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解説記事2018年07月30日 【解説】 コーポレートガバナンス・コードの改訂と「投資家と企業の対話ガイドライン」の概要(2018年7月30日号・№749)

解説
コーポレートガバナンス・コードの改訂と「投資家と企業の対話ガイドライン」の概要
 前金融庁総務企画局 企業開示課 専門官 安井桂大
 金融庁企画市場局 企業開示課 コーポレートガバナンス係長 藤田直文
 東京証券取引所 上場部 企画グループ調査役 水越恭平

Ⅰ はじめに

 本年6月1日、東京証券取引所をはじめとする全国の証券取引所において、コーポレートガバナンス・コードの改訂版(以下「改訂版コード」という)が、また、金融庁において、「投資家と企業の対話ガイドライン」(以下「対話ガイドライン」という)が、それぞれ公表された。
 コーポレートガバナンス改革については一定の進捗が見られているが、現状を見ると、多くの企業において、なお経営陣による果断な経営判断が行われていないのではないかなど、様々な課題が指摘されている。また、投資家についても、企業との対話の内容が依然として形式的なものにとどまっており、企業に「気づき」をもたらす例は限られているとの指摘がなされている。
 こうした指摘を踏まえ、金融庁・東京証券取引所に設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(座長:池尾和人立正大学経済学部教授)(以下「フォローアップ会議」という)において、2017年10月以降、コーポレートガバナンス改革の進捗状況の検証が行われ、本年3月26日、「コーポレートガバナンス・コードの改訂と投資家と企業の対話ガイドラインの策定について」と題する提言(以下「提言」という)が公表された。提言においては、コーポレートガバナンス改革をより実質的なものへと深化させていくため、コーポレートガバナンス・コードの改訂が提言され、また、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コード(以下「両コード」という)の実効的な「コンプライ・オア・エクスプレイン」を促すため、コードの改訂にあわせ、機関投資家と企業の対話において重点的に議論することが期待される事項を取りまとめた対話ガイドラインを策定することが提言された。
 これを受け、全国の証券取引所において提言で示されたコードの改訂案について、また、金融庁において対話ガイドライン案について、それぞれパブリックコメント手続が行われ、本年6月1日に改訂版コード及び対話ガイドラインが公表された。

Ⅱ 本改訂及び対話ガイドラインの概要
 今般のコーポレートガバナンス・コードの改訂(以下「本改訂」という)及び対話ガイドラインの主なポイントは、図表1のとおりである。

 今般新たに策定された対話ガイドラインは、その前文に示されているとおり、両コードの附属文書として位置付けられるものであり、機関投資家と企業との対話において、重点的に議論することが期待される事項を取りまとめたものである。このため、その内容自体について、「コンプライ・オア・エクスプレイン」が求められるものではないが、企業がコードの各原則を実施する場合(各原則が求める開示を行う場合を含む)や、実施しない理由の説明を行う場合には、対話ガイドラインの趣旨を踏まえることが期待されている。
 以下、対話ガイドラインに示されている項目の順に従って、本改訂及び対話ガイドラインの概要について解説を行う。以下では、それぞれのコード改訂に対応した形で対話ガイドラインの内容を説明しているが、対話ガイドラインの趣旨を踏まえ、投資家と企業との間で建設的な対話が行われることが期待される。

1 経営環境の変化に対応した経営判断及び投資戦略・財務管理の方針(改訂版コード原則5-2/対話ガイドライン1-1~1-3並びに2-1及び2-2)  日本企業を巡っては、企業価値の向上に向けてガバナンス改革に取り組む企業も見られる一方、なお多くの企業において経営環境の変化に応じた果断な経営判断が行われておらず、例えば、事業ポートフォリオの見直しが必ずしも十分に行われていないとの指摘がなされている。その背景として、経営陣の資本コストに対する意識が未だ不十分であることや、企業が資本コストを上回るリターンを上げられているかどうかについて、投資家と企業の間に認識の相違があることなどが指摘されている。
 こうした状況を踏まえ、提言においては、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現していくためには、「事業ポートフォリオの見直しなどの果断な経営判断が重要であることや、そうした経営判断を行っていくために、自社の資本コストを的確に把握すべきことを明確化する必要がある」、「戦略的・計画的に設備投資・研究開発投資・人材投資等を行っていくことも重要である」との考え方が示された。また、戦略的・計画的に投資を行っていく際には、投資戦略と整合的で、資本コストを意識した適切な財務管理を行っていくことが重要であるとされた。
 改訂版コード原則5-2は、こうした考え方に沿って、それぞれの企業において、自社の資本コストを的確に把握することを求めるとともに、従前から説明が求められていた「経営資源の配分等」の中に、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等が含まれることを明確化したものである。
 こうした点についての対話を促すため、対話ガイドライン1-1~1-3並びに2-1及び2-2に、対応する項目が設けられている。

