解説記事2019年03月04日 【未公開裁決事例紹介】 フランス社会保険制度の年金は公的年金等に該当(2019年3月4日号・№777)
未公開裁決事例紹介
フランス社会保険制度の年金は公的年金等に該当
加入義務付けなどで日本の社会保険に類すると評価
○フランスの社会保険制度に基づいて受給した年金が公的年金等に該当するか否か争われた事案。国税不服審判所は、フランス年金に係る年金制度はいずれも民間の被用者を対象とし、法律でその加入が義務付けられ、賦課方式による財政運営を基礎とする退職年金であるという点において、厚生年金保険法の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものと評価することができると指摘。所得税法35条3項3号に掲げる年金として、公的年金等に該当するとの判断を示した(平成30年5月15日、棄却)。
基礎事実等
(1)事案の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がフランス共和国(以下「フランス」という。)の社会保険制度に基づいて支給を受けた年金について、原処分庁が、所得税法第35条《雑所得》第3項第3号に規定する公的年金等に該当するなどとして公的年金等に係る雑所得の収入金額に算入し所得税等の各更正処分を行ったのに対し、請求人が、支給を受けたフランスの当該制度に基づく年金は同号に規定する公的年金等に該当しないなどとしてその全部の取消しを求め、さらに、当該各処分に係る滞納国税に対する各督促処分も違法であるなどとしてその全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令等の要旨(略)
(3)基礎事実 当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人の外国年金の受給経緯について (イ)請求人は、平成4年から平成7年までの約4年間にわたりフランスに滞在し、フランス国内での勤務経験を有していた。
(ロ)請求人は、フランス滞在中、フランスの社会保険制度に基づく退職年金に加入していたところ、当該年金の受給資格を有することとなったため、平成22年3月、××××××××××に当該年金の受給申請手続を委託した。
請求人が×××××を介して受給を申請し、その後、フランスの年金取扱機関によって給付の裁定を受けたフランスの年金は、一般制度に基づいて支給される年金と補足制度に基づいて支給される2種類の年金(一般労働者向けの制度により支給される年金と管理職員向けの制度により支給される年金)の合計3種類(以下、これら3種類の年金を併せて「本件各フランス年金」という。)であり、請求人は、平成22年5月以降、本件各フランス年金を受給することとなった。
(ハ)本件各フランス年金は、平成27年及び平成28年の各年において、×××××(現商号は×××××である。以下同じ。)××××の請求人名義の外貨普通預金口座にユーロ建てで入金(以下、本件各フランス年金の入金日を「本件各取引日」という。)されており、本件各フランス年金の入金状況等については、別表1-1(略)及び別表1-2(略)のとおりである。
(ニ)請求人は、××××××××××に対し、年間維持管理費及び情報通信費として、平成27年及び平成28年の各年にそれぞれ22,440円を支払った。
ロ フランスにおける退職年金制度について フランスにおける民間の被用者を対象とする退職年金制度は、大別して、①一般制度、②補足制度及び③再補足制度の3階層で構成されている。
なお、フランスの退職年金制度のうち、一般制度はフランス社会保障法典を根拠とし、また、補足制度はその根幹となる部分について、フランス社会保障法典で規定されている。
(イ)一般制度
一般制度は、フランスの退職年金制度の第1階層部分を構成する公的年金制度であり、法律によって民間の被用者に加入が義務付けられ、賦課方式(必要な年金原資を同時期の就業者が支払う保険料で賄う方式をいう。以下同じ。)を基礎とし、年金支給額は就業年数及び就業期間中に支給された給与額等に応じて決定される確定給付型の形態をとっている。
(ロ)補足制度
補足制度は、フランスの退職年金制度の第2階層部分を構成する企業年金制度であり、その代表的な運営組織としてARRCO(補足年金制度連合)及びAGIRC(管理職年金制度総連合)がある。
ごく少数の例外を除き、ほぼ全ての職業分野の民間の被用者に法律によって補足制度への加入が義務付けられており、一般制度と同様、賦課方式を基礎としている。
保険料は給与額によって決定されるが、年金支給額は、保険料の額に応じて定まる点数制で、1点相当額の変動により上下する確定拠出型の形態をとっている。
(ハ)再補足制度
再補足制度は、フランスの退職年金制度の第3階層部分を構成する任意の加入者間の共済制度であり、民間の被用者が勤務先の企業を通じて保険団体と加入契約を交わし、積立方式(就業者が事前に積み立てた保険料と運用利子を原資として当該就業者の将来の年金給付を賄う方式をいう。)を基礎としている。
