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解説記事2018年11月05日 【実務解説】 信託の先進国の米国から学ぶ信託受益権評価(2018年11月5日号・№762)

実務解説
信託の先進国の米国から学ぶ信託受益権評価
 一般社団法人民事信託活用支援機構 代表理事 高橋倫彦

まえがき 伝統的な欧米の受益権複層化信託

 高齢化社会において長生きすることは必ずしも幸福をもたらすとは限らない。予想外に長生きして生活費や療養費が枯渇したらどうしたらよいだろうか。近代以前の英国に公的年金制度はもちろんなかった。しかしそんな時代でも家族の生活を守る信託は存在した。例えば夫を亡くした寡婦はその生涯にわたって信託給付を受け(収益受益権または生涯権)、その残余財産は子供が相続する(元本受益権または残余権)信託である。元本を取り崩して使っていけばどこかで無くなることになり、長生き社会では不安がある。しかし、財産から上がる収益を使ってその元本を残しておけば将来にわたって安心である。このように収益受益権と元本受益権とに分ける伝統的な欧米の受益権複層化信託は現代のわれわれの長生きリスクをカバーしてくれる。
 2007年に新信託税制が制定された際に、受益権複層化信託に関しても新しい税制が導入されたが、この時日本の税務当局は日本においてこの信託の利用例が少ないので、その利用の歴史が古くまた利用の事例が多い英米の状況を調査しその税制を参考にしたものと思われる。新信託税制の理解にはその背景となった英米の信託税制の理解が欠かせない。筆者は2015年にこの信託の理解が進むことを願って本誌に「受益権複層化信託の所得課税」(2015年6月15日号、No.598)と「受益権複層化信託の相続課税」(2015年11月23日、No.619)とを執筆した。この記事は光栄にも高名な先生方から評価していただき、先生方から米国の信託税制を参考にするようご指導をいただいた。
 そこで、本稿では米国の信託税制を参考に家族信託に関する論点を絞って記事を執筆することにした。記事の中での検討の手順は、まず日本の信託税制の問題点を浮き彫りにし、次にこれらに関する米国の信託税制を条文から逐条的に確認し、その上で日米の信託税制の比較からこれらの論点を検証した。本稿は新信託税制の税法の条文の解釈を行うものではなく、その背景となった英米の信託税制を学ぶことにより、その理解を深めることを意図するものである。また、本稿は「受益者等課税信託」の類型を検討の対象とし、法人課税信託等の他の課税類型はその対象としない。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

第1章 日本の受益権複層化信託の税務の取り扱い

第1節 税務の取り扱いが不明確である問題

 受益権複層化信託の税務の取り扱いが不明確である問題は主としてその性質の異なる受益者の間の所得税における収支の帰属の問題と、その受益権を適正な対価を負担せずに取得した場合の相続・贈与の課税の問題とに分かれる。これらの問題の一般的な検討は筆者が執筆した2015年の本誌の記事をお読みいただきたい。今回のシリーズの記事では、以下の特定の問題を取り上げた。
① 受益者連続型信託でない収益受益権の相続・贈与税の評価の問題
② 受益者連続型信託の収益受益権の相続・贈与税の課税の問題
③ 福祉信託において受託者等が信託給付に裁量を有するためにみなし受益者又は特定委託者になる場合の問題
 本稿では、このうち①の収益受益権評価の問題を検討する。

第2節 収益受益権の相続・贈与税の評価の問題点
 相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価とされ(相法22条)、時価とは取得した財産の流通市場における取引価額であるが、受益権複層化信託の受益権は多くの場合に流通市場がない。受益権複層化信託の収益受益権の評価について、相続税法は、受益者連続型信託の収益受益権に関してその権利の価値に作用する要因としての制約は付されていないものとみなすと規定している(相法9条の3)が、受益者連続型信託でない収益受益権(以下「一般の収益受益権」と言う。)の評価方法については条文がない。一般の収益受益権については財産評価基本通達202がその評価方法を示している。この評価方法は基準利率による収益還元法である。すなわち、収益を受領する場合は課税時期の現況において推算した受益者が将来受けるべき利益の価額の現在価値によるとされている。

