法人による財務諸表監査が義務付けられている(資金決済法第63条の14第3項)。
これを受けて、平成29年3月に開催された第357回企業会計基準委員会において、基準諮問会議より、仮想通貨交換業者に対する財務諸表監査制度の円滑な運用の観点及び仮想通貨に係る会計処理が明確にされない場合には多様な会計実務が形成される可能性がある点を踏まえ、仮想通貨に係る会計上の取扱いについて早急に検討を行うことが提言された。この提言を受けて、ASBJでは平成29年4月より仮想通貨に係る会計上の取扱いに関する検討を開始し、平成30年3月に本実務対応報告を公表している。
なお、本実務対応報告は、平成29年12月6日に公表した実務対応報告公開草案第53号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(案)」に対して寄せられた意見を踏まえて検討を行い、公開草案の内容を一部修正した上で公表するに至ったものである。
Ⅲ 本実務対応報告の目的
本実務対応報告は、仮想通貨の会計処理及び開示に関する当面の取扱いとして、必要最小限の項目について、実務上の取扱いを明らかにすることを目的としている(本実務対応報告第2項)。
そのため、本実務対応報告では、仮想通貨に関連するビジネスが初期段階にあり、現時点では今後の進展を予測することは難しいことや仮想通貨の私法上の位置づけが明らかではないことを踏まえ、当面必要と考えられる最小限の項目に関する会計上の取扱いのみを定めている。本実務対応報告において定めのない事項については、今後の仮想通貨のビジネスの発展や会計に関連する実務の状況により、市場関係者の要望に基づき、別途の対応を図ることの要否を判断することになると考えられる。
Ⅳ 本実務対応報告の概要
1 適用範囲
(1)資金決済法における仮想通貨の概要 いわゆる仮想通貨(virtual currency)は、FATF(The Financial Action Task Force、金融活動作業部会)から公表されたガイダンスによると「電子的に取引可能であり、かつ、交換手段、計量単位、又は価値の蓄積として機能する電子的な価値の表章であるが、いかなる法域においても法定通貨(すなわち、債権者に供された場合に、法的に有効な支払の提供となるもの)としての地位を有さないもの」であるとされている。
また、仮想通貨は、法定通貨及び電子マネー(e-money)との比較で以下のような特徴を有するとされている。
① 仮想通貨は、硬貨や紙幣である各法域の法定通貨とは異なる。法定通貨は法的に通貨として指定され、流通し、発行国において交換媒体として使用され、受け入れられている。
② 仮想通貨は、電子的価値として移転され、法定通貨の単位で表示された電子マネーとは異なる。電子マネーは、法定通貨の電子的な価値移転に係る仕組みであり、法定通貨としての価値を電子的に移転する。
一方、資金決済法上の仮想通貨は、次のいずれかに該当するものと定義されている(資金決済法第2条第5項第1号及び第2号)。
① 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産(脚注2)を除く。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
② 不特定の者を相手方として、①の仮想通貨と相互に交換を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
資金決済法では、前払式支払手段発行者が発行するいわゆる「プリペイドカード」や、ポイント・サービス(財・サービスの販売金額の一定割合に応じてポイントを発行するサービスや、来場や利用ごとに一定額のポイントを発行するサービス等)における「ポイント」は、資金決済法上の仮想通貨には該当しないとされている。また、いわゆる仮想通貨が資金決済法上の仮想通貨に該当するか否かは、個別事例ごとに取引の実態に即して実質的に判断されるとされている(図表1参照)。
(2)本実務対応報告の適用範囲の検討 前述のとおり、仮想通貨交換業者に対する財務諸表監査制度の円滑な運用が仮想通貨に係る会計上の取扱いに関する検討を開始する契機であったこと、及び本実務対応報告での適用範囲を明確にすることから、本実務対応報告では、その適用範囲を資金決済法上の仮想通貨としている(本実務対応報告第3項本文)。
当該適用範囲に関して、公開草案に寄せられたコメントでは、いわゆるICO(Initial Coin Offering)などにより企業が仮想通貨を発行した場合の会計処理を明確にすべきとの意見があった。
この点、本実務対応報告においては、当面必要と考えられる最小限の項目に関する会計上の取扱いのみを定めることとしており、また、企業が発行した仮想通貨に関する論点としては、例えば、①対価を得て発行した仮想通貨について負債を計上するのか利益を計上するのか、②自己に割り当てた仮想通貨を会計処理の対象とするのか等が考えられるが、公開草案における会計処理等の検討に際しては、自己以外の者により発行されている仮想通貨の会計処理についてのみ議論が行われており、自己の発行した仮想通貨の取引の実態とそこから生じる論点が網羅的に把握されていない状況にある。
したがって、自己の発行した仮想通貨(発行した時点においては仮想通貨に該当しないが、その後仮想通貨に該当することとなったものを含む。)については、本実務対応報告の範囲から除外することとした。なお、自己の関係会社(脚注4)により仮想通貨の発行が行われる事例が見られるため、自己の関係会社が発行した仮想通貨(発行した時点においては仮想通貨に該当しないが、その後仮想通貨に該当することとなったものを含む。)も、本実務対応報告の範囲から除外している(本実務対応報告第3項ただし書き)。
なお、いわゆる「マイニング」(採掘)などにより取得した仮想通貨は、通常、自己(自己の関係会社を含む。)以外の者により発行されているため、ここでいう自己(自己の関係会社を含む。)の発行した仮想通貨には該当しないことから、本実務対応報告の範囲に含まれることに留意する必要がある(本実務対応報告第26項)。