(4)審査請求に至る経緯等 イ 請求人は、平成27年分及び平成28年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下、これらを併せて「所得税等」という。)について、確定申告書に別表2(略)の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
ロ 請求人は、平成29年6月20日、本件各年分の所得税等について、別表2(略)の「修正申告」欄のとおり記載した各修正申告書を原処分庁へ提出した。
なお、請求人は、上記の各修正申告書において、本件各フランス年金に係る××××××××××の外貨普通預金口座への入金額を、所得税法第35条第2項に規定する公的年金等以外の雑所得に係る総収入金額に算入した上で、上記(3)のイの(ニ)のとおり、××××××××××に対して平成27年及び平成28年の各年にそれぞれ支払った22,440円を必要経費に算入して雑所得の金額を算出した。
ハ 原処分庁は、平成29年11月14日、本件各フランス年金が所得税法第35条第3項に規定する公的年金等に該当するなどとして、別表2(略)の「更正処分」欄のとおり、本件各年分の所得税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)をした。
ニ 請求人は、平成29年11月27日、本件各更正処分に不服があるとして、審査請求をした。
ホ その後、原処分庁は、請求人が、本件各更正処分による納付すべき税額(以下「本件各納付税額」という。)を納期限である平成29年12月14日までに完納せず、平成30年1月29日現在も未納となっていたため、同日付で、各督促処分(以下「本件各督促処分」という。)をした。
なお、本件各督促処分の概要は、別表3(略)のとおりである。
へ 請求人は、平成30年2月7日、本件各督促処分に不服があるとして、審査請求をした。
ト そこで、通則法第104条《併合審理等》第1項の規定に基づいて、上記への審査請求に係る審理手続を上記ニの審査請求に併合する。
争点および主張
(1)争点1 本件各フランス年金は、所得税法第35条第3項に規定する公的年金等に該当するか否か。
(2)争点2 本件各フランス年金に係る収入金額の円換算は、本件各取引日における電信売買相場の仲値によるべきであるか否か。 当事者の主張は表のとおり。
審判所の判断
(1)争点1(本件各フランス年金は、所得税法第35条第3項に規定する公的年金等に該当するか否か。)について
イ 検討 (イ)いわゆる外国年金については、外国の法令に基づく保険又は共済に関する制度で所得税法第31条第1号及び第2号に規定する法律の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものに基づいて支給された年金である場合には、同法第35条第3項第3号に規定する公的年金等に該当することとなる。
そこで、本件各フランス年金が、外国の法令に基づく保険又は共済に関する制度で所得税法第31条第1号及び第2号に規定する法律の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものに基づいて支給された年金といえるか否かについて、以下検討する。
(ロ)上記のとおり、本件各フランス年金はいずれも請求人がフランス滞在期間中に加入していたフランスの退職年金制度に基づいて支給されたものと認められるところ、請求人による年金受給申請に基づく裁定結果及び個々の受給額等からすると、本件各フランス年金は、いずれも、フランスの退職年金制度のうちの一般制度又は補足制度に基づいて支給されたものと認めるのが相当である。
そして、これらの退職年金制度は、いずれも民間の被用者を対象とし、法律でその加入が義務付けられ、さらには賦課方式による財政運営を基礎とする退職年金であるという点において、所得税法第31条第1号に規定する厚生年金保険法の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものと評価することができる。
また、フランスの退職年金制度のうち、一般制度はフランス社会保障法典を根拠とし、補足制度はその根幹とする部分がフランス社会保障法典で規定されていることからすると、これらの制度はいずれも外国(フランス)の法令に基づく保険又は共済に関する制度に該当すると認めるのが相当である。
(ハ)以上によれば、本件各フランス年金は、いずれも、所得税法施行令第72条第3項第8号に規定する外国の法令に基づく保険又は共済に関する制度で、所得税法第31条第1号に規定する法律の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものに基づいて支給される年金と認められるから、同法第35条第3項第3号に掲げる年金(確定給付企業年金法の規定に基づいて支給を受ける年金その他これに類する年金として政令で定めるもの)として、公的年金等に該当する。
ロ 請求人の主張について 請求人は、上記のとおり、本件各フランス年金は、例えば補足制度の年金の一つである管理職員向けの制度はある地位以上の者のみが加入し、受給することができるという身分差別的ともいえるものである等、日本では創設できないような制度であるから、所得税法第35条第3項に規定する公的年金等に該当しない旨主張する。