第3節 一般の収益受益権の評価の問題

(1)「利益の価額」とは
 財産評価基本通達202による収益受益権の相続税評価の基になる受益者が将来受けるべき「利益の価額」とは必ずしも税務会計上の信託収益ではなく、そのキャッシュフローの給付、すなわち「給付の額」を指すと思われる。この信託給付の額は信託行為の定めにより減価償却費控除前利益の場合もあれば、控除後の純益の場合もある。実務的には税務会計上の信託収益は信託決算により確定し、信託収益を分配する場合は、決算後に速やかにこれを分配する。これを留保する場合は、留保利益を信託元本に追加する。期中に分配する場合は信託元本の一部交付となる。信託元本の一部交付額が信託収益額相当のキャッシュフローであった場合は、税務会計上の信託収益と信託元本の一部交付額とは経済的には同じであるが、信託収益(信託所得)の帰属者(納税義務者)は税務会計上の信託収益受領者になる。
(2)信託給付の額の変動が予想される収益受益権の評価  例えば信託財産の種類が株式の場合、株式配当額が株式発行会社の業績の波により増減するので、将来受けるべき利益の価額を推算することが困難である。また信託財産が同族会社発行の取引相場のない株式の場合、収益受益権の評価額を恣意的に高くする操作が行われる余地がある。恣意的操作の例は、大株主が会社に対する支配権を悪用して信託設定の数年前から通常よりも高額な配当を継続させる事例である。こうすれば高配当の実績をもとに信託財産である株式から発生する収益額を恣意的に高く見積ることができる。元本受益権は高く推算した収益受益権の評価額を信託財産の評価額から差し引いて算出するので、安く算出した元本受益権を後継者に贈与することによりその贈与税を節税することができる。もっともこのような財産の評価額の恣意的な操作は、取引相場のない株式そのものを贈与する場合にも可能なため、信託受益権に限った問題ではない。そこで、この問題の解決のためには、信託受益権の評価方法の規制ではなく、むしろ取引相場のない株式の評価方法の改善が求められると思われる。
(3)信託給付の額が定額の収益受益権の評価  推算の基礎となる「将来受けるべき」利益の価額を変動する毎年の収益額とした場合、各年度毎の収益額の見積りを行うことは困難であるために、信託の満期までの各年度の平均的な収益額を予想してこれを基礎に利益の価額を推算する方法がある。この平均値の概念をさらに進めて、信託給付の額を、この平均値の額(すなわち定期金の額)に固定してしまうことが考えられる。信託給付を定期金にすれば、その現在価値は容易に求めることができる。委託者亡き後のその配偶者の老後の生活の保障や、その障害を持った子の療養生活の保障を目的とする信託の場合は、信託給付額が変動する実際の信託収益よりも定額のキャッシュフロー(定期金)の方が生活の安定のためには望ましいと考えられる。定期金受益権の評価方法は相続税法に規定がないが、生命保険の定期金給付契約の評価方法は相続税法に定めがある。その評価額は「当該契約に関する権利を取得した時における当該契約に基づき定期金の給付を受けるべき残りの期間に応じ、当該契約に基づき給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額に、当該契約に係る予定利率による複利年金現価率を乗じて得た金額」と定められている(相法24条1項1号ハ)。これは財産評価基本通達202の信託受益権の評価方法に類似した方法であり、定期金受益権の評価方法も同通達202の評価方法を準用することが望ましいと考えられる。
(4)給付の期間が終身の受益権の評価  高齢化社会における保障は生涯にわたって年金給付を受けることが理想である(生涯権)。終身年金受益権の評価方法も相続税法に規定がないが、生命保険の終身年金を給付する定期金給付契約の評価方法は相続税法に定めがある。その評価額は「その権利を取得した時におけるその目的とされた者に係る余命年数(厚生労働省が発表する完全生命表)に応じ、当該契約に基づき給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額に、その契約に係る予定利率による複利年金現価率を乗じて得た金額と、当該契約の解約返戻金の金額または一時金の給付を受けるとしたならば給付されるべき一時金の金額とを比較し、いずれか多い金額」と定められている(相法24条1項1号ハ)。信託受益権には予定利率、解約返戻金や一時金はないが、終身年金を給付する定期金給付契約の評価と同様に基準年利率と余命年数を用いて評価して差支えがないのではないだろうか。
