解説記事2018年12月24日 【SCOPE】 取締役が横領した金員を役員給与と認めず(2018年12月24日号・№768)
審判所、源泉所得税の納税告知処分等を取消す
取締役が横領した金員を役員給与と認めず
代表取締役以外の取締役による金員の横領をめぐり、横領した金員を役員給与と認定した原処分庁による源泉所得税の納税告知処分及び重加算税の賦課決定処分の全部を国税不服審判所が取り消した(平成30年5月7日裁決・大裁(諸)平29第73号)。審判所は、本件の取締役は請求人の業務に影響力を有していたとは認められず、経理業務の重要な部分を任せられていたとも認められないと指摘。また、取締役が請求人の経営の実権を掌握し、請求人を実質的に支配していたとも認められないとも指摘したうえで、取締役がその地位及び権限に基づいて請求人から横領した金員を得たものとは認められないことから、給与等には該当しないと結論付けている。
横領した取締役は代表取締役の実弟も代表権なし、持株割合は25%以下
同族会社である請求人の取締役は、代表取締役である本件代表者とその実弟である本件役員(代表権なし)の2名のみであった。なお、発行株式は、本件で問題となった平成21年から平成28年にかけて本件代表者が55%~75%、本件役員が10%~25%保有していた。
税務調査により不正が発覚 本件役員による横領(不正行為)は、課税当局による税務調査により発覚した。課税当局は、本件役員が横領した金員の一部(以下「本件金員」)を役員給与と認定したうえで、請求人に対して源泉所得税の納税告知処分及び重加算税の賦課決定処分を行った。
これを不服とした請求人は、本件役員が請求人の意思に反して横領したものであって、役員給与ではないと主張し、源泉所得税の納税告知処分及び重加算税の賦課決定処分の取り消しを求める審査請求を行った。これに対し原処分庁は、本件役員が請求人の業務において影響力を有していたこと及び経理業務の重要な部分を任せられていたことを踏まえると、本件役員はその地位に基づいて本件金員という経済的利益を支給されたといえるから本件金員は役員給与に該当する旨を主張していた(当事者の主張は表参照)。
審判所、法人経営の実権を掌握し実質的に支配していれば給与等に該当
審判所はまず、代表者等が法人経営の実権を掌握し法人を実質的に支配している事情がある場合、このような代表者等が自己の権限を濫用してその法人の事業活動を通じて得た利得は給与支出の外形を有しない利得であっても、法人の資産から支出をし、その支出を利得・費消したと認められるときには、その支出がその代表者等の立場と全く無関係であり、法人からみて純然たる第三者との取引ともいうべき態様によるものであるなどの特段の事情がない限り、実質的に代表者等がその地位及び権限に対して受けた給与等であるという解釈を示した。
次に審判所は、本件役員による横領行為は本件代表者の関与なく単独で行われたものであり、請求人は横領発覚の前後を通じて本件役員が本件金員を利得することを容認していないと認められるという事情の下でも、本件役員が請求人の経営の実権を掌握し、請求人を実質的に支配しているような場合であって、本件役員がその権限を濫用して請求人の事業活動を通じて本件金員を得たときには、本件金員は原則として本件役員の地位及び権限に基づいて得た給与に該当するとした。
本件役員が経営の実権を掌握し実質的に支配していたとは認められず
そして本件について審判所は、本件役員は法律上、単独で請求人の業務執行等を決定する地位にあったとは認められず、事実上もそのような地位にあったことを認める証拠がないことから、本件役員が請求人の業務において影響力を有していたとは認められないとした。また審判所は、本件役員が経理業務の重要な部分を任せられていたとは認められず、そのほかにこれを認める証拠はないとした。
以上を踏まえ審判所は、本件役員は請求人の業務に影響力を有していたとは認められず、経理業務の重要な部分を任せられていたとも認められないから、本件役員が請求人の経営の実権を掌握し、請求人を実質的に支配していたとは認められないと判断。本件役員がその地位及び権限に基づいて請求人から本件金員を得たものとは認められず、本件金員は請求人が本件役員に支給した給与等に該当するとは認められないとしたうえで、源泉所得税の納税告知処分及び重加算税の賦課決定処分の全部を取り消した。
取締役が横領した金員を役員給与と認めず
代表取締役以外の取締役による金員の横領をめぐり、横領した金員を役員給与と認定した原処分庁による源泉所得税の納税告知処分及び重加算税の賦課決定処分の全部を国税不服審判所が取り消した(平成30年5月7日裁決・大裁(諸)平29第73号)。審判所は、本件の取締役は請求人の業務に影響力を有していたとは認められず、経理業務の重要な部分を任せられていたとも認められないと指摘。また、取締役が請求人の経営の実権を掌握し、請求人を実質的に支配していたとも認められないとも指摘したうえで、取締役がその地位及び権限に基づいて請求人から横領した金員を得たものとは認められないことから、給与等には該当しないと結論付けている。
横領した取締役は代表取締役の実弟も代表権なし、持株割合は25%以下