しかしながら、所得税法は、上記のとおり、外国の法令に基づく保険又は共済に関する制度で同法第31条第1号及び第2号に規定する法律の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものに基づいて支給されたものを同法第35条第3項第3号に掲げる公的年金等としているのであって、本件各フランス年金が、いずれも同法第31条第1号に規定する法律の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものに基づいて支給される年金であると認められることは、上記のとおりである。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(2)争点2(本件各フランス年金に係る収入金額の円換算は、本件各取引日における電信売買相場の仲値によるべきであるか否か。)について
イ 法令解釈等 一般に、金融機関は、外国為替市場での銀行間取引相場における一定の時間の相場を基準に電信売買相場の仲値を決定し、電信売買相場の仲値を基準として、金融機関が顧客から外貨を購入する場合の為替相場である電信買相場及び金融機関が顧客に外貨を売却する場合の為替相場である電信売相場を決定している。
そうすると、電信買相場と電信売買相場の仲値との差額及び電信売相場と電信売買相場の仲値との差額は、金融機関にとって手数料としての性質を含むものと解され、また、外貨建取引を計上すべき日において外貨の売買が行われるとは限らない。
また、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行う者については、企業会計基準によって、継続適用を条件として、従前から、売上げその他の収入又は資産については取引日の電信買相場に、仕入れその他の経費又は負債については取引日の電信売相場にそれぞれよることができる旨の取扱いが認められ、実務上慣行として行われていたものである。
以上のことを踏まえて、原則として、対顧客取引の基準となる相場である電信売買相場の仲値により円換算を行うこととし、ただし書において、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務に係る所得の金額の計算についてのみ、継続適用を条件として電信買相場又は電信売相場によることができることとした本件通達の取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
ロ 当てはめ 本件各フランス年金に係る収入は、請求人が、過去にフランスの社会保険制度に基づく一般制度及び補足制度の退職年金に加入しており、それらの受給資格を有することから支払を受けた年金収入であり、「業務」に係る収入ではないから、本件通達ただし書の「不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務」に係る所得には当たらない。
したがって、本件通達のただし書は適用されないから、本件各フランス年金に係る収入金額の円換算は本件各取引日の電信買相場によることはできず、電信売買相場の仲値によることとなる。
ハ 請求人の主張について 請求人は、上記のとおり、本件通達のうち、円換算を取引日の電信売買相場の仲値によるべき旨を定める部分は、架空の取引為替相場の数値である電信売買相場の仲値の使用を強制し、過大に所得を計上することとなる不合理なものであり、個人の所得計算について、合理的な理由がないにもかかわらず、企業の場合と異なる取扱いを強いるものであって、所得税法第57条の3第1項の規定に違反する旨主張する。
しかしながら、本件通達の取扱いが相当であることは上記のとおりであって、過大に所得を計上する不合理な取扱いとはいえないし、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を営んでいない請求人の場合と本件通達のただし書が適用される事業者等の場合や同様の取扱いが適用される企業の場合とで取扱いが異なることにも合理的な理由がある。
したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
フランス社会保険制度の年金は公的年金等に該当
加入義務付けなどで日本の社会保険に類すると評価
○フランスの社会保険制度に基づいて受給した年金が公的年金等に該当するか否か争われた事案。国税不服審判所は、フランス年金に係る年金制度はいずれも民間の被用者を対象とし、法律でその加入が義務付けられ、賦課方式による財政運営を基礎とする退職年金であるという点において、厚生年金保険法の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものと評価することができると指摘。所得税法35条3項3号に掲げる年金として、公的年金等に該当するとの判断を示した(平成30年5月15日、棄却)。
基礎事実等
