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解説記事2019年09月09日 新会計基準解説 企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等について(2019年9月9日号・№802)




新会計基準解説

企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等について

 企業会計基準委員会 専門研究員 遠藤和人






Ⅰ はじめに




 企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2019年7月4日に、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等(以下「本会計基準等」という。)を公表(脚注1)した。本稿では、本会計基準等の概要を紹介する。なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であり、ASBJの見解を示すものではないことを、あらかじめ申し添える。






Ⅱ 本会計基準等公表の経緯




 我が国においては、金融商品会計基準等において、時価を算定することが求められているものの、これまで、当該時価の算定方法に関する詳細なガイダンスは定められていなかった。一方、国際財務報告基準(以下「IFRS」という。)や米国会計基準では、公正価値測定についてほぼ同じ内容の詳細なガイダンスを定めている。また、IFRS及び米国会計基準では、公正価値に関する開示も定めているが、これらの多くは日本基準で定められていないことなどから、特に金融商品を多数保有する金融機関において国際的な比較可能性が損なわれているのではないかとの意見が聞かれていた。

 これらの状況を踏まえ、主に金融商品の時価に関するガイダンス及び開示に関して、国際的な会計基準との整合性を図る取組みに着手し、公表されたのが本会計基準等である。

 なお、本会計基準等は、2019年1月18日に公表した企業会計基準公開草案第63号「時価の算定に関する会計基準(案)」等(以下「公開草案」という。)に対して寄せられた意見を踏まえて検討を行い、本公開草案の内容を一部修正した上で、公表するにいたったものである。






Ⅲ 本会計基準等の概要




1 開発の基本的な方針等

 企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」(以下「時価算定会計基準」という。)の開発にあたっては、時価の統一的な算定方法を定めることにより、国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、IFRS第13号「公正価値測定」(以下「IFRS第13号」という。)の定めを基本的にすべて取り入れている。ただし、我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわない範囲で、その他の取扱いを定めることを検討した結果、後述の第三者から入手した相場価格の利用について、その他の取扱いが定められている。

 なお、IFRS第13号では「公正価値」という用語が用いられているのに対し、時価算定会計基準では、我が国における他の関連諸法規において広く用いられていること等を考慮して、「時価」という用語を用いている。しかし、IFRS第13号の「公正価値」と時価算定会計基準の「時価」の内容に実質的な差異はない。

 このように、IFRS第13号の定めを基本的にすべて取り入れることとしたが、会計基準の適用範囲には差異がある。IFRS第13号は、一部の項目を除きすべての公正価値測定又は公正価値測定に関する開示が要求されている場合に適用され、金融商品のみならず固定資産等の公正価値測定も当該基準の範囲に含まれるが、時価算定会計基準は、金融商品とトレーディング目的の棚卸資産のみを適用範囲としている。

 ここで、金融商品については、国際的な会計基準と整合させることにより国際的な企業間の財務諸表の比較可能性を向上させる便益が高いものと判断し、会計基準の範囲に含めることとされている。そのため、例えば、年金資産については、その額を期末における時価により計算することとされており(企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」第22項)、金融商品が年金資産を構成する場合には、当該金融商品の時価の算定に時価算定会計基準が適用されることとなる。

 一方、金融商品以外の資産及び負債で、時価算定会計基準の対象となり得る時価の算定が求められる主要な項目としては、賃貸等不動産の時価の開示(企業会計基準第20号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」)や企業結合における時価を基礎とした取得原価の配分(企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第28項)が挙げられる。しかしながら、賃貸等不動産については時価の開示が求められるものの、貸借対照表には時価で計上されず損益にも影響を及ぼさないこと、また、企業結合における時価を基礎とした取得原価の配分については当初認識時のみの処理であり、毎期時価の算定が求められるわけではないことなどから、金融商品に比して国際的に整合性を図る必要性は高くないと考えられ、これらを時価算定会計基準の範囲に含めた場合の整合性を図るためのコストと便益を考慮した結果、原則として、金融商品以外の資産及び負債は時価算定会計基準の範囲に含めないこととした。

