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コラム2019年10月07日 未公開判決事例紹介 相続税の節税策めぐる税理士賠償責任事件(2019年10月7日号・№806)




未公開判決事例紹介

相続税の節税策めぐる税理士賠償責任事件

DESによる課税リスクに説明義務違反




 今号4頁掲載の特集で紹介した東京高裁判決の全文について、仮名処理した上で紹介する。



○税理士法人(控訴人)が相続税の節税策として提案したDESにより法人税課税が発生したとして、クライアントの会社(被控訴人)が税理士法人に対し約3億2,900万円の損害賠償を請求していた事件。東京高裁(白石哲裁判長)は、税理士法人に対し全額の支払いを求める判決を下した。税理士法人が提案したDESにより生じ得る課税リスクの説明を怠った点に説明義務違反があったと判断。DESに伴う債務消滅益に係る法人税約3億円などをクライアントの損害と認めた(令和元年8月21日、棄却)。



主  文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。



事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人の請求を棄却する。

第2 事案の概要

1 事案の要旨


(1)本件は、不動産の賃貸及び管理等を目的とする株式会社である被控訴人が、被控訴人と税務顧問契約を締結していた税理士法人である控訴人に対し、①控訴人は、被控訴人に対して約11億円の貸金等債権を有する被控訴人の前代表者A(以下「A」という。)の相続税の節税のため、被控訴人に有利な方法(被控訴人が所有する建物及び車両を現物出資して新会社を設立し、新会社の株式を上記債務の一部に対する代物弁済に充てた上で、上記債務の残部については、被控訴人を解散した後に免除した上で被控訴人を清算する方法)があるのに、その助言指導をせず、デット・エクイティ・スワップ(会社の債権者が債務者である会社に対して有する貸金等債権を会社に現物出資し、債権者が会社の株式の割当を受ける方法。以下「DES」という。)を提案し、その際、当該DESにより被控訴人に多額の債務消滅益が生じ、法人税が課税されるリスクがあることを説明せず、被控訴人がDESを実行したことにより本来支払う必要のなかった法人税等相当額計2億9309万3200円の損害を被り、②控訴人は、税理士法人として被控訴人の税務申告書を作成・提出した際、事実と異なりDESはなかったとする前提の申告をしたため、被控訴人がその後修正申告を余儀なくされ、延滞税等計516万5800円の損害を被り、③控訴人は、役員事前確定届出給与制度(以下「本件届出給与制度」という。)についての助言指導を怠ったために、被控訴人が役員給与についての同制度を利用できず、不要な納税義務が生じ、計85万7200円の損害を被り、④以上の控訴人の不法行為により本件訴訟に係る弁護士費用2991万1620円の支出を余儀なくされたと主張して、税務顧問契約の債務不履行又は不法行為に基づき、上記損害額合計3億2902万7820円及びその内金である上記①、②の小計2億9825万9000円に対する催告の日の翌日である平成25年2月20日から、同じく上記③、④の小計3076万8820円に対する訴状送達の日の翌日である平成25年10月26日から、各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

(2)原審は、被控訴人の上記各請求をいずれも全額認め、控訴人に損害金3億2902万7820円及びうち2億9825万9000円に対する平成25年2月20日から、うち3076万8820円に対する平成25年10月26日から、各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を命じたが、控訴人がこれを不服として控訴を提起した。

2 前提事実

(1)
前提事実は、下記(2)のとおり原判決を補正するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから、これを引用する。

(2)原判決の補正

ア 原判決3頁23行目の「本件債務の残部」から同25行目の末尾までを「本件債務の残部については、被控訴人を解散した後に債務免除を行い、被控訴人の清算を行うという方法」と改める。

イ 原判決6頁5行目の末尾の次に行を改め、以下の一行を加える。

  「(9)被控訴人による更正の請求と更正すべき理由がないとの処分

  被控訴人は、平成29年6月30日、M税務署長に対し、平成25年6月18日付け平成23年5月1日から平成24年4月30日の事業年度における法人税修正申告書における所得の金額の計算において、現物出資に伴い払い込まれた自己宛債権(券面額9億9000万円)の価額と券面額の差額として益金の額に算入した債務消滅益の額6億2720万円について、当該債権の時価評価額を本来9億9000万円と評価すべきところ、3億6280万円と評価したことにより過大に益金の額に算入されていたとして更正の請求を行ったが、M税務署長は、平成29年12月25日、被控訴人に対し、当該債権の時価評価額に誤りがあったとまでは認められないとして、更正をすべき理由がない旨の処分をし、その旨の通知書を送付した。」

第3 争点及びこれに関する当事者の主張

1
 争点及びこれに関する当事者の主張は、下記2のとおり原判決を補正し、下記3のとおり当審における当事者の主張を付加するはか、原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。

2 原判決の補正

(1)原判決6頁7行目の冒頭から末尾までを「(1)控訴人の助言指導義務違反及び説明義務違反の有無(争点1)」と改める。

(2)原判決6頁9行目の「被告は、」の次に「被控訴人が清算方式を採用した場合には被控訴人に法人税が課されず、Aの相続税も生じないこととなるにもかかわらず、その方法を採用することについての助言指導をしなかった。さらに、控訴人は、本件DESの採用を勧め、その際、」を加える。

