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解説記事2018年10月08日 【特別解説】 日本企業がIFRS移行時に行った表示科目の組替~差異調整表の調査分析②~(2018年10月8日号・№758)

特別解説
日本企業がIFRS移行時に行った表示科目の組替
~差異調整表の調査分析②~
 本稿では、パート1を受けて、「IFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・提出した企業」(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)がIFRS移行時に行った表示科目の組替について、従前の会計原則に従って報告されていた資本から、IFRSに準拠した資本への調整表(以下、「調整表」という。)において各社が行った開示を具体的に紹介することとしたい。
 なお、差異調査表の調査分析パート1にも記載したように、IFRS初度適用の際に開示される調整表では、IFRS/日本基準間の認識・測定上の差異と表示科目の差異の両方について説明がなされるが、前者(いわゆる「GAAP差異」)と比較すると、後者は財務諸表上の表示科目の組替に過ぎず、会計処理や最終損益への影響がないことから、企業による説明も簡素である場合が多い。中には、表示科目の組替についての個別具体的な説明がなく、「当社はIFRSの規定に従って、所定の表示科目の組替を行っております」という概括的な説明しかなされていない事例もあった。したがって、調整表において、表示科目組替の内容について具体的な説明・開示を行っていた企業以外の企業でも、(営業外損益や特別損益項目の組替等を含む)IFRSの規定に基づく所定の組替が行われていることにご留意いただきたい。

IFRS任意適用日本企業が実際に行った表示組替の内容

 ① 営業外損益・特別損益項目の組替
 IAS第1号第87項において、企業は収益又は費用のいかなる項目も、純損益及びその他の包括利益を表示する計算書又は注記において、異常項目(extraordinaryitem)として表示してはならないとされている。そしてIFRSでは、わが国でいう営業外損益や特別損益といった括りを設けない代わりに、金融収益と金融(財務)費用という区分を設けている。そのため、従来わが国において営業外収益・費用とされてきた項目(受取利息、支払利息、為替差損益等)の大部分は、金融収益又は金融費用に組み替えられている。そして、金融収益、金融費用以外の営業外収益・費用の項目については、例えば売上割引(営業外費用)は売上高から控除され、雑収益はその他の(営業)収益の区分に表示されることとなる。
 営業外損益に比べ、特別損益項目は更にバラエティに富んでいる。投資有価証券の売却損や評価損は金融費用に含めて表示され、リストラ費用、訴訟損失、固定資産売却損、減損損失、本社移転費用等は、その他の(営業)費用に組替表示されていた事例が多かった。
 営業外損益・特別損益項目の組替に関する典型的な開示例として、サントリー食品インターナショナルが2017年12月期に行った開示を次に掲げる。
 日本基準では「営業外収益」、「営業外費用」、「特別利益」及び「特別損失」に表示していた項目を、IFRSでは財務関連損益については「金融収益」及び「金融費用」として計上し、それ以外の項目については、「その他の収益」「その他の費用」及び「持分法による投資損益」等に表示しています。
 ティアックは、一時的に発生する特定の収益又は費用で、金額的に重要性がある場合には、「個別開示項目」として連結損益計算書において表示している。
(ティアック 2016年3月期)
 日本基準では、「販売費及び一般管理費」、「営業外収益」「営業外費用」及び「特別利益」、「特別損失」に表示していた項目を、IFRSでは財務関連項目を「金融収益」又は「金融費用」に、それ以外の項目については、「販売費及び一般管理費」、「その他の損益」及び「個別開示項目」でそれぞれ表示しております。
・個別開示項目
 当社グループは一時的に発生する特定の収益又は費用について、その金額に重要性がある場合には、経営成績に対する影響を明らかにするために、連結損益計算書において個別開示項目として表示しております。
 参考までに、ティアックの連結損益計算書の様式の一部を下記に掲げる(数字は省略)。
売上収益  
売上原価
売上総利益