(5)租税回避行為として紹介された事例  税務大学校の川口幸彦教授が租税回避行為となる事例を紹介している(脚注1)。この事例は賃貸土地の信託である。委託者は、当初に土地の賃料を通常と比べて高い額に設定して、収益受益権を高く評価しこれを自分に留保した。またその差し引き計算により安く算出された元本受益権を家族に贈与して贈与税を節税した。その後に賃料を通常と比べて低い額に変更して、収益受益権の評価額を低く評価してこの信託を合意解除した。元本受益者は、相続税法基本通達9-13に基づき、委託者が信託の残存期間に受領する予定であった信託収益額の現在価値に対する贈与税を支払い、信託財産の土地を受領したというものである。
 この事例には次のような問題があると考える。
 ① 信託収益の不適正な見積り  川口教授は、「信託受益権の評価を行う場合、課税時期において入手できるデータを基に将来収益の予測をして評価を行うといった手法であることから、課税時期において異常な状況を作り、それを尤もらしく見せようとする租税回避策が考えられる」。この事例の賃料が本当にこの土地の正しい土地の収益力を示していないとすれば、「これらの金額を基に収益受益権の評価を行うこと自体に誤りがある」と指摘している。
 市場より高い賃料は長続きしない。いずれ賃料の引き下げが予想されるのであれば、高賃料の期間と低賃料の期間とそれぞれの期間ごとに収益額を見積もってその「合計額」を出す必要があった(財産評価基本通達202(3)ロ)。もし信託期間ごとの見積りをしないのであれば、賃料見積額を市場の水準に合わせるべきであった。
 ② 信託契約の内容はそもそも変更不能  税務評価の安定性にかんがみて、信託契約の内容は変更不能(irrevocable trust)でなければならない。もしこの事例のようにその内容を変更した場合は受益権の評価額が変更になるので修正申告が必要ではないだろうか。川口教授は、賃料が引き下げられた時点において収益受益権の価値が低くなり、元本受益権の価値が高まることから、「この時点で元本受益者に課税関係が生じることも考えられるがどうであろうか」と述べている。
 ③ 委託者の信託に対する支配権  受託者が信託期間の中途で通常と比べて安い賃料の賃貸借に切り替え、信託収益を低くすることは、収益受益者の利益を損ない、受託者の善管注意義務に違反することになる。この事例では委託者が収益受益者であり、受託者に賃貸借に切り替えを指図したと思われる。委託者がこのように信託に対して権利を留保し支配権を持つ信託を米国では譲与者信託と言う。米国では委託者が定期金等の受益権を留保し、残余財産受益権を家族に贈与する信託では、定期金等の金額を固定することが税制適格要件である。本件のように定期金等の金額を変える場合は非適格とされ、信託財産の全額について贈与税が課税される(第2章第1節(2))。
 ④ 合意解除による信託終了の課税関係  川口教授は、「相続税法第9条の2第4項は残余財産の課税関係についての規定であるが、相続税法基本通達9-13のような収益受益権の価額に相当する利益についても同項の適用があるものとして考える」。同項は「当該信託の終了の直前においてその者が当該信託の受益者等として有していた当該信託に関する権利に相当するものを除く。」こととされていることから、「残余財産の価額から元本受益者の信託に関する権利に相当するものの価額を控除した価額に対して課税されるとみることもできるのではないかと考えられる」と述べている。つまり、相続税法基本通達9-13による課税価額は、賃料改定により低くなった収益受益権の価額に相当する利益の額であるのに対して、相続税法9条の2第4項による課税価額は、残余財産の価額から合意解除時点における元本受益権の評価額を控除した価額、すなわち賃料改定前の高いままの収益受益権の合意解除時点における価額に相当する利益の額であるとみるというわけである。通達である相続税法基本通達9-13よりも法律である相続税法9条の2第4項が優先する。

