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解説記事2020年11月23日 ニュース特集 「税務調査の結果説明」巡る紛争が複数発生(2020年11月23日号・№859)

ニュース特集
「説明機会を自ら放棄」等なら説明不要と判示も、未だ実務は不透明
「税務調査の結果説明」巡る紛争が複数発生


 既報の通り、税務調査で帳簿等を提示しなかったことにより消費税の仕入税額控除が否認され、38億円余りの追徴課税を受けた事案(以下、“38億円事件”)では、現在納税者が上告及び上告受理申立を行っているが(本誌858号40頁参照)、本件でも論点となっている「税務調査終了時の結果説明」(国税通則法74条の11②)を巡る紛争が全国で複数発生していることが本誌取材により判明した。
 裁決(複数)では総じて「証拠収集手続に影響しない調査の終了後の手続の瑕疵には違法性なし」との判断が示されてきたが、“38億円事件”の地裁判決では「納税者が結果説明の機会を自ら放棄した」という理由で調査結果の説明を行わなかった場合には課税処分は違法とならないという具体例が初めて示され、さらにその高裁判決では、「納税者の行為等を原因として調査結果の説明という手続の速やかな履行が妨げられるような場合」という新たな具体例が追加されている。
 ただ、国税庁が公表しているFAQでは、結果説明は「書面」で行うことも可能とされている点を踏まえると、たとえ納税者との対面の機会がなくても、書面を交付するだけで「説明」をしたことになるはずであり、税務署側で説明の履行が困難な事情は基本的には想定され難い。このため専門家からは、調査結果を説明しなかったことについて違法性がないと判断するためには「殊更に結果説明を回避する目的の認定が必要」との意見も聞かれる。
 上告及び上告受理申立てが行われた“38億円事件”をはじめ現在係争中の裁判の判決が待たれるところだ。

裁決、「証拠収集手続に影響しない調査終了後の手続の瑕疵は違法性なし」

 国税通則法74条11第2項は税務職員に対し、税務調査の結果として更正決定等を行う場合には、調査結果の内容を説明することを求めている。

国税通則法第七十四条の十一(調査の終了の際の手続)
1  略
2  国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする。
 以下略

 この規定は、平成23年12月税制改正で、税務調査の手続きに関する国税通則法の改正(平成25年1月〜適用開始)により導入されたものだが、同法では、どのような場合に税務署が税務調査の結果を「説明をしなくてよい」のかについて何ら明示されていない。
 こうした中、税務調査で帳簿等を提示しなかったことにより消費税の仕入税額控除が否認され38億円余りの追徴課税を受けた事案(以下、“38億円事件”)を含め(本誌813号40頁、817号40頁、848号4頁参照)、税務調査の結果を説明しなかったことの違法性を争点とした紛争が全国で複数発生していることが本誌の取材で判明した。
 その中には審査請求に至った事案も複数あるが、これらの裁決では、証拠収集手続自体に違法性がなければ、結果説明がなくても問題はないとされている。例えば平成28年5月20日裁決においては、請求人の「本件決定処分は、調査結果の説明を口頭で行っていないなど、調査の終了の際の手続が不十分で適切なものではないから、取り消されるべきである」との主張に対し国税不服審判所は、「証拠収集手続に影響を及ぼさない調査手続である調査結果の説明にたとえ瑕疵があったとしても、原処分の取消事由とはなり得ないものというべきであるから、本件決定処分に係る調査結果の説明が口頭でなされていたか否か等については、原処分の取消しの要否の判断には影響しないのであって、請求人の主張には理由がない」との判断を示している。
 同様に平成30年11月19日裁決では、納税者の「調査担当職員は税理士に対し、申告の問題点及び原処分庁の考える納付すべき税額を指摘したのみで、請求人ら及び本件税理士の質問に対する明確な説明をせず、また、いかなる通達を適用したのかという過程の説明はないに等しい状況であった」といった主張に対して国税不服審判所は、「証拠収集手続に重大な違法があった場合には、課税処分の取消事由になるものと解されるところ、請求人らの各主張は、いずれも調査の終了の際の手続に関するものであって、既に行われた証拠収集手続に影響を及ぼすものではないから、その観点からみても、請求人らの主張には理由がないといえる」などとして請求人の主張を斥けている。
 このように、裁決の段階では、“調査後”の手続きである「調査結果の内容を説明」の瑕疵は、原処分の取消しの要否の判断には影響を及ぼさないと整理されていると言える。これに対し実務家からは、「これらの裁決は『結果的に調査結果説明は一切しなくても問題ない』と言っているに等しく、税務調査手続の透明化・納税者の予見可能性の向上・課税庁の説明責任の強化など、平成23年12月の国税通則法改正の趣旨にも反する」といった厳しい批判の声も聞かれる。

