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解説記事2019年06月10日 【ニュース特集】 税理士業務をめぐる最近の訴訟トラブル(2)(2019年6月10日号・№790)

ニュース特集
非上場株式の「時価」が問題となった事例も
税理士業務をめぐる最近の訴訟トラブル(2)

 税理士業務をめぐるトラブルが訴訟にまで発展するケースが散見されるなか、本特集では、780号に引き続きここ最近の裁判事例を2件紹介する。最初に紹介する事例は、税理士の誤った助言・指導による非上場株式の評価により低額譲渡課税を受けたとして、納税者が税理士に対して追徴税相当額の損害賠償を求めていたもの(結果は税理士側が勝訴)。もう1つの事例は、独立予定の勤務税理士の指示により、顧問先に係る書類の送付を行うなどして勤務税理士の不当な顧客勧誘行為に加担したとして、会計事務所がその書類の送付を行った職員に対して損害賠償を求めていたものである(結果は会計事務所側が敗訴)。

配当還元方式による評価で低額譲渡課税、税理士に損害賠償を請求
 最初に紹介する事例は、非上場会社の株式評価をめぐり、税理士の誤った助言・指導により配当還元方式(1株75円)で評価したことで低額譲渡課税を受けたと主張して、納税者(原告)が税理士(被告)に対して約4,000万円の損害賠償を求めた税賠事件である。
 本件の発端は、非上場会社であるA社(大会社)の代表取締役である被相続人が平成19年8月にA社株式を関係会社であるB社に対して、配当還元方式による評価により1株75円で譲渡したことである。
 被相続人が平成19年12月に死亡したことにより、被相続人の平成19年分の所得税の納税義務を承継した相続人である納税者は、A社株式を1株75円と評価した所得税の準確定申告書を提出した。これに対し税務署は、A社株式は類似業種比準方式により評価すると1株2,505円になることから低額譲渡(所法59①二)に該当するとして、納税者に対して更正処分等を行った。
別件税務訴訟で勝訴も、原告は参加せず  本件訴訟の原告である納税者以外の相続人4名は、更正処分等の取り消しを求めて別件税務訴訟を提起した。これに対し一審判決は、A社株式は類似業種比準方式(1株2,505円)により評価すべきと判断したうえで、更正処分等を支持した。ところが、控訴審判決は、A社株式は類似業種比準方式ではなく配当還元方式(1株75円)により評価すべきと判断したうえで、低額譲渡と認定した更正処分等を取り消していた(東京高裁平成30年7月19日判決・参照)。

【表】非上場株式の評価をめぐる別件税務訴訟の控訴審判決の内容(概要)
 非上場株式の評価をめぐる別件税務訴訟のなかで国側は、所基通59-6の(1)に基づき譲渡人(被相続人)の譲渡直前の議決権割合により株主区分を判定すべきであるとしたうえで、株式譲渡直前における被相続人及びその親族(同族関係者)が保有するA社株式の議決権割合は15%以上(22.79%)であることから、配当還元方式により評価される「同族株主以外の株主等が取得した株式」(評価通達188(3))に該当せず、大会社の原則的評価方法である類似業種比準方式(1株当たり2,505円)により評価すべきと主張していた。
 これに対し東京高裁は、配当還元方式により評価される「課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式」(評価通達188(3))に該当するかどうかの判定(株主区分の判定)は、株式の取得者の取得後の議決権割合により判定されるものと解するのが相当であるとした。そして本件については、譲受人であるB社の株式取得後の議決権割合は7.88%であり、B社には同族関係者がおらず、その議決権割合はA社の議決権総数の15%未満にとどまることから、A社株式は評価通達188の(3)の株式に該当するため、配当還元方式(1株当たり75円)により評価すべきと判断した(詳しくは本誌754号4頁以降を参照)。なお、控訴審で逆転敗訴した国側は、最高裁に対して上告受理申立てをしている。

 別件税務訴訟に参加しなかった本件訴訟の原告である納税者は、A社の顧問税理士であった税理士に対して、被相続人が税理士の誤った助言・指導に従って配当還元方式により1株75円でA社株式を譲渡した結果、低額譲渡課税を受けたことによる損害を被ったと主張して、約4,000万円(所得税・延滞税・加算税)の損害賠償を本件訴訟で求めた。
 これに対し東京地裁は、A社株式の評価方法については、課税当局及び別件一審判決による見解(類似業種比準方式による評価:1株2,505円)と別件控訴審判決による見解(配当還元方式による評価:1株75円)が対立している点を指摘。この点を踏まえ地裁は、配当還元方式により評価すべきとする見解にも相応の根拠が認められ、別件控訴審判決において採用されていることから、税理士がA社株式の時価は配当還元方式により1株75円と評価されると助言・指導した事実があったとしても、その助言・指導が直ちに誤りであったということはできず、過失があっということはできないと判断したうえで、原告である納税者の訴えを棄却した(東京地裁平成31年1月31日判決・控訴あり)。

