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解説記事2019年05月13日 【特別解説】 米国会計基準からIFRSに移行した日本企業が作成した調整表の項目①(2019年5月13日号・№786)

特別解説
米国会計基準からIFRSに移行した日本企業が作成した調整表の項目①

 2010年3月期に日本電波工業が、日本企業としてはじめて、国際財務報告基準(IFRS)を任意適用して連結財務諸表の作成を開始して9年が経過したが、IFRSを任意適用して連結財務諸表を作成する企業(以下「IFRS任意適用日本企業」という)の総数は200社を突破した(将来のIFRSの適用を表明している企業を含む)。このうち、2019年3月期からは23社が新たにIFRSに移行する予定であるが、このうち、これまでは米国会計基準を適用して連結財務諸表を作成していた会社が7社ある(日本ハム、三菱電機、マキタ、京セラ、日本電信電話、NTTドコモ、インターネットイニシアティブ)。本稿では、2回に分けて、これまでに米国基準からIFRSに移行した日本企業を取り上げて、これらの企業が米国会計基準からIFRSへの移行にあたって作成した調整表(米国会計基準とIFRSとの間の重要な基準間差異の説明)を調査分析することとする。まず本稿では、連結財務諸表における表示項目に関する調整表の記載を取り上げ、後半部分で認識・測定項目に関する重要な差異の概要を説明することとしたい。

今回の調査対象とした企業
 IFRS移行までは米国会計基準を適用して連結財務諸表を作成していたが、2019年3月期第1四半期までにIFRSを適用した連結財務諸表を作成し、調整表を開示した下記の20社を調査対象とした(50音順)。
アドバンテスト、伊藤忠商事、エヌ・ティ・ティ・ドコモ、京セラ、クボタ、窪田製薬ホールディングス、コナミ、住友商事、日本電産、日本電信電話(NTT)、日本ハム、パナソニック、日立製作所、本田技研工業、マキタ、丸紅、三井物産、三菱商事、三菱電機、リコー
 なお、インターネットイニシアティブ(IIJ)社は2019年3月期の有価証券報告書からIFRSを適用する予定のため、今回の調査対象には含まれていない。

連結財務諸表における表示項目に関する重要な差異
 米国会計基準とIFRSとの間の表示項目の重要な差異として、調整表で説明されていた項目は以下の表1のとおりである。

 これまでわが国の会計基準を適用してきた企業がIFRSに移行する場合、表示項目における重要な差異としては、日本基準で言ういわゆる「特別損益項目」及び「営業外損益項目」をIFRSでは金融収益/費用及びその他の収益/費用として区分変更、という項目、あるいは非継続事業や売却目的保有資産の区分表示といった項目が多く出てくるが、これらについては、米国会計基準はIFRSと同様の取扱いであるため、調整表に記載されることはない。
 表1に列挙した項目のうち、本稿では、マスターネッティング契約に係る表示の差異(相殺処理の可否)、資産の流動・固定分類の相違(正常営業循環基準と1年基準との間の関係)、及び費用の区分を帰納法から性質法に変更の項目と、その他の内容の内訳を説明することとする。

マスターネッティング契約に係る表示の差異(相殺処理の可否)
 マスターネッティング契約とは、1つでも約定の不履行又は解除があった場合には、当該契約の対象となっているすべての金融商品を単一の純額で決済することを定める契約をいい、倒産その他により、取引相手が債務を履行できなくなった場合における損失の発生を防止するために、広く利用されている。マスターネッティング契約は、相殺権を創出するものの、契約によって自動的に相殺権が与えられるわけではなく、債務不履行その他の特定の状況が発生した場合にのみ、強制力が生じる。米国会計基準では、マスターネッティング契約を有する相手先に対する金融資産と金融負債を相殺表示することを認めているが、IFRSの場合、企業は、次に該当する場合に、かつ、その場合にのみ、金融資産と金融負債とを相殺し、純額を財政状態計算書に表示しなければならない(IAS第32号「金融商品:表示」第42項)とされている。
(a)認識している金額を相殺する法的に強制可能な権利を現在有しており、かつ
(b)純額で決済するか又は資産の実現と負債の決済を同時に実行する意図を有している
 したがって、この点は米国会計基準とIFRSとの間の差異となり、調整表での記載対象項目となる。
【開示例 本田技研工業】  米国会計基準では、債務不履行等の将来の事象が発生した場合に純額で決済することを取り決めたマスターネッティング契約が存在する場合には金融資産と金融負債を相殺して表示しているが、IFRSでは、法的強制力のある相殺権が報告期間の期末日現在で存在し、かつ、純額で決済するか、資産の回収と同時に負債を決済する意図が存在する金融資産と金融負債のみ相殺して表示している。
 また、住友商事、三井物産、三菱商事等の大手商社も、マスターネッティング契約を有する相手先に対するデリバティブ債権・債務について同様の注記を行っている。

