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解説記事2018年10月08日 【税制改正解説】 新設通達等に見る小規模宅地等の特例の改正の留意点(2018年10月8日号・№758)

税制改正解説
新設通達等に見る小規模宅地等の特例の改正の留意点
 税理士 竹内陽一
 税理士 西山 卓

1 はじめに
 平成30年度税制改正において、小規模宅地等の特例(措法69の4)の改正が行われ、「貸付事業用宅地等」と、特定居住用宅地等のうちのいわゆる「家なき子特例」の適用要件の厳格化がはかられた(脚注1)。またこの改正に伴う通達改正が平成30年7月に公表された。
 本稿は、この7月に公表された通達を踏まえて、小規模宅地等の特例の改正内容を概観するものである。

2 「貸付事業用宅地等」に係る要件の厳格化
(1)改正の内容
 ①制度の概要
 個人が相続等(脚注2)により取得した財産のうち、被相続人等(注)の貸付事業の用に供されていた宅地等((4)①参照)で貸付事業用宅地等(措法69の4③四)に該当するものについては、200㎡までの部分について評価額を50%減額する。
(注)「被相続人等」とは、被相続人又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族をいう(以下同じ。)(措法69の4①柱書カッコ)。
 ② 改正点 (イ)「貸付事業用宅地等」の範囲から、『相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された((4)②参照)宅地等』が除外された。
(ロ)ただし、『相続開始の日まで3年(脚注3)を超えて引き続き((4)④参照)特定貸付事業((4)③参照)を行っていた被相続人等のその貸付事業に供された((4)⑤参照)宅地等』は、相続開始直前に貸付けられたものであっても、上記(イ)の対象外となる(小規模宅地等の特例を適用できる)。
 ③ 添付書類の追加  ②(ロ)について、被相続人等が相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業を行っていたことを明らかにする書類の添付が必要となった(措法69の4⑥・措規23の2⑧五ロ)。
(2)改正前の問題点  相続人の生活の基盤である貸付事業用宅地等は、相続人の事業継続に欠くことのできない資産であるため評価額の減額が認められていたところ、特に貸付事業用宅地等について短期間しか所有しない事例が見受けられ、申告期限経過後1月あまりで特例の適用を受けた宅地等を譲渡している事例などが報告された(脚注4)。
 また図1のような節税策が「雑誌などで盛んに紹介」されたという問題意識が財務省の税制改正の解説で言及されており、特にタワーマンションを利用した例でその減税効果が大きいと指摘されている。

(3)適用時期
 ① 原則
 平成30年4月1日以後に相続等により取得する宅地等に係る相続税について適用される(改正法附則118①)。
 ② 経過措置  平成30年3月31日以前から貸付けられている宅地等については、平成33年3月31日までの相続等について改正法は適用されない(脚注5)(改正法附則118④)(図2)。

(4)新設通達等にみる実務上の留意点  新設又は改正された通達(平成30年7月3日付)として、以下①~⑤の留意点がある。いずれも、極めて常識的な取扱いが示されたと考える。
 ① 貸付事業の用に供されていたかの判定(建築中・貸付準備中等)  宅地等が被相続人等の貸付事業の用に供されていたかどうかは、相続開始時に現実に貸付事業の用に供されていたかどうかで判定する(措通69の4-24の2)。
 したがって次の場合は、貸付事業の用に供されていたとはされない(脚注6)。
(イ)新たに貸付事業の用に供する建物等を建築中である場合
(ロ)新たに建築した建物等に係る賃借人の募集その他の貸付事業の準備行為が行われているに過ぎない場合
 なお、建物等のうちに相続開始時に一時的に賃貸されていなかった部分がある場合におけるその部分を貸付事業の用に供されていたものとする取扱いは変更されていない(改正前措通69の4-24の2)。
 ② 新たな貸付か否かの判定(契約更新等)  「新たに貸付事業の用に供された」かの判定は、表1による(措通69の4-24の3)。

 ③ 貸付事業の規模の判定(特定貸付事業の判定)  相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を特例の対象から除外する取扱い((1)②(イ))は、相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている者については適用されない。したがって、貸付事業が事業的規模で行われているか否かの判定が、重要となる。この事業的規模での貸付事業は「特定貸付事業」と定義され(措令40の2⑯)、その判断基準が通達で新設された。
(イ)特定貸付事業の範囲
  特定貸付事業とは準事業以外のものであり、表2のとおりである。

(ロ)所得税基本通達への準拠
  事業と称するに至る程度の規模かどうかは、社会通念に従って判断することとされているが、その具体的な取扱いは、所得税における取扱いにその判断を委ねている。所得税における判断基準と、小規模宅地の特例における「特定貸付事業」との関係は表3に示すとおりである(措通69の4-24の4)。

