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解説記事2018年07月16日 【ニュース特集】 当局の裁決分析から見る審査請求審理の舞台裏(2018年7月16日号・№747)

ニュース特集
隠蔽行為の認定、申述の変遷で証拠収集不足も
当局の裁決分析から見る審査請求審理の舞台裏

 税務当局が、過去の裁決事例から原処分を維持するために必要な証拠収集等の検討を行っていることがわかった。重加算税事案では、答弁書において異議調査で把握した事実も踏まえ、具体的な隠蔽行為を主張できたが、請求人が直接審査請求を行っていた場合には、重加算税の賦課決定処分が取り消される可能性も十分あったとしている。また、事業所得の帰属者が争われた事案では、申述により経営主体を自認したと評価して事実認定した結果、申述を裏付ける客観証拠の収集が不十分となったと指摘。自認事案であっても、申述の変遷などにより否認に転じる可能性を考慮し、十分な証拠収集を行う必要があるとしている。

異議調査で「一覧表」を破棄していた事実を把握
 税務当局が検討している重加算税事案は、個人で溶接業を営む審査請求人の平成19年から平成25年までの各年分の所得税および消費税について賦課決定処分が行われたもの。請求人は、特定の団体に加入し、過少に申告したのは生活費相当額は非課税と思っていたためであり隠蔽・仮装行為はない旨主張。重加算税賦課決定処分の取消しを求めて異議申立て・審査請求を行った。
根拠のない金額を収入金額から除外  税務当局は、審査請求において、異議調査で把握した事実を踏まえ、以下のとおり、請求人には隠蔽行為が認められると主張した(太字が異議調査で認定した部分)。
(1)請求人は、確定申告の際に注文書を集計する場合には、一覧表を作成し、その上で当該金額が預金口座へ振り込まれる金額と同じ金額になることを確認した旨申し述べており、請求人は真実の収入金額を認識していたものと認められる。
(2)請求人は、悪いことと知りながら、生活が苦しく、税金が払えないことから、収入をごまかして少なく申告し、税金を払わなくても済むようにしようと思った旨申し述べている。
(3)請求人は、決算書に収入金額を記載する時に、一覧表の金額から月々生活費と称する金額を引いて記載しており、根拠のない金額を収入金額から除外し、過少な収入金額を決算書に記載していた。
(4)請求人は、必要経費については帳簿に記帳しており、確定申告の際には当該帳簿に基づいて金額を算出していたものの、収入については帳簿を作成せず、真実の収入金額を算出し記載した一覧表を捨てていた図1参照)。


恣意的な計算により内容虚偽の青色申告決算書を作成
 審判所は、請求人が①事業所得に係る毎月の収入金額を正確に把握しつつ、所得税等をほとんど納付しなくて済むよう、税金を免れることを認識しながら、毎月の真実の収入金額より少ない額を恣意的に計算して本件各決算書の月別の「売上(収入)金額」欄に記載していた。②そして、その合計額を各青色申告決算書の損益計算書の「売上(収入)金額」欄に記載することにより内容虚偽の青色申告決算書を作成し、③税額を調整するために一覧表に記載した毎月の真実の収入金額から控除する金額を計算し、その計算の過程を記載したメモを証拠隠滅のために廃棄したと指摘。
 請求人の当該行為は、本件各年分の所得税等の課税標準等または税額等の基礎となる事実(収入金額の一部)を故意に脱漏し、故意に事実(真実の収入金額)をわい曲するものであるといえるから、通則法68条1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当すると判断した。