3 当審における当事者の主張

(1)清算方式とDES方式の課税関係について


ア 控訴人

(ア)清算方式の課税関係

  控訴人における平成23年6月当時の被控訴人担当者であるH(以下「H」という。)が、同月14日に被控訴人に示した清算方式(被控訴人が不動産等を現物出資して新会社を設立し、新会社の株式を本件債務の一部に対する代物弁済にあてた上で、被控訴人を解散、清算する方式。Aによる債務免除を含まない。)や本件訴訟において被控訴人が主張する債務免除を伴う清算方式(被控訴人が不動産等を現物出資して新会社を設立し、新会社の株式を本件債務の一部に対する代物弁済にあてた上で、被控訴人を解散し、その後、本件債務の残部についてAが被控訴人に対して債務免除をした上で被控訴人を清算する方法)を採用した場合、Aの相続開始前に法人が消滅に至り本件債権が消滅すれば相続税が課税されることはないし(Hの示した清算方式においては、法人の消滅の前に相続が開始した場合、相続税の課税がされることとなる。)、法人税についても清算事業年度の課税はないこととなる。

  しかし、いずれの清算方式によっても、被控訴人が所有しBに賃貸する◯◯◯◯◯◯◯◯◯所在の建物部分(以下「B賃借建物」という。)を新会社に現物出資することにより、被控訴人の解散事業年度にB賃借建物の時価評価額4億6392万7273円と簿価4860万4767円の差額である4億1532万2506円の譲渡益が生じ、1億9134万6389円の法人税等が課税がされることとなる。

  B賃借建物の評価額については、本件修正申告の際にS税理士法人が収益還元法により4億6392万7273円と評価しており(甲58)、被控訴人が所有するB賃借建物の敷地利用権(借地権)について、同建物の敷地の無償返還の届出書(甲46)が提出されているものの、同届出書が提出された場合に借地権の譲渡益を認定計算すべきでないとの通達は、土地が譲渡された場合や返還された場合の課税関係(出口課税)を画するもので、現物出資の際に当てはまるものではない。

(イ)本件DESによる課税関係

  本件DESを採用した場合、Aの相続による相続税は課税されないこととなるし、被控訴人の法人税についても、本件債権を9億9000万円と評価すれば、課税がされないこととなる。すなわち、被控訴人が現物出資を受けた自己宛債権の時価の評価方法については、法人税法による定められた取扱いはないが、本件債権の回収可能性や被控訴人の資産が本件債権の返済原資として十分であること、返済実績、将来の返済可能性、被控訴人の関係者も本件債権を時価9億9000万円と評価していることによれば、本件債権の評価額を券面額と同じく9億9000万円として申告することは可能であり、そのような申告を税務当局が否認することは困難であった。その場合、本件債権の現物出資により被控訴人に債務消滅益は生じず、本件DESによって法人税課税はない。

  M税務署長は、平成29年12月25日付けで、被控訴人の本件債権の評価額を9億9000万円とする更正の請求につき、更正をすべき理由がない旨の処分を行っているが、これは更正の請求に当たり、被控訴人が十分な資料を提出しなかったことによるものであり、上記処分が直ちに本件債権の評価額が3億6280万円であることを意味するものではない。

イ 被控訴人

(ア)清算方式の課税関係

  被控訴人が所有するB賃借建物の敷地(A所有)の利用については、M税務署長に対し「土地の無償返還に関する届出書」が提出されているから、同建物の評価に当たっては借地権の価額を考慮する必要はなく、建物のみの価額をもって時価とすべきであって、せいぜい帳簿価格の4860万4767円と評価するのが相当である。そうすると、被控訴人の解散事業年度にも法人税が課税されることはない。

(イ)本件DESによる課税関係

  控訴人は、本件DES実行時はもちろん、本件確定申告の時期に至っても本件債権の時価評価を行っていなかったのであり、単に平成18年改正により本件債権を時価評価する必要があることを認識していなかったにすぎないのであって、当審に至り突如として時価評価の方法について主張をしているにすぎない。

  本件修正申告を担当したC税理士は、被控訴人の財政状況等を考慮し、不動産からの収入又はその処分収入しか返済原資が見込めないとして、所有不動産であるB賃借建物の価値を収益還元法により算定して本件債権の時価評価を行ったものであり、本件修正申告に用いた評価額は相当である。本件債権は、単なる利息軽減のためのものではなく、被控訴人が資金繰りに窮し、被控訴人の金融機関からの借入れをAからの借入れに切り換えたことにより発生したものであるし、被控訴人のB賃借建物からの賃料収入によっても本件債権についての十分な弁済はできないし、被控訴人の所有するB賃借建物には、J信用金庫の抵当権が設定されているのであり、券面額を評価額とすることには無理がある。

  よって、本件債権を3億6280万円とした評価(甲58)は正当であって、本件DESによっても法人税が課税されないとの控訴人の主張は認められない。

  本件債権の評価額は、課税庁が判断した額をもって評価するのが相当であり、本件債権額を券面額の9億9000万円とする被控訴人の更正の請求が認められず、3億6280万円とする評価額が適正な評価額であるとする処分がされている以上、本件債権の評価額は3億6280万円として税額を計算すべきである。