販売費及び一般管理費
その他の損益
個別開示項目前営業利益(△損失)
個別開示項目
営業利益(△損失)
 ちなみにティアックは、開示において、個別開示項目(収益)としてストレージデバイス事業譲渡益と売却可能金融資産の売却益を、個別開示項目(費用)として、売却可能金融資産の減損損失、訴訟損失引当金繰入額、並びに事業閉鎖に伴う特別退職金等を開示している。
 また、エムスリーはIFRSを初度適用した2015年3月期において、構造改革費用を計上し、日本基準では特別損失として一括表示しているが、IFRSでは、当該費用のうち生産部門にかかる費用は売上原価、販売及び管理部門にかかる費用は販売費及び一般管理費、研究開発部門にかかる費用は研究開発費というように、性質別に分解して表示している。
 ② 持分法適用投資や持分法投資損益をIFRSでは区分掲記
(協和発酵キリン 2017年12月期)
・日本基準で「投資有価証券」に含めていた「持分法で会計処理されている投資」は、IFRSでは区分掲記しております。
・日本基準において「営業外費用」に表示していた「持分法による投資損益」については、IFRSでは独立して区分掲記しております。
 ③ 預入期間が3ヶ月超の定期預金を現預金からその他の金融資産に組替  IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」では、現金同等物は「短期の流動性の高い投資のうち、容易に一定の金額に換金可能であり、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わないものをいう」と定義されており(第6項)、第7項において、「投資は通常、満期が取得日から例えば3か月以内といった短期である場合にのみ、現金同等物に該当する。」とされている。
(横浜ゴム 2017年12月期)
・日本基準において、流動資産の「現金及び預金」に含めていた契約満期日が3ヶ月超の預金を、IFRSでは流動資産の「その他の金融資産」として表示しております。
 ④ 貸倒引当金をIFRSでは対応する債権残高から直接控除  IFRSでは、引当金は「時期又は金額が不確実な負債をいう」と定義されており(IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」第10項)、引当金であるためには負債であることが条件とされている。したがって、貸倒引当金や投資損失引当金のようないわゆる「評価性引当金」の計上は、IFRSでは認められない。その代わり、営業債権(売掛金)や貸付金から直接控除して純額で表示することとなる。
(キリンホールディングス 2017年12月期)
 日本基準では区分掲記していた「貸倒引当金(固定)」については、IFRSでは「その他の金融資産(非流動)」から直接控除して純額で表示するように振り替え、また、「貸倒引当金(流動)」についても同様に、「営業債権及びその他の債権」から直接控除して純額で表示するように振り替えております。
 ⑤ 短期保有有価証券等を現金同等物に組替
(三菱ケミカルホールディングス 2017年3月期)
・日本基準では、取得日から3ヶ月以内に償還期限の到来する短期投資を「有価証券」に含めて表示しておりましたが、IFRSでは「現金及び現金同等物」に含めて表示しております。
 ⑥ 資産除去債務をIFRSでは引当金に組替  わが国では、資産除去債務に関する会計基準(企業会計基準第18号)と同適用指針があるが、IFRSの場合には、借方側はIAS第16号「有形固定資産」が適用され、貸方はIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」が適用される(資産除去債務は、引当金や負債の定義を満たす)。また、わが国の資産除去債務適用指針第9項では、建物等賃借契約に関連して敷金を支出し、資産計上されている場合には、当該計上額に関連する部分について、当該敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、そのうち当期の負担に属する金額を費用に計上する方法によることができるとされていたが、IFRSではこのような簡便法は認められず、原則どおり資産除去債務の負債(引当金)計上及びこれに対応する除去費用の資産計上を行うことになる。
(サントリー食品インターナショナル 2017年12月期)