(ハ)共有物である場合の検討
  「特定貸付事業」と「準事業」の判定は、所得税基本通達にその判断を委ねているが、平成6年改正前までは、この所得税の5棟10室基準と同様の取扱いが、本制度に直接関連する措置法関係通達においても定められていた(旧措通69の3-1)。なお、現在ではこの旧通達は廃止8されているが、ここでは貸し付けられている建物が共有物である場合の取扱いが次のとおり定められていた。
(旧措通69の3-1)(一部抜粋) (前略)
(1)貸間、アパート等については、(中略)独立した室数がおおむね10以上であること。
(2)独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
(中略)
(注)2 例えば、アパ-トである建物が共有物である場合において、各共有者によるその貸付けが事業として行われていたがどうかは、その建物に係る全貸室数のうち各人の共有持分の割合に相当する貸室数を基に判定するものとする。
    この場合、被相続人及び被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族が当該建物の共有持分を有していたときは、これらの者の共有持分の割合を合計した割合に相当する貸室数を基に判定するものとする。
 (以下、略)
 ④ 相続開始前に特定貸付事業に該当しないこととなった場合  相続開始前3年以内に宅地等が新たに被相続人等が行う特定貸付事業の用に供された場合において、その供された時から相続開始の日までの間にその被相続人等が行う貸付事業が特定貸付事業に該当しないこととなったときは、その宅地等は、『相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた被相続人等の貸付事業の用に供されたもの』には該当しない9(措通69の4-24の5)。
 したがって、小規模宅地等の特例は適用できない。
 ⑤ 特定貸付事業を行う者が変わった場合  「被相続人のその貸付事業の用に供された」とは、特定貸付事業を行う被相続人が、宅地等をその自己が行う特定貸付事業の用に供した場合をいう(措通69の4-24の6)。
 したがって、次に掲げる場合はこれに該当しない。
(イ)被相続人が特定貸付事業を行っていた場合に、被相続人と生計を一にする親族が宅地等を自己の貸付事業の用に供したとき
(ロ)被相続人と生計を一にする親族が特定貸付事業を行っていた場合に、「被相続人」又は「被相続人と生計を一にする別の親族」が宅地等を自己の貸付事業の用に供したとき

3 「家なき子」特例に関する適用要件の厳格化
(1)改正の内容
 ① 制度の概要
 個人が相続等により取得した財産のうちに、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で特定居住用宅地等(措法69の4③二)に該当するものについては、330㎡までの部分について評価額を80%減額する。
 特定居住用他宅地等は、その取得者が①配偶者、②同居親族、③①及び②以外の親族で持ち家がない者(いわゆる「家なき子」)のいずれの者によるかによって、その適用要件10が定められている。
 ② 改正点  持ち家に居住していない者(家なき子)に係る特定居住用宅地等の特例の対象者から、新たに次の者が除外された(措法69の4③二ロ)。
(イ)相続開始前3年以内に、その者の三親等内の親族又はその者と特別の関係のある法人(注)が所有する国内にある家屋(脚注11)に居住したことがある者 (ロ)相続開始時に居住の用に供している家屋を過去に所有していたことがある者
(注)特別の関係のある法人(措令40の2⑫)
(イ)の「特別の関係のある法人」とは、次の(a)から(d)に掲げる法人をいう。
 (a)取得者等(※)が法人の発行済株式総数等(自己株式等を除く。以下同じ。)の10分の5を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合におけるその法人
 (b)取得者等及び(a)に掲げる法人が他の法人の発行済株式総数等の10分の5を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合におけるその他の法人
 (c)取得者等並びに(a)及び(b)に掲げる法人が他の法人の発行済株式総数等の10分の5を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合におけるその他の法人
 (d)取得者等が理事、監事、評議員その他これらの者に準ずるものとなっている持分の定めのない法人
 (※)取得者及び措令40の2⑫一イからヘまでに掲げる者(以下「取得者等」)
 ③ 添付書類の追加  相続開始時に自己の居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないことを証する書類の添付が必要とされた(措法69の4⑥・措規23の2⑧二ホ)。
(2)改正前の問題点  いわゆる「家なき子特例」は、勤務の都合などにより、配偶者に先立たれた被相続人と同居できず、かつ、持ち家を持たない相続人が被相続人の死亡後に被相続人が居住していた家屋に戻る場合について、その相続人の生活の維持(居住の継続)のために設けられた制度である。しかし、自己が居住する家屋を実質的に維持したままこの特例適用が可能であり、制度の趣旨を逸脱しているとの指摘(脚注12)があった。
(趣旨逸脱の具体例1)  家屋を所有しない孫に対して宅地等を遺贈するケース