(2)控訴人が提示した清算方式について 

ア 控訴人

  Hは、平成23年6月14日にAらに対して本件提案書1(甲5)を示して相続税対策の提案をしたが、その際示した方式は、被控訴人が不動産等を現物出資して新会社を設立した後に被控訴人を解散、清算する方式であり、Aによる債務免除を含むものではなかった。

  控訴人は、原審において、Hが示した方式は、被控訴人を清算し、本件債権を免除するという方法であると主張し、被控訴人はこれを認めるとしていたが、Hが示した方式は上記のとおりであり、控訴人の原審での主張は、真実に反し、錯誤による主張であり、上記の自白を撤回する。

イ 被控訴人

(ア)控訴人は、本件訴訟の当初から、Hが本件提案書1を提示して被控訴人を清算して、本件債権を免除するという方法が効果的であるとの助言をした旨主張しており、甲5のメリット部分には被控訴人による債務免除を前提とした記載もあるのであり、Hは、原審で控訴人が主張していたとおりの説明をしていたことは明らかである。

(イ)上記例によれば、自白の撤回も認められないというべきである。

(3)争点1(控訴人の助言指導義務違反及び説明義務違反の有無)

ア 控訴人

(ア)被控訴人が主張する被控訴人の解散後にAが債務免除を行う清算方式は、本件訴訟が提起された後に被控訴人が主張し始めたもので、債務免除を伴う点においてHが提案した清算方式とは異なり、当時、全く検討されていなかった方式であり、控訴人がそのような方式を自ら説明する義務を負うものではない。

  また、被控訴人の主張する清算方式は、被控訴人の解散を偽装する方法であり、そのような租税回避行為に該当したり、不当又は不自然な行為により課税を免れたりする行為について、税理士である控訴人は助言指導義務を負わない。

(イ)そもそも本件DESにより法人税の課税がされない以上、法人税が課税される旨の説明をする義務はない。

(ウ)控訴人は、被控訴人に本件DESを提案した際、本件DESの実行により債務消滅益が発生し、課税を指摘される可能性を指摘した上で、その場合でも税額は法人税3億円程度であると説明するとともに、6億円程度が想定される相続税を回避するための方策として本件DES方式を説明して、課税上最も有利な本件DES方式を指導したものであり、控訴人に説明義務違反はない。

イ 被控訴人

(ア)そもそも、控訴人は、被控訴人の顧問税理士であったのであるから、税務の専門家として、租税関係法令に適合した範囲内で、被控訴人にとって最も有利な方法がいかなるものかを検討し、その場合の税額がいくらとなるかを算定すべきであり、被控訴人が主張する清算方式により相続税や法人税を軽減することが可能である以上、その方式による助言指導する義務がある。

  Hは、上記(2)イ(ア)のとおり解散後に債務免除を行う清算方式の説明をしており、控訴人は、当審に至り、突如としてHが債務免除を伴わない清算方式を提案したなどと主張し始めたにすぎないのであり、控訴人が清算方式について説明する義務がないとの控訴人の主張は失当である。

  被控訴人が主張する清算方式は、一般的に広く認められている方法であり、租税回避行為として否認される可能性も低く、不自然・不当な方法でもないから、控訴人は被控訴人の主張する清算方式での助言指導をする義務を負う。

(イ)本件DESによれば、本件修正申告のとおりの課税がされるのであり、控訴人にはその旨の説明をする義務があることは明らかである。

(ウ)控訴人は、被控訴人に対して、本件DESにより法人税が課税される可能性について一切説明していない。控訴人が主張するような多額の法人税の負担が発生することが説明されていたのであれば、被控訴人が本件DESを行うはずがない。

  仮に、控訴人により債務消滅益に課税がされる可能性があるとの説明がされていたとしても、その説明は可能性を指摘するものにとどまり、全体としてみれば債務消滅益に対する課税は回避できる趣旨となっていたのであるから、リスクの説明としては不十分なものといわざるを得ない。

(4)争点2(本件確定申告を行ったことが控訴人の義務違反行為といえるか)

ア 控訴人

  控訴人が税務代理人として行った本件確定申告は、本件DESと減資を前提としない申告であったが、本件DESによっても債務消滅益はないのであり、本件修正申告は必要なく、確定申告書の別表の訂正を行えば足りたのであり、控訴人の本件確定申告には何らの義務違反はない。

イ 被控訴人

  控訴人が行った本件確定申告は、現実に行われていた本件DES及び減資を前提としない事実と異なる申告であるし、上記(1)イ(イ)の本件DESの課税関係によれば、それにより本件修正申告を余儀なくされるものであったのであるから、本件確定申告は顧問税理士としての義務に違反するものである。

(5)争点3(控訴人が本件届出給与制度について助言指導すべき義務を怠ったか)

ア 控訴人

(ア)事前確定届出給与を損金に算入するためには、予め株主総会等の決議をもって支給時期、支給金額を定める必要があり、その届出を行うか否かの判断は、当該会社が行うものである。現に被控訴人は平成19年から平成23年までは同制度を利用していたのであり、控訴人に、被控訴人が制度を採用するよう助言指導する義務はない。

(イ)また、被控訴人は、平成23年6月の株主総会でも、事前確定給与届出に必要な事項の決議をしておらず、届出をしても損金算入は認められないから、損金不算入による損失と控訴人が助言指導を行わなかったことに因果関係は存在しない。