第2章 米国の収益受益権の税務の取り扱い
 家族信託の先進国の米国では第1章で述べたような問題の事例が過去に多数あり、その対応策ができている。本章では米国の信託受益権評価に関する税制の概要を見てみることにする。

第1節 信託による資産の贈与に対する課税
 米国では資産を贈与するために信託を設定し、信託財産を受託者に移転する場合には、原則として贈与者である委託者に信託財産の価額(時価)に関して贈与税が課税され、受贈者である受益者に対する信託収益または信託元本の給付には課税されない。
 信託による資産の贈与を個人に対して行う場合には、委託者が権利を留保する信託と権利を留保しない信託とがある。前者は「譲与者信託」と呼ばれ、家族の者を受益者とする信託と、それ以外の者を受益者とする信託とがある。家族の者を受益者にする信託には第2節で述べる税制適格案件が定められている。
(1)税制適格な信託  委託者が権利を留保する信託のうち税制適格要件を満たす次の信託に対する課税は、特例として、信託財産の全額に対してではなく、これから委託者が留保した権利の評価額を控除した残額に対して課税される(内国歳入法2702条)。適格な受益権は法7520条の割引率等により現在価値に評価される。このように委託者が権利を留保する信託は委託者が信託に対して支配権を有するので、委託者が信託期限の前に死亡した場合は信託財産の価額の全額を委託者の遺産に加算する。
 ① 委託者定期金留保信託(Grantor Retained Annuity Trust、通称“GRAT”)  この信託の場合、信託財産の価額から委託者が留保した定期金を受領する権利の評価額を控除した残額に対して課税される。
 ② 委託者ユニトラスト権留保信託(Grantor Retained Unitrust、通称“GRUT”)  この信託の場合、信託財産の価額から委託者が留保したユニトラスト権の評価額を控除した残額に対して課税される。このユニトラスト権とは、信託財産を毎年再評価しその一定割合を受領する権利である。
(2)税制非適格な信託  委託者が権利を留保するが、税制適格要件を具備しない信託に対する課税は、委託者が留保した権利の評価額は零とされるので、信託財産の価額の全額に対して課税される。
(3)委託者が権利を留保するが委託者の家族以外の者に贈与する目的の信託  この信託は「コモンロー委託者受益権留保信託」(“common law GRIT”(Grantor Retained Interest Trust))と言う(脚注2)。この信託の受益権は、信託財産の評価額から収益受益権の評価額を差し引いた残額に対して贈与税が課税される。委託者が信託期限の前に死亡した場合は信託財産の価額の全額を委託者の遺産に加算する。
(4)委託者が権利を留保しない信託  委託者が収益受益権または復帰権を留保しない信託は、譲与者信託とみなされないので、信託設定時に信託財産の全額に対して贈与税が課税され、委託者が信託期限の前に死亡した場合に信託財産が委託者の遺産に加算されない。

第2節 税制適格要件

(1)信託証書の要件(内国歳入法第2702条(a)(3)(A))
 不完全な贈与(incomplete gift)による信託設定は税制適格にはならない。つまり信託証書は撤回不能でなければならない。
(2)適格な受益権の要件(同法2702条(b)) ・定期金の場合は、固定額(fixed amount)を年1回以上定期的に受領する権利
・ユニトラスト権の場合は、信託財産の時価(年次評価)に対する固定率(fixed percentage)の金額を信託配当金として年1回以上定期的に受領する権利
・残余財産受益権は無条件の確定的権利であり、信託の終了時に残余財産を課税されることなく受領する権利
・残余財産受益者は委託者の家族が受領する権利。
(3)委託者の家族の範囲(同法2704条(c)(2))。 ・委託者の配偶者
・委託者またはその配偶者の尊属または直系卑属
・委託者の兄弟姉妹
・委託者の尊属またはその直系卑属または兄弟姉妹の配偶者
(4)委託者留保の定義(財務省規則25.2702-2条)  留保とは、信託譲渡の前から委託者が保有することを言う。期限付き権利を設定する場合は、委託者が信託譲渡の直後に保有する権利は信託譲渡の前から保有するものとみなされる。
(5)その他の要件(財務省規則25.2702-3条) ・追加信託の禁止((b)(5))
・繰り上げ償還の禁止((d)(5))
・委託者以外への信託収益分配の禁止((d)(3))

