解説記事2019年09月02日 未公開裁決事例紹介 LLC保有の生命保険、返戻金の為替差益に課税(2019年9月2日号・№801)
未公開裁決事例紹介
LLC保有の生命保険、返戻金の為替差益に課税
法律行為が構成員に帰属する趣旨にあらず
○請求人が出資して海外に設立したLLCの解散に伴う残余財産の分配として、LLCが保有していた生命保険契約に係る権利を名義変更したことにより、保険の解約返戻金の為替差益が課税の対象になるか争われた裁決。国税不服審判所は、請求人はLLCに対する出資を外国通貨で行い、その解散に伴う残余財産の分配金として外貨建ての生命保険契約に係る権利を取得したものといえるため、外貨建取引に該当すると指摘。本件為替差益は、所得として実現しており、課税の対象になるとの判断を示した。なお、請求人は、本件保険契約はLLCが形式的に契約者となっているが、パス・スルー課税を考慮すれば、契約当初からLLCの出資者である請求人が契約者として取り扱われるべきであり、名義変更によっても何ら契約者の変更があるわけではなく、新たな取引は生じていないと主張したが、パス・スルー課税は、事業体の損益についてそれ自身が課税されず、事業体の構成員に課税されることをいうものであり、事業体の行った法律行為が構成員に帰属するという趣旨ではないなどとした(平成30年11月13日、棄却)。
基礎事実等
(1)事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が出資してアメリカ合衆国××××の法律に基づいて設立したリミテッド・ライアビリティ・カンパニーの解散に伴う残余財産の分配として、当該リミテッド・ライアビリティ・カンパニーが保有していた生命保険契約に係る権利を請求人に移転させたことについて、原処分庁が、当該権利の移転は外貨建取引に該当し、これにより生じた為替差益は請求人の雑所得に該当するとして、所得税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該リミテッド・ライアビリティ・カンパニーは、パス・スルー課税(構成員課税)が適用されるから、当該生命保険契約は当初から請求人が契約していたと解すべきであり、新たな取引は生じていないため、為替差益を所得として認識すべきではないなどとして、処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令(略)
(3)基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人は、××××××××に、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)××××のリミテッド・ライアビリティ・カンパニー法(Uniform Limited Liability Company Act。)に基づき、リミテッド・ライアビリティ・カンパニー(Limited Liability Company。以下「LLC」という。)を設立した。
なお、当該LLCの社名は、××××××××(以下「本件LLC」という。)である。
ロ 請求人は、本件LLCに対する出資金として、本件LLC名義の預金口座へ、平成23年10月21日に2,010,000米国ドル(以下、米国ドルを「ドル」という。)、平成25年4月17日に1,500,000ドルを送金した(以下、これらの各送金による出資を併せて「本件各出資」といい、本件各出資による本件LLCに対する出資金を「本件各出資金」という。)。
ハ 本件LLCは、平成23年11月22日に、××××××××との間で、契約者を本件LLCとする生命保険契約(証券番号××××及び証券番号××××)を締結し、平成25年3月23日には、××××××××との間でも、契約者を本件LLCとする生命保険契約(証券番号××××)を締結した(以下、これらの生命保険契約を併せて「本件各保険契約」という。)。
ニ 本件LLCは、××××に解散し、同日、当該解散に伴う残余財産の分配として、本件各保険契約の契約者が本件LLCから請求人に変更された(以下、この契約者の変更を「本件名義変更」という。)。
ホ 本件名義変更の日における本件各保険契約に係る解約返戻金の円換算額の合計額(331,267,286円)から本件各出資の日における本件各出資金の円換算額の合計額(301,393,200円)を控除した金額は、29,874,086円である(以下、当該差額を「本件為替差益」という。)。
(4)審査請求に至る経緯
イ 請求人は、平成26年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告書に別表(略)の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにこれを原処分庁に提出した(以下、当該確定申告書を「本件確定申告書」という。)。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成29年6月26日付で、別表(略)の「更正処分等」欄のとおりとする平成26年分の所得税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正等処分」という。)をした。