イ 被控訴人

(ア)控訴人は、被控訴人の顧問税理士の立場にあり、本件事業年度(平成23年5月1日から平成24年4月30日まで)の前の事業年度までは被控訴人の利用意思の有無を確認し、控訴人が手続を採ることによって本件届出給与制度を利用して役員給与の損金処理を行ってきたものであるから、本件事業年度においても被控訴人に同制度を採用するよう助言指導する義務を負っていることは明らかである。仮に、控訴人が述べるように同制度を採用するか否かが経営判断であるとしても、控訴人は、税務の専門家としては、依頼者が経営判断を行う前提として選択肢があることを示し、自己決定の機会を与える義務があるが、そのような説明をしていないのであり、義務違反があることは明らかである。

(イ)被控訴人は、平成24年4月期においてもHと相談の上、取締役会及び株主総会で同制度の利用に必要な支給額及び支給日を決めており、本件事業年度に関しては、Hの退職時に次の担当者への引継ぎがなされず、控訴人が届出を失念したにすぎない。

(6)争点4(被控訴人の損害及び因果関係)

ア 控訴人

(ア)仮に控訴人が本件DESによる債務消滅益に課税される法人税が約3億円であると説明していたとしても、Hがその前に提案した清算方式は被控訴人の解散にとどまり、Aによる債務免除の実行は想定されていなかったのであり、Aの死亡までに清算結了に至らない限り相続税の節税に有効ではなかったのであるから、被控訴人がHの提案した清算方式を採用したことはないと考えられ、仮に控訴人に助言指導義務違反や説明義務違反があるとしても、本件DESにより発生した債務免除益に対して被控訴人がされた法人税の課税との間に相当因果関係はない。

  また、仮に控訴人が本件DESによる債務消滅益に課税される法人税が約3億円であると説明していたとしても、H提案の清算方式では、結局、法人税課税はされるのであり、他方、被控訴人の解散や生産を行うと、安定した経営を放棄することとなり、煩雑な手続きや作業が発生し、破産手続を行う可能性があるなどのデメリットもあるのであって、被控訴人が控訴人の説明にもかかわらず本件DESを採用した可能性は十分に存在するのである。また、Aは、自己が設立した被控訴人を消滅させる清算方式を採用したくない旨を述べていたのであり、仮に控訴人に助言指導義務違反や説明義務違反があるとしても、本件DESによって被控訴人に課税された法人税等相当額との間に相当因果関係はない。

(イ)清算方式を採用した場合には、解散決議の前に①B貸借不動産の不動産鑑定、②鑑定結果を踏まえた現物出資額の決定、③新会社の現物出資による設立という手順を取り、被控訴人主張の方式ではその後Aによる債務免除がされることになるが、控訴人が本件DESを提案したのは平成23年7月であり、その時に被控訴人が上記清算方式に着手したとしても、途中でAが死亡した(平成23年11月28日死亡)可能性が高い。

(ウ)a 法人税等相当額は、本件DESにより法人税課税がないにもかかわらず、被控訴人が不要な修正申告をした結果生じた損失であり、控訴人が本件DESを指導したことによる損害ではない。

   また、被控訴人が、本件DESと減資を前提とし、本件債権につき券面額を時価と評価して更正の請求を行えば、法人税の還付がされ法人税額等相当額の取戻しが可能なのであるから、被控訴人の法人税等相当額が確定した損害であるとするのは誤りである。

 b 被控訴人の増減資の登記等費用相当額は、被控訴人の判断によりされた増減資に伴う費用であるから、その登記等の費用相当額を控訴人が賠償する理由はない。

 c 本件修正申告に伴う延滞税、延滞金、修正申告税理士費用は、本来申告書の訂正で足りたところを、被控訴人の判断で修正申告を行ったことによる費用であるから、本件修正申告に伴う延滞税、延滞金、修正申告税理士費用も控訴人の義務違反に基づく損害ではない。

イ 被控訴人

(ア)控訴人主張の清算方式によってもH提案の清算方式によっても、法人税は課税されない。また、新会社においても、被控訴人と同様に不動産管理業を行うものであるから、その経営を安定することはできる上、Aの相続税課税のリスクは差し迫っており、被控訴人の解散・清算により煩瑣な手続や作業が発生しても清算方式を選択したことは明らかであるし、被控訴人の債務は大半がAに対するものであるから、被控訴人が破産手続に至る可能性もほとんどないのであって、控訴人が助言指導義務や説明義務を尽くせば被控訴人において清算方式を採用したことは明らかである。

  Aが清算方式を採用したくないと述べてはいたが、それは、控訴人が本件DESを実行した場合に法人税が課税されることを説明していなかったからにほかならず、上記の事情が被控訴人が清算方式を採用しなかった理由とはならない。

(イ)被控訴人は同族会社であり、解散決議やそれに続くAによる債務免除は一日で行える手続であり、清算方式は、Aの寿命との関係でも十分に採用できる方式であったといえる。