 また、時価算定会計基準は、時価算定会計基準の適用範囲に含まれる時価をどのように算定すべきかを定めたものであり、どのような場合に時価で算定すべきかについては、他の会計基準の定めに従うことになる。



2 日本公認会計士協会との連携

 本会計基準等の公表と同時に、日本公認会計士協会(以下「JICPA」という。)から、「会計制度委員会報告第14号『金融商品会計に関する実務指針』、金融商品会計に関するQ&A及び同4号『外貨建取引等の会計処理に関する実務指針』の改正について(以下「改正金融商品実務指針等」という。)が公表(脚注2)されている。

 本会計基準等の内容はJICPAの実務指針等にも影響するため、ASBJにて内容を検討の上、JICPAに改正を依頼した。改正金融商品実務指針等は、当該依頼を踏まえ、公表されたものである。結果として、今回ASBJから新たに公表された本会計基準等とASBJにより改正された会計基準等及びJICPAの改正金融商品実務指針等の一覧は以下となる。また、本会計基準等の適用に伴い、実務対応報告第25号「金融資産の時価の算定に関する実務上の取扱い」は廃止されている。

ASBJにより公表された本会計基準等の一覧

・企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」(新たに公表)

・企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(改正)

・企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(改正)

・企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(新たに公表)

・企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(改正)

・企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(改正)

JICPAにより公表された実務指針等の一覧

・会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(改正)

・会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(改正)

・「金融商品会計に関するQ&A」(改正)



3 時価の算定に関するガイダンス

(1)時価の定義


 本会計基準等における「時価」は、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう。よって、「時価」の算定は、市場を基礎としたものであり、対象となる企業に固有のものではない。したがって、企業による保有の特性として、例えば、市場における通常の日次取引高では売却できないほどに金融商品を大量に保有している場合であっても、当該金融商品を一度に売却する際に生じる価格の低下についての調整は行わない。また、「時価」は、直接観察可能であるかどうかにかかわらず、算定日における市場参加者間の秩序ある取引が行われると想定した場合の出口価格であり、入口価格(交換取引において資産を取得するために支払った価格又は負債を引き受けるために受け取った価格)ではない。

 なお、「時価」の定義の中で使用されている主な用語の意味は次のとおりである。

① 市場参加者:資産又は負債に関する主要な市場又は最も有利な市場において、次の要件のすべてを満たす買手及び売手をいう。

 ・互いに独立しており、関連当事者ではないこと

 ・知識を有しており、すべての入手できる情報に基づき当該資産又は負債について十分に理解していること

 ・当該資産又は負債に関して、取引を行う能力があること

 ・当該資産又は負債に関して、他から強制されるわけではなく、自発的に取引を行う意思があること

② 秩序ある取引:資産又は負債の取引に関して通常かつ慣習的な市場における活動ができるように、時価の算定日以前の一定期間において市場にさらされていることを前提とした取引をいう。他から強制された取引(例えば、強制された清算取引や投売り)は、秩序ある取引に該当しない。

③ 主要な市場:資産又は負債についての取引の数量及び頻度が最も大きい市場をいう。

④ 最も有利な市場:取得又は売却に要する付随費用を考慮したうえで、資産の売却による受取額を最大化又は負債の移転に対する支払額を最小化できる市場をいう。

(2)時価の算定単位

 資産又は負債の時価を算定する単位は、それぞれの対象となる資産又は負債に適用される会計処理又は開示によるとされており、時価の算定が個々の資産又は負債を対象とするのか、あるいは資産又は負債のグループを対象とするのかについては、個々の会計処理又は開示を定める会計基準による。金融商品については、通常、個々の金融商品が時価の算定の対象となる。

 ただし、一定の要件を満たす場合には、特定の市場リスク(市場価格の変動に係るリスク)又は特定の取引相手先の信用リスク(取引相手先の契約不履行に係るリスク)に関して金融資産及び金融負債を相殺した後の正味の資産又は負債を基礎として、当該金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定することができるとされている。なお、本取扱いは特定のグループについて毎期継続して適用し、重要な会計方針において、その旨を注記する必要がある。