同族会社である請求人の取締役は、代表取締役である本件代表者とその実弟である本件役員(代表権なし)の2名のみであった。なお、発行株式は、本件で問題となった平成21年から平成28年にかけて本件代表者が55%~75%、本件役員が10%~25%保有していた。
税務調査により不正が発覚 本件役員による横領(不正行為)は、課税当局による税務調査により発覚した。課税当局は、本件役員が横領した金員の一部(以下「本件金員」)を役員給与と認定したうえで、請求人に対して源泉所得税の納税告知処分及び重加算税の賦課決定処分を行った。
これを不服とした請求人は、本件役員が請求人の意思に反して横領したものであって、役員給与ではないと主張し、源泉所得税の納税告知処分及び重加算税の賦課決定処分の取り消しを求める審査請求を行った。これに対し原処分庁は、本件役員が請求人の業務において影響力を有していたこと及び経理業務の重要な部分を任せられていたことを踏まえると、本件役員はその地位に基づいて本件金員という経済的利益を支給されたといえるから本件金員は役員給与に該当する旨を主張していた(当事者の主張は表参照)。
【表】取締役(本件役員)が横領した金員は役員給与に該当するか否か(当事者の主張) |
請求人(納税者) | 原処分庁(課税当局) |
裁判例によれば、いわゆる認定賞与も、明示的又は黙示的な会社のその旨の行為を要するのであり、役員が横領した金員がその役員に対する給与と認められるのは、その役員が会社を実質的に支配していることなどから、その役員の横領が会社の行為と同視できる場合である。しかし、本件役員は請求人の少数株主かつ代表権のない取締役にすぎず、その職務内容や権限は他の経理担当の従業員と変わらなかった。また、請求人は、不正行為発覚後直ちに、本件役員に対して横領金の返還を請求していることなどから、不正行為が請求人の意思に反することは明らかである。以上によれば、不正行為は、請求人の行為と同視できない。 したがって、本件金員は、請求人が本件役員に支給した給与に該当しない。 | ①請求人は本件代表者と本件役員のみが役員である同族会社であり、本件役員は本件代表者の実弟という身分関係にあったことからして、本件役員は本件代表者に次ぐ役員として請求人の業務において影響力を有していたものと認められること、②本件役員は取締役専務の肩書で経理及び財務の総責任者を務めており、本件代表者は自ら容易に行える当座預金の残高照合の確認作業や帳簿の不審点についての本件役員への追及などをしていなかったことからして、本件役員は経理業務の重要な部分を任せられていたと認められることからすると、本件役員はその地位に基づいて本件金員という経済的利益を支給されたといえる。 したがって、本件金員は、請求人が本件役員に支給した給与に該当する。 |
審判所、法人経営の実権を掌握し実質的に支配していれば給与等に該当
審判所はまず、代表者等が法人経営の実権を掌握し法人を実質的に支配している事情がある場合、このような代表者等が自己の権限を濫用してその法人の事業活動を通じて得た利得は給与支出の外形を有しない利得であっても、法人の資産から支出をし、その支出を利得・費消したと認められるときには、その支出がその代表者等の立場と全く無関係であり、法人からみて純然たる第三者との取引ともいうべき態様によるものであるなどの特段の事情がない限り、実質的に代表者等がその地位及び権限に対して受けた給与等であるという解釈を示した。
次に審判所は、本件役員による横領行為は本件代表者の関与なく単独で行われたものであり、請求人は横領発覚の前後を通じて本件役員が本件金員を利得することを容認していないと認められるという事情の下でも、本件役員が請求人の経営の実権を掌握し、請求人を実質的に支配しているような場合であって、本件役員がその権限を濫用して請求人の事業活動を通じて本件金員を得たときには、本件金員は原則として本件役員の地位及び権限に基づいて得た給与に該当するとした。
本件役員が経営の実権を掌握し実質的に支配していたとは認められず
そして本件について審判所は、本件役員は法律上、単独で請求人の業務執行等を決定する地位にあったとは認められず、事実上もそのような地位にあったことを認める証拠がないことから、本件役員が請求人の業務において影響力を有していたとは認められないとした。また審判所は、本件役員が経理業務の重要な部分を任せられていたとは認められず、そのほかにこれを認める証拠はないとした。
以上を踏まえ審判所は、本件役員は請求人の業務に影響力を有していたとは認められず、経理業務の重要な部分を任せられていたとも認められないから、本件役員が請求人の経営の実権を掌握し、請求人を実質的に支配していたとは認められないと判断。本件役員がその地位及び権限に基づいて請求人から本件金員を得たものとは認められず、本件金員は請求人が本件役員に支給した給与等に該当するとは認められないとしたうえで、源泉所得税の納税告知処分及び重加算税の賦課決定処分の全部を取り消した。
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