(1)事案の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がフランス共和国(以下「フランス」という。)の社会保険制度に基づいて支給を受けた年金について、原処分庁が、所得税法第35条《雑所得》第3項第3号に規定する公的年金等に該当するなどとして公的年金等に係る雑所得の収入金額に算入し所得税等の各更正処分を行ったのに対し、請求人が、支給を受けたフランスの当該制度に基づく年金は同号に規定する公的年金等に該当しないなどとしてその全部の取消しを求め、さらに、当該各処分に係る滞納国税に対する各督促処分も違法であるなどとしてその全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令等の要旨(略)
(3)基礎事実 当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人の外国年金の受給経緯について (イ)請求人は、平成4年から平成7年までの約4年間にわたりフランスに滞在し、フランス国内での勤務経験を有していた。
(ロ)請求人は、フランス滞在中、フランスの社会保険制度に基づく退職年金に加入していたところ、当該年金の受給資格を有することとなったため、平成22年3月、××××××××××に当該年金の受給申請手続を委託した。
請求人が×××××を介して受給を申請し、その後、フランスの年金取扱機関によって給付の裁定を受けたフランスの年金は、一般制度に基づいて支給される年金と補足制度に基づいて支給される2種類の年金(一般労働者向けの制度により支給される年金と管理職員向けの制度により支給される年金)の合計3種類(以下、これら3種類の年金を併せて「本件各フランス年金」という。)であり、請求人は、平成22年5月以降、本件各フランス年金を受給することとなった。
(ハ)本件各フランス年金は、平成27年及び平成28年の各年において、×××××(現商号は×××××である。以下同じ。)××××の請求人名義の外貨普通預金口座にユーロ建てで入金(以下、本件各フランス年金の入金日を「本件各取引日」という。)されており、本件各フランス年金の入金状況等については、別表1-1(略)及び別表1-2(略)のとおりである。
(ニ)請求人は、××××××××××に対し、年間維持管理費及び情報通信費として、平成27年及び平成28年の各年にそれぞれ22,440円を支払った。
ロ フランスにおける退職年金制度について フランスにおける民間の被用者を対象とする退職年金制度は、大別して、①一般制度、②補足制度及び③再補足制度の3階層で構成されている。
なお、フランスの退職年金制度のうち、一般制度はフランス社会保障法典を根拠とし、また、補足制度はその根幹となる部分について、フランス社会保障法典で規定されている。
(イ)一般制度
一般制度は、フランスの退職年金制度の第1階層部分を構成する公的年金制度であり、法律によって民間の被用者に加入が義務付けられ、賦課方式(必要な年金原資を同時期の就業者が支払う保険料で賄う方式をいう。以下同じ。)を基礎とし、年金支給額は就業年数及び就業期間中に支給された給与額等に応じて決定される確定給付型の形態をとっている。
(ロ)補足制度
補足制度は、フランスの退職年金制度の第2階層部分を構成する企業年金制度であり、その代表的な運営組織としてARRCO(補足年金制度連合)及びAGIRC(管理職年金制度総連合)がある。
ごく少数の例外を除き、ほぼ全ての職業分野の民間の被用者に法律によって補足制度への加入が義務付けられており、一般制度と同様、賦課方式を基礎としている。
保険料は給与額によって決定されるが、年金支給額は、保険料の額に応じて定まる点数制で、1点相当額の変動により上下する確定拠出型の形態をとっている。
(ハ)再補足制度
再補足制度は、フランスの退職年金制度の第3階層部分を構成する任意の加入者間の共済制度であり、民間の被用者が勤務先の企業を通じて保険団体と加入契約を交わし、積立方式(就業者が事前に積み立てた保険料と運用利子を原資として当該就業者の将来の年金給付を賄う方式をいう。)を基礎としている。
(4)審査請求に至る経緯等 イ 請求人は、平成27年分及び平成28年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下、これらを併せて「所得税等」という。)について、確定申告書に別表2(略)の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
ロ 請求人は、平成29年6月20日、本件各年分の所得税等について、別表2(略)の「修正申告」欄のとおり記載した各修正申告書を原処分庁へ提出した。
なお、請求人は、上記の各修正申告書において、本件各フランス年金に係る××××××××××の外貨普通預金口座への入金額を、所得税法第35条第2項に規定する公的年金等以外の雑所得に係る総収入金額に算入した上で、上記(3)のイの(ニ)のとおり、××××××××××に対して平成27年及び平成28年の各年にそれぞれ支払った22,440円を必要経費に算入して雑所得の金額を算出した。
ハ 原処分庁は、平成29年11月14日、本件各フランス年金が所得税法第35条第3項に規定する公的年金等に該当するなどとして、別表2(略)の「更正処分」欄のとおり、本件各年分の所得税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)をした。
ニ 請求人は、平成29年11月27日、本件各更正処分に不服があるとして、審査請求をした。