2 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理
(1)仮想通貨の会計上の資産性の有無 我が国における会計基準では、多くの場合、法律上の権利を会計上の資産として取り扱っているが、必ずしも法律上の権利に該当することが会計上の資産に該当するための要件とはされていない。
この点、仮想通貨は、法律上の権利に該当するかどうかは明らかではないが、売買・換金を通じて資金の獲得に貢献する場合も考えられることから、本実務対応報告では仮想通貨を会計上の資産として取り扱い得るとしている(本実務対応報告第27項)。
(2)既存の会計基準との関係 仮想通貨については、直接的に参照可能な既存の会計基準は存在しないことから、本実務対応報告では、仮想通貨に関する会計処理について既存の会計基準を適用せず、仮想通貨独自のものとして新たに会計処理を定めることとしている(本実務対応報告第33項)。
(3)期末における仮想通貨の評価に関する会計処理 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者(仮想通貨を利用する企業のうち、仮想通貨交換業者以外の者をいう。以下同じ。)が保有する仮想通貨(仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨を除く。以下同じ。)について、本実務対応報告では、期末における評価に関する会計処理を、図表2のとおりとしている。
本実務対応報告では、期末における仮想通貨の評価に関する会計処理を検討するにあたっては、これまでの我が国の会計基準における評価基準に関する考え方を参考に、資産の保有目的や活発な市場の有無の観点から基本的な考え方を整理している(本実務対応報告第34項)。
これまでの我が国の会計基準では、資産の保有目的について、売買目的有価証券やトレーディング目的で保有する棚卸資産など時価の変動により利益を得ることを目的として保有する資産については時価で評価することが適当とされており、通常の販売目的で保有する棚卸資産や製造設備など時価の変動ではなく事業活動を通じた資金の獲得を目的として保有する資産については取得原価で評価することが適当とされている(本実務対応報告第35項)。
ここで、活発な市場が存在する仮想通貨は、主に時価の変動により売却利益を得ることや決済手段として利用すること、仮想通貨交換業者が業務の一環として仮想通貨販売所を営むために仮想通貨を一時的に保有することを目的として保有されることが現時点において想定される。このため、活発な市場が存在する仮想通貨は、いずれも仮想通貨の時価の変動により保有者が価格変動リスクを負うものであり、時価の変動により利益を得ることを目的として保有するものに分類することが適当と考えられる(本実務対応報告第36項)。
一方、活発な市場が存在しない仮想通貨は、時価を客観的に把握することが困難であることが多く、また、時価により直ちに売買・換金を行うことに事業遂行上等の制約があることから、時価の変動を企業活動の成果とは捉えないことが適当と考えられる(本実務対応報告第37項)。
以上より、仮想通貨の評価基準については、資産の保有目的や活発な市場の有無の観点に基づいて区分し、活発な市場が存在する仮想通貨については市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理することとし、活発な市場が存在しない仮想通貨については取得原価をもって貸借対照表価額とすることとしている(本実務対応報告第38項)。
また、我が国の会計基準においては、取得原価をもって貸借対照表価額とする資産の収益性が低下した場合、取得原価基準の下で回収可能性を反映させるように、過大な帳簿価額を減額し、将来に損失を繰り延べないために回収可能価額まで帳簿価額を切り下げる会計処理が行われている。この点を踏まえると、活発な市場が存在しない仮想通貨についても、売買・換金によって資金の回収を図ることが想定されるため、評価時点における資金回収額を示す正味売却価額(時価から処分見込費用を控除して算定される金額をいう。以下同じ。)がその帳簿価額を下回っているときには、収益性が低下していると考え、帳簿価額の切下げを行うことが適当であると考えられる。ここで、活発な市場が存在しない仮想通貨は、市場価格がなく、客観的な価額としての時価を把握することが困難な場合が多いと想定されることから、一般的に時価を基礎とした正味売却価額を見積ることは困難であると考えられるため、処分見込価額まで帳簿価額を切り下げることとしている。
前述の処分見込価額の具体的な見積りは、例えば、独立第三者の当事者との相対取引を行った場合の価額等、資金の回収が確実な金額に基づくことが考えられるが、資金の回収が確実な金額を見積ることが困難な場合にはゼロ又は備忘価額を処分見込価額とすることになると考えられる(本実務対応報告第43項)。
なお、前期以前に行った資産の帳簿価額の切下げの会計処理については、切放し法(前期以前に計上した損失処理額の戻入れを、当期に行わない方法をいう。)と洗替え法(前期以前に計上した損失処理額の戻入れを、当期に行う方法をいう。)の2つの方法があるが、活発な市場が存在しない仮想通貨の場合、その取引形態や価格形成の仕組みが現状において明らかではないことから、期末日における処分を前提として処分見込価額まで簿価を切り下げた後には、保守的に切放し法のみを認めることとしている(本実務対応報告第44項)。
(4)活発な市場の判断規準 本実務対応報告では、活発な市場が存在する場合とは、仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者の保有する仮想通貨について、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合をいうものとしている(本実務対応報告第8項)。