(ウ)a 上記(1)イ(イ)のとおり、本件DESにより債務消滅益が発生するのであり、修正申告により生じた損害は、控訴人の助言指導義務違反や説明義務違反による損害である。

 b 被控訴人は、当審の係属中に控訴人から提案された内容で本件債権の評価額についての更正請求を行ったが、M税務署長から更正すべき理由がないとの処分がされたのであり、更正請求が可能であるから損害がないとの控訴人の主張は失当である。

 c 本件DESにより債務消滅益が消滅する以上、修正申告は不可欠なものであり、本件修正申告に伴う延滞税、延滞金、修正申告税理士費用は、控訴人の助言指導義務違反や説明義務違反による損害に当たる。

(7)権利濫用

ア 控訴人

  被控訴人は、本件DESの実施によって法人税課税を受けているものの、他方でA相続人はAの相続税課税を免れる利益を得ており、本件で被控訴人が請求する損害を上回る利益を得ているのであるから、被控訴人による損害賠償請求は、権利濫用により許されないというべきである。

イ 被控訴人

  争う。

第4 当裁判所の判断

1
 当裁判所も、控訴人に対して、税務顧問契約の債務不履行又は不法行為に基づき損害金3億2902万7820円及びうち2億9825万9000円に対する催告の日の翌日である平成25年2月20日から、同じく3076万8820円に対する訴状送達の日の翌日である平成25年10月26日から、各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を命じるのが相当であると判断する。

2 清算方式とDES方式の課税関係について

(1)
清算方式とDES方式の課税関係については、下記(2)のとおり原判決を補正し、下記(3)のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第3の1のとおりであるからこれを引用する。

(2)原判決の補正

ア 原判決10頁15行目の「このこと」から同16行目の末尾までを削る。

イ 原判決11頁26行目の「券面学説」を「券面額説」と改める。

ウ 原判決12頁8行目の「法人が」の次に「債権の」を加える。

エ 原判決13頁4行目の末尾の次に行を改め次の一行を加える。

  「本件においても、本件DESによりAが被控訴人に本件債権を現物出資し、被控訴人がこれを券面額で受け入れ、本件債権の時価が券面額を下回るものと評価された場合、被控訴人に債務消滅益が生じ、被控訴人に法人税が課税されることとなるのである。」

(3)当審における当事者の主張に対する判断

ア 清算方式の課税関係

  控訴人は、Hの示した清算方式、被控訴人が主張する債務免除を伴う清算方式のいずれによっても、被控訴人がB賃借建物を新会社に現物出資することにより、被控訴人の解散事業年度にB貸借建物の時価評価額4億6392万7273円と簿価4860万4767円の差額である4億1532万2506円の譲渡益が生じ、1億9134万6389円の法人税等が課税されることとなると主張する。

  確かに、被控訴人がB賃借建物を新会社に現物出資した場合、同建物を簿価ではなく時価により評価し、所得金額を計算することとなる。しかし、Aは、平成19年7月19日にM税務署長に対し、B賃借建物の敷地を同建物の所有者である被控訴人に使用させることにつき「土地の無償返還に関する届出書」(甲46)を提出している。同届出書は、土地所有者が借地人等に土地を使用させる場合に、将来借地人等から土地を無償で返還すると定めた場合に提出されるもので、この届出を行った場合には、権利金の認定課税は行われないこととなり(法人税基本通達13-1-7及び14、甲64、65)、法人が借地上の建物を借地権の価額を含めずに譲渡した場合も、それが正常な取引として認められることとなる(乙57。控訴人は、上記通達がいわゆる出口課税に関するものであって、被控訴人が新会社に現物出資する際には適用されない旨主張するが、被控訴人による現物出資は、被控訴人による新会社への譲渡であり、まさに上記通達が適用される出口課税の一場面である。)。そうすると、被控訴人の解散事業年度における法人税の課税に当たり、借地権の存在を前提とした評価を行うことは相当ではない。

  そして、本件修正申告を行ったS税理士法人が修正申告に当たりM税務署に提出した説明文書(甲58)には、B賃借建物について、収益還元法による4億6392万7273円との評価額が挙げられてはいるものの、それはあくまでも被控訴人の本件債権の弁済能力の査定のための評価であり、被控訴人の最大の弁済能力により本件債権の査定をするために収益還元法により査定を行ったものと解され、上記の届出書に記載された定めの内容によれば、B賃借建物については第三者への譲渡可能な物件とは認められないのであって、時価として正常価格を算定するに当たっては、そのような敷地利用権の制限を考慮せざるを得ないのであり、収益還元法でその時価を評価することは相当とはいえない。そして、借地権を考慮しない場合、昭和55年新築建物(乙10)であるB賃借建物が簿価である4860万4767円(甲27)を上回る時価を有するとは認められず、控訴人の上記主張は採用し得ないこととなる。

イ 本件DESの課税関係

  控訴人は、本件債権の回収可能性や被控訴人の資産が本件債権の返済原資として十分であること、返済実績、将来の返済可能性、被控訴人の関係者も本件債権を時価9億9000万円と評価していることによれば、本件債権の評価額を券面額と同じく9億9000万円として申告することは可能であり、そのような申告を税務当局が否認することは困難であったと主張する。