決済までの期間が1年を超える、正常営業循環期間内の債権・債務の表示
 IFRSでは、次のいずれかの場合に、資産を流動資産に分類しなければならないとされている(IAS第1号「財務諸表の表示」第66項)。
(a)企業が、企業の正常営業循環期間において、当該資産を実現させることを見込んでいるか、又は販売若しくは消費することを意図している場合
(b)企業が、主として売買目的で当該資産を保有している場合
(c)企業が、報告期間後12か月以内に当該資産を実現させることを見込んでいる場合
(d)当該資産が現金又は現金同等物(IAS第7号に定義)である場合。ただし、当該資産を交換すること又は負債の決済に使用することが、報告期間後少なくとも12か月にわたり制限されている場合を除く。
 そして、第68項では、企業の営業循環期間とは、加工に向けて資産を取得し、それが現金又は現金同等物として実現するまでの期間をいうとされており、流動資産には、正常営業循環過程の一環として販売・消費・実現される資産(棚卸資産及び売掛金等)が含まれる。たとえ報告期間後12か月以内に実現が見込まれていない場合であっても同じである、とされている。
 一方、米国会計基準では、いわゆるワンイヤー・ルールが適用されるため、決済までに1年を超えるような正常営業循環期間内の債権・債務がある場合に基準間の差異が生じることになる。
【開示例 住友商事】  米国会計基準では、通常の取引に基づき発生した営業上の債権・債務については、その決済期日が連結貸借対照表日の翌日から起算し、1年を超えるものを非流動項目として区分表示しておりましたが、IFRSでは、決済まで1年を超える債権・債務であっても正常営業循環期間内の債権・債務であれば流動資産に区分されるため、該当する債権・債務の区分を非流動から流動へ組み替えております。

費用機能法と費用性質法
 費用機能法とは、費用をその機能に従って、売上原価や、例えば、販売又は管理活動のコストの一部として分類する方法であり、費用性質法とは、減価償却費、材料仕入高、運送費、従業員給付、広告費等、費用をその性質に従って分類する方法である。IFRSでは、費用機能法と費用性質法との間の選択は、歴史的要因及び業界の要因並びに企業の性質に左右される。どちらの方法でも、直接又は間接に企業の売上高又は生産高に応じて変化する可能性のある費用を示すことができる、と規定されており(IAS第1号第105項)、両者の間の優劣や優先順位は付けていないが、NTTグループ(NTT及びNTTドコモ)の2社は、IFRSの適用に合わせて、営業費用の項目の表示方法を、費用機能法から費用性質法に変更している。

調整表で説明されているその他の項目
 これまでに個別に取り上げたもの以外で、表示方法の差異として調整表で説明されているその他の項目のうち、主なものを要約して列挙すると、次のとおりである。
 米国会計基準では、金融子会社が保有する卸売金融及び小売金融並びに直接金融リースに係る債権のうち、製品販売に関連する金額は受取手形及び売掛金、及びその他の資産に含めて表示し、それ以外を金融子会社保有債権として表示しているが、IFRSではすべて金融サービスに係る債権として表示(本田技研工業)
 パッケージゲームソフト等に係る制作コストについて、米国会計基準においては棚卸資産に含めて表示していたが、IFRSでは開発資産に該当するものとして、無形資産として表示(コナミ)
 長期性資産の減損及びのれんの減損等は、「その他の損益」として営業利益に含めて表示している(パナソニック)
・米国基準では、小売金融に付随して提供する優遇金利相当額を負債として計上し、金融債権と当該負債を総額で表示しているが、IFRSでは、優遇金利相当額を金融債権の取得対価の一部として取り扱い、債権から減額。
・米国基準では、工事進行基準を適用した結果、工事の進行途上において認識した未収入金を受取債権(売掛金)として表示しているが、IFRSでは、履行義務の充足に合わせて認識した対価に対する権利を契約資産として認識し、当社の対価に対する無条件の権利である営業債権と区分してその他の流動資産に含めて表示(クボタ)
・生物資産を区分掲記。
・物流センターフィーについて、販管費処理から売上高から控除する表示に変更。
・北海道日本ハムファイターズの収益及び費用について、販管費として計上していたが、各損益項目での表示に変更した(売上高、売上原価、販管費、その他の費用)(日本ハム)

連結財務諸表における認識・測定項目に関する重要な差異
 米国会計基準とIFRSとの間の認識・測定項目に関する重要な差異として、調整表で説明されていた項目の上位5件は、以下の表2のとおりである。

 日本基準からIFRSに移行した場合の調整表で必ずといっていいほど出てくる「のれんの非償却」と「有給休暇引当金の計上」については、米国会計基準とIFRSとの間には取扱いに差異がないため、調整表には記載されない。
 しかし、表2に掲げた5つの項目は、のれんの非償却や有給休暇引当金の計上ほどではないにせよ、いずれも、日本基準からIFRSに移行した場合の調整表にも頻繁に登場する項目である。以下では、それぞれの項目について、簡単に説明を加えることとする。