ここで、「継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合」については、保有する仮想通貨の種類、当該保有する仮想通貨の過去の取引実績及び当該保有する仮想通貨が取引の対象とされている仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所の状況等を勘案し、個々の仮想通貨の実態に応じて判断することが考えられる。
上記の判断に際して、例えば、合理的な範囲内で入手できる価格情報が仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所ごとに著しく異なっていると認められる場合や、売手と買手の希望する価格差が著しく大きい場合には、通常、市場は活発ではないと判断されるものと考えられる(本実務対応報告第47項)。
(5)活発な市場が存在する仮想通貨の市場価格 本実務対応報告では、仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、保有している活発な市場が存在する仮想通貨の期末評価において、市場価格として仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所で取引の対象とされている仮想通貨の取引価格を用いるときは、保有する仮想通貨の種類ごとに、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格(取引価格がない場合には、仮想通貨取引所の気配値又は仮想通貨販売所が提示する価格)を用いることとしている(本実務対応報告第9項)。
なお、仮想通貨交換業者において、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所が自己の運営する仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所である場合、当該仮想通貨交換業者は、自己の運営する仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格等(取引価格、仮想通貨取引所の気配値及び仮想通貨販売所が提示する価格をいう。)が「公正な評価額」を示している市場価格であるときに限り、時価として期末評価に用いることができるとしている(本実務対応報告第10項)。
(6)仮想通貨の取引に係る活発な市場の判断の変更時の取扱い 本実務対応報告では、活発な市場が存在する仮想通貨が、その後、活発な市場が存在しない仮想通貨となった場合、活発な市場が存在しない仮想通貨となる前に最後に観察された市場価格に基づく価額をもって取得原価とし、評価差額は当期の損益として処理することとし、活発な市場が存在しない仮想通貨となった後の期末評価は、活発な市場が存在しない仮想通貨として行うこととしている(本実務対応報告第11項)。
また、活発な市場が存在しない仮想通貨が、その後、活発な市場が存在する仮想通貨となった場合、その後の期末評価は、活発な市場が存在する仮想通貨として行うこととしている(本実務対応報告第12項)。
(7)仮想通貨の売却損益の認識時点 仮想通貨の売買取引については、売買の合意が行われた後において、取引情報がネットワーク上の有高として記録されるプロセス等は仮想通貨の種類や仮想通貨交換業者により様々であるものの、通常、売手は売買の合意が成立した時点で売却した仮想通貨の価格変動リスク等に実質的に晒されておらず、売却損益は確定していると考えられる。
そのため、本実務対応報告では、売却損益の認識時点として売買の合意が成立した時点とする判断基準を示すことにより、確定した売却損益を財務諸表に反映させることができ、かつ、仮想通貨の売却損益の認識時点に関する判断の実務上の多様性も抑えられると考えられることから、仮想通貨の売却損益の認識時点を売買の合意が成立した時点とする方法を採用することとしている(本実務対応報告第13項及び第53項)。
3 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理
(1)預かった仮想通貨に係る資産及び負債の認識 仮想通貨交換業者は、預託者との預託の合意に基づき、例えば、仮想通貨交換業者が預託者に保有する仮想通貨を売却した後に預託者の仮想通貨を預かることや仮想通貨交換業者が預託者から仮想通貨の送付を受けることにより、仮想通貨の預託を受けることがある。
前述のような仮想通貨交換業者が預託者との預託の合意に基づいて預かった仮想通貨は、自己が保有する仮想通貨と明確に区分し、かつ、預かった仮想通貨についてどの預託者から預かった仮想通貨であるかが直ちに判別できる状態(各預託者の仮想通貨の数量が帳簿により直ちに判別できる状態を含む。)で管理することが「仮想通貨交換業者に関する内閣府令」(平成29年内閣府令第7号)において求められているものの、仮想通貨の私法上の位置づけが明確ではない中で、一般に仮想通貨自体には現金と同様に個別性がなく、預かった仮想通貨については仮想通貨交換業者が処分に必要な暗号鍵等を保管することから、仮想通貨交換業者は預託者から預かった仮想通貨を自己の保有する仮想通貨と同様に処分することができる状況にある。また、預かり資産として預託者の仮想通貨を受け入れた場合に、仮想通貨交換業者が破産手続の開始決定を受けたときには、現時点においては、仮想通貨交換業者の破産財団に組み込まれた預託者の仮想通貨について預託者の所有権に基づく取戻権は認められていないと言われている(本実務対応報告第55項)。
本実務対応報告では、これらの状況を踏まえ、自己が保有する仮想通貨との同質性を重視し、現金の預託を受ける場合と同様に、仮想通貨交換業者は預託者との預託の合意に基づいて預かった時において、その時点の時価により資産として計上することとしている(本実務対応報告第14項及び第56項)。