第3節 受益権の評価の仕方

(1)贈与財産の課税価額
 課税価額は、贈与時点の市場価額である(同法第2512条、同規則25.2512-1条)。市場価額の算出方法は財産の種類により異なる(同規則2512-2条~2512-6条)。
(2)受益権の評価方法  定期金等の受益権は内国歳入法7520条の割引率に基づく評価表(Valuation tables)により評価される(内国歳入法7520条)。この割引率を「法7520条金利」と言い、内国歳入庁が毎月公表している。この金利は連邦中期金利(Federal midterm rate)の120%の金利(法7520条金利)に基づき計算される。連邦中期金利とは金融市場における銀行間金利であるから、この金利は資本市場におけるいわゆる安全利子率であり、日本の相続税評価における基準年利率に相当する。
 法7520条金利に基づく評価表は日本の財産評価基本通達の末尾にある複利表に相当するが、金利要素だけでなく、平均余命、信託配当率等の要素に基づいて作成され、終身年金等の多様な定額給付の評価ができるようになっている。
 一般の定期金、生涯又は確定期間の収益受益権、もしくは残余財産権又は復帰権(Annuities, life estates, term of years,remainders,and reversionary interests)は財務省規則20.2031-7条の評価表による現在価値により評価される。同条の評価表は多数の複利表(Actuarial tables)で構成され、その主たるものは複利表S(単独終身権の数理評価率、Single Life Factors)及び複利表B(確定期間権の数理評価率、Term Certain Factors)である。前者は終身の収益受益権の評価に使われ、後者は定期金、確定期間の収益受益権、及び残余財産権の評価に使われる。複利表Sは米国保健社会福祉省の生命表に基づく。
 金融商品又は保険契約としての定期金又は終身年金はこれとは別の財務省規則20.2031-8条の評価表による。
(3)一般の定期金、生涯又は一定期間の収益受益権、もしくは残余財産権又は復帰権の評価の方法(財務省規則20.2031-7条)  これらの権利の適正な市場評価額は評価表にある標準又は特殊の数理評価率に基づき算出される現在価値である。数理評価率は評価時点の法7520条金利とその死亡率の要素とから導き出される。権利者の年齢は満年齢ではなく、その誕生日に最も近い年齢である。
 ① 一般の残余財産権又は復帰権(ordinary remainders, and reversionary interests)の評価  確定期間又は死後に効力が発生する権利の現在価値は、財産の価値に残余財産権の数理評価率を掛けて算出される。確定期間後に効力が発生する権利は複利表Bの法7520条金利と残余財産権受領までの期間に対応する数理評価率であり、死後に効力が発生する権利は複利表Sの年齢に対応する数理評価率である。
 ② 一般の生涯又は一定期間の収益受益権(ordinary term-of-years and life interests)の評価  確定期間(for a term of years)又は生涯(for the life of one individual)に収益財産からの収益を受領する権利又は非収益財産を使用する権利の現在価値は、財産の価値に確定期間又は生涯の権利の数理評価率を掛けて算出される。確定期間の数理評価率は複利表Bの法7520条金利と受領期間に対応する率であり、生涯の権利の数理評価率は複利表Sの年齢に対応する数理評価率である。
 ③ 一般の定期金の評価(Annuities)  確定期間又は生涯にわたり各年末に定期金を受領する権利の現在価値は、各年に支払われる金額に複利表Bの法7520条金利と受領期間に対応する定期金数理評価率又は複利表Sの年齢に対応する定期金数理評価率を掛けて算出される。
 もし定期金が半年ごと、四半期毎、月次又は週次に支払われる場合は、この算出額に対して、その支払い方法に対応する複利表Kの調整率(adjustment factor)を乗じて求められる。
(4)その評価の事例(財務省規則20.2031-7条)
 ① 生涯定期金
 配偶者の死亡時に、その生存配偶者が年額15,000ドルの定期金を生涯にわたり受領する権利を取得した。生存配偶者は72歳であり、定期金は月次に定額支払われる。配偶者の死亡時の法7520条金利は5.6%であった。5.6%の複利表Sの年齢72歳に対応する定期金数理評価率(Annuity factor)は8.3495であった。複利表Kの月次支払いの調整率は1.0254であった。この定期金の現在価値は、定期金額に定期金数理評価率を掛け、更に調整率を掛けて算出される。
 $15,000×8.3495×1.0254=$128,423.66
 ② 元本受益権  遺言信託において、収益受益者がその生涯にわたり信託収益を享受し、元本受益者が信託の満期に信託財産を受領することになった。委託者死亡時に、信託財産の評価額は50,000ドル、収益受益者の年齢は47歳と5か月、法7520条金利は6.2%であった。6.2%の複利表Sの47歳に対応する残余財産数理評価率(remainder factor)は0.18672であった。元本受益権の現在価値は信託財産の評価額に残余財産数理評価率を掛けて算出される。
 $50,000×0.18672=$9336.00
 ③ 収益受益権  親の死亡時に、長男が信託財産からの収益を生涯にわたり受領し、次男が長男の死後、元本の信託財産を受領することになった。親の死亡時に、信託財産の評価額は50,000ドル、長男の年齢は30歳と10か月、法7520条金利は6.2%であった。6.2%の複利表Sの31歳に対応する残余財産数理評価率は0.08697に対応する収益受益評価率(Estate factor)は0.91303であった。収益受益権の現在価値は信託財産の評価額に収益受益数理評価率を掛けて算出される。
 $50,000×0.91303=$45651.50
 ④ 生涯定期金  配偶者の死亡時に、その生存配偶者が年額10,000ドルの定期金を生涯にわたり受領する権利を取得した。定期金は半年毎に定額支払われる。配偶者の死亡時に生存配偶者は45歳と7か月、法7520条金利は4.8%であった。4.8%の複利表Sの年齢46歳に対応する定期金数理評価率(Annuity factor)は15.6721であった。複利表Kの半年払いの調整率は1.0119であった。この定期金の現在価値は、定期金額に定期金数理評価率を掛け、更に調整率を掛けて算出される。
 $10,000×15.6721×1.0119=$158585.98
 ⑤ 一定期間の定期金  配偶者の死亡時に、その生存配偶者が年額10,000ドルの定期金を5年間受領する権利を取得した。定期金は四半期毎に定額支払われる。配偶者の死亡時の法7520条金利は9.8%であった。9.8%の複利表Bの5年の定期金数理評価率(Annuity factor)は3.8102であった。複利表Kの四半期払いの調整率は1.0360であった。この定期金の現在価値は、定期金額に定期金数理評価率を掛け、更に調整率を掛けて算出される。
 $10,000×3.8102×1.0360=$39473.67