  しかし、債権の時価評価の方法について、法人税法上、法定された方法がないのは控訴人も述べるとおりであり、被控訴人は、本件修正申告に当たり現物出資を受けた本件債権について収益還元法により3億6280万円と評価したものである(甲58)。そして、平成29年12月25日にM税務署長がした更正をすべき理由がない旨の処分(甲90)により、上記の本件債権の評価に基づく修正申告書について、誤りがあったとは認められないとして課税関係が確定しているところ、被控訴人は、平成29年6月30日に行った更正の請求に当たり、控訴人の意見や本件訴訟での主張を要約した書面も提出しているのであって(甲91)、結局、本件債権の課税上の評価は上記金額で確定しているものというほかなく、控訴人の主張は採用し得ない。

3 認定事実について

(1)
認定事実については、下記(2)のとおり原判決を補正し、下記(3)のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第3の2のとおりであるからこれを引用する。

(2)原判決の補正

ア 原判決14頁8行目から9行目にかけての「H(以下「H」という。)」を「H」と改める。

イ 原判決15頁18行目の「平成23年6月頃」の前に「上記清算方式の説明がされてから間もない時期の」を加える。

(3)当審における当事者の主張に対する判断

 控訴人は、Hが提示した清算方式は、被控訴人が不動産等を現物出資して新会社を設立した後に被控訴人を解散・清算する方式であり、Aによる債務免除を含む方式ではなかった旨主張する。

 しかし、控訴人は、原審において、Hが説明した方法について本件提案書1(甲5)を摘示しつつ、「原告を清算し、本件債権を免除するという方法」(原審における控訴人準備書面1の5頁、同控訴人準備書面5の1頁)であったと主張し、控訴人代表者は陳述書(乙3)にも同様の記載をして、本件提案書1(甲5)を引用しているのであるし、本件提案書1のメリットの欄にも「(株)X(被控訴人)が債務免除を受けると収益となりますが」と記載され、被控訴人がAから債務免除を受けることを想定した内容となっている(控訴人は、この記載を債務免除をせずとも債務を消滅させることができるとの趣旨であると主張するが、債務免除を伴わないのであれば、このような記載をする必要はなく、あえて債務免除について言及されているのであるから、債務免除も方式の一部を構成する趣旨と解するのが相当である。)のであって、控訴人の主張は採用し得ない。

 なお、控訴人は、当審に至り、Hの印鑑登録証明書(乙17の2)が添付された同人作成の陳述書(乙17の1)を提出したところ、同陳述書には、Hが被控訴人に対して上記の控訴人の上記主張の方式(Aによる債務免除を含まない方式)を説明した旨が記載されている。

 しかし、同陳述書には、Hが被控訴人代表者らに行った説明の詳細が具体的に記載されているわけではないし、同陳述書の内容を基礎付ける客観的な証拠はなく、むしろ、その記載内容は、被控訴人がAから債務免除を受けることを想定した内容となっている本件提案書1(甲5)と整合しないものというほかなく、同陳述書により上記の認定が左右されることはない。

4 争点1(控訴人の助言指導義務違反及び説明義務違反の有無)について

(1)
争点1(控訴人の助言指導義務違反及び説明義務違反の有無)については、下記(2)のとおり原判決を補正し、下記(3)のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第3の3のとおりであるからこれを引用する。

(2)原判決の補正

ア 原判決19頁1行目の「原告に対し、」の次に「被控訴人の顧問税理士として、租税関係法令に適合した範囲内で、被控訴人にとって課税上最も有利となる方法を検討して、その方法を採用するように助言指導する義務を負っているのであり、また、」を加え、同4行目の「具体的な説明をすべき義務があった」を「具体的な説明をし、法人税及び相続税の課税負担を少なくし、より節税の効果が得られる清算方式を採用するよう助言指導する義務があった」と改める。

イ 原判決19頁14行目の「説明義務違反」の前に「助言指導義務違反及び」を加える。

ウ 原判決20頁16行目の「説明しなかった」を「説明をしなかった上、本件清算方式について助言指導を行うことなく、本件DESを採用することを勧めた」と改める。

エ 原判決21頁2行目の「被告代表者らは」の次に「、本件清算方式を採用するように助言指導する義務を怠り、また、」を加える。

(3)当審における当事者の主張に対する判断

ア 控訴人は、被控訴人が主張する被控訴人の解散後に債務免除を行う清算方式は、本件訴訟が提起された後に被控訴人が主張し始めたもので、債務免除を伴う点においてHが提案した清算方式とは異なり、当時、全く検討されていなかった方式であり、控訴人がそのような方式を自ら説明する義務を負うものではないと主張し、また、控訴人は、被控訴人の主張する清算方式について、被控訴人の解散を偽装する方法であり、そのような租税回避行為に該当したり、不当又は不自然な行為により課税を免れたりする行為について、税理士である控訴人は助言指導したり、説明したり義務を負わない旨主張する。

  しかし、Hが当初自ら債務免除を前提とする被控訴人にとって有利な清算方式を提案したのは上記3(3)のとおりなのであるから、当該清算方式は本件訴訟の提起後に被控訴人が主張し始めたものであるとの控訴人の主張は失当なものである。そして、当該清算方式は、Hが自ら提案を行っている方式なのであるから、これが不適切なもので、控訴人において当該清算方式について助言指導したり、説明したりする義務を負わないとする控訴人の主張を採用することはできない(また、当該清算方式が法律上許容されない違法なものであるとまで認めるに足りる証拠はない。)。

