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解説記事2018年05月14日 【SCOPE】 退職者を被保険者とする支払保険料も損金算入可(2018年5月14日号・№738)

審判所、業務遂行上の必要性を認める
退職者を被保険者とする支払保険料も損金算入可

 法人である納税者(請求人)の従業員(退職者を含む)を被保険者(契約者および受取人は納税者)とするがん保険の支払保険料のうち、退職した従業員に係る支払保険料を損金不算入とした課税処分を国税不服審判所が取り消した(平成29年12月12日裁決・東裁(法)平29第63号)。審判所は、公正処理基準によれば損金に算入できる費用は法人の業務との関連性を有し、業務の遂行上必要と認められるものでなければならないと解釈。本件については、納税者が従業員の福利厚生を目的に保険契約を締結し、納税者が受け取る保険金が退職した従業員の見舞金等として使用されるものであることなどを認定したうえで、業務関連性および業務の遂行上必要と認められるから損金に算入することができると判断した。

社内規程に基づく福利厚生の一環、納税者を契約者としたがん保険を締結
 納税者(労働者派遣業および飲食店業等を目的とする法人)は、社内規程(以下「本件がん規程」)に基づく従業員に対する福利厚生の一環として、生命保険会社との間で納税者を契約者および受取人、従業員(退職者を含む)を被保険者とする終身がん保険契約を締結した。なお、がん保険契約では、保険料は掛け捨てで満期返戻金はないが、保険契約の解約の場合には解約返戻金が納税者に払い戻されるものとされていた。
 納税者は、法人税の確定申告の際にがん保険に係る支払保険料を損金に算入していた。これに対し課税当局は、退職した従業員を被保険者とするがん保険に係る支払保険料は納
税者の業務との関連性が認められないとしたうえで、退職した従業員を被保険者とするがん保険契約に係る支払保険料(以下「退職者支払保険料」)を損金不算入とする内容の課税処分を行った。
 これを不服とした納税者は、がん保険契約は本件がん規程に基づく退職者を含む従業員に対する福利厚生を目的としたものであり、退職者支払保険料も損金に算入されるなどと主張して、課税処分の取り消しを求める審査請求を行った(当事者の主張は参照)。

【表】退職者支払保険料の損金算入の可否をめぐる課税当局及び納税者の主張
課税当局(原処分庁) 納税者(請求人)
・法人税法の公正処理基準によれば、法人税法22条3項に規定する販売費、一般管理費その他の費用とは、収益と個別的に対応させることの困難ないわば期間費用であり、事業活動と直接関連性を有し、事業遂行上必要な費用をいうものと解されるから、支出のうち業務との関連性がないものは、損金に算入することができない。
・退職者は、納税者の業務を行うことはなく、退職者に関する費用は事業活動と直接の関連性を有する業務遂行上必要な費用であるとはいえず、業務との関連性が認められない。
・したがって、本件の退職者支払保険料は損金に算入することはできない。
・納税者は、従業員の採用時に、退職後5年間は本件がん規程記載の給付金等を支給することを書面で説明し、終身がん保険の契約時には本件がん規程を配布して保険契約書に押印してもらうことにより、従業員(被保険者)に周知し、退職予定者に対する案内文にも退職後も本件がん規程によりがん診断給付金を支給すると明記している。
・本件の退職者支払保険料は、退職した従業員も一定期間はがん保険に加入することにより、退職後の生活の安定を図り、従業員に対する福利厚生を目的とした支出であり、法人税法上の福利厚生費の範囲には従業員であった者も含むと解されている(措通61の4(1)-10(福利厚生費と交際費等との区分)の(2)参照)。
・したがって、本件の退職者支払保険料は損金に算入することができる。

 国税不服審判所はまず、法人税法22条の公正処理基準によれば内国法人の所得金額の計算上、損金に算入できる販売費、一般管理費その他の費用とは、その法人の業務との関連性を有し、業務の遂行上必要と認められるものでなければならないという解釈を示した。
 そして本件のがん保険契約については、従業員の福利厚生を目的として治療費補助等制度に基づく見舞金等または弔慰金の原資とするために締結されたものであると認定。また、がん保険契約は従業員が納税者を退職した後も5年間については退職者ががんに罹患またはがんにより死亡した場合に受取保険金を原資として退職者に見舞金または弔慰金を支払うことを約したものであると認定した。
 以上を踏まえ審判所は、がん保険契約に係る退職者支払保険料は納税者の業務との関連性を有し、業務の遂行上必要と認められるから、損金に算入できるという判断を示した。
受取保険金や解約返戻金は益金に算入  また審判所は、がん保険契約は納税者が保険金受取人および保険料負担者となっており、納税者が受け取る保険金および解約返戻金は納税者の益金に算入されるべきものであり、支払保険料は収益(受取保険金等)獲得のために費消された財貨と認められることから、この点からも退職者支払保険料は損金に算入できるとするのが相当であるとした。

退職者に係る保険料は業務関連性がないとした課税当局の主張を斥ける
 裁決のなかで課税当局は、退職者は納税者の業務を行うことはなく、退職者に関する費用は事業活動と直接の関連性を有する業務遂行上必要な費用であるとはいえないから、業務関連性が認められず、損金に算入できないと主張していた。これに対し審判所は、退職者を被保険者とした福利厚生目的の保険契約に係る支払保険料を一定の条件の下に法人の所得金額の計算上、損金に算入して差し支えない旨の取扱いが個別通達(昭和49年4月20日直審3-59ほか「団体定期保険の被保険者に退職者を含める場合の保険料の税務上の取扱いについて」及び昭和60年2月28日直審3-30ほか「定年退職者医療保険制度に基づき負担する保険料の課税上の取扱いについて」)で明らかにされていることからしても、従業員が退職したことのみをもって退職者を被保険者とする保険契約に係る支払保険料が業務との関連性が認められない費用であるとするのは相当ではないと判断。課税当局の主張を斥けた。

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