本件更正等処分に係る通知書(以下「本件更正等通知書」という。)に記載された処分の理由は、別紙(略)のとおりである。
ハ 請求人は、平成29年9月15日に、原処分を不服として、再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年12月11日付で、いずれも棄却の再調査決定をした。
ニ 請求人は、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成30年1月10日に、その全部の取消しを求めて審査請求をした。
争点および主張
(1)本件更正等通知書の理由附記には、本件更正等処分を取り消すべき不備があるか否か(争点1)。
(2)本件為替差益を所得として認識すべきか否か(争点2)。
(3)請求人には通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か(争点3)。
当事者の主張は表のとおり。
【表】当事者の主張(本件為替差益を所得として認識すべきか否かについて)
原処分庁 | 請 求 人 |
次のことから本件為替差益を所得として認識すべきである。 イ 本件LLCの準拠法である××××、本件LLCに係るLLC設立書並びに請求人及び本件LLCとの間で締結された本件LLCに係る運営契約によれば、本件LLCは、そのメンバーとは区別される法的主体であり、訴訟の主体となることができ、メンバー及びマネジャーは、定款等に別段の定めがない限り、本件LLCの債務、義務及び負債について個人的に責任を負うことはないなどとされている。 そうすると、本件LLCは、メンバーから独立した権利義務の帰属主体であると認められ、日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていることは明らかである。 したがって、本件LLCは、所得税法第2条第1項第7号に規定する外国法人に該当する。 ロ 請求人は、本件各出資に起因して、××××××××に、本件名義変更により、上記出資とは、その金額も、資産としての性質も異なる本件各保険契約に係る解約返戻金を得る権利(合計3,253,459.91ドル)を取得した。そして、本件各出資及び本件名義変更による本件各保険契約に係る解約返戻金を得る権利の取得は、いずれも外国通貨で支払が行われる取引であると認められるから、本件各出資及び本件名義変更は、外貨建取引に該当する。 そこで、所得税法第57条の3第1項の規定に従い、本件各出資金及び本件各保険契約に係る解約返戻金について、それぞれ各出資日、本件名義変更日における為替レートにより円換算すると、本件為替差益が生じる。また、請求人が本件名義変更によって本件各保険契約に係る解約返戻金を得る権利を取得したことで、これまで評価差額にすぎなかった本件為替差益が、所得税法第36条に規定する収入すべき金額として実現したものと認められる。 したがって、本件為替差益を収入金額に計上することになる。 |
次のことから本件為替差益を所得として認識すべきではない。 イ 国税庁が、平成29年2月9日に、米国のリミテッド・パートナーシップ(以下「LPS」という。)を日本の税法上、パス・スルーと取り扱うとの考え方を示したことからすれば、果実だけではなく元本(本件各保険契約)についても、LPS(事業体)ではなく、出資者に帰属すると考え、LPSは透明体と考えるのが妥当である。 そして、LLCとLPSは、その準拠法が異なるだけで、日本の税制適用上は同一視していることを考慮すれば、国税庁が公表した当該取扱いはLLCにも適用され、本件LLCもLPSと同様の透明体と考えるべきである。 そうすると、本件各保険契約は、本件LLCが形式的に契約者となっているものの、パス・スルー課税(構成員課税)を考慮すれば、契約当初から本件LLCの出資者である請求人が契約者として取り扱われる。そうであるならば、本件LLCの解散によっても、何ら契約者の変更があるわけでなく、新たな取引は生じていない。 ロ 本件LLCが解散する際、本件LLCのバランスシートには本件各保険契約のみが計上されており、本件名義変更に関しては金銭のやりとりは行われていない。 所得税法第57条の3第1項によれば、外貨建取引とは、「外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及びその他の取引をいう。」とされており、金銭のやりとりが行われていない本件名義変更は外貨建取引に該当しない。 ハ そもそも、所得税法上、所得計算を「円」で行わなければならない旨及び為替差益が所得に該当する旨を規定する明文規定はいずれもない。 ニ また、請求人が平成27年1月22日に確認した国税庁公表の「外貨建債券が償還された場合の償還差益及び為替差損益の取扱い」(以下「本件質疑応答事例」という。)には、償還差益が生じないこと及び同一の外国通貨で支払われる場合、為替差益を所得として認識する必要がないことが記載されている。 本件名義変更については、残余財産の分配が出資額を上回っていないため配当所得に該当するものはない。また、本件名義変更は、本件LLCの解散に伴い、本来、ドル建ての本件各保険契約を解約して現金(ドル)を分配するところ、現物分配としてドル建ての本件各保険契約を分配したものにすぎず、仮にこれが外貨建取引に該当するとしても、実質的には同一の通貨で支払を受け、これを保有しているにすぎない。 このことは、本件質疑応答事例の本質的な内容を充足している。 |