 日本基準では負債の「その他」に含めていた資産除去債務等は、IFRSでは「引当金」に組み替えて表示しています。
(メタップス 2017年8月期)
 一部の子会社の資産除去債務について、日本基準では差入保証金から控除しておりましたが、IFRSでは資産除去債務として計上し非流動項目の引当金に含めて表示しております。
 ⑦ 新株予約権等をIFRSではその他の資本の構成要素に組替
(クレハ 2017年3月期)
・「その他の包括利益累計額」及び「新株予約権」を、「その他の資本の構成要素」に表示しております。
 ⑧ 代理人として関与する取引に関する収益を、総額ではなく純額で表示  商社や百貨店、タバコ、ビール業界等の企業において、日本基準からIFRSに移行すると、売上高が大幅に減少するとして話題になった項目である。IFRSでは、企業が本人(当事者)として行動している場合のみ収益を総額で認識し、代理人として関与している場合には、手数料に相当する部分を除き、収益を認識してはならないとされている。そして、本人と代理人を区別するためのガイダンスは、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」のB34からB38に定められている。
 時が流れ、今ではほぼすべての大手商社や大手ビール会社(キリン、アサヒ、サッポロ)、日本たばこ産業などがIFRSを任意適用している。そして、わが国においても企業会計基準委員会(ASBJ)が本年3月に「収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)」と同適用指針を公表した。この会計基準はIFRS第15号の考え方を基本的に踏襲していることから、この表示科目の差異組替は、収益認識に関する会計基準の適用とともに解消することになるであろう。
(豊田通商 2017年3月期)
 日本基準において総額で表示している取引のうち、代理人として関与したと判断される取引について、IFRSにおいては純額で表示しております。当該影響金額は、前連結会計年度において、△1,882,802百万円であります。
 ⑨ 棚卸資産の集約(一括)表示
(日機装 2017年12月期)
・「商品及び製品」、「仕掛品」「原材料及び貯蔵品」について、日本基準では区分掲記していましたが、IFRSでは「棚卸資産」として一括表示しています。
 ⑩ 法人税等調整額の組替(法人税、住民税及び事業税と集約)
(住友ゴム 2016年12月期)
・日本基準において、区分掲記していた「法人税、住民税及び事業税」及び「法人税等調整額」を、IFRSでは「法人所得税費用」として表示しております。
 ⑪ 投資不動産をIFRSでは区分表示
(ナブテスコ 2017年12月期)
・日本基準において区分掲記していた「有形固定資産」に含めて表示していた賃貸又は将来用途が現時点で未定の不動産について、IFRSでは投資不動産に振り替えています。
 ⑫ 売却目的保有の資産や非継続事業に係る損益をIFRSでは区分表示  IFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」は、売却目的保有に分類された資産、及び、売却目的保有に分類された処分グループに含まれる資産及び負債は、財政状態計算書で区分表示することを定めるとともに、非継続事業の経営成績を包括利益計算書で区分表示することを定めている。
(リンクアンドモチベーション 2017年12月期)
・売却目的で保有する非流動資産又は処分グループは、IFRSにおいては、流動資産の売却目的で保有する資産及び流動負債の売却目的で保有する資産に直接関連する負債として表示しております。
(豊田自動織機 2017年3月期)
・日本基準において、非継続事業の損益は、売上高や売上原価などの各勘定科目に含めて表示しておりましたが、IFRSにおいては、日本基準において特別利益に含めて表示していた子会社株式売却益とともにすべて非継続事業からの当期利益に集約して表示しております。
 ⑬ IFRSでは金融資産、金融負債を別掲
(リクルートホールディングス 2018年3月期第1四半期)
・IFRSの表示規定に基づき、金融資産及び金融負債を別掲しています。
 ⑭ 有形固定資産や無形資産の集約(一括)表示
(田辺三菱製薬 2017年3月期)
 日本基準では、「建物及び構築物(純額)」、「機械装置及び運搬具(純額)」、「工具、器具及び備品(純額)」、「土地」、「リース資産(純額)」及び「建設仮勘定」を独立掲記していましたが、IFRSでは「有形固定資産」に含めて表示しています。