(3)時価の算定方法

 時価は、インプットと評価技法を用いて算定することとされている。状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法を用いることが求められるが、評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にしなければならない。

 ① 評価技法

 時価を算定するにあたって用いる評価技法には、例えば、次の3つのアプローチがある。

(a)マーケット・アプローチ

 マーケット・アプローチとは、同一又は類似の資産又は負債に関する市場取引による価格等のインプットを用いる評価技法をいう。当該評価技法には、例えば、倍率法や主に債券の時価算定に用いられるマトリックス・プライシングが含まれる。

(b)インカム・アプローチ

 インカム・アプローチとは、利益やキャッシュ・フロー等の将来の金額に関する現在の市場の期待を割引現在価値で示す評価技法をいう。当該評価技法には、例えば、現在価値技法やオプション価格モデルが含まれる。

(c)コスト・アプローチ

 コスト・アプローチとは、資産の用役能力を再調達するために現在必要な金額に基づく評価技法をいう。

 時価の算定に用いる評価技法は、毎期継続して適用する必要がある。当該評価技法又はその適用(例えば、複数の評価技法を用いる場合のウェイト付けや、評価技法への調整)を変更する場合は、会計上の見積りの変更として処理し、この場合、当該連結会計年度及び当該事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表において変更の旨及び変更の理由を注記する必要がある。

 ② インプット

 インプットとは、市場参加者が資産又は負債の時価を算定する際に用いる仮定をいい、例えば、相場価格、金利、ボラティリティ、リスクに関する調整などがある。時価の算定に用いるインプットは、次の順に優先的に使用する(レベル1のインプットが最も優先順位が高く、レベル3のインプットが最も優先順位が低い。)。

観察可能なインプット(観察可能な市場データに基づくもの)

(a)レベル1のインプット:時価の算定日において、企業が入手できる活発な市場における同一の資産又は負債に関するインプットであり、調整されていないものをいう。当該価格は、時価の最適な根拠を提供するものであり、当該価格が利用できる場合には、原則として、当該価格を調整せずに時価の算定に使用する。一定の場合にはレベル1のインプットに対する調整が認められるが、当該調整により算定された時価は、レベル2の時価又はレベル3の時価に分類される。

(b)レベル2のインプット:資産又は負債の時価の算定における直接又は間接的に観察可能なインプットのうち、レベル1に含まれるインプット以外のものをいう。例えば、次のものが考えられる。

・全期間にわたり観察可能なスワップ・レート

・ほぼ全期間にわたり観察可能な外貨建イールド・カーブに基づくスワップ・レート

・観察可能な市場データに裏付けられるインプライド・ボラティリティ

観察できないインプット

(c)レベル3のインプット:資産又は負債の時価の算定における観察可能な市場データではないが、入手できる最良の情報に基づくインプットをいう。例えば、次のものが考えられる。

・観察可能な市場データによる裏付けがないスワップ・レート

・ヒストリカル・ボラティリティ

・観察可能な市場データによる裏付けがない価格調整

 ただし、資産又は負債の取引の数量又は頻度が著しく低下しており、その取引価格が時価を表していないと判断される場合には、観察可能なインプットのみを使用することによっても時価を適切に算定することにはならず、観察可能なインプットの調整が必要となる場合もある。よって、インプットの観察可能性のみがインプットを選択する際に適用される唯一の判断規準ではなく、時価の算定対象である資産又は負債の時価を最もよく表すインプットを最大限利用する必要がある。

 また、時価を算定する資産又は負債に買気配及び売気配がある場合、当該資産又は負債の状況を考慮し、買気配と売気配の間の適切な価格をインプットとして用いる。これは、実務上の簡便法として用いられる仲値等の利用を妨げるものではない。

(4)時価のレベルの分類 

 上述のインプットを用いて算定した時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価又はレベル3の時価に分類される。なお、時価を算定するために異なるレベルに区分される複数のインプットを用いており、これらのインプットに、時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合、これら重要な影響を与えるインプットが属するレベルのうち、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに当該時価を分類する。