審判所の判断
(1)争点1(本件更正等通知書の理由附記には、本件更正等処分を取り消すべき不備があるか否か。)について(略)
(2)争点2(本件為替差益を所得として認識すべきか否か。)について
イ 法令解釈等
(イ)所得税法第36条第1項は、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額」については、「収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、右権利発生の時期の属する年度の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用している。」(最高裁昭和49年3月8日第二小法廷判決・民集28巻2号186頁)と解されており、所得の実現があったときに収入を認識することとされている。
そして、収入とは、外部からの経済的価値の流入と解されるところ、所得税法は、第36条第1項において、所得を収入金額の形態で定めていることから、原則として、収入という形態において実現した利得のみを課税の対象とし、未実現の利得は課税の対象から除外していると解するのが相当である。
また、外貨建取引を行った場合の円換算について規定する所得税法第57条の3第1項も、「その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとする。」と規定していることからすると、同項は、所得の実現があったことを前提として、当該所得の金額の計算方法について規定したものであり、未実現の利得について同項の規定による円換算を行うことにはならないと解するのが相当である。
(ロ)ところで、為替差益は、為替差益の基因となる外貨建取引に係る資産又は負債が発生した際の円換算額と当該資産等が他の資産等に変化した際の円換算額との差額として計算されることとなるが、上記(イ)によれば、為替差益が単に評価上のものにとどまり、当該差額に相当する所得が実現したと認められない場合には、課税の対象となる収入として認識しないこととなるのに対し、当該資産等の内容が実質的に変化しており、為替差益が単に評価上のものにすぎないとはいえない場合には、課税の対象となる収入として認識することとなる。
ロ ××××の規定
本件に関係する××××の要旨は、以下のとおりである。
(イ)第428- 101条《定義》
主体(Entity)には、国内及び外国法人、国内専門家法人、LLC、国内及び外国非営利法人、国内外の事業信託、遺産財団、国内及び外国パートナーシップ、国内及び外国有限パートナーシップ、国内及び外国有限責任パートナーシップ、信託、共同で又は共通の経済的利益を有する2名以上の者、協会及び協同組合、並びに州、連邦及び外国政府が含まれる。
(ロ)第428- 111条《事業の性質と権限》
A LLCは、事業を管理又は規制する本州法に従うことを条件として、本章に基づき、いかなる合法的な目的のためにも設立することができる。
B LLCは、定款に別段の定めがない限り、以下の権限を含む、事業又は業務の遂行に必要性又は利便性のある全ての事項について、個人と同じ権限を有する。
(A)訴訟し、訴訟を受け、会社の名のもとに抗弁する。
(B)所在地にかかわらず、不動産又は動産、あるいは財産に関するコモンロー上又はエクイティ上の権利を購入し、受領し、リースし、又はその他の形により取得し、これらを所有し、保有し、改良し、使用し、又はその他の形により取り扱う。
(C)財産の全部又は一部を売却し、移転し、抵当権を設定し、担保権を設定し、リースし、交換し、又はその他の負担となる権利を設定し、あるいは処分する。
(D)他の主体の株式又はその他の権利を購入し、受領し、予約し、又はその他の形により取得し、所有し、保有し、投票し、使用し、売却し、抵当権を設定し、貸与し、担保権を設定し、あるいはその他の形により処分及び処理する。
(E)契約書及び保証書を作成し、負債を発生させ、金銭を借入れ、証券、債券又はその他の債務証書(当該LLCの他の証券に転換できる、又はこれらを購入するオプションを含むことができるものとする。)を発行し、また、かかる債務証書をその財産、フランチャイズ又は収入に対し抵当権又は担保権を設定することにより担保する。
(F)金銭を貸し付け、資金を投資及び再投資し、また、返済の担保として不動産及び動産を受領し保有する。
(ハ)第428- 201条《法的主体としてのLLC》
LLCは、そのメンバーとは区別される法的主体である。
(ニ)第428- 303条《メンバー及びマネジャーの責任》
A 下記Cに定める場合を除き、LLCの債務、義務及び負債は、契約、不法行為又はその他の事由のいずれにより生じたかを問わず、専ら当該LLCの債務、義務及び負債とする。メンバー又はマネジャーは、メンバー又はマネジャーとして行動したことのみを理由として、LLCの債務、義務及び負債に対し、個人的に責任を負うことはないものとする。