イ 控訴人は、本件DESにより法人税の課税がされない以上、法人税が課税される旨の説明をする義務はない旨主張するが、この点は、上記2(3)イのとおり、本件DESによって発生した債務消滅益について法人税が課税されることが確定しているのであるから、控訴人の主張は失当である。

ウ また、控訴人は、被控訴人に本件DESを提案した際、本件DESの実行により債務消滅益が発生し、課税を指摘される可能性を指摘した上で、その場合でも税額は法人税3億円程度であると説明するとともに、6億円程度が想定される相続税を回避するための方策として本件DES方式を説明しており、被控訴人にとって最も有利な方法として本件DESを説明したものであるから、控訴人には、助言指導義務違反や説明義務違反はない旨主張する。

  しかし、控訴人による本件DESの説明は、平成23年6月14日にHが清算方式の説明をした後の平成23年7月13日に行われ、その際、説明を行った控訴人代表者ら(Hは平成23年6月頃に控訴人を退社している。)は、本件提案書2(甲6)を示して説明を行ったところ、本件提案書2には、本件DESにより法人税が課される旨は一切記載されていない上、「現物出資(本件DESを指す。)がA様にとって最も有利と考えられます」と記載されている。そして、平成23年6月14日にHが示した本件提案書1には「法人を解散(清算)することで税額はなく」また「相続税の課税はうけません」と記載され、法人税も相続税も生じないことを前提としており、このような記載やそれにもかかわらずAらが本件DESを選択したことに照らせば、本件提案書2を示した控訴人代表者らの提案に際して、法人税が3億円程度生じる可能性がある旨の説明がされたとは到底考えられず、控訴人の主張は採用し得ない。

5 争点2(本件確定申告を行ったことが控訴人の義務違反行為といえるか)について

(1)
争点2(本件確定申告を行ったことが控訴人の義務違反行為といえるか)については、下記(2)のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第3の4のとおりであるからこれを引用する。

(2)当審における当事者の主張に対する判断

  控訴人は、控訴人が税務代理人として行った本件確定申告は、本件DESと減資を前提としない申告であったが、本件DESによっても債務消滅益は発生しないのであり、本件修正申告は必要なく、確定申告書の別表の訂正を行えば足りたのであり、控訴人の本件確定申告には何らの義務違反はないと主張する。

  しかし、控訴人は、被控訴人と税務顧問契約を締結した税務の専門家なのであるから、事実に即した内容での申告を行う義務があることは当然であり、にもかかわらず、事実に反して本件DESを前提としない確定申告を行ったこと自体、顧問契約上の義務を果たしていないものといわざるを得ないし、本件DESによって法人税が課税されることが避けられず、被控訴人としては単なる訂正にとどまらず修正申告を行わざるを得なかったのであるから、控訴人による本件確定申告が顧問税理士としての義務に違反したものであることは明らかであり、控訴人の上記主張は採用し得ない。

6 争点3(控訴人が本件届出給与制度について助言指導すべき義務を怠ったか)について

(1)
争点3(控訴人が本件届出給与制度について助言指導すべき義務を怠ったか)については、下記(2)のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第3の5のとおりであるからこれを引用する。

(2)当裁判所における当事者の主張に対する判断

ア 控訴人は、事前確定届出給与を損金に算入するためには、予め株主総会等の決議をもって支給時期、支給金額を定める必要があるから、届出を行うか否かの判断は、当該会社が行うものである、現に被控訴人は平成19年から平成23年までは同制度を利用していたのであり、控訴人に、被控訴人が制度を採用するよう助言指導する義務はないと主張する。

  しかし、この点については、税務の専門家である控訴人において、被控訴人から積極的に本件届出給与制度を利用する意思を伝えられず、明示的に問い合わせや相談を受けていない場合であっても、被控訴人が本件届出給与制度を利用する機会を失することがないように、被控訴人に対し同制度の利用意思の有無について確認し、または同制度の利用に関する注意喚起等を行うなどの助言指導をすべき義務を負っていることは、上記引用に係る原判決の「事実及び理由」の第3の5(2)のとおりであって、控訴人の上記主張は採用し得ない。

イ また、控訴人は、被控訴人は、平成23年6月の株主総会でも、事前確定給与届出に必要な事項の決議をしておらず、届出をしても損金算入は認められないから、損金不算入による損失と控訴人が助言指導を行わなかったことに因果関係は存在しないと主張する。

  しかし、被控訴人が、平成23年6月に開催された株主総会及び取締役会の決議で、本件事業年度の役員給与支給額等を確定させ、控訴人も、同年度の被控訴人の株主総会の議事録の写しを徴求したことは、上記引用に係る原判決の「事実及び理由」の第3の5(1)のとおりであって、控訴人の上記主張は採用し得ない。

7 争点4(被控訴人の損害及び因果関係)について

(1)
争点4(被控訴人の損害及び因果関係)については、下記(2)のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第3の6のとおりであるからこれを引用する。