また、仮想通貨交換業者は、同時に、預託者に対する返還義務を負債として認識し、当該負債の当初認識時の帳簿価額は、預かった仮想通貨に係る資産の帳簿価額と同額とすることとしている(本実務対応報告第14項)。
(2)預かった仮想通貨に係る期末の資産の評価及び負債の貸借対照表価額 本実務対応報告では、仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨に係る資産の期末の帳簿価額について、仮想通貨交換業者が保有する同一種類の仮想通貨から簿価分離したうえで、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の分類に応じて、仮想通貨交換業者の保有する仮想通貨と同様の方法により評価を行うこととしている。
また、本実務対応報告では、仮想通貨交換業者が預託者への返還義務として計上した負債の期末の貸借対照表価額を、対応する預かった仮想通貨に係る資産の期末の貸借対照表価額と同額とし、預託者から預かった仮想通貨に係る資産及び負債の期末評価からは損益を計上しないこととしている(本実務対応報告第15項)。
4 開 示
(1)表示 本実務対応報告では、仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が仮想通貨の売却取引を行う場合、当該仮想通貨の売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示することとしている(本実務対応報告第16項)。
(2)注記事項 本実務対応報告では、仮想通貨交換業者、仮想通貨利用者のそれぞれに対し、図表3に示した注記事項が定められている。ただし、仮想通貨交換業者は、仮想通貨交換業者の期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額及び預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額を合算した額が資産総額に比して重要でない場合に注記を省略することができるとし、仮想通貨利用者は、仮想通貨利用者の期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額が資産総額に比して重要でない場合に注記を省略することができるとしている(本実務対応報告第17項)。
5 適用時期 本実務対応報告は、平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することとしている。
また、本実務対応報告を速やかに適用することへのニーズが想定されることから、本実務対応報告を公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から早期適用することも認めることとしている(本実務対応報告第18項)。
脚注
1 本実務対応報告の全文については、ASBJのウェブサイト(https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/practical_solution/y2018/2018-0314.html)を参照のこと。
2 「通貨建資産」とは、本邦通貨若しくは外国通貨をもって表示され、又は本邦通貨若しくは外国通貨をもって債務の履行、払戻しその他これらに準ずるものが行われることとされている資産をいう(資金決済法第2条第6項)。
3 本図表の作成にあたって、資金決済法及び金融庁より公表されている「仮想通貨交換業者関係(事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係16)」を参考としている。
4 「関係会社」とは、企業の親会社(企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第6項に定める親会社をいう。)、子会社(同項に定める子会社をいう。)及び関連会社(企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」第5項に定める関連会社をいう。以下同じ。)並びに企業が他の企業の関連会社である場合における当該他の企業をいう。
実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」について
企業会計基準委員会 専門研究員 橋本浩史
Ⅰ はじめに
企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成30年3月14日に、実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表した(脚注1)。本稿では、本実務対応報告の概要を紹介する。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。
Ⅱ 公表の経緯
平成28年に公布された「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第62号)により、「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という。)が改正された。本改正では、資金決済法において仮想通貨が定義された上で、仮想通貨交換業者(資金決済法第2条第8項に規定する仮想通貨交換業者をいう。以下同じ。)に対して登録制が新たに導入され、平成29年4月1日の属する事業年度の翌事業年度より、仮想通貨交換業者に対しては、その財務諸表の内容について公認会計士又は監査法人による財務諸表監査が義務付けられている(資金決済法第63条の14第3項)。