数理計算上の差異、過去勤務費用の処理  米国会計基準では、数理計算上の差異及び過去勤務費用はその他の包括利益累計額で繰り延べられ、将来の一定期間にわたり償却されて純損益で認識されるのに対し、IFRSでは、確定給付型企業年金制度および退職一時金制度に係る確定給付制度債務及び制度資産の再測定から生じる数理計算上の差異及び制度資産の公正価値の変動(利息部分を除く)は、その他の包括利益で認識する。また、制度の改定により生じる過去勤務費用は発生時に全額純損益として認識する(IAS第19号「従業員給付」第103項、第120項及び第122項)。

為替換算差額のゼロリセット  IFRSでは、IFRS移行日現在の在外営業活動体の換算差額の累計額をゼロとみなすことを選択することができる(IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」D13項)。この場合は、IFRS移行日現在のその他の包括利益累計額のうち、為替換算調整額を全額、利益剰余金に振り替えることになる。

未実現損益消去の税効果  内部未実現取引について、IFRSでは資産負債法に基づき、売却した資産の帳簿価額と売却価額の差異については将来減算一時差異として認識し、その回収可能性を検討の上、購入会社の税率により繰延税金資産を認識するのに対して、米国会計基準では、当該差異について繰延法に基づき、売却元の税金費用を繰り延べる。

みなし原価としての公正価値の使用  IFRSでは、有形固定資産について、IFRS移行日現在の公正価値をみなし原価として使用することが認められている(IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」D5項)。有形固定資産の評価替えに伴う差額は、損益計算書を通さずに利益剰余金に直接算入される。調整表では、当該免除規定を適用した有形固定資産の帳簿価額と公正価値が注記されているが、この規定を利用した13社はすべて、帳簿価額が公正価値を上回っていた。したがって、この規定を利用して、これまで「含み損」を抱えていた有形固定資産について、損益計算書を経由させずにこれらの損を吐き出した(利益剰余金に含めた)、ということが分かる(表3を参照)。


収益計上の方法  収益計上の方法に関する事例は9件あるが、工事契約に係る収益計上に関するものが3件、ポイントやインセンティブに関するものが3件、その他が3件であった。
 まず、工事契約に関する事項であるが、米国会計基準の場合、短期の工事請負契約や工事請負契約の成果を信頼性をもって見積ることができない場合には、工事完成基準により、工事が完成した時点ですべての工事収益及び工事原価を認識する。これに対してIFRSは、短期の工事請負契約であっても、工事契約の成果を信頼性をもって見積ることができれば工事進行基準、見積ることができない場合には原価回収基準(この場合、収益は発生原価のうち回収される可能性が高い範囲でのみ認識される。)を適用する。前者の短期工事についての開示はクボタ、後者の工事契約の成果を信頼性をもって見積ることができない場合の開示は、三菱電機とNTTが行っている。
(クボタ)
 米国基準では、工事請負契約のうち短期契約については、完成基準により売上高を認識しているが、IFRSでは、工事請負契約は資産の支配を一定の期間にわたって顧客に移転するものと考えられるため、工事期間の長さに関わらず、履行義務の充足にかかる進捗度に基づき工事期間にわたって売上高が認識される。
(三菱電機)
 米国会計基準では、工事請負契約の成果を信頼性をもって見積ることができない場合には、工事が完成した時点ですべての工事収益及び工事原価を認識する。IFRSでは、一定の期間にわたり充足される履行義務からの収益は、成果を信頼性をもって見積ることができない場合には、原価回収基準により収益を認識する。原価回収基準による収益は、発生原価のうち回収される可能性が高い範囲でのみ認識し、原価は発生した期間に費用認識する。
 次に、サービスの利用に応じて顧客が獲得したポイントについては、米国会計基準では引当金が計上されるが、IFRSではポイントを付与した時点でサービスの取引対価の一部を契約負債として計上し、ポイントを行使した時点で収益が認識されることになる。その旨の開示をNTTグループの2社(NTT及びNTTドコモ)が行っている。さらに、クボタは、インセンティブ・プログラムに関する会計処理の違いについて、次のような開示を行っている。
(クボタ)
 米国基準では、値引き、購入量に応じた割戻し等について、当社が関連する売上高を認識した時点又は関連するインセンティブ・プログラムが提示された時点のいずれか遅い方の時点で、提示されているインセンティブ・プログラムに基づいて認識・測定されるが、IFRSでは、当社が履行義務を充足した時点で、過去、現在及び予想を含む合理的に利用可能なすべての情報を用いて、当社が権利を得る対価の金額を見積ることにより認識・測定される。
 さらに、収益計上の方法に関するその他の3件の開示は、次のとおりである。
(パナソニック)
 米国会計基準では、物件の販売による売上と当該物件の運営に伴う売上について、対応する原価の発生に応じて売上を按分して認識している取引があるが、IFRSではそれぞれの発生時に売上を計上している
(NTT及びNTTドコモ)
 移動通信事業における契約事務手数料などの初期一括収入については繰り延べ、米国会計基準ではサービスごとに最終顧客(契約者)の見積り平均契約期間にわたって収益として認識していたが、IFRSでは月々サポートサービスの提供期間にわたって収益として認識することになる。
 次回は、認識・測定項目における重要な差異として記載された、上位5件以外のその他の項目について記述することとしたい。

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