つまみ申告、業務の流れ等の確認で隠蔽・仮装行為を把握可能
 原処分が維持された理由の分析で、税務当局は、本事案を、隠蔽・仮装行為は把握できないが青色申告決算書等には意図的に過少な収入金額や所得金額が記載されたいわゆる「つまみ申告」と思われる事案であっても、業務の流れ、記帳・決算の流れを具体的に確認することにより、隠蔽・仮装行為を把握できる場合があることを示す事例であると評価。
 本事案の経緯として、原処分調査では請求人が意図的に少ない収入金額を青色申告決算書等に記載したことにより隠蔽・仮装の事実が認められるとして、重加算税を賦課決定したが、過去の裁判例や裁決事例からすると意図的な過少申告にすぎないものと判断され、重加算税の賦課決定処分が取り消される可能性が高かった。そのため、異議調査において、再度、業務の流れ、収入金額の集計方法および青色申告決算書の作成方法を詳細に確認し、具体的な収入除外の方法を把握したとしている。
異議決定時にも隠蔽認定に疑義  また、税務当局は、本事案に関して、①上記の「税額を調整するために一覧表に記載した毎月の真実の収入金額から控除する金額を計算し、その計算の過程を記載したメモを証拠隠滅のために廃棄した」という部分は、審判所において認定した事実であること、②本事案では請求人が直近3年間の注文書を保存しており、原処分調査においてその注文書を提示していることから、真実の収入金額が記載された一覧表を破棄したことをもって、収入金額を隠蔽したと認定できるのかという点は、異議決定時にも疑義があったことを明らかにした。
「メモ廃棄」の事実も把握すべきだった  そのうえで、審判所の原処分を維持するとの判断は、請求人の過少申告の意図が明確であることと、請求人の「生活費相当額は非課税であると思っていた」という根拠のない主張との比較からなされたものであると考えているが、審判所が認定した事実についても、本来は原処分調査において把握すべき事実であったとしている。
異議調査なければ取消の可能性も  さらに、税務当局は、通則法改正により可能となった直接審査請求にも言及。
 本事案では、答弁書において異議調査で把握した事実も踏まえて具体的な隠蔽行為を主張することができたため、請求人からの反論や審判所からの求釈明に対し、それほど窮することなく意見書、回答書を提出することができたが、請求人が直接審査請求を行っていた場合には、答弁書において異議調査で把握した事実に基づく主張はできなかったため、重加算税の賦課決定処分が取り消される可能性も十分あったとしている。

焼肉店の経営主体は、請求人か請求人の父か?
 事業所得の所得帰属者が争われた事例は、請求人の父が営むものとして申告等されていた飲食店の事業に係る所得等は請求人に帰属するとして、請求人および請求人の父に対して更正処分等が行われたもの。審判所は、当該事業に係る所得等は請求人の父に帰属するものと認定し、両者に対する原処分の全部を取り消している。
 本事案の概要をみると、請求人の父は、請求人の祖母が昭和43年に開業したA焼肉店(A店)に勤務し、その後、A店の経営を引き継いでいる。また、請求人の父は、平成2年には不動産の売買等および食料品の小売等を目的とした株式会社D(D社)を設立し、同社の代表取締役を務めている。賃借していたA店の建替えに伴い、請求人の父は、平成16年6月から平成17年7月頃までA店の営業を休業した。
 請求人は、他の飲食店で修業を積んだ後、平成15年1月からA店に勤務し始め、A店の改装後における食品衛生法上の営業許可は請求人が取得。A店のクレジットカード加盟店契約およびオーダーエントリーシステムのリース契約は、いずれも請求人がA店の代表者として契約している。なお、A店に係る税務申告および税務上の諸届出は、請求人の父の名義で提出されている。
 請求人は、平成22年にB焼肉店(B店)を開業。B店に係る税務申告および税務上の諸届出は、請求人の名義で提出されている。
 なお、請求人にはA店から給与が支払われており、所得税の申告には当該給与も含まれている(図2参照)。


経営の委譲は認めがたく、請求人の父の資金力に大きく依存
 審判所は、事業所得の帰属者は自己の計算と危険の下で継続的に営利活動を行う事業者であると考えられ、事業者の判断は、事業の遂行に際して行われる法律行為の名義に着目するのはもとより、当該事業への出資の状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合し、経営主体としての実態を有するかを社会通念に従って判断すべきであると指摘。
 本事案については、請求人の父の申述のとおりにA店の経営が委譲されたとは認めがたく、少なくとも平成23年当時には、請求人はA店を経営するだけの資金力を有するには至っておらず、A店の経営は、請求人の父の資金力に大きく依存していたことなどから、A店の事業に係る所得は、請求人の父に帰属すると判断した(参照)。