(趣旨逸脱の具体例2)  既に家屋を持っている相続人が譲渡等により家屋の名義を変更し、居住関係を変えないまま持ち家がない状況を作出するケース

(3)適用時期
 ① 原則
 平成30年4月1日以後に相続等により取得する宅地等に係る相続税について適用される(改正法附則118①)。
 ② 経過措置  「経過措置対象宅地等」については、下記の経過措置が設けられている。「経過措置対象宅地等」とは、平成30年3月31日に相続等があったものとした場合に改正前の「家なき子特例」(旧措法69の4③二ロ)の要件を満たす宅地等をいう。
(イ)平成30年4月1日から平成32年3月31日までの間に相続等により取得する場合
  改正前の特例を適用することができる(改正法附則118②)(図3)。

(ロ)平成32年4月1日以後に相続等により取得する場合
  以下のすべてを満たす場合には、被相続人の居住の用に供されていたものとして本特例を適用することができる(改正法附則118③)(図4)。

・平成32年3月31日においてその経過措置対象宅地等の上に存する建物の工事が行われている
・その工事の完了(脚注13)前に相続等がある
・申告期限までにその経過措置対象宅地等を取得した個人がその建物を自己の居住の用に供する
(4)実務上の対応と留意点 ① 家なき子特例は、いわゆる「二次相続」の場合にのみ適用される制度である。被相続人となる者に配偶者がいる場合には、この改正の直接の影響はない。
② 遺言で家屋を持たない孫等に遺贈することとしている場合には、遺言内容の見直し又はその孫等が居住する場所の見直しが必要となる。
③ 相続人が三親等内の親族(叔父・叔母等)が国内(脚注14)に所有する家屋に居住すると、3年間は予期せぬ相続発生時に小規模宅地の特例が適用できなくなる可能性があり注意が必要である(脚注15)。

脚注
1 平成30年度税制改正では、被相続人が介護医療院に入所した場合の居住要件の判定についても整備がされている(措令40の2②一ロ)。
2 相続又は遺贈(死因贈与を含む。)を本稿では「相続等」とする(措法69の2①)。
3 短期間に相続等が続いた場合には、その期間を合算して計算するよう手当されている(措令40の2⑰)。
4 会計検査院による随時報告「租税特別措置(相続関係)の運用状況等について(H29.11)」
5 経過措置適用にあたって証明書等の添付は法定要件とされていないが、貸付開始時期を示す資料の準備が望まれる。
6 ただし、措通69の4-5《事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合》の取扱いがある場合は除く。
7 使用貸借により貸し付けられている宅地等は特例の対象にならない。
8 小規模宅地等の特例の制度創設時は、事業に準ずる規模のものも含めて特例の対象とされていたが、ワンルームマンション節税に対応して昭和63年改正で事業に準ずる規模のものは特例の適用対象外とされた。その結果、事業規模を判定する必要性が生じ、租税特別措置法関係通達でその判定基準が定められた(旧措通69の3-1)。しかし、平成6年には、残された配偶者が小規模な貸家で生計を立てていく場合に配慮する必要から、再び規模の大小を問わず特例の対象とされ、その結果、規模の判定基準が不要となった。(改正税法のすべて/平成6年版)
9 措通69の4-24の3(新たに貸付事業の用に供されたか否かの判定)に掲げる場合に該当する場合には、その特定貸付事業は、引き続き行われていたものに該当する。
10 「家なき子」特例の主な要件(改正前)は、被相続人が居住していた宅地等で①被相続人に(イ)配偶者(ロ)同居相続人がいない、②取得者が3年以内に(イ)本人(ロ)その配偶者の所有家屋に居住していない、③申告期限まで宅地等を有する、等である(旧措法69の4③二ロ)。
11 相続開始の直前においてその被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く。
12 内閣府税制調査会(H29.11.1)において、特別委員として出席した日本税理士会連合会会長より興味深い発言がされている。詳しくは、本誌No.715.P12等。
13 「工事の完了」とは、引渡しを受けたことをいう(措通69の4-24の2(注)2)。
14 『もともと父と同居していた子が、転勤等により叔父の住む国内の家に居住(生活の拠点は移転先)している時に相続がおこった場合、現在子が居住する家は、相続開始前3年以内に三親等内である叔父の家に該当するため、改正後は居住用宅地等の特例を適用することができず、……(中略)。他方で、叔父の所有物件が国内ではなく、海外にあった場合には家なき子の要件を満たすことになり、改正後も居住用宅地等の特例を適用できる……(以下、略)。』と、物件の所在地によって取扱いが異なることに懐疑的な見解があり、参考となる。(季刊「資産承継」2018春号(vol.12)/株式会社野村資産承継研究所「(特集)小規模宅地等の課税特例(岩瀬有加)」)
15 この点を規制内容が厳しすぎるものであるとしたものに、税務通信No.3522「実務から学ぶ税務の核心(大阪勉強会グループ)」、税理(2018.4臨時増刊号「小規模宅地特例の改正と対応(内田桂右)」がある。

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