顧問先を連れた開業独立に会計事務所職員が加担したか否かが問題に
 次に紹介する事例は、独立予定の勤務税理士の指示により会計事務所職員が顧客の税務申告に係る資料の送付を行うなどして勤務税理士の不当な顧客勧誘行為に加担したとして、会計事務所側(原告)が事務所職員(被告)に対して損害賠償を求めた事件である。
 本件の発端は、会計事務所に勤務していた本件税理士が独立のために事務所を退職するに当たり、同じく同日をもって退職予定であった事務所職員に対して、同事務所の本件顧問先の従業員の確定申告に係る本件書類を本件顧問先の従業員に送付するよう会計事務所の電子メールにより依頼したことである。事務所職員は、本件税理士の指示どおりに本件書類の送付事務を行った。本件税理士が会計事務所在職中に担当していた本件顧問先は、会計事務所との顧問契約を解消したうえで、会計事務所を退職して独立した本件税理士の経営する税理士法人との間で顧問契約を締結した。これに対し会計事務所側は、裁判のなかで、本件税理士は退職後に本件顧問先との顧問契約の切り替えを容易にするために本件書類を持ち出す必要があったものの、退職直前に自ら送付を行うと不正な顧客奪取の事実が会計事務所に発覚する恐れがあるため、事務所職員に送付を依頼したと指摘。事務所職員による本件書類の送付行為により本件顧問先を本件税理士の経営する事務所に奪われたことにより顧問報酬相当額の損害を被ったとして、事務所職員は会計事務所に対し労働契約上の債務不履行に基づきその損害を賠償する責任を負うと主張した。
地裁、顧客奪取行為に当たるとは言えず  東京地裁は、本件顧問先自身が引き続き本件税理士に税務事務を担当させることを望んでいたとみられるから、本件税理士が独立後に本件顧問先の依頼により顧問契約を締結したとしても、そのことから直ちに在職中に不当な顧客勧誘行為を行っていたものと推認することはできないとしたうえで、本件税理士が在職中から不当な顧客勧誘行為を行っていたことを認めるに足りる証拠はないとした。また、本件書類は顧問先従業員に返却すべきものであったにもかかわらず会計事務所に保管されたままとなっていたことから、本件顧問先を担当する本件税理士がその職務として送付を依頼したにとどまり、こうした行為自体は客観的にみても顧客の不当な奪取に向けられたものでないことは明らかであると指摘。さらに、本件税理士が事務所職員に対して本件書類の送付を依頼したこと自体が主観的にも客観的にも顧客奪取行為に当たるということはできないと指摘したうえで、事務所職員による書類の送付は労働契約上の義務違反に当たるとは認められないと判断した(東京地裁平成30年8月9日判決・控訴あり)。

Column 事務所職員、会計事務所側の訴えは違法な提訴と主張も裁判所は斥ける
 会計事務所側の訴えに対し事務所職員は、会計事務所側による訴訟の提起は訴権を濫用した違法な提訴であると主張して、応訴のために依頼した弁護士費用(50万円)及び慰謝料(150万円)の損害賠償を会計事務所側に求める訴訟を提起していた。
 この事務所職員の訴えに対し東京地裁は、実際に本件税理士の退職・独立から間もなく会計事務所の顧問先が新たに本件税理士の事務所との間で顧問契約を締結するに至ったなどという状況の下で、電子メール(本件書類を本件顧問先従業員に送付するよう依頼する旨など)の存在を発見した会計事務所代表者としては、その内容は単に顧客の従業員らの確定申告に係る書類の送付を依頼するものにすぎないものの、「怪しまれるといけない」などという文言から、これに関連して在職中から顧問先の奪取に向けた行為を行っており、同時期に退職した事務所職員もその事情を知りながら本件税理士の行為に協力していた可能性があるという疑いを持ったとしても、その立場からすると無理からぬ面もあるといわざるを得ないなどと指摘。訴訟の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとまで認めることはできないから、これについて不法行為は成立しないとして、事務所職員が会計事務所側に対して求めた損害賠償請求を斥けた。

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