(2)当審における当事者の主張に対する判断

ア(ア)控訴人は、仮に控訴人が本件DESによる債務消滅益に対する法人税が約3億円であると説明していたとしても、Hがその前に提案した清算方式は被控訴人の解散にとどまり、Aによる債務免除の実行は想定されていなかったのであり、Aの死亡までに被控訴人の清算結了に至らない限り相続税の節税に有効ではなかったのであるから、被控訴人がHの提案した清算方式を採用したことはないと考えられ、仮に控訴人に助言指導義務違反や説明義務違反があるとしても、当該義務違反と本件DESにより発生した債務消滅益に対して被控訴人がされた法人税の課税との間に相当因果関係はないと主張し、また、H提案の清算方式でも法人税課税はされるのであり、他方、被控訴人の解散や清算を行うと、安定した経営を放棄することとなり、煩雑な手続きや作業が発生し、破産手続を行う可能性があるなどのデメリットもあるのであって、控訴人が清算方式を説明していたとしても被控訴人が本件DESを採用した可能性は十分に存在すると主張する。さらに、控訴人は、Aは清算方式を採用したくない旨を述べていたのであり、仮に控訴人に助言指導義務違反や説明義務違反があるとしても、当該義務違反と本件DESによって発生した債務消滅益に対して被控訴人がされた法人税の課税との間に相当因果関係はないと主張する。

  しかし、上記3(3)のとおり、Hは、被控訴人に対してAの被控訴人に対する債務免除を含む清算方式の説明をしているし、上記引用に係る原判決の「事実及び理由」の第3の6(1)ア及びイのとおり、控訴人が本件DESによって債務消滅益が発生することを正しく説明していれば、被控訴人は、2億9000万円の課税を避けるため、多少のデメリットがあっても清算方式を採用したものと推認できるのであり、控訴人の上記主張は採用し得ない。

(イ)また、控訴人は、清算方式を採用した場合には、解散決議の前に①B貸借不動産の不動産鑑定、②鑑定結果を踏まえた現物出資額の決定、③新会社の現物出資による設立という手順を取り、その後にAによる債務免除がされることになるが、控訴人が本件DESを提案したのは平成23年7月であり、その時に清算方式に着手したとしても、途中でAが死亡した(平成23年11月28日死亡)可能性が高いと主張する。

  しかし、上記の控訴人の主張を前提としても、Aの死亡までには4か月の期間があったのであり、同族会社である被控訴人がその間に清算方式を完了することができなかったと認めるに足りる証拠はなく、控訴人の上記主張は採用し得ない。

イ(ア)控訴人は、被控訴人が主張する法人税等相当額は、本件DESにより法人税課税がないにもかかわらず、被控訴人が不要な修正申告をした結果生じた損失であり、控訴人が本件DESを指導したことによる損害ではないと主張する。

  しかし、本件DESにより法人税の課税が避けられないものであることは、上記2(3)イのとおりであり、控訴人の上記主張は採用し得ない。

(イ)控訴人は、増減資の登記等費用相当額は、被控訴人の判断によりされた増減資に伴う費用であるから、その登記等の費用相当額を控訴人が賠償する理由はないと主張する。

  しかし、控訴人が助言指導義務や説明義務を果たしていれば、被控訴人は、本件DESを行っていなかった蓋然性が高いのであって、本件DESに伴って必要となった増資及び減資の諸費用を支出することもなかったと認められるのであり、上記費用は控訴人の義務違反による損害であると認められる。

(ウ)控訴人は、本件修正申告に伴う延滞税、延滞金、修正申告税理士費用は、本来申告書の訂正で足りたところを、被控訴人の判断で修正申告を行ったことによる費用であるから、本件修正申告に伴う延滞税、延滞金、修正申告税理士費用も損害ではないと主張する。

  しかし、上記のとおり本件DESにより法人税の課税が避けられない以上、本件修正申告も不可欠なものというほかなく、本件修正申告に伴う被控訴人の上記支出が控訴人の助言指導義務や説明義務違反によって発生した損害に当たることは明らかである。

8 争点5(損益相殺の可否)について

 争点5(損益相殺の可否)については、原判決の「事実及び理由」の第3の7のとおりであるからこれを引用する。

9 権利濫用

 控訴人は、被控訴人は、本件DESの実施によって法人税課税を受けているものの、他方でA相続人はAの相続税課税を免れる利益を得ており、本件で被控訴人が請求する損害を上回る利益を得ているのであるから、被控訴人による損害賠償請求は、権利濫用により許されないと主張する。

 しかし、本件で、被控訴人は、税務の専門家である控訴人に対して、各種の取るべき方策のうち、最も有利な方策(清算方式)を採るよう助言指導したり、各種の方策のメリット・デメリットを説明することを怠った結果として生じた最も有利な方策によった場合の負担と現実に取った方策(本件DES)による負担との差額を損害として請求しているものである。すなわち、控訴人は、被控訴人の顧問税理士として、当時の被控訴人の代表者であるAの相続の際の相続税対策の相談を受け、Hが法人税及び相続税の負担が最も少ない方法として清算方式を提示しているのであり、被控訴人はもとより控訴人においてもAの相続人らが相続税の課税を受けず、被控訴人が法人税の課税を受けないことも念頭に置いていたというべきである。よって、被控訴人が、A相続人が相続税課税を免れた上、法人税が生じなかったことを前提にしつつ、控訴人に対して損害賠償請求を行うことは、権利濫用に該当するものではないというべきである。

第5 結論

 以上によれば、被控訴人の本件請求には理由があり、原判決は相当であるから、控訴人の控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。





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