裁税務調査に非協力的であったことだけをもって「自ら放棄した」と言えるか

 こうした中、「調査結果の内容の説明」に瑕疵があったかどうかのメルクマールを初めて示したと言えるのが、上記“38億円事件”の一審判決だ。
 本事案でも「結果説明」は行われていなかったが、東京地裁(民事51部 清水知恵子裁判長)は、以下のとおり「納税者が結果説明の機会を自ら放棄した」という理由で、調査結果の説明を行わなかったことは原処分の違法事由にならないとの判断を示している。

令和元年11月21日東京地裁判決(抜粋、一部編集)
(1)原告は、本件調査の終了に当たり、本件調査担当者は原告に対し通則法74条の11第2項に定める調査結果の説明を行わなかったから、本件各更正処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、本件調査担当者は、平成27年5月19日から同年6月5日までの間、原告の代理人であるG弁護士及びH弁護士に対し、調査結果の説明についての日程調整を依頼するとともに、原告代表者自身が調査結果の説明を受けるか否かの確認を依頼していたにもかかわらず、同弁護士らは同年5月28日から原告代表者と連絡を取ることができなくなり、ようやく連絡がついた同年6月5日には、原告は、今後訴訟になることを想定して本店所在地を移転することとし、その登記手続が済むまでは調査結果の説明を原告代表者が直接受けるかについても決められない状況であるとして、上記の日程調整等の依頼に応じなかったものである。そして、以上が、本件調査担当者による調査が終了し、本件連絡票6~9等で予告されたとおり仕入税額控除の否認を理由とする更正処分等を受けることが予測されるという状況の中で行われたものであり、平成26年10月1日付けで愛媛県今治市に移転したばかりの本店所在地を再び移転することとしたものであることも考慮すると、原告は、本件調査担当者による調査結果の説明を忌避する目的で、あえて本件調査担当者による調査結果の説明に関する日程調整等の依頼に応じなかったものと推認される。
 このような経緯に照らすと、原告は、通則法74条の11第2項に定める調査結果の説明を受ける機会を自ら放棄したと認められるから、本件調査担当者が調査結果の説明を行わなかったことは本件各更正処分の違法事由とならないというべきである。

 上記判示を反対解釈すれば、納税者が「説明を受ける機会を放棄していない場合」は、課税処分の取消事由となり得ると主張できると考えることも可能だろう。
 ただ、「調査結果の説明を受ける機会を自ら放棄したと認められる」かどうかは、「放棄」という納税者の意思にかかっているため、本事案のように税務調査における納税者の行為態様から納税者の「目的」を判断することになると考えられる。これは事実認定及び評価の問題であり、困難を伴う。本事案では、「結果説明をしたい」という税務署の意向は納税者に伝わっていたようだが、仮にそのような意向が納税者に伝えられず、ただ納税者が税務調査に非協力的であった(面会できなかった)ことだけをもって「調査結果の説明を受ける機会を自ら放棄したと認められる」と言えるかどうかは微妙だろう。
 また、東京地裁判決は、調査結果の説明を受ける機会を「自ら放棄していないとき」に常に課税処分の取消事由になるのかという論点にまでは踏み込んでいないという点でも議論の余地を残すものとなっている。

東京高裁、「納税者の行為に起因して調査結果説明が妨げられる場合」を追加で

 そして本事案の東京高裁判決では、原判決を引用しつつ、結果説明に対する控訴人の補充主張への判断が示されている。具体的には、原判決と同じ「納税者がこの利益を得る機会を放棄しているといえる場合」に加えて、「納税者の行為等を原因として調査結果の説明という手続の速やかな履行が妨げられるような場合」にも、結果説明は不要と判示している。