これを受けて、平成29年3月に開催された第357回企業会計基準委員会において、基準諮問会議より、仮想通貨交換業者に対する財務諸表監査制度の円滑な運用の観点及び仮想通貨に係る会計処理が明確にされない場合には多様な会計実務が形成される可能性がある点を踏まえ、仮想通貨に係る会計上の取扱いについて早急に検討を行うことが提言された。この提言を受けて、ASBJでは平成29年4月より仮想通貨に係る会計上の取扱いに関する検討を開始し、平成30年3月に本実務対応報告を公表している。
なお、本実務対応報告は、平成29年12月6日に公表した実務対応報告公開草案第53号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(案)」に対して寄せられた意見を踏まえて検討を行い、公開草案の内容を一部修正した上で公表するに至ったものである。
Ⅲ 本実務対応報告の目的
本実務対応報告は、仮想通貨の会計処理及び開示に関する当面の取扱いとして、必要最小限の項目について、実務上の取扱いを明らかにすることを目的としている(本実務対応報告第2項)。
そのため、本実務対応報告では、仮想通貨に関連するビジネスが初期段階にあり、現時点では今後の進展を予測することは難しいことや仮想通貨の私法上の位置づけが明らかではないことを踏まえ、当面必要と考えられる最小限の項目に関する会計上の取扱いのみを定めている。本実務対応報告において定めのない事項については、今後の仮想通貨のビジネスの発展や会計に関連する実務の状況により、市場関係者の要望に基づき、別途の対応を図ることの要否を判断することになると考えられる。
Ⅳ 本実務対応報告の概要
1 適用範囲
(1)資金決済法における仮想通貨の概要 いわゆる仮想通貨(virtual currency)は、FATF(The Financial Action Task Force、金融活動作業部会)から公表されたガイダンスによると「電子的に取引可能であり、かつ、交換手段、計量単位、又は価値の蓄積として機能する電子的な価値の表章であるが、いかなる法域においても法定通貨(すなわち、債権者に供された場合に、法的に有効な支払の提供となるもの)としての地位を有さないもの」であるとされている。
また、仮想通貨は、法定通貨及び電子マネー(e-money)との比較で以下のような特徴を有するとされている。
① 仮想通貨は、硬貨や紙幣である各法域の法定通貨とは異なる。法定通貨は法的に通貨として指定され、流通し、発行国において交換媒体として使用され、受け入れられている。
② 仮想通貨は、電子的価値として移転され、法定通貨の単位で表示された電子マネーとは異なる。電子マネーは、法定通貨の電子的な価値移転に係る仕組みであり、法定通貨としての価値を電子的に移転する。
一方、資金決済法上の仮想通貨は、次のいずれかに該当するものと定義されている(資金決済法第2条第5項第1号及び第2号)。
① 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産(脚注2)を除く。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
② 不特定の者を相手方として、①の仮想通貨と相互に交換を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
資金決済法では、前払式支払手段発行者が発行するいわゆる「プリペイドカード」や、ポイント・サービス(財・サービスの販売金額の一定割合に応じてポイントを発行するサービスや、来場や利用ごとに一定額のポイントを発行するサービス等)における「ポイント」は、資金決済法上の仮想通貨には該当しないとされている。また、いわゆる仮想通貨が資金決済法上の仮想通貨に該当するか否かは、個別事例ごとに取引の実態に即して実質的に判断されるとされている(図表1参照)。

(2)本実務対応報告の適用範囲の検討 前述のとおり、仮想通貨交換業者に対する財務諸表監査制度の円滑な運用が仮想通貨に係る会計上の取扱いに関する検討を開始する契機であったこと、及び本実務対応報告での適用範囲を明確にすることから、本実務対応報告では、その適用範囲を資金決済法上の仮想通貨としている(本実務対応報告第3項本文)。
当該適用範囲に関して、公開草案に寄せられたコメントでは、いわゆるICO(Initial Coin Offering)などにより企業が仮想通貨を発行した場合の会計処理を明確にすべきとの意見があった。
この点、本実務対応報告においては、当面必要と考えられる最小限の項目に関する会計上の取扱いのみを定めることとしており、また、企業が発行した仮想通貨に関する論点としては、例えば、①対価を得て発行した仮想通貨について負債を計上するのか利益を計上するのか、②自己に割り当てた仮想通貨を会計処理の対象とするのか等が考えられるが、公開草案における会計処理等の検討に際しては、自己以外の者により発行されている仮想通貨の会計処理についてのみ議論が行われており、自己の発行した仮想通貨の取引の実態とそこから生じる論点が網羅的に把握されていない状況にある。
したがって、自己の発行した仮想通貨(発行した時点においては仮想通貨に該当しないが、その後仮想通貨に該当することとなったものを含む。)については、本実務対応報告の範囲から除外することとした。なお、自己の関係会社(脚注4)により仮想通貨の発行が行われる事例が見られるため、自己の関係会社が発行した仮想通貨(発行した時点においては仮想通貨に該当しないが、その後仮想通貨に該当することとなったものを含む。)も、本実務対応報告の範囲から除外している(本実務対応報告第3項ただし書き)。
なお、いわゆる「マイニング」(採掘)などにより取得した仮想通貨は、通常、自己(自己の関係会社を含む。)以外の者により発行されているため、ここでいう自己(自己の関係会社を含む。)の発行した仮想通貨には該当しないことから、本実務対応報告の範囲に含まれることに留意する必要がある(本実務対応報告第26項)。
2 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理