2 CEOの選解任・取締役会の機能発揮等
(1)CEOの選解任・育成等(改訂版コード補充原則4-1③、補充原則4-3②・③、原則3-1/対話ガイドライン3-1~3-4)
 (i)CEOの選解任
 フォローアップ会議の意見書(脚注1)などにおいて、経営陣幹部の中でも、特にCEOの選解任は、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現していく上で、最も重要な戦略的意思決定であり、社内論理のみが優先される不透明な手続によることなく、客観性・適時性・透明性ある手続によることが求められるとの指摘がなされたことを踏まえ、改訂版コードにおいて補充原則4-3②が新設され、この点が明確にされた。また、CEOがその機能を十分に発揮していないと認められる場合には、CEOを解任できる仕組みを整えておくことが重要であるとの指摘がなされたことを踏まえ、補充原則4-3③が新設され、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続の確立が求められることとされた。
 あわせて、CEOの選解任手続について、投資家と企業との間で対話が十分に行われることに資するよう、原則3-1が改訂され、取締役会が経営陣幹部の選任を行うに当たっての方針と手続に加えて、解任を行うに当たっての方針と手続についても新たに開示すべき事項の対象とされた。
 対話ガイドライン3-2及び3-4においても、こうした点についての対話を促すため、改訂版コード補充原則4-3②・③と同様の趣旨が示されている。更に、対話ガイドライン3-1においては、「CEOに求められる資質について、確立された考え方があるか」との点が示されている。
 (ii)後継者計画  フォローアップ会議においては、CEOの選解任は、企業の最も重要な戦略的意思決定であり、現職のCEOの一存に委ねるといった対応ではなく、CEOの後継者候補の育成に十分な時間と資源をかけて取り組むことが、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現していく上で、特に重要と考えられるとの指摘がなされた。そうした指摘を踏まえ、改訂版コード補充原則4-1③において、取締役会として主体的に後継者計画の策定・運用に関与し、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう適切に監督することを求めることとされた。
 こうした点についての対話を促すため、対話ガイドライン3-3に対応する項目が設けられている。
(2)経営陣の報酬決定(改訂版コード補充原則4-2①/対話ガイドライン3-5)  改訂版コード補充原則4-2①は、経営陣による企業の持続的な成長に向けた健全な企業家精神の発揮に資するインセンティブ付けの観点から、経営陣の報酬制度の設計及び具体的な報酬額の決定を、取締役会の責任の下で、客観性・透明性ある手続によって決定することを求めるものである。
 実務においては、具体的な報酬額の決定を、取締役会から代表取締役等に再一任する対応も行われている。補充原則4-2①は、こうした実務それ自体を否定するものではないが、再一任を行う場合に、同補充原則を「コンプライ」するためには、取締役会の責任の下で、手続上の十分な客観性・透明性を確保することが重要である。
 こうした点についての対話を促すため、対話ガイドライン3-5においても、改訂版コード補充原則4-2①と同様の趣旨が示されている。
(3)独立した諮問委員会の活用(改訂版コード補充原則4-10①/対話ガイドライン3-2及び3-5)  フォローアップ会議の議論において、CEOをはじめとする経営陣幹部や取締役の指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たっては、独立性・客観性ある手続を確立することが重要であるとの指摘がなされ、そうした指摘を踏まえ、改訂版コード補充原則4-10①においては、監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、任意の指名委員会・報酬委員会などの独立した諮問委員会を設置することを求めることとされた。
 本改訂の趣旨を踏まえ、指名・報酬などの特に重要な事項の検討に際して、実効的に独立社外取締役の関与・助言が得られるよう、それぞれの諮問委員会の具体的な役割を明確化することなどが重要と考えられる。
 なお、対話ガイドライン3-2及び3-5においては、これらの点についての対話を促す観点から、CEOの選任や経営陣の報酬決定に係る手続を実効的なものとするために、「独立した指名委員会が活用されているか」、「独立した報酬委員会が活用されているか」との点が示されている。
(4)取締役会の機能発揮(改訂版コード原則4-11/対話ガイドライン3-6及び3-7)  取締役会は、CEOをはじめとする経営陣を支える重要な役割・責務を担っており、原則4-11においては、取締役会全体として適切な知識・経験・能力を備えることが求められている。提言においては、我が国の上場企業役員に占める女性の割合は現状3.7%にとどまっているが、取締役会がその機能を十分に発揮していく上では、ジェンダー、更には国際性の面を含む多様性を十分に確保していくことが重要であるとされた。改訂版コード原則4-11の前段は、こうした観点から、ジェンダーや国際性の面が多様性に含まれることを明確にした上で、そうした多様性と適正規模を両立させる形で取締役会を構成することを求めるものである。
 対話ガイドライン3-6においても、コードと同様の趣旨が示された上で、「取締役として女性が選任されているか」との点が示されており、こうした点についても、投資家と企業との間で建設的な対話が行われることが期待される。
 また、コード原則4-11の後段で取締役会の実効性評価を行うことが求められていることを踏まえ、こうした点についての対話を促すため、対話ガイドライン3-7に対応する項目が設けられている。
(5)独立社外取締役の選任・機能発揮(改訂版コード原則4-8/対話ガイドライン3-8及び3-9)  改訂版コード原則4-8の後段は、コード策定時に、「少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社」は、そのための取組方針を開示すべきとされたところ、フォローアップ会議において、現状では、取組方針の開示にとどまらず、それぞれの企業の置かれた状況に応じて、十分な人数の独立社外取締役を選任することが重要ではないかとの指摘がなされたことを踏まえ、「少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社」については、自社において判断する「十分な人数」の独立社外取締役を選任すべきとの内容に改訂されたものである。
 後段の対象となるのは「少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える」企業であるが、対話ガイドライン3-8においては、取締役会がその機能を発揮していく上で、十分な人数の独立社外取締役が選任されることが重要であるとの観点から、そうした点についての対話を促すため、独立社外取締役が「十分な人数選任されているか」との点が示されており、こうした趣旨を踏まえ、投資家と企業との間で建設的な対話が行われることが期待される。
 独立社外取締役の選任・機能発揮についての対話を促すため、対話ガイドライン3-8及び3-9に対応する項目が設けられている。
(6)監査役の選任・機能発揮(改訂版コード原則4-11/対話ガイドライン3-10及び3-11)  コード原則4-4に示されているとおり、監査役及び監査役会は、業務監査・会計監査などの重要な役割・責務を担っているが、フォローアップ会議においては、監査役がそうした役割・責務を果たすためには、財務・会計や法務などに関する必要な知識を備えている必要があるとの指摘がなされた。改訂版コード原則4-11は、こうした指摘を踏まえ、「必要な財務・会計・法務に関する知識」を、個々の監査役が備えることを求めるものである。あわせて、財務・会計に関する十分な知見を有している者を1名以上選任することが求められているが、ここでいう財務・会計に関する「十分な知見」を有する者の意義は、本改訂前から変わるものではない。
 監査役の選任・機能発揮についての対話を促すため、対話ガイドライン3-10及び3-11に対応する項目が設けられている。