(5)ユニトラスト権の評価  ユニトラスト権の信託配当率と期間とユニトラスト権者の年齢に基づき、ユニトラスト権の評価表にある残余財産受益権の割引率に当初信託財産評価額を掛けて残余財産受益権評価額を算出する。ユニトラスト権の評価額は当初信託財産評価額から残余財産受益権評価額を差し引いて算出する。具体的には数理評価解説3Bの複利表U、D、F、Zにより評価する。この評価表は定期金の評価方法と異なり割引率として法7520条金利ではなく、ユニトラスト権の信託配当率を使う点に特徴がある。
(6)数理評価解説(IRS Publication1457、1458、1459)  個別事情に基づく評価方法については、内国歳入庁が公表する数理評価の解説が参考になる。この解説は3種類がある。
 数理評価解説3A(Actuarial Valuations Version 3A)は複利表S、R(2)、B、H、K、2000CMにより評価する。数理評価解説3Bは複利表U(1)、U(2)、D、F、Z、2000CMにより評価する。数理評価解説3Cは減価償却調整率(depreciation adjustment factor)により評価する。各数理評価解説に記載された事例は複雑であるために本稿では割愛する。
(7)慈善残余信託(Charitable Remainder Trust)  慈善残余信託では信託期間中は委託者又はその家族等が信託財産からの利益を享受し、信託終了時に慈善団体が残余財産を受領する信託である。この信託財産からの利益は毎年一定額又は信託財産の評価額(毎年洗い替えを行う)の一定割合である。この信託の残余財産権の公正な市場価額の算出は上記とは別の規定に基づく。慈善信託にはこの他に慈善先行信託(Charitable Lead Trust)がある。慈善先行信託では、信託期間中は慈善団体が信託財産からの利益を享受し、信託終了時に委託者又はその家族等が残余財産を受領する信託である。この信託財産からの利益は毎年一定額又は信託財産の評価額(毎年洗い替えを行う)の一定割合である。慈善信託はそれだけで1章を必要とする量のテーマであるために本稿では割愛する。
(8)税制非適格な委託者が権利を留保する信託の評価  この受益権の評価額は信託設定時の信託財産の評価額の全額である。
(9)コモンロー委託者受益権留保信託の受益権の評価  この税制非適格な収益受益権の評価は、信託財産額に対する年次の信託収益率を法7520条金利とみなして評価するが、委託者が信託期限の前に死亡する可能性があるので、委託者の年齢に対応する平均余命を勘案して評価する。

