カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2018年12月10日 【税理士のための相続法講座】 遺言(17)-遺言の内容(9)遺留分(2018年12月10日号・№766)

税理士のための相続法講座
第43回
遺言(17)-遺言の内容(9)遺留分
 弁護士 間瀬まゆ子

 今回のテーマは、遺留分を意識した遺言についてです。
 遺言を作成する場合、遺留分への配慮は重要な意味を有します。遺言を作成する目的の一つとして、相続人間の紛争防止があるのが通常かと思います。しかし、遺留分減殺請求がされて紛争化してしまったとしたら、上記の目的は果たされなかったことになってしまいます。
 そこで、遺留分に係る紛争を防ぐために、遺言の中で何ができるか、また、遺言作成時に選択し得る手段について、以下解説します。
1 遺留分権利者に幾許かの財産を残す  遺留分対策として最も容易なのは、多くの財産を受ける相続人(又は受遺者)以外の相続人にも、遺留分に相当する財産を残しておく方法です。当然のことですが、遺留分が満たされていますので、遺留分減殺請求権を行使する余地は無くなります。
※ ただ、財産の評価によって、遺留分の評価も変わりますので、その解釈が異なる場合に、遺留分減殺請求権を行使される余地は残ります(現預金や上場株式であれば評価の幅は少ないでしょうが、非上場株式となると、これを幾らと評価するについて、見解が大きく異なることもあり得ます)。
※ なお、遺言を作成して以降、被相続人の財産の内容が変わったり、財産の評価額が変動し、遺留分相当の財産として残すべき財産の価額が異なってくる場合もあります。そのような場合に、いちいち公正証書遺言を作成し直すのは不便ですので、それを防ぐため、ある特定の銀行口座を相続させることにしておき、その口座の残高を調整することで、遺留分相当額の変動に対応するという手段も考えられます。
 また、遺留分に相当するほどの財産は残したくはないという場合でも、「全ての財産をAに相続させる」とするよりは、仮に遺留分に満たない財産であったとしても、何らかの財産を他の相続人らにも相続させる内容としておいた方が、紛争を回避できる可能性は高くなるように思います。遺言により取得できる財産と遺留分との差額が大きくなければ、遺留分減殺請求権を行使するほどではないという判断に傾きやすいでしょうし、心情的にも、「親が何の財産も残してくれなかった」というよりは、納得を得やすいであろうと考えられるからです(先ほどのような「全ての財産をAに相続させる」という遺言が残された場合に、他の相続人らが「親が自分たちのことを考えないわけがない。そんな遺言はAが親に書かせたものに違いない。」と考え、その怒りの矛先をAに向けるというのはよくあることです。)。
2 付言事項の活用  遺言の中では、法的効力を持つ遺言事項だけでなく、法的効力はないけれども遺言者の家族への希望等を記載した「付言事項」も記載することが可能です。
 法的効力がない故に専門家は軽視しがちなところですが、内容によっては、これが遺留分権利者の心に響き、遺留分減殺請求権の行使を阻止する事実上の効力を発揮することもあります。
 例えば、以下のような付言事項を残すことが考えられます。
 AとBに平等に財産を残したかったけれど、自宅以外の財産がわずかでそれがかないませんでした。それでも、私の気持ちを汲んで、どうかこの遺言に従って下さい。二人がいつまでも仲良くしてくれることを何よりも願っています。
 極めて不確実な話ではありますが、相続分と比較すると僅かな預貯金しか取得できなかったBが、これを見て納得する可能性もあるのです。
 ただ、付言事項の活用には注意も必要です。遺言者の希望も空しく紛争化してしまい、遺言の解釈が問題になるようなこともあります。そのような場合、双方の代理人となった弁護士は、付言事項の記載を、自説の根拠として用います。せっかく遺言者が自らの意思を相続人らに伝えるため残した付言事項の文言が、相続人らにより、紛争を更に激化させるために用いられることにすらなりかねないのです。
 ですので、遺言事項に関して、解釈に疑義が生じないように配慮することが何より大切ですが、それに加えて、付言事項を残す場合には、それが思わぬ使われ方をしないか、注意することも必要になります。