 このように、時価のレベルの分類は、評価技法ではなく、インプットが属するレベルに基づいて行われる。次の図表1は、時価のレベルの分類における評価技法とインプットの関係を示すものである。



 時価のレベルは、時価の算定に用いるインプットが観察可能であるか及び経営者の見積りによる不確実性が存在するかを表すものであり、時価の算定対象となる商品の複雑性や市場における流動性を必ずしも示すものではない。例えば、商品としては単純なものであっても時価の算定に用いるインプットによって時価のレベルが異なる場合がある。また、時価がレベル3に分類される商品であっても当該商品の市場における流動性が低いとも限らない。

(5)期末前1か月の平均価額に関する定めの削除

 改正前の企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)では、その他有価証券の決算時の時価について、期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることもできるとされていた。しかし、上述のとおり、算定日における価格であると時価の定義を変更したことに伴い、当該期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額は、新しい時価の定義を満たさないことから、当該取扱いが削除されている。

 ただし、その他有価証券の減損を行うか否かの判断においては、期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる取扱いが踏襲されている。なお、この場合であっても、減損損失の算定には算定日の時価を用いることに留意が必要である。

 また、改正前のJICPAの会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」では、外貨建その他有価証券の換算において、決算時の時価として期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いる場合には、原則として期末前1か月間の平均相場により換算することとしているが、上記取扱いに併せ、当該換算の取扱いも削除されている。

(6)第三者から入手した相場価格の利用

 企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下「時価算定適用指針」という。)では、取引相手の金融機関、ブローカー、情報ベンダー等の第三者から入手した相場価格が時価算定会計基準に従って算定されたものであると判断する場合には、当該価格を時価の算定に用いることができるものとしている。

 時価算定適用指針では、この取扱いに併せて、当該判断にあたって実施する手続を参考のため例示している。ただし、これらの次に記載した手続はあくまで例示であり、状況に応じて選択して実施する。また、記載したもの以外の手続によることも考え得るとされている。

① 当該第三者から入手した価格と企業が計算した推定値とを比較し検討する。

② 他の第三者から会計基準に従って算定がなされていると期待される価格を入手できる場合、当該他の第三者から入手した価格と当該第三者から入手した価格とを比較し検討する。

③ 当該第三者が時価を算定する過程で、会計基準に従った算定(インプットが算定日の市場の状況を表しているか、観察可能なものが優先して利用されているか、また、評価技法がそのインプットを十分に利用できるものであるかなど)がなされているかを確認する。

④ 企業が保有しているかどうかにかかわらず、会計基準に従って算定されている類似銘柄(同じアセットクラスであり、かつ同格付銘柄など)の価格と比較する。

⑤ 過去に会計基準に従って算定されていると確認した当該金融商品の価格の時系列推移の分析など商品の性質に合わせた分析を行う。

 なお、第三者から入手した相場価格の利用については、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、次のその他の取扱いが定められている。

 総資産の大部分を金融資産が占め、かつ総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業集団又は企業(以下「企業集団等」という。)以外の企業集団等においては、第三者が客観的に信頼性のある者で企業集団等から独立した者であり、公表されているインプットの契約時からの推移と入手した相場価格との間に明らかな不整合はないと認められる場合で、かつ、レベル2の時価に属すると判断される場合には、次のデリバティブ取引については、当該第三者から入手した相場価格を時価とみなすことができるとしている。

① インプットである金利がその全期間にわたって一般に公表されており観察可能である同一通貨の固定金利と変動金利を交換する金利スワップ

② インプットである所定の通貨の先物為替相場がその全期間にわたって一般に公表されており観察可能である為替予約又は通貨スワップ

(7)時価を把握することが極めて困難な有価証券等の取扱い

 改正前の金融商品会計基準では、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券の貸借対照表価額は、社債その他の債券については債権の貸借対照表価額に準ずるものとし、社債その他の債券以外については取得原価とするとの定めがあった。同様に、デリバティブ取引についても時価を把握することが極めて困難と認められる場合には取得原価をもって貸借対照表価額とすることができるものとされていた。

