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解説記事2019年02月25日 【税務マエストロ】 軽減税率制度(1)(2019年2月25日号・№776)

税務マエストロ
税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
軽減税率制度(1)

#226 熊王征秀(税理士)

略歴 学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税トラブルの傾向と対策』等、著書多数。
現在
東京税理士会会員相談室委員
東京税理士会調査研究部委員
東京地方税理士会税法研究所研究員
日本税務会計学会委員
大原大学院大学教授

マエストロの解説  日本の財政は正に危機的な状況にある。歳入が歳出の半分弱、足りない分は国債の大量発行で帳尻をあわせ、延々と積み重ねた借金はとうとう1,000兆円を超えるまでに膨らんでいる。この目も眩むような借金を解消すべく、三党合意で財政再建に取り組む約束だったのに、いつの間にやら論点がすり替わり、軽減税率の導入から教育費の無償化、挙句の果てには参院定数6増改正案の成立と、まさにやりたい放題の安倍政権である。日本の将来に不安を感じているのは決して筆者だけではあるまい。
 平成29年4月1日から予定されていた消費増税と軽減税率の導入は、平成28年5月の伊勢志摩サミット終了後、6月1日に安倍総理の「新しい判断?」により、平成31年(2019年)10月まで正式に延期表明がされている。
 ところで、平成31年(2019年)10月からの消費増税と軽減税率の導入であるが、「二度あることは三度ある」という諺もあり、予定通りの実施に懐疑的な意見も根強くあるようだ。前回の延期発表は施行日(平成29年4月1日)のちょうど10か月前であった。そうすると、同じタイミングで発表するならば、平成30年12月1日には発表していないといけないことになるので、リーマンショックレベルの大不況か東日本大震災レベルの災害でもない限り、さすがにもう延期はないものと思われる。
 軽減税率制度の導入により、飲食料品を取り扱う卸売業者や小売業者は、仕入商品や販売商品を税率ごとに区分して管理することが必要となる。飲食店業は、軽減税率で食材を仕入れ、標準税率で食事を提供することになるが、テイクアウトや宅配の料理は軽減税率が適用されるので、販売形態別に売上高を管理することが今後は重要となってくる。飲食料品の製造業であれば食材の仕入れは軽減税率で、割り箸や容器などの仕入れは標準税率になる。新聞販売店であれば、本社からの新聞の仕入れは標準税率で、顧客に販売する新聞は軽減税率である。
 また、福利厚生費や会議費として処理するお茶や菓子などは軽減税率が適用されるので、実務においてはほぼすべての事業者に軽減税率は影響することになるのだ。
 税率管理をするためのレジシステムなどの準備、さらには日本型インボイスへ移行するための領収証や請求書の雛形の改訂、社員教育など、消費税導入以来最大規模の改正が本年10月に迫っていることを我々実務家はしっかりと認識する必要があろう。
 いささか前置きが長くなったが、こういった実情を踏まえ、今月からは消費税の軽減税率制度について、国税庁のQ&Aなども参考にしながら実務上のポイントを確認していくこととする。

1 消費税増税と軽減税率制度の実施(消法29・平成28年改正法附則34①)  平成31年(2019年)10月1日より消費税の(標準)税率が引き上げになり、これと同時に「酒類・外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」を対象に、軽減税率制度が実施されることとなった。

 軽減税率は消費税と地方消費税を合わせて一律に8%とされている。内訳は、消費税(国税)が6.24%、地方消費税が1.76%となっており、軽減税率対象取引による違いはない。
 なお、平成31年(2019年)10月1日より、標準税率は消費税と地方消費税を合わせて10%に引き上げになるが、その内訳は、消費税(国税)が7.8%、地方消費税が2.2%となっている。つまり、消費税(国税)と地方消費税の割合で、8%の軽減税率を振り分けたということである。

 また、地方消費税の「譲渡割額」は、次の算式により計算する。
 平成31年(2019年)10月1日から消費税率が引き上げになることに伴い、工事の請負やリース契約などについては経過措置により8%の現行税率が適用となるケースが想定される。現行税率の8%と軽減税率の8%では消費税と地方消費税の内訳がそれぞれ異なっていることから、会計ソフトへ適用税率を入力する際には、「旧税率8%」「軽減税率8%」「新税率10%」をそれぞれ区分する必要がある。また、リバースチャージ取引についても税率コードは異なってくるであろうから、税率の引き上げ前後の事務処理は相当に煩雑になることを覚悟しておく必要がありそうだ。