令和2年8月26日東京高裁判決(抜粋)
(3)本件各更正処分の適法性に関するその他の主張について
  中略
  控訴人は、通則法74条の11第2項は、憲法31条の定める適正手続保障を具体化するものであって、行政手続法13条(弁明機会の付与)と同法14条(理由提示)の特則を定めるものであるから、同条項の定める手続を省略することや、納税義務者がこれを受ける機会を放棄したとみなすことはできない旨主張するが、通則法74条の11第2項の定める調査結果の説明が主に納税者の利益のためのものであることからすれば、合理的な理由がある場合にまで例外を認めない絶対的な義務を定めたものということはできず(同項の規定ぶりも「説明するものとする。」という表現を用いている。)、納税者がこの利益を得る機会を自ら放棄しているといえる場合や、納税者側の行為等を原因として調査結果の説明という手続の速やかな履行が妨げられるような場合にまで、課税庁にその履行を義務付けたものと解することはできないから、控訴人の上記主張は採用することができない。

 もっとも、東京高裁は、東京地裁が判示した事例(納税者がこの利益を得る機会を放棄していると言える場合)を適用して国税通則法違反はないとしているため、新たな事例(納税者の行為等を原因として調査結果の説明という手続の速やかな履行が妨げられるような場合)を適用して法解釈をしたものではない。その意味では、新たな事例は本論点の解決には事実上不要だったと言えるため、“傍論”とも言える。

書面の交付だけで「説明」に該当 説明の履行が困難な事情は想定されず?

 専門家からは、国税通則法74条11第2項は、調査担当官に調査の「結果」を説明することを求めるものであり、それを聞いた納税者が更に反論をするということは予定されていないと考えれば、当該説明の履行において確保すべき納税者の利益は抽象的なものに過ぎず、そうすると“例外”を広く認める見解もあり得るとの意見も聞かれる。
 一方、別の専門家からは、国税庁が公表しているFAQの問24(上記参照)にもあるように、結果説明は「書面」で行うことも可能とされていることを踏まえれば、たとえ納税者との対面の機会がなくても、書面を交付しただけで「説明」をしたことになるはずであることを考えると、税務署側で説明の履行が困難な事情は基本的には想定されないとして、“例外”を認めるにはやはり「殊更に結果説明を回避する目的」の認定が必要であり、“例外”を広く解することは疑問、との意見も聞かれる。

税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
4. 調査終了の際の手続
問24
 更正決定等をすべきと認める場合は調査結果の内容が説明されることとなっていますが、その内容を記載した書面をもらうことはできますか。
A
 調査の結果、更正決定等をすべきと認められる非違がある場合には、納税者の方に対し、更正決定等をすべきと認める額やその理由など非違の内容を説明します。
 法令上は説明の方法は明示されておらず、説明は原則として口頭で行いますが、必要に応じて、非違の項目や金額を整理した資料など参考となるものを示すなどして、納税者の方に正しく理解いただけるよう十分な説明を行うとともに、納税者の方から質問等があった場合には分かりやすい説明に努めます。
 なお、調査が電話等によるもので、非違の内容が書面での説明でも十分にご理解いただけるような簡易なものである場合には、納税者の方にその内容を記載した書面を送付することにより調査結果の内容説明を行うこともありますが、納税者の方からの要望に応じて調査結果の内容を記載した書面を交付することはありません。

 上記のとおり東京高裁は、国税通則法74条の11第2項の定める調査結果の説明は「主に納税者の利益のため」と判示しているが、ここに税務調査の適正性確保という観点が含まれているとすれば(実際、それも最終的には納税者の利益となる)、納税者に原因があれば“例外”を認めてよいという判示には疑問も残る。
 “38億円事件”は既に上告及び上告受理申立てが行われているが(本誌858号40頁参照)、上告理由書及び上告受理申立理由書でも、本論点が主な上告理由及び上告受理申立理由になっていることが本誌取材により確認されている。上告人は日本国憲法31条が規定する適正手続保障を具現化させたものが国税通則法上の調査結果の説明であると位置付けており、弁明・防御の機会を与えないこととなる調査結果の通知をしないことは上告理由である憲法違反に該当するとしている。このほか、本論点について争う新たな訴訟も提起されている。本論点について結論もしくは実務の方向性が固まるまでにはまだ時間を要することになろう。

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