(1)仮想通貨の会計上の資産性の有無 我が国における会計基準では、多くの場合、法律上の権利を会計上の資産として取り扱っているが、必ずしも法律上の権利に該当することが会計上の資産に該当するための要件とはされていない。
この点、仮想通貨は、法律上の権利に該当するかどうかは明らかではないが、売買・換金を通じて資金の獲得に貢献する場合も考えられることから、本実務対応報告では仮想通貨を会計上の資産として取り扱い得るとしている(本実務対応報告第27項)。
(2)既存の会計基準との関係 仮想通貨については、直接的に参照可能な既存の会計基準は存在しないことから、本実務対応報告では、仮想通貨に関する会計処理について既存の会計基準を適用せず、仮想通貨独自のものとして新たに会計処理を定めることとしている(本実務対応報告第33項)。
(3)期末における仮想通貨の評価に関する会計処理 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者(仮想通貨を利用する企業のうち、仮想通貨交換業者以外の者をいう。以下同じ。)が保有する仮想通貨(仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨を除く。以下同じ。)について、本実務対応報告では、期末における評価に関する会計処理を、図表2のとおりとしている。
【図表2】期末における仮想通貨の評価に関する会計処理 |
① 保有する仮想通貨に活発な市場が存在する場合、市場価格に基づく価額をもって当該仮想通貨の貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理する(本実務対応報告第5項)。 ② 保有する仮想通貨に活発な市場が存在しない場合、取得原価をもって貸借対照表価額とする。期末における処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む。)が取得原価を下回る場合には、当該処分見込価額をもって貸借対照表価額とし、取得原価と当該処分見込価額との差額は当期の損失として処理する(本実務対応報告第6項)。 ③ 前期以前において、仮想通貨の取得原価と処分見込価額との差額を損失として処理した場合、当該損失処理額について、当期に戻入れを行わない(本実務対応報告第7項)。 |
本実務対応報告では、期末における仮想通貨の評価に関する会計処理を検討するにあたっては、これまでの我が国の会計基準における評価基準に関する考え方を参考に、資産の保有目的や活発な市場の有無の観点から基本的な考え方を整理している(本実務対応報告第34項)。
これまでの我が国の会計基準では、資産の保有目的について、売買目的有価証券やトレーディング目的で保有する棚卸資産など時価の変動により利益を得ることを目的として保有する資産については時価で評価することが適当とされており、通常の販売目的で保有する棚卸資産や製造設備など時価の変動ではなく事業活動を通じた資金の獲得を目的として保有する資産については取得原価で評価することが適当とされている(本実務対応報告第35項)。
ここで、活発な市場が存在する仮想通貨は、主に時価の変動により売却利益を得ることや決済手段として利用すること、仮想通貨交換業者が業務の一環として仮想通貨販売所を営むために仮想通貨を一時的に保有することを目的として保有されることが現時点において想定される。このため、活発な市場が存在する仮想通貨は、いずれも仮想通貨の時価の変動により保有者が価格変動リスクを負うものであり、時価の変動により利益を得ることを目的として保有するものに分類することが適当と考えられる(本実務対応報告第36項)。
一方、活発な市場が存在しない仮想通貨は、時価を客観的に把握することが困難であることが多く、また、時価により直ちに売買・換金を行うことに事業遂行上等の制約があることから、時価の変動を企業活動の成果とは捉えないことが適当と考えられる(本実務対応報告第37項)。
以上より、仮想通貨の評価基準については、資産の保有目的や活発な市場の有無の観点に基づいて区分し、活発な市場が存在する仮想通貨については市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理することとし、活発な市場が存在しない仮想通貨については取得原価をもって貸借対照表価額とすることとしている(本実務対応報告第38項)。
また、我が国の会計基準においては、取得原価をもって貸借対照表価額とする資産の収益性が低下した場合、取得原価基準の下で回収可能性を反映させるように、過大な帳簿価額を減額し、将来に損失を繰り延べないために回収可能価額まで帳簿価額を切り下げる会計処理が行われている。この点を踏まえると、活発な市場が存在しない仮想通貨についても、売買・換金によって資金の回収を図ることが想定されるため、評価時点における資金回収額を示す正味売却価額(時価から処分見込費用を控除して算定される金額をいう。以下同じ。)がその帳簿価額を下回っているときには、収益性が低下していると考え、帳簿価額の切下げを行うことが適当であると考えられる。ここで、活発な市場が存在しない仮想通貨は、市場価格がなく、客観的な価額としての時価を把握することが困難な場合が多いと想定されることから、一般的に時価を基礎とした正味売却価額を見積ることは困難であると考えられるため、処分見込価額まで帳簿価額を切り下げることとしている。
前述の処分見込価額の具体的な見積りは、例えば、独立第三者の当事者との相対取引を行った場合の価額等、資金の回収が確実な金額に基づくことが考えられるが、資金の回収が確実な金額を見積ることが困難な場合にはゼロ又は備忘価額を処分見込価額とすることになると考えられる(本実務対応報告第43項)。
