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解説記事2019年10月14日 ニュース特集 課税当局の重加賦課姿勢に変化(2019年10月14日号・№807)

ニュース特集
積極的行為・特段の行動ない場合も賦課リスク
課税当局の重加賦課姿勢に変化


 課税当局の所得税に係る重加算税賦課のスタンスに変化が生じている。決算書等の虚偽記載事案において事務運営指針に例示されている仮装又は隠蔽の事実(行為)や「過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動」の認定に至らない場合でも、過去の裁決例に基づく重加算税賦課を視野に入れているもようだ。本特集では、新たな課税当局の資料から、重加算税に係る事務運営指針、最高裁平成6年・平成7年判決、裁決例の位置付けなどを確認する。

意図的な集計違算などが認定できるか

 重加算税の賦課には、「隠蔽又は仮装」の事実(行為)の認定が必要だ。申告所得税等の重加算税に係る事務運営指針は、隠蔽又は仮装の具体的な行為について例示・列挙しており、課税当局においては、まず調査で把握した事実が事務運営指針に当てはまるか否かにより隠蔽又は仮装の認定を行うこととなる。
 この点、課税当局は、例えば、①特定の取引先からの収入金額を帳簿に記載していなかった、②収入金額を計算するに当たり集計表を作成しているが特定の金額以下のものをあえて除いて計算していたケースは、事務運営指針第1・1(2)の不正事実に該当し(下掲参照)、これらを行っていた事実が認定できれば、重加算税の賦課要件を充足するとしている(同指針第1・1(1)~(7)に掲げる行為及びその他の隠蔽又は仮装に該当すると認められる積極的な行為=「積極的行為」)。

○事務運営指針第1・1(2)②
② 帳簿書類の改ざん、偽造、変造若しくは虚偽記載、相手方との通謀による虚偽若しくは架空の契約書、請求書、領収書その他取引に関する書類の作成又は帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により仮装を行っていること。

他と趣が大きく異なる事務運営指針第1・1(8)

 事務運営指針には、上記「積極的行為」が掲げられている一方、指針第1・1(8)は、申告後の調査時における納税者の行為を挙げ、当該行為から申告時における隠蔽又は仮装の存在が合理的に推認できる場合を不正事実として例示している(下掲参照)。この指針第1・1(8)について、課税当局は、申告前に積極的行為がないという点で同(1)~(7)とは趣が大きく異なり、限定的にではあるが、納税者の申告前の隠蔽又は仮装の行為が直接認定できない場合でも、重加算税の賦課要件を満たすケースがあることを意味しているとする。

○事務運営指針第1・1(8)
 調査等の際の具体的事実についての質問に対し、虚偽の答弁等を行い、又は相手先をして虚偽の答弁等を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、申告時における隠蔽又は仮装が合理的に推認できること。

最高裁平成6年11月22日判決は「事例判決」と位置付け

 事務運営指針第1・1(8)に言及したうえで、課税当局は、最高裁平成6年11月22日判決、最高裁平成7年4月28日判決を取り上げている。
 最高裁平成6年11月22日判決は、被上告人Aの行為について、①過少申告であることを認識しながら確定申告書を提出したというにとどまらず、②真実の所得金額を隠蔽しようという確定的な意図の下に、必要に応じ事後的にも隠蔽のための具体的工作を行うことも予定しつつ、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したことが明らかであると指摘し、本件各確定申告は、通則法68条1項にいう隠蔽に基づき納税申告書を提出した場合に当たると判示したもの。
査察調査対象の巨額脱税事件
 同判決について、課税当局は、意図的な過少申告についても他の事情を総合的に勘案すれば重加算税の賦課要件に該当する可能性があることを示した点で注目される一方、同判決の判断は、あくまでも事例判決(その事案固有の事実関係の下で判断した判決)と解するのが相当であると指摘(図1参照)。この事案の判断の基準を実務の事例に直ちに当てはめることは慎重にならなければならないとする。なお、課税当局は、事例判決とする理由の1つとして、査察調査の対象となった巨額脱税事案であり、納税者の過少申告の意図に関する諸事実が証拠に基づき明らかとされた事案であったことを挙げている。

最高裁平成7年4月28日判決は「+α」の一般論示す

 最高裁平成7年4月28日判決は、重加算税を課するためには、過少申告行為そのものが隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に隠蔽・仮装と評価すべき行為の存在することを要するが、重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要ではなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件を満たすと判示したことで知られる。
税理士に対する隠蔽=特段の行動
 課税当局は、同判決が、申告書の作成を依頼した関与税理士に対する隠蔽行為を「(過少申告の意図を)外部からもうかがい得る特段の行動」として通則法68条1項の隠蔽又は仮装と同等に評価すべき行為として位置付けていることに特に注目すべきとする(図2参照)。そのうえで、納税者が確定的な意図の下に過少申告を行っているものの、納税者が申告時までに積極的行為を行ったとまで認定できない事案では、納税者の「(過少申告の意図を)外部からもうかがい得る特段の行動」の有無を検討すべきとしている(納税者が税理士に事業収入などを故意に隠蔽し、その隠蔽したところにより帳簿や集計表を作成させている場合は、帳簿書類の虚偽記載・意図的な集計違算などの積極的行為と認定)。

平成28年9月30日裁決を周知
 さらに、課税当局は、「特段の行動」があったとして重加算税賦課が肯定された事例として、平成28年9月30日裁決を取り上げている。この事例では、「請求人が、消費税等の負担を免れるため、長年にわたり農産物等の販売金額を過少に記載した下書用の収支内訳書を作成し、これを市の申告相談で市職員に提示することにより、同職員をして販売金額を過少に記載した収支内訳書及び確定申告書を作成させ続けていた」ことが、特段の行動と認定されている。

重加算税賦課の検討、積極的行為⇒特段の行動⇒個別事案

 課税当局は、決算書等に虚偽の記載をしたケースに係る問いも記載している(次頁参照)。

【設問】
 塗装業を営むA(青色申告者)は、株式会社Xをメインの取引先として仕事を請けていたほか、X社以外の数社からも仕事を請けていたが、X社との取引金額のみを青色申告決算書の売上金額欄に記載し申告していた。
 Aは、調査担当者であるB調査官に対し、「塗装業に係る帳簿や集計表などの作成はしていない。青色申告決算書の売上金額欄の金額は、X社以外の取引先の金額を含めていないため、正しくないと分かった上で申告書を作成し提出した」旨申し述べた。
 ここに記載した事実のみをもって、重加算税を賦課できるであろうか。
 なお、塗装業に係る取引に関する請求書(控)等の原始記録は、全て保存があり、上記Aの申述べは証拠化しているものとする。

 次頁の【設問】について、課税当局は、現時点では重加算税の賦課要件を充足しているとはいえない、という判断にならざるを得ないと指摘。ただし、過去の裁決例では、①正当な収入金額を把握していながら、②過少申告をする意図の下、③収入金額等について独自の計算により恣意的に操作して過少な所得金額を算出し、内容虚偽の決算書等を作成した場合は重加算税賦課相当であるとして、重加算税の賦課が肯定された事案もあることから、重加算税の賦課を検討するとしている(図3参照)。

 この点、課税当局は以前、決算書等に意図的に過少な所得金額を記載することをもって隠蔽・仮装行為であると認定しても、過去の裁判例や裁決事例からすると、意図的な過少申告に過ぎないと判断され、重加算税の賦課決定処分が取り消される可能性が高いとしていた(本誌747号4頁参照)。

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