ホ その後、原処分庁は、請求人が、本件各更正処分による納付すべき税額(以下「本件各納付税額」という。)を納期限である平成29年12月14日までに完納せず、平成30年1月29日現在も未納となっていたため、同日付で、各督促処分(以下「本件各督促処分」という。)をした。
なお、本件各督促処分の概要は、別表3(略)のとおりである。
へ 請求人は、平成30年2月7日、本件各督促処分に不服があるとして、審査請求をした。
ト そこで、通則法第104条《併合審理等》第1項の規定に基づいて、上記への審査請求に係る審理手続を上記ニの審査請求に併合する。
争点および主張
(1)争点1 本件各フランス年金は、所得税法第35条第3項に規定する公的年金等に該当するか否か。
(2)争点2 本件各フランス年金に係る収入金額の円換算は、本件各取引日における電信売買相場の仲値によるべきであるか否か。 当事者の主張は表のとおり。
【表1】争点1(本件各フランス年金は、所得税法第35条第3項に規定する公的年金等に該当するか否か。)について |
原処分庁 | 請 求 人 |
本件各フランス年金は、いずれも、日本の厚生年金制度と同様、賦課方式による強制加入制度とされている。 したがって、本件各フランス年金は、厚生年金保険法等の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものに基づいて支給される年金であるから、所得税法第35条第3項に規定する公的年金等に該当する。 | 本件各フランス年金のうち例えば補足制度のひとつである管理職員向けの制度は、ある地位以上の者のみが加入し、受給することができるという身分差別的ともいえるものである等、日本では創設できないような制度である。 したがって、本件各フランス年金は、厚生年金保険法等の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものに基づいて支給される年金又はこれに類する給付ではないから、所得税法第35条第3項に規定する公的年金等に該当しない。 |
【表2】争点2(本件各フランス年金に係る収入金額の円換算は、本件各取引日における電信売買相場の仲値によるべきであるか否か。)について |
原処分庁 | 請 求 人 |
以下のとおり、本件各フランス年金に係る収入金額の円換算は本件各取引日における電信売買相場の仲値によるべきである。 ・請求人は、本件各フランス年金に係る収入金額の円換算に当たって、受給した「月末」の電信買相場により計算しており、本件各取引日の電信買相場を継続して用いていないから、本件通達のただし書は適用されない。 | 以下のとおり、本件各フランス年金に係る収入金額の円換算は本件各取引日における電信売買相場の仲値によるべきではない。 ・本件通達のうち、原則として円換算を取引日の電信売買相場の仲値によるべき旨を定める部分は、①架空の取引為替相場の数値である電信売買相場の仲値の使用を強制し、過大に所得を計上することとなる不合理なものであり、②個人の所得計算について、合理的な理由がないのにもかかわらず、原則的に電信買相場又は電信売相場での円換算を踏めている企業の場合と異なる取扱いを強いるものであって、所得税法第57条の3第1項の規定に違反する。 |
審判所の判断
(1)争点1(本件各フランス年金は、所得税法第35条第3項に規定する公的年金等に該当するか否か。)について
イ 検討 (イ)いわゆる外国年金については、外国の法令に基づく保険又は共済に関する制度で所得税法第31条第1号及び第2号に規定する法律の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものに基づいて支給された年金である場合には、同法第35条第3項第3号に規定する公的年金等に該当することとなる。
そこで、本件各フランス年金が、外国の法令に基づく保険又は共済に関する制度で所得税法第31条第1号及び第2号に規定する法律の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものに基づいて支給された年金といえるか否かについて、以下検討する。
(ロ)上記のとおり、本件各フランス年金はいずれも請求人がフランス滞在期間中に加入していたフランスの退職年金制度に基づいて支給されたものと認められるところ、請求人による年金受給申請に基づく裁定結果及び個々の受給額等からすると、本件各フランス年金は、いずれも、フランスの退職年金制度のうちの一般制度又は補足制度に基づいて支給されたものと認めるのが相当である。
そして、これらの退職年金制度は、いずれも民間の被用者を対象とし、法律でその加入が義務付けられ、さらには賦課方式による財政運営を基礎とする退職年金であるという点において、所得税法第31条第1号に規定する厚生年金保険法の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものと評価することができる。
また、フランスの退職年金制度のうち、一般制度はフランス社会保障法典を根拠とし、補足制度はその根幹とする部分がフランス社会保障法典で規定されていることからすると、これらの制度はいずれも外国(フランス)の法令に基づく保険又は共済に関する制度に該当すると認めるのが相当である。