なお、前期以前に行った資産の帳簿価額の切下げの会計処理については、切放し法(前期以前に計上した損失処理額の戻入れを、当期に行わない方法をいう。)と洗替え法(前期以前に計上した損失処理額の戻入れを、当期に行う方法をいう。)の2つの方法があるが、活発な市場が存在しない仮想通貨の場合、その取引形態や価格形成の仕組みが現状において明らかではないことから、期末日における処分を前提として処分見込価額まで簿価を切り下げた後には、保守的に切放し法のみを認めることとしている(本実務対応報告第44項)。
(4)活発な市場の判断規準 本実務対応報告では、活発な市場が存在する場合とは、仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者の保有する仮想通貨について、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合をいうものとしている(本実務対応報告第8項)。
ここで、「継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合」については、保有する仮想通貨の種類、当該保有する仮想通貨の過去の取引実績及び当該保有する仮想通貨が取引の対象とされている仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所の状況等を勘案し、個々の仮想通貨の実態に応じて判断することが考えられる。
上記の判断に際して、例えば、合理的な範囲内で入手できる価格情報が仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所ごとに著しく異なっていると認められる場合や、売手と買手の希望する価格差が著しく大きい場合には、通常、市場は活発ではないと判断されるものと考えられる(本実務対応報告第47項)。
(5)活発な市場が存在する仮想通貨の市場価格 本実務対応報告では、仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、保有している活発な市場が存在する仮想通貨の期末評価において、市場価格として仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所で取引の対象とされている仮想通貨の取引価格を用いるときは、保有する仮想通貨の種類ごとに、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格(取引価格がない場合には、仮想通貨取引所の気配値又は仮想通貨販売所が提示する価格)を用いることとしている(本実務対応報告第9項)。
なお、仮想通貨交換業者において、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所が自己の運営する仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所である場合、当該仮想通貨交換業者は、自己の運営する仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格等(取引価格、仮想通貨取引所の気配値及び仮想通貨販売所が提示する価格をいう。)が「公正な評価額」を示している市場価格であるときに限り、時価として期末評価に用いることができるとしている(本実務対応報告第10項)。
(6)仮想通貨の取引に係る活発な市場の判断の変更時の取扱い 本実務対応報告では、活発な市場が存在する仮想通貨が、その後、活発な市場が存在しない仮想通貨となった場合、活発な市場が存在しない仮想通貨となる前に最後に観察された市場価格に基づく価額をもって取得原価とし、評価差額は当期の損益として処理することとし、活発な市場が存在しない仮想通貨となった後の期末評価は、活発な市場が存在しない仮想通貨として行うこととしている(本実務対応報告第11項)。
また、活発な市場が存在しない仮想通貨が、その後、活発な市場が存在する仮想通貨となった場合、その後の期末評価は、活発な市場が存在する仮想通貨として行うこととしている(本実務対応報告第12項)。
(7)仮想通貨の売却損益の認識時点 仮想通貨の売買取引については、売買の合意が行われた後において、取引情報がネットワーク上の有高として記録されるプロセス等は仮想通貨の種類や仮想通貨交換業者により様々であるものの、通常、売手は売買の合意が成立した時点で売却した仮想通貨の価格変動リスク等に実質的に晒されておらず、売却損益は確定していると考えられる。
そのため、本実務対応報告では、売却損益の認識時点として売買の合意が成立した時点とする判断基準を示すことにより、確定した売却損益を財務諸表に反映させることができ、かつ、仮想通貨の売却損益の認識時点に関する判断の実務上の多様性も抑えられると考えられることから、仮想通貨の売却損益の認識時点を売買の合意が成立した時点とする方法を採用することとしている(本実務対応報告第13項及び第53項)。
3 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理
(1)預かった仮想通貨に係る資産及び負債の認識 仮想通貨交換業者は、預託者との預託の合意に基づき、例えば、仮想通貨交換業者が預託者に保有する仮想通貨を売却した後に預託者の仮想通貨を預かることや仮想通貨交換業者が預託者から仮想通貨の送付を受けることにより、仮想通貨の預託を受けることがある。
前述のような仮想通貨交換業者が預託者との預託の合意に基づいて預かった仮想通貨は、自己が保有する仮想通貨と明確に区分し、かつ、預かった仮想通貨についてどの預託者から預かった仮想通貨であるかが直ちに判別できる状態(各預託者の仮想通貨の数量が帳簿により直ちに判別できる状態を含む。)で管理することが「仮想通貨交換業者に関する内閣府令」(平成29年内閣府令第7号)において求められているものの、仮想通貨の私法上の位置づけが明確ではない中で、一般に仮想通貨自体には現金と同様に個別性がなく、預かった仮想通貨については仮想通貨交換業者が処分に必要な暗号鍵等を保管することから、仮想通貨交換業者は預託者から預かった仮想通貨を自己の保有する仮想通貨と同様に処分することができる状況にある。また、預かり資産として預託者の仮想通貨を受け入れた場合に、仮想通貨交換業者が破産手続の開始決定を受けたときには、現時点においては、仮想通貨交換業者の破産財団に組み込まれた預託者の仮想通貨について預託者の所有権に基づく取戻権は認められていないと言われている(本実務対応報告第55項)。