第4節 税制適格な委託者定期金留保信託の利用

(1)定期金額
 定期金の額は前年の額の120%まではステップアップが認められる(財務省規則§25.2702-3(a)(1)(ⅱ)(A))。例えば、信託期間10年として定期金の額を2年ごとに20%増にすれば、8年目には当初の額の2倍にすることができる。例えば自社株を信託財産とする場合、会社の利益成長率が高いのであれば、株式配当額が年々増加するので、定期金の額をこのようにステップアップすることにより、定期金の評価額を高くすることができる。定期金の評価額が高ければ、残余財産受益権の評価額を低く抑えることができるので、贈与税が低くなる。なお、信託財産として、金融商品だけでなく、同族会社の株式、収益不動産等利回りが高い資産を組み入れることができる。
(2)信託収益の委託者課税  信託財産の収益額が定期金額を上回った場合は、超過額を定期金権者である委託者に分配する。この信託は委託者が支配権を持つ譲与者信託であるから、所得税課税においては、もともと委託者に対して課税が行われるからである(内国歳入法677条)。委託者は定期金額および超過額の合計(信託財産の収益額)について課税される。超過額を残余財産受益者に分配することはできない(財務省規則§25.2702-3(a)(1)(ⅲ))。
(3)ユニトラスト権の信託財産  利益成長率が高い株式を信託財産とする場合は、株式の評価額が年々上昇するので、信託配当率が一定であっても、信託配当額を実質的に増額できる。但し、信託財産を毎年再評価する必要があるので、上場有価証券等の市場価額が容易に取得できる財産でなければならない。

第3章 米国の信託税制から学ぶこと
 第1章第3節「一般の収益受益権の評価の問題」において、日本では信託利益の推算額を恣意的に操作する余地があることが問題であった。
 これに対して第2章第3節「受益権の評価の仕方」では、法7520条に基づく受益権の評価において、米国では信託利益の推算の恣意性を排除する対策が講じられていることを紹介した。
 本章では収益受益権の評価方法のあるべき方向性を検討する。

1.信託給付の額の変動が予想される収益受益権の評価  日本では、収益受益権の評価方法について相続税法に定めがなく、財産評価基本通達202がその評価の基礎となる利益の価額を納税者の推算に委ねている。
 米国の場合、収益受益権(毎年の信託収益額の実績により信託配当する。income interest)の評価は信託財産評価額に複利表にある収益受益評価率を掛けて算出する。この収益受益評価率は複利表Sでは期限条件付き財産権(Estate)、複利表Bでは収益受益権(income)との表示された欄の割引率のことであり、この割引率は信託財産評価額から元本受益権(remainder interest)の評価率を差し引いて算出される。この元本受益権評価率は法7520条金利による現在価値率であるから、収益受益評価率は信託財産が法7520条金利の利益を生むとみなして算出したことになる(脚注3)。つまり収益受益評価率の計算においては、信託財産の実際の収益率の高低に拘わらず、また実際の収益率の今後の上下に拘わらず、信託収益率を法7520条金利とみなすので、納税者が信託収益率を恣意的に高く推算するような租税回避行為が行われる余地がない。信託財産の収益率を法7520条金利の利益とみなす理由は、法7520条金利が日本の基準金利と同様に資本市場の安全利子率であり、評価時点で最も確実な収益見積もりになるからである。
 平成12年に財産評価基本通達が改正された時に税理士の山田煕先生は、元本受益権の評価額は信託財産を基準年利率で割り引いて算出すべきであると主張した(脚注4)。これは改正通達によれば、収益力の高い信託財産を受領することのできる元本受益権の評価額が、収益力の低い信託財産を受領することのできる元本受益権の評価額より低くなるという矛盾した結果が生ずるからである。
 筆者は、信託収益率が確定している場合はともかく、信託収益額の見積りが困難な場合は、日本においても米国と同様に元本受益権の評価額は信託財産を基準年利率で割り引いて算出し、収益受益権の評価額は信託財産評価額から元本受益権の評価額を差し引いて算出すべきであると思料する。この算出方法は、現行の評価方法とは逆になるが、信託財産の収益率を基準年利率と同じとみなせば、どちらの算出方法をとっても評価額は全く同じになる。こうすれば、納税者による恣意的な信託収益率の引き上げを回避できる。
 収益受益評価率は信託財産の収益率(C)に法7520条金利(i)とする期間n年の複利年金現価率を掛けて算出する。期間n年の複利年金現価率をVとすると、収益受益評価率=C×(1-V)÷i。そこで、もし、信託財産の収益率(C)が法7520条金利(i)と同じであるならば、収益受益評価率は、i×(1-V)÷i=1-Vとなる。この「V」は元本受益権評価率である。
 この計算から、もし収益受益評価率が(1-元本受益権評価率)の算式で求められるのであれば、信託財産の収益率(C)が法7520条金利(i)と同じであることを意味する。また、信託財産の収益率(C)が法7520条金利(i)と同じであるならば、元本受益権評価率は現行の評価方法により信託財産の評価額から収益受益評価率を差し引いて求めることができることを示す。