 これに対し、時価算定会計基準においては、たとえ観察可能なインプットを入手できない場合であっても、入手できる最良の情報に基づく観察できないインプットに基づき時価を算定することとしており、このような時価の考え方の下では、時価を把握することが極めて困難な有価証券等は想定されないと考えられたことから、金融商品会計基準における当該定めが削除されている。

 また、改正前のJICPAの会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品実務指針」という。)では、金融資産・負債の消滅時に残存部分や新たな資産・負債の時価を合理的に測定できない場合の取扱いが規定されているが、同様に、改正後の金融商品実務指針等において当該取扱いが削除されている。

 ただし、市場価格のない株式等に関しては、たとえ何らかの方式により価額の算定が可能だとしても、それを時価とはしないとする従来の考え方を踏襲し、引き続き取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いを維持している。

 なお、公開草案においては、組合等の構成資産が主に市場価格のない株式等である場合の組合出資も市場価格のない株式等に含めていたが、当該組合等への出資は時価をもって貸借対照表価額とするものではないとの意見を踏まえ、市場価格のない株式等から除外している。ただし、時価の注記に関しては、後述のとおり経過措置を設けている。

 図表2に示したとおり、これらの取扱いの理解のために、本会計基準等の「公表にあたって」において、別紙2が示されている。



(8)投資信託の時価に関する経過措置

 投資信託の時価の算定に関する検討については、関係者との協議等に一定の期間が必要と考えられたため、時価算定会計基準公表後概ね1年をかけて検討を行うこととし、その後、投資信託に関する取扱いを改正することとしている。

 当該改正を行うまでの間の経過措置として、投資信託(受益証券及び投資証券)の時価は、改正前の金融商品実務指針の第62項の取扱いを踏襲し、投資信託の時価は、取引所の終値若しくは気配値又は業界団体が公表する基準価格が存在する場合には当該価格とし、当該価格が存在しない場合には投資信託委託会社が公表する基準価格、ブローカーから入手する評価価格又は情報ベンダーから入手する評価価格とすることができるものとした。

 なお、当該経過措置を適用する場合の投資信託の時価のレベル別開示について、公開草案では便宜的な取扱いを提案していたが、便宜的な取扱いは実務上の混乱を生じるおそれがある等の公開草案に寄せられた意見を踏まえ、当該便宜的な取扱いは削除し、経過措置を適用する場合には時価のレベル別開示を不要としている。なお、当該経過措置を適用した投資信託について、その旨及び貸借対照表計上額を注記する必要がある。

(9)貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価注記に関する経過措置

 前述(7)のとおり、組合等への出資については、時価をもって貸借対照表価額とはしないものの、組合等の財産の持分相当額を純額で出資金(又は有価証券)として計上している場合には、時価の注記が必要であると考えられる。しかし、組合等への出資についても、組合等への出資の時価の算定に関して、時価の算定対象が出資そのものなのか構成要素なのかが不明確であるなどの投資信託と同様の論点が生じ得るとの意見が聞かれたことから、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価注記について経過措置を設け、上記(8)の投資信託の取扱いを改正する際に組合等への出資の時価の取扱いも明らかにすることとし、経過措置を適用する場合には、時価の注記を不要としている。なお、当該経過措置を適用した組合等への出資について、その旨及び貸借対照表計上額を注記する必要がある。



4 開 示

 改正後の企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下「金融商品時価開示適用指針」という。)では、国際的な会計基準との整合性を図ることを目的に、IFRS第13号における開示事項の多くを導入している。

 具体的には、全般的な開示として、時価のレベルごとの残高、時価の算定に用いた評価技法及びインプットの説明の注記が求められている。また、貸借対照表において時価評価される金融商品の時価がレベル3に分類される場合には、これらに加えて、重要な観察できないインプットに関する定量的情報、レベル3の時価に分類される金融資産・負債の期首残高から期末残高への調整表、レベル3の時価についての企業の評価プロセスの説明、観察できないインプットを変化させた場合の時価に対する影響に関する説明の注記が求められている。