3 減殺方法の指定  民法1034条本文は、「遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。」と定めています。これにより、不動産も共有状態となり、厄介な事態に陥ることは珍しくありません。そのような場合の対策として、遺言で遺留分減殺方法を指定しておくことが考えられます(民法1034条但書)。例えば、減殺の順序として、流動性の高い現預金等を先にすべきことを指定しておけば、不動産や非上場株について共有状態になるのを防ぐことが可能となります。
 ただ、遺留分減殺方法を指定する遺言は、実務上きわめて稀です。加えて、このような指定をすると、遺言を作る段階で、遺留分を侵害する内容の遺言と認識していたことが顕わになってしまいます。それが、遺留分権利者の怒りを買う契機ともなりかねません。ですので、その利用には慎重さが求められるでしょう。
 なお、民法相続編の改正により、遺留分減殺請求権は、遺留分侵害額請求権に変わります。現行法では、遺留分権利者は現物の返還しか請求できませんでしたが(ただし、相手方には価額弁償の抗弁があります。)、改正により金銭の支払いを求める権利に変わることになるのです。この改正に際し、現行民法1034条の内容は、新法1047条1項2号に引き継がれ、同号本文は、受遺者は取得した財産の価額の割合に応じて債務を負担すべき旨を定め、但書は、遺言で別段の意思表示をすることを認める内容となります。そのため、例えば、受遺者が2人いる場合に、遺言でAではなくBの方に先に負担させるようにというような指定を行っておくことが新法においても可能となります。
※なお、改正民法(一部を除きます)は2019年7月1日に施行されます。
4 遺産の評価を定めた遺言
 自分の相続のときには子どもたちがもめそう。予め、「遺産を財産評価基本通達に基づいて評価した上で、長男に全ての財産を相続させる。長男は次男に遺留分相当の代償金を支払うこと。」という遺言を作成しておこう。
 上記は、ある公証人から聞いた、実際にあった事例です。遺産の評価方法を遺言で定めておいても、法的には何の効果もありません。したがって、上記のように定めておいたとしても、次男は、「時価」で算定した価格に基づき遺留分減殺請求権を行使することができます。
 ただ、上記の事例では、遺言者が亡くなった際に、評価通達の定める価格そのものとはならなかったものの、それに若干上乗せした価格により評価することで次男の納得を得ることができ、無事紛争化を避けられたそうです。
 ご参考までに紹介しておきます。
5 遺留分の放棄  遺留分減殺請求されることを防ぐ最強の手段は、遺留分の放棄です。民法1043条(新法1049条)1項は、相続開始前の遺留分放棄は家庭裁判所の許可を得た場合にのみ認められる旨を規定しています。
 この裁判所の許可を得るための手続きは、内容に問題がなければ(遺留分権利者の自由な意思に基づいているか、放棄するにつき相当な理由があるか、生前贈与等により代償財産を取得しているかといった点が審理の対象となります。)、裁判所に出頭することなく郵便によるやりとりのみで完結する比較的簡単な手続で、認容率も90%を超えます。
 したがって、手続自体は難しくないのですが、ただ、遺留分を放棄するにつき推定相続人の理解と協力を得なければならないという点において、極めて高いハードルがあります。被相続人としても、そのような話を親族にしたくないという気持ちがあるのが普通でしょう。
 ただ、遺留分を侵害する遺言を残す場合に、相続開始後の紛争を防ぐための手段として、遺留分の生前放棄は非常に有効ですし、相続開始前に被相続人から直接依頼すれば遺留分権利者の理解を得やすい場合もありますので、検討する価値は大きいと考えます。 
 なお、中小企業経営承継円滑化法が、遺留分に関する民法の特例として、後継者に生前贈与された自社株式を遺留分算定の基礎財産に算入しない合意(除外合意)と遺留分算定の基礎財産に算定する際の価額をあらかじめ固定する合意(固定合意)を認めていますが、手続上のハードルもあり、この制度はほとんど使われていないようです。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索