【表】審判所の判断のポイント
(1)A店の経営の委譲時期について、請求人の父は、原処分担当者に対し、請求人の祖母からの代替わりにより、平成2年までは自分(請求人の父)がA店を経営していたが、平成2年にD社を設立し、同社の業務に専念することとしたため請求人の兄にA店の経営を委譲したが、平成17年頃に、請求人の兄がD社の業務に専念できるようにA店の経営を請求人に引き継いだ旨申述していた。しかしながら、審判所が請求人および請求人の父に聴取したところ、経営の委譲時期に関する記憶が定かではない旨の回答があったことに加え、請求人の父が原処分担当者に申述した内容は、他の客観証拠と整合しないことから、当該申述のとおりにA店の経営が委譲されたとは認めがたい。
(2)A店の建物賃貸借契約は、請求人の父名義であり、物的設備のほとんどは、平成17年の店舗改装時に請求人の父が購入したものである。
(3)A店の店舗改装費は、請求人の父が銀行から借り入れたものであり、店舗改装費と借入金の差額は、当時の資金移動を根拠に請求人の父が負担した旨同人が回答し、これに反する証拠はない。
(4)B店の出店に伴う内装工事費用および諸経費支払資金は、請求人の父が銀行で借り入れたものである。その後、請求人は、平成23年に銀行から資金を借り入れているが、その際には請求人の父の定期預金が担保提供されている。その後の資金調達および返済の状況からすると、少なくとも平成23年当時には、請求人はA店を経営するだけの資金力を有するには至っておらず、A店の経営は、請求人の父の資金力に大きく依存していたことになる。
(5)請求人がいずれA店の経営を引き継ぐことを前提にA店の勤務を開始した立場であることからすれば、請求人がA店の事業遂行上行われる法律行為等を自らの名義で行い、また、経費の一部を負担していたとしても、請求人が経営者であると認定することはできない。
(6)A店の収支管理を請求人および同人の妻が行い、また、従業員の採用および昇給の決定を請求人が行っていたとしても、請求人の父が、ゆくゆくは事業を承継する請求人に店長としてかなりの裁量を持たせ、また、経理担当者である請求人の妻に収支の管理をさせていたにすぎなかったといえるにとどまり、請求人が経営者であると認定することはできない。
(7)請求人および同人の妻が、給与等の金額を超えてA店の収益を享受していたとは認められない。一方で、請求人の父は、A店の収益を享受していなかったが、A店は連年損失が生じていたことからすれば、請求人の父が経営者であり、請求人が従業員であるとの前提と整合する。

申述を主張の柱とし、経営主体を認定するための証拠を欠く
 税務当局は、取消原因の分析で、以下の経緯を明らかにしている。
(1)原処分では、請求人の父の申述である①経営の委譲がなされていたこと、②A店の営業許可申請を請求人が行っていたことは知らなかったこと、③A店の売上げや資金繰りに影響するクレジットカード加盟店契約に反対したにもかかわらず、請求人が契約したこと、④A店の入出金内容を把握していないことを主張の柱として、A店に係る所得の帰属者は請求人であると認定した。
(2)しかし、審査請求では、請求人側から消極証拠が多数提出されるとともに、営業許可や契約名義の相違について合理的な反論がなされ、これを打ち消すことができなかったことから、A店の経営主体が請求人であることを認定するに足りる証拠を欠くこととなった。
認定が不十分で、容易に反論を許した  そして、この状況について税務当局は、①請求人側に容易に反論を許したのは、原処分庁の認定が不十分であることに基因し、②消極証拠を打ち消せなかったのは、申述により経営主体を自認したものと評価して事実認定した結果、申述を裏付ける客観証拠の収集および事実関係の検討が不十分となったためであると分析。
 調査中に非違を自認する旨の申述を行っていたとしても、その後の調査の状況によっては申述を変遷させるなどして否認に転じる可能性は否定できないことから、自認事案であったとしても、十分な証拠収集と事実関係の検討を行う必要があるとしている。

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