B LLCが、LLCの権限の行使又は事業の管理に関するLLCの通常の手続又は要件を遵守しなかったことをもって、メンバー又はマネジャーに対し、LLCの負債に対する個人的責任を課す根拠とはならない。
C LLCの全て又は特定のメンバーは、以下の(A)及び(B)を満たす場合、LLCの全て又は特定の債務、義務及び負債について、各自のメンバーとしての資格により責任を負うものとする。
(A)かかる旨の規定が定款に定められていること。
(B)かかる責任を負うメンバーがかかる規定を採用すること、又はかかる規定に拘束されることに書面により同意していること。
ハ 検討
(イ)本件LLCについて
A 本件においては、本件為替差益が請求人の所得を構成するかが争われているところ、本件LLCが我が国の租税法上の法人に該当しないとすれば、本件名義変更による本件各保険契約に係る権利の移転を観念できず、その結果、本件為替差益を所得として認識することもできないこととなる。
そこで、本件為替差益を所得として認識すべきかを判断する前提として、まず、本件LLCが所得税法第2条第1項第7号に規定する外国法人として我が国の租税法上の法人に該当するか否かを検討する。
B 外国法に基づいて設立された組織体が所得税法第2条第1項第7号に規定する外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては、まず、①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討することになり、これができない場合には、次に、②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討することとなるものと解される(最高裁平成27年7月17日第二小法廷判決・民集69巻5号1253頁参照)。
C 本件LLCは、前記(3)のイのとおり、××××に基づき設立されたLLCであるところ、同法の定義規定である同法第428-101条には、上記ロの(イ)のとおり、LLCは、国内外の法人、非営利法人、事業信託、協会及び協同組合などを含む幅広い概念を意味する主体(Entity)に含まれるとされていることからすると、同法に準拠し設立されたLLCが、この規定の文言や法制の仕組みから、日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるとはいい難い。
D そこで、本件LLCが法人該当性の実質的根拠となる権利義務の帰属主体とされているか否かについて検討する。
(A)本件LLCの設立根拠法令であり準拠法である××××は、上記ロの(ロ)ないし(ニ)のとおり、①LLCは、一定の例外を除き、契約書の作成、資産の取得並びに売却及び処分などその事業又は業務の遂行に必要性又は利便性のある全ての事項について、個人と同じ権限を有すること(同法第428-111条)、②LLCはそのメンバーと区別される法的主体であること(同法第428-201条)をそれぞれ規定しており、このような××××の規定に照らせば、同法は、LLCにその名義で法律行為をする権利又は権限を付与するとともに、LLC名義でされた法律行為の効果がLLC自身に帰属することを前提とするものと解され、このことは、同法において、LLCの債務、義務及び負債は、一定の例外を除き、専ら当該LLCの債務、義務及び負債とされ、メンバーは、一定の例外を除き、LLCの債務、義務及び負債に対し、個人的に責任を負うことはないと規定されていること(同法第428- 303条)とも整合するものと解される。
(B)以上のような××××の規定の内容や趣旨等に鑑みると、本件LLCは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件LLCに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められる。
E そうすると、本件LLCは、所得税法第2条第1項第7号に規定する外国法人に該当する。
(ロ)本件為替差益について
上記(イ)のとおり、本件LLCは、所得税法第2条第1項第7号に規定する外国法人に該当するから、我が国の租税法に照らしても、本件名義変更により、本件各保険契約に係る権利が本件LLCから請求人に移転したものと評価できる。
そうすると、請求人は、本件各出資を外国通貨で行い、本件LLCの解散に伴う本件LLCの残余財産の分配として、外貨建ての本件各保険契約に係る権利を取得したものといえるから、これらはいずれも外貨建取引に該当する。
そして、本件各出資金が、その金額も、資産としての性質も異なる新たな経済的価値を持った本件各保険契約に係る権利に実質的に変化したといえることからすれば、本件為替差益は、単に評価上のものにすぎないとはいえず、所得として実現しており、課税の対象となるものといえる。
(ハ)小括
以上によれば、本件為替差益は、所得として認識すべきである。
ニ 請求人の主張について
