税務ニュース2003年06月16日 消費税の積上計算(規則22条)、廃止の方向へ(2003年6月16日号・№023) 区分領収のレジシステム変更は不可避に
消費税の積上計算(規則22条)、廃止の方向へ
区分領収のレジシステム変更は不可避に
平成15年度の税制改正では、消費税額を含めた総額表示が義務付けられた(消費税法63条の2)。消費税の総額表示は、消費者がレジで支払う金額の予測性を提供するとしており、スーパーマーケット等で普及している本体価格と消費税額等を区分して領収する計算方法(レジシステム)は変更を余儀なくされる。
本体価格と消費税額等の区分領収は、消費税法施行規則第22条(以下「規則22条」)の適用要件に合致したもので、レシートの記載方法の変更は、規則22条の取扱いに影響するものと注目されていた。
一方、立法当局は、「総額表示に基づいて領収した場合には、本体価格と消費税額等を区分して領収したものと見ることが難しく、規則22条の適用は難しい。」という判断をしている模様で、条文の存否に関わらず、総額表示が義務付けられた対消費者取引では、規則22条の適用は認められないものとなりそうだ。
総額表示制度の趣旨は消費者の利便?
総額表示は、消費者が事前に「消費税額を含む価格」を一目でわかるようにするものという趣旨で制度が創設されており、このような価格表示によって、消費者の煩わしさが解消されることが期待されている。
当局は総額表示制度の創設に際し、レシート等に総額表示を義務付けるものではないと説明しているが、総額表示制度創設の趣旨から見ても、総額表示された商品の表示上の合計金額と実際の領収金額(レシートの金額)は、最低限一致させなければならない。レシートごとに本体価格と消費税額とに区分して領収したときのレシート上の記載金額は、総額表示された金額の合計額との間に差額を生じる場合があり、区分領収を前提としたレジシステムの変更は避けられない。
総額表示での領収は、規則22条の適用外
当局は、レシート上での表示方法に関わらず、総額表示に基づいて領収した金額について規則22条の適用要件である「区分して領収する」に該当すると見ることは実態に合わないと判断している模様である。仮にレシート上で、総額・本体価格・消費税額等が明示されたとしても、総額表示された商品価額の合計額を領収したもので、本体と消費税額を区分して領収しているとみなす必要性もないことから、規則22条の適用外になるというわけだ。
規則22条の『逆基準化』
規則22条は、領収書発行の都度、1円未満の端数処理(切捨て選択が通例)をして、消費税額を算定するため、レシート発行枚数の多い小売業などは、税込み売上高の100/105を課税標準額とする原則課税に比して納付消費税額が減少し、有利となっていた。そのため、規則22条は、消費税の計算方法の特則であるにもかかわらず、レシート発行枚数(端数処理の回数)が多い小売業等に普及し、『逆基準化』してしまっている。
レシート上で端数処理が行われない総額表示では、本来積上計算の必要性はないとも考えられる。しかし、『逆基準化』された実態では、店頭で総額表示をしているにもかかわらず、レシート上で本体価格を表示・合計し、消費税額等の金額を加算した領収書等を発行している例も見られている(端数処理で差額が生じる場合には、本体価格の値引き等として調整している)。
チェーンストア等の業界団体は、システム変更等に多額の費用を要することから、総額表示・システムの変更に反対しているが、総額表示によりシステムの変更は不可避となっており、規則22条の適用も制度的な合理性を有さないものと判断されそうだ。
総額表示の義務がない事業者間取引は?
規則22条の適用は、請求書等ごとの集計で、事業者間取引にも適用できるものであった。今回の総額表示の義務付けは、事業者間取引には適用されないので、事業者間取引に規則22条を残すことも考えられる。
しかし、事業者間取引における1円未満の端数処理は、小売業のレシートの発行に比べて格段に少なく、一回の取引金額も多額となることが通例のため、端数処理の影響は小さい。このため、当局は、事業者間取引において規則22条を廃止したとしても大きな影響は生じないものと分析している。事業者間取引に規則22条を残す理由が見られないとすると、条文自体が廃止される公算が高くなる。
規則22条の廃止では、値決めを慎重に
規則22条が廃止されることになれば、事業者は、値決めにより一層の注意を払わねばならない。総額表示によることで、レシート上は端数処理が生じないが、税込み金額の値決め段階で端数処理を求められることがある。規則22条の適用を受けた事業者は、区分して領収した消費税額等を消費税の納税に充てることで、本体価格(税抜き価格)の収益を確保することができたわけだが、本体価格での値決めを行って、漠然と消費税額等を付加した税込価格(総額)を表示した場合には、消費税額等を付加した際の端数処理によって、消費税負担が増加し、予定された収益(本体価格の収益)を確保されなくなる場合も想定されている。
総額表示は国家財政のため?