2 飲食料品の譲渡(消法2①九の二・別表第1一・平成28年改正法附則34①一・食品表示法2①)  軽減税率が適用される「飲食料品」とは、食品表示法に規定する食品をいう。食品表示法では、「食品」について、医薬品、医薬部外品、再生医療等製品を除き、食品添加物を含むものと定義している。
 また、いわゆる外食サービスやケータリング(出張料理)についても「軽減対象課税資産の譲渡等」の定義から除外することにより、標準税率を適用することとした。


3 食品とは?  「食品」とは、人の飲食用に供されるものをいうのであるから、人の飲食用以外の用途で販売するものには軽減税率は適用されないことになる。
 したがって、人の飲食用として譲渡した食品が購入者により他の用途に供されても軽減税率が適用されるのに対し、工業用原材料として取引される塩や観賞用・栽培用として取引される植物などのように、人の飲食を目的としない物品が飲食のために購入された場合でも軽減税率は適用されないことになる。
 つまり、取引(販売)時点における販売者の表示方法により適用税率が決まるということである(軽減通達2、Q&A(制度概要編)問11)

参考:消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)より ●畜産物と水産物・家畜の飼料とペットフード
答(一部省略)
(生きた畜産物の販売)
 当社は畜産業として肉用牛を販売していますが、生きている牛の販売は、軽減税率の適用対象となりますか(問2)
 肉用牛、食用豚等の生きた家畜は、その販売の時点において、人の飲用又は食用に供されるものではないため、「食品」に該当せず、その販売は軽減税率の適用対象となりません(改正法附則34①一、軽減通達2)。
 なお、これらの家畜の枝肉は、人の飲用又は食用に供されるものであり、その販売は軽減税率の適用対象となります。
(水産物の販売)
 当社では、食用の生きた魚を販売していますが、軽減税率の適用対象となりますか(問3)
 人の飲用又は食用に供される活魚は「食品」に該当し、その販売は軽減税率の適用対象となります(改正法附則34①一、軽減通達2)。
 なお、生きた魚であっても人の飲用又は食用に供されるものではない熱帯魚などの観賞用の魚は、「食品」に該当せず、その販売は軽減税率の適用対象となりません。
(家畜の飼料、ペットフードの販売)
 家畜の飼料やペットフードの販売は、軽減税率の適用対象となりますか(問4)
 人の飲用又は食用に供されるものではない牛や豚等の家畜の飼料やペットフードは、「食品」に該当せず、その販売は軽減税率の適用対象となりません(改正法附則34①一、軽減通達2)。

<筆者コメント>  軽減税率の対象品目である「飲食料品」とは、食品表示法に規定する食品をいうこととされており、その具体的な範囲は食品表示基準の別表に列挙されている。別表第2<生鮮食品>では、2に食肉などの畜産物、3に魚や貝などの水産物が列挙されており、3の水産物には、「生きたものを含む」とのかっこ書があるので、国税庁のQ&Aはこの食品表示基準に基づいて作成されたものと思われる。

●コーヒーの生豆・籾・苗木・種子
答(一部省略)
(コーヒーの生豆の販売)
 当社はコーヒーの生豆の販売を行っていますが、軽減税率の適用対象となりますか(問5)
 人の飲用又は食用に供されるコーヒーの生豆は「食品」に該当し、その販売は軽減税率の適用対象となります(改正法附則34 ①一、軽減通達2)。
(籾の販売)
 籾の販売は、軽減税率の適用対象となりますか(問6)
 人の飲用又は食用に供される籾は、「食品」に該当し、その販売は軽減税率の適用対象となります(改正法附則34①一、軽減通達2)。
 なお、人の飲用又は食用に供されるものではない「種籾」として販売される籾は、「食品」に該当せず、その販売は軽減税率の適用対象となりません。
(苗木、種子の販売)
 果物の苗木及びその種子の販売は、軽減税率の適用対象となりますか(問7)
 果物の苗木など栽培用として販売される植物及びその種子は、「食品」に該当せず、その販売は軽減税率の適用対象となりません(改正法附則34 ①一、軽減通達2)。なお、種子であっても、おやつや製菓の材料用など、人の飲用又は食用に供されるものとして販売されるかぼちゃの種などは、「食品」に該当し、その販売は軽減税率の適用対象となります。