 ⑮ 手数料、リベート等を販管費処理から、IFRSでは売上高控除に変更  これまでのわが国の会計実務では、リベートやカスタマー・ロイヤルティ・プログラム(ポイント引当金の関連費用)等は販売促進費として見られることが多く、対応する売上高は総額で計上した上で、関連するコストは販売費及び一般管理費に計上されることが多かった。IFRS第15号では、こうした活動を、販売促進活動というよりも販売取引の一部と見る傾向が強く、関連するコストを売上高からの控除、あるいは売上高の分割計上といった方法で処理することが多いと考えられる。
(ブラザー工業 2017年3月期)
 日本基準では一部のリベート等の金額62,013百万円を販売費及び一般管理費に、売上割引の金額2,787百万円を営業外費用に表示しておりましたが、IFRSでは「売上収益」から控除して表示しております。
 ⑯ 税金の付加価値割や均等割等の表示組替  IAS第12号「法人所得税」の第2項で、「法人所得税」とは、課税所得を課税標準として課される国内及び国外のすべての税金をいう、とされている。このため、課税所得を課税標準とはしていない住民税均等割は法人所得税費用とはならず、逆に、外形標準課税の付加価値割は、法人所得税費用に含められることになる。
(MS&Consulting 2017年3月期)
 日本基準では、「法人税、住民税及び事業税」に計上されている住民税均等割を、IFRSでは「販売費及び一般管理費」に組み替えております。
(豊田自動織機 2017年3月期)
 外形標準課税の付加価値割部分について、日本基準では販売費及び一般管理費に計上していますが、IFRSでは法人所得税費用として認識しています。
 ⑰ 研究開発費をIFRSでは区分表示
(シスメックス 2017年3月期)
 日本基準において、研究開発費は「販売費及び一般管理費」として表示しておりますが、IFRSにおいては、「研究開発費」として区分掲記しております。
 ⑱ 未収法人税や未払法人税の区分表示
(コロワイド 2017年3月期)
 日本基準では流動資産の「その他」に含めていた未収法人所得税等を、IFRSでは「未収法人所得税」に振り替えて表示しております。
(メタップス 2017年8月期)
 日本基準では流動負債のその他に含めていた未払法人税等を、IFRSでは「未払法人所得税」に振り替えて表示しております。

終わりに
 これまでわが国企業の財務諸表は、財務諸表等規則や連結財務諸表規則の100分の1基準や100分の5基準に代表されるような数値基準に基づき、どちらかというと表示科目が細分化されてきた一方で、注記による開示は少なかった。一方のIFRSは、日本基準とは対照的に、財務諸表本体の表示科目数は少なく、シンプルである代わりに、注記による開示が膨大となる傾向があった。
 わが国の企業会計基準委員会(ASBJ)によるこれまでの努力の成果もあって、いわゆるGAAP差異(認識・測定上の差異)のみならず、繰延税金資産・負債の表示や収益の表示、収益認識に関する会計基準による開示等においてもIFRSの表示、開示に関する規定とのコンバージェンス(収斂)が図られ、表示方法や開示項目のIFRS/日本基準間の差異も着実に縮小してきた。
 しかし、一方で、これまでわが国の会計基準が目指してきた方向性であったはずの、IFRSの財務諸表本体の表示や注記による開示に対して、様々な課題が提起されている。
 すなわち、開示の重複や煩雑さ、財務諸表上表示される利益項目の少なさや使い勝手の悪さ、その結果としてのIFRSに基づかない任意の指標やKPIの採用の広がり等である。これらの問題に対しては、開示原則の設定など、IFRSを開発するIASB(国際会計基準審議会)も矢継ぎ早に様々な手を打ってはいるが、十分な成果はまだ得られていない。今後、場合によっては、わが国でなじみ深い営業利益や経常利益の表示、特別損益項目の表示等の有用性が見直されるようなこともあるかもしれない。画一的な傾向はあるものの、比較可能性に優れ、XBRLのタクソノミなどとも親和性が高い、わが国の基準に基づく財務諸表の表示の特色を活かしつつ、国際的に望ましい表示・開示基準の策定に今後わが国が貢献できる余地も、十分にあるものと考える。

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