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解説記事2019年06月24日 【ニュース特集】 所有者不明土地問題で民法改正へ、その課題は?(2019年6月24日号・№792)

ニュース特集
相続登記義務化や遺産分割に期間制限
所有者不明土地問題で民法改正へ、その課題は?

 民法の改正が続きそうだ。法制審議会は2月14日に山下貴司法務大臣の諮問を受け、民法・不動産登記法部会(部会長:山野目章夫早稲田大学大学院法務研究科教授)を設置。民法及び不動産登記法の見直しを検討している。土地の所有者が死亡しても相続登記がなされないこと等により所有者不明土地が発生する問題を解決するため、相続登記の義務化や遺産分割に期間制限を設ける方向。年末までに中間試案を公表し、意見募集した後、2020年中に民法や不動産登記法等の改正案を国会に提出する方針だ。

所有者不明土地の発生予防と適正利用の2つのアプローチから検討
 所有者不明土地問題とは、土地の所有者が死亡しても相続登記がされないことなどにより、不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず、又は判明しても連絡がつかない土地が生じ、その土地の利用等が阻害されるというものだ。平成28年度における地籍調査によれば、1,130地区(563市区町村)の62万2,608筆のうち、不動産登記簿で所有者等の所在が確認できない土地の割合は20.1%にのぼるとされ、このうち66.7%が相続登記のされていない土地だったという。
 この所有者不明土地問題の解決に向け、政府は今通常国会に「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律案」を提出(令和元年5月24日公布)。表題部所有者不明土地(所有権の登記がない一筆の土地のうち、登記記録の表題部に所有者の氏名又は名称及び住所の全部又は一部が正常に登記されていないもの)について、所有者の探索に関する制度を設けるほか、探索の結果を登記簿に反映させるための不動産登記の特例を設けている。ただ表題部所有者不明土地はあくまでも「所有者不明土地」問題の1つにすぎず、抜本的な見直しを行うため、法制審議会が法務大臣の諮問を受け、民法及び不動産登記法の見直しに着手したものである。
 法制審議会の民法・不動産登記法部会では、所有者不明土地問題に対処するため、「所有者不明土地の発生を予防するための仕組み」と「所有者不明土地を円滑・適正に利用するための仕組み」の2つのアプローチから検討を行っている(表1・2参照)。

【表1】所有者不明土地の発生を予防するための仕組み
検討項目 現状の課題 検討の方向性
相続登記の申請の義務化等 ・相続が発生しても、相続登記の申請は義務とされていない。
・土地の価値が低ければ、相続登記をしようと思わない。
・相続の発生を適時に登記に反映させるための方策として、相続人に対し、相続登記の申請を義務付けることが考えられる。
・相続登記をしやすくするための方策についても併せて検討。
・登記名義人が死亡しても、登記所は、直ちにその死亡情報を把握することはできない。 ・登記所が他の公的機関から死亡情報等を取得して、不動産登記情報の更新を図る方策を検討。
土地所有権の放棄 ・急速な少子高齢化等の社会情勢の変化に伴い、土地を手放したいと考える者が増加。
・土地所有権の放棄については、民法に規定がなく、確立した判例もないことから、その可否は不明。
・土地所有権の放棄を認める制度を創設するに当たっては、①放棄の要件、効果、②放棄された土地の帰属先機関とその財政的負担、③土地所有者が将来放棄するつもりで土地の管理をしなくなるモラルハザードの防止方法などが課題となる。
遺産分割の期間制限 ・現行法上は遺産分割に期間制限がなく、相続発生後に遺産分割がされずに、遺産共有状態が継続し、数次相続が発生した場合の権利関係が複雑化。
・遺産分割がされないために相続登記がされないまま放置される側面もある。
・遺産分割を促進するため、遺産分割に期間制限を設けることが考えられる。
・遺産分割の期間制限における期間の設定や期間徒過の効果を検討。
(出典:法制審議会資料に基づき作成)

【表2】所有者不明土地を円滑・適正に利用するための仕組み
検討項目 現状の課題 検討の方向性
民法の共有制度の見直し ・共有物を利用するためには、共有者を個別に探索して交渉する必要があり、共有者の一部が不明である場合には、その者の同意をとることができず、土地の利用・処分が困難になる。 ・不明共有者に対して公告等をした上で、残りの共有者の同意で、土地の利用を可能にする方策について検討。
・共有者が、不明共有者の持分を相当額の金銭を供託して取得するなどして、共有関係を解消する方策について検討。
・共有物を適切に管理するとともに、利用希望者の負担を軽減する観点から、共有者を代表する管理権者を選任する方策について検討。
民法の財産管理制度の見直し  ・現在の財産管理制度では、財産管理人は不在者等の特定の土地だけではなく、その余の財産も管理することとされているため、コストが高くなる。 ・不在者等の財産の一部を管理する仕組みについて検討。
・土地の共有者のうち複数名の不在者等であるときは、不在者等ごとに複数名の管理人を選任する必要があり、コストが高くなる。 ・複数の不在者等に共通(1人)の管理人を選任する方策について検討。
民法の相隣関係規定の見直し  ・ライフラインの導管等を引き込むために隣地を使用する際の規律については、民法に規定がなく、隣地が所有者不明状態となった場合に対応が困難。 ・ライフラインの導管等を設置するために他人の土地を使用することができる制度の整備について検討。
・所有者の不明土地が管理されないことによって荒廃し、近傍の土地所有者等に損害を与えるおそれ。 ・近傍の土地所有者等において、土地の管理不全状態を除去する方策について検討。その他、境界画定のための隣地への立入り等についても検討。
(出典:法制審議会資料に基づき作成)