(イ)請求人は、国税庁がホームページにおいて、「The tax treatment under Japanese law of items of income derived through a U.S.Limited Partnership by Japanese resident partners」と題する取扱い(以下「本件米国LPS取扱い」という。)を公表していることを根拠として、本件各保険契約は、本件LLCが形式的に契約者となっているが、パス・スルー課税を考慮すれば、契約当初から本件LLCの出資者である請求人が契約者として取り扱われるべきであり、そうであるならば、本件名義変更によっても何ら契約者の変更があるわけでなく、新たな取引は生じていない旨主張する。
しかしながら、パス・スルー課税は、事業体の損益についてそれ自身が課税されず、事業体の構成員に課税されることをいうものであり、事業体の行った法律行為が構成員に帰属するという趣旨ではないし、本件米国LPS取扱いは、飽くまで米国のLPSとそのパートナーの課税関係の取扱いを示したものにすぎず、本件の判断に影響を及ぼすものとはいえない。
したがって、パス・スルー課税を考慮すれば、契約当初から本件LLCの出資者である請求人が契約者として取り扱われるべきであるとする請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、本件名義変更に関して、金銭のやりとりは行われていないので、本件名義変更は外貨建取引に該当しない旨主張する。
しかしながら、所得税法第57条の3第1項の規定をみても、金銭のやりとりが現実に行われたことを外貨建取引に該当するというための要件としているものとは解されない。そして、上記のとおり、本件名義変更は、本件LLCの解散に伴う残余財産の分配として、外貨建ての本件各保険契約に係る権利を取得したものであり、外貨建取引に該当するといえるから、外貨建取引に該当しないという請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、所得税法上、所得計算を「円」で行わなければならない旨及び為替差益が所得に該当する旨の明文規定がいずれもない旨主張する。
しかしながら、国内法である所得税法は、所得金額及び税額の計算は円により行うことを前提としていることは明白というべきである。また、上記のとおり、所得税法第36条第1項に規定する「収入」とは、外部からの資産の流入と解するのが相当であるところ、為替差益は、当該為替差益の基因となる資産又は負債の内容が実質的に変化した場合には、外部からの資産の流入として実現した利得として同項に規定する「収入すべき金額」に該当するのであり、明文規定がないとはいえない。したがって、請求人の主張には理由がない。
(ニ)請求人は、本件は本件質疑応答事例と同様の状況であり、実質的には同一の通貨で支払を受けこれを保有しているにすぎない旨主張する。
しかしながら、本件質疑応答事例は、外貨建債券の券面に表示された金額と同じ金額が同一の外国通貨で支払われる場合の償還差益及び為替差損益に関する質疑応答事例であるのに対し、本件は、本件各出資金が、現余財産の分配として、その金額も資産の性質も異なる本件各保険契約に係る権利に変化したという事案であって、前提となる事実が異なっており、本件質疑応答事例が本件にまで及ぶものとはいえないから、請求人の主張には理由がない。
(ホ)以上のとおりであるから、争点2についての請求人の主張には、いずれも理由がない。
(3)争点3(請求人には通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。)(略)
(4)本件更正処分の適法性について
以上のとおり、本件更正等通知書の理由附記に不備はなく、また、本件為替差益は、請求人の認識すべき所得に該当するから、当審判所においても、これに基づき請求人の平成26年分の総所得金額及び納付すべき税額を算出すると、別表(略)の「更正処分等」欄の各欄のとおりとなり、請求人の平成26年分の所得税等の納付すべき税額は、本件更正処分における請求人の納付すべき税額と同額であると認められる。
また、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件更正処分は適法である。
(5)本件賦課決定処分の適法性について
上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、上記(3)のとおり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、「正当な理由」があるとは認められない。そして、当審判所においても、請求人の平成26年分の所得税等に係る過少申告加算税の額は、本件賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
したがって、本件賦課決定処分は適法である。
(6)結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり裁決する。
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