3 政策保有株式
(1)政策保有株式の適否の検証等(改訂版コード原則1-4/対話ガイドライン4-1及び4-2)
 (i)政策保有株式の適否の検証
 提言においては、政策保有株式について、近年減少傾向にあるものの、事業法人による保有の減少は緩やかであり、政策保有株式が議決権に占める比率は依然として高い水準にあるとされている。また、政策保有株式について、企業間で戦略的提携を進めていく上で意義があるとの指摘もある一方、安定株主の存在が企業経営に対する規律の緩みを生じさせているのではないかとの指摘や、企業のバランスシートにおいて活用されていないリスク性資産であり、資本管理上非効率ではないかとの指摘がなされていることなどを踏まえれば、政策保有株式に関して、投資家と企業との間で、これまで以上に深度ある対話が行われることが重要であるとされている。その上で、提言においては、企業には、個別の政策保有株式の保有目的や保有に伴う便益・リスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査した上で、保有の適否を検証し、分かりやすく開示・説明を行うことが求められるとされ、原則1-4にこうした内容が盛り込まれることとされた。
 改訂版コード原則1-4の実施に当たり、個別の政策保有株式について、取締役会において保有の適否を検証するに際しては、執行側において、一定程度の準備作業を行うことも想定されるが、そうした場合であっても、原則1-4を「コンプライ」する上では、実質的に取締役会自らが、個別の銘柄について検証を行うことが必要である。
 また、改訂版コード原則1-4は、そうした「検証の内容について」開示することを求めているが、単に「検証の結果、全ての銘柄の保有が適当と認められた」といった、一般的・抽象的な開示ではなく、取締役会における検証に際し、コードの趣旨を踏まえ、例えば、
・保有の適否を検証する上で、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかを含め、どのような点に着眼し、どのような基準を設定したか
・設定した基準を踏まえ、どのような内容の議論を経て個別銘柄の保有の適否を検証したか
・議論の結果、保有の適否について、どのような結論が得られたか等について、具体的な開示が行われることが期待される。ただし、改訂版コード原則1-4は、必ずしも個別の銘柄ごとに保有の適否を含む検証の結果を開示することを求めるものではない。
 こうした点についての対話を促すため、対話ガイドライン4-1に対応する項目が設けられている。
 (ii)政策保有株式の縮減に関する方針・考え方  政策保有株式については、前記(i)のとおり、様々な指摘がなされているところであるが、取締役会において個別の政策保有株式の保有の適否を検証する中で、可能なものについては縮減されていくべきとの指摘が多くなされている。このため、本改訂により、「縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針」を開示すべきことが原則1-4に明示されるとともに、こうした趣旨を踏まえ、対話ガイドライン4-2が設けられた。本改訂及び対話ガイドラインにより、必ずしも政策保有株式の一律の縮減が求められるものではないが、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など」については、政策保有に関する投資家と企業との対話をより建設的・実効的なものとするため、自社の個別事情に応じ、例えば、
・保有コストなどを踏まえ、どのような場合に政策保有を行うか
・検証結果を踏まえ、保有基準に該当しないものにどのように対応するか
等を、縮減に関する方針・考え方の中で示すことになるものと考えられる。
 (iii)政策保有株式に係る議決権行使の基準  本改訂前の原則1-4において策定が求められていた議決権行使についての適切な対応を確保するための基準を巡っては、内容が具体的でなく、内容をより充実させた上で開示を求めるべきとの指摘や、政策保有株式に係る議決権行使の適切性の確保を図っていくべきではないかといった指摘がなされているところである。
 こうした指摘を踏まえ、本改訂においては、原則1-4において、議決権行使について、適切な対応を確保するための「具体的な」基準の策定・開示を求めており、その基準に沿った対応を行うべきことを明確化している。対話ガイドライン4-1においても、そうした開示が適切に行われているかについての対話を促す観点から、対応する項目が設けられている。
(2)政策保有株主との関係(改訂版コード補充原則1-4①・②/対話ガイドライン4-3及び4-4)  改訂版コード補充原則1-4①は、フォローアップ会議において、政策保有株式を保有する企業が、保有の適否について検証を行った結果、保有の意義が乏しいとして、発行会社に対して売却の意向を示した場合に、発行会社が、取引の縮減を示唆することなどにより売却等を妨げている場合があるとの指摘がなされたことを受け、そうしたことを行うべきでない旨を示すために設けられたものである。
 また、改訂版コード補充原則1-4②では、フォローアップ会議において、企業と政策保有株主との間で行われる取引が、当該企業にとって経済合理的でない可能性があるといった指摘がなされたことを踏まえ、企業が、政策保有株主との間で行う取引自体の合理性を検証することが重要である旨が示されている。
 対話ガイドライン4-3及び4-4においては、こうした点についての対話を促すため、改訂版コード補充原則1-4①・②と同様の趣旨が示されている。