 前者については、相続登記の義務化や不動産登記情報の最新化、土地所有権の放棄や遺産分割の期間制限を設けることなどが検討課題として挙がっている。後者については、民法の共有制度や財産管理制度、相隣関係規定の見直しなどが課題となる。
相続登記の違反義務者への制裁も検討  「所有者不明土地の発生を予防するための仕組み」として検討されるのが相続登記の申請の義務化である。相続が開始して相続による所有権の移転がなされても、申請がない限り相続登記はされないため、所有者不明土地問題の大きな1つの要因とされているからだ。
 ただ、義務化する場合にはその実効性の確保が問題となる。そこで、相続開始後一定期間に限って相続登記手続における申請人の負担軽減や、違反義務者に与える制裁の在り方が検討されることになる。
 また、相続登記の申請がなくても、登記所の他の公的機関から死亡情報を取得して、不動産登記情報の更新を図る方策も検討される。
土地の所有権放棄と相続放棄は別  土地所有権の放棄については、現行の民法には規定がなく、確立した判例もないのが現状だ。このため、所有者不明土地の発生を抑制する方策として、土地を所有し続けることを望まない所有者による土地所有権の放棄を認め、土地を適切に管理することができる機関(国、地方公共団体等を想定)に土地所有権を帰属させることを可能とする制度の創設を検討する。放棄についてはすべて認めるのではなく、要件として、例えば、①土地の所有者が土地の管理費用を負担するとき、②帰属先機関が負担する管理費用が小さく、流通も容易なとき、③自然災害等、土地が危険な状態となり、所有者が負担する管理費用が過大になっているとき、④土地の引受先を見つけることができないとき、⑤帰属先機関の同意があったときなどが挙がっている。
 また、建物については放棄の対象外となる方向。土地とは異なり、建物は取り壊すことができるというのがその理由だ。
 なお、土地所有権の放棄は相続放棄とは別であり、現在、土地を所有している場合に土地を手放すことができるか否かが論点となる。
遺産分割、3年~10年の期間制限  遺産分割に期間制限を設けることも課題の1つ。現行、相続人が複数いる場合には、相続の開始により相続財産は相続人の共有に属するとされる(民法898条)が、この遺産共有関係は、その後、遺産分割により解消されることが想定されている(民法906条等)。このまま遺産分割がされ、その旨が登記されることになれば、所有者不明土地の発生は抑制されることになるが、実際には遺産分割がされず、被相続人名義のまま、遺産に属する土地が放置されることも少なくないという。このため、1つの方策として遺産分割の期間制限が検討されるわけだ。
 なお、実際の期間制限については、3年、5年、10年とする案を軸として検討される。
現状では共有者全員の同意が必要  「所有者不明土地を円滑・適正に利用するための仕組み」としてまず挙げられるのは、共有制度の見直しだ。現行、共有物の変更・処分は共有者全員の同意を得なければならないが(民法251条)、変更・処分に至らない共有物の管理は原則として共有物の持分の価格の過半数の同意を得ればすることができる(民法252条)とされている。しかし、どのような行為が共有者の持分の価格の過半数の同意を得ていればすることができるか定かではないため、実際の実務では、慎重を期して共有者全員の同意を得てすることとなり、共有地の適切な利用が阻害されている。
 このため、現行の民法の規定を維持した上で、共有者全員の同意が必要であるのかについて解釈が分かれている特定の行為について解釈を明確にすることが検討される。
 例えば、①各共有者の持分の価格に従ってその過半数で決することができる事項についてその規律に従って一定の定めがされた場合に、この定めを変更すること、②特段の定めなく共有物を利用(占有)する者がある場合に、共有物を利用(占有)する者を変更すること、③共有物につき第三者に対して賃借権その他の使用を目的とする権利を設定すること(ただし、存続期間が民法602条各号の定める期間を超えることはできない)――の行為については、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することができるようにするとしている。
複数の不在者に1人の財産管理人  そのほか、財産管理制度の見直しでは、現在は管理コストが高く、利用が困難であるとの指摘があるため、不在者等の特定の財産のみを管理する制度を整備するとともに、複数の不在者等について共通(1人)の財産管理人を選任することができる制度に整備する。
 また、隣地の所有者等が管理不全の土地の所有者に対して、管理不全状態の除去を請求することができることを明確化する。
年末までに中間試案を公表へ  民法・不動産登記法部会では、年末までに中間試案を公表し、意見募集した後、2020年中に民法や不動産登記法等の改正案を国会に提出する方針だ。また、今回の所有者不明土地問題は法務省だけの問題ではない。例えば、国土交通省の国土審議会では、土地基本法等の見直しに着手。土地の放置を抑制する管理方策など土地の適切な利用・管理の促進策を具体化する。

スクープ 共同相続の登記後に遺産分割をした場合、“更正登記”との運用へ
 所有者不明土地の多くで相続登記がされていないとの問題から、相続登記の義務化が検討されているわけだが、現状、相続登記を行ったばかりに税負担が増えるという問題も生じている。
 例えば、共同相続の登記(登録免許税は「1,000分の40」)がなされた後に遺産分割の協議が行われ、相続人のなかの1人がその不動産を単独で取得することになったケースだ。この場合は、「遺産分割」を登記原因として所有権の移転登記を申請することになるため、登録免許税がさらに「1,000分の20」必要になる。相続登記を行わなければ、二重に登録免許税が課せられることはないだけに、当初の相続登記を行うといったインセンティブは働かないことになる。
 このようなケースを回避するため、政府は不動産登記手続の運用改善を行う模様だ。具体的には「移転登記」ではなく、「更正登記」として取り扱う方向で検討している。更正登記として取り扱うことになれば、登録免許税はわずか1,000円で済むことになる。

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