(ハ)以上によれば、本件各フランス年金は、いずれも、所得税法施行令第72条第3項第8号に規定する外国の法令に基づく保険又は共済に関する制度で、所得税法第31条第1号に規定する法律の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものに基づいて支給される年金と認められるから、同法第35条第3項第3号に掲げる年金(確定給付企業年金法の規定に基づいて支給を受ける年金その他これに類する年金として政令で定めるもの)として、公的年金等に該当する。
ロ 請求人の主張について 請求人は、上記のとおり、本件各フランス年金は、例えば補足制度の年金の一つである管理職員向けの制度はある地位以上の者のみが加入し、受給することができるという身分差別的ともいえるものである等、日本では創設できないような制度であるから、所得税法第35条第3項に規定する公的年金等に該当しない旨主張する。
しかしながら、所得税法は、上記のとおり、外国の法令に基づく保険又は共済に関する制度で同法第31条第1号及び第2号に規定する法律の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものに基づいて支給されたものを同法第35条第3項第3号に掲げる公的年金等としているのであって、本件各フランス年金が、いずれも同法第31条第1号に規定する法律の規定による社会保険又は共済に関する制度に類するものに基づいて支給される年金であると認められることは、上記のとおりである。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(2)争点2(本件各フランス年金に係る収入金額の円換算は、本件各取引日における電信売買相場の仲値によるべきであるか否か。)について
イ 法令解釈等 一般に、金融機関は、外国為替市場での銀行間取引相場における一定の時間の相場を基準に電信売買相場の仲値を決定し、電信売買相場の仲値を基準として、金融機関が顧客から外貨を購入する場合の為替相場である電信買相場及び金融機関が顧客に外貨を売却する場合の為替相場である電信売相場を決定している。
そうすると、電信買相場と電信売買相場の仲値との差額及び電信売相場と電信売買相場の仲値との差額は、金融機関にとって手数料としての性質を含むものと解され、また、外貨建取引を計上すべき日において外貨の売買が行われるとは限らない。
また、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行う者については、企業会計基準によって、継続適用を条件として、従前から、売上げその他の収入又は資産については取引日の電信買相場に、仕入れその他の経費又は負債については取引日の電信売相場にそれぞれよることができる旨の取扱いが認められ、実務上慣行として行われていたものである。
以上のことを踏まえて、原則として、対顧客取引の基準となる相場である電信売買相場の仲値により円換算を行うこととし、ただし書において、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務に係る所得の金額の計算についてのみ、継続適用を条件として電信買相場又は電信売相場によることができることとした本件通達の取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
ロ 当てはめ 本件各フランス年金に係る収入は、請求人が、過去にフランスの社会保険制度に基づく一般制度及び補足制度の退職年金に加入しており、それらの受給資格を有することから支払を受けた年金収入であり、「業務」に係る収入ではないから、本件通達ただし書の「不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務」に係る所得には当たらない。
したがって、本件通達のただし書は適用されないから、本件各フランス年金に係る収入金額の円換算は本件各取引日の電信買相場によることはできず、電信売買相場の仲値によることとなる。
ハ 請求人の主張について 請求人は、上記のとおり、本件通達のうち、円換算を取引日の電信売買相場の仲値によるべき旨を定める部分は、架空の取引為替相場の数値である電信売買相場の仲値の使用を強制し、過大に所得を計上することとなる不合理なものであり、個人の所得計算について、合理的な理由がないにもかかわらず、企業の場合と異なる取扱いを強いるものであって、所得税法第57条の3第1項の規定に違反する旨主張する。
しかしながら、本件通達の取扱いが相当であることは上記のとおりであって、過大に所得を計上する不合理な取扱いとはいえないし、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を営んでいない請求人の場合と本件通達のただし書が適用される事業者等の場合や同様の取扱いが適用される企業の場合とで取扱いが異なることにも合理的な理由がある。
したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
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