4 アセットオーナー(改訂版コード原則2-6/対話ガイドライン5-1)  昨年のスチュワードシップ・コード改訂にあたっては、コーポレートガバナンス改革を深化させ、インベストメント・チェーンの機能発揮を促していくためには、最終受益者の最も近くに位置し、企業との対話の直接の相手方となる運用機関に対して働きかけやモニタリングを行っているアセットオーナーの役割が極めて重要であるとされた。一方で、企業年金においては、スチュワードシップ活動への関心は総じて低く、スチュワードシップ活動を含めた運用に携わる人材が質的・量的に不足しているのではないかとの指摘がなされ、必ずしもアセットオーナーとしての機能が十分に発揮できていない状況にあることが指摘された。
 企業年金がアセットオーナーとしての機能を発揮できていないとの課題については、一義的には企業年金自体において対処されるべきものであるが、提言においては、企業年金の運営を支える母体企業において、その積立金の運用が従業員の資産形成や自らの財政状態に影響を与えることを十分認識し、企業年金がアセットオーナーとして期待される機能を実効的に発揮できるよう、自ら主体的に人事面や運営面における取組みを行うことが求められるとされた。今回新設された改訂版コード原則2-6には、こうした考え方が示されている。
 提言では、それぞれの企業においてこうした取組みが進められることにより、企業年金がアセットオーナーとしての機能を発揮し、スチュワードシップ・コードの受入れが広がり、実効的なスチュワードシップ活動が進められていくことを期待したいとされている。
 また、フォローアップ会議においては、こうした取組みに際しては、母体企業と企業年金の受益者との間に生じ得る利益相反を適切に管理する必要があるとの指摘があり、改訂版コード原則2-6には、この点もあわせて盛り込まれている。
 改訂版コード原則2-6においては、企業に対して、企業年金のアセットオーナーとしての専門性を高めるための取組みの内容の開示が求められている。また、こうした点についての対話を促すため、対話ガイドライン5-1に対応する項目が設けられている。