本実務対応報告では、これらの状況を踏まえ、自己が保有する仮想通貨との同質性を重視し、現金の預託を受ける場合と同様に、仮想通貨交換業者は預託者との預託の合意に基づいて預かった時において、その時点の時価により資産として計上することとしている(本実務対応報告第14項及び第56項)。
また、仮想通貨交換業者は、同時に、預託者に対する返還義務を負債として認識し、当該負債の当初認識時の帳簿価額は、預かった仮想通貨に係る資産の帳簿価額と同額とすることとしている(本実務対応報告第14項)。
(2)預かった仮想通貨に係る期末の資産の評価及び負債の貸借対照表価額 本実務対応報告では、仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨に係る資産の期末の帳簿価額について、仮想通貨交換業者が保有する同一種類の仮想通貨から簿価分離したうえで、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の分類に応じて、仮想通貨交換業者の保有する仮想通貨と同様の方法により評価を行うこととしている。
また、本実務対応報告では、仮想通貨交換業者が預託者への返還義務として計上した負債の期末の貸借対照表価額を、対応する預かった仮想通貨に係る資産の期末の貸借対照表価額と同額とし、預託者から預かった仮想通貨に係る資産及び負債の期末評価からは損益を計上しないこととしている(本実務対応報告第15項)。
4 開 示
(1)表示 本実務対応報告では、仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が仮想通貨の売却取引を行う場合、当該仮想通貨の売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示することとしている(本実務対応報告第16項)。
(2)注記事項 本実務対応報告では、仮想通貨交換業者、仮想通貨利用者のそれぞれに対し、図表3に示した注記事項が定められている。ただし、仮想通貨交換業者は、仮想通貨交換業者の期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額及び預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額を合算した額が資産総額に比して重要でない場合に注記を省略することができるとし、仮想通貨利用者は、仮想通貨利用者の期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額が資産総額に比して重要でない場合に注記を省略することができるとしている(本実務対応報告第17項)。
【図表3】注記事項(本実務対応報告第17項) |
仮想通貨 交換業者 | 仮想通貨 利用者 | |
①期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額 | ○ | ○ |
②預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額 | ○ | - |
③期末日において保有する仮想通貨について、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の別に、仮想通貨の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額 | ○ | ○ |
○:注記事項 |
5 適用時期 本実務対応報告は、平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することとしている。
また、本実務対応報告を速やかに適用することへのニーズが想定されることから、本実務対応報告を公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から早期適用することも認めることとしている(本実務対応報告第18項)。
脚注
1 本実務対応報告の全文については、ASBJのウェブサイト(https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/practical_solution/y2018/2018-0314.html)を参照のこと。
2 「通貨建資産」とは、本邦通貨若しくは外国通貨をもって表示され、又は本邦通貨若しくは外国通貨をもって債務の履行、払戻しその他これらに準ずるものが行われることとされている資産をいう(資金決済法第2条第6項)。
3 本図表の作成にあたって、資金決済法及び金融庁より公表されている「仮想通貨交換業者関係(事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係16)」を参考としている。
4 「関係会社」とは、企業の親会社(企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第6項に定める親会社をいう。)、子会社(同項に定める子会社をいう。)及び関連会社(企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」第5項に定める関連会社をいう。以下同じ。)並びに企業が他の企業の関連会社である場合における当該他の企業をいう。
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