<筆者コメント>  軽減税率が適用される取引か否かの判定は、事業者が課税資産の譲渡等を行う時、すなわち、飲食料品を提供する時点(取引を行う時点)で行うこととなる(Q&A(制度概要編)問11)。したがって、飲食料品の譲渡の判定に当たっては、
① 販売する事業者が、人の飲用又は食用に供されるものとして譲渡した場合には、顧客がそれ以外の目的で購入し、又はそれ以外の目的で使用したとしても、当該取引は「飲食料品の譲渡」に該当し、軽減税率の適用対象となる(軽減通達2)。
② 販売する事業者が、人の飲用又は食用以外に供されるものとして譲渡した場合には、顧客がそれを飲用又は食用に供する目的で購入し、又は実際に飲用又は食用に供したとしても、当該取引は「飲食料品の譲渡」に該当せず、軽減税率の適用対象とはならない。
 上記のQ&Aを踏まえ、問6の「籾の販売」は、食用の籾であれば軽減税率となるのに対し、「種籾」は食用として販売するものではないので標準税率となる。
 また、問7の栽培用の苗木や種子は食用として販売するものではないので標準税率が適用される一方で、おやつや製菓の材料用(食用)として販売されるものは軽減税率が適用されることになるのである。

●水と氷・ウォーターサーバー
答(一部省略)
(水の販売)
 水の販売は、軽減税率の適用対象となりますか(問8)
 人の飲用又は食用に供されるものであるいわゆるミネラルウォーターなどの飲料水は、「食品」に該当し、その販売は軽減税率の適用対象となります。他方、水道水は、炊事や飲用のための「食品」としての水と、風呂、洗濯といった飲食用以外の生活用水として供給されるものとが混然一体となって提供されており、例えば、水道水をペットボトルに入れて、人の飲用に供される「食品」として販売する場合を除き、軽減税率の適用対象となりません(改正法附則34 ①一、軽減通達2)。
(氷の販売)
 氷の販売は、軽減税率の適用対象となりますか(問9)
 人の飲用又は食用に供されるものであるかき氷に用いられる氷や飲料に入れて使用される氷などの食用氷は、「食品」に該当し、その販売は軽減税率の適用対象となります(改正法附則34①一、軽減通達2)。なお、例えば、ドライアイスや保冷用の氷は、人の飲用又は食用に供されるものではなく、「食品」に該当しないことから、その販売は軽減税率の適用対象となりません。
(ウォーターサーバーのレンタル及びウォーターサーバー用の水の販売)
 当社は、事業所及び一般家庭に対し、ウォーターサーバーをレンタルしてレンタル料を受け取るとともに、ウォーターサーバーで使用する水を販売して販売代金を受け取っています。このウォーターサーバーのレンタル及びウォーターサーバーで
使用する水の販売は、軽減税率の適用対象となりますか(問10)
 軽減税率が適用されるのは、「飲食料品の譲渡」であるため、「資産の貸付け」であるウォ-ターサーバーのレンタルについては、軽減税率の適用対象となりません(改正法附則34 ①一)。
 また、「食品」とは、人の飲用又は食用に供されるものをいいますので、人の飲用又は食用に供されるウォーターサーバーで使用する水は、「食品」に該当し、その販売は軽減税率の適用対象となります(軽減通達2)。

<筆者コメント>  ウォーターサーバーのレンタル料を支払えば水が無料で支給されるような契約の場合には、レンタル料の全額に標準税率が適用されるものと思われる(私見)。

●賞味期限切れの食品
答(一部省略)
(賞味期限切れの食品の廃棄)
 賞味期限切れの食品を廃棄するために譲渡する場合は、軽減税率の適用対象となりますか(問11)
 賞味期限切れの「食品」を廃棄するために譲渡する場合は、人の飲用又は食用に供されるものとして譲渡されるものではないことから、軽減税率の適用対象となりません(改正法附則34①一、軽減通達2)。

<筆者コメント>  賞味期限切れの「食品」を廃棄するために譲渡する場合は、人の飲用又は食用に供されるものではないことから軽減税率の適用対象とはならないと解説されている。では、賞味期限切れの「食品」を、半ば確信犯的に食用として販売している場合はどうなるのであろう?人の飲用又は食用として販売する限り、たとえ賞味期限が切れていても軽減税率が適用されると思うのであるが……。

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