2.信託給付の額が定額の収益受益権の評価  日本では、収益受益権の評価において、信託配当が定額すなわち定期金の場合に財産評価基本通達202の推算方法を適用してよいのかが明確ではない。また、定期金額を信託財産の収益力より高く設定した場合は元本受益権の評価額が下がるので、これを贈与する場合に贈与税を節税することができるように見える。更に、元本受益権の評価額が信託財産の価額より収益受益権の評価額の分だけ低くなり、元本受益権を贈与した場合の税額が信託を使わないで財産を贈与した場合の税額に比べて割安になるため、節税になるとの見方がある。
 しかし、定期金受益権の場合、実際の信託収益額が定期金額を下回った場合は、定期金の支払いに不足する金額を信託元本から取り崩すので、残余の信託財産額がその取り崩し分だけ減少する。この結果、信託収益額を上回る定期金を支払ったとしても元本受益権の評価額が下がった分の残余財産額が減少するので、元本受益者が得するわけではない。更に定期金受益者が信託期間中に受領した定期金額が定期金受益者に蓄積されて、定期金受益者が死亡した時にその相続財産として課税されるため、定期金額が課税漏れになるわけではない。
 これに対して米国では、委託者の家族の者に信託財産を贈与する信託(委託者権利留保信託)において、収益受益権の配当額が定額(定期金)または信託財産価額に対して一定割合(ユニトラスト権)の場合はむしろ税制適格になり、信託財産の評価額から収益受益権の配当額の評価額を控除して元本受益権の評価をすることができる。これに対して、毎年の信託収益額の実績により信託配当する場合は非適格になり控除額が零になる。
 日本においても、将来の「利益の価額」を信託配当の額と読み、定期金受益権に対しても財産評価基本通達202の推算方法を適用すべきであると思われる。

3.給付の期間が終身の受益権の評価  日本では、相続税法は定期金給付契約が終身定期金の場合について評価方法を定めているが、信託受益権が終身の場合について評価方法の定めはない。財産評価基本通達にもこの評価方法は示されていない。
 これに対して米国では、定期金給付契約とは別に終身の信託受益権について、生命表の生存率に基づく評価方法が定められている。
 日本は今後高齢化がますます進むので、信託収益又は定期金を生涯受領する権利についての評価方法の定めが必要であると思われる。

高橋倫彦 たかはし ともひこ
 東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)、外資系の信託銀行を経て、ベルニナ信託(現FPG信託)の取締役。現在一般社団法人民事信託活用支援機構の代表理事。富裕層向けの信託の設計、家族信託の設計では日本でも数少ない専門家。本誌に掲載された論文「受益者複層化信託の税務の取扱い─所得課税と相続課税─」は第39回日税研究賞の奨励賞を受賞。
 著書に『信託を活用した ケース別 相続・贈与・事業承継対策』日本法令(共著)等多数がある。

脚注
1 川口幸彦「信託法改正と相続税・贈与税の諸問題」(税務大学校論叢2008)事例13、P428~429。
2 一般的にコモンローとは慣習に基づく普通法のことを言い、信託法(エクイティ)に対する用語である。この信託は制定法である内国歳入法に基づくのではなく慣習に基づくのでコモンロー信託と呼ぶものと思われる。
3 元本受益権評価率は市場金利を法7520条金利(i)とする期間n年の現価率である。
4 山田煕「月刊税理」(ぎょうせい)平成12年Vol43、No.10「特集改正財産評価基本通達の実務ポイントー信託受益権の評価」。

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