5 適切な情報開示(改訂版コード基本原則3「考え方」、補充原則3-1①)  本改訂は、提言において示されたコーポレートガバナンス改革を巡る課題に対応するものであり、また、対話ガイドラインは、両コードの附属文書として、機関投資家と企業との対話において、重点的に議論することが期待される事項を取りまとめたものであるが、そうした対話を実効的なものとしていくためには、企業において、積極的な情報開示が行われることが重要である。こうした改訂及び対話ガイドラインの趣旨を踏まえ、企業における適切な情報開示に関する内容についても、コードの趣旨をより明確にする改訂が行われた。
 具体的には、改訂版コード第3章の「考え方」において、ここでいう「非財務情報」に、いわゆるESG要素に関する情報が含まれることが明確化された。また、補充原則3-1①において、企業が利用者にとって付加価値の高い記載となるようにすべき情報開示に、有価証券報告書などの法令に基づく開示も含まれることが明確化されている。

Ⅲ 本改訂に伴う実務対応

1 本改訂に伴うガバナンス報告書の更新
 本改訂に伴い、上場会社においてコーポレート・ガバナンスに関する報告書(以下「ガバナンス報告書」という)の更新が必要となる。
 具体的には、上場会社は、有価証券上場規程において、コードの各原則を実施しない場合の理由の説明をガバナンス報告書に記載することが義務づけられており、本改訂により変更又は追加された原則を実施しない場合にはその理由の説明の記載が必要となる。また、コードには、特定の事項を開示すべきとする原則が存在し、本改訂では、そうした原則の一部も改訂されていることから、改訂後のこれらの原則を実施するに当たっては、その内容を踏まえた開示事項の更新も必要となる。
 ガバナンス報告書の内容のうちコードに関する事項に変更があった場合には、原則として、定時株主総会の日以後遅滞なく、変更後のガバナンス報告書の提出を行う必要があるが、本改訂に伴うガバナンス報告書の更新は、準備が出来次第速やかに、かつ、遅くとも2018年12月末日までに行うこととしている(図表2参照)。その際、改訂されたコードの原則について、実施する意思があっても、本年12月末日までに実施することが難しい場合にあっては、「コードの各原則を実施しない理由」の説明において、今後の取組予定や実施時期の目途を記載することが考えられる(脚注2)。

 なお、本年12月末日までの期間は、コードに関する事項について、改訂前のコードに基づいて開示を行うことでも差し支えない。当該期間においては、改訂版コードに基づくものと改訂前のコードに基づくものとが混在することとなることから、利用者の分かりやすさの観点から、更新の際に新旧コードいずれに基づく記載であるかを明記することが望ましいと考える。
 なお、本改訂では、東京証券取引所のマザーズ及びJASDAQの上場会社が実施していない場合に理由の説明が必要とな基本原則に変更はなく、これらの上場会社については特段の対応は必要ない(脚注3)。

2 本改訂に伴う更新後の対応等  改訂版コードに基づくガバナンス報告書の更新内容について、2019年1月1日以後に変更が生じた場合は、原則どおり、変更後最初に到来する定時株主総会の日以後遅滞なく更新することで差し支えない。ただし、ガバナンス報告書の更新の適時性を評価する投資家の声も寄せられているところ、定時株主総会前の更新についても積極的にご検討いただきたい。

Ⅳ おわりに
 改訂版コード及び対話ガイドラインを踏まえ、投資家と企業との間で建設的な対話が行われることを通じ、企業が、自社の経営理念に基づき、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現し、ひいては経済全体の成長と国民の安定的な資産形成に寄与することを期待し、本稿の結びとしたい。

脚注
1 「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方『スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議』意見書(2)」(平成28年2月18日公表)。
2 その他、実施しない理由の説明にあたっては、自社の個別事情を記載することや、代替手段によってコードの趣旨を実現している場合にはその旨を記載することなども考えられる。
3 マザーズ及びJASDAQの上場会社においても、本改訂を自社のガバナンス体制を見直す契機とすることはもちろん想定される。

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