規則22条が不適用・廃止となると、規則22条を適用していた事業者の税負担が増加することになるが、その負担は、商品価格に転嫁され、消費者が負担することになる(転嫁できない場合には事業者が負担する。)。もともと、規則22条の最大の受益者は、1円未満の端数切捨ての恩恵を受けていた消費者のはずである。消費者は利便性を享受するが、商品価格の上昇という負担を負うことも制度の前提にあることを忘れてはならない。
消費者の利便向上のための総額表示制度の創設だが、表向きの趣旨に反して、将来の税率引き上げ・複数税率の導入の布石であると警戒する声も多い。厳しい財政状況の下、一石二鳥(直近の増収・将来の布石)の政策ということになるのだろう。
区分領収のレジシステム変更は不可避に
平成15年度の税制改正では、消費税額を含めた総額表示が義務付けられた(消費税法63条の2)。消費税の総額表示は、消費者がレジで支払う金額の予測性を提供するとしており、スーパーマーケット等で普及している本体価格と消費税額等を区分して領収する計算方法(レジシステム)は変更を余儀なくされる。
本体価格と消費税額等の区分領収は、消費税法施行規則第22条(以下「規則22条」)の適用要件に合致したもので、レシートの記載方法の変更は、規則22条の取扱いに影響するものと注目されていた。
一方、立法当局は、「総額表示に基づいて領収した場合には、本体価格と消費税額等を区分して領収したものと見ることが難しく、規則22条の適用は難しい。」という判断をしている模様で、条文の存否に関わらず、総額表示が義務付けられた対消費者取引では、規則22条の適用は認められないものとなりそうだ。
総額表示制度の趣旨は消費者の利便?
総額表示は、消費者が事前に「消費税額を含む価格」を一目でわかるようにするものという趣旨で制度が創設されており、このような価格表示によって、消費者の煩わしさが解消されることが期待されている。
当局は総額表示制度の創設に際し、レシート等に総額表示を義務付けるものではないと説明しているが、総額表示制度創設の趣旨から見ても、総額表示された商品の表示上の合計金額と実際の領収金額(レシートの金額)は、最低限一致させなければならない。レシートごとに本体価格と消費税額とに区分して領収したときのレシート上の記載金額は、総額表示された金額の合計額との間に差額を生じる場合があり、区分領収を前提としたレジシステムの変更は避けられない。
総額表示での領収は、規則22条の適用外
当局は、レシート上での表示方法に関わらず、総額表示に基づいて領収した金額について規則22条の適用要件である「区分して領収する」に該当すると見ることは実態に合わないと判断している模様である。仮にレシート上で、総額・本体価格・消費税額等が明示されたとしても、総額表示された商品価額の合計額を領収したもので、本体と消費税額を区分して領収しているとみなす必要性もないことから、規則22条の適用外になるというわけだ。
規則22条の『逆基準化』
規則22条は、領収書発行の都度、1円未満の端数処理(切捨て選択が通例)をして、消費税額を算定するため、レシート発行枚数の多い小売業などは、税込み売上高の100/105を課税標準額とする原則課税に比して納付消費税額が減少し、有利となっていた。そのため、規則22条は、消費税の計算方法の特則であるにもかかわらず、レシート発行枚数(端数処理の回数)が多い小売業等に普及し、『逆基準化』してしまっている。
レシート上で端数処理が行われない総額表示では、本来積上計算の必要性はないとも考えられる。しかし、『逆基準化』された実態では、店頭で総額表示をしているにもかかわらず、レシート上で本体価格を表示・合計し、消費税額等の金額を加算した領収書等を発行している例も見られている(端数処理で差額が生じる場合には、本体価格の値引き等として調整している)。
チェーンストア等の業界団体は、システム変更等に多額の費用を要することから、総額表示・システムの変更に反対しているが、総額表示によりシステムの変更は不可避となっており、規則22条の適用も制度的な合理性を有さないものと判断されそうだ。
総額表示の義務がない事業者間取引は?
規則22条の適用は、請求書等ごとの集計で、事業者間取引にも適用できるものであった。今回の総額表示の義務付けは、事業者間取引には適用されないので、事業者間取引に規則22条を残すことも考えられる。
しかし、事業者間取引における1円未満の端数処理は、小売業のレシートの発行に比べて格段に少なく、一回の取引金額も多額となることが通例のため、端数処理の影響は小さい。このため、当局は、事業者間取引において規則22条を廃止したとしても大きな影響は生じないものと分析している。事業者間取引に規則22条を残す理由が見られないとすると、条文自体が廃止される公算が高くなる。
規則22条の廃止では、値決めを慎重に
規則22条が廃止されることになれば、事業者は、値決めにより一層の注意を払わねばならない。総額表示によることで、レシート上は端数処理が生じないが、税込み金額の値決め段階で端数処理を求められることがある。規則22条の適用を受けた事業者は、区分して領収した消費税額等を消費税の納税に充てることで、本体価格(税抜き価格)の収益を確保することができたわけだが、本体価格での値決めを行って、漠然と消費税額等を付加した税込価格(総額)を表示した場合には、消費税額等を付加した際の端数処理によって、消費税負担が増加し、予定された収益(本体価格の収益)を確保されなくなる場合も想定されている。
総額表示は国家財政のため?
規則22条が不適用・廃止となると、規則22条を適用していた事業者の税負担が増加することになるが、その負担は、商品価格に転嫁され、消費者が負担することになる(転嫁できない場合には事業者が負担する。)。もともと、規則22条の最大の受益者は、1円未満の端数切捨ての恩恵を受けていた消費者のはずである。消費者は利便性を享受するが、商品価格の上昇という負担を負うことも制度の前提にあることを忘れてはならない。
消費者の利便向上のための総額表示制度の創設だが、表向きの趣旨に反して、将来の税率引き上げ・複数税率の導入の布石であると警戒する声も多い。厳しい財政状況の下、一石二鳥(直近の増収・将来の布石)の政策ということになるのだろう。
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