 一方で、IFRS第13号では上記の開示項目に加えて、次の項目についても注記を求めているものの、金融商品時価開示適用指針では、財務諸表作成のコストと情報の有用性を比較考量した結果、導入しないこととした。

① レベル1の時価とレベル2の時価との間のすべての振替額及びその振替の理由

② レベル3の時価について観察できないインプットを合理的に考え得る代替的な仮定に変更した場合の定量的影響

 また、期首残高から期末残高への調整表については、作成コストと有用性のバランスの観点から、購入・売却・発行及び決済の額については、これらの純額で記載することも認めている。



5 適用時期等

(1)適用時期


 本会計基準等は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用される。

 なお、早期適用も可能であり、この場合、2020年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から、若しくは、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。

 適用時期については、公開草案に対して、システムの開発やプロセスの整備及び運用までを含めると十分な準備期間が必要であるとの意見や、具体的な実務の運用を検討するためにより時間を要するとの意見が寄せられたことから、公開草案よりも適用時期を遅らせている。

(2)経過措置

 ① 時価算定会計基準及び時価算定適用指針(時価算定のガイダンス)


 時価算定会計基準及び時価算定適用指針が定める新たな会計方針は、将来にわたって適用される。これは、IFRS第13号や米国財務会計基準書(SFAS)第157号「公正価値測定」が原則として将来にわたって適用するとした際の理由(公正価値を測定するために用いた方法の変更は新たな事象の発生又は新たな情報の入手による公正価値測定の変更と不可分であるため、会計上の見積りの変更と同様の取扱いとしたこと)は、本会計基準においても同様であると考えられるためである。

 ただし、時価の算定にあたり観察可能なインプットを最大限利用しなければならない定めなど、時価算定会計基準及び時価算定適用指針の適用に伴い時価を算定するために用いた方法を変更することとなった場合で、当該変更による影響額を分離することができるときは、当該会計方針の変更による影響部分を過去の期間のすべてに遡及適用することができる。

 この場合でも、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金等に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできる。

 ② 金融商品時価開示適用指針(時価開示)

 今回追加された金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する開示項目については、適用初年度の比較情報は不要である。

 なお、金融商品会計基準の改正案を年度末の財務諸表等から適用する場合の適用初年度は、調整表の注記を省略することも可能である。

 ③ その他の会計基準等

 時価算定適用基準の適用に伴い改正された金融商品会計基準等のその他の会計基準等については、新たな会計方針を将来にわたって適用することとされており、時価算定会計基準及び時価算定適用指針のような遡及適用は用意されていない。

 なお、適用初年度には、四半期財務諸表において時価のレベルごとの残高の注記は不要としている。






Ⅳ おわりに




 本会計基準等は、金融機関だけでなくすべての企業に関係するものであり、金融商品の時価の算定について見直しが必要となる可能性がある。また、本会計基準等は時価をどのように算定すべきかを定めるものであり、どのような場合に金融商品を時価で算定すべきかを定めるものではないが、時価の定義を変更したこと等の影響により、一部の金融商品において、例えば、金融商品会計基準における時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券の定めや、JICPAの金融商品実務指針における時価の算定に関連する定めが削除されており、実務上、時価を算定する金融商品の範囲に影響する可能性があることに留意いただきたい。

 なお、本会計基準等に定められた経過措置に関して、投資信託の時価の取扱いについては、本会計基準等の公表後、概ね1年をかけて検討を行うこととしており、また、組合等への出資の時価の注記についての取扱いも投資信託の取扱いを改正する際に明らかにすることとしているため、引き続き、会計基準の開発の動向を注視していただきたい。



脚注

1 本会計基準等の全文については、ASBJのウェブサイト(https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/accounting_standards/y2019/2019-0704.html)を参照のこと。

2 改正金融商品実務指針等の全文については、JICPAのウェブサイト(https://jicpa.or.jp/specialized_field/